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マスター:久生夕貴
シナリオ形態:イベント
難易度:難しい
形態:
参加人数:25人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2017/05/23


みんなの思い出



オープニング


 自分に未来が無いと悟ったのはいつの頃だったか。

 幼い頃から漠然と感じていたような気もするし、敢えて考えてこなかったようにも思う。
 けれどはっきりと自覚したのは、”持たざる者”の命が日常の些事のごとく、消費される現実を知ったときだろう。

 能力がありながら、活かす機会も与えられず死んでいった兄。
 派閥争いに敗れたがゆえに、最前線での死を遂げたかつての師。
 このままでは、自分も同じ結末を辿るしかない――嫌でも、認めざるを得なかった。

 生き残るための道を選んだ。
 己の力だけを頼りに、なんでもやってきた。
 振り返ることも、懐かしむこともない、”死なずに済んだ日々”。
 
 俺が裏の仕事に手を染めるたびに、あの男は悲しそうな顔をした。
 かつて切磋琢磨し合った関係は、身分差という覆しようのない現実に疲弊していった。
 同朋の血にまみれていく俺をどう思っていたのかは知らないが、奴が咎める素振りを見せたことは一度もない。

 それが無性に――癪だった。


●???

 初めて足を踏み入れたとき、どういうわけか懐かしさを感じた。
 空は高く、蒼白い大地が広がる”神の園”。
 遠く、天地を貫く巨大な塔が見える。
 あれが恐らく、この世界を支える『神塔』なのだろう。

「シリウス殿、こちらでしたか」

 聞き覚えのある声に視線を上げると、執事然とした壮年の男が佇んでいる。
 含みを持つ微笑へ、シリウスはそっけなく応えた。

「何か用か、ラジエルさんよ」

 浅黒い肌に、白銀の髪。感情を見せぬ目元には、深い知性と底知れぬ野心が時折見え隠れする。
 ベリンガム王の右腕であり、かつてはエルダー(元老院)の一人でもあったこの男を、シリウスはあまり好きになれないでいた。
 恐らくは相手も同じなのだろう。表向きはビジネスライクの関係を築きながら、裏では腹の探り合い。
 天王が政変を起こす前から、この関係は変わっていない。

 ラジエルは天界にはない景色に視線を馳せると、いつもの口ぶりで用件を切り出した。
「アテナ様を始め、地球の者達が”ここ”へ向かっているようですな。辿り着くのも時間の問題でしょう」
「だろうな」
 どうでもよさげに呟いてから、シリウスは再度尋ねる。
「で、何の用だ? わざわざ世間話しに来たわけじゃねえだろ」
「ええ、勿論。少々小耳に挟んだのですが、貴方には決着をつけておきたい相手がいるとか。いい機会ですし、その望みを叶えてもらおうと思いましてな」
 それを聞いた天狼の瞳に、怪訝と警戒の色が映る。
 何を企んでる、と言いたげな表情に、相手は口元に刻む微笑をさらに深くした。
「いつも通り、これはビジネスの話です。王にとってアテナ様はいてはならぬ存在。そのアテナ様を支え、人間や冥魔をも巻き込んで我らに抗おうとする輩を、排除して欲しいだけの話なのですから」
 淀みなく語るテノールが、淀みなく畳みかける。
「ご存じの通り、ここは意志や望みが形になりやすい。シリウス殿が望む戦いの場を、作り出すことも可能でしょう。この依頼が成功すれば、貴方にとっても悪くない話に――」
「面倒くせぇ言い方すんな。要は”どんな手を使ってでも”ミカエルを潰せってことだろ」
 躊躇無く言い切ってから、獣の瞳が鋭さを帯びる。
「俺は神界だろうが、どこだろうが、やれと言われたことをやるまでだ。その先のことは知ったこっちゃねえよ」

 そう。手を汚した先にどのような結果が待っていようとも、所詮は”今”の延長にすぎない。
 楽園など元より夢見ちゃいない。
 今よりマシであればそれでいいし、そうじゃなくても、これまでと大差などないのだから。

「話が早くて結構です。では、後の手筈はお任せしましょう」
 ラジエルは鷹揚に頷いてから、ほんの僅か、懐かしげとも取れる色を映した。
「羨ましいですな、若さというのは」
「……何が言いたい」
「いえ。私にはもう、そのような情を抱く相手はおりませんので」
 聞いたシリウスは、さもおかしそうに牙を見せる。

「あんたは、すべて潰してきたもんな? ――”どんな手を使ってでも”」

 その言葉に、ラジエルは微笑んだまま何も応えることはなかった。





 これは神界における大規模作戦が開始する、ほんの少し前の話。
 進軍を始めようとする学園司令部に、突如として舞い込んできた凶報。

 ”神界<第三層>に獣天使シリウス出現”

 連絡を受けた司令部は、大規模作戦の前に隊を派遣することを決めた。
 あの天使が持つ神器のやっかいさを鑑みて、先に手を打つべきとの判断があったためだが、加えてこれまで前線に立つことのなかったミカエル―ツインバベルの司令官―が同行を申し出たのだ。

 詳細な理由について、本人は語っていない。
 しかし彼はある種の決意を持って、赴くことを望んでいるように見えた。
 行きたいではなく、行かなくてはならないのだと――

 緊急招集されたメンバーは、それぞれの想いを抱きつつ現場へと向かった。
 指定された場所は、ややすり鉢状になった広野だった。
 蒼白い大地の中に大小のモニュメントのようなものが、点在しているのが見える。

 その中央に佇む、白銀の天狼。

 シリウスは一行の姿を認めたあと、抑揚無く告げた。
「始めるか」
 次の瞬間、広場の周囲を巨大なシールドがみるみるうちに閉ざしていく。
 ――閉じこめられた。
 臨戦態勢に入るメンバーへ、シリウスはにやりと笑んだ。
「おっとここは特殊な環境でな。いつも通り戦えるとは思わねぇほうがいいぜ」
 どういうことだ、と問いかける視線をよそに、相手は一方的に告げる。
「事が済めば出してやるよ。たとえどんな結果であれ、な」

 刹那、アイスブルーの瞳に好戦的な色が浮かんだ。
「やり合う前に改めて言っとくぜ。俺は楽園なんざ夢見ちゃいねえし、それをのうのうと語るあんたらにもうんざりしてんだ」
 どんなご託を並べたところで、所詮天魔も人間も己が一番だろ? と低く嗤う。
「そんなうわべだけの関係を誇示して、希望だ未来だとほざいてる奴らを見ると反吐が出るね。そうやって俺を懐柔しようとする一方で、喉元を狙ってんだからよ」
 そう再び嗤ってから、シリウスは全員を見渡した。
「まあ、今さらどうこういうつもりはねぇし、ここらで決着つけとこうじゃねぇか。俺とあんたら、どちらが”死ななかった日”を終えられるのかをな」
 次第に大気の重さが増していくような感覚を覚える。それはまるで、相手の言葉が『真実』であることを告げるように。

「ここのシステムを説明をしておくぜ。フィールド内では『ミカエル以外が受けた傷は、すべてミカエルが肩代わり』する。その逆も然りだ」
 愕然となるメンバーの後方で、ミカエルの表情が固くなるのがわかった。能力が大きく減少した状態でその消耗たるや、並大抵ではなくなるだろう。
「一定条件下でこのシステムを解除をすることはできる。ただしそれまでに蓄積されたダメージの二倍が、戻されるがな」
 ざわり、と不穏が忍び寄ってくる。
 ミカエルも撃退士も、シリウスの狙いに気づき始めていたからだ。

「いい機会だ、あんたらの言う”信”や”絆”ってのがどの程度のもんか、見せてもらおうじゃねぇか」

 気に入らない。
 ミカエルも、撃退士も、この場に集うすべてが、己の内をざわつかせる。






 道の果てに何を求める?
 知らない
 世界の行方など知ったことではない
 

 ただ
 ただ――




リプレイ本文



 ”ここらで決着つけとこうじゃねぇか”

 天狼の宣言を聞いた雪室 チルル(ja0220)は、いつものはつらつとした調子で宣言返してみせた。
「いいわ、これで決着よ! あたいが一番乗りなんだからね!」
 どんな相手だろうと、どんな状況だろうと、ただ目前の相手と全力でぶつかるだけ。
 今回だってそれは変わらない。
「私には楽園も信も絆も関係ない。貴様らを倒してこの世で生存権を得るのみだ」
 エカテリーナ・コドロワ(jc0366)は淡々と言い切ると、いつも通り任務遂行に徹する。
 陸軍出身の彼女にとって、戦争とは互いの生存権を争う闘い。敵であるのなら、容赦無く打ち払うまでだと。

 その後方では、ミハイル・エッカート(jb0544)がサングラスの奥から天狼を見据えた。
「ついに神界まで来たが、やることは変わらないぜ」
 任務を遂行し、帰るべき場所へ帰る。当たり前のことだけれど、自分を待ってくれる人がこの学園に来て随分増えた。
 愛する婚約者、大切な義娘、信頼できる友人たち。
 学生生活なんてまっぴらだと思っていた頃から思えば、想像も出来ない変化だと思う。
 一方、小田切ルビィ(ja0841)は臨戦態勢を取りながらも、複雑な想いに駆られていた。
(あんたは本当にそれで満足なのか? シリウスさんよ)
 感情を映さない瞳を、問いかけるように見据える。
「俺は――できるなら」
 言いかけて、口をつぐむ。
 きっと今はまだ、言葉は届かない。機を得るためには全力を持って相対するのみと、まなざしを強くする。

「生殺与奪にゃ興味はねェけど」
 闘気を纏った狗月 暁良(ja8545)は、彼女のトレードマークとも言える帽子をくいと押し上げ、にやりと笑んでみせる。
「せっかくの戦いダろ? 夢の浮世だ。楽シめよ、狼野郎」
 好戦的な色を隠そうともしない姿は、いつもの彼女のスタイル。
「シリウス……誰だ、それ?」
 アスハ・A・R(ja8432)は持ってきたパンの封を切りながら、マイペースぶりを発揮している。
「やはり遠足には、揚げパンとイチゴオレ、だな」
 シリウスはいてもシリアスはいない。
 誰うまという声が聞こえて来そうだが、神界で食べる揚げパンうまいから仕方ない。
「今日の天気予報…雨?」
 加倉 一臣(ja5823)は不吉な予言を呟くと、隣に佇む見慣れない学園生を振り向いた。
「そ、その姿よくお似合いですね…ク…クラリスちゃん」
 クラリスと呼ばれた少女は一臣をちらりと見やると、猫のような碧瞳を細めてみせた。
「ふふ…たまにはこういうのもいいでしょう?」
 金髪のゆるふわヘアーに天使(悪魔だけど)の微笑み。協力要請したマッド・ザ・クラウン@金髪美少女に変化中を見て、櫟 諏訪(ja1215)がにこにこと率直な感想を述べた。
「神界でもやっぱりシリアスは死んでますねー?」
 学園生に扮装するよう頼んだけど、まさかここまで変化しなくても(まがお)。
 そんな誰かの叫びが聞こえてきそうだが、まだ人型なだけマシだってことも知ってる。
「へぇ。身体の大きさまで変えられるなんて、便利、だねぇ」
 水無瀬 快晴(jb0745)がしげしげと見つめる前で、妻の水無瀬 文歌(jb7507)が太陽の歌をうたいあげると、悪魔のカオスレートが天界属性へと近づいていく。
「これで少しは負担を減らせると思います♪」
「おや、礼を言いましょう」
「でもクラリスさんはなるべく、シリウスさんの目に付きにくい位置にいてくださいね」
 そこへやってきたメリー(jb3287)が、ぺこりとお辞儀した。
「初めましてメリーなのです。頑張ってお守りするのです!」
 いまだに男の人と話すのはちょっと苦手だ。でも目の前にいるのは自分と年頃の似た少女()なので、少しだけ積極的になれる。
「ふふ…随分と頼もしいのですね」
「戦いは怖いですけど…護りは少しだけ得意なのです! クラリスさんのことは、絶対に傷つけさせないのです!」
 彼女達の様子を一臣は微笑ましく見守りながら、何かがおかしいけどおかしくない思いを抱いていた。

 なんだろう、この女子会めいた雰囲気(まがお)。

 鳳 静矢(ja3856)は性別まで変わった悪魔に笑いを堪えつつ、提言する。
「シリウスの神器についでなのだが、最初から使う可能性もある。念のため、警戒をお願いしたい」
「ええ。そのために呼ばれたのでしょうからね」
 ゆるりと微笑する悪魔は、能力が大きく減少していることをあまり感じさせない。とは言え、若杉 英斗(ja4230)も念のために釘を刺しておく。
「くれぐれも無茶はしないでくださいね。ココで死ぬ義理もないでしょう」
 このひと愉しくなったら何やるかわからないし、リロさんが悲しむかもだし。
 英斗の心の声に一部面子が神妙に頷く中、鳳 蒼姫(ja3762)は大切な家族や仲間たちへ改めて告げる。
「みんなも無理は禁物ですねぃ。何があっても、絶対に生きて帰るのですよぅ☆」
 のんびりした口調の中には、祈りにも似た強い意志を宿す。

 必ず、全員で。

 ミカエルに歩み寄った蓮城 真緋呂(jb6120)は、手にしていたものを差し出した。
「これを」
 半ば押しつけるように渡したのは、黄金に輝く羽根。戸惑う天使を、真緋呂はまっすぐに捉える。
「ルスさんの”いきなさい”という想いが、私のお守り」
 愛する者たちのために生き抜いた、黄金の大天使。
 彼女から授かった想いを、貴方の中にも息づかせてほしいと願うがゆえに。
「この羽根を預けますから、後で”貴方の手で”返して」
 それだけ告げると、彼女はその場を後にする。見送るミカエルの表情は、敢えて見ない。

「旅人さーん、今回も頑張ろうぜ!」
 月居 愁也(ja6837)は同じく協力要請していた西橋旅人(jz0129)の肩を叩いた。
「うん。お互い無茶しすぎないように(努力しよう)ね」
「だなー。遥久の説教怖い(けど無茶したら仕方ない)しな!」
「心の声丸聞こえだぞ、愁也」
 夜来野 遥久(ja6843)はため息交じりにそう言いやると、自身が護衛対象としているシス=カルセドナへと声をかけた。
「シス殿、今日はよろしくお願いします」
「ああ、俺様はこの通り能力が激減しているのでな。負担をかけるだろうが、やれることはやるつもりだ」
 そう告げる新米騎士に、遥久は微笑みを返した。
 最初に出会った頃から、随分と変わったものだ。今は亡きあの騎士を思い起こしながら、遥久は託された『願い』を改めて胸に刻む。
 その後方で、同じく”継ぎし者”であるメリーが明るい声を上げた。
「シスさんお久しぶりなのです。一緒に戦えること嬉しく思うのです!」
「ぬ、貴様は暗黒供物(訳:破壊料理)の伝道師ではないか!」
 祭の夜以来の再開に、シスはどこか嬉しそうで。メリーは群青色のリボンにそっと触れると、まっすぐに前を向く。
「こんな事…きっとあの人も望んでないのです! メリーは絶対に止めたいのです!」
 その言葉を聞いたナナシ(jb3008)も、はっきりと頷いてみせる。
「ええ。こんな馬鹿げたこと、早々に終わらせるわ」
 自己犠牲を期待することなど、信頼とは呼べない。ナナシはシリウスを見据えると、静かに告げる。
「馬鹿ね、貴方は本当に馬鹿ね……」
 貴方は何も分かっていない。
 私たちが何を求め、何を掴みとってきたのか。
 ここに立つ者の多くがどれほど考え、悩み、それぞれの想いを胸に歩んできたのか。

「だから、教えてあげるわ」

 貴方は、私たちに勝てない。



●求光者たちのパヴァーヌ


 戦闘開始と同時、シスが生み出した巨大な陣がメンバーを覆っていった。彼が得意とする、強力な補助魔法だ。
「案ずるな。貴様らの指示通り、ミカエル様へ効果は及んでいない」
 やや心許なさげなシスを安心させるかのように、私市 琥珀(jb5268)がミカエルの元へ駆け寄った。
「さあカマキリ救助隊出動なんだよ! ミカエルさんの護衛をするんだよ!」
 ばーんと現れたカマキリ男子に、焔の力天使はほんの少し目を丸くした。
「私の護衛…ですか?」
「そうなんだよ! ミカエルさんを倒れさせるわけにはいかないんだよ!」
 同じく龍崎海(ja0565)も、周囲に防御用の盾を浮遊させる。
「俺も護衛につかせてもらうよ。もし嫌だと言っても、これは作戦だからね」
 有無を言わさぬ彼らを見て、Robin redbreast(jb2203)と大炊御門 菫(ja0436)も声をかけた。
「大丈夫だよ、シス。何があっても、ミカエルはあたし達が護るから」
「この胸に創世の炎がある限り、私たちは負けない」
「……ああ、わかっている。貴様らのことは信じると決めたからな」
 互いに頷き合い、前を向く。
 敢えて多くの言葉は語らない。交わした約束さえ心根の中心に据えていれば、迷うことなどないのだから。
 そんな彼らを咲村 氷雅(jb0731)が見守っていた。
(いざというとき、言葉が届けばいいが……)
 自分たちが選んだ作戦をミカエルは受け入れてくれるのか。正直なところ、自分にも分からない。
 けれど自分は譲るつもりはないし、シリウスにも言ってやりたいことがある。
 ずっと抱き続けていた”理想”を胸に、氷雅はそのときを待つ。
 
 時同じくして、複数の人影がシリウスの前に立ちはだかった。
 長きにわたる戦いを通して護りの研鑽を積んできた、”盾”となる者達だ。

「詳しい事情はわからんが。俺はやれることをやるだけだ」
 向坂 玲治(ja6214)は持ち前の防御力をフルに活かしつつ、他メンバーの被弾に気を配る。
(今回のフィールド特性上、一人がダメージを負い続けるのは下策だろう)
 序盤で最も大事なのは、全体のダメージコントロールと判断。
 そっけない素振りを見せながらも、周囲への配慮を欠かさない。それが彼の本質であり、生きて帰ることへの強いこだわりでもある。
 黒井 明斗(jb0525)もシリウスに張り付きながら、アウルの鎧を近くにいる前衛メンバーへ付与していく。
(回復ができない以上、少しでも受けるダメージを減らさなくては)
 皆で話合った結果、序盤は敢えて回復措置を取らず戦うことを決めた。そうすることで、少しでも早くミカエルが肩代わり解除できるようにするためだ。

 とはいえ解除後のダメージ二倍返しを思えば、この作戦は前衛に大きな負担がかかることは避けられない。
 それでも、彼らは前に出ると申し出た。
 最善のためには自分がやるべきだと、強く理解しているからだ。

 前衛陣の様子を見ていたシリウスは半ばおかしそうに銃を構えた。
「どれだけ攻撃を受けようが、あんたらは傷ひとつ負わねえもんなあ?」
 すべてはミカエルただひとりが肩代わりするのだ。いくらでも前に出れるってもんだと、銃弾の嵐を浴びせにかかる。
 ちらりと後方に移した視線先で、ミカエルの顔が苦痛に歪むのがわかった。しかし無傷の撃退士たちは慌てたり、回復をさせる素振りを見せたりはしない。
(奴ら、何を企んでやがる)
 しかし考える暇を与えるつもりはないといわんばかりに、撃退士達の猛攻が始まる。
「皆さん、波状攻撃ですよー!」
 諏訪の合図で後方射撃手たちが、一斉攻撃を仕掛けた。
 快晴とエカテリーナが最大射程から弾丸を放てば、避けようと飛び上がったところを狙って、ミハイルが対空射撃を行う。
「そいつは結構効くぜ?」
 脅威の命中力を誇るミハイルの弾丸が胴部に着弾した瞬間、赤と黒の鎖がシリウスの体躯に絡みついてゆく。地に落とすまでには至らなかったものの、大きな隙を生むには十分。
 すかさず巨大な魔導銃を手にしたナナシが、やや上空から闇を纏った砲撃を放つ。天界眷属を浸蝕する弾丸は凄まじい威力と正確性を持って、天狼の足元へ撃ち込まれた。
「……っ!」
 強い痛みと共に、白銀の毛が鮮血に染まる。それとほぼ同時に、シリウスは自身の体躯に何かが当たった感触を覚えた。
「――ちっ。また”これ”か」
 忌々しそうな視線を向ける先で、諏訪と一臣が互いにサムズアップするのが見えた。
 先日の高松ゲート戦でも受けた、己の位置を追尾される特殊弾。これをやられると奇襲効果が激減してしまうのをシリウスは身をもって知っている。
「毎度のことながら、隙を作ってくれる皆に感謝だね」
 マーキングを成功させた一臣が、ほっとした表情を見せる。
 狙撃手達の波状攻撃はただでさえ、避けるのが難しい。確実に当てたいものほど、彼らの存在が大きな援護になるのだ。

 その頃、やや見晴らしのいい場所へ移動していたアスハは、揚げパンを食べながら奥義を詠唱していた。
「むしゃむしゃ、むしゃ(やはり識別は面倒、だな)」
 ぼやきつつ手をかざすと、無数の魔法弾が広範囲に降り注いでいく。
 蒼輝の雨が破壊するのは、フィールド内に点在するモニュメント。奇襲や回避が得意らしいシリウスが身を隠せぬようするためだ。
 こうした各種援護が行われる一方で、あえて注意を引き、後衛へ攻撃が向かぬよう立ち回る者もいる。
 チルルは愛用の大剣を手に、シリウスへ突撃を開始。
「さあ、あたいと勝負よー!」
 刹那、体内アウルを活性化させ、自身の時間認識を極大化させる。
 周囲が氷結したかのような錯覚をおぼえた瞬間、チルルの刃が範囲内を切り裂いた。
 対するシリウスは対抗射撃を用いながら、器用に攻撃をかわしていく。しかしそこを狙ってさらに追撃を仕掛ける者達がいる。
「引きつけ感謝ですねぃ☆ 静矢さんいくのですよぅ!」
 次の瞬間、蒼姫の瞳が蒼へと変化し、その表情からはいつもの穏やかさが消える。手にした護符にアウルを込め、夫の後方から強力な風刃を放つ。
「くらいませい、シリウス!」
 蒼い刃が天狼の肩をかすめると同時、絆の力で機動力を増した蒼姫はすぐさま連撃を仕掛ける。間髪入れず放たれた刃は、今度こそシリウスの肩口を捕らえ斬り裂いていく。
「最初から手を抜くつもりは無い。全力でいかせてもらうぞ…!」
 妻の連想撃に重ねるように、静矢は愛刀を手に斬り込んでいく。
 鋭い刃が閃き、高威力を持って襲いかかれば、シリウスは銃身を使って刃の威力を相殺する。しかし同じく絆の力を得ている静矢は、即座に刀を返し今度は防御する暇も与えず胴部を貫いた。
「はっ。やるじぇねえか」
 溢れた血を吐き出しながら、シリウスはどこか愉しそうに嗤った。
 牽制気味の連射から続けざまに上空へ撃ちあげると、辺りは白煙で覆われていく。しかし即座に諏訪と一臣に位置情報を知られてしまうことは、本人も理解済み。
(せいぜい、時間をかせぐ程度か)
 加えて周囲の遮蔽物はアスハが破壊していたため、奇襲は諦めざるを得ない。ならばと視界不良を利用して有利な体勢へもっていこうとするも、突如巻き起こる突風が周囲の煙を吹き飛ばした。
「位置さえわかっていれば、どうということはないわ」
 真緋呂と蒼姫が狙い通りといった表情を浮かべる。
 白煙は広範囲に渡っていたため、ただ闇雲に風を起こしても効果は発揮できなかっただろう。位置を告げる者との連携があってこそ成し得た結果だ。

「前回は殺し損ねたな、ざまーみろシリウス!」
 攻撃盾を手にした愁也は、注意を引きつけるように挑発の言葉を並べていく。
「たぶん自覚ないだろうから言っておくぜ? あんたってさあ、だだっ子にしか見えねえんだよ」
「ガキにガキだと言われる筋合いはねぇな。お前が俺の何を知っている?」
「んなもん知らねぇよ。でも知らなくたって、あんたがダダこねてるのくらいわかんだよ」
 シリウスの瞳に、いまだ動揺の色は見られない。しかし愁也の方も、口撃の手を緩めることはしない。
「知ってるか? 渇望するヤツほどそれを『無用だ』って言いたがるんだぜ」
 何が言いたいといった視線へ、その言葉を言い放つ。

「あんたさ、ほんとは欲しくてたまらないんだろ」

 信も絆も。

「手に入らないって思い込んで諦めて、いらないフリしてるだけなんだろ? どこのガキだよ」
 聞いたシリウスの表情が、僅かに軋んだような気がした。それを見たロビンが、続けざまに言葉を投げかける。

「シリウス。あたしたちに腹が立つのは、羨ましいからだよ」

 乾いた瞳の奥で、いつも何かを渇望している。目を背けようとしても、押さえ込もうとしても、”持つ者”たちが邪魔をする。
「でもね。力で否定しようとしても、欲しいものは手に入らないよ」

「減らず口をたたくのはそこまでだ」
 ロビン達の言葉を遮るように、低く抑揚のない声が響いた。
 シリウスの身体が横に流れたように見えた直後、凄まじい速度で連射を繰り返していく。
「下がれ、私が受ける!」
 すかさず斜線に割って入った菫が、靄状のアウルを纏った。
 着弾の瞬間、幾重もの光輪が重なり、攻撃の威力を減衰させてゆく。それはまるで、強大な敵にも屈しない彼女の意志を顕しているかのようで。
 同じく最前衛で受けに走った英斗も、絶対防御の意志を込めたオーラを放出させた。
「護れ、光の盾!」
 手にした白銀の円盾が、燃え上がるように黄金の輝きを放つ。
 彼らが持つ守護の力は、チーム全体が受けるダメージの総量を大きく減らしてきた。今回の作戦では一手に被弾を引き受けながらも、自身が生命力を減らし過ぎるのを防いでいる。
 玲治は生命力が落ちた相手を庇護の翼で庇ってから、後方の様子を探る。
(恐らくミカエルの生命力も落ちてきているはずだ)
 戦闘開始からそれなりの時間が経過し、前中衛が受けたダメージの総量も結構なものになるはず。
 今のところダメージコントロールが功を奏して、一部のみが大きな損傷を負っていることもない。解除をするならそろそろだ、と周囲にそれとなく告げる。

 その直後、前衛援護をするアストラルヴァンガードたちが聖なる祈りを詠唱し始めた。海はミカエルの被弾を防ぎつつ声をかける。
「そろそろダメージも蓄積されてきたんだろ? 条件を満たしているなら、肩代わり解除して欲しいんだけど」
「それは私にとってありがたい話ですが……」
 躊躇いがちな表情を浮かべるミカエルへ、ナナシがすかさず声をかけた。
「いい? ミカエル。もし貴方が変な博愛精神で解除を渋ろうとしているんだったら、それは大きな勘違いよ」
 私たちは誰かの一方的な自己犠牲なんて、望んじゃいない。
 きっぱりとそう言い切るナナシに続き、氷雅も問いかける。
「ミカエル、お前はここへ何しに来た。未来に何を望む?」
 こちらを向いた深緋の瞳へ、静碧の瞳が真摯に告げる。
「希望がなければそれは死と同義だと俺は思っている。だがどんな形だろうと、生きているなら希望はあるはずだ」
 死は償いでも責任でもなく逃げだ、と彼は言う。
「まだやりたいことがあるのだろう? 足掻き希望にすがり、未来を掴め」
 氷雅の言葉にミカエルはほんの少し瞳を伏せると、重い口を開いた。
「……ええ、私には護るべき者たちがいます。やらなければならないこともある。できればここで死にたくはありません。ただ――」
 同行を申し出た、本当の理由。
「私はシリウスと話をするためにここへ来ました。ですがそれは私の個人的な事情であり、この場においては身勝手以外の何物でもありませんから」
 ツインバベルの司令官としてではなく、個としてここへ来た以上、我を通すと言うのであれば相応のリスクを負うべきなのだとも。
「あーもうまた面倒くさいこと考えちゃってるな、ミカエルさん」
 銃弾を盾で受け止めながら、愁也は半ば苛立った様子で呟いた。氷雅も何を言っている、とばかりに言いやる。
「我を通して何が悪い。あの天使の言うとおり、誰だって己が一番、だろ?」
「大体さ、ミカエルさんはややこしいこと考え過ぎ!」
 なんなら一発ブン殴ってやれば良かったんだと、愁也は言う。
「全部捨てたって友達だって、見せてやれば良かったんだ。立場とか身分とか、グダグダ言う前にやることあるだろ!」
 彼らの率直な言葉に、ミカエルは虚を突かれたように黙り込んでいた。ロビンもみんなの言うとおりだよ、と同意してみせると、思っていた事を伝える。
「ミカエルもシリウスもこれが最後だと思ってるなら、お互い言いたいこと、今まで言えなかったこと、ぜんぶ吐き出したらいいよ」
 もしかしたら、互いに傷つけ合うこともあるのかもしれない。それでも誤解や邪推をしたままより、ずっといいと彼女は言う。
「そのためのお手伝いを、あたしはやるつもりだから」
 誰かの望みを叶えるのが、いつしか自分の願いになった。
「これだってあたしの我が儘だよ。でもそうしたいんだから、仕方ないよね」

 誰だってみな、意志があり、望みがある。
 そのために願い、戦い、時には迷い折れそうになりながらも、生き抜いてきたのだ。

「ミカエル。お前の答えが今、ここで必要だ!」
 菫は篝焔を抱く槍を手に、シリウスへ突撃を開始する。
 己の欲を否定するな。望みがあるなら、迷わず手を伸ばして掴むべきだと。
「そのためにここへ来たのだろう! ”貪欲になること”を恐れるな!」
「そうよ。言葉にしなきゃ伝わらない事もある――」
 飛んでくる弾丸を愛刀で受け、真緋呂も想いの丈を叫ぶ。

「だから”いきなさい”ミカエル!」

 ずっと、抱いてきたのでしょう?
 ずっと言えずにいたのでしょう?
 零れ続けたその想いを、生きてシリウスにぶつけて。

「もうわかっただろう? これが俺達の総意だ」
 氷雅はそう言ってから、改めて解除を依頼する。

「シリウスがお前をここに呼んだ。友の望みでもある以上、最後まで我を通せ」

 聞き遂げたミカエルは、一度だけ瞬きをすると、軽く息を吸い込んだ。
「――わかりました」
 その瞳には先ほどとは違い、ツインバベルの長らしい光を帯びている。

「これより肩代わりの解除を行います」

 ミカエルの宣言を聞き遂げた撃退士達は、即座に対応を開始。
「解除来ます、前衛構えて!」
「なんとしても気絶を阻止するよ!」
 前衛を中心にダメージ蓄積の可能性が高い者たちを、他の面々がフォローへと回る。
 最速での解除が吉と出るか、凶と出るかはわからない。
 彼らは祈るような気持ちを胸に、その時を待った――


●のぞみし者のためのコンチェルト


 解除実行が告げられた瞬間は、時が止まったかのようだった。
 つかの間の静寂のあと、淡い光の筋がミカエルから撃退士へと向かってゆく。
 そして次の瞬間、重い衝撃が身体に走った。

「っ……!」
 あまりの痛みと苦痛に、英斗は思わず膝を着く。
 蓄積されたダメージの二倍返しは重く、強烈な痛みを伴って身体を蝕んでいく。
(けれどこうなることくらい、織り込み済みだ…!)
 生命力が一瞬で削り取られ目の前が暗くなるが、英斗の絶対に倒れないと言う鋼の意志が、意識を手放す事を許さなかった。

 上空待機していたナナシは、周囲を確認して思わず吐息を漏らした。
「やったわ…なんとか全員耐えたわね」
 深傷を負いながらも、ある者は自身の能力で耐え、ある者は仲間の力を借りて気絶するのを防ぎきった。各自があらゆる手段を用いて実現させた、奇跡の結果だ。
「いいわ。みんな、一斉回復開始よ!」
 彼女の号令で回復手達が、予め準備しておいたあらゆる癒しの技を展開させていく。
「ばんばん治すんだよー!」
 琥珀はミカエル及び護衛担当者達を、まとめて癒していく。
「救助隊の本領発揮なんだよ! 怪我人はどんどん治していくんだよ!」
 カマキリが生み出す柔らかな風が対象者を包み込むと、護りの加護が付与された。
 その直後、明斗と遥久が詠唱しておいたトリスアギオンが次々に発動し、広範囲に渡って癒していく。
「タイミング良く発動したようですね」
 回復スキルを展開しながら、明斗は安堵めいた息を漏らした。
 時間差で発動する術は、刻々と変化する戦場ではひどく難易度の高いものだ。
 術者本人の流れを読む力だけでなく、作戦そのものが筋道立っていていて初めて、効果を発揮するものだろう。
(私ひとりの力ではない)
 全員の状態を確認しつつ、遥久も改めて想う。

 ――戦場というものは、常に命を懸けた選択の連続だ。

 かつて告げられた言葉と。
 同じ未来を臨む者達と。
 幾度となく選び、信じ、遂げてきた結果だと思うから。

 彼らの様子を見たシリウスは、さすがに驚きの色を隠せないようだった。
「はっ。あんたらの相互扶助精神には、ほとほと感心するぜ」
 ひとりも倒れること無く、解除をやってのけた。
 結果さえ見れば可能なことだったのだろうが、”可能”であることと”できる”ことは同一ではない。

「――あまり悠長にやっている余裕はなさそうだな」

 低く呟いたシリウスの瞳が、妖光を帯びる。巨大化の徴候を感じ取った数名が阻止を試みるも、特殊な術が使われているせいか、効果を発揮しない。
「狼化来ます!」
 めりめり、と鈍い音がすると同時、天使の体躯が瞬く間に巨大化していく。
 10mを越す暴虐の獣。
 本能を剥き出しにした姿を、ミカエルは驚いたような、信じられないような表情で見つめていた。
「シリウス……なぜ君がこんなことを」

 獣に成り下がるなど、かつての君なら絶対に拒んだはずだ。
 いつも君は理知に溢れ、僕らの一歩も二歩も前を歩いているような男だったのに。

 危険を察知したルビィは即座に飛翔し、呆然となっているミカエルへ叫ぶ。
「離れろ。今は話ができる状態じゃねェ!」
 護衛を担当している海や琥珀が、半ば引きずるように後方へ下がらせる。それを見たシリウスは唸り声を上げながら、蹴散らすように突進を始めた。
「ったく…とんでもない馬鹿力だな」
 巨大な狼が力任せに駆けるさまに、玲治はやれやれと呟いた。
 とにかくこのままでは中後衛に大きな損害が及びかねない。玲治は天狼と並走するように駆け抜けると、進路先のメンバーへ向け庇護の翼を発動させる。
「……っ」
 全身を貫く、強烈な痛み。狼化前から一段も二段も重くなったそれは、たった一撃で生命力を大きく削り取る。
 しかし彼の顔から笑みが消える事はない。

「おっと、あんたの相手はこっちだ!」
 ルビィは進路を塞ぐように滑空すると、左右の腕に光闇のオーラを纏いながら、渾身の斬刃を繰り出す。
 防御無視の一撃は狼の胸元を抉り、動きを大きく阻害する。
「さて、ここからが俺の本戦って感ジかネ」
 やや後方に位置取りしていた暁良は、銃から手甲爪に換装すると、じりじりと距離を詰めながら天狼の攻撃を誘う。
 動きを邪魔された狼はやや苛立ったようにその場で地を掻いた後、その体躯から無数の衝撃波を飛ばす。刹那、急加速で間合いを詰めた暁良は、目にも止まらぬ速さで側面へ回り込んだ。
「隙だらけダぜ?」
 繰り出すのは、修羅の如き破壊撃。
 武の研鑽を積んだその刃は、凄まじい威力を持って獣の胴部を斬り裂いていく。

「今だ、畳みかけるぞ!」
 彼女達の強襲でひるんだ隙を狙い、メンバーは次々に追撃を仕掛ける。
「さて俺達もいこう、か!」
 潜行状態だった快晴は、背後から絆の力を用いた連続攻撃を叩き込む。シリウスの意識が彼へと向いた瞬間、文歌はその手にアウルのスプレーを生み出した。
「未来を諦めている貴方は、意志が形になるココでは勝てませんよっ」
 夫が生み出したチャンスを、妻が繋ぐ。噴射したインクが白銀の毛並みを色とりどりに染めた瞬間、封印の力が付与されてゆく。
「血溜りに沈め、負け犬!」
 黒霧を纏ったエカテリーナは巨体へ向け、消化液に変化したアウルをジェット噴射する。
 白銀の体表に絡みつい強酸性の液は、ダメージを負わせただけに留まらず、徐々に肉体を浸蝕していく。
「ふん。馬鹿でかい図体は格好の的だな」
 身体が大きくなれば、自然と被弾する確率も上がってしまう。元より命中力の高い射撃手からすれば、当てることなど造作もないだろう。
 
 とはいえ被弾の確率を上げてでも、獣に成り下がってでも、この姿になるのにはもちろん意味がある。
 ひとつは大幅に増幅した攻防力。
 そして、強大なエネルギーを消費する”神器”の存在だ。

 一臣はクィックショットを撃ち込むと、高松でのことを思い出していた。
「確かこの間も、あの姿になってから神器を発動したね」
 あの時は総司令としてシリウスの動向を細かくチェックしていたため、強く記憶に残っている。
 同じく近くにいたクラウンも、暴れ回る巨体を見上げつつ瞳を細めた。
「ええ。今回もそのつもりでしょう」

 恐らく”その時”は近い。

 メリーはシリウスの視界から悪魔を隠すように立ち、口元をきゅっと引き結ぶ。
「大丈夫なのです。絶対にクラリスさんの邪魔はさせないのです!」
 今のところ、相手が彼の存在に気づいている様子は無い。向かってきた攻撃もすべて自分が庇ってきた。
(この人の無事を願う誰かがいるなら…メリーは全てを賭けて護るのです!)
 勝負は神器発動の瞬間と、その前後。
 張り詰める緊張の中、撃退士達の警戒が最高潮に達した時だった。


「シリウス!」


 現れたツインテールの少女に、その場は騒然となった。
 しかし増援を警戒していた撃退士以上に驚いていたのは、このフィールドの主だろう。

 ――アルヤ。なぜ来た

 問い詰めるような口調に、アルヤは怒ったように言い返した。
「なんでなんであたしを置いていくの? ミカちゃん殺るなら一緒にいくって言ったじゃん!」
 唇を噛みしめる表情は、悔しさがありありと滲んでいる。

 ――ザインエルの元へ戻れ。この場は俺がやる

「やだよ。あたしはシリウスについてくって決めたんだから」
 はっきりと拒否を示してから、アルヤは撃退士とその奥にいるミカエルを睨み付け。
「絶対絶対お前らなんかにシリウスは殺させない。あたしがミカちゃんを殺ってやる!」
 予測されていた横やりに、アスハはやれやれと言った様子で腰を上げた。
「まだ食べ終わってないんだが、な」
 イチゴオレをひとくち飲み、各天使の位置関係を素早く目線で追う。
 同じく増援に備えていたミハイルも、即座にアルヤ対応へと駆けつけた。
「話に聞いていた超絶回避天使とはお前のことか」
 牽制するようにショットガンを撃ち放つと、弾は影で出来た獣へと変化し、標的に食らいつく。対するアルヤはミニスカをひらめかせながら、ひょいひょいと避けていった。
「知んない。お前らがあたしのこと何て言ってるかなんて興味ないし」
 アルヤはそう言い捨て、スカートから伸びた足を勢いよく振り抜く。間に割って入った愁也が受け止めるも、想像以上の軽さに拍子抜けしてしまう。
(そういや、だんだん威力が増すっていってたっけ)
 攻撃を止められたアルヤは品定めするように愁也を見やると、にんまりと笑った。
「お前みたいに生意気そうなやつがいいんだよね」
「え?」
 刹那、突如表れた巨大な蛇が、その身体に似合わぬスピードで愁也を飲み込んでしまう。
「愁也!」「愁也君!」
 幻影に狙った対象を飲み込ませるやり方は、高松ゲート戦でも見せた能力だった。ペロリと舌なめずりしたアルヤは、しかしそこで不満そうに唇を尖がらせる。
「えーえーなんかつまんない技ばっか。期待外れじゃん」
 ぺっと吐き出された愁也の元に、旅人と遥久が駆け寄る。
「大丈夫、愁也君?」
「あーうん平気平気。気持ち悪かったけど身体はなんともない」
「……なるほど、ああやってスキルを盗むのか」
 恐らく蛇が飲み込んでいる間は、中にいる者の技を使えるのだろう。
 アルヤには敵の技を盗む能力があると事前に聞いていたため、万が一盗まれてもいいようなスキルばかり積んでいたのが功を奏したようだ。

「そういやあの時は、共闘していた堕天使の技が盗まれたんだったな…」
 ミカエルの元から駆けつけていた氷雅も、当時の記憶を辿っていた。
 飲み込んだ相手の動きを封じる上に、スキルまで盗むのだ。厄介なこと極まりない。
「ふん。ならばスキル使用を惜しんだところで意味はない」
 そう言ってエカテリーナはシスを見やると、愛用の銃を構える。
「全力で援護射撃しろ。早々に片を付けてやる」
「承知した。行くぞ、針状結晶(ルチルインクルージョン)!」
 次の瞬間、玻璃の嵐が吹き荒れる。広範囲に渡るその攻撃を、アルヤは避けきることができない。動きが鈍った所を狙って、エカテリーナは破壊力を増した弾を撃ち放つ。
「――っ!」
 アウルが凝縮された弾は着弾と同時に炸裂し、少女の脇腹に深く損傷を負わせる。痛みで顔を歪ませた彼女は、舌打ちしながら視線を走らせる。
「あーあーあそこにいるの、騎士団じゃん!」
 無邪気にそう呟くと、再び巨大な蛇を出現させる。それに気づいた遥久がすかさずシスを背後に庇う。
「シス殿、下がってください!」
 強力なスキルを多く持つシスが取り込まれれば、形勢が一気に逆転されてもおかしくない。遥久は最悪自分が飲み込まれる覚悟で構える。
「いっけ〜丸呑みだーっ」
 アルヤは飛び跳ねるように攻撃をかわしながら、遥久達がいるほうへ突っ込んでくる。大蛇が口を大きく開けた瞬間、横からミハイルが飛び出して来た。
「やらせはしない!」
 瞬時に緊急活性した盾が、アサルトライフルへと変形。それを手にしたミハイルは、銃身を使ってアルヤを殴り飛ばした。
「……お前の技は見切ったぜ」
 息を切らしたミハイルの視線先で、幻影の動きが止まるのがわかる。どうやら彼女の管理下でなければ、効果を発揮しないようだ。
「いったぁ…くそくそムカツク! あたしの邪魔するやつは許さない!」
 苛立ちと屈辱で顔を真っ赤にしたアルヤは、感情にまかせて突進してきた。
 ちなみに同じく怒り心頭なのが、もう一人。
「……あんなもので(俺の)遥久を飲み込もうとするなんて、許さねえ」
 愁也は(大方の予想を裏切らず)憤怒のオーラを爆発させると、隣にいた旅人を振り向く。
「旅人さん、いこうぜ!」
 実際に狙われていたのはシスだった気がするが、そんなことは関係無い。
 愁也が盾攻撃でアルヤの視界を遮ると、それに合わせて旅人が斬撃を叩き込む。その隙を狙ってアスハが一瞬の加速で回り込んだ。
「周りがまったく見えてない、ぞ?」
「なっ…いつの間にっ!」
 アルヤの背後に現れたアスハは、アウルで形成した氷の太刀を振り抜く。
 高速で斬りつける刃は、傷口から凍てつかせるように対象の動きを止めた。
 意識が刈り取られた彼女を襲うのは、氷雅が生み出す無数の赤蝶。焔を抱くそれは少女にまとわりつくように舞い踊った後、凄まじい爆炎を巻き起こした。
「……もう止めておけ。今のお前では俺達に勝てない」
「うるさいうるさいうるさい!」
 攻撃を繰り返すアルヤは次第に押されつつも、戦闘を止めようとしない。
 いつもの彼女なら自分が不利になった途端、面倒くさいとでも言って退却しただろう。ましてや命を懸けたやりとりなど、普段の言動からは有り得ないと言ってもよかった。

 ――ちっ。言わんこっちゃない。

 アルヤの様子を察したシリウスは、撃退士を振り払うように後方へ飛び退いた。
 地響きのごとき咆哮。
 刹那、強い光が溢れ瞬く間に頭部へ収束していく。口元に表れた輝く双剣を見て、一同に緊張が走った。

 神器が来る。

 アドヴェンティをも破壊したその威力は、まともに食らえば死をも意味する。神器発動の兆しに、ミカエルの周囲が即座に対応し始めた。
「危ないからミカエルさんは下がるんだよー!」
 琥珀の指示に、天使はとんでもないと言った表情でかぶりを振る。
「待ってください。あれを受ければ、あなた方も無事では…!」
「ここは俺達に任せて。ちゃんと手は打ってあるから」
 冷静な海の言葉に、琥珀もはっきりと頷く。
「その通りなんだよ。僕たちを信じてほしいんだよ!」

 ミカエルへ向け突進してくる口元で、刃が一際強い光を放つ。それとほぼ同時に、少女に扮した悪魔の身体を黒煙が覆った。
「では、いきますよ」
 煙の中から現れた、道化姿の少年。
 メリーと一臣が援護する側で、巨大なトランプが一斉に障壁を作りあげていく。それに気づいたシリウスがまずいといった表情になるがもう遅い。

 凄まじい衝突音と、一瞬の明滅。

 神器の完封と引き替えに障壁が砕け散る中、撃退士はこの時を待っていたとばかりに動き出す。

「さあ今ですよー! 一気に畳みかけましょー!」
 諏訪は周囲へ呼びかけると、シリウスへ向け一斉攻撃を仕掛ける。
 神器発動の後は必ず隙が生まれる。前回の戦いで学んだことだった。
「あたいの攻撃を受けてみろー! いくわよ、氷砲(ブリザードキャノン)!!」
 チルルは大剣の切っ先にエネルギーを凝縮させると、一気に解き放つ。一直線に放たれたそれは、吹雪のように輝きながら天狼の巨体を貫いていく。
「――浮世は夢だ、ただ狂ヱ」
 背後に回った暁良は、首元を狙って肉体の限界を超えた連続攻撃を叩き込んだ。
 一撃、二撃と刃が斬り込むたびに、鮮血が舞う。
 返り血で血まみれになりながら、暁良はどこか愉快そうに嗤った。

「ほら、大丈夫だったろ?」
 海はミカエルへ笑んでみせると、生み出したアウルの槍をシリウスへ向け勢いよく飛ばす。ミカエルはあっけに取られたようにその様子を見つめてから、やがて苦笑めいた笑みで頷いた。
「このような切り札を持っていたとは…やはりあなた方は、私の予想を遥かに超えてしまいますね」
 その視線先で、白銀の狼が荒れ狂うような咆哮を上げた。


●天狼星のアリア

 
 ――まさかあの悪魔がいたとはな。
 
 身体のあちこちを血に染めながら、シリウスは忌々しそうに呟いた。
 神器を完全に止める存在。
 最初からいるとわかっていれば、いの一番に狙っただろう。撃退士の作戦によってその存在に気づけなかったことが、最大の失敗だった。
 シリウスは唸り声と共に全身を総毛立たせると、悪魔がいる方へ突進してくる。
「させないのです!」
 即座にメリーが反応し、蒼い炎を纏った複数の鳥を展開させる。
 彼女の強い想いに呼応した鳥達は、燃え上がる炎の壁となり悪魔への攻撃を阻む。
「痛い…ですけど、メリーはこのリボン誓ったのです!」
 ”絶対に死なせない”
 ライラックの花吹雪が舞い散る中、彼女の瞳にはこれまでよりも遥かに強い、強い光が宿っていて。
 
 クラウンへの攻撃を阻まれたシリウスは、追撃を諦めると体勢を立て直すように跳躍する。
 大きな代償を払う神器発動が完封された以上、もうなりふり構ってはいられない。再び咆哮を上げた口元で、双剣が再び強い光を放ち始めた。
「二発目きますよー? 備えて下さいねー!」
 諏訪は周囲へ警告を発しながら、回避射撃の構えを取る。二回目を完全に防ぐ手段がないことは、シリウスも知っているはず。ならば少しでも損害を減らすために、やれることをやるしかない。
「まともに受ければ死ぬ。ならば受け流すまで!」
 菫は盾を手に地を蹴ると、幾度も見てきた神器の軌道を予測。
(刃は2対。恐らく受けられるのは一本まで)
 ならば片方だけでも何とかしてみせると、天狼の前に立ちはだかる。それを見た真緋呂はもう片方の刃を受けんと、光の防御壁を生み出した。
「こっちは任せて。絶対に止めてみせるから」
 あらゆる攻撃を防ぐ、奥義の盾。
(夢は見ない。――叶えて“現実”にする)
 護りの研鑽を積んだ者達が、その身を賭して挑む命懸けの攻防だ。
 そんな彼女達を援護するために、静矢とチルルがサイドから飛び出してくる。
「神器とて武具…抑えられぬ道理は、無い!」
 静矢は左腕に明色、右腕に暗色の紫色アウルを纏うと、抜刀の構えを取る。
 同じくチルルも両手に氷結晶状のアウルを集中させ、凄まじいエネルギーをその身に宿した。
「これがあたいの奥義よ! 氷剣『ルーラ・オブ・アイスストーム』!」
 生み出したのは、氷嵐の支配者の名を冠した氷の突剣。
 彼らの猛攻は対抗スキルとは異なり、神器の威力を完全に相殺させることは難しい。それでも、受け止める者達の負担を少しでも減らすため、彼らもまた命懸けの勝負に臨む。

 天狼が地を蹴った。

 静矢の刀が閃いた瞬間、まるで爆発的に高めたアウルを解放するかのように、刀身から紫の鳳凰が飛び舞う。
 そして二対の刃が、まばゆい程の光を放ちながら撃退士達を飲み込んでいく。
「なんと言う威力…だが私は負けない!」
 刃を受け止めた菫が全身の力を振り絞り、地面へ受け流した。
 静矢は凄まじいエネルギー波を受けながら、この瞬間を待っている者達へ叫んだ。
「今だ、行け!」
 その合図で蒼姫、快晴、文歌が一斉に飛び出す。
「静矢さん達の頑張りを、無駄にはしないのですよぅ!」
 蒼姫は夫との絆を力に変え、ありったけの想いと力を込めた一撃を放つ。同じく絆を力に変えた快晴と文歌も、これで最後といわんばかりに全力での攻撃を仕掛ける。
「……シリウス、ここで終わらせよう、か!」
「貴方の気持ちを一度白紙にしますっ」
 彼女達の連撃で、天狼の体躯は大きくバランスを崩す。そこを狙って他のメンバーも次々に追撃を加えていく。
「俺達の世界で好き放題やる連中をぶっ倒す! それだけだ!!」
 英斗は愛用の円盾を振るい、渾身の斬撃を繰り出す。
 奪うというなら立ち向かうまで。自分たちの世界では、自分たちの手で護るのだと。

 仲間の猛攻が続く中、一臣は神器の攻撃で気絶した面々を回収しに走っていた。
(……死なせるものかよ)
 最も深傷を負ったのは、やはり刃を直接受けた菫だろう。
 全身傷だらけの彼女を抱え上げる隣で、明斗が静矢を、玲治がチルルを抱えるのが見えた。
「全員息はあるようだな」
 玲治の言葉に、一臣は安堵の息が漏らす。
 身体を張ってくれる仲間を目の当たりにするたび、いつも頼もしいという想いと共に、ほんの少しの罪悪感を覚えてしまう。
 役割分担と言えばそれまでなのかもしれないが、彼らが傷つくのを見るのはいつだって心苦しいのも事実で。
「あっと。真緋呂ちゃんは大丈夫?」
「ええ。奥義が役に立ってよかったわ」
 彼女が片方の剣を完全に防いだことが、損害を大幅に減らす要因となった。加えてシリウスの損耗により威力が落ちていたこと、損害を減らすためにあらゆる手を尽くしたことが、深刻な事態を免れる結果となったのだ。

 即座に明斗や琥珀が重傷者を集め、回復スキルを重ねていく。
「かなり傷は深いですね…。でも、何とかしてみせます!」
 明斗が手のひらに生み出したのは、生命の種子。
 気絶した菫の身体に癒しの光を注ぎ込んだ途端、意識を取り戻し重体状態から回復する。
「僕達は未来を切り開くんだよ、こんなところで立ち止まってられないんだよ!」
 琥珀が展開した癒やしの風が、傷ついた仲間をまとめて癒していく。
 自分たちはひとりで戦っているんじゃない。全員で帰るために、全員で道を切り開くのだから。

 その時、後方から悲鳴にも似た声が上がった。
「ダメだよシリウス! それ以上神器使ったら死んじゃうじゃん!」
 見ればさらに傷を増やしたアルヤが、三度目の神器を発動させようとするシリウスを止めようとしていた。
 しかし彼女の言葉など耳に届いていないかのように、神器にエネルギーが収束していく。それを見たアルヤは我を失ったかのように駆けつけようとする。
「行かせるとでも思ったか?」
 エカテリーナが間に割り込むと、牽制射撃を放つ。アスハと氷雅がさらに追撃すると、余裕を失ったアルヤは闇雲に攻撃しながら叫ぶ。
「やめろやめろやめろ邪魔するなああっ!」
「悪いが、俺達にも譲れないものがあるんだ」
 ミハイルが合図すると同時、旅人が手にした黒刀を振り抜き、彼女の意識を刈り取る。その隙を狙い、ミハイルは銃から持ち替えた大鎌に渾身の力を込め振り下ろした。
 ぎゃっという悲鳴と共に、切り離された尻尾が宙に舞う。
 大きくバランスを崩したアルヤは、地面に叩きつけられるように倒れ込んだ。
「痛…待っ…よシ…ウス」
 誰が見ても、もう限界だった。
 それでも身体を起こした彼女は、涙と血で顔をぐしゃぐしゃにしながら、天狼の元へ向かおうとする。
「こいつらならあたしが殺すから…っ! ねえやめてよやめてってばあああ!」

 神なんていらない
 幸せなんて望まない

 だからあたしを置いていかないで

「なああんた本当にこれでいいのかよ…ッ!」
 シリウスの前に立ちはだかったルビィが、いたたまれずに叫んだ。
「俺は…俺はできることなら、アンタに生きてて欲しいんだ。こんな終わり方は望んじゃいねぇ!」
 ずっと抱いていていた本心。

 どうすれば、言葉が届くのだろう。
 どうすれば、その胸に光が灯るのだろう。

 回復した菫も神器発動を阻止するように攻撃しながら、想いの丈を叫ぶ。
「果てぬと祈り続けなければ、願いの彼方まで行けない。言葉で満足に語れぬ私はこれしかない。だが、ここにいるお前たちは違うだろう!」

 『今』なら交わせる言葉がある。
 『今』しか交わせない想いがある。

「絆と信は、”今”と懸命に向き合った時間の延長で作り出すものだ」

 ならば今を守れない者がどうして未来を守れる?

「私は”今”を護るためにここへ来た。シリウス、お前も逃げずに”今(ミカエル)”と向き合え!」

 その時、真横に回り込んでいたナナシが、巨大な戦槌を振り抜いた。
「いい加減にしなさいシリウス!」
 赤黒い光を纏った槌頭は、見た目の可愛さに反し凶悪とも呼べる威力を乗せ、その巨体を殴り飛ばす。

 鮮血が高く、高く、舞い上がった。
 少女の悲鳴がこだまする。
 収束していた光は霧散し、双剣が輝きを失ったその時――


 孤高の天狼は、まるで糸が切れたかのように、ゆっくりと倒れ込んだ。



●終曲――そしてカーテンコールへ


 辺りは恐ろしく静かだった。
 撃退士の目の前で、地に伏した狼は音も無く人型へ戻っていく。

「――勝敗は決まりましたね」

 そう悟った明斗は、魔具を下ろすとシリウスへ呼びかけた。
「これ以上の戦いは無意味です。無駄に死ぬ必要はありません、投降して下さい」
 本来争い事を好まない彼にとって、命を奪うことはできれば避けたいのが本音だった。
 同じく成り行きを見守っていた諏訪も、やるせない想いを抱いている。
(シリウスは、本当はどうしたかったのですかねー…)
 誰も信じず、すべてを諦め、かつての友を手にかけようとするなど、悲しすぎると思う。
 いつも大切な人達に囲まれている彼にとって、相手が抱える孤独は想像できるものではないのかもしれないけれど。
「お前とは何回か戦っただけだが……死に急ぐなんてらしくないんじゃないか、シリウスさんよ?」
 英斗の脳裏にあるのは、狡猾で合理的に物事をこなす相手の姿だった。
 敵として決して楽な相手ではなかったからこそ、無様な姿をさらして欲しくない気持ちもあって。
 地上に降り立ったナナシはシリウスの元へ歩み寄ると、まっすぐに見据えた。

「心して答えなさい。貴方は……生きたいの?」

 息も絶え絶えの中、シリウスは撃退士の問いかけには答えず、まずその言葉を口にした。
「……アルヤはどうなった」
「動けなくなったところを捕縛されたわ。今は気を失ってるけど生きてる」
 聞いた相手はそうか、と呟くと長く息を吐いた。そして撃退士達を見やってから、どこか嘲るように嗤う。
「俺がこれまで、どれだけの同朋を手にかけてきたか知っているか?」
 数なんて覚えちゃいない。
 敢えて考えず、敢えて意味を求めず。依頼さえあればただ数をこなすように、命を奪ってきた。
「この手は既に多くの血で汚れている。今さら命乞いするつもりなんざ――」
 その言葉を遮るように、海が口火を切った。
「なあ、シリウス。天王についたほうがマシだから、死なないからってのは本心じゃないんだろ?」
 先日投げかけた問いへの答え。しかし彼にはどうしても納得できないものがあった。
「天王の創世は分解と再構築タイプの可能性が高いと俺は考えている。その時、その分解に自分が含まれないって思ってないだろ? 本当に気づいてないなんて言うなよ」
「……はっ。自分が捨て駒であることくらい、最初からわかってる。行き着く先が大したもんじゃねぇってこともな」
「じゃあなんで…というか、天王は自分以外は分解するってヤツだろ? 他の奴らもそれで平気なのか」
 困惑する海にシリウスはしばらく黙っていたが、僅かに吐息を漏らし。
「――それはどうだかな」
「? どういう意味だ?」
「王はすべて自分の意思で動いてきたわけじゃ――」

 その時、上空で何かが明滅した。
 何かが降りてきたと認識すると同時、凄まじい轟音と共に光が拡散する。

「……驚いた。まさか本当に来るとはな」
 シリウスへの攻撃を受け止めた玲治が、感心した様子で”ある人物”を見やった。
 彼からあからじめ依頼されていたこと。
 ”決着が着いたあとは、できるだけ天使を庇える位置にいて欲しい”
 何を警戒しているのかその時はわからなかったが、恐らくは――

「ラジエル……っ。なんであんたがここに!」

 意識を取り戻したアルヤが唖然とした様子で叫ぶ。
 ラジエルと呼ばれた男は魔道書を閉じると、やや意外そうに微笑んだ。
「気づかれたつもりは無かったのですが。随分と勘のいい方がいらっしゃるのですな」
「別に難しいことじゃねぇよ。ここは外から入って来られる上に、途中横やりも入ったからな。なあ、遥久?」
 にやりと笑んだ愁也に、アルヤへの攻撃に備えていた遥久も微笑してみせた。
「あなた方のやり方を鑑みるに、邪魔となった存在を粛清する可能性は十分に考えられましたので」
 シリウス達が負ければ、ミカエルその他によって地球軍に取り込まれる可能性もある。
 そう考えた神王側が手を打ってもおかしくないと、仲間へ協力要請し奇襲に備えていたのだ。
「えっ…ちょっと待ってよ。じゃああたい達が殺さなくても、シリウスは始末される予定だったってこと?」
 分けがわからないと言った様子のチルルに、遥久は恐らくと頷いてみせ。
「王にとって敗者は不要ということでしょう。それとも――”貴方”にとってですか?」
 告げた先で、執事然とした男は微笑を深くする。
「余計なことを喋られても困りますのでね。まあ見抜かれてしまった以上、諦めると致しますが」
 やはり最初からそのつもりだったのだろう。そしてシリウス自身、そのことに勘付いていたフシさえある。
「だからあたしを置いてったっていうの? ひどいよ…シリウス何も言ってくんなかったじゃん!」
「貴様を巻き込まないため、だろ?」
 アスハの端的な指摘に、アルヤは唇を噛んで黙り込んだ。ラジエルの方へ視線を向けたアスハは、臨戦態勢を取りつつ問いかける。
「で、どうする? ここで決着をつけるというのなら、相手になるが」
「いえ、今ここであなた方と戦うつもりはございませんので」
 それを聞いた暁良が、つまらなさげに肩をすくめる。
「なんダもう退散か。せっかくだし遊んでいけよ、執事サン?」
「焦らずとも近いうちにお目にかかれましょう。では、これにて」
 ラジエルは底知れぬ微笑を返してから、その場を去っていく。完全に気配が去るのを確認してから、撃退士達は改めて武装解除した。

「……なぜ助けた」

 にらみ据えるシリウスに、遥久ははっきりと答えた。
「哀れみ、とお思いですか? あいにく私はそんなに甘い人間ではありません」
 これまでだって、必要とあらば自らの手で決着を付けてきた。
 今回とてそうすべきだと判断すれば、助けることなどしなかっただろう。
 ただ――

「箱の底には『希望』が残されている。私はそれを信じているだけですから」

 聞いた天狼の瞳がわずかに揺れた。
 ルビィは相手の目線に合わせるように片膝をつくと、静かに切り出す。
「今のお前にとって人生とは、死なずに済んだ日を終えるだけの絶望の繰り返し…――いや、本当にそうなのか?」
 向けられた視線へ、ルビィは想いの丈を口にする。
「元から望みを持たない者に絶望は訪れない。月居も言っていたが、楽園なんざありはしない、希望だ未来だと口にする奴に反吐が出ると嘯くのは、本当は信じているから、望んでいるからなんだろう?」

 ――希望や未来、楽園を

 沈黙を続ける相手へ、真緋呂も感じていたことを問いかける。
「信や絆を見せて貰おうか、と言ったけれど。つまり貴方は『見たかった』のでしょう?」
 見て、何を想ったのか。
 その胸にあるのは今でも、諦めの二文字なのか。

 彼女達の問いにシリウスはしばらく黙っていたが、やがて諦めたように口を開いた。
「……あんたらの言う事が正しいかどうかは、俺にもわからねぇよ。そう見えたって言うんなら、そうかもな」
 自身の奥底で沸き立つモノがなんなのか、自分さえ分からないでいる。
 ただ彼らと接していて気づいたことは、己が予想以上に枯渇していていたということだった。

 静矢は傍にいる蒼姫や仲間を見やってから、シリウスへ語りかける。
「他人はどうか知らんが…私は今までもこれからも、未来を望みその為に仲間と共に全力で生きる」
 望みが大きければ大きい程、断たれたときの絶望も計り知れないものだろう。それでも、前を見て戦い抜くと誓ったから。
「諦めない事が、私にとっては自分や仲間を信じる事なのでな」
 静矢の言葉に文歌も頷き、アルヤの方を示してみせた。
「貴方は一人ではないですよね、シリウスさん」
 今だって命懸けでその生を願う者がいる。それはとても幸せで、尊いことのはずで。
「死ぬつもりなら、死んだつもりでもう一度、零から始めてもいいんです。どうか未来を…諦めないで下さい」
 そう告げる彼女の手を、快晴がそっと握る。
 二人で共に生き、命をまっとうすると誓った。自分のためだけではなく、その生を願う者のためにも生きて欲しいと願うから。

「あのね、シリウス。青い鳥っていうお話があってね」
 おもむろに切り出したロビンに、シリウスは怪訝な表情を浮かべた。
「幸せはすぐ傍にあるんだって。他人の幸せを願えば幸せは大きくなるって、書いてあった」
 シリウスにはアルヤがいるよね、と彼女は告げる。
「ミカエルだって諦めなかったから、今があるんだと思う。シリウスもアルヤも、未来を諦めたら勿体ないよ。二人が楽しく暮らす世界に絶望はいらないんだから」
 ロビンが言い終わるより早く、アルヤが突然わっと泣き出した。ずっと我慢していたものが溢れ出たのだろう、とめどなく流れる涙もそのままに、彼女は叫ぶ。
「シリウス死んじゃダメだよ嫌だよ。あたしはシリウスと一緒なら何もいらないって言ったじゃん。お願いだからひとりにしないで置いてかないで!」
 泣きじゃくる少女の姿に、シリウスは珍しく困った様子で言いやった。
「落ち着け馬鹿。ったく…こんなところで泣きわめくんじゃねぇよ」
「泣かしたのはお前じゃないか」
 氷雅がさらりとツッコむと、相手はばつが悪そうに黙り込む。次いで投げかけるのは、先日の邂逅から抱き続けてきた言葉。
「もうわかっているんだろう、シリウス」
 道の果てに何を求めるのか。
 自分が何のためにここにいるのか。
「すでにお前は答えを知っているはずだ。知った風に語るな。目を逸らさず、命ある限り向き合え」
 ルビィも頷くと、ずっと秘めていた胸の内を告げる。
「あんたがこれまでどんな業を背負ってきたかは知らねぇ。ただ俺は、お前と歩いてみたいぜ――明日の世界を」
 そしてこの世は捨てたモンじゃなかったと、いつか感じて欲しいと思うから。

 ここで成り行きを見守っていた旅人が、口を開いた。

「――僕たちはこれまで、数多くの『死』を見てきた」

 互いの信念のために、死を選んだ者。
 背負った罪のために、死を選んだ者。
 大切な何かを護るために、死を選んだ者もいる。

 最期の在り方は人それぞれであり、正しさという物差しで測れるものではない。
 生も死も、等しくすべての者に訪れるからこそ、見届け尊ぶべきものだとも思う。
「何が最善なのかは、僕にもわからない。でもここには、運命を超えてでも君を生かそうとするひとたちがいる」
 大きな流れを拒否するかのように、考え、備え、さだめをその手でねじ伏せた者たち。
 これまでにも幾度となく見てきたこの光景は、もはや偶然でも奇跡でも無く、称賛で語るべき”意志の共演”だ。
「……ああそうだな。だからこそ、この世界は面白い――ですよね、ミスター?」
 一臣の言葉に道化姿に戻ったクラウンが、優美に微笑む。

「――ええ。知らずに終えるなど、あまりに勿体のないほどに」

 命を賭して求めた先に、手に入れたものがあった。
 それは焦がれ続けた者たちと、”いつか”と願った先を臨める至高のとき。

 その時、シリウスの元へ歩み寄ったミカエルが、おもむろに殴り飛ばした。
「み、ミカエル様……」
 普段は見ない上官の姿に、シスは驚いた表情で固まっている。撃退士達が見守る前で、ミカエルはいつになく感情をあらわに言い放った。

「君は本当に勝手だ。呆れるくらい馬鹿だ」

 いつも勝手に前を行って
 いつも勝手にいなくなって

「だが私も馬鹿だ。彼らに手伝ってもらわなければ、言いたいことも言えないなんてね。我ながら情けないよ」
 自嘲気味に呟いてから、ミカエルは改めてかつての友と向き合う。
「……シリウス、もういいだろう。私たちの間には、埋めようのない溝があったかもしれない。でもこれからきっと、世界は変わる。私たちの関係だって、変わったっていいはずだ」
 やり直せないなら、また一から築けばいい。その意志さえあれば、何度でも世界が蘇るように。
「君がもし与えられた生を全うしたいと望むのなら、私は今度こそ諦めたりはしない。後悔していることがあるのなら、共に背負っていくつもりだ」
 もし償いのために死があるというのならば、悲しみを負わせた者のために生きて尽くすこともまた、償いだとも思うから。
 黙って話を聞いていたシリウスは大きく息を吐いたあと、ほんの少し懐かしげな色を映した。

「――そういう所は昔から変わらねぇな」

 ミカエルを見やる瞳には、酷薄とした敵意は消えている。
「お前のその甘さが、癪だったよ。まあだからこそ、俺はお前らに負けたんだろうだが」
 そう苦笑してから、やがてシリウスは撃退士達を見渡した。
「……ったく。あんたらのお節介ぶりにも、ほとほと呆れるぜ。ミカエル以上のお人好しだな、人間ってのは」
「そうでもないぜ? お前が死にたいと言うんなら、いつでも俺は殺しに来てやるよ」
 ミハイルの言葉にはっそうかよ、と笑ってから、どこか納得したように頷き。再び顔を上げると、突然改まった調子で切り出した。

「ミカエル。お前に話しておくことがある」

 全員が静観する中、シリウスはかつて天界で起きたある事件について語り出した。
「お前が側近を務めていたゼウス(前王)の死についてだが。あれには裏がある」
「裏……? ベリンガム様が王位略奪のために、殺したのだろう?」
 正式に発表されてはいないが、上層部の中では暗黙の了解として知られていることだった。
「それは間違いじゃねぇが、ベリンガムに”そうさせた”のはエルダー(元老院)どもだ」
 聞いたミカエルの瞳が驚愕で見開かれた。
 ゼウス王の死後、混乱する天界をまとめ取り仕切ってきた彼らこそが、誅殺の首謀者だったと言う。
「ではエルダーは自らの教唆で殺させておきながら、素知らぬ顔で王を幽閉していたと…?」
「幽閉に関しては、俺も追いきれなかったからなんとも言えない。だが、結果的に奴らがゼウスの死後もベリンガムを幽閉していたのは事実だな。そして、その時にエルダー達の総意を操っていたのがラジエルだったのも」
 それを聞いたエカテリーナが呆れたように言い放った。
「くだらん茶番だ。それに踊らされている貴様等もな」
 違いねぇな、とシリウスは嗤ってから再度ミカエルを見やる。
「お前らが信じてきた正義の正体なんざ、そんなものってことだよ」

 王がなぜ政変を起こすに至ったのか。
 武闘派を始め多くの天使が信じ、忠義を捧げてきた正義とはなんだったのか。

 言葉を失うミカエルに代わり、菫が切り出した。
「教えてくれ。ベリンガムはどこへ向かおうとしている?」
 シリウスはさあな、と呟いてから、おもむろに牙から外した物を投げ渡した。
「これは……まさか神器か?」
 魔具が納められているであろう、見慣れない物質。撃退士で言うヒヒイロカネのようなものだろう。
「俺にはもう必要ねぇからな。……アルヤを救った礼だ」
 それだけ言うと、天使は改めて撃退士達を見渡した。
「あんたらが何を目指すにしろ、この先へ進むのなら王との対決は避けられない」

 正義とはなんなのか。
 真の楽園とはなんなのか。

「あんたらの目で確かめてみるんだな」


 ※※


 その後捕縛されたシリウスとアルヤは、学園本部へ送られた。
 彼らの処遇については神王との決着がついてからという話になったが、ふたりとも異論を申し出ることはなかったという。

「あー疲れた。でも今回もあたいの技が冴えわたってたわね!」
 チルルは傷だらけなのをものともせずに、次の戦いへ意気揚々と繰り出した。
「全員無事だったのだよ! 本当によかったのだよ!」
「そうですねぃ☆ この調子で最後まで行けるといいのですよぅ☆」
 琥珀と蒼姫もほっとした様子で頷き合うと、仲間と共に神界上層部を目指す。

 空は高く蒼白い大地の先には、『神塔』がそびえ立っている。
 目指す先で、何が待っているのかはわからないけれど。

「さてー、ハッピーエンドまでひた走りますか」
 うんと伸びをする一臣に、愁也が笑いながら横やりを入れた。
「ハッピーエンドになるかどうかは、俺ら次第じゃね?」
「……結局、揚げパン食べきれなかった、な」
 不満そうなアスハに他のメンバーが苦笑する中、メリーはひとり地球とは違う空を見上げていた。

(今回も無事、護りきれたのです。メリーの頑張り、見てくれたのです?)

 微かに、風が吹いた気がした。
 つかの間の休息の中、ミハイルはずっと前から決めていたことを、改めて呟いてみる。

「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ」

 ”さいご”の戦いは、すぐそこに。





依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 創世の炎・大炊御門 菫(ja0436)
 二月といえば海・櫟 諏訪(ja1215)
 撃退士・鳳 静矢(ja3856)
 JOKER of JOKER・加倉 一臣(ja5823)
 蒼閃霆公の魂を継ぎし者・夜来野 遥久(ja6843)
 Eternal Wing・ミハイル・エッカート(jb0544)
 籠の扉のその先へ・Robin redbreast(jb2203)
 誓いを胸に・ナナシ(jb3008)
 あなたへの絆・蓮城 真緋呂(jb6120)
重体: −
面白かった!:30人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
創世の炎・
大炊御門 菫(ja0436)

卒業 女 ディバインナイト
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
戦場ジャーナリスト・
小田切ルビィ(ja0841)

卒業 男 ルインズブレイド
二月といえば海・
櫟 諏訪(ja1215)

大学部5年4組 男 インフィルトレイター
蒼の絶対防壁・
鳳 蒼姫(ja3762)

卒業 女 ダアト
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
ブレイブハート・
若杉 英斗(ja4230)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
JOKER of JOKER・
加倉 一臣(ja5823)

卒業 男 インフィルトレイター
崩れずの光翼・
向坂 玲治(ja6214)

卒業 男 ディバインナイト
輝く未来を月夜は渡る・
月居 愁也(ja6837)

卒業 男 阿修羅
蒼閃霆公の魂を継ぎし者・
夜来野 遥久(ja6843)

卒業 男 アストラルヴァンガード
蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
暁の先へ・
狗月 暁良(ja8545)

卒業 女 阿修羅
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
新たなるエリュシオンへ・
咲村 氷雅(jb0731)

卒業 男 ナイトウォーカー
紡ぎゆく奏の絆 ・
水無瀬 快晴(jb0745)

卒業 男 ナイトウォーカー
籠の扉のその先へ・
Robin redbreast(jb2203)

大学部1年3組 女 ナイトウォーカー
誓いを胸に・
ナナシ(jb3008)

卒業 女 鬼道忍軍
蒼閃霆公の心を継ぎし者・
メリー(jb3287)

高等部3年26組 女 ディバインナイト
種子島・伝説のカマ(緑)・
私市 琥珀(jb5268)

卒業 男 アストラルヴァンガード
あなたへの絆・
蓮城 真緋呂(jb6120)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師
負けた方が、害虫だ・
エカテリーナ・コドロワ(jc0366)

大学部6年7組 女 インフィルトレイター