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マスター:久生夕貴
シナリオ形態:イベント
難易度:普通
形態:
参加人数:25人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2017/02/14


みんなの思い出



オープニング

※ここに至るまでの事情については、特設ノベルをご覧ください


●四国

 愛媛・石鎚山。
 雪に覆われた霊峰の頭上には、巨大ゲート・ツインバベルがそびえている。
 ”焔劫の騎士団”現団長《白焔》アセナス(jz0331)は、集まった団員に向けて口を開いた。
「既にウリエル様から話は聞いていると思うが、俺達は撃退士と共に、天界へ乗り込むことになった」
 ついにという想いと、やらなくてはという使命感。
「……ここまで来た以上、やり遂げるだけっすよね」
 深翠の瞳に強い意志を宿すのは、《紫迅天翔》リネリア(jz0333)。首に巻いた群青のマフラーに、そっと触れ。
「バルから託された未来のためにも、私は前に進むっす」
 二年前の高知戦で最愛の存在を喪い、一時は己を見失うほどに心をすり減らした。けれど託された願い、誓いを繋ぐためには、目を逸らさないと決めた。
「ああ。俺も覚悟はできている」
 淡々と頷く《一矢確命》ハントレイ(jz0332)は、クールな口調の中に熱きものを秘める。
 同朋と戦うことに躊躇がないと言えば嘘になる。いずれ勝つつもりでいた撃退士との共闘にも、複雑な心情がないわけではない。
 けれど護るべきものを護るためには必要なことだと理解しているし、何より団長となったアセナスを強く信頼しているから。
「頼りにしてるぞ、団長」
「お互い様だ、ハントレイ」
 アセナスの言葉に、同期三人は互いに頷き合った。
 かつての団長を敬愛し、亡き先輩達の背を追っていた彼らは今――新しい世代を導く存在に至ったのだ。

「ご安心ください、アセナス様は私が必ずお守りします」
 彼の従士であるキアーラ(jz0372)が、口元を凛々しく引き結んだ。アセナスはありがとうと呟いて。
「だがお前には重要な任務を頼みたい。俺達がエネルギー集積庫を奇襲する隙に、ハミエル様をお救いしてほしいんだ」
 そう説明してから、実はな、と切り出す。
「この作戦が成功した暁には、お前を騎士に推薦したいと思っている」
「わ、私が騎士に……ですか? ですがそれではアセナス様にお仕えすることが……」
「騎士となって俺を支えてくれ。それだけの力が、お前にはあるはずだ」
 キアーラのやる気が天井突破した隣で、アセナスは先日騎士に昇格したばかりのシス=カルセドナ(jz0360)へ告げた。
「シス、お前は撃退士と最も親交が深い。アドヴェンティの件を頼んでもいいか」
「承知した。任せておくがいい」
 はっきりと頷いた弟分を見て、アセナスは頼もしさと共に懐かしさを覚える。
 育ての親である皓獅子公にそっくりだ――と。

 新しき騎士団長は、同志を見渡すと改めて宣言する。
「この任務は今なお各地で闘っている同朋だけでなく、手を結んだ人間たちをも護るものだ」
 開かれつつある新時代を、潰えさせないために。

「我ら誉れ高き『焔劫の騎士団』、誓いの灯を未来へ繋がん!」


●天界へ

「――と言うわけで今回の作戦、僕らの班は”神器改造に必要な材料”を入手することになった」
 集まった撃退士へ向け、斡旋所スタッフの西橋旅人(jz0129)は説明を始める。生徒の一人が問うた。
「修理ではなく、改造ですか?」
「うん。元々ツインバベルから依頼報酬として提示されていたのは、”修理”だったんだけどね」
 最終的に先方が申し出てきたのは”修理+大幅に性能を上げる改造”だったらしい。
「恐らくはアテナ姫保護に加え、先日の高松ゲートでは間接的にツインバベルを救ったこと。そして先に起こるであろう、大戦をふまえた上での判断だろうね」
 彼の話によれば、既にツインバベルにある研究所では、改造のための準備は整っているそうだ。しかしそのための材料が、どうしても地球では揃わない。
「つまりは、天界に直接取りに行かなければならないと」
「そういうこと。しかも材料が保管されている研究施設は、既に王権派の手に落ちているらしい」
 言いながら旅人は、作戦概要とマップをスクリーンに映し出した。
「ここで生きてくるのが、今回の作戦だね。別班が担当する”エネルギー奪取と捕虜奪還”が王宮内で起これば、一時的に王都は混乱する。その間に僕らは、材料が保管されている場所へ向かう、と言うのが基本作戦だ」
 ただ、と旅人は隣に立つシスを見やった。
「ここから先は、君に説明してもらった方がいいかな」
「ぬ。承知した」
 隣で見守っていたシスは、引き継ぐ形で説明を始めた。
「俺様たちが向かうのは、王都とは少し離れた場所――研究施設が集められた地区だ。ここは現在、王権派と反抗勢力が交戦中だと聞いている」
 説明によると施設の多くが既に王権派の手に落ちており、容易に入れる状態ではないという。
「奴らがすんなりと渡すとはとても思えん。ある程度、戦闘は避けられんだろうな」
 とはいえ施設へ潜入するだけなら、ここまで人数を集める必要はないはず。生徒達が疑問に思っているのを察したのだろう、シスは軽く頷き、改めて皆を見渡した。
「ここから先は、俺様の個人的な頼みだと思ってくれ」
 彼の話によれば、この地区は研究者やその家族など、戦闘能力を持たない天使が多く住んでいるらしい。いまだ交戦が続く中、町は荒廃し、取り残されている者も少なくないのだという。
「俺はできれば、そいつらを助けたい」
 施設へ向かう傍らで行うには、人手が必要となるだろう。撃退士を見つめる瞳に、力がこもるのがわかった。
「こんなこと、貴様等に頼める立場でないことはわかっている。だがどうしても、奴らを見捨ててはおけんのだ……!」
 戦争における一番の被害者は、敵味方関係無く、弱い立場の者だ。彼自身も戦災孤児だったからこそ、現状を見過ごせなかったのだろう。
「見知らぬ地での行動は危険を伴うし、天使が貴様らを見てどういう反応をするかは正直わからん」
 人間を見て怯える者もいるだろう。
 敵意を見せる者さえいるかもしれない。
 それでも、とシスはいったん言葉を切ってから、撃退士と向き合う。

「共に行ってくれるか?」

 生きろと言ってくれた、導きし者たちの願い。
 生きようと言ってくれた、同朋たちの想い。

 そして未来を創ろうと言ってくれた、ここにいる同志たちとの誓いを繋ぐために――




リプレイ本文

※このリプレイには【四国】全体のエピローグが挿入されています。時系列的にも同時公開依頼の中で最も遅いものとなっているため、お読みになる際はお気を付けください。




 ――その一滴は、やがて大きな流れを生み出した



 これは多くの者達の手によって繋がれた、ひとつの奇跡。





 初めて足を踏み入れたゲートの先。天界の地に降り立った撃退士たちは、地球とは明らかに違う空気を肌で感じていた。
「ここが天界か……ついにここまで来たって感じですね」
 注意深く周囲を観察しながら、若杉 英斗(ja4230)は呟いた。身体に感じる違和感は、恐らくここの風土が影響しているのだろう。
「まさかこんな形で足を踏み入れることになるとは、思っていなかったな……」
 黒羽 拓海(jb7256)が漏らした言葉に、雫(ja1894)も頷く。
「私もです。学園に来た当初はここに来られるかわからなかったし、仮に来れたとしても、攻め落とすためだと思っていたのですがね」
 それが今や、人類だけでなく天使をも”救うために”この地に立っている。雫だけでなく、ツインバベルとの共闘盟約に尽力した面々でさえ、この展開は予想していなかっただろう。
「……時代は変わろうとしているのかもしれませんね」
 自分達が思うよりもずっと、早くに。
 雫がそう呟く前方では、水無瀬 文歌(jb7507)が確信めいた表情でそのまなざしを強くしていた。
「天使さん達との共闘……これでまた、夢に一歩近づきましたね」
 先日の高松ゲートに続いて今回の作戦も、天魔との共存へ向けた一歩となるはずだ。
 同じくベアトリーチェ・ヴォルピ(jb9382)も、静かなやる気を燃やしていた。
(アテナの…ためにも…頑張る…友情……)
 友達になってくれると言った天姫。彼女が再び狙われていると知り、いてもたってもいられなかった。
 きっとそう感じているのは、彼女だけではなかっただろう。

「ふむ、どうやら目的の地区が見えてきたようだ」
 見えてきた集落の入口を、冷静な目で見つめるパンダ……ではなく下妻笹緒(ja0544)。今日もそのらぶりぃな外観は、圧倒的存在感を放っている。
 ここで別隊と連絡を取っていた西橋旅人(jz0129)が、メンバー全体へ通信を行った。
「王宮内での作戦は予定通り進んでいるようだね。今なら王権派の目がこっちに向く可能性は低い。僕らも速やかに作戦遂行しよう」
 彼の言葉に、同行天使のシス=カルセドナ(jz0360)も頷いてみせる。
「了承した。ではここから先は、各自持ち場へ向け行動開始だ」
 そう言ってから、改めて全員を見渡した。
「何度も言うが、俺様と離れて行動する班は天界の影響をまともに受けてしまう。くれぐれも気をつけるのだぞ」
 ここでRobin redbreast(jb2203)がおもむろに問いかけた。
「ねえ、シス」
「ぬ。なんだ?」
「あたしたちを天界に連れてきたってことは、信頼してもらえてるってことなのかな」
 それを聞いたシスは今さらなんだといった顔をする。
「貴様らを信じてなければ、こんなこと頼むわけないだろう」
 やり取りを聞いていた水無瀬 雫(jb9544)も、シスに向かってはっきりと告げた。
「私は戦う力を持たない人達を守るために、日々努力してきました。相手が天使であろうと、それは変わりません」
 シスを見つめる彼女の瞳に、一際強い力がこもる。
「私を、いえ私達撃退士をあまり見くびらないでくださいシスさん。救いを求める誰かのため、共に頑張りましょう」
 それを聞いたシスは、ばつが悪そうに苦笑したあと。
「貴様らが本当に来てくれるのか、一瞬でも悩んだ俺様が馬鹿だったな」
 いつだって彼らはその信に応えてくれたことは、自分が一番よくわかっていたのに。天使はひとりひとりの顔を見やりながら、その言葉を告げる。

「ここまで来た以上、俺は貴様らを信じる。この作戦、必ず成功させるぞ!」




 撃退士が歩み入った異界の町は、驚くほどに静まりかえっていた。
「ここが天使が住む町ですか……やっぱり人界とは少し雰囲気が違いますねー?」
 櫟 諏訪(ja1215)は警戒しつつも、地球にはない建築様式を物珍しそうに眺める。同じくナナシ(jb3008)は遁行の術を展開しながら周囲を見渡し。
「どんなところかと思ってたけど、案外普通ね。魔界と違って、ここには昼と夜もあるみたいだし」
 それを聞いた加倉 一臣(ja5823)が確かにといった様子で。
「気候的にはそこまで差がないようにも感じるね。でもきっと、色んな成り立ちが違うんだろうなあ」
 地上を照らす光は太陽のそれではなく、見かける動植物も見たことがないものばかりで。当たり前のよう存在する自然現象が異なるというのは、やはりえもいわれぬ違和感を感じてしまう。
「冒険の舞台は、遂に天界へ。この地で待ち受けている試練とは!?……さて、真面目にやる、か」
 通常営業のアスハ・A・R(ja8432)に妙な安心感を覚えつつ、四人は地図を手に町の西エリアを目指す。
 彼らに続くのは、最奥の北エリアを目指す面々。
「この格好なら、現地のひとっぽく見えるかな〜」
 物陰に身を潜めた星杜 焔(ja5378)は、白っぽい衣装を身に纏っている。あらかじめ学園の天使やシスから聞いた情報を元に、できるだけ現地の服装に合わせたのだ。
「いいんじゃないかしら。少なくとも違和感はないわよ」
 そう返事するのは、同じく北エリア担当の蓮城 真緋呂(jb6120)。彼女の手には、黄金の羽根がそっと握られている。かつてその魂を見送った、大天使の形見だ。
「町の雰囲気なんかは、なんとなく地球と似た部分も感じるねぇ。いつかゆっくり見てみたいものだけど」
 真緋呂の相棒である米田 一機(jb7387)は、ペンを片手にマップを確認している。彼は情報管制も担当しているため、各地の情報が入るたびに、地図内へ落とし込んでいるのだ。

 続いて東エリアへと向かうのは香奈沢 風禰(jb2286)と私市 琥珀(jb5268)のカマキリコンビ。
「カマふぃ&きさカマ、ついに天界デビューなの!」
「天使さんたちの救助頑張るんだよ!」
 二人はいつものカマキリ姿で、ばっちり決めている。もちろんこれには意味があって、彼らなりに警戒されないための秘策らしい。
「きっとこの姿なら、怖がられないなの!」
「カマキリのイメージアップと撃退士のイメージアップを狙った、一挙両得作戦なんだよ!」
 一方、赤坂白秋(ja7030)は現地入りするなり、パンツ以外の衣服を脱ぎ捨てていた。
「パン一すなわち、丸腰ということだ。つまり怪しくない。あと格好いい(イケメン理論)」
 むしろ通報されないか心配だが、確かに丸腰であることは伝わるだろう。とは言え、能力40%減の中でパン一というのは……そんな装備で大丈夫か(
 そんなカマキリとパン一に囲まれているのが、サムライガールこと不知火あけび(jc1857)。
「ここがお師匠様の故郷……」
 今は離れて暮らすかつての師匠。天使である彼が生まれ育った地に立っているのだと思うと、複雑な気持ちになる。
(本当は姫叔父と来たかったな)
 彼がここに立っていたら、なんと言っただろう。
 帰ったら土産話をたくさん、聞かせてあげたい。そのためにも、今は目の前の任務に集中することにする。

 残る南エリアは、町の入口に近いこともあって、他エリアから救助された天使の護衛や避難場所への誘導役も兼ねていた。
 全員を見送った旅人が、南担当である英斗、笹緒、ロビン、雫へ合図した。
「さて、僕らもそろそろ行動に移ろうか」
 救出作戦、開始だ。

 ※

 その頃、まっすぐに施設へと向かっていた資材調達班は、裏口からの侵入に成功していた。
「話に聞いた通り、かなりの広さがありそう、だね」
 既に潜行状態に入っている水無瀬 快晴(jb0745)は、奥へと入り組んでいく廊下を見やった。
「ああ。施設長達を見つけるのは骨が折れそうだぜ」
 ミハイル・エッカート(jb0544)は自身も潜行しつつ、仲間にも光迷彩を付与する。中にどれだけの敵がいるかわからない以上、できる限り交戦を避けるのが作戦方針だ。
「シス、前にアテナを保護した際に我等へ使った術を、我にかけろ」
 フィオナ・ボールドウィン(ja2611)の指示にシスはああと頷きつつ。
「元々王権派の奴らと出くわしたら、全員にかけるつもりではいたが。今の方がいいのか?」
「我はここに残る。なに、運び出すにも救出するにも経路の確保は必要であろう? そういうことだ」
 つまり彼女は侵入口で待機し、増援を防ぐつもりらしい。シスはやや不安げな様子で。
「ここで術をかけるのは構わんが…長時間持つものでもない。貴様一人で大丈夫か?」
「貴様らが早々にことを終えれば、大事には至らんだろう? まあ客が増えるなら増えるで、面白くもなるさ」
 どこか愉しそうでさえあるフィオナに、シスは仕方ないといった様子で術を展開する。白く輝くオーラが、メンバー全員の身体を包み込んでいった。
「なるほど……しばらくの間生命力が回復し続けるのか。他にもいくつか能力が上昇しているようだな」
 初めてこの術を受けた久遠 仁刀(ja2464)が、感心したように呟く。そういえば彼の義父であるゴライアスも、似た技を使っていたなと思い出しつつ。
「ここからは二手に別れるのだったか。念のため合流に備えて、通ったルートがわかるよう壁に印をつけていくのはどうだ」
 彼の提案に大炊御門 菫(ja0436)が同意を示す。
「合流に手間取るのは避けたいところだしな。各自やれることはやっておいたほうがいいだろう」
 特にシスと離れるメンバーは彼の援護を受けられない以上、不測の事態が起きかねない。念には念を入れておくのに越したことはないとの考えだ。

 建物の大きさを確認していた小田切 翠蓮(jb2728)が、思案げに口を開いた。
「闇雲に探すのも非効率ゆえ、ある程度目星をつけたいところじゃのう」
「俺は施錠可能で警備の厚いところが、怪しいと思うんだがな」
 ミハイルの言葉に文歌も同意しつつ。
「私もそう思います。どこかに施設内の地図でもあればいいのですが……」
「定石でいえば、当直室や事務所当たりが怪しいのう。わしらはまずそちらを目指すのはどうじゃ?」
 翠蓮の提案に快晴がなるほどと言った様子で頷いてみせる。
「地図があれば、捜索や脱出の手間は大幅に軽減できそう、だね。探してみよう、か」
 意見がまとまった所で、一行は当初の予定通り二手に別れて探索する流れになる。拓海は同じ班で行動するシスを見やり。
「こんな時でなければ、ゆっくり見て回りたいところだが…今は目の前の危機を乗り越える手立てを確保しないとな。当てにしているぞ、シス」
「ふ……任せておくがいい。たが俺様の方も当てにしているのだからな、拓海」
「ああ。任せておけ」
 互いに気易げな調子なのも、これまでに積み重ねてきた時間の証。
「ではここからは別々で。何かあったら、光信機での報告を忘れないようにいきましょう」
「捜索作戦…ごーごー…」
 雫とベアトリーチェの言葉に、全員の表情が引き締まる。
 この先はまさに、敵陣。油断は禁物だ。




 同じ頃、町の南エリアでは早速要救助者の捜索が行われていた。
「西橋さんは各班への連絡と、他の地区から来た避難者の誘導をお願いします」
 水無瀬 雫の依頼に旅人は了承の意を示す。
「じゃあ僕はこの付近にいるようにするから、捜索の方はみんなにお願いするね」
 英斗と笹緒は崩れかけた建物の合間を縫いながら、人影がないか探っていく。
「結構あちこち壊されてるな……取り残されてるひとが無事だといいけど」
 やはり戦闘の爪痕がいまだに色濃い。怪我で動けなくなっている者も多くいそうだ。
 ロビンは地図を確認しながら、天使が通りそうなルートを予想していた。
「この辺りに監視サーバントがいそうだから、避けて移動しようかな」
「そうですね、どのような敵がいるかわかりませんし……」
 細心の注意を払うに越したことはないと、雫も同意する。

 捜索を始めて程なくして、英斗と笹緒は半壊状態の家屋に入っていた。
「すみませーん、誰かいませんかー」
 英斗の呼びかけに応じる声はない。けれど二人は何となく、奥に誰がいる気配を感じていた。
 笹緒が比較的損傷の少ない扉をゆっくり開くと、中から怯えたような声が届く。
「誰……?」
 見ればまだ年若い少女が、家具の奥に隠れてこちらを伺っている。
「怖がる必要はない。私達は君を助けに来た」
 警戒する相手を刺激しないよう、笹緒はまず声をかけた。英斗も紳士的対応を使用しながら、自分達に敵意がないことを説明していく。
「俺達は怪しいモノじゃない、怪しい力。……騎士団の従者をしている者です」
「同じくパンダちゃんだ」
「……?」
 どう見ても天使には見えない彼らに、少女はわけがわからないと言った様子だった。
 しかし英斗の紳士力と笹緒の圧倒的らぶりぃ力が功を奏したのだろう。事情を説明していくと、次第にその表情は和らいだものへと変わっていく。
「よくわからないけど……あなたたちが悪いひとじゃないのはわかる」
「うむ。パンダが平和と友好の証だということが、伝われば十分だ」
 笹緒が神妙に頷く隣で、英斗も微笑んでみせる。
「避難所までは俺達が護衛するから安心してください」
「他にも助けを待つ者がいれば、遠慮無く申し出てくれ」

 紳士とパンダが無事に一人目の天使を救助した頃。
 別方面を探していた雫とロビンも、瓦礫に挟まって動けなくなっていた天使を発見していた。
「大丈夫ですか!」
 すぐさま駆け寄り助け出すと、相手は自分たちとそう年が変わらないように見えた。
「すまない…くそ、王権派の奴らめ……」
 悔しそうに呟いた天使は、頭を振ってから雫とロビンの姿に目を留めた。
「……もしかしてあんたら、人間か?」
「そうだよ」
 ロビンの返事に、相手は驚いたように目を見開いていた。雫は懐から騎士団員と撃退士が映った写真を取り出して。
「私達は騎士団と共に、皆さんを助けるためにきました。他の方々を助けるためにも、協力してくれませんか」
 真摯に語りかける雫の言葉を、天使は写真を見つめながらじっと聞いていた。やがてシスが映った写真と二人を見比べて。
「そうか。あんたらシスの仲間か」
「うん。今日も一緒に来てるよ」
 ロビンの言葉に、天使はあっさりと頷いた。
「ならあんたらを信じるよ」
「えっ…本当ですか?」
 驚く雫に、相手は口元に笑みを刻む。
「俺はシスとは同じ孤児院で育ったからな。あいつなら必ず来てくれると信じてた」

 同じ頃、他のエリアでも捜索が開始されていた。
「さて、やれることをしっかりやり遂げていかないとですねー?」
 諏訪は自慢のアホ毛レーダーを展開すると、敵影や救助者が付近にいないか探っていく。同じく索敵を行っていた一臣は、路地の角で動く影を発見していた。
「あれは……どうやら監視サーバントっぽいね」
 事前に聞いていたタイプのものに間違いなさそうだった。
「天使となれば飛べるわけだから、な。対地対空監視共に配置済みだと思った方がよさそう、だ」
 そう言ってアスハはサーバントに近づくと、スリープミストで眠らせる。その間にナナシは気になる建物付近で遁行の術を解除していた。
「これで救助者が、私たちの存在に気づいてくれるといんだけど」
 カオスレートの差をむしろ生かして、相手に察知してもらうのが狙いだ。直後、今度は諏訪のレーダーに反応があった。
「あの窓から一瞬、人影が見えましたよー?」
 そこでアスハはおもむろに、正面玄関から突入。
「こそこそするから、怪しまれるんだ、堂々と行けばいいのだろう?」
「確かに、ここまで来て忍び込むのも不自然だな」
 一臣も笑いながらあえて気安い調子で呼びかける。
「おーい、誰かいるなら返事してくれないか?」
「自分たちは焔劫の騎士団に頼まれて、助けに来た者ですよー?」
 諏訪達も呼びかけていると、上の階から物音がするのがわかった。行ってみると、二階の一室から利発そうな少年が顔を出している。
「騎士団ってほんと? あなた達……天使じゃないよね?」
「ええ、見ての通り私は悪魔よ。でも種族なんて関係ない。あなたたちが助けを必要としているってシスから聞いて、ここに来たの」
 シスという言葉に相手が反応するのがわかった。一臣は負傷していないか問い掛けつつ。
「シス君だけじゃない、バルシーク殿やオグン殿に顔向けで出来ない真似はしないよ。信じてくれ」
 そう言って騎士団と自分達が一緒に映った写真を見せると、少年は写真とメンバーを見比べていた。やがて納得したのだろう、急に表情が緩んだ瞬間、その瞳からはみるみるうちに涙がこぼれ始めた。
「ずっと、不安だったんですねー……?」
 諏訪が背中をさすってやると、少年は肩を震わせながら話し出す。
「王権派の天使が攻めてきて、父さんも母さんも研究所から帰ってこなくて……」
 どうしたらいいかわからず、途方に暮れていたのだという。アスハは研究所へは別の班が向かっていると告げ。
「もし生きているのなら、そのうち誰かが助けるかも、な」
 既に殺されている可能性もある以上、下手な期待は持たせない。でもそれがむしろ、少年にとっては現実を受け止めるきっかけになったようだ。
「他にも取り残されている天使がいると思う。……僕も、何か協力できないかな」
 その言葉に、四人は力強く頷いてみせるのだった。

 ※

 その頃、施設班の方でも動きがあった。
 一階探索を行っていた面々は、翠蓮の狙い通り、裏口から比較的近い位置に当直室らしき部屋を発見したのだ。
「ふむ、中には幸い誰もおらぬようだ」
 サーチトラップを展開していた文歌も、ほっとした様子で。
「罠もなさそうですね。今のうちに施設内のマップや情報を探しましょう」
 皆で手分けして探すと、目的のものはすぐに見つかった。
 研究所の地図及び、各施設についてのパンフレット。快晴はそれらをスマホのカメラで撮影しながら、内容を確認する。
「この地図で見る限り、重要そうな設備は二階に集められてそうだね」
「となると、資材そのものは二階にある可能性が高いな。一階は事務所やスタッフルームらしきものがあるからな……施設長たちはこっちにいるかもしれないぜ」
 ミハイルの言葉に拓海も同意して。
「自分もそう思います。先に二階へと向かった班に、このことは伝えたほうがよさそうですね」
 そういって拓海が通信を開始する間、ミハイルはシスを振り向いた。
「シス、ここから施設長宛てに念話はできるか?」
「もう少し場所を絞り込まないと難しいな。どこにいるのかある程度、確定できればいいのだが」
「ではやはり、近くまで行ったほうがよさそうですね」
 文歌の提案に全員が同意する。次なる目標は、施設長の発見だ。

 一方、二階へと上がっていたメンバーは、拓海からの通信を受けた直後に、天使らしき人影と遭遇していた。
「……どうやら避けるのは難しそうだな」
 菫は曲がり角の向こうを手鏡で確認しながら、眉をひそめる。雫も周囲を警戒しながら頷いて。
「ええ。ここにくるまでは一本道でしたし。迂回路はないと判断していいと思います」
「どうすべきかだな……。一階班が施設長を見つけるまで待機するか、あえてここは倒して進むか」
 仁刀の言葉にベアトリーチェはむむ、と悩んでから。
「施設長…一階に…いる…保証…ない……。二階も…探索…する…ジャスティス…」
「そうだな。二階に資材があるなら、どのみち来ないといけなくなる。無理は禁物だが、どの程度敵がいるのか探っておきたいところだ」
 続く菫の言葉に、仁刀も刀を構えて頷いた。
「では、即効で片を付けよう」
 刹那、大剣を手にした雫が滑るように駆け抜け、天使の背後へ回り込む。
 素早く振るった刀身は対象を切り裂く瞬間、蒼い月のように冷たい輝きを放った。
「ぐっ……!」
 冥の力を乗せた重い一撃に、天使の顔が苦痛に歪む。そこを狙って仁刀が間髪入れず、アウルを集中させた刀の峰を叩き込んだ。
 打撃点から送り込まれた衝撃波で、天使の身体が後方へ吹き飛ばされる。まるで蜃気楼のように景色が一瞬揺らぐさまを見て、相手は驚愕の表情を浮かべた。
「その技…お前ら天使じゃないな? 何者だっ!」
 まさか人間から襲われるとは思っていなかったのだろう。愕然となった天使は、すぐさま仲間へ連絡をとろうとする。
「すまないが、助けは呼ばせない」
 即座に反応した菫が、盾で行動を阻害。念話を阻止され天使は、狼狽気味に剣を振り抜いてくる。しかしそれも彼女の盾で受け止められ、代わりに反撃の刃を受けてしまう。
 その後もメンバーは相手に隙を与えることなく畳みかけ、あっという間に片が付いた。
「敵…他には来てない…ダイジョーブ……」
 ヒリュウと視覚共有していたベアトリーチェが、ほっとしたように頷く。念のために増援が来ないよう、見張っていたのだ。
「どうやら、上手くいったようだな」
 仁刀が安堵したように息を漏らす。
 即効戦と念話阻止を徹底したおかげで、他の天使には気付かれずに済んだようだ。


 戻って救助班。
 北エリアでは救助を進める傍らで、他エリアから入ってくる情報を元に、町全体の状況が把握されつつあった。
 マップに情報を書き込んでいた一機はふうむと呟いて。
「どのエリアも監視サーバントがいるみたいだけど、そんなに強いのはいないみたいだね。周回ルートが単純なところを見ても、低級タイプなのは間違いないだろうし」
「ここの地区にいる天使さんって、ほとんどが戦えないでしょ? そんなに強い種類を配置する必要もなかったんじゃないかしら」
 真緋呂の分析に焔も確かにと同意する。
「じゃあもし見つかったときは、逃げるよりも倒してしまった方がよさそうだね〜」
 その方が敵に通報する機会を与えずに済むからだ。
 彼らはこの情報を速やかに全員へ伝えてから、捜索を再開する。

 東エリアではカマキリコンビが、崩れかけた家屋で身を寄せ合う子供を発見していた。
「カマキリ救助隊が来たんだよ!」
 いきなり現れた謎の生物に、子供達は驚いているようだった。
 中には泣き出しそうな子もいたため、カマふぃこと風禰は友好的な振る舞いで敵意が無いことをアピール。
「カマキリだから怖くないなの! 怪我してる子はいないなの? カマふぃ達が治してあげるなの!」
 見れば先ほど泣きそうになっていた子が、足に怪我を負っている。琥珀は怖がらせないよう近づくと、回復スキルを展開した。
「カマキリヒールぺカー!」
 傷がみるみる治るのを見て、子供の顔色も良くなっていく。それを見ていた他の子供達から「カマキリすごーい!」と、歓声があがった。
 一方別の家屋では、あけびが怪我で動けなくなっている老天使を発見していた。
「大丈夫ですか!」
 慌てて駆け寄ると、相手はあけびを見て驚いた表情に変わる。
「その見慣れぬ装束……おぬしまさか、人間か?」
「はい。でもどうしてわかったんですか?」
 もしかすると、人間を見たことがあるのだろうか。そう問うてみると、天使は急に険しい口調で告げた。
「帰れ。ここはおぬしが来るような場所ではない」
「そんなことはできません。私達は騎士団の依頼で皆さんを助けに来たんですから」
 きっぱりと言い切ると、相手は騎士団の言葉に再び驚いた表情を見せたが、すぐにかぶりを振り。
「わしは老い先短い退役軍人だ。過去には人間を殺したこともある」
「えっ……」
「こうして同朋に殺されるのも、己の業が招いたこと。わかったらわしなどに構わずさっさと去れ」
 頑なまでの拒絶。あけびは皺だらけの顔をしばらく見つめていたが、やがて静かに口を開いた。
「……嫌です」
「何?」
「私の大切なひとは天使です。あなたがどう思おうと、私はあなたを助けたいんです」
 そういって自らの愛刀を差し出すと、天使を真っ向から見据えた。
「必要ならこの刀をあなたに預けます。これがどういうことか、あなたも元武人ならわかるはず」
 ここで見捨てるくらいなら、最初から来てなどいない。侍の魂を差し出してまで己の信念を貫こうとする彼女に、老天使の目元が微かに震える。
「――まったく、オグンもやっかいな輩をよこしたものだ」
 苦笑めいたその瞳は、彼がいまだに武人であることを示すものだった。

 この頃になると、南エリアには他エリアから救助されてきた天使が集まって来ていた。
 各地での情報収集や伝達が徹底されていたため、当初の予測よりもスムーズに救出が進んだためである。
 エリアの境界付近で活動していた白秋は、自らも救出を行いつつ、迎えが来るまでの一時的な安全地帯へ救助者を誘導していた。
「町の出入口まで行けば、避難所はすぐだ。そこまでは俺の仲間が護衛するから心配はいらない」
 救出された天使達は、家族との再会を喜ぶ者、いまだ恐怖心を抱えている者、じっと耐え続ける者など、様々な表情を見せている。それらを目の当たりにして思うことはひとつ。
 戦災を受ける者に、種族の別など無い。
 彼らはみな理不尽な痛みに翻弄され、なすすべを持たずにいるのだから。
 引き受けにやってきた旅人に天使達を引き渡すと、白秋は先ほど助けた少女へ向け手を挙げてみせた。
「またここに来たときはデートしようぜ」
 相手はくすりと笑ってから、「次は服を着てきてくださいね」と返す。
 その微笑みを、この先曇らせてはいけない。あと次は服を持ってこよう。
 白秋は改めてそう、己に言い聞かせるのだった。

 再び、施設班。
 一階で捜索を行っていたミハイル達は、ついに怪しげな場所を発見していた。
「あの厳重な警備……どう見てもこの先に何かあるとしか思えないぜ」
 扉の前には天使が立っており、そう簡単に出入り出来るようには見えない。
「シス、念話を試してもらえるか」
「承知した」
 始めてすぐ、反応があった。やりとりを終えたシスがメンバーへ向け頷いてみせる。
「間違いないな。施設長達はこの先に捕われている」
「やりましたね。では二階班に連絡して合流しましょう」
 文歌が連絡を取る間、残りの面々は中にいる人数の確認と、救出後の移動ルートを検討していた。
「捕われているのは五人、か……。中にもう一人王権派の天使がいるみたいだし、うまく護衛しないと被害が出そう、だね」
 快晴の言葉に拓海と翠蓮もマップをにらみつつ。
「恐らく戦闘は避けられないでしょうし、何名かは護衛に徹した方がよさそうです」
「部屋の中が狭いようであれば、脱出を優先させた方がよいかもしれぬのう」
 いずれにせよ、救出後は最速で事を終えなくてはならない。メンバー達の顔に、自然と緊迫の色が滲む。

 数分後、二階を探索していたメンバーが合流してきた。
 予定より早く合流できたのは、移動ルートを確保していたことと、地図を発見していた一階班の誘導も大きいだろう。
 話を聞いた菫と雫はふむと頷いて。
「詳細はわかった。ならば戦闘は受け持とう」
「私も天使の相手を受け持ちます。先ほど戦った感じから、大体の強さは把握しましたので」
 彼女達に続き攻防高い仁刀と拓海、不意打ちスキルの多い快晴とシスも戦闘側に回った。
「いざという時…スレイプニルに乗せて…びゅーんと脱出…する…」
 搬送が得意なベアトリーチェを始め、残りのメンバーは施設長達の護衛に徹することにする。
 準備が整えば、突入開始だ。

「では、初手は自分に任せてください」
 ワイヤーに換装した拓海が、天使の死角へと回り込む。ミハイルから潜行も付与されているため、相手は気づく様子もないようだ。
 ぎりぎりまで距離を詰め、命中の高い一撃を繰り出す。蒼い稲光りが走ると同時、天使の意識が刈り取られた。
「ナイスです、黒羽さん」
 雫が引き継ぐように高速の一撃を叩き込むと、続く仁刀や快晴も間髪入れず高威力の連撃を加えていく。
 菫は自身も攻撃を加えながらも、とどめを刺せるタイミングを見計らい、シスへ合図した。
(今だ、畳みかけろ!)
 刹那、シスとからくり人形が巨大な水晶を次々にぶつけ、対象の意識をさらに奪っていく。
 彼らの連携によって天使は瞬く間に気絶状態へと陥った。しかしさすがに、部屋の前の異変に気づかれたのだろう。中から「今の音はなんだ!?」という声が聞こえてきた。
「こうなったら一気に突入するぞ」
 仁刀と拓海が扉を蹴破り、メンバーは一斉に中へなだれ込む。
「な、なんだお前達は!?」
 愕然となる兵士らしき天使に、ミハイルが答えた。
「見ての通り人間だ。悪いが施設長達は解放させてもらうぜ」
「なっ…ふざけるな!」
 天使が振り下ろした剣を、仁刀は刀で受けながら上手く威力を相殺する。
「ここは俺達に任せて逃げろ!」
 文歌は研究員らしき天使達に駆け寄ると、騎士団の依頼で助けに来た旨を告げる。
「あなた達のことは必ず私達が守りますっ。信じて付いてきてください!」
 事前にシスに事情説明させていたのも影響したのだろう。彼らは特に抵抗する様子もなく、撃退士の指示に従い始める。
「くそっ…そう簡単に逃がすわけには」
 焦る天使が追いすがろうとする背後から、快晴が闇の一撃を放つ。光を飲み込む高威力の弾丸は、天使の動きを阻害するには十分過ぎるほどで。
「そっちにはいかせない、よ」
 明らかに動きが鈍ったところを、再び拓海の放つ蒼雷が意識を刈り取る。
 その隙にミハイルは研究員達を部屋から連れ出すと、資材がある場所を確認。
「シスから話があったと思うが、俺達は材料を取りに来た。王権派を封じるために協力してくれないか」
「うむ。ツインバベルの研究員とは懇意にしている。天王を止めるためにも、ここは協力させてもらおう」
 施設長はシスが持つリストに目を通すと、マップの二階奥を示した。
「この保管庫に目的のものがある。扉の鍵は私のみが知る暗証言葉及び、生体認証だ」
「二階…なら…敵少ないルート…見つけて…ある…」
 ベアトリーチェの言葉に翠蓮はゆるりと笑んだ。
「それは好都合だのう。ではお主の先導で目的地へ向かうことにするぞい」

 監禁場所への突入を機に、施設内では賊の侵入が伝わり始めていた。侵入口に陣取っていたフィオナは慌ただしくなる気配を察知しつつ。
「そろそろ客がやってくる頃か」
 恐らく別棟にいる天使なら、そう間をおかずに駆けつけてくるだろう。
 剣を手にする口元にはいつもの笑みが刻まれていた。
 



 その頃、町での救助も佳境を迎えつつあった。
 エリアごとのローラー作戦に加え、各地で協力を得られた天使の情報が救助のスピードを格段に上げている。
 効率化を目指した各自の工夫が、生かされていると言っていいだろう。

 西エリアの琥珀は救助した天使達に、めいっぱい持参してきたお菓子や飲み物を振る舞っていた。
「甘いものは心が安らぐんだよ!」
 初めて見る地球の食べ物に、子供達は興味津々。ドーナッツをパクリと一口食べた表情が、ふわりと緩む。
「おいしいねこれ…!」
「よかったんだよ、まだまだ一杯あるから、たくさん食べて元気出すんだよ!」
 風禰も琥珀の手伝いをしながら、他に救助を待っている天使がいないか聞き込み。
「逃げ遅れてる人はいないなの? カマふぃ達が助けに行くなの!」
「カマふぃ、きさカマ! さっき念話で助けて欲しいって連絡が入ったの!」
 天使の報告に、二人はいつもの決めポーズで応じる。
「了解なの! すぐに向かうなの!」
「カマキリ救助隊出動なんだよ!」
 南エリアでは王都から入った連絡に、旅人が安堵の色を浮かべていた。
「どうやら王宮内での作戦はすべて成功したようだよ。僕たちもあと少し、頑張ろう」
「救助の方もあと一息といったところだ。この調子でいけば、全員救出も見えてくるのではないか?」
 笹緒は残る未確認エリアを確認しつつ、隣に立つ天使達と頷き合う。
 彼らは救助の手伝いを申し出ていて、笹緒のシンパシーにも協力してくれていた。その結果、天使達の逃げたルートや敵の情報も手に入り、探索の効率化をよりアップさせたのだった。
 英斗と雫は崩れた家屋に閉じ込められている天使がいると聞き、現場へ向かっていた。
「大丈夫ですか? 助けに来ましたよー」
 英斗が壁の一部をこんこんと叩いて音を立てると、中からうめき声が聞こえてくる。慎重に瓦礫を取り除くと、怪我を負った女性が倒れていた。
「たす…けて……」
 意識が朦朧としている天使を、雫が励ましながら運び出す。
「すぐに安全な場所へ移しますから、あと少し頑張ってください」
 女性の怪我の状態はかなり酷く、いつショック状態に陥ってもおかしくなかった。すぐさま英斗がライトヒールで応急処置を施し、緊急搬送を行う。
 あと少し見つけるのが遅ければ、恐らく手遅れになっていただろう。彼らの迅速な行動によって、また一つの命が救われた瞬間だった。

「敵は私が引きつけますから、皆さんは先を急いでください!」
 あけびは残っていたサーバントを弓で引きつけながら、救助者を入口まで送り出していく。彼らの安全を確認したところで、応援に駆けつけたメンバーと一気に殲滅。
 その一方でロビンはうずくまったまま動こうとしない天使を、何とか連れ出そうとしていた。
「急がないと危ないよ」
「助けられたって、この先どうやって生きていけばいいんだ。もう天界は終わりだ……」
 絶望を滲ませるその瞳に、ロビンは問いかける。

「ねえ、あなたは生きたい?」

 問い返すような視線に、ロビンは今の素直な気持ちを伝える。
「あたしはね、依頼のためじゃなくて、シスが願ったからここに来たんだ」
 なんの意思も持たなかった自分が、初めて抱いた感情。
 誰かの願いを叶えたい。
 いつしかそれは望みへと変わり、彼と約束したことで意志へと変わった。
「あたしは誰かの願いを叶えるために戦うって決めた。だからシスが大切に思う人たちを助けたいし、生きたいって思う人たちに生きてもらいたいよ」
 彼女の瞳には今、はっきりと自分が歩もうとする道が映っている。
 それが正しいのかはわからない。でも選び続けることが、『生きる』ことだと気づいたから。

 東エリアの三人も、助けた天使から聞き出した情報を元に、捜索場所へ向かっていた。
 生命探知を行っていた一機は、比較的大きな建物内からいくつか反応があるのを察知する。
「ここに間違いないなさそうだね」
 見たところ、集会所のような場所らしかった。中に入った途端、悲鳴にも似た怒声が彼らの鼓膜を震わせる。
「お前達人間だな!? 王権派の手先か!俺達を殺しに来たのか!」
 いきなりの罵声に、焔は怖がらせないよう努めて穏やかな声を出す。
「落ち着いてください。念話で説明があったと思いますが、私達は皆さんを助けに来た者です」
「そ、そんなもの信じられるか」
「そうよ。大体、人間が天使を助ける理由がどこにあるっていうの?」
 どうやら彼らは自分達が人間を詐取する立場だと、理解しているのだろう。だからこそ、救いの手を指し述べられることに、恐怖を覚えているように見えた。
 真緋呂は天使たちと向き合うと、静かに口を開く。
「ええ。私達人間は長い間天魔に苦しめられてきましたし、私自身良い感情は持っていませんでした」
 それでもなおここへ来た理由を、彼女は黄金の羽を手に告げていく。
「皓獅子公ゴライアスさんが母と慕った大天使をご存知ですか? 私はルスさんから、願う未来へ行きなさい、生きなさい、という想いを受け取りました」
 彼女の魂は強く、そして美しかった。
 自分もそうありたい。人と共にと願ってくれた彼らと、未来を生きたいと願うようになったから。
 焔は予め預かった騎士団にまつわるものを示し、自分達が彼らの協力者として来たことを告げる。
「騎士団に協力した理由は、私達にとって今や共通の敵が王権派であること。共に歩みたいと思わせる徳の高さがオグン様にあったこと。そして…私自身、戦災孤児だからです」
 戦争における一番の被害者は、戦う力を持たない弱き者。己自身そのことを身をもって体験しているからこそ、彼らを見捨てるわけにはいかないのだと。
 二人の話を聞いて、天使達の表情が揺れているのが見て取れた。
 言葉は時に儚い。けれどひとの心を動かすのもまた、真実のこもったそれであることも事実で。
「もしまだ疑うなら、騎士団が僕たちに救助の依頼をしている動画もあるよ。見る?」
 一機が流した動画を、天使たちは食い入るように見つめていた。やがて互いに顔色を伺いつつも、一人がこちらに向き直り――ばつが悪そうに頭を下げた。
「疑ってすまなかった。……同朋から襲われたせいで、何もかもが信じられなくなっていたようだ」
「今まで信じていた相手から襲われたら、誰でもそうなるんじゃないかなぁ」
 気にしてないといった様子の一機に、相手はうなだれて。
「情けない話だが、もう俺達は何を信じたらいいのか……」
「まだ地球にいる天使も私達も、未来を諦めてはいません」
 焔の言葉に、真緋呂も頷いて。
「あなた達にも願う未来があるのなら。希望を捨てていないのなら……どうか、私達と一緒に生きてください」
 生きることを諦めないでほしい。
 彼女達の凜としたまなざしに、天使の瞳にも次第に力が戻って来るのがわかる。
「……ああそうだな。ミカエル様やオグン様は、やはり俺達の味方だった。だからお前達のことも、信じるよ」


 一方、施設班。
 裏口で待機していたフィオナは、別棟から増援に来た天使と対峙していた。
「さて、有象無象共。少々暇にも飽いていたところだ。……全力でいかせてもらうぞ」
 刹那、天使達の足元に高重力場が形成される。彼女が作り出す赤光の魔力球から無数の武器が投射され、対象に襲い掛かかっていく。
 同じ頃、資材保管庫へ向かっていたメンバーは無事到達を果たしていた。
 施設長にロックを解除してもらい、内部へと進入していく。念のために罠の有無を確認した文歌が、大丈夫そうだと頷いて。
「シスさん、リストを研究員の皆さんに見せてください。皆で手分けして探しましょう」
 撃退士達は研究員に材料の場所を教えてもらいながら、ひとつひとつ探しだしていく。
 搬出作業が行われる間、翠蓮は保管庫の出入口付近に陣取り、ドーマンセーマンを発動。
「これで敵は中に入れぬはず。今のうちに、運び出すのじゃ」
 生み出された五芒星が敵意がある者の侵入を阻む。その間自分が動けないため、ケセランを召喚して搬出のお手伝い。
 ミハイルは見つけ出した材料を研究員に手渡し、運搬協力を依頼する。
「すまんが、材料は持っていてくれないか。俺達は護衛に徹したいんだ」
「それは構いませんが…そんな大事なものを私達が持っていていいのでしょうか」
 不安げな天使に、快晴が微笑む。
「俺達の目的は、材料調達だけじゃないから、ね」
 捕われた研究員を、全て助け出すつもりで来た。彼らがそう告げると、研究員達の目には涙が滲む。
「ありがとうございます……このご恩は一生忘れません」
「そう言うにはまだ早いさ。ひとまずは、ここを無事に脱出してからだ」
 ミハイルの言葉に、天使達の表情も引き締まったものへと変わる。
「わかりました。施設については私達の方が詳しいので、お役に立てることもあると思います」
 その時、フィオナから通信が入った。
『客が来ているぞ。侵入口は塞いだゆえ、出るのには他を使え』
 聞けばどうやら他の棟にいた天使が、通報を受け向かってきているらしい。
「貴様は大丈夫なのか?」
 シスの問いかけにフィオナは当たり前だと言った様子で。
『侵入口は塞いだと言ったであろう。我が引きつけているうちに出たほうがよいぞ?』
「搬出…終わった…脱出…急いだ…方が…いい…」
 ベアトリーチェはスレイプニルに研究員を乗るだけ乗せると、脱出の態勢に入る。
 同じく保管庫前で防衛ラインを張っていた面々も、撤退の連絡を受け動き始めていた。
「裏を塞いだとなると、脱出は正面口からになるな」
 菫の言葉に、仁刀も頷きながらアウルを脚に込める。
「ああ。ここからはある程度の強行突破はやむを得ん。増援が来る前に行くぞ!」
 刹那、一気に跳躍した仁刀は、素早い動きで天使達を掻き乱していく。その間を縫うように拓海が刀を閃かせ、雫が生み出す無数の刃が次々に対象を切り裂いていった。
「今です!」
 彼らの合図で研究員を連れた面々が一斉に突破していく。
 天使達の道案内もあり、施設外への撤退は比較的スムーズに進んでいった。後は追っ手から逃げ切れるかが勝負だ。

「――うん。施設班成功したようだね」
 一機はそう呟くと、救出班に離脱を通達。これを機に、全エリアで一斉撤収が始まる。
 施設班脱出の報告を受け、西エリアのメンバーは撤退に向けた行動を開始していた。
「何とか間に合ってよかったわね」
 ナナシはそう言うと、最後に捜索し終えた家に×印を付けた。再度マップと周辺を見比べて、諏訪も頷いてみせる。
「ここが最後に間違いないですねー? 無事全員助けられたようでよかったですよー?」
「さて。では撤退といく、か」
 アスハは天使へのシンパシーで引き出した情報を元に、施設班の脱出ルートを割り出していた。
「施設が北西にある以上、このエリアを通るのが一番近いから、な」
「だね。恐らく追っ手も来るだろうから、うまく対応していこう」
 一臣達は陽動のために残ることにしたため、ナナシが救助した天使を連れてその場を離脱する。
「追っ手と鉢合わせするとやっかいね。急いで入口まで戻りましょう」
 天使を抱えた彼女は、持ち前の移動力で一気に駆け抜けていく。
「おおーさすがの速さですねー?」
 諏訪はナナシを見送ると、愛銃を手に施設班が到達するのを待つ。やがて北西から駆けてくる人影が見え、西エリアを通過し始めた。頃合いを見計らったアスハは、近くにある住居へ光雨を降らせた。
 突然の破壊音に追っ手は驚き、続く一臣と諏訪の牽制射撃が彼らの足を止める。
「くそっ…まだ他にも仲間がいたのか!」
「残念だがこの先に行けばさらにいる、ぞ。それでもやるつもり、か?」
 アスハの警告に、天使達は言葉に詰まる。一臣と諏訪もあえて落ち着いた調子で。
「互いのためにも、ここは手を引いてくれるとありがたいんだけどね」
「自分達は戦うために来たわけじゃありませんしねー?」
 天使達は迷っているようだったが、いまだ王都から応援が来る気配もない。このままでは分が悪いと判断したのだろう。やがて諦めた様子で去っていった。


●エピローグ

 三人が町の入口まで撤退すると、既に他班の面々が揃っているのが見えた。旅人が「お帰り。これで無事全員が揃ったね」と微笑んでから、結果について報告を始める。
「各エリアの情報をまとめると、町の要救助者は全員救出できたみたいだね。幸い手遅れになった人もいなかったようだよ」
 全員助けられた。
 その報告に、安堵と歓声が入り混じった声があがる。続いてシスが、施設班についての報告を行った。
「こちらも材料調達及び、研究員すべての救出に成功した」
 やはり激戦もあったのだろう。施設班の面々は怪我を負っている者も多かったが、戦闘不能者は出さずに済んでいた。
「この作戦、成功したのは、貴様らの協力のおかげだ。礼を言う」
 そう言って頭を下げるシスへ、ナナシと水無瀬 雫が声をかけた。
「礼なんていらないわ。私達は自分がやりたいと思うことをやっただけだもの」
「ええ。天使の皆さんを助けられてよかったです」
 晴れ晴れとした彼女達を見て、シスの頬が微かに震えた。
 張り詰めていたものが、ふいに緩んでしまったのだろう。言葉に詰まる彼の肩を、拓海が軽く叩く。
「今度来たときは、天界案内頼むぞ」
 それを聞いたミハイルと仁刀も頷いて。
「俺もぜひお願いしたいぜ。友人達も連れて来るからな」
「天界か……。見たいものをリストアップしておく必要があるな」
「待て貴様ら……観光する気満々だな?」
 ツッコむシスに、フィオナが当たり前のようにいいやる。
「いずれそうなる日が来てもおかしくなかろう? 少なくともここにいる輩はそう思っているだろうさ」

 一方、文歌と快晴は救出した研究員と話していた。
「なんとか無事に脱出できましたね」
「あなた方が庇ってくれたおかげです。本当になんとお礼を言ったらよいか……」
 傷だらけになっている二人を見て、天使は申し訳なさそうな表情を浮かべている。
「これが俺達の役目だし、ね。やりたくてやったんだから、気にしない、で」
「ええ。皆さんを助けられて、本当によかったです」
 その隣では、翠蓮とベアトリーチェが召喚獣について、質問攻めにあっている。
「その生物は何と言う種類なのですか」
「これはケセランじゃのう。ほれ、もふもふして可愛いじゃろう?」
「サーバントとは違う召喚生物…天界でもたまに見ますが、実に興味深い」
「ヒリュウも…スレイプニルも…仲良し…いい子…」
 天使と悪魔と人が言葉を交わし合うさまを見て、雫は改めて確信する。
「……やはり、時代は変わってきているのでしょうね」
 そう言えば天界なら、自分に懐いてくれる動物もたくさんいるかもしれない。
 召喚獣と戯れる天使達を見て、動物好きの彼女は小さな期待を抱いてみるのだった。

 帰る前に避難所に寄った面々は、助けた天使達と思い思いに挨拶を交わしていた。
「パンダちゃんが恋しくなったら、いつでも呼んでくれたまえ」
「いつか地球にも遊びに来てくださいね」
 笹緒と英斗の言葉に、少女は嬉しそうに頷いてみせる。
 風禰と琥珀の周りには、子供達がいっぱい。
「カマふぃ、きさカマ、また遊びに来てね!」
「もちろんなの! カマふぃ達のこと忘れないでなの!」
「また美味しいお菓子たくさん持ってくるんだよ!」
 二人の言葉に天使の子供達は大喜び。カマキリ天界デビューも、無事果たせたようだ。

「無事終わったらお腹が空きましたね、一機くん」
 真緋呂の素直な言葉に、天使はどこかおかしそうに。
「俺達は食事を取る習慣があまりないからな。地球の食べ物は美味いんだろう?」
 聞いた一機はそうだなぁと頷いて。
「真緋呂が毎回食べ尽くす程度には、美味しいはずだよ」
「あんたそんなに食うのか……(」
 驚く天使の前で、焔はにこにこしながら頷いた。
「食べることは、生きることだからね〜。美味しいものは世界を救うんだよ〜」

 あけびはあの老天使に、持ってきたカツサンドを手渡していた。
「これ美味しいですよ! 皆さんで召し上がってみてください」
「やれやれ。最後までお節介な娘だ」
 天使は軽くため息をつくと、預かっていた刀を手渡す。
「おぬしの武人魂、しかと見させてもらった」
「はい! 今度来るときはもっと成長した姿をお見せしますね」
 笑顔で受け取るあけびを見て、老天使は口元に僅かな笑みを浮かべてみせる。
「ならばそれまでは死ねんな」
 諏訪とアスハは助けた少年が、研究員の親と再会を果たすのを見届けていた。
「無事会えたようで何よりですねー?」
「ああ。運が良かった、な」
 少年の流す涙が冷たいものでなかった幸運を、そっと祝福する。
 その隣では、一臣と旅人が互いの労をねぎらっていた。
「お疲れさん。毎回のことながら無事終わるとほっとするねえ」
「本当にね。王宮班のみんなも撤退完了したみたいだよ」
「そっか。あいつらも無事なら何よりだ」
 そして共にやってきた同志達を見渡すと、いつもように告げる。

「さあ、僕らも帰ろうか」


 別れ際。
 白秋が天使達を見渡してから口を開いた。
「――此処にいる奴は、戦いの辛さを誰よりも分かっているだろう。それは人間も同じだ」
 だから、と彼は真摯なまなざしで告げる。

「俺達は久遠ヶ原学園。誰を殺すためじゃなく、何かを征服するためでもない! ――戦いを終わらせるために来た者達だ」

 そのことを、忘れないでほしい。
 彼の言葉を、天使達はじっと聞き入っていた。
 菫は槍で指先を傷つけると、血と共に槍まで覆う炎を生み出す。天使と撃退士、そしてシスを振り向いて宣言した。

「シス、改めて此処に誓うぞ!」

 此処に無限に閃く焔があるということを。
 此処に自分達がいるということを。

「私達はお前達と共に、信へと至る灯を繋ぎ、未来を照らし続ける。この血、この焔が誓いの印だ!」

 いつのまにか大人になっていた自分が、見つけた答え。
 それはきっと正しく、ここにいる騎士や多くの者とも同じはずだから。
 シスは改めて頷くと、己の武器をその手に握りしめた。

「……あの時、蒼閃霆公が騎士の魂を人間に託した理由が、俺には分からなかった」

 でも今ならわかる。
 あの時、大天使には見えていたのだ。いずれ天と人とが誓いを交わす未来を。
 自分達が命を懸けて託した世界が、光に溢れているということを。

 シスは全員を見渡すと、菫と同じように指先を傷つけてから手にした武器を示してみせた。
「――俺様も此処に改めて誓おう」
 掲げたクリスタルが、光を受けて輝きを放つ。

「人と天の新しい時代を、俺は貴様らと必ず創ってみせる。騎士の誇りと魂に懸けてだ!」

 自分たちは生きて、この世界を導いていく。
 誰のためでもなく、未来を信じた己自身のために。

 誓いを見届けたロビンが、瞳をぱちくりと瞬かせた。
「シス、凄いね。騎士みたいだったよ」
「いや、騎士だからな?」






 そして。
 地球側のゲートへと戻った撃退士達は、四国の地へと降り立った。
 既に帰還していた他班のメンバーと健闘を称え合う中、旅人はこの地で起きた出来事を、改めて思い出していた。

(始まりはいつからだったろう)

 あまりにも多くのことがあり過ぎて、どれが最初だったかもう思い出せないほどで。
 でもきっと、そんなことは大して重要ではないのだとも思う。
 この地で仲間と流した涙や交わした想いは、今もそのひとつひとつが彼の胸を強く染めつけて、色あせることがないのだから。

 人は面白いと、悪魔は言った。
 人は強いと、天使は言った。
 彼らと人があまたの『可能性』を生み出す瞬間に、旅人は幾度となく立ち会ってきた。

 最初は大河に落とされた小さな雫。
 けれどその一滴はやがて大きな流れを生み、この世界を動かしていった。
 今までも、そしてこれからも、多くの者達の手によって新しい時代は創り出されていく。
 それをひとは、歴史と呼ぶのだろう。

(ありがとう、というにはまだ早いのかもしれないけれど)

 この地から始まり、多くの者達が願い繋いできた未来を自分達は今、歩き始めている。
 巡りゆく命。
 見えてきた四国山脈の稜線に、旅人はゆっくりと瞳を細めた。


 今日もここは、綺麗だ。

 
【四国】完






依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 創世の炎・大炊御門 菫(ja0436)
 二月といえば海・櫟 諏訪(ja1215)
 思い繋ぎし翠光の焔・星杜 焔(ja5378)
 Eternal Wing・ミハイル・エッカート(jb0544)
 来し方抱き、行く末見つめ・小田切 翠蓮(jb2728)
 あなたへの絆・蓮城 真緋呂(jb6120)
 あなたへの絆・米田 一機(jb7387)
 天と繋いだ信の証・水無瀬 雫(jb9544)
 明ける陽の花・不知火あけび(jc1857)
重体: −
面白かった!:12人

創世の炎・
大炊御門 菫(ja0436)

卒業 女 ディバインナイト
パンダヶ原学園長・
下妻笹緒(ja0544)

卒業 男 ダアト
二月といえば海・
櫟 諏訪(ja1215)

大学部5年4組 男 インフィルトレイター
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
撃退士・
久遠 仁刀(ja2464)

卒業 男 ルインズブレイド
『天』盟約の王・
フィオナ・ボールドウィン(ja2611)

大学部6年1組 女 ディバインナイト
ブレイブハート・
若杉 英斗(ja4230)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
思い繋ぎし翠光の焔・
星杜 焔(ja5378)

卒業 男 ディバインナイト
JOKER of JOKER・
加倉 一臣(ja5823)

卒業 男 インフィルトレイター
時代を動かす男・
赤坂白秋(ja7030)

大学部9年146組 男 インフィルトレイター
蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
紡ぎゆく奏の絆 ・
水無瀬 快晴(jb0745)

卒業 男 ナイトウォーカー
籠の扉のその先へ・
Robin redbreast(jb2203)

大学部1年3組 女 ナイトウォーカー
種子島・伝説のカマ(白)・
香奈沢 風禰(jb2286)

卒業 女 陰陽師
来し方抱き、行く末見つめ・
小田切 翠蓮(jb2728)

大学部6年4組 男 陰陽師
誓いを胸に・
ナナシ(jb3008)

卒業 女 鬼道忍軍
種子島・伝説のカマ(緑)・
私市 琥珀(jb5268)

卒業 男 アストラルヴァンガード
あなたへの絆・
蓮城 真緋呂(jb6120)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
シスのソウルメイト(仮)・
黒羽 拓海(jb7256)

大学部3年217組 男 阿修羅
あなたへの絆・
米田 一機(jb7387)

大学部3年5組 男 アストラルヴァンガード
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師
揺籃少女・
ベアトリーチェ・ヴォルピ(jb9382)

高等部1年1組 女 バハムートテイマー
天と繋いだ信の証・
水無瀬 雫(jb9544)

卒業 女 ディバインナイト
明ける陽の花・
不知火あけび(jc1857)

大学部1年1組 女 鬼道忍軍