.


マスター:久生夕貴
シナリオ形態:ショート
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/06/26


みんなの思い出



オープニング



 識らないほうが、いいのに



●茨城県つくばゲート上空

 停留中の空挺・エンハンブレ内で、再び甲高い声が響き渡った。
「はぁ? あんたなに言ってんの?」
 声の主は乗組員のジェルドリュード(jz0379)。その隣には珍しく険しい表情をしたアルファール(jz0383)の姿もある。
「ダメだよ、カーラ。来るな」
 きっぱりと言い切られ、カーラはやや不満げに視線を落とす。
 近々行われる埼玉での作戦に、自分も参加すると言い出したのがきっかけだった。
「あんたが無茶したせいで、周りがどんだけ迷惑してるかわかってんの?」
 先日の戦いで瀕死の重傷を負ったカーラは、いまだに回復していない状態だった。現在もまともに戦えない彼に代わって、リロを始めとした他の乗組員が宇都宮−小山ラインを護っているのだが。
「あれだけ死にかけといて、前線に出るとか絶対許さないわよ」
「えー。でも」
「ジュエル姐様の言う通りだよ。君はディアボロをあのヴァニタスに貸すだけにしてくれ。後は僕がやるから」
 有無を言わさぬアルファールの様子に、ジェルドリュードはやや意外そうに。
「……あんたがそんな風に言うなんて珍しいわね」
 つまりそれだけ、先日のカーラが酷い有様だったのだが。
 二人の剣幕にこれは無理だと悟ったのだろう。カーラは諦めたように「わかった」とだけ告げる。
 その胸の内は、敢えて見せないけれど。


 ※


「うーん。どうしようかな」
 アルファールたちにきつく言い聞かせられ、カーラは仕方なく船内待機していた。
(タイマーを使わずに”あれ”を爆発させるには、俺が近くにいないとダメなんだよね)
 現状、恐らく200mが限界だろう。そのことを二人に言わなかったのは、何となく黙っておいたほうが良い気がしたから。
 今からでも告げるべきか。そう思案するところへ、自身を呼び止める声が届く。
「兄さん、兄さん」
 声がした方を振り向くと、黒の装甲に覆われた腕が手招きしている。
「ロウワン何やってんの」
 現れたのは、見た目17,8歳程度の青年悪魔・ロウワン。周囲をちらちら見やった彼は、声をひそめるとしたり顔で言った。
「俺、カーラの兄さんの気持ちわかるっす。一人で留守番って、超寂しいっすよね!」
 そう言ってロウワンは一瞬どこかへ消えると、何かをひきずってきた。
「要は兄さんが怪我しなければいいんすよ。これ、戦利品庫からかっぱらってきたんすけど、役に立つと思うんす」
「え。何これ」
「防護スーツの実験作らしいっす。これ優れモンなんすよ、なんか奴らの冥魔見つけるスキル?みたいなのもスルーできるとか何とか」
 ざっくり過ぎる説明をしてから、ロウワンは得意げな笑みを浮かべる。
「多分めちゃめちゃ防護してくれるんで、襲われても余裕で逃げられるっすよ。見た目がちょっとアレっすけどね!」
「……なんか不確定要素多くない?」
 とはいえ、背に腹は代えられないのも事実で。
 そう判断したカーラにロウワンは満足げに頷くと、念を押すように告げた。
「あ、くれぐれも無茶は禁物っすよ。俺がジュエルっちに殺されるっすからね!」


●数日後・埼玉県某駅

 その日も、いつもと変わりない一日が始まるはずだった。
 かつて、つくばと秋葉原を結んでいた路線は終着駅がゲートに飲み込まれても途中駅で折り返して運転を続けている。
 平日の八時前、通勤ラッシュがピークに達する駅。列車の扉が開くと降車する客と入れ違いにその何倍もの客が乗り込んでいく。
 客車のドアが閉まる。発車のメロディが響く。揺れに備えて立っている乗客たちが身構える。
 ……が、何も起こらない。動き出さない電車に乗客たちがざわめきだす。

『あーあー、テステス。皆さん、聞こえてますか?』
 車内放送から場違いな明るい声が響く。
『突然ですが、この電車は俺が乗っ取りました。秋葉原行き普通列車、ただいまよりつくばゲート行き特急となりますので勝手ながらご了承ください』

 乗客たちのざわめきが大きくなる。車内放送の向こうで男が嗤った。
『言っただけじゃーみんな信じないだろうけど。これから俺、運転手さん連れて一番後ろの車両に移動するから、ホームで証拠見せるねー。なお、この様子は動画サイトで中継してます』

 そして、ホームに彼は現れた。
 顔面蒼白の運転手を引き連れて、スマホで自撮りをしながら歩いていく赤い髪の若い男。
 ヴァニタス・葉守庸市(jz0380)がヘッドセットのマイクに何事か囁きかけた時、惨劇は起きた。
 ホームに響く爆発音。
 倒れた人、崩れた瓦礫。
 血と肉片がまき散らされた地獄絵を見せつけられ、駅は一気にパニックになった。


●久遠ヶ原

 冥魔による列車ハイジャックの一報は、久遠ヶ原にも瞬く間に広がっていた。
 集まった斡旋所職員の前では、SNSに投稿された現場映像が次々に流されている。
「すみません! 今のシーンもう一度お願い出来ますか」
 画面を凝視していた西橋旅人(jz0129)は、巻き戻した映像を見て確信めいた表情になる。
「あの頬の刺青……間違い無い」
 映っていたのは、頬に小さな刺青のある男の姿。
 二ヶ月ほど前の新幹線襲撃事件で対峙したディアボロだった。
「頬の数字がカウントになっていて、あれが0になると自動的に爆発するんです」
 しかも、とここで旅人は険しい色を浮かべ。
「このディアボロを使役する悪魔に心当たりがあります。……恐らく、今回の事件は複数の冥魔が関与しているのではないかと」
「もしかして……ケッツァーですか?」
 坂森 真夜 (jz0365)が発した言葉に、スタッフの表情が一層深刻さを増した時だった。

「報告! 埼玉・大宮駅と栃木・宇都宮駅で悪魔の襲来を確認!」

「な……」
 次々に舞い込む凶報に愕然となる者、やはりという表情になる者。
 騒然となる斡旋所内で、その言葉が告げられる。

「一刻の猶予もない。今すぐ生徒を集めろ!」


●埼玉県

 十数分後、緊急招集されたメンバーは電車に揺られていた。
「あれがハイジャックされた車両だよ」
 旅人が示した先、隣の線路で全く同じ型の車両が並走しているのが見える。事件発生後、すぐに別の電車を借りて追いかけたのだ。
「時間が無いから手短に説明するね。僕らに与えられた任務は、各車両にいると思われる天魔を発見・処理すること」
 説明によれば、最初に葉守対応班が6号車に突入し、続いてこちらの班も行動開始。
 各車両の扉は、撃退士の力なら容易に開くだろうと彼は言う。
「電車内はかなり混雑しているみたいだね。もし天魔を発見しても、車両内で戦うのはまず無理だと思ってほしい」
「でも…そのまま放置しておけば、いつ爆発するかわからないんですよね?」
「その通り。僕らには綿密な作戦及び行動が求められるはずだよ」
 その時、オペレーター室から状況報告が入った。乗客がSNSに上げた情報から各車両の状況が見えてきたらしい。

>各車両の現在

 1号車:比較的落ち着いている
 2号車:比較的落ち着いている
 3号車:ややパニック気味。コアラの着ぐるみが座っている
 4号車:パニック気味。すし詰め状態。
 5号車:パニック気味。4号車に移動する客も
 6号車:葉守が一人で待機

 通信を終えた旅人は、改めて生徒達を見渡した。
「この事件には複数の冥魔が絡んでいる以上、葉守庸一を撃退したとしても爆破の可能性は否定できない」
 何が最善で、何が最適解か。

「難しい選択を迫られているけど、頑張ろう」



リプレイ本文




 君は、何もわかっていない





「まったく……通勤時間帯の電車を丸ごと拉致とはやってくれる」
 隣を並走する列車を見やりながら、黒羽 拓海(jb7256)はそう独りごちた。
 ここから中の様子をはっきり知ることはできないが、乗客たちのSNSで発信する情報が現在進行形で届いている。彼らの恐怖と焦りは、想像に容易い。
「乗客すし詰めの状態の中、天魔を発見して処理せよとは……。これまた難儀な任務よのう」
 小田切 翠蓮(jb2728)がゆるりと笑む隣で、龍崎海(ja0565)も苦笑する。
「撃退士を見かけたら自爆しろとか命令されていたら、その時点で詰んでいたねぇ」
 こんな状況下で一人の犠牲も出さずに終えることができるのだろうか。
「まあ逆に考えれば、1000人のうちどれだけ蘇生できるのかって認識で動けばいいわけだ」
 本音を言えば誰一人として犠牲者を出したくはない。けれど、万が一のときに心を折らないためにも、海は常に最悪の事態を覚悟して挑むようにしている。
「そう言えば旅人さん、例のディアボロがいたというのは本当ですか」
 拓海の問いかけに、西橋旅人(jz0129)ははっきりと頷いてみせた。
「映像で見ただけだけど、間違い無いと思う」
「あの悪魔もどこかにいるのか、ディアボロだけ出して高みの見物か……」
 いずれにせよ、一枚噛んでいるのは間違い無いだろう。
「にしてもさあ。あれだけの大怪我で、随分と回復早いんじゃね?」
 月居 愁也(ja6837)の言葉に、夜来野 遥久(ja6843)も同意を示した。
「悪魔だからと言えなくもないでしょうが……。私にもそう簡単に癒えるような傷には見えませんでした」
「死んでもおかしくないくらいでしたからねー…」
 あの時のカーラを思い出し、櫟 諏訪(ja1215)はほんの少し視線を落とす。いくら敵とはいえ、あんな状態は見るに耐えなかった。
「まあいずれにせよ、事態を収めれば自ずと見えてくるであろうよ」
 フィオナ・ボールドウィン(ja2611)はどこか愉快そうに窓外を見やった。
 あの悪魔がいるなら、言ってやりたいこともある。もちろん、大人しくしていればの話だが。
「あ、ヴァニタス班が動き出したみたい」
 Robin redbreast(jb2203)が示す先、8人の撃退士が6号車の扉をこじ開けて侵入していくのが見えた。
「じゃあ、そろそろ僕らも行こう」
 旅人の言葉に、全員の表情がすっと引き締まる。
「1000人近い人の命が、僕らにかかっている。心してかかろう」

 ミッション、開始だ。



 メンバーが立てた作戦は次の通り。
 二班に分かれ、1号車と5号車へ同時突入。各号車にいると思われるディアボロ発見・処理しながら、3号車で合流をする予定となっている。
 ロビンが5号車の扉を開いた瞬間、大勢の視線が一瞬でこちらを向くのがわかった。
「撃退士です、救援に来ました」
 できるだけ落ち着いた声でそう告げると、あちこちで歓声が上がる。
「隣に犯人がいるんです!」
「爆発物がどこかにあるかもしれない!」
 我先にと詰め寄る乗客たちへ、愁也と諏訪が笑顔で声をかける。
「はい、ちゃんと助けるからまず深呼吸!」
「皆さん、まずは落ち着いてくださいなー?」
 肩を叩いてなだめつつ、彼らは素早く車内の状況を確認する。事前の情報通り車内はかなり混雑し、移動すら不自由そうだ。
(逃げ場がなければ、パニックにもなりますよねー…)
 泣きわめく者、うずくまる者、呆然と立ち尽くす者。
 しかもすぐ隣の車両には、この事件を起こした葉守庸一がいるのだ。この車両内の混乱は最も強いといっていい。
 4号車側から突入した海は、飛行で天井付近を移動しながらやはりと言った様子で。
(とにかくこの混乱を沈めなくちゃ、敵を探すどころの話じゃなさそうだ)
 今爆発型の敵が紛れ込んでいると告げようものなら、更なるパニックを引き起こすに違いない。
 海は詰め寄る乗客たちへ向け、マインドケアを展開させる。不安に満ちた表情が癒しのアウルに包まれた途端、みるみるうちに落ち着きを取り戻した。
「龍崎君、ありがとう」
 旅人が大人しくなった乗客を誘導し、出入口付近から離す。6号車側へ移動していた愁也は、さりげなく扉を背にする。
 葉守の様子が見えないようにするのが狙いだ。
(あっちも気になるけど……)
 隣の車両には信頼できる仲間がいる。だから今は、信じて己のやるべきことに徹するのみ。
 ロビンは反対側の出入口付近でうずくまっている老女に声をかけた。
「大丈夫? 具合わるいの?」
 しわしわの手を握ると、微かに握り返してくるのがわかった。ロビンは友好関係を高めるスキルを使用し、少しでも安心させる。
「暑いからこれ飲むといいよ」
「ありがとう、迷惑かけてごめんねえ……」
 老婆は水を受け取ると、何度も何度も頭を下げる。
(どうしてこの人、謝るのかな)
 ロビンにとっては、任務として当たり前にやったことだった。この人が頭を下げる必要など、何一つないはずなのに。
 彼女達がいる場所から更に奥、泣きじゃくる女子高生たちに海が再びマインドケアを使用する。
「よし、だいぶ落ち着いてきたんじゃないかな」
 首尾良く対応したのが功を奏し、車内は想定以上の早さで落ち着きを取り戻していた。
 海の合図で諏訪が集中力を高めると、頭頂部のあほ毛がレーダーのように動き出す。
(頬に刺青がある人を探しますよー?)


 同じ頃、1号車でも対応が始まっていた。
 突入してきた撃退士に乗客の表情が一瞬強ばったが、すかさず翠蓮が告げる。
「儂等は皆の衆を救助しに遣って来た、久遠ヶ原の者。皆の衆は儂等の指示に従い、落ち着いて行動するのじゃ」
 真っ先に身分を示したことで、乗客達の顔はほっとしたものに変わっていく。事前情報通り、こちらは5号車と比べ比較的冷静なようだ。
 遥久はゆっくりとした口調で切り出す。
「これから私達の言うことをよく聞いてください。この電車内に一般人を装った天魔が紛れ込んでいます」
 その瞬間、乗客達の間に動揺の色が広がっていくのがわかる。
「ですが心配は要りません。判別する手段を我々は持っていますので、皆様にも協力していただきたいのです」
「案ずるな。落ち着いて指示に従えばすぐに済む」
 続くフィオナも泰然とした調子で告げる。彼らの落ち着き払った対応に、車内の動揺は最小限に抑えられたようだ。
 指示を待つ乗客に、フィオナと遥久はわかりやすく、はっきりとした口調で伝える。
「貴様らの近くに『頬に数字の刺青』がある者がいれば、すぐに報せよ」
「もし発見しても決して触れずに、できるだけ離れるようにしてください」
 車内は静まりかえり、乗客たちの視線があちこちに動き出す。その間、拓海は不審な動きをする者や、具合の悪そうな者がいないかを確認していた。
(あれは……)
 目に入ったのは、幼い子供の姿。
 事情はわからぬとも、ただならぬ状況を感じているのだろう。母親のそばで怯えているのがわかる。
「大丈夫か?」
 拓海はできるだけ優しく声をかけ、子供に目線を合わせる。
「ちゃんと家に帰れるから、心配するな。これでも食べてもう少し我慢してくれ」
 差し出したドロップを、子供は恐る恐る受け取る。その頭を拓海がぽんとやった時、前方から声が上がった。
「刺青ある人見つけました!」
 OL風の若い女性が、震えながら指さす先。スーツを着た男の右頬に、小さく「13」という数字が刻まれているのが見える。
 ひいっという声と共に、男の周囲から一斉に人がはけた。微動だにしない男へ遥久が異界認識を行う。
「間違い無いですね」
「――ほほう。やはりこの間と同じディアボロか。…と、なると…」
 翠蓮の言葉に遥久は頷く。
「あの悪魔が列車内にいる可能性は高そうです」
「もの凄く面倒くさいのう(」

「皆、できるだけ離れよ。焦らず、落ち着いてな」
 フィオナたちの指示で、乗客達は男と反対側の位置へ移動していく。周囲にはそれなりの空間ができたが、時折車内が揺れることもあり、乗客が将棋倒しになる可能性も否定できない。
「やはり車内で戦闘するのは難しそうですね。このまま放り出しましょう」
 拓海の言葉と同時に、遥久が男から一番近い窓を叩き割る。
「此処から外へ出します、皆様少しだけ我慢を」
「では、いくぞい」
 翠蓮は小回りの利く扇型の魔具を手にし、男へ狙いを定める。
 乗客を巻き込まぬよう細心の注意とタイミングを見計らい、砂塵を生み出す。
(先日と同じであるならば、抵抗力はさほど高く無いはずじゃて)
 目論見通り、男の身体がみるみるうちに石化していく。次の瞬間、拓海が叩き込んだ拳が男の身体を大きく吹っ飛ばした。
「成功ですね」
 一瞬の出来事に、乗客はあっけに取られているようだった。
 車外へ放り出された男は、そのまま地面へと打ちつけられていく。しばらくは石化状態となるため、戦闘状態になったとしても後方車両へ被害がいくことはないだろう。
 その間に2号車へと移動していたフィオナは、乗客への対応にあたっていた。
「い、今の音はなんだ?」
「この中に天魔が紛れ込んでいるって聞いたんですけど、本当なんですか?」
 1号車での騒ぎを聞きつけ、2号車では動揺が広がりつつあった。しかしフィオナは慌てる様子も無く、毅然と告げる。
「既に1号車は安全が確保された。次はこの車両を処理するゆえ、我の指示に従え」
 対応の早さが功を奏し、2号車の混乱は広がりを見せずに沈静化する。
 この調子でいけば、スムーズに対応が進むだろう。


 一方、5号車でも動きがあった。
 諏訪のアホ毛レーダーがぴこぴこと反応を示す。意識を集中させていたブルーアイが、小さな『刻印』を捉えた。
(刺青のある人を発見しましたよー!)
 彼の指し示す先では、虚ろな表情をしたOL風の女が立っている。すかさず海が異界認識を展開させた。
(間違い無いよ)
 彼の合図で、メンバーは行動を開始する。
「この中だいぶ暑くない? 少し風通すから場所空けてね」
 愁也は周囲に声をかけながら、少しずつ乗客を誘導する。
 パニックを避けるために、ディアボロがいるとは決して告げない。さりげなく敵から乗客を引き離すのが、後方車両班の作戦だ。
「この人具合が悪そうなので、少し離れてもらえますかー?」
 諏訪も周囲の人をそれとなく移動させながら、刺青のある女の動きに注視する。今のところこちらの呼びかけに反応する様子もない。
 オペレーターと通信していたロビンが、皆へ告げる。
「この先高架下は、田園地帯が続くみたい。急カーブとかもないみたいだから、大丈夫そうだよ」
 1号車と違い、こちらの乗客は今から何が起きるのかを知らない。
 不意に車両が大きく揺れ、身構えていない身体がプーラーの方へなだれ込む可能性もあると、彼女は考えたのだ。
(それに周りが田園地帯なら、もしプーラーが高架下に落ちても被害を抑えられるよね)

 ――いける。
 五人は互いに頷き合う。
 幸い女は扉近くに立っていたため、窓を割る必要はなさそうだった。扉側に愁也が立ち、諏訪と旅人がそれとなく乗客が近づかないよう抑える。
 女の側に移動した海とロビンは、まずは安全確保の指示を出す。
「今からそこの扉を一瞬だけ開けます。危ないんで、近くの人はできるだけ離れてもらえますか」
「風圧で飛ばされるかもしれないから、できるだけ身を守ってね」
 目立たないように攻撃の構えを取ると、目で合図。
「じゃあ、いくよ」
 次の瞬間、生み出された砂塵が一瞬にしてプーラーを石化させる。続いて愁也が扉をこじ開け、海の掌底が女の身体を車外へ吹き飛ばした。
「きゃあ!!」
「今の何!? 人が外に放り出されたんだけど!」
 瞬く間に車内は騒然となるが、ここですかさず愁也が声を張り上げる。
「はいみんな落ち着いて! 今外に出したのは、人間のフリをした天魔だから!」
 事態の説明が始まる中、諏訪は4号車へパニックが伝染しないよう、さりげなく車両出入口前に移動する。
「こっちはこれ以上人が入れませんよー? 大丈夫ですので落ち着いてくださいねー?」
 隣は既にすし詰め状態と聞いているため、これ以上人が移動するのも防ぐためもあった。
「この車両にいた天魔は排除しましたから、もう安全ですよー? 皆さんその場でもう少し待機していてくださいねー?」

 
 同じ頃、先頭車両班は予定通り2号車の対応を終わらせ、3号車へと移動していた。
 彼らの視界に真っ先に入ってきたのは、車両中央部に居座る目立ちすぎる物体。
「……どう見てもコアラだな」
 フィオナの視線先、ロングシートの真ん中にコアラの着ぐるみが座っている。やたら堂々とした姿に、翠蓮がひと言。
「ほう、ちんどん屋とは今時珍しいのう(」
「明らかに怪しいですね……」
 拓海の言葉通り、緊迫した車内でそのコアラっぷりは完全に浮きまくっていた。遥久は試しに異界認識を行ってみるが、反応はない。
「……とりあえず無視しましょう」
 その正体に心当たりがあり過ぎたが、ひとまず放置。翠蓮は横目でコアラを見やりつつ。
(恐らくはカーラじゃが、敢えて無視じゃ。先の戦闘での傷も癒えておらぬ筈)
 下手に刺激して暴れられでもすれば、被害の大きさは計り知れない。
 彼らはコアラに警戒しつつも、まずは安全確保された前車両に乗客の一部を移動させる。これは車内空間を確保するのと同時に、後に4号車の乗客を受け入れるためもあった。
「2号車に近い方は、押さずにゆっくり移動をお願いします」
 遥久の指示で乗客は移動を始める。翠蓮はケセランを召喚すると、怯えた様子の子供に抱かせてやった。
「ほれ、もふもふしてかわいいじゃろう?」
 比較的落ち着いているとは言え、乗客達の顔には疲労の色が濃くなってきている。
(これだけ緊張状態が続けば、無理も無い)
 拓海や遥久も水を配ったり声をかけたりしながら、少しでも場の空気を和らげる。
 その間、フィオナは監視の意味も込めてコアラをガン見。すると突然、コアラが腰を上げた。

 撃退士の間に緊張が走る。

(奴め、邪魔するつもりか?)
 拓海は一瞬身構えるが、相手は立ち上がろうとしたところで急に動作が止まる。そのまましばらく警戒していたが、一向に動き出す気配がない。
「……もしかして、頭がつかえておるのではないかのう」
 翠蓮の言う通り、見れば大きな頭部が金属バーに引っかかっている。遥久は軽くため息をつき。
「……とりあえず無視しましょう(二回目)」
 その後予定通りプーラーを発見し、車外に出す流れとなった。すると再びコアラが立ち上がり、今度は上手くバーを避けると歩き始める。
 再び撃退士達は身構えるが、相手は何をするでもなくただ車両内をうろついている。無視して作業を進めようとするも、うろつくコアラがやたら視界に入りまくる。

 うざい。

 仕方なくフィオナが言いやる。
「斬られたくなければ、大人しくしておけ」
「……あれ。もしかしてバレてる?」
 中から発せられた声は、あの悪魔のものだった。拓海も警戒しつつ。
「何を考えているか知らんが、どうせこの間の傷が癒えていないだろう。大体、その格好はどうしたんだ?」
「おっかしいなー。ロウワンはこれ着てたらバレないって言ってたんだけど。……ま、試作品だし仕方ないか」
 違う、そうじゃない。

 その時、遥久の元に愁也からの通信が入った。
『そっちの様子はどう?』
「乗客対応の方は問題ない。ただ、コアラがな」
『ああ、コアラが』
 その一言で愁也は全て察した。
『仕方ねえな。とりあえず、こっちは4号車の対応に入るから』
 当初は3、5号車の扉を同時に開けて、4号車の客を両車両へ移動させる予定だった。
 しかしコアラが動き出したことで、こちらのプーラー対応に時間がかかっている。そのため、4号車対応は後方車両班のみで行うことになった。
 その5号車では、早速4号車客の受け入れを開始していた。
「はい、押さない、駆けない、慌てない!」
 愁也の指示で二名ずつ移動させ、一気に雪崩れ込むのを防ぐ。再びあほ毛レーダーで索敵していた諏訪は、彼らの様子を見て気づいた。
「敵が乗客に紛れ込んでいることが、たいぶバレてるみたいですねー…」
 そう言えば、突入前も車内の様子はSNSでリアルタイムに報告されていた。4号車の客にまで隠し通すことは難しかったのだろう。
「なら、尚更早く終わらせた方がいいね」
 疑心暗鬼に陥る乗客を、海は再びマインドケアで落ち着かせていく。
(パニックになった集団ほど、やっかいなものはないからな)
 特に子供や老人は群衆の犠牲になりやすい。何かあったときにすぐ動けるよう、海は殊更気にかけていた。
 ロビンは気分の悪そうな人に水を渡しながら、それとなく尋ねて回る。
「ほっぺに刺青ある人はいるかな〜? それと具合が悪い人がいたら教えてね」
 電車がハイジャックされてから、既に20分以上が経過している。彼らの緊張と不安が限界に達していてもおかしくはなく、不調を訴える者も多い。

 その時、6号車から怒声と衝突音が響いた。

 恐らく撃退士と交戦中の葉守だろう。その振動と音は落ち着き始めた5号車内を、再びパニックに陥らせるには十分で。
「て、天魔が暴れてるぞ」
「いやああここから出して!!」
 パニックになる乗客を、メンバーは急いで収めにかかる。
「大丈夫。あっちには俺らの仲間がいるから!」
「皆、全力で戦ってますから、安心してくださいなー!」
 しかし一度火が点いた車両内は、瞬く間に混乱が伝染していく。
 人波に押される子供を海がとっさに庇い、ロビンと旅人が将棋倒しを防ごうと盾になる。これ以上の混乱はまずいとなったところで、声が響いた。

「いいから落ち着けって!!」

 がん、と壁を殴る音に辺りはしんと静まりかえった。
「俺は仲間を信じてる。絶対に負けたりなんかしねえ」
 気迫のこもった愁也の様子に、周囲は気圧されているようだった。
「今ここでパニックになったら、それこそ敵の思うつぼだよ」
 ロビンの言葉に、騒いでいた乗客は気まずそうに視線を落とす。海と諏訪は静かに、けれどはっきりとした口調で彼らに告げる。

「俺達は必ず全員救います。少なくともそういう覚悟でここに来た」
「だから、自分たちを信じてもう少しだけ耐えてくださいなー?」

 ぎりぎりの極限状態だからこそ、真摯であれ。
 撃退士を見つめる乗客の表情には、落ち着きが戻っていた。


 一方、3号車では無事プーラーの処理を終え、コアラの牽制を続けていた。
「……ああ、この間の問いの答えだが」
 フィオナの言葉に、コアラは小首を傾げる。
「何?」
「貴様にはなんの感情も抱いておらん。評価できるのは執着の強さだけのような者ではな」
「……ふーん。あ、でもそこは評価してるんだ」
 若干嬉しげな相手を、翡翠のような瞳がにらみ据える。
「だからと言って、ただ怒らせるためにこの場でディアボロを爆破などという愚考に走るのなら、賊として処断するのみだ。それこそ何の感情も無くな」
「あー。それはないかな」
 そう言ってから、コアラはちらりと後方車両を見やる。
「あのヴァニタスからの通信、さっきから途絶えててさー。”俺が”やることはないと思うよ」
 聞いた拓海が怪訝な表情を浮かべる。
「どういう意味だ? お前がこのディアボロを操っているんじゃないのか」
「そうだけど、うーん説明すんの面倒くさい。ま、俺この作戦の成否なんてどうでもいいんだよね」
 怪訝な表情を浮かべる撃退士へ向け、声は告げる。
「たぶんあのヴァニタスも一緒だと思うよ?」
「――ならば何ゆえ、おんしはここへ来たのじゃ」
 翠蓮の問いかけに、コアラは一瞬沈黙してから。
「んー。なんとなく?」
 自分の代わりに珍しくやる気になっている友人が、面白かったのもあるけれど。
「ほほう。まともに戦えぬのにここへ来た理由としては、いささか足りぬと思うがのう?」
「え。そうなの?」
 意外そうな様子に、遥久も同意する。
「私には『なんとなく』ではなくて、『どうしても』来たかったように見えますが」
「うーん俺そもそも、自分の行動理由について考えないからなー。……ま、きみらがそう言うんなら、そういうことにしておいてもいいけど」
 そう言ってから、コアラは撃退士達を見渡す。
「で、どうすんの? 俺をここで殺す? やろうと思えばできるよ。今俺まともに動けないし」
 即答したのはフィオナだった。
「断る。そのまぬけな格好の貴様を殺したところで、何の感慨も沸かぬわ」
「え。やっぱこの格好まずい? 結構いいかなって思ったんだけど」

「それはない」
「それはないのう」
「それはないですね」

「えー。じゃ、次はうさぎにしてってロウワンに頼んどこ」
 違う、そうじゃない。

 その時、4号車へと続く扉が開いた。
 現れた友人を見て、遥久はほっとした表情を見せる。
「無事済んだようですね、西橋殿」
 そこには愁也を除いた後方車両メンバーが揃っていた。



 両班の合流は、ハイジャックの終わりを告げていた。
 コアラを間近にした海はやはりといった様子で仲間を見やる。
「やっぱり悪魔だったんだね」
 近くで見ると紛れもないコアラっぷり。
「学園には着ぐるみ着用の撃退士もいるけど、この状況で動かないなら違うんだろうと思ってたよ」
「明らかに怪しかったですしねー?(」
 頷く諏訪の隣で、ロビンがコアラへ向けて問う。
「あなたのディアボロは全部外に出したよ。おっかけなくていいの?」
「あー。別にいいよ。いらないし」
「じゃあ今からあなたがここで暴れるの? それとも別の手を用意してるのかな」
「わかんない。この作戦立てたの俺じゃないし、ね」
 つまり彼の言葉を信じるならば、この事件の主犯は葉守の方ということなのだろう。

「聞いていいかな」

 声をかけたのは、旅人だった。思わず遥久が声をかける。
「西橋殿……」
「大丈夫。僕は冷静だよ」
 そう言って微笑んでみせてから、旅人はまっすぐにコアラを見つめた。
「君は殺した人間のこと、少しは覚えているかな」
「んー。覚えてない」
「そう。どうして?」
「きみらだって道端の花を特に理由無く摘んだりするでしょ? そのこといちいち覚えてる?」
 その問いに旅人は答えなかった。代わりに拓海が問いかける。
「お前はいつもそんな程度で、人を殺しているのか?」
 近くを飛ぶ小虫を、叩くような気軽さで。
「じゃ、聞くけどさ。なんとなく虫を殺るのはよくて、人間を殺るのはダメなわけ? そこにどんな理屈があんの」
 悪魔の声が淡々と問いかける。

「きみらだって、『自分より下等かどうか』で線引きしてんじゃないの?」

「そうだね。君の言う通りかもしれない」
 応えたのは旅人だった。
「僕らも君達も、どこかで命の線引きをして生きている。そのことは認めるよ」
 何を殺して、何を生かすのか。
 そのボーダーラインに最もらしい理由をつけたところで、所詮は己の都合であることに変わりは無い。
 けれど。

「君は何もわかっちゃいない。人の命を奪うということが、どういうことなのか」

 どこか冷ややかな声音だった。
 次の瞬間、後方から衝撃音が聞こえ列車のスピードが一気に落ち始める。何ごとかと身構えていると、愁也がやれやれといった様子で入ってきた。
「6号車が壊れて、緊急停止装置が働いたっぽい。あ、5号車に被害は及んでないから大丈夫」
 彼はディアボロ処理終了を陽動班へ報せた後も、念のため5号車に残っていたのだ。
 葉守も撤退したとの報告に、翠蓮がコアラへ向けて言いやる。
「この車両にいるのはおんしのみじゃ。そろそろ帰るのが、得策ではないかのう?」
「んー。もうちょっといてもよかったけど。…ま、アルが帰る前に戻らないと色々面倒くさいしなー」
 仕方ないといった様子で、コアラは翼を広げる。去ろうとする背をフィオナが呼び止めた。
「これだけは言っておいてやろう」
「え?」
「貴様が学ぶべきことは多い。それこそ妹から学ぶことは何よりも多いぞ」
 愁也も水を投げ渡しながら、にやりと笑む。
「どうせなら色々識っとけよ、面白いから」
 ペットボトルは ⊃⊂ ←な手をすり抜け頭部に当たった。
 愁也と諏訪はとても残念なものを見る目で写メった。
「よいか、我の今の言葉ゆめゆめ忘れるな。王の助言だ。有難く賜れ」
 フィオナの言葉に、コアラはしばらくの間沈黙していた。
 そのまま去るかと思われたとき、まるで独り言のような声が響く。
「……もし俺があいつから学んだとして、そこにどんな意味があんの」
 電車が、完全に止まった。

「次会ったとき、教えてよ」




 全ての敵が排除された電車内は、ようやく救助段階へと移っていった。
 オペレーター室に報告を終えた旅人が、各隊の戦果を伝える。
「占拠された大宮駅は人質の一部開放、宇都宮の方は駅そのものの奪還に成功したようだよ」
「じゃあ被害は最小限に抑えられたと思っていいのかな」
 海の言葉に旅人ははっきりと頷いてみせる。
「間違い無く、想定以上の成果だよ」
「そうか。ならよかった」
 最初に犠牲になった人のことを思えば、手放しで喜べないのかもしれない。けれど、自分の手の届く範囲で最良の結果を出せたことは、紛れもない事実で。
(今だけは、そのことを素直に喜んでもいいよね)
 笑顔が戻った乗客達を見て、海はそっと微笑む。

「あ、お兄ちゃん」
 呼び止める声に拓海が振り向くと、母親に連れられたあの幼い子供が手を振っていた。
「悪いやつやっつけてくれて、ありがとう」
 そういって男の子はポケットをごそごそとさせてから、何かを差し出す。
「これ、あげる」
 渡されたのはあめ玉。込められた気持ちと笑顔に、つい顔がほころんでしまう。
「ありがとな」
 一方、翠蓮は女子高生に囲まれていた。
「ねえねえ、さっきのもう一回やって!」
「仕方ないのう。特別じゃぞ?」
 ぽいーん。
 もふもふケセランの登場に、歓声があがる。
「やばい超かわいい! 一緒に写メ撮ろ!」
「まったく、さっきまで泣いていたとは思えn(もふもふされまくる」
 想定外の人気っぷりを諏訪がさりげなく()写メりつつ、そう言えばと呟く。
「結局あのコアラさんは何しに来てたんですかねー…?」
 彼の言葉にフィオナがふんと鼻を鳴らす。
「大方『何となく来てみたかった』のが実のところであろうよ。……だが、まあ」
 最後に告げた言葉を思い出しつつ。
「奴なりに思うところはあったのかもしれんな」
「自分もそう思いますねー…。本人に自覚があるかどうかはわかりませんけどねー?」
 撃退士を殺すためだけなら、あんな状態で来るはずもなく。
 愁也がそう言えばと。
「旅人さん、あのコアラへ話しかけたんでしょ?」
「ええ。少々焦りました」
 拓海の苦笑に、旅人はばつが悪そうに頷く。
「ごめん。どうしても我慢できなくて」
「ううん、むしろよく我慢したなって」
 家族を殺された敵を前に、我を失いはしないか。旅人の友人達は秘かに心配していたのだ。
「……さっき言っていたことですが」
「うん?」
 思案げな遥久の言葉に、旅人は小首を傾げる。
「いえ、何でもありません」
 遥久はそれ以上口にすることを止めた。
 相手の漆黒の瞳が、いつも以上に深い色を帯びているように見えたから。

(……そういえば、あたしもわからないな)
 ロビンは幼い頃から、自我を持たないキルマシーンとして訓練されてきた。
 そんな彼女にとって、旅人が言ったことを理解するのはきっと難しいのだろう。

 でも。

 ……。

 何か、少し。

 その時、あの謝り続けていた老婆がロビンの元にやってきた。
「さっきは本当にごめんねえ。助かったよ」
「……ねえ、お婆ちゃん。どうして謝るの?」
 彼女の問いに老婆は少し意外そうな表情をしたが、やがてロビンの手をしっかりと握った。
「私のような年寄りより、あなたのような若い人が生きてほしいからだよ」
「ふーん。そうなんだ」
 握ったしわしわの手はやっぱり硬くて。
 でもなぜだかちょっと、温かかった。



●茨城・つくばゲート

 エンハンブレに帰還にしたカーラ(jz0386)は、ようやく着ぐるみから解放されていた。
「あー。疲れた」
 首を回しつつ、独り言のようにぼやく。
「ほんと俺、何しに行ったんだろ」
 殺害対象を前に大人しくしていたことなんて、今まで無かった。慣れないことはするものじゃない。
「おっ兄さんお帰りっす! アレどうっした?」
 通りがかった同僚悪魔にカーラはああと言った様子で。
「ロウワンあれさー。なんかあっさりバレたんだけど」
「まじっすかー。やっぱ試作品なんて当てになんないっすね!」
 スーツ制作者がひどい濡れ衣を着せられたところで、甲高い声が響いた。

「ちょっと、試作品がどうとかって何の話?」

 そこには仁王立ちしたジェルドリュードが、怒りの表情を浮かべている。
「探しても見つからないと思ったら…まさか、あたしに黙ってサイタマに行ったんじゃ無いでしょうね」
「えー。だってロウワンがさー、これ貸してくれたから」
「ちょ、ジュエルっちにそれ言ったらまずいっすryぐふううううう」
 彼女はロウワンを踏みつけながら、険しい表情で告げた。
「ウツノミヤがやられたらしいわよ」
 その言葉に、カーラの瞳孔が開く。
「あいつは? まさか殺られたの?」
「待ちなさい、あんたの妹は無事よ!」
 飛び出そうとする背を、ジェルドリュードが呼び止めた。
「駅は奪われたけど、あの子に怪我は無いわ。念のためにアルファールが迎えに行ったから」
 激昂しかけた瞳が、ぎりぎりのところで戻る。
「ただ、ちょっと気になるのよね……」
「え?」
「じゅ…ジュエルっち……そろそろ足のけて欲しいっす」
「あ、忘れてたわ」
 ロウワンを踏むのを止めた彼女は、そのまま何も言わず去って行く。
 アルファールが撃退士からの土産()と共に帰還したのは、その後すぐのことだった。



依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:8人

歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
二月といえば海・
櫟 諏訪(ja1215)

大学部5年4組 男 インフィルトレイター
『天』盟約の王・
フィオナ・ボールドウィン(ja2611)

大学部6年1組 女 ディバインナイト
輝く未来を月夜は渡る・
月居 愁也(ja6837)

卒業 男 阿修羅
蒼閃霆公の魂を継ぎし者・
夜来野 遥久(ja6843)

卒業 男 アストラルヴァンガード
籠の扉のその先へ・
Robin redbreast(jb2203)

大学部1年3組 女 ナイトウォーカー
来し方抱き、行く末見つめ・
小田切 翠蓮(jb2728)

大学部6年4組 男 陰陽師
シスのソウルメイト(仮)・
黒羽 拓海(jb7256)

大学部3年217組 男 阿修羅