.


マスター:久生夕貴
シナリオ形態:イベント
難易度:難しい
形態:
参加人数:25人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2016/05/18


みんなの思い出



オープニング


 識りたいと思うほど、遠くなる
 


●茨城県つくばゲート上空

 停留中の空挺・エンハンブレ内で、甲高い声が響き渡った。
「随分と身綺麗に飾っているじゃない。何その怪我?」
 宇都宮から帰還したカーラを見て、同乗組員のジェルトリュード(jz0379)がぎょっとなっている。連れ帰ったアルファールがやれやれと肩をすくめた。
「また暴れたんだよ。僕が止めなかったらどうなってたか」
 彼の言葉通りカーラの有様は酷いものだった。
 片腕は粉砕骨折、顔や胴部にも激しく傷を負った姿に、小悪魔娘はまたかといった調子で言いやる。
「聞き飽きたかもだけど、限度を知りなさいよ!」
「えー。怪我したらジュエルが治してくれるし、いいかなって」
「あたしが治さないかもって考えたことないの?」
「痛い痛い」
 怪我のない所を踏みつける彼女を、アルファールはおかしそうに見守ってから。
「じゃあ、後はジュエル姐様に任せるよ」
「仕方ないわね…今回だけよ!」
 そう言ってフルートを取り出したジェルトリュードは、軽やかに演奏し始めた。涼しげな音色が響き渡り、カーラの傷がみるみるうちに癒えていく。
「おー。さすがはジュエル」
 治った腕をまじまじと見つめる様子に、少女はため息をついた。
「あんたさ…そんなんじゃ、身が持たないわよ」
 実際、カーラが大怪我を負ったのは今回だけではない。怪我どころか死にかけたことだって一度や二度の話ではなかった。
 一体何が、彼をそうさせているのか。
「あ、もしかして心配してる?」
「ちちちち違うわよ! ベリアルねーさまとあたし達は出会うべき運命だったの! 死で運命を断ち切ろうだなんて言語道断よ!」
 顔真っ赤で否定する彼女に、カーラはわかったわかったと返してから席を立つ。
「じゃ、治療ありがとねー」
「ちょっと、話はまだ終わってないわよ!」
 立ち止まったカーラはほんの少し振り返ると、どこか独り言のように呟いた。

「俺さ、別に死んでも構わないんだよね」

 紫水晶の瞳が、ここにはない何かを捕らえていて。
「だってその方が、あいつを傷つけられるじゃん」
 一生消えることのない、深い傷。
 後悔という名の楔で、永遠につなぎ止めておけるから。
「……あんた大丈夫? 頭も治療必要?」
 ジェルトリュードの言葉に、カーラはどこかおかしそうに。

「でも”ここ”にいる奴みんなそうでしょ?」

 冥魔空挺軍ケッツァー――”異端者”の群れ。
 互いに惹かれ合うように、集まってきたのだから。


●久遠ヶ原


 ”宇都宮で人質を取った。来なければ全員殺す”

 悪魔からの呼び出しを受けたのは、宇都宮駅での激戦からわずか数日後の事だった。
 いまだ駅周辺では輸送ライン奪取の攻防が続いており、当初は呼び出しそのものの信憑性を問う声も上がっていた。
 しかし、学園に届いた映像はこれが狂言ではないことを裏付けるもので。

 百を超える人間の前で、羊面の男が佇んでいる。
 ごぅん、と鐘が鳴った瞬間、周囲で爆発が起きる。
 煙と悲鳴が上がり、映像はそこで途切れた。

 ――来なければ、次は人を爆破する。

 無言のメッセージを誰もが理解せざるを得なかった。映像を見終わった西橋旅人(jz0129)は、怒りを押し殺し生徒達へ告げる。

「今すぐ、人を集めよう」


●栃木県

 宇都宮市某所。
 春らしい陽気が続く中、公園内の一角でリロ・ロロイ(jz0368)はやや心配そうに隣を見やった。
「兄様、怪我はもういいの」
「ジュエルに治してもらった」
 カーラは妹へ向けて左手をぐーぱーしてみせる。リロは「それならいいけど」と呟いてから、視線を手元に落とした。
(今日は一緒に来いって言われたけど…)
 任務の内容については、何も聞かされていなかった。
 当初は兄が集めた人間を駅まで運ぶのかと思ったが、どうも違うように思う。彼女が思案する側で、カーラはああと声を上げた。
「来た来た」
 兄の視線先を見て、リロは目を見開いた。そこにはこちらへ向かってくる撃退士の姿があったから。
「兄様、これは一体……」
「じゃ、今からお前に命じるよ」
 カーラは前方を指さすと、短く告げた。

「あいつらを殺せ」

「……え?」
 戸惑うリロの目前で、撃退士も驚いた様子だった。彼女が何か言うより早く、兄は宣告する。
「お前が殺さなければ、集めた人間はすべて殺す」
「兄様、待って」
「なんなら、お前の妹分を殺してもいいんだよ?」
 その言葉に、少女の唇がわずかに震えるのがわかった。
「そんなこと…閣下が許すはずが」
「わかってないね、リロ」
 カーラは軽く小首を傾げると、自身と同じ紫水晶の瞳をのぞき込む。
「許すとか許さないとか、どうでもいい。俺がそう決めるかどうか、でしょ?」
 揺らぎひとつない視線。
 投げかけられる言葉に、思考が絡め取られていく。
「リロさん、そんな奴の言うこと聞いちゃだめですよ!」
 撃退士達が言いやる中、カーラは淡々と続ける。
「よく考えなよ、リロ。お前は閣下の側近であり、俺の妹。立場を忘れたわけじゃないよね?」
 それとも、とほんの少し口調に圧がかかる。

「お前は俺と戦うの? 俺を殺せるの?」

「ボクは……」
 言葉を失ったリロは、その場に立ちすくんでいた。
 思考が止まり、周りから音が消え去っていく。

 戦う?
 何と?
 殺せる?
 誰を?

「リロ、返事は?」
 兄の声だけが意識に入り、判断力を麻痺させる。
「ボクは――」

 殺す。
 誰を?

 そう、兄様に命じられた通り


 彼らを――


 その時、突然降ってきた何かが視界を遮った。
 自分が閉じこめられたことに気づくと同時、頭上から声が響いてくる。


「随分と愉しそうではありませんか」


 聞き覚えのある声に、リロだけでなく一部の撃退士が唖然となった。突如出現した巨大トランプの檻に、カーラは上空を不満そうに見やる。
「……どういうつもり?」
 視線先にいるのは、黒猫の面を被った男。面からのぞく蒼銀の猫っ毛がふわふわと揺れるのがわかる。
「あなたの大切な妹を護るためですよ。この中にいれば傷つくことはありませんからね」
 鴇色のチャンパオを身につけた男は、さも愉快げにそう告げた。
「大体きみ、なんでここにいるの」
「ええ、面白そうだったものでつい」
 悪びれず答えた悪魔は「代わりに私が戦えば問題無いでしょう?」と微笑ってみせる。
「それとも、私とあなたであの者達に遅れを取るなどとは言いませんよね?」
「……もういい」
 カーラはそれだけ言うと、諦めた様子でぷいと視線を逸らした。
 黒猫面の悪魔はあっけに取られている撃退士を振り向くと、優雅に一礼する。
「あのーあなたもしかしてクラウ」
「私の名はクラウスです」
「クラウス」
 その直後、悪魔の手に漆黒の大鎌が出現する。面の奥から涼しげな声音が響いた。
「さあ人の子たちよ、既に幕は上がりました。欲しいものがあるのなら、その手で掴みとるのですね」
「一応訊くけど、きみが仕切るのっておかしくない?」
 カーラはそう言いつつも、慣れているのか面倒臭いのかそれ以上追求はせず。頭上に巨大な柱時計を出現させるとクラウスを見やった。
「……ま、どういうつもりか知らないけど。俺は殺るつもりだから」
「好きにすればいいのではないですか」
 殺意と享楽の狭間で、それぞれの思惑が交差する。
 二柱の悪魔を一際強いオーラが覆い、面の奥で充ち満ちた笑みが咲いた。

「ではひとときの宴、存分に楽しもうじゃありませんか」

 時刻は正午。
 始まりを告げる鐘が鳴った。



リプレイ本文




 選ぶのは、誰?






 
「答えろ。何故、リロさんを脅迫した」
 開戦と同時、一瞬で加速接近した陽波 透次(ja0280)が金色を纏う刀を振るった。
「リロさんが妹分達をどれだけ大切に想ってるか知ってて、よくあんなこと!」
 兄に宣告された時に見せた、表情。
 微かに震えた白い頬が、脳裏に焼き付いて離れない。
「え。逆でしょ?」
 刃を流したカーラは、表情ひとつ変えず口を動かした。
「わかってるから、利用するんじゃん」
 その鼻先を深青色の布槍がかすめる。同じく最速接近した鷺谷 明(ja0776)がいつもの笑みを刻んだ。
「気に入らんからぶっ飛ばす。それでいいだろう?」
 その奥にあるモノは見せない。見せてなどやらない。
「いいよ。俺もお前が気に入らないから殺るんだし」
 直後、足下から一際強いオーラが立ちのぼり、瘴気が濃くなる。
 速度が増したカーラは二つの誘導弾を生み出すと、抑揚のない調子で告げた。
「じゃ、いくよー」
 避けるか、受けるか。
 放たれた高威力の魔弾を二人が躊躇することなく受け止めた、その時。
 悪魔は肩に何かが当たった感触を覚えていた。
「……へぇ。やるじゃん」
 視線を移した先で、緑のアホ毛が揺れる。
「何とか当たりましたねー?」
 マーキング弾を命中させた櫟 諏訪(ja1215)が、ほっとした笑みを浮かべる。
 忍軍二人が引きつけた隙を見事狙い撃ったのだ。
「さすがの命中力だなー。諏訪君グッジョブ!」
 外殻強化を展開させた月居 愁也(ja6837)がサムズアップする隣で、夜来野 遥久(ja6843)が生み出す雷の茨が透次の傷を覆っていく。
「お二人とも、お見事でした」
 白い薔薇が咲くと同時、みるみると傷が癒えていく。透次と明の傷は決して浅くないが、各々対抗手段を採っていたのが功を奏した。
「進み出した時間は、誰にも止められませんよ」
 遥久の視線先で、巨大な振り子が時を刻む。
「リロちゃんすぐ出すから待っててねー」
 愁也はわざとカーラを無視し、リロがいる方へ向け呼びかけた。
「さ、喧嘩しようぜ」
 時は進む。
 密度を増す殺意の前で、紅蓮の炎が戦華のごとく燃えあがった。





「なるほど……」
 この不可解な状況に、若杉 英斗(ja4230)は合点した様子で呟いた。
 目前の悪魔がリロを閉じこめた本当の理由。
(トランプの檻に捕えられていたとなれば、リロさんが撃退士と戦わなかった言い訳も立つ)
「つまりは彼女の気持ちを考えてのことですよね、クラウスさん」
 同じく悪魔の意図を見抜いた久我 常久(ja7273)も、にやりと笑んでみせた。
「随分と優しいな」
「さあ、なんのことでしょう?」
 とぼけた調子の黒猫面を見て、雨宮 歩(ja3810)がやれやれと笑う。
「何故、と問うのは無粋かぁ」
 『絆』を発動させた妻へ向けて愉快そうに。
「ボクらにとっては幸運でもあるからねぇ。そうだろ、姉さん?」
「うん、間違い無いね」
 同じく夫へ『絆』を発動させた雨宮 祈羅(ja7600)も、にっこりと笑んで。
「初めまして? 黒猫面の悪魔さん」
 会えた幸運に感謝しよう。
 きっと君はその面の奥で、頬を引っ張りたくなるような笑みを宿しているに違いないから。
「改めて名乗っておこうか。愛する雨宮祈羅の夫であり、探偵の雨宮歩。以後お見知りおきを、なんてねぇ」
「同じく雨宮祈羅です、愛する夫と共によろしくね」
 桜木 真里(ja5827)はクラウスを向き合うと、どこか懐かしむように微笑んだ。
「君とよく似ている悪魔を知ってるよ」
「ふふ…それはきっと、他人の空似ですね」
 聞いた真里はおかしそうに頷いて。
「そうだね。君がそう言うなら、そういうことにしておこう」

「ミ…うや、クラ…ウス! 会った事がないというならばー! きっと一目惚れかな! 御覚悟なんだね!」
 道化人形をぎゅうっと抱き締めた真野 縁(ja3294)は、ダッシュハグしそうになるのを必死に我慢していた。
 大好きで、大好きで、ただその幸せを祈っている君。
「縁たちと一緒に、戦いのワルツでも如何かなー?」
 彼女がぺこりとお辞儀してみせれば、歩の背で血色の翼が鮮やかに広がる。

「さぁ、ショータイムといこうかぁ」

 黒猫面の奥で満ちた微笑が花開く。
 さあ、また一緒に踊ろう!ミスター!

 道化の舞台、番外編の開幕だ。





 一方、カーラ班。
 リロが閉じこめられた檻を見て、川澄文歌(jb7507)はある想いを抱いていた。
(私はリロさんに無理強いしたくない)
 何度も心を通わせて来た相手。
 本音を言えば、この先もずっといい関係を続けたい。けれどそれを彼女に強いるのは、違うとも思う。
「せめて、考える時間をあげられたら…」
「力で捻じ伏せ、挙句に脅して支配か。なんとも器の小さな兄上殿だ」
 嘲るように言い放ったフィオナ・ボールドウィン(ja2611)に、悪魔は喜色めいた声を上げた。
「あー。フィオナじゃん」
 その呼びかけには反応せず、彼女はせせら笑う。
「妹を聖域とのたまった割には、随分とぞんざいな扱いだな。かくも器の小さな兄に執着される妹も堪ったものではないだろうよ」
 更に一段、笑みが深まる。
「そんな輩が我を収集すると? 図に乗るなよ雑種」
「……困るなー。きみにそんなふうに言われたらさ」
 次の瞬間、悪魔の瞳孔が僅かに開いた。


「そそるじゃん」


 濃くなった紫水晶に映る、昂ぶりの色。
 それを見た黒羽 拓海(jb7256)は沸き上がる怒りを闘志に変えていた。
「悪魔カーラ…奴が旅人さんの…!」
 友の故郷を奪い、彼の大切な存在を追い詰め、あんな思いまでさせた張本人。
(おまけに、個人的にも気に食わない輩だ)
 同じ妹と呼ぶ存在を持つ身として、あの男のやり方は断じて許容できるものではなかった。
 一方、浪風 悠人(ja3452)は開戦直後に木陰へと移動し身を潜めている。
(イチかバチか、賭けてみるか…)
 いかに回避力が高いといえど、狙っていることに気づかれなければ当てられるのでは無いか。
 そう考えた彼はできるだけ気配を消しつつ、様子を窺っていた。
 その時、遥か前方から声が上がる。
「此処の人間はな…多かれ少なかれ家族や友人の想いを受けて生きてきてるんだ」
 そう言い放つ川内 日菜子(jb7813)の身体からは身の毛もよだつオーラが放たれている。
「貴様の妹と同じだ、カーラ!!」
 修羅の如き視線をぶつける日菜子に、カーラの鼻が微かに反応する。
「……へぇ。きみも結構、いいね」
 悪魔が彼女を捉えた次の瞬間、背中に重い衝撃が走った。
「っ…!」
 一瞬で背後に回り込んだカーラは、巨大な振り子を打ちつけていた。
 体勢を崩した彼女へさらに殴りつけようとするところを、鳳 蒼姫(ja3762)が生み出す突風がはじき飛ばす。
「今ですよぅ☆」
 刹那、カーラの背後から複数の影が飛び出してくる。
 左腕に明色、右腕に暗色の紫を纏った鳳 静矢(ja3856)が強圧の一閃を叩き込む。
 死角からの奇襲に反応が遅れたカーラは、避けきれず刃の一部を受けてしまう。僅かに体勢を崩したところを、水無瀬 快晴(jb0745)が放つ影刃が捕らえた。
(当てさせてもらう…!)
 瞬間的に現れた刀身が悪魔の胴部をかすめ、薄い皮膚を斬り裂く。彼らの波状攻撃の合間に撃ち込まれるのは、悠人が放つ高命中の弾丸。
「……睨んだとおりだ」
 カーラは引きつけを行うメンバーに気を取られ、こちらには気づいていない。対戦人数が多かったことも、有利に働いた。
「あー。残念」
 もう少しだったのに、と漏らすカーラの視線は日菜子のうなじに注がれている。
 あいつ絶対匂いかぐつもりだったろ…という囁きが漏れ聞こえる中、蒼姫はほっとした様子で夫を見やった。
「何とか上手くいきましたねぃ」
 初手からの攻撃はことごとくかわされ、日菜子に気を取られたのを狙ってようやく当てることができた。
「やはりそう簡単ではなかったな」
 苦笑する静矢の視線先、強いオーラを纏った悪魔は噂に違わぬ回避力で。
 引き付けるメンバーと、影で狙うメンバー。
 各々が役割を認識し実行できていたからこそ、上手く噛み合ったのだ。





「さて、こちらは足止めに専念しましょうか」
 ランスを手にした鈴代 征治(ja1305)はクラウスへ向け強力な突きを繰り出す。
「それにしても…随分楽しそうですねあの人は」
 俊敏な動きで威力を流す悪魔は、面で隠していてもなお楽しんでいるのがありありと分かる。
(そう言えば、あの時も同じだったか)
 月の華が咲いた雪山。
 直接言葉を交わすことはなかったけれど、彼が何を見届け、その魂に刻もうとしていたのかは察していたつもりだ。
 同じく雪山でのことを思い出しつつ、アスハ・A・R(ja8432)は蒼き焔を腕に纏った。
「初めましてというべき、か。ミスタークラウス」
 余計な言葉は不要とばかりに、そのまま攻撃へと移る。
 放つは、威力を極限まで高めた一撃。躊躇無く撃ち込まれたそれを、悪魔は嬉々とした様子で受け止める。
 衝突音が響くと同時に、互いの笑みが咲く。
 直後、悪魔はくるりと大鎌を構え直すと、勢いよく水平に振り抜いた。
 轟音と共に衝撃波が飛ぶ。そこへ飛び込んだのは盾を手にしたメリー(jb3287)。
「誰が相手でもメリーは退かないのです!」
 受け止めた瞬間、全身に衝撃が走る。痛みを堪えながらも、彼女は不思議な感覚に襲われていた。
(痛い…のです。でも、嫌な感じはしないのです…?)
 それはかつて、雷霆の大天使の剣を受けた時のような。
 繰り出す一振りに、強い、強い何かが込められている気がするのだ。
(訳の分からない悪魔共め、皆殺しだ)
 潜行状態に入っていた山里赤薔薇(jb4090)は、クラウスの背後へ回り込むとその手に巨大な火球を生み出した。
(地獄の業火を喰らえ!)
 死角から放つ渾身の一撃に、悪魔の体躯が大きく揺らぐ。赤薔薇の方を振り向いた黒猫面は、受けた傷を見やりつつ。
「いい一撃でした」
 どこか愛しげな声音。
 そこに宿る充ち満ちた色に、赤薔薇は戸惑いを覚える。
(なんなんだこいつ…)

 一方、その遥か後方ではナナシ(jb3008)が意思疎通でリロへ向けて話しかけていた。
(いい? もし今も悩んでいるのなら私の話を聞いてちょうだい)
 今のままでは、仮にカーラを撃退してもまた同じことが起こる。
 そう考えたナナシは、現状を打破するために対話することを選んでいた。
 同じくベアトリーチェ・ヴォルピ(jb9382)も、他のメンバーが引きつける間にリロの檻へ接近していた。
「リロ…聞こえる…?」
 そっと声をかけてみるも、返事はない。けれど彼女も諦めるつもりはなかった。
「話したいこと…たくさん…けど…リロ…元気そう…ジャスティス…」
 また、会いたかった。会えて嬉しかった。
 だから、あんな悲しい顔はしてほしくなくて、いてもたってもいられずに。





 同じ頃、カーラ班は攻撃を当てるための策を取りつつ、激昂を誘っていた。
 回避先へ烈風突を放った愁也は、煽るように言い放つ。
「安心しろよ、オニイサマ。どれだけアンタが傷つけたって、リロちゃんの傷は俺らが癒すさ!」
 こちらを向く殺意が更に濃度を増していく。けれどそれ以上の変化を見せない悪魔を、遥久は冷静に見つめていた。
(激昂状態へ持っていくのは、そう簡単ではなさそうだな)
 先日の報告書ではリロが現れた途端、カーラの状態が治まったと書かれていた。そのことを踏まえれば、今回はよほどの『何か』がなければ、激昂させるのは難しいのだろう。
 クイックショットを撃ち込んだ諏訪は、ふと感じていた。
(カーラさん、リロさんの喜ぶ顔見たことあるんですかねー?)
 本当に妹を想うのならば、なぜ喜ばせようとしないのか。
 愛する妻がいる彼にとって、あの悪魔の行動は理解しがたいものがある。
「何か理由があるんですかねー…」
 そうせざるをえない、何かが。

「あ。そうだ。今のうちに使っとこ」
 次の瞬間、カーラの手から幾筋もの光線があちこちに伸びた。
「あれは…!」
 いち早く気づいた透次と遥久が大声で警告する。
「色別攻撃、来ます!!」
「クラウス班気を付けてください!」

「”赤”」

 すぐさま発動阻止に向け各メンバーが動くが、高速移動中のカーラは凄まじい反射速度でそれら全てをかわしていく。
 同時多発で起こる爆撃音。
「いってぇ…鷺谷さん大丈夫?」
 直撃を受けた愁也は、防御を極限まで上げた甲斐あって致命的なダメージには至っていない。
「なんとか避け切れたねえ」
 明が笑いながらそう返す遥か先、空蝉で爆撃をかわしたナナシが安堵の息を漏らした。
「ふー助かったわ。警告ありがと」
 リロへの呼びかけとクラウスへの警戒で手一杯だったため、警告がなければ反応が遅れていただろう。
 こちらの班で他にターゲットとなった歩と常久は回避に成功し、メリーは防壁陣の展開が間に合い被害は最小限に抑えられた。
「にしても、一番多い色ではなく赤を選ぶとは…」
 後方で状況観察していた悠人は、周囲を見やる。
(よほど当てたい対象が、いたみたいだな)
 恐らくは優先殺害対象であるあの二人と――
 悠人の視線先、カード檻に張り付く常久の姿があった。

「聞こえてるか、嬢ちゃん」
 壁の向こうで確かに感じる気配へ、常久は語りかける。
「わかってるとは思うが、自分のことは自分で決めるしかねぇ。あいつ等は、だから今ああして戦ってんだ」
 各々が抱く想いは異なるかもしれない。
 けれど今この場でやるべきことを、己の手で選び、行動しているだけなのだと。
「リロさん、あのシスコンを追い返したら助け出しますから、もうちょっと辛抱して下さいね」
 英斗はそう呼びかけつつも、ひとつの確信を得ていた。
(どうやらクラウスさんは、俺たちの邪魔をする気はないみたいだな)
 悪魔はリロの檻から離れずにいるものの、常久やベアトリーチェを排除しにかかる素振りは見せない。(攻撃範囲内にいれば当然巻き込まれてはいるが)
「きっと、問答無用で檻を破壊しにかかれば、また違ったんだろうけど…」
 つまり自分たちが取っている行動は、彼の思惑内ということ。恐らく最初に彼の狙いに気づいていることをそれとなく告げたのもよかったのだろう。
(なら、こっちも猫仮面の思惑に乗るまでね)
 最低限の警戒をしつつ、ナナシは再びリロへ意思疎通で話しかける。
「いい? 今回の主題はあなたが人類と敵対するかどうかの話ではないの」
 勘違いしてはいけない、と彼女は告げる。
「今あなたが選ばなければならないのは、『横暴な兄に妹としてどう対応するか』よ」
 兄の圧力に屈するのか。
 己の意志で抗うのか。
「大体、妹の交友関係に口出す兄とかキモイし」
 嫌な事は嫌っていっていいのよ、とナナシはややくだけた調子で告げる。
「お薦めは『兄様。気持ち悪いからボクに話しかけるのを止めてくれる?』って言う事かしら。豚を見るかのように蔑んだ目で見るのがコツね」

 一方、そのキモイ兄は更なるアレぶりを披露していた。
 高速でフィオナの背後に回り込むと、流れるように時計針を放つ。
「ねー。そろそろ俺に収集されなよ。死ぬまで■■■てあげるからさ」
「我が素直に従うとでも思うのか?」
 フィオナは針を受けた勢いそのままに、一閃を繰り出す。最小限の動きで避けたカーラは、不思議そうに小首を傾げ。
「えーでも、俺のこと好きだからここに来たんでしょ?」
「そんなわけがあるかぁッ!」
 すかさず入った日菜子のツッコミ拳に、悪魔は意外そうに瞬きする。
「え。違うの?」
「…どうやったら、あんな風に思えるんですかねぃ」
 呆れ顔の蒼姫に、快晴も遠い目をしつつ。
「まさにストーカー思考だね…アキ母や文歌も気をつけなよ」
 その時、カーラを覆うオーラが若干弱まるのがわかった。高速移動状態が解除されたと見た彼女達は好機とばかりに動き出す。
「引き付けなら任せてください」
 文歌はそう言うと、悪魔の前へ一気に歩み出る。
「はじめまして、茉莉花茶の川澄文歌です」
 カーラの視線が品定めしてくるのがわかる。しかし彼女はひるむことなく突然歌声を響かせた。
「……どういうつもり? 意味わかんないんだけど」
「ああ、ストーカー紛いの本に歌は記録出来ないんでした? リロさんが私達と口ずさんでくれた歌ですよ」
 きっと彼女には聞こえてるはず。
 私達も闘うよ。だからあなたも諦めないで。
 僅かに細められた紫水晶の瞳が、不快感を映したその瞬間。
 
「吹き飛びませい! カーラ!!」

 蒼姫が飛ばす冷気の塊。
 文歌に気を取られていた悪魔は、突風を受け大きく横へ流される。麻痺状態までは持っていけなかったものの、体勢を崩したところを仲間の刃がしっかりと捕らえていた。
 静矢は瞬間的に高めた脚力で接近すると、高速の一閃を叩き込む。メンバー屈指の攻撃力はカーラの胴部を深く抉り、紫の鳳凰が道を拓く。
「行け快晴!」
 続く快晴の闇討ちが悪魔の動きを鈍らせると同時、悠人の狙撃銃が焦点を正確に撃ち抜いた。
(ここだ!)
 太股に弾丸を受けたカーラは、やや苛立たしげに呟く。

「あー。鬱陶しい」

 次の瞬間、時計の針が勢いよく回り始める。
 今までに見たことの無い動き。
 撃退士の間に警戒が走ったその時、振り子時計から巨大な陣が吹き出すように広がっていく。
「これは……?」
 身体に異変は感じない。けれど何が起きたのかはすぐにわかった。
「どうやらスキルを封じられたみたいですね」
 闘気解放を使おうとしていた拓海が眉をひそめる。日菜子も頷きながら。
「しかも…私たちの動き、なんだか遅くなってないか?」
 恐らくは技を受けた者の時間が、周りより遅く進んでいるのだろう。
「つまりは、効果が切れるまでの時間も延びるということですねー…?」
 あまりに巨大な陣はメンバーのほとんどを飲み込み、難を逃れたのはカーラからかなり距離を取っていた諏訪と悠人だけで。
「というわけで、もう一回ー」
 次の瞬間、先ほどの倍近くの光線が現れ周囲に広がっていく。

「”黒”」


 ※※

(あの歌は……)
 聞き覚えのある歌声に、リロはふと視線を上げていた。
 満天の星空の下で。
 月虹揺らめく桜の下で。
 歌声を重ねた日々が、もう随分前のことのように思える。
(ボクは……)

 ※※


「祈羅ちゃん、しっかりするんだよー!」
 爆撃を受けたクラウス班の面々は、即座に立て直しを図っていた。
 縁からの回復を受けた祈羅は、礼を言いつつ胸をなで下ろす。
「ふー。危うく沈むところだったね」
 カーラ班から警告を受けた彼女は、即座にマジックシールドを展開させていた。
「あの子をたたき出す前に、やられるわけにはいかないし」
「うにうに! 征治ちゃんと英斗ちゃんは大丈夫だったかなー?」
「ええ、何とか」
 剣魂を展開させる征治の奥で、英斗は眼鏡を光らせた。
「これくらいじゃやられませんよ!(きりっ」
 爆発の瞬間、征治は緊急活性化した盾で、英斗は冥の力を受け流す守りの奥義で威力を相殺していた。
 元々の防御力も相まって、二人とも大きな損傷は受けていない。
「さあ、クラウスさん。俺達はまだまだ倒れませんよ!」
 英斗の言葉に、黒猫面から悦としたオーラが醸し出されるのがわかる。
「燃えろ、俺のアウル!!」
 極限まで高めたアウルが、白銀の円盾を覆う。外縁の半分刃となるそれを手に、英斗は圧倒的な破壊力を乗せた一撃を撃ち込む。
 金属同士が削り合う音が響き、大鎌で受けたクラウスの体躯が僅かに横へ流される。
 そこを狙うは、真里が放つ雷撃。
「俺たちも手を抜かないよ。君と同じようにね」
 持てる力を全て出せないでいるのは、知っている。
 でも君は、限られた中で全力を尽くすことも、知っているから。
 真里の攻撃に合わせて前に出たアスハが、一気にクラウスの懐へ飛び込む。
「あちら側から彼女含めて任されているので、な…!!」
 出し惜しみ無しの全力攻撃。
 叩き込まれた蒼焔の強撃を、悪魔は威力を流すように受けとめる。そして次の瞬間、受けた勢いそのままに、漆黒の斬刃が空を切った。

「攻撃来ます!」

 いち早く察知した征治の喚起に、英斗とメリーの身体が反応する。
 瞬間的に繰り出された防壁を巻き込む、刃の旋風。
 一瞬で前衛のほとんどを吹っ飛ばしたクラウスは、それでも致命傷を避けた面々を見てどこか満足げに。
「強くなりましたね」
 こちらの全力を持ってしても、倒れぬほどに。
「ではこちらも少し、時間を稼がせてもらいましょうか」
 次の瞬間、四つのカード檻があちこちに出現し対象者を閉じこめていく。

「……僕ですか」
「なんでうちなのー!」
「仕方ないな。真っ先に狙われる存在がいないから、な」
「速攻でぶっ壊す…!」

 閉じこめられたのは征治、祈羅、アスハ、赤薔薇。
 見たところ、どうやら攻撃型かつ閉じこめやすい面子が選ばれたようだ。
「俺も近くにいたら危なかったね」
 真里が苦笑しながら障壁破壊を手伝う前方で、歩と縁がどこか羨ましげに呟く。
「姉さん、二度目かぁ」
「ちょっと閉じこめられてみたかったんだよ…」
 つい漏らされた本音に、メリーとベアトリーチェが小首を傾げた。
「あの人達病気なんです…?」
「たぶん…あってる…」





「まったく、スキル発動のオンパレードだねえ」
 惜しみない強力技の連発に、明はどこか愉快そうに笑った。同じくフィオナも口元の笑みを絶やさずに。
「恐らく、前回の戦闘で悟ったんだろうよ」
 激高状態に入ると、スキル発動が潰されてしまうことに。
 爆撃をくり返す悪魔は、そういやとばかりに口を開いた。
「あいつに余計なこと言うのやめた方がいいよ。結局、追い詰めてんのはきみらなんだし」
「ふざけるな!」
 そう叫んだ日菜子が、紅蓮の拳を撃ち込む。続いて透次も抑えきれぬ感情をぶつけ。
「リロさんは僕達を助けてくれた。僕は彼女が好きだ」
 駆けつけてきた時の切実めいた瞳。あの目は兄のことをも案じていたはずなのに。
「兄なら妹を傷付けるな。妹の愛情を裏切るなよ!」
「妹が大切というのは同意出来るし、知らん男と親しげなのが気に食わんのも分かる。そいつが害虫なら、駆除が必要なのもな」
 だが、と拓海も鋭いまなざしを向ける。
「籠の鳥にするのは違うだろう」
 何より妹から大切な物を奪うというやり方が、どうしても許せなかった。
「幸せの形ぐらい、妹に選ばせてやれ!」
「…なんかさー。そういうのマジでウザいって、なんでわかんないかなー」
 カーラはどこかうんざりした様子で言った。
「”あの時”も、きみらみたいなのがいてさー」
「あの時…?」
「ちょっとあいつの話をしたら、俺に言ってきたんだよね。『もっと妹の事を考えろ』とか『そんなことして妹は悲しんでる』とかさ。クソみたいな存在のくせに何言ってんのって感じ」
 そこで悪魔は、ゆらりと視線を上げた。

「ま。あんまりウザいんで、皆殺しにしといたけど」

「……それ、十年前のことを言ってるんじゃねえだろうな」
 低く問いかける愁也に拓海が愕然となる。
「まさか…そんな理由で旅人さんの故郷を?」
「そ。よくわかってんじゃん」
「貴様!!」
 振り抜いた刀が、悪魔の鼻先を通過する。
 怒りをあらわにする拓海を、カーラは無感動に見やりながら。
「ほんとわかりやすいよね、きみたちって」
 追い詰めれば追い詰めるほど、波状効果で身動きを失っていく。それはまるで追い立てられた羊の群れのように。
 脆弱で、劣等な存在。
「なんて奴だ……」
「酷すぎるのですよー…?」
 嫌悪感を露わにする悠人や諏訪の前方で、愁也は完全にキレていた。
「遥久ごめん。俺今回も我慢できねえわ」
 各方位から沸き上がる殺気を感じながら、遥久は当たり前のように返す。
「お前”たち”の無茶など最初から織り込み済みだ」
 その中に自分も入っているとは、言わないけれど。

 その時、カーラは先程から言葉を発しないでいる明に目を留めた。
「そういや、今日は大人しいじゃん」
「ああ。最初はリロ君のことで何か言おうと思ったんだけどねえ。やめた」
 眉ひとつ動かさない悪魔に、明は笑いながら告げる。
「彼女のことは彼女が決めるべき。それ以外に私は何も言えん」
 なぜって?
「貴様も私も、自分の”欲”のために動いている点では変わらないからさ」
 こうありたい。こうあって欲しい。
 互いの主張で殴り合うだけのシーソーゲーム。
 滑稽でナンセンスで、けれど己は己のために戦うエゴイストであることを否定するつもりもなく。
「……へぇ。お前、マジであいつに惚れてんだ」
 真っ向から欲を認めた明に、カーラはそこで初めて沈黙を見せた。
 刹那、微動だにしなかった紫水晶に何かがよぎる。
 それはほんの一瞬のことで、よほど相手を観察していなければ気づけなかったかもしれない。

(あれは恐らく――『怯え』だ)

 悪魔の機微に注目し続けていた遥久は、内心で呟いた。
 本人に自覚はないのかもしれない。けれどあの男は、強烈な支配欲の底で何かをひどく恐れている。
 きっとそれは――
「なあ。アンタの欲しいものって、リロちゃんであってリロちゃんじゃないよな」
 愁也の言葉に、カーラは僅かに反応を示した。
「……どういう意味?」
「フィオナさんに対してもそうだけど。そうやって誰かに執着してみせてさ」
 疑って、試して、傷つけて。
 あげくに疲れて、死んでもいいとか考える。

「アンタがホントに欲しがってんのは、”永遠に自分へ執着する存在”じゃねえの?」

 温度が下がった気がした。
 それはまるで、何かが一瞬で氷点に達したかのような。
「大切に想うのなら、なぜ喜ばせようとしないんですかー?」
 諏訪の問いかけに文歌も続く。
「今のリロさんはお兄さんと歌ってくれます? 楽しそうに笑ってくれます?」
 覗いてはいけない沼の底で、得体の知れないモノが蠢き出す。
(奴は動揺している。畳みかけるなら今だ)
 そう判断した静矢は周囲へ目配せしながら口火を切る。
「貴様はリロの動向を把握しているのだろう? ならば彼女がどういう行動を取ってきたかもわかるはずだ」
 彼女がどんな言葉を交わし、どんなものを見てきたのか。
「そもそも貴様と彼女では思考の根底が違うのだよ。なぜそれを分かろうとしない?」
「……黙れ」
 それはきっと、ここにいる誰もが気づき始めた事実。

「貴様、怖いのだろう。妹の興味が他に向くのが」

 行きすぎた支配欲は、繋ぎ止める自信のなさの現れ。
「本気で彼女を想う存在が怖くてたまらないんですねー?」
 だから全部排除して、安心しようとする。
 憐れむような”羊たちの視線”。

「でもそれって、逃げてるだけじゃないですかー?」



「黙れ」



 凄まじい勢いで飛んできた時計針を、遥久が受け止めた。
「……ようやく、ですね」
 更に巨大化した針の先。
 闇色に染まった瞳が、憎悪だけを映していた。


 ※※


(兄様……)
 彼らのやりとりを聞いたリロは、言いしれぬ想いに駆られていた。
 兄の言葉。彼らの言葉。
 兄の本心。
 きっと本当は、わかっていた。
 わかっていて、気づかないふりをしていた。

 心の奥を何かが締め付ける。
 どうすればいい?
 自分はどうすれば――



●熱情は殺意と享楽の狭間で


 どす黒い殺意が、大気に圧力を与える。
 激高状態になったカーラを見て、悠人はそのまなざしを強くした。
「もたもたはしてられないな」
 ここからはまさに、時間勝負。
 即座に魔具にアウルを込めると、惜しみない威力で撃ち放つ。
「どちらが先に落ちるかだ!」
 悠人の弾丸が正確な軌道で頭部を直撃した瞬間、明の拳が悪魔の頬を殴り飛ばす。
 闇が彼らを捉えると同時、爆煙が一瞬で辺りを覆う。しかしマーキングで動きを追っていた諏訪が、すぐさま反応した。
「カーラさん南西方向に移動しましたよー? 気を付けてくださいなー!」
 煙幕の中から、巨大な振り子がすべるように飛び出してくる。狙う先に立つ日菜子は、諏訪の警告で瞬時に炎のアウルを展開。
「…へぇ。よく受けたね」
 威力を相殺された悪魔は、明らかに苛立った様子だった。四肢に紅蓮の炎を纏った日菜子は、烈なる怒りを魔具に込める。
「そう簡単に殺せると思うなッ!!」
 繰り出されるは神速の強連撃。
「みんな貴様が妹に注ぐものと同じだけの想いを一人一人受けて生きてきた!! 容易く摘んでいい命など此処にはひとつもないッ!!!」
 凄まじい威力を乗せた蹴りが、悪魔の脇腹を粉砕する。続く一撃が顎を蹴り飛ばしたところを、拓海の刃が捕らえた。
「なぜ…何故こんな奴に旅人さんは…!」
 この場に彼がいなかったことだけが、唯一の救いだと彼は思う。
 きっと。
 きっと今の自分以上に、怒りと悔しさでどうにかなっていただろうから。
 叩き込むのは、己の身を省みない最強最速の一撃。
 日菜子と拓海の猛攻で深傷を負ったカーラは、血糊をまき散らしながらそれでも執拗に向かってくる。
「リロさんは、私達と楽しく歌ってくれました。彼女は私の大事な友人です!」
 文歌がカーラの懐へ飛び込むと同時、蒼い光が魔具を覆った。
 闇のごときまなざしを真っ直ぐに見据え、彼女は渾身の零距離攻撃を放つ。
「これがリロさんの友人としての意地ですっ!」
「黙れと言ってんだろ■■■■が」
 轟音と共に時計針が走る。その鋭利な切っ先が彼女を貫こうとした、刹那。

「文歌!!」

 突然目の前に飛び出して来た快晴が、巨大な針を受けとめた。
 それはまるで、スローモーション。
 壮絶な勢いで撃ち込まれたそれは、ガードしてなお容赦無く快晴の身体を貫いた。
「カイ!!」
 駆け寄った蒼姫が、意識を失った快晴を抱え後方退避させる。そこへ駆けつけた透次が、ライトヒールを施しつつ眉をひそめた。
「応急処置はしましたが…傷がかなり深いですね」
 大量出血を起こす快晴の側で、文歌は必死に呼びかけ続ける。
「カイ…カイ…しっかりして!!」
 居合いの構えをとった静矢は、射殺すような視線で悪魔を見据えた。
「身内を傷つけられて平然としていられるほど、冷血漢ではないのでな」
 紫焔の奥で、強烈な怒りが迸る。
 神速の速さで繰り出す一閃が、悪魔の闇を斬り裂く。刀が同部にくい込む瞬間、刃を覆うオーラが紫色の鳳凰翼に変化した。
「貴様だけは許さん!」
 静矢の猛攻を受けた悪魔は、大きく後方へ吹き飛ばされる。
「僕もあなたを許さない」
 赤刃嵐を纏った透次の瞳が、凍てついた闇色を湛える。
 振り抜いた刃から赤色の衝撃波が飛び、悪魔の腕を直撃。そのまま即座に追撃へと移った透次は、速度を破壊力に転化させた渾身の一撃を繰り出した。
 血飛沫が舞い上がる中、爆炎が上がり中から時計針が飛び出してくる。
 即座に反応した遥久が、盾で受けに走った。
「これ以上、倒れさせませんよ」
 過ぎ去った時は、二度とは戻らない。
 だから『今この瞬間』から目を逸らすことだけはしない。
 遥久が針を止めた直後、愁也が振るう攻撃盾がカーラの体躯を吹っ飛ばす。
「リロちゃんを試したりすんじゃねえよ。しっかりこっち見て喧嘩しろや!」
 次の瞬間、カーラの頭上から蒼く輝く魔弾が降り注いだ。





「ふふ…宴もそろそろ終わりが近そうですね」
「ああ。近い、な」
 どさくさに紛れてカーラに光雨をぶちこんだアスハは、神妙に頷いた。
「さて、こちらも佳境といこうかぁ」
 愛用の黒刀を手に、歩がさも愉快そうに言いやる。
「まだまだお前は、物足りないだろぉ?」
 そう言って刀を振るえば、真里が繰り出す雷撃が大気を切り裂いていく。
「そろそろみんな出てくる頃かな」
 彼の視線先、カード檻から脱出した赤薔薇が、小型の龍を掌に生み出した。
「これでも喰らえ!」
 ふっと息を吹きかけ飛ばせば、クラウスの体躯に着弾した瞬間、激しく爆散する。
 続いて檻から出た征治も、全身で悪魔の懐に飛び込んだ。
「ルインズの奥義、受けてもらいますよ」
 それは、積み重ねてきた技の結晶。
 カオスレートを大きく操作した一撃が、凄まじい威力となって悪魔の胴部を深く抉る。
「ふふ…実に良い一撃ではありませんか!」
 面の奥から爛々とした瞳が、征治を絡め取る。悦に満ちたオーラは鋭く昂ぶり、まるで媚薬のように熱を帯びていて。
 漆黒の斬刃が、乱れ飛ぶ。
 すかさず受け止めに出るのは、英斗と縁が抱く『絶対防御』の意志。
「必ず守り切りますよ!」
 輝く黄金のオーラが英斗の盾を覆い、縁の周囲を強力な防壁が取り囲んだ。
「貴方の攻撃を何度だって受け止めるんだよー! それが縁の愛のカタチ! なんて!」
 花のような縁の笑みを見つめながら、悪魔の内では熱情がよぎっていた。

 最初は攻撃をまともに当てることすら、できなかった。
 こちらの一振りで、何人の意識を飛ばしたことだろう。


 ああ。
 あなた方は本当に。



 飽きないから、困る。



 大鎌を構え直したクラウスは、流れるように刃を振るう。
「さあ、いきますよ!」
 再び放たれる巨大な衝撃波を、メリーが生み出す群青の聖骸布が受け止める。
「メリーの盾はそう簡単には砕けないのです!」
 蒼白い放電が威力を相殺し、雷撃はやがてベロニカの花へと変わる。
「届けたい思いがあるなら届けるのです! メリーはその為なら道を開く盾となるのです!」
 散りゆく花弁が、彼女が抱く想いを映す。
(バルシークさんのようなことはもう嫌なのです…)
 何も言わずに逝ってしまった、ずるいひと。
 きっと本当は届いていたのかもしれない。けれど、確かめる術はもう永遠に得られずに。
「そんな想いは誰にもしてほしくないのです…。だから、メリーは届かせるのです!」
 伝えたい想いがあるのなら、今ここで届けて欲しい。ぶつけて欲しい。

 だって命は、いつかなくなってしまうから。
 
「みんなありがとね!」
 仲間の援護を受け前に出た祈羅が、めいっぱいの想いを道化人形に込める。
「ねえ、黒猫面の悪魔さん。口で言うより、行動で示した方が愛でしょう?」
 会いたいんだ、あの子に。
 もう一度、頬引っ張りたくて。
 もう一度、ちゃんと好きって、愛してるって言いたくて。
「同じく、言葉にするのは苦手でねぇ。だから、ボクの想い全てを乗せる」
 黒刀を手にした歩が、刀身にアウルを込める。刃の中心を走る紅がまるで彼に呼応するかのように紅く、紅く、輝きを放った。
「縁の愛も受けてもらうんだよー!」
 くるくると踊るのは、大切なあなたに似せた道化師ドール。
 伝えきれない想いを、ありったけ詰め込んでおいたから。
 真里もその手に火球を生み出すと、微笑みながら頷く。
「出会えた奇跡に。刻んだ軌跡に」
 そして真心を、君に。
 歩と祈羅が送るのは、絆を込めた渾身の一撃。


「さぁ、届け!」

 
 あなたの気が済むまで、満たされるまで。
 与えよう。届けよう。
 ここに来られなかった彼らの分まで、めいっぱいぶつけてあげるから。
「そしてあなたの全てを頂戴! 貪欲な女王様らしく全部受け止めるから!」

 だってそう約束したでしょう? 私たち。

 彼らの全てが悪魔の元へ届き、代わりに漆黒の刃が全てを彼らに返してゆく。
 交わされる熱情。
 溢れるほどの、想い。
「なんなんですかあの人達…」
 ワケがわからないと言った様子の赤薔薇に、アスハが声をかけた。
「先に言っておくべきだった、な。あいつらは”ああいう関係”だ」
「ああいう関係?」
「敵味方とかそういうのを越えた…まあ、月並みに言うなら」
 どこかおかしそうに彼らを見守りながら、彼はその言葉を告げた。


「愛、だな」





「さあ、嬢ちゃんもうわかってんだろ。お前さんは今、分岐点にいるんだ」
 常久は少女へ向かってはっきりと告げた。
「誰だって、明日の自分が幸せだなんてわからねぇ。わからねぇから足掻くんだ」
 正解など教えちゃくれない。
 だから誰もが悩み、覚悟を決め、足を踏み出すのだと。
「さっきも言ったけど、大事なのはあなたがどうしたいかよ」
 ナナシも安心して、と優しく告げる。
「私は悩める少女の味方なんだから」
「あのね…リロ…これだけ…伝えたくて来た…」
 ベアトリーチェはほんの少し恥ずかしそうに、けれど一生懸命気持ちを伝える。
「えっと…今後…正式に…お姉ちゃんって…呼ぶけど…いいよね…私…決めたから…」
 本当は、何かを言葉にするのは得意じゃない。
 でもどうしても伝えたくて、知って欲しくて。
「お姉ちゃん…好きだよ…」
 短い言葉の中に集約された、めいっぱいの想い。
「忘れんな。お前さんしか見つけられない答えは、いつだってそこにある」
 その時その瞬間に、己の信念に従って選んだ者だけが見られる景色。
 見たいと思わないか?
 識りたいと思わないか?
「悩め、そして覚悟を決めろ」
「あなたが選ぶ道は、あなただけのもの」

 選ぶことを、怖がらないで。

 その時、カード壁の向こうで気配が濃くなるのがわかった。


「……ありがと」


 届いた言葉、ひとつ。
 ジョーカーの檻に亀裂が入った。





 執極の針が終わりを差していく。
 撃退士の猛攻を受け続けたカーラは、まさに凄絶といってよかった。
 左腕は千切れかけ、胴部は直視を躊躇うほどずたずたになっている。
 それでも戦意を失わない相手へ、フィオナは剣の切っ先を向けた。
「来い。我が相手をしてやろう」
 そう告げた直後、振りかぶった刃が勢いよく降り下ろされる。
 重力と加速を乗せた文字通り『重い』一撃が、悪魔の肩口を裂き鮮血を散らした。
「あー…」
 ぱっくりと開いた傷口からは血が噴き出し、骨がむき出しになっている。
 緩慢にそれを見て、瞬きひとつ。
 悪魔は。


 嗤った。


 刹那、カーラはフィオナの首元を掴むと、凄まじい力で地面に打ちつける。血まみれの手が彼女の頬にべったりと触れた。
「ねえ、フィオナ。俺が憎い? 死ねばいいと思ってる?」
 向けられた闇の奥。歪んだ渇望がヘドロのように吐き出される。

「俺のこと憎いって言ってよ。殺すって言えよ」

 誰より。
 誰より俺を。

「あいつ…このまま死ぬつもりか」
 あまりの凄惨さに、思わず目を背ける者さえいる。
(いや、恐らくは)
 遥久が視線を向けたその時、巨大なトランプと銀時計が撃退士の攻撃を受け止めた。
 カーラは一瞬驚いたようにリロを見やったが、とっくに限界は越えている。そのまま崩れるように倒れ込むと、意識を失った。

「――勝負あったようですね」

 自らも傷だらけのクラウスは、ちらりとリロを見やってからカーラの元へ歩み寄る。
 終わりを示す言葉が、静かに告げられた。

「ここまでにしておきましょう」





 静寂が戻った公園内。
 重傷者が多数出る中、意識を取り戻した快晴に文歌は安堵の涙をこぼしていた。
「カイ…よかった…」
 泣きじゃくる恋人を見て、快晴は彼女の頭をぽんとやる。
「…泣くない。俺は文歌を護れて満足なんだから」
 彼女だけはどんな手を使ってでも、死守するつもりだった。その様子を見た蒼姫もほっとしたように、目尻をぬぐう。
「まったく、心配させるのですよぅ…この子は」
「何はともあれ、皆で帰れて何よりだ」
 妻に寄り添う静矢の表情には、穏やかさが戻っていて。

「何とか上手くいったみたいですね」
 やれやれと言った様子の征治に、悠人も苦笑しながら頷く。
「一時はどうなるかと思いましたが…人質も無事解放されたようですし」
 先ほどオペレーターの西橋旅人から、救出の連絡が入っていた。
「とはいえ…まだ終わったわけではないだろうな」
 日菜子の言葉に拓海も頷いてみせる。
「ええ…つくばゲートの件を考えると、恐らくこれからが本番でしょうね」

「兄様……」
 リロは兄の側にしゃがみ込むと、血まみれの額にそっと触れた。
 反応はない。
 けれど生きている温度を感じ、ほっとしたように息をつく。
「リロ・ロロイ、いつまで兄の言いなりでいるつもりだ?」
 フィオナの呼びかけに、少女は顔を上げた。
「兄妹であるなら突き放してやるのも慈悲だろうに」
 文歌は真っ直ぐに友を見つめると、想いの丈を告げる。
「リロさんの納得いく道を選んでください。それが私たちの願いですから」
「悩む間にも状況は動くから、選択はお早めにねえ」
 そう告げる明は、深傷を負って立てる状態ではなかった。それでも普段通りの笑みを浮かべ。
「私も私で、私のために兄君と戦ってるし」

「本当はもう、答えが出てるんだろう? 嬢ちゃん」
 常久の言葉に、ナナシも頷きながら微笑んでみせた。
「自分から出てきたんだものね」
 二人の言葉にリロは一旦俯いてから、視線を上げ。意を決したように唇を開いた。
「ボクは…兄様と戦うことはできない」
 血の繋がった、ただひとりの存在。
 たとえそのことで後悔したとしても、紛れもない本心だった。
「それが君の選択なら、私は何も言うことはないさ」
 そう告げる明の言葉もまた、紛れもない本心だった。
「でも、キミ達を諦めることもできない」
 伸ばされた指先が、明の頬に散った血をぬぐう。

「それがボクの”欲”だよ」

 その時、クラウスが指を鳴らした。するとどこからか怪鳥型ディアボロが現れ、彼らの元へと降り立つ。
 気絶したままのカーラを乗せたリロは、撃退士へ向け一礼する。
「じゃ、ボクは行くね。このお礼はいずれ」
 去ろうとする彼女へ、透次は先日の礼を告げる。
「その…マリアンヌさんたちにもよろしくお伝え下さい」
「うん。マリーもヴィオも、会いたがってると思うよ」
「お姉ちゃん…また…一緒に遊べるよね…?」
 ベアトリーチェに続いて、英斗と諏訪も声をかける。
「色々あるでしょうけど…解決したら、また遊びに来て下さいね。待ってますから」
「新しい紅茶とお菓子も、準備しておきますねー!」
「わかった。楽しみにしておくね」
 愁也はややばつが悪そうに頬を掻きながら。
「オニイサマにだいぶ色々言っちゃったよね」
 ううん、とリロはかぶりを振る。
「ボクが何か言えるような立場じゃないし。それにやっと…色々、わかったから」
「…そっか。ならよかった」
 
「さて、借り一つ、かな?」
 そう言ってアスハが見やった先で、クラウスは微笑みながら返した。
「そういうことにしておきましょう」
 だってその方が、返してもらう楽しみが増えるでしょう?
 聞いた遥久も笑いながらアスハと頷き合う。
「次回があれば、『ジョーカー』を持参したいですね」
 来られなかった友人を思いつつ。
「今度はメリーの手料理をご馳走するのです!」
 メリーがとんでもない宣言をする隣で、赤薔薇はやっぱり困惑気味に呟く。
「この悪魔一体何なんですか…」

 先にリロを見送ってから、クラウスも撃退士へ告げた。
「では、私も行きます」
「待ってミスター!」
 縁はその背中を追いかけると、ぎゅっとハグする。
 会いたかった。
 会えて嬉しかった。
 伝えたいことはたくさんあるのに、想いは言葉にならずこぼれ落ちてしまう。
 悪魔はおやおやと微笑っていたが、やがて伸びた指先が金糸の髪を軽く撫でた。
「しばらく見ないうちに、少し大人びたようですね」
「ねえ、会えないうちにちゃんと愛を育ててくれた?」
 祈羅の言葉に黒猫面はくすくすと笑いながら。
「さあ、それは”道化の悪魔”に聞いてください」
「やれやれ。相変わらずお前には敵わないなあ」
 そう言いやる歩に、悪魔は珍しく苦笑気味に。
「あなた方こそ、相変わらず見せつけてくれたじゃないですか」
 それを聞いた歩は、さもおかしそうに笑う。
「悪魔の君に思うのも変だけど…また会えて良かったよ」
 真里の言葉に、面の下で微笑が咲く。
 名残惜しげな指先が縁から離れると同時、涼やかな声が響いた。

「いずれ、また」







「じゃあ、お疲れさま。気を付けてね」
 オペレーター室で通信を切った旅人は、震えるように吐息を漏らした。
(無事に済んでよかった…)
 本音を言えば、現地で共に戦いたかった。
 けれど行かなくてよかったのだろうと、今さらながら思う。
 脳裏に浮かぶのは、亡くした者たちの顔。
 あの場所にいたらきっと――

 悪魔を殺していただろうから。


 ※


 エンハンブレに帰還したリロは、兄を治療班に引き渡したところで黒猫面に遭遇していた。
「その…クラウ」
「あなたのために手を貸したつもりはありませんよ」
 彼女が何か言うより早く告げ、悪魔はゆっくりと面を外す。
「ただ、あの時あなたがいつまでも受け身だったら――いえ、これ以上はよしましょう」
 仮定の話をするのは無粋だと悪魔は微笑う。
「で、あなたはどうするつもりなのです」
「今はまだ。でもひとつだけ、わかったことがある」
 自分は兄と彼らを、天秤にかけることはできないのだと。
「ふふ…言っておきますが、困難な道となりますよ」
「わかってる。いずれちゃんと、答えを出すよ」
 そう言い切った少女を興味深げに見やりつつ。
 悪魔は猫のような瞳を、さも愉快そうに細めてみせた。

「あなたもなかなか、欲が深いじゃありませんか」



依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 二月といえば海・櫟 諏訪(ja1215)
 おかん・浪風 悠人(ja3452)
 撃退士・雨宮 歩(ja3810)
 撃退士・鳳 静矢(ja3856)
 ブレイブハート・若杉 英斗(ja4230)
 輝く未来を月夜は渡る・月居 愁也(ja6837)
 蒼閃霆公の魂を継ぎし者・夜来野 遥久(ja6843)
 撃退士・久我 常久(ja7273)
 紡ぎゆく奏の絆 ・水無瀬 快晴(jb0745)
重体: 紫水晶に魅入り魅入られし・鷺谷 明(ja0776)
   <悪魔の本心を呼び起こしたため>という理由により『重体』となる
 撃退士・雨宮 歩(ja3810)
   <悪魔と愛をぶつけ合ったため>という理由により『重体』となる
 輝く未来を月夜は渡る・月居 愁也(ja6837)
   <本当のことを言っちゃったため>という理由により『重体』となる
 蒼閃霆公の魂を継ぎし者・夜来野 遥久(ja6843)
   <無茶する奴が多かったため>という理由により『重体』となる
 紡ぎゆく奏の絆 ・水無瀬 快晴(jb0745)
   <恋人を護りきったため>という理由により『重体』となる
面白かった!:22人

未来へ・
陽波 透次(ja0280)

卒業 男 鬼道忍軍
紫水晶に魅入り魅入られし・
鷺谷 明(ja0776)

大学部5年116組 男 鬼道忍軍
二月といえば海・
櫟 諏訪(ja1215)

大学部5年4組 男 インフィルトレイター
最強の『普通』・
鈴代 征治(ja1305)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
『天』盟約の王・
フィオナ・ボールドウィン(ja2611)

大学部6年1組 女 ディバインナイト
あなたの縁に歓びを・
真野 縁(ja3294)

卒業 女 アストラルヴァンガード
おかん・
浪風 悠人(ja3452)

卒業 男 ルインズブレイド
蒼の絶対防壁・
鳳 蒼姫(ja3762)

卒業 女 ダアト
撃退士・
雨宮 歩(ja3810)

卒業 男 鬼道忍軍
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
ブレイブハート・
若杉 英斗(ja4230)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
真ごころを君に・
桜木 真里(ja5827)

卒業 男 ダアト
輝く未来を月夜は渡る・
月居 愁也(ja6837)

卒業 男 阿修羅
蒼閃霆公の魂を継ぎし者・
夜来野 遥久(ja6843)

卒業 男 アストラルヴァンガード
撃退士・
久我 常久(ja7273)

大学部7年232組 男 鬼道忍軍
撃退士・
雨宮 祈羅(ja7600)

卒業 女 ダアト
蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
紡ぎゆく奏の絆 ・
水無瀬 快晴(jb0745)

卒業 男 ナイトウォーカー
誓いを胸に・
ナナシ(jb3008)

卒業 女 鬼道忍軍
蒼閃霆公の心を継ぎし者・
メリー(jb3287)

高等部3年26組 女 ディバインナイト
絶望を踏み越えしもの・
山里赤薔薇(jb4090)

高等部3年1組 女 ダアト
シスのソウルメイト(仮)・
黒羽 拓海(jb7256)

大学部3年217組 男 阿修羅
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師
烈火の拳を振るう・
川内 日菜子(jb7813)

大学部2年2組 女 阿修羅
揺籃少女・
ベアトリーチェ・ヴォルピ(jb9382)

高等部1年1組 女 バハムートテイマー