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マスター:久生夕貴
シナリオ形態:イベント
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:50人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2015/07/01


みんなの思い出



オープニング



●中種子町

 その日、八塚 楓(jz0229)は何年ぶりかわからない能の舞台を踏んでいた。
 一部の生徒にどうしてもと頼まれ、秘密裏に開催した。教師陣も気づいていながら黙認しているのだろう。中種子高校の体育館には噂を聞きつけ集まった生徒と、リコ・ロゼ(jz0318)も紛れ込んでいる。
 演目は修羅能『巴』。シテとなる巴を楓が務め、ワキである僧は兄である八塚 檀(jz0228)が演じている。
 もう稽古をしなくなってから何年も経つというのに、身体は覚えているから不思議だ。
 しかし兄とてそれは同じなのだろう。囃子も面もない舞台だが、袴姿の二人が見せる舞は観客を引きこむほどの迫力に満ちていて。
 演じ終えた二人に拍手が送られる。
 自身がシテを務める最初で最後の舞台は、ひどく静かな心持ちで演じられた。

 シマイが島から離れて二週間。
 いずれあの悪魔が戻ると分かっていながらも、楓にとって人生でこれほど穏やかな時間を過ごせたことはない。

 生も死も、罪も罰も。
 自身の本音も、他者から向けられる想いまでも。
 今まで逃げてきたすべてに向き合うことを選んだ途端、あらゆる恐怖から解放された。

 こんなに簡単なことなら、なぜもっと早く――

 そう思いかけてかぶりを振る。
 過去でも未来でもなく『今』であったことに、きっと意味はあったのだ。

 その時、頭の奥深くが痛むのを感じ再度頭を振る。
 軽い目眩を覚えたところで、校内放送が響き渡った。

「緊急事態です。悪魔シマイ・マナフ(jz0306)が現れたとの情報が入りました!」

「楓」
 自身を呼ぶ声に振り返ると、そこには檀や撃退士達の姿がある。
「行こうか」
 かけられた言葉に頷き、歩き出す。
 もうここからは、戻り便のない最終航路。けれどこの先どうなろうと、迷いはしない。
 
 己の生の意味は、己自身で与えなければならない。
 すべては、自分で選んだ『自由』だから。

 ※

「島北部に『箱』が出現した」

 指揮官である九重 誉(jz0279)は集まった生徒達へ向け、開口一番そう告げた。
「ゲートですか?」
「いや、恐らくは結界の類だろう」
 聞いた生徒の一部はなるほどと言った表情を浮かべる。結界師と呼ばれるあの悪魔なら、突然巨大結界を出現させることも可能だろう。
「巡回中の生徒によれば、その箱から毒のようなものが拡散しているようだ」
 誉の言葉に一同は騒然となる。
 既に毒は北部域を覆い始めており、ここ中種子町へも迫っているという。このまま毒が南下していけば島全土を覆うのも時間の問題だ。
「結果外の対応はこちらで何とかしよう。諸君等は即刻北上し、結界破壊を遂行してもらう」
 誉はその鋭い視線で生徒達を見渡すと言い切った。

「これ以上奴の好きにさせるわけにはいかない。頼んだぞ」


●種子島北部

 西之表市郊外の一角に、その『箱』はあった。
 大きさは一般的な家屋サイズだろうか。真っ黒な物体の四方から黒紫色の煙が絶えず放出されているのがわかる。
 入口は北側に一箇所のみ。そこから突入した撃退士は、内部の異様な光景に思わず目を奪われた。

「なんだここは……」
 
 外観とは異なる巨大空間。
 目前に伸びる道は玩具ブロックのような物体で作られており、百メートル程先から三つに分かれさらに奥へとつづいている。
 道の周囲には巨大な積み木やヨーヨー、パズルピースやらがうず高く積み上げられおり、散らばる原色が目に痛い。
 たとえるなら、それは巨大なおもちゃ箱――無邪気な明るさは微塵も感じられないが。

『やあ、来てくれたんだね。嬉しいよ』

「この声は……シマウマのおじさん!」
 リコの反応通り、どこからか聞こえる声はシマイのものに違いなかった。まるでどこかにスピーカーがあるかのように、軽薄な響きが届いていくる。

『折角来てくれたんだし、君らに伝えておこうと思ってね。まず君らの予想通り、毒を振りまいている装置はこの結界内にある。破壊すれば止められるから頑張りなよ』
 まるで他人事のような言い方に、一部の撃退士が悪態をつく。しかしシマイは反応することなく、一方的な話は続く。
『ただね、迂闊な単独行動はお勧めしないよ。ここは広すぎて、俺ですら何がどこにあるかわからないからさ』
 説明によるとこの結界内は迷路のように入り組んでおり、作成者すら正確なルートはわからないのだと言う。

『自分で作った箱の中で迷っちゃうんだ。はは、傑作だろ?』

 乾いた笑い声がこだまする。
 つまりは、自身の制御すら及ばないものをシマイは使っているというのだ。
「なんでそんなものを……」
 撃退士の呟きに、同行していた檀が応える。
「これだけの結界規模です。猛毒装置等の管理を考えると、細かな制御は捨てざるを得なかったのでしょう」
 事実シマイの話は一方通行で、こちらの会話が聞こえているように感じられない。

『ああ、それと一番大事なことを伝えとくよ』
 へらへらとした物言いで告げられるのは、深刻かつ肝とも言える事実。
『この結界はさ。一度入ったら出られないし、破壊することもできない。俺を殺さない限りはね』
 撃退士達が息を呑む中、さらなる事実が伝えられる。
『ついでに言うと、俺自身もここから出ないと結界解除できないんだけどさ。残念なことに出口は簡単に作れないんだよ』
 そこで一瞬、言葉が途切れた。

『――ここまで言えば分かるだろ?』

 冷えた声音。
 ぞっとするような感覚が、撃退士の背筋をすり抜けていく。
「つまり……目的を達成するまで、結界解除するつもりはないってこと?」
 それこそ、腕をもがれようが目を潰されようが――死ぬまで。
「狂ってやがる……」
 執着か、死か。
 他の選択肢を自ら捨てた悪魔に、半ば狂気に近いものを感じる。
 撃退士達は改めて周囲を見渡した。

 使い古された積み木の山。ジクソーパズルのピース。
 使われた様子のないオセロ。対戦型のボードゲーム。

 常に軽薄な笑みを浮かべ、心の内を見せようとしなかった浸食の悪魔。
 けれど今ならわかる。
 この『おもちゃ箱』に詰め込まれた歪みこそが、シマイの本質なのだと。

「あいつの言ったことは本当なのか、楓」
 問われた楓はかぶりを振る。
「俺もここへ来たのは初めてだからな……シマイがどこまで本当の事を言っているのかはわからない。だが、あいつが結界内を把握できていないのは事実だろう」
 自分たちがどこで何をしているのか分かるのなら、自分を真っ先に狙いにくるはず。それができないのは、シマイ自身も結界内で起きたことを認識する術がないとの判断だ。

 その時、誉から通信が入った。
 報告によれば散布されている毒は即効性はないらしい。しかし長く苦しみながら死に至るタイプのもので「いかにもあの悪魔が好みそうだ」とは誉の評である。
『加えて弱った一般人を運搬用ディアボロが結界内に運び込んでいるのがわかった。恐らく結界内のどこかに集められている可能性が高い』
 目的は不明だが、どうせろくなものじゃないだろう。楓が語った言葉がよぎる。

 ――あいつを生かしておけば、ろくなことにならない。

(……馬鹿な男だ)
 生徒達へ指示を出しつつ、誉は内心で独りごちる。
 浅薄なゲームにのめり込み、引き際すら見失った。ならばこちらとて容赦せず潰してやるのが、温情というものだろう。

『全班、慎重を期して任務に当たれ。必ず生きて帰ってこい!』

 悪魔のデスゲームが幕を開けた。



リプレイ本文

該当リプレイは以下のURLの特設ページで公開されております。

http://www.wtrpg9.com/event/event_syushi/

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 撃退士・鳳 静矢(ja3856)
 おまえだけは絶対許さない・ジーナ・アンドレーエフ(ja7885)
 蒼を継ぐ魔術師・アスハ・A・R(ja8432)
 闇夜を照らせし清福の黒翼・レイ・フェリウス(jb3036)
 おまえだけは絶対許さない・ファラ・エルフィリア(jb3154)
 暁は来ぬ・赤糸 冴子(jb3809)
 セーレの大好き・詠代 涼介(jb5343)
 種に灯る送り火・平賀 クロム(jb6178)
 和風サロン『椿』女将・木嶋香里(jb7748)
 Half of Rose・浅茅 いばら(jb8764)
 花唄撫子・芹沢 秘密(jb9071)
 空の真ん中でお茶を・夜桜 奏音(jc0588)
重体: −
面白かった!:33人

双月に捧ぐ誓い・
獅堂 遥(ja0190)

大学部4年93組 女 阿修羅
暗殺の姫・
紅 鬼姫(ja0444)

大学部4年3組 女 鬼道忍軍
紫水晶に魅入り魅入られし・
鷺谷 明(ja0776)

大学部5年116組 男 鬼道忍軍
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
澪に映す憧憬の夜明け・
マクシミオ・アレクサンダー(ja2145)

卒業 男 ディバインナイト
おかん・
浪風 悠人(ja3452)

卒業 男 ルインズブレイド
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
蒼の絶対防壁・
鳳 蒼姫(ja3762)

卒業 女 ダアト
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
おまえだけは絶対許さない・
ジーナ・アンドレーエフ(ja7885)

大学部8年40組 女 アストラルヴァンガード
天眼なりし戦場の守護者・
ファリス・メイヤー(ja8033)

大学部5年123組 女 アストラルヴァンガード
レックスのおかんゝω・)・
アンネ・ベルセリウス(ja8216)

大学部7年273組 女 アストラルヴァンガード
白銀のそよ風・
浪風 威鈴(ja8371)

卒業 女 ナイトウォーカー
蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
華麗に参上!・
アンジェラ・アップルトン(ja9940)

卒業 女 ルインズブレイド
滅雫のヴァルキュリア・
蒼井 御子(jb0655)

大学部4年323組 女 バハムートテイマー
穏やかなる<時>を共に・
早見 慎吾(jb1186)

大学部3年26組 男 アストラルヴァンガード
Rapid Annihilation・
鷹代 由稀(jb1456)

大学部8年105組 女 インフィルトレイター
種子島・伝説のカマ(白)・
香奈沢 風禰(jb2286)

卒業 女 陰陽師
chevalier de chocolat・
チョコーレ・イトゥ(jb2736)

卒業 男 鬼道忍軍
闇夜を照らせし清福の黒翼・
レイ・フェリウス(jb3036)

大学部5年206組 男 ナイトウォーカー
おまえだけは絶対許さない・
ファラ・エルフィリア(jb3154)

大学部4年284組 女 陰陽師
撃退士・
アステリア・ヴェルトール(jb3216)

大学部3年264組 女 ナイトウォーカー
暁は来ぬ・
赤糸 冴子(jb3809)

小等部6年2組 女 阿修羅
Standingにゃんこますたー・
白野 小梅(jb4012)

小等部6年1組 女 ダアト
リコのトモダチ・
サラ・U(jb4507)

大学部4年140組 女 ディバインナイト
種子島・伝説のカマ(緑)・
私市 琥珀(jb5268)

卒業 男 アストラルヴァンガード
澪に映す憧憬の夜明け・
ロード・グングニル(jb5282)

大学部3年80組 男 陰陽師
セーレの大好き・
詠代 涼介(jb5343)

大学部4年2組 男 バハムートテイマー
永遠を貴方に・
ヘルマン・S・ウォルター(jb5517)

大学部8年29組 男 ルインズブレイド
惑う星に導きの翼を・
ロドルフォ・リウッツィ(jb5648)

大学部6年34組 男 ディバインナイト
種に灯る送り火・
平賀 クロム(jb6178)

大学部3年5組 男 アカシックレコーダー:タイプB
久遠の風を指し示す者・
ケイ・フレイザー(jb6707)

大学部3年202組 男 アカシックレコーダー:タイプB
おまえだけは絶対許さない・
ディアドラ(jb7283)

大学部5年325組 女 陰陽師
撃退士・
綾羅・T・エルゼリオ(jb7475)

卒業 男 アカシックレコーダー:タイプB
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師
和風サロン『椿』女将・
木嶋香里(jb7748)

大学部2年5組 女 ルインズブレイド
Lightning Eater・
紅香 忍(jb7811)

中等部3年7組 男 鬼道忍軍
リコのトモダチ・
Julia Felgenhauer(jb8170)

大学部4年116組 女 アカシックレコーダー:タイプB
終わらない納豆の夢を見た・
三下 神(jb8350)

高等部3年27組 男 ダアト
Half of Rose・
浅茅 いばら(jb8764)

高等部3年1組 男 阿修羅
明けの六芒星・
リアン(jb8788)

大学部7年36組 男 アカシックレコーダー:タイプB
撃退士・
僅(jb8838)

大学部5年303組 男 アストラルヴァンガード
花唄撫子・
芹沢 秘密(jb9071)

大学部3年253組 女 アカシックレコーダー:タイプA
大切な思い出を紡ぐ・
ジョン・ドゥ(jb9083)

卒業 男 陰陽師
揺籃少女・
ベアトリーチェ・ヴォルピ(jb9382)

高等部1年1組 女 バハムートテイマー
孤高の薔薇の帝王・
カミーユ・バルト(jb9931)

大学部3年63組 男 アストラルヴァンガード
空の真ん中でお茶を・
夜桜 奏音(jc0588)

大学部5年286組 女 アカシックレコーダー:タイプB
UNAGI SLAYER・
マリー・ゴールド(jc1045)

高等部1年1組 女 陰陽師
甘く、甘く、愛と共に・
麗奈=Z=オルフェウス(jc1389)

卒業 女 ダアト