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マスター:久生夕貴
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2015/06/28


みんなの思い出



オープニング


 これはツインバベルでの喧騒より、一週間ほど前の話。

 久遠ヶ原学園教授ミラ・バレーヌ (jz0206)は、学園内に貼り出された一枚のポスターに目が釘付けになっていた。
「こ……これは……!」


●大学部文化人類学研究室

「みんな、聞いてくれ!」

 勢いよく扉を開けたミラに、ゼミ生達が一様に視線を向けた。
「僕はさっき凄いものを見たのだよ!」
 ばたばたと駆け寄るミラに、生徒達は慣れた様子で対応する。
「はいはい、教授どうしたんですか。またカタツムリが競争でもしてたんですか」
「ああ、そのことなら今日はナメクジが競争しているのを見たよ!」
「それはよかったですね。このアイス食べます?」
 チョコアイスを渡されたミラは棒を握りしめたまま、うずうずとした様子で一枚の紙を差し出す。
「これを見てくれ!」
 ミラがばーんと差し出した紙は、見たところ何かのチラシのようだった。踊るような横文字を口に出してみる。
「『Musical of Gothic!』……?」
 内容によれば、四国にあるテーマパークで近々上演されるらしい。そう言えばあの場所に出掛けるという依頼も出ていた気がする。確かフードパークへの招待だったか。
 チラシを見つめる生徒の視線先、紙面の中央部には以下の文字がでかでかと書かれていた。


 ”その日、歌劇場の舞台であなたはファントムと出会うでしょう”


「ええと教授、これってミュージカルのチラシですよね?」
 生徒の言葉にミラは瞳をきらきらと輝かせながらうなずく。
「そのみゅうじかるとやらに参加すれば、怪人と出会えると聞いたのだ。だから僕は早速電話してみたのだよ!」
「あ、じゃあもうチケット買ったんですか」
 チケットという言葉にミラは一瞬小首を傾げたものの、すぐに浮き浮きとした表情に戻り。
「向こうの話によるとね、なんと今演者が足りないというんだ」
「え?」
 聞けば前回の公演時にセットが倒れるアクシデントがあったらしく、怪我をした数名が出演できなくなっているというのだ。
「次の公演日が迫っているのにそれは大変ですね……」
 生徒達の想像通り劇団側も途方に暮れ、公演を取りやめようかという話になっていたらしい。そこへ、久遠ヶ原学園の教師から電話がかかってきた。
「劇団のひとはね、学園の生徒さんならなんとかしてくれるんじゃないかって言うのだよ」
「いや…でもこれ公演までもう日がないですよね?」
「うん。だからその場で参加すると言っておいたよ!」
「今なんと?(^ω^)」
 ぎょっとなる生徒達の前で、ミラはなぜか得意げな表情をしている。
「ちょ、ちょっと待ってください教授。まさか出演する方でOKしちゃったんですか?」
「もちろんだよ、僕たちが参加しなくちゃ怪人と出会えないじゃないか。危うく定員オーバーになるところだったんだよ!」
 だめだこの教師はやくなんとかしないと。
 慌てて再度チラシを確認すると、公演日まであと一週間しかない。というか恐らくたぶん絶対間違い無くミラはミュージカルの意味をわかっていない。
「今から猛特訓しても間に合うか……」
 一人の生徒が嫌な予感がしつつ、尋ねる。
「ええと教授、そろそろ前期考査が近いのですが授業は…」
「休講だ!」
「今なんと?(^ω^)」
 怖い顔をするゼミ生を前に、あわあわと弁明する。
「だ、だって人手が足りないというんだよ…! 僕らが助けてあげなくちゃ彼らが困ってしまうじゃないか!」
 ちなみにこの教授、堕天使で世間知らずもさることながら三度の飯より謎が大好き。
 怪しい噂を聞きつければ授業そっちのけでのめり込む悪癖があるのだが、今回はどうやらファントムという単語に反応してしまったらしい。
 涙目で必死に訴える教師(実年齢●百才)に、一同はため息をつきつつひそひそ相談。

(一週間あれば何とかなるか…?)
(まあもう引き受けちゃったもんは、断れないし……)
(というか、今断ったら教授ショックで二ヶ月は引きこもるんじゃないか)※前科数えきれず
(それだけは絶対阻止したい(全員一致))

 話は決まった。

「教授、わかりました。今から参加者を集めてきます」
「ほ、本当かい?」
 ぱっと顔を上げたミラに、生徒はうなずき。
「教授も今日から特訓ですからね」
「特訓? ああそうか、いつ怪人に出会ってもいいよう訓練しておくんだね。うん、わかったよ!」
 ミラは先程と打って変わって、急に生き生きし始める。その様子を見たゼミ生たちはやれやれと苦笑しつつ。
「まあ……教授が楽しそうならいいか」
 本人はミステリーツアーに参加する気にでもなっているのだろうが、この際些末なことだろう。
「私達ってつくづく訓練されてるよねえ…」
 主にミラの打たれ弱さに。
「でもどうせなら、いい舞台にしたいよな」
「そうだね。せっかくだし頑張っちゃおうか!」

 こうして、彼らは急遽ミュージカルに出演することとなったのであった。



リプレイ本文


 ここは四国のテーマパーク内にある歌劇場。
 集まった生徒達を前に、教師ミラ・バレーヌはきらきらと瞳を輝かせた。
「皆、今日は集まってくれてありがとう! 僕は…僕は嬉しいよ!!」
 なんかもう感極まっているミラに、日比谷ひだまり(jb5892)がぺこりとお辞儀。
「ミラ先生改めてお誘い感謝なのですわ! 不肖ひだまり頑張りますの!」
「おお、ひだまり君! 僕も頑張るよ!」
「ミュージカルに現れる怪人の謎を追え、ですわね。お会いできたらきっと素敵なのですわー!」
 くるくるとはしゃぐ二人を見て、日比谷日陰(jb5071)はいつもの気怠げな調子で苦笑する。
「劇、ねぇ…まあ、面倒だが、ひぃも楽しみにしてるみてぇだし」
 張り切る姪っ子をどこか楽しそうに見やり。
「先生にゃひぃがお世話になってるからなぁ…まあ、がっかりさせねぇようには、しっかりやるとするか」
 エルム(ja6475)も頷きながら。
「ミラ先生の勘違いから始まったことだけど…。せっかくの機会だから、いっぱい楽しんで、舞台も成功したら嬉しいですね」
 そもそもゴシックミュージカルがどんなものか分からなかった彼女、ネットで下調べをし練習に挑んだ。
 ダンスに歌、発声練習……この一週間やれるだけのことはやったつもりだ。
「先生、今日はきっとファントムに会えますよ」
「エルム君…そ、それは本当かい?」
 ミラの期待のまなざしに、エルムはにこりと頷いてみせる。

 開演まであと五分。

 慌ただしさが増す中、川澄文歌(jb7507)は人一倍の情熱を胸にステージへ立つ。
(私の望みは、すべての人を笑顔に!この上演もその大事な一歩だよっ)
 観てくれた人が時を忘れるほどの舞台を。そのために最高のパフォーマンスを届けてみせる。
 ギメ=ルサー=ダイ(jb2663)は上演前の独特な緊張感を味わっていた。
「ほう――なんとも素晴らしい。さすがは人の子よ」
 観客の密やかなざわめき。期待と不安が交互に押し寄せ、ホール全体が何とも言えない高揚感に包まれている。
「このギメ=ルサー=ダイ。芸術を知る者の一人として敬意を表そう」

 そう、合い言葉は――『フィナーレまで 脱ぐんじゃない』。

 開演一分前。

 紺のロングワンピースを身につけた竜見彩華(jb4626)は、再度衣装チェック。
「ちょっとはお洒落になれた気がします♪」
 白いフリルがアクセントの小さめケープ。靴下もフリル付きで可愛らしいものを選んだ。
 準備は万端。
 開演ブザーが鳴り、幕が上がっていく。
 彩華はストラップ付きのハイヒールをかつんと鳴らし、開幕の合図を告げた。

『Let's Gothic Musical!』


●序幕

 始まりは華やかなパフォーマンス演奏。
 ゴシック衣装に身を包んだ演奏者達が、楽器を手に次々と舞台上に現れる。

「さあ、さいっこうに盛り上げていっくよー!」

 彩華が肩掛けタイプのキーボードを弾くと同時、管楽器が一斉に鳴り始める。
 出だしはクラシック短調曲を今風にアレンジしたメドレー。スタンドプレイを用いた見た目も楽しい演奏だ。
「練習の成果を見せましょう!」
 踊るように奏でる彩華、実は譜面が何とか追えるレベルだったりする。
「難しい所はちょっと勢いでごまかしちゃいます…っ!」
 こういうのはきっと気持ちが大事。
 笑顔いっぱいで鍵盤を弾けば、生き生きした彼女のパフォーマンスに観客の熱も急上昇だ。

 途中入るのはパーカッションソロ。マリンバ奏者たちがマレットを回転させながら、見事な打鍵を披露していく。
「ミラ先生、一生に踊りましょう!ですわ!」
 タンバリンを叩くひだまりは、深緑の膝丈ゴシックドレスに黒いクマ耳帽子を身につけている。同じくミラも以前彼女から貰ったクマ耳帽子に、翡翠色の膝丈ドレス姿。
「どどどうしようひだまり君、ぼぼぼ僕緊張してきてしまったよ」
「大丈夫ですわよ、楽しんでやれば不思議とサマになるものですわ!」
 トライアングルを必死に叩くミラを、ひだまりは絶妙にフォロー。転ばないようには最重要課題だ。

「ヒリュウちゃん達も、ミラ先生をお手伝いするよー!」
 ここで彩華が呼び出す召喚獣たちが、スポット参戦!
 ヒリュウがトライアングルを叩けば、フェンリルがサスペンデッド・シンバルを実に器用に演奏していく。
 もちろん二獣とも蝶ネクタイとフリルたっぷりマントでおめかしだ。
「わぁかわいい〜!」
「召喚獣の愛らしさを最大限アピールですっ! …あ、召喚獣に事務所NG……出ません、よね?」
 時折くるくると飛んだり跳ねたり。愛らしい仕草に客席からは歓声が上がる。
 見ているこちらまで楽しくなるのは、きっと彩華の愛情ゆえん。

 最後は弦楽隊も加わっての、ジャズオーケストラ。
 コントラバスを演奏するギメは、身体全体に濃紺の絹を纏っている。
「我は裏方に徹する故な。目立たぬ衣装を選んだのだ」
 存在自体が目立っている気がしないでも無いが、そこはご愛敬。
 弦を弾くピチカート奏法が様になっていて、心地よいリズムを生みだしている。
「伴奏は役者さんより目立たないように…ように…と思っていましたけれど」
 彩華の言葉にひだまりも頷き。
「今宵は演者も演奏者も主役なのですわ!」
 だからめいっぱい、奏でて踊って楽しもう。
 全員揃っての立奏に観客から盛大な拍手が贈られる。

 さあ、舞台はまだ始まったばかり。


●第二幕

 彩華の奏でるゆったりとしたピアノが、静まりかえったホールに響く。
 蒼白い照明の中現れたのは、吸血鬼に扮したエルム。
 欧州貴族のような出で立ちは、まさに男装の麗人。白基調の衣装が褐色の肌によく映え、彼女の凜とした美しさをいっそう引き立てている。
(衣装合わせの時に提案してみたけど…思った以上の出来映えかも)
 颯爽と舞う吸血鬼は、やがて一人の少女と恋に落ちてゆく。

「私は貴女が欲しい。けれど私の愛は、貴女の命を奪ってしまう」

 苦悩に満ちるヴァンパイアにヒロインが告げる。
 貴女への愛を貫きたい。貴方に殺されるのならば本望だと。
 ならば問おう、とエルムは歌う。

「夜の住人となり、永遠の時を私と過ごせますか」

 二度と陽は貴女を照らしはしない。
 美しい鳥のさえずりも、貴女を癒すことはない。

「それでも、私との愛を選べるというのですか?」

 よく通る歌声を披露しながら、エルムは内心で想う。
(このお話は…天魔と人の恋に似ているのかも)
 与えられた時間の格差は、時にとても残酷だ。演じる吸血鬼が抱える苦悩は、天魔のそれに近いものがあるのかもしれない。

 命を奪ってでも――共にいられるのならと。

 彼女の見事な演技に、観客達は引きこまれている。
 演奏で花を添えるギメも感慨深いものを感じていた。
(――人の子らが踊り、天魔が奏でる舞台とは。これもまた一興と言うものか)
 彼が奏でるチェロの音色は、艶めいた響きとなって観客を包む。
「主ら、存分に舞うがよい。その才を示すがよい。我はそれを愛そう」

 人の子の輝きは一瞬だ。
 しかしその輝きは天より強く、魔をも惑わす引力がある。

(彼らの生はまさに舞台と同じよな)

 ゆえにどこまでも、愛おしい。

「主もそうであろう? ミラ殿」
 同じ天使であり、人の世界を愛する者。意思疎通で問われたミラは、ゆっくりと頷き。
「…僕はね、生徒達がいつか僕より先に死んでしまうかもしれないと考えると、時々とても恐ろしくなるんだよ」
 それは決して彼らの前では口にしないけれど。
「でも、こうやってひとときでも生徒達と過ごせるなら、それでいいんだ!」
 その言葉にギメはそうか、と頷くと壇上のエルム達に視線を戻す。
 月光の下で吸血鬼は、ヒロインの元から去る決断をする。

「私を愛してくれた貴女。どうかそのままで」

 朝が来れば陽の光が貴女を照らす。
 美しい鳥のさえずりが、貴女を癒すだろう。

「私なら大丈夫。――貴女と過ごした思い出だけで、永遠を生きていけるから」

 それが私の愛の証。

 最後の台詞を言い終えたエルムは、切なくも神々しくさえあって。
 照明がゆるやかに落ちていくと共に、チェロがゆっくりと残り音を弾いていく。
 余韻と共に、盛大な拍手がホール内に鳴り響いた。


●三幕 

 最初に現れたのは、黒のゴシックドレスを身に纏った文歌。
 孤児院育ちのヒロインは、月を見上げ言葉を落とす。

「寂しい月明かり……。孤独だった孤児院でのつらい日々を思い出します」

 辛く寂しい日々を救ってくれたのは音楽だったと、彼女は歌い上げる。
 歌っている間は、なにもかもを忘れられるからと。

 美しい声を持つ彼女は、伯爵に才能を見込まれて歌劇団に入ることになる。
 これが全ての始まりとも知らずに――

 暗転。

 眩い光が溢れると同時、パイプオルガンが鳴り響いた。
 演奏者のひだまりが鍵盤に触れるたび、荘厳な音が波打ちホールを飲み込んでいく。
(……はじめてキーボードを触った日から長く経ちますわ)
 音楽の楽しさを知ったあの日。
 もっと上手くなりたくて、たくさんたくさん練習した。
(だからきっとこれだって、弾きこなしてみせますの……!)
 一音一音を大切に、歌うように奏でる。重低音がなぞる旋律に彩華がピアノを重ねれば、ギメが弾く弦楽の音色が全体をまとめあげていく。

 現れたのは、ファントムに扮した日陰。
(ひぃが頑張ってるなら、俺もちょっと気張るかねぇ)
 白き仮面に夜色の燕尾服。闇の住人を演じる彼は、どこか気怠げな歌声でヒロインをいざなう。
(さて、まずは自分らしくが一番だな?)
 低く心地よい響きで歌い上げれば、文歌はうっとりとした表情で。
「私、すべてどうでもよくなってしまいましたわ…」
 気づけば身も心も捕らわれ、深い闇に落ちていく。
 しかしふとしたはずみで仮面が落ちる。その下に隠された素顔に、少女は思わず悲鳴を上げた。

「――思いのほか醜いだろう?」

 仮面に隠れた闇。
 日陰は漆黒の外套を翻し、ファントムの悲哀を歌う。

「そう、この醜い獣を誰もが恐れる」

 焼け爛れた素顔。逃げ出す文歌の背を声が追う。

「この禍々しき怪物は地獄の業火に灼かれながら、それでも秘かに天国を夢見ている。諦めきれない美を夢見ている。叶わぬ夢と知りながらも!」

 文歌の足が止まる。
 白のサテンドレスに変わった彼女は、恐る恐る日陰の元へ歩み寄り。

「なんて哀しい瞳…けれど美しい瞳」

 怯える心と、魅入る心。
 震える手で爛れた頬に触れれば、日陰はびくりと反応する。

「醜い外見で心優しい貴方と、貴方の顔を見て逃げてしまった心の醜い私。どちらが真の怪物なのでありましょう?」

 切々と澄んだ歌声がホールに響き渡る。
 その瞳には涙が浮かび、恐れながらもファントムに強く惹かれるヒロインを見事に演じきっている。

(叔父さまも文歌さんもすげーのですわ!)
 二人の迫真の演技に、ひだまりの演奏にも俄然熱が入っていく。普段はとことん面倒くさがり屋である叔父が、今夜は別人のようで。
(クマ耳と姉様が、そして叔父様といつも一生懸命なミラ先生が、ひだまりに元気と勇気をくれますの)
 自分達を喜ばせようとしてくれていること。
 いつも見守ってくれていること。ちゃんとわかっている。
 想いは口にせずとも伝わっている。
 だからきっと。
(ヒロインだって怪人の想いに気づいておりますわ!)

「お前に私を想う勇気があるのか? 恐怖を愛に変えることができるのか?」
「もし私が貴方の眼鏡に適う淑女であるのなら、その懐中時計をくださいまし」

 日陰が躊躇いながら懐中時計を差し出す。
 受け取った文歌は、それはそれは美しく微笑んで。

「この懐中時計をくださったということは、私を認めてくださいますのね」

 クライマックスへ向け、文歌の歌声はよりいっそう澄んでゆく。

「夢見るのならば、共に飛び立ちましょう」

 愛することを恐れないで。
 愛されることを恐れないで。

「飛べないと思うから落ちるのです。夢だと思えば羽ばたけますわ!」
 
 手を取り合う二人の周囲に白き羽根が舞う。
 ピアノを繰る彩華は、鍵盤に指をすべらせながら徐々にテンポアップ。
(楽しげで明るい演奏ですが、こういうのもアリ…ですよね?)
 いつの間にか曲調は明るいものへと変わり、最後は祝福の調べとなってファントムとヒロインを送り出す。
 闇から光の世界へ。
 見てくれる人が幸せな気持ちになれるよう、めいっぱいの心を込めて。
(少しはアイツらに喜んでもらえたかねぇ)
 いつになく頑張った日陰の背で、割れんばかりの拍手とファンファーレが鳴り響いた。

●終幕

 フィナーレは全員揃っての大団円。
 光が踊り、演者が舞い、音の洪水がホール全体を飲み込んでいく。

「踊ってもらえますか? お嬢さん」
 冗談交じりで日陰が手を差し出せば、ひだまりはちょっとおしゃまにお辞儀してみせる。
「喜んでですわ、叔父さま!」
 文歌とエルムはワルツを描くように息のあった舞いを見せる。
 優雅にけれど、大胆に。
 ターンを踏めば歓声が上がり、銀の腰布が翻ればため息が漏れる。
「練習した甲斐がありましたね♪」
「ええ、今とても楽しいです」
 あっという間だった一週間。
 本当にやりきれるのか不安だったけれど、今こうして皆と舞台に立てたことを何より誇りに思う。
 隣ではミラがギメに教わったヴァイオリンを演奏中。
「なに、難しい楽器ではあるが人の子の文化に触れる良い機会よ」
「おお、音が鳴ったよギメ君!」
「芸術は情熱である。さあ、思う存分奏でるがよい!」
「バックコーラスなら美声を披露しちゃいます!」
 もちろんヒリュウとフェンリルが! と彩華がタクトを振る。
「凄いですね、この子達歌が歌えるんですか」
 目を丸くするエルムの隣で、文歌が彩華の手を取り。
「さあ、皆さんで歌いましょう♪」
「えっ!? わ、私は……その、が、頑張りますっ!」
 ちょっとくらい音を外したって構わない、緊張なんて忘れてしまおう。
「花ちゃんも一緒に踊るのですわ!」
 ヒリュウを召喚したひだまりは、コーラスを合わせながら軽やかにダンス。
 楽しい日々を、嬉しい日々を。
 軽やかに彩る妖精のように!
「ミラ先生も、ギメさんもご一緒に!」
「ふむ、最後とあらば、我も出させていただこう」
 ばさぁっ。
「舞台とは観客も合わせてのもの――我からも感謝を告げたいと言うものだ……!」
 フィナーレなら脱いでよし。
 自慢の筋肉美を惜しげも無く披露すれば、大きな歓声が沸き上がる。
 彩華が輝くような笑顔でジャンプした。

「皆さんありがとうございました!」

 光と花が舞い上がる。
 鳴り止まぬ拍手とカーテンコールの中――舞台は幕を閉じた。





 閉幕後。
 劇団員から大きく感謝された撃退士達は、日陰の提案で打ち上げを楽しんでいた。
「ミラ先生は怪人に出会えましたの?」
 ひだまりの問いに、ミラは大きく頷いて。

「うん。とっても素敵な怪人達だったよ!」

 そんな彼からのねぎらいは、ほかほかの揚げパンだったという。



依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:4人

穿剣・
エルム(ja6475)

卒業 女 阿修羅
我こそ肉体言語体現者・
ギメ=ルサー=ダイ(jb2663)

大学部4年215組 男 アストラルヴァンガード
想いを背負いて・
竜見彩華(jb4626)

大学部1年75組 女 バハムートテイマー
撃退士・
日比谷日陰(jb5071)

大学部8年1組 男 鬼道忍軍
日蔭のぬくもりが嬉しくて・
日比谷ひだまり(jb5892)

大学部2年119組 女 バハムートテイマー
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師