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マスター:久生夕貴
シナリオ形態:イベント
難易度:普通
形態:
参加人数:25人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2012/09/09


みんなの思い出



オープニング

 残暑厳しい八月下旬のある日。
 斡旋所スタッフの西橋旅人(jz0129)は手にした紙束に目を落とし、考え込んでいた。
 紙束の正体は生徒達からの「悲痛な叫び」。訴える内容は皆、同じだ。
「留年しそうだから何とかしてくれ……ね。私に言われてもなあ」
 そう言いながらも、旅人の表情にはまるで困った様子は見られない。むしろこの状況を、楽しんでいるかのようだ。
 やがて何か思いついたのか、旅人は微笑みながらうなずく。
「ここは斡旋所スタッフとしてひと肌脱ぐべき、かな」

 ――数日後。

 斡旋所掲示板には次のような依頼書が貼り出されていた。


『天下分け目の戦いへのご招待』

 この度、進級試験が危うい生徒達のために次のような企画を開催することになりました。
 参加者を募集いたします。

【企画説明】

1.参加者は東軍、西軍に分かれていただきます。
2.各軍の中から【大将】【副将】を一人ずつ選びます。
3.残りの中から、各軍【一騎討ち】【流鏑馬(やぶさめ)】を行う人間を各二人ずつ選びます。
4.残りのメンバーは一般兵として最終戦で激突してもらいます。なお、【一騎討ち】【流鏑馬】に参加した人は残り人数としてカウントはされますが、最終戦への参加はできませんのでご注意下さい。
5.各軍勝利目指して戦っていただきます。

 詳細は斡旋所スタッフ西橋まで。

 ※この企画に参加すると、社会の点数が上がるように許可をもらっています。点数目当ての方も、単に暴れたい(訂正線)修練を積みたいだけの方もふるってご参加ください。

 ……え、説明これだけ?
 依頼を見た生徒達は、皆あ然となる。
 一体これに参加するとどうなってしまうのか。
 不安になると同時に、何やら気になって仕方ないのも事実。
 そんな生徒達の様子を、微笑ましく(?)見守る旅人なのであった。


リプレイ本文


 荒野に吹き荒れる、一陣の風。
 向き合うのは、東と西に分かれた撃退士たち。
 艶やかな黒髪をさっとなびかせ、東軍大将、桜井・L・瑞穂(ja0027)が手にした扇(ゴージャスカスタマイズ済み)を高々と掲げる。
「わたくし達が目指すのは、勝利ただ一つのみ。いざ、尋常に勝負していただきますわ!」
 対するは西軍大将、仁科皓一郎(ja8777)。
(試験、てェのはこんなンだったか……)
 と思いつつ。
 そこは意外とノリの良い彼。手にした竹刀を瑞穂に向けて、不敵に笑みを返す。
「受けたからには、負けらねぇってことでよ。悪ぃが、その首いただくぜ」

 ひゅん、と言う音と共に鏑矢が両陣に向かって放たれる。
 直後あがるのは、地が震えるほどのときの声。 
 漏れる殺気、溢れる熱意。

 久遠ヶ原天下分け目の戦い、ここに開幕。


●荒ぶる流鏑馬

 まず始まったのは前哨戦。
 馬に乗ったまま矢を的に放つ、流鏑馬(やぶさめ)での勝負だ。参加するのは四人の弓馬士たち。
 この戦の黒幕もとい仕掛け人である西橋旅人(jz0129)が、説明を補足する。
「二回放った内、より点数が高い方を採用するよ。各軍二人ずつ出てもらうから、それぞれの点数の合計で勝敗を決めることになるね」

 軍配団扇を手にした審判が、撃退士たちに向けて威勢良く声をあげる。
「では流鏑馬勝負、開始!」

 先攻は東軍。まず矢を放つのは、十八九十七(ja4233)だ。
 パートナーは大型の黒馬。小回りは利かないが、安定感と圧倒的な体力が自慢である。
 彼女は鼻息荒い黒馬に向かってにっこりと微笑む。
「今日はよろしくお願いしますの」
「ぶひひん(うっせー)」

 ※※しばらくお待ち下さい※※

 開始地点に移動した九十七は、隈に縁取られた瞳を細め微笑む。
「二輪と違って馬は初めて乗りますけど、意外とちょろ……大丈夫なものですね」
 心なしか黒馬の目が血走っているように見えるが、きっと気のせいだろう。
「さあ、参りますわよ!」
「ぶひひーん!(私は貴女の下僕DEATH!)」
 勢いよく駆け出す黒馬。目指す的は200m先にある。どんどんと加速する中、彼女はバランスを保ったまま弓を構える。
「皆中頂きですの!」
 まっすぐに的に向かって放たれる矢。これはもらった! と東軍の誰もが思った瞬間。

 ひょい。

 ……え?

 あっさりと避けられた矢。走り去る的。その様子を見た九十七は、呆然となる。
 そうだ。ここは久遠ヶ原だ。
 そんな簡単に的に当たると思ったら、大 間 違 い だ っ た。

 口元をひくつかせながら、九十七は声を漏らす。
「上等じゃねェかよォ……」
 え、あれ、なんか周囲のドス黒オーラが退廃的にアレなことになってません?
「このファッ■■■ンカ■野郎がァアアァッ!!!」
 完全に狂化を果たした彼女を、止められるものなどいない。
「逃げンじゃねェぞクソ的がアッァアァァッァアァ!!!」
「ぶひひーん!(○×→△※■)」
 走る黒馬、逃げる的。    
 けたけたと笑いながら弓を引く彼女。心なしか的から出ている足が震えている気がするのは、気のせいだろう。

 \パーン!/

「おらァアァァ殺ったぜエェェェエッッ!」
 見事な命中に、彼女の奇声(二重線)喜声がこだました。

 十八九十七 点数:87点


 続いて矢を放つのは、西軍・緋伝瀬兎(ja0009)。
 動物が大好きな彼女は、馬に乗れる! と言う単純明快な理由で流鏑馬に志願していた。
 馬を前にした彼女は、撫でながら話しかける。
「やっぱりお馬はでっかいなぁ。今日はよろしくねー」
 瀬兎が選んだのは赤毛の駿馬。乗りこなすのが難しいと言われたのだが、一目見た彼女はこの馬が気に入ったのだ。
 瀬兎はさっそうと馬にまたがると、開始地点へと移動する。
「さあ、行くよ!」
 開始の合図と同時、神速で荒野を駆け抜ける赤馬。その様は、まさに赤兎馬(伝説の駿馬)のごとくだ。
 瞬く間に的が待ち受ける場所まで駆け抜けたは良いのだが、あまりにも速すぎたせいか逃げる的を追い越してしまう。
「うわっしまった!」
 放った矢は的の横をすり抜けていく。一射目は失敗だ。
(速すぎたか……でも、私はこの子を乗りこなしてみせる!)
 瀬兎は優しく馬に話しかけながら、再び弓を構える。
「大丈夫。今のはキミのせいじゃないよ。次は当ててみせるから」
 放てる矢はあと一回。彼女は的を見据えながら口を開く。
「やっぱり馬上で動く的は狙いづらいけど……こういう時は、得意なものをイメージしろって誰かが言ってた」
 彼女の紅い瞳に、何かがはっきりと映るのが他者の目にもわかった。
 纏う緋色のオーラがさらに強く燃え上がる。
 再び駆け出す馬。どんどんとスピードが上がり、的へと近づいてくる。瀬兎は的を狙いながらつぶやく。
「(あの的はオニギリ、あれはとってもおいしいオニギリ)……中央の梅干目掛けてシュート!」

 …え…梅干し…? 

 と周囲が思ったのと同時、彼女が放った矢が走る的に見事命中する。

「よし、やったね!」
 嬉しそうな瀬兎と共に、馬も心なしか満足げである。
「この戦法、集中できるのはいいけどお腹空くのが難点かも……」
 苦笑いする彼女の手には、既に本物のおにぎりが握られているのだった。


 緋伝瀬兎 点数:72点


 三番目に矢を放つのは、東軍・神楽坂紫苑(ja0526)。
 細身で涼やかな外見の彼は、一見女性と見まがうほど。紫苑は周囲に漂うただならぬ雰囲気を感じながら、苦笑する。
「皆、熱いな。殺気もれまくりじゃないのか?」
 そう言いながらも長い黒髪を束ねている彼は、それなりにやる気のようだ。
 そんな紫苑のパートナーは美しい毛並みをした白馬。全てにおいてバランスが良く、性質も穏やかだ。
「やはり選ぶなら好みのタイプがいいからな」
 そう言って馬に優しく微笑みかける紫苑。白馬はすっかり彼に懐いているようだ。
 さすがは生粋のナンパ士。馬すらも守備範囲だとは誰が思おうか。

 紫苑は開始地点まで移動すると、弓を構えながらつぶやく。
「動くのは当てづらいんだが……」
 矢が何本も放てるのであれば、動く的の足でも狙うつもりだったのだが。今回は二本しか放てないため、そういうわけにもいかない。
「とりあえず、やってみるか」
 そう言うがはやいか、白馬と共に的へと駆け出す。狙いを付け一射目を放つが、矢はぎりぎりの所でかわされてしまう。
「外れたか……ま、しょうがないな」 
 再び苦笑しながら、矢を構え直す。申し訳なさそうな馬の様子に気付いた紫苑は、笑いながら言う。
「弓はいつも使っているから慣れている。心配するな」
 やだ格好いい……//と誰もが思った直後。紫苑は再び馬と共に荒野を駆け抜け、二射目を見事命中させる。
 沸き立つ歓声。
「ここで当てないと格好悪いからな」
 やれやれと言った様子で、息をつく紫苑。白馬にまたがるその姿は、妙に絵になっている。
 ちくしょう、このイケメンめ……と言う声が、どこかで聞こえた気がした。  

 神楽坂紫苑 点数:68点


 さて、流鏑馬も残すところあと一人。最後に弓を放つのは、西軍・氷月はくあ(ja0811)。

「馬!! うぅー、わくわくするっ」
 ふわふわの若草色の髪をはずませ、はくあは瞳を輝かせている。彼女もまた、馬に乗れるのが楽しみで流鏑馬に志願したクチだ。
 そんなはくあのパートナーは栗毛色の小柄な馬。体力は無いが取り回しが良く、瞬発力のある子を選んだのだ。
 馬をなでなでしながら、明るく話しかける。
「大丈夫だよね、わたし結構軽いし。ん、一緒に頑張ろうっ」
「ひひん!」
 ほんわかムードが二人を包む。互いの相性は、抜群のようだ。

 開始地点まで移動したはくあは、遙か先の的を見つめながらつぶやく。
「わたしもこの子も……全開は30秒ってとこかな」
 時間をかけるのは、馬の体力と自分の集中力的に危険。彼女の中で決めた限界値は、30秒だった。
「でも……それだけあれば、充分っ!」
 はくあの金色の瞳に、アウルが集中する。命中力を大幅に上げた彼女は、弓を構え一気に駆け出す!
 開始直後から全力で駆ける馬。逃げる的が近づく中、彼女はつぶやく。 
「全てが見えると……少しだけ未来が見えるのです……」
 弓を引ききり、的の中心を狙う。はくあの集中力が頂点に達した時、彼女の目にははっきりと矢の軌道が見えていた。
「後は、その未来を射ぬくだけっ!」
 勢いよくはじかれる弦の音。放った矢はまっすぐに的へと飛んでいき、その中心へと突き刺さる。

 パァン!

 乾いた音が、荒野に響き渡る。どよめく歓声。
 見事なる的中。これ以上の成果は無い、と言う当たりだ。
「はあっ……もう、ここが限界」
 はくあは最初から、一射目に全てをかけると決めていた。
「このコの為にも、二射目は棄権しますっ」
 そう言って馬に微笑みかける彼女。その表情は、とても満ち足りたものだった。


 氷月はくあ 点数:95点


 両軍点数を合計した結果、東軍:155点、西軍:167点となる。
 軍配団扇を手にした審判が、大きく手を振り上げる。

「勝者、西軍!」


●熾烈な一騎打ち

「くぅ……流鏑馬は負けてしまいましたわね。でも、とても良い試合でしたわ」
 東軍大将の瑞穂は悔しそうにしながらも、両弓馬士を称える。
 対する西軍大将の皓一郎も、戻ってきた二人をねぎらう。
「お疲れさん。なんつーか、お前さんらの気迫が伝わってきたぜ」
「さあ、まだまだ勝負はこれからですわよ!」
「次は一騎打ちか。これまた熱い戦いになりそうだねェ」

 さて、この一騎打ち。
 両軍文字通り一対一のタイマン戦。五ターン経過時に残り生命力が多い方が勝ちとなる。
 つまりはどういう戦法をとるかが、勝利への鍵となる。

●第一試合 東軍:雪室チルル(ja0220) VS 西軍:小田切ルビィ(ja0841)

 最初の試合は、両者共にルインズブレイドの戦い。能力値もほぼ互角の戦いである。
 
「やあやあ我こそは雪室チルルなるぞー! あたいを倒せるものはいないかー!」
 そう言って一歩前へ出るのは、東軍代表・北国元気少女。西軍に向かって手にした竹刀を突き付ける彼女は、完全に戦国武将気分だ。
 対するは、白銀の髪に紅玉のごとき真紅の瞳を持つ男。
「点数稼ぎにゃ興味は無いが、ヤルからには勝ちに行かなきゃな?――だろ?」
 西軍代表・小田切ルビィが飄々とそう返した直後、彼の全身に銀と緋色の紋様が浮かぶ。
「なるほど、あんたがあたいの相手ってわけね」
「悪いが手は抜かねえぜ」
 互いに交差する視線。燃えさかる火花。

 まるで笛のような甲高い音が響き渡る。
 審判が空に放った鏑矢の音。
 戦闘開始の合図だ。

 
「出し惜しみなしの全力よ!」
 第一ターン、先攻はチルル。竹刀を手にした彼女は、ルビィとの距離を取ると竹刀の先端にエネルギーを溜め始める。
 チルルにとって、戦う以上は全力を持って相手をするのが礼儀。故に初手から手を抜かない。
「行け、ブリザードキャノン!」
 そう言って竹刀を突き出したと同時、解放されたエネルギーが白く輝きながらルビィへと向かう。
 そのさまは、まるで吹雪のようで。
 対するルビィは回避を試みるが、避けきれない。
「くっ――!」
 衝撃が彼の身体を襲う。ダメージを負ったルビィだが、その表情は至って冷静だ。
「それならこっちは、守りを固めさせてもらうぜ」
 直後、彼の身体を黒と白が混ざり合った光が覆い始める。
 今回の戦いは互いに能力値がほぼ同じである以上、大幅に生命力を削ることも出来ない代わりに自分も削られることは無い。その為、防御力と移動力を上げる戦法に出たのだ。
「なるほどね……けど、あたいはどんどん行くよ!」
 チルルが再びブリザードキャノンをぶっ放す。しかし今度はあっさりと攻撃をかわされる。その隙をついて、ルビィも竹刀を振り抜く。
「こっちもお返しだ!」
 放たれた黒いオーラの斬撃が、チルルの腹部にヒットする。痛みで思わず顔ゆがめるチルル。
「くう……でもっ。とにかく、撃ちまくるんだから!」
 三回目の氷砲は、チルルの気迫がまさったのかルビィに見事命中をする。
 対するルビィが放つのも、同じく封砲。再び衝撃波を受け吹っ飛ぶチルル。

「はあ……はあ……やるわね」
 顔に付いた泥を払いながら、チルルは何とか立ち上がる。
「ふん……あんたもな」
 不敵な笑みをたたえているものの、ルビィも二度の攻撃を受けている。
 チルルほどでは無いにしろ、ダメージは確実に体力を奪っていた。
  
 残り二ターン。
 
 先攻はルビィ。竹刀から扇に持ち替えたルビィは、距離を取ったままビームを打ち放つ。
 しかしこれは、外れてしまう。対するチルルは弓矢に持ち替え矢を放つも、これもルビィにかわされる。

 残り一ターン。

 先攻はルビィ。
「……奥の手、ってのは――最後まで取っておくモンだぜ…!」
 彼は低く竹刀を構えると、刀に渾身のオーラを込める。
 チルルが使い果たした封砲を、最後まで温存しておいたのだ。
 振り抜く竹刀。勢いよく解き放たれる黒光の衝撃波。
「う……うわあああ!」
  
「はあ……はあ……あたいにはもう、攻撃する力は残ってない。これが、最後の手よ!」
 そう言い放ったと同時、彼女の傷口を氷結晶が覆い始める。そこから送り込まれたエネルギーにより、彼女の生命力がどんどんと回復していった。

「そこまで!」

 審判の声により、試合は終了する。勝負の結果は判定待ちになった。

「五ターン経過時の最終体力値を比較した結果――勝者、雪室チルル!」

「やったーーー勝ったわーーー!!」
 激闘を制した喜びに歓声を上げるチルル。ルビィが彼女に近づいて、手を差し出す。
「悔しいが……あんたの勝ちだ」
「とても良い試合だったわ。ありがとう!」
 ルビィが差し出した手を、チルルも握り返す。しかしその直後、その場にへたりこんでしまう。
「おいおい、どうしたんだよ」
「全力を出しすぎたみたい。も、もう動けないわ……」
 その様子に苦笑するルビィ。
 互いに全力を出し切った表情は、実に晴れやかなものだった。

 
●第二試合 東軍:水無月神奈(ja0914) VS 西軍:桐原 雅(ja1822)

 第二試合目はルインズブレイド対阿修羅と言う組み合わせとなる。
 突出した能力は無いがバランスが良く回復手段のあるルインズブレイドと、圧倒的な攻撃力を誇るが回復手段の無い阿修羅。
 両者どちらが勝るのか。
 周囲が息を飲む中、両軍の選手が一歩前へ出る。
 東軍代表は一つに束ねたまっすぐな黒髪をさっそうと揺らし、竹刀を構える女剣士。
 戦う相手を目にした神奈は、表情一つ変えることなく呟く。
「相手は能力、実力共に私以上の相手……倒すとなれば至難か。まぁだからこそ面白いが」
 対する西軍代表は艶のある黒髪と青みがかった瞳を持った少女。可憐な外見をした雅だが、内に秘める闘志は強い。
「仮にも代表として出るんだから、恥ずかしくない闘いにしたいんだよ」
 だから小細工一切無しで、正々堂々と戦う。

 両者共に真剣勝負。張り詰めた空気が、ぴりぴりと互いの頬を刺激する。

 審判が鏑矢を大きく空に放つ。
 戦闘、開始だ。

 先攻は雅。竹刀の二刀流で挑む彼女は、開始早々神奈の懐に入り込み十字斬りを叩き込む。
「くっ……速い!」
 神奈は攻撃をかわそうとしたが間に合わず、雅の攻撃をもろに受ける。竹刀とは思えない斬撃音が響き渡った。
「接近戦に持ち込むつもりか……ならばこちらは」
 神奈は雅からやや距離を取ると、竹刀を下段に構える。そして一気に切り上げると黒い衝撃波を放つ。
「……っ!」
 攻撃を受ける雅。しかし彼女はひるまない。
「ボクは回復する手段が無い。だから攻めること以外考えるつもりは無いんだよ」
 再び斬りこむ二刀の連撃。しかしこれは回避されてしまう。
「なんとか二回目はかわした……が。状況は良くないな」
 神奈は冷静に状況を判断する。阿修羅の圧倒的な攻撃力で、彼女は初太刀でかなりのダメージを受けていた。このまま戦い続けるのは危険だ。
「ここは回復をさせてもらおう」
 そう言って気の流れを整え始める神奈。直後、あっという間に生命力が回復する。それを見た雅が、つぶやく。
「うん……やっぱり、回復はやっかいだね」

 三ターン目は神奈の先攻。
 彼女はまるで躊躇することなく、全力での攻撃を叩き込むつもりだ。
「例え能力で劣ろうとも……この程度で恐れるようでは、とても悪魔とは戦えんからな」
 竹刀を低く構えた彼女は曲線的な動きで雅の懐に入り、一気に振り抜く。
 唸る斬撃音。吹き飛ばされそうになるのを何とか耐える雅。しかしこのまま攻撃を受け続ければ、先に倒れるのは間違いなく彼女だ。
「痛い……けど、負けない。ボクの攻撃、受けてもらう!」
 竹刀に力を込め、渾身の一撃を放つ。あまりの衝撃にはじき飛ばされる神奈。
「何という威力……だが、まだまだ私は倒れはせん!」
 しかしその直後。彼女を襲ったのは、悪夢。
「―――!!」
 身体が、動かない。それどころか意識さえも朦朧とする。雅の攻撃によりスタン状態となった神奈は、その場で行動不能状態に陥る。
(しま……った……このまま……では…)
 一騎打ちにおいて動けなくなると言うのは、致命的。再び襲いかかる雅の斬撃。
 勝敗はこの時点で決していた。
「悪いけど、倒れてもらうよ!」
 放たれる、十字の斬撃。気を失い、地に伏す神奈。

「そこまで!」

 審判の制止が、周囲に響き渡る。手にした軍配団扇が、西に向かって大きくふりかざされる。

「生命力0判定により勝者桐原雅!」 

 まさに死闘とも言える戦いに、しんと静まりかえる荒野。
 次第にどこからとも無く、拍手が聞こえてくる。両者を称える、賛辞の拍手。
 迫真の試合に、皆一瞬我を忘れたのだ。

 一騎打ち第二試合:勝者、西軍。
 

●決戦前の両陣営

「大丈夫。わたくし達は勝てますわ」
 東軍大将の桜井・L・瑞穂が、皆を見渡し力強く宣言する。
 しかし流鏑馬で東軍が負けた影響により、瑞穂は三ターン何もできない。これは彼女にとってかなりの痛手ではあった。
(けれど……ここで皆を不安にさせるようでは、大将失格ですもの)
 瑞穂は常に強気な姿勢を崩さない。それはただ、自身を奮い立たせる為だけではなく。
 大将には大将の役割がある。
 軍の志気は即勝敗に直結する。主席を目指し人の上に立つことを目標とする彼女は、そのことをよくわかっているのだ。

 そんな彼女の護衛に回るのは、樋渡・沙耶(ja0770)とレグルス・グラウシード(ja8064)
 水色のショートカットに洒落たデザインの眼鏡。知的好奇心が旺盛な沙耶は、軍師的役割を担っている。
 周囲の地形をそれとなく観察しながら、沙耶はつぶやく。
「障害物の無い見晴らしの良い地形という事だけど。有効に活用できそうなものは……」
 小川でもあればと思ったのだが、どうやらそう言ったものはなさそうだった。
「でも地表は乾燥をしていて、そこそこ風もある。砂煙が舞いやすい状態ね……」
 彼女の目の奥がきらりと光る。この顔は、何かを企んでいる表情だ。
 対してレグルスの方はいたってマイペースなもので。
「へえ、西と東にわかれて戦うんですね?何かいわれがあるのかな?」
 欧州出身の彼にとって、日本風の戦闘には興味津々だった。
「先生が言ってた…セキガハラ? の戦いに関係があるのかな」
 そんなことを独りごちながら、とりあえず戦の風景を携帯のカメラで撮って彼女にメール。
「今から戦いに行ってきます(顔文字)!」
 このリア充めが……と西軍の空気が殺気立ったのは、気のせいだろう。



「流鏑馬と一騎打ちのヤツらにお疲れさん、つっとくか」
 西軍大将仁科皓一郎は、相変わらず気怠げな様子を崩さない。口元に笑みを漏らすと、どこか愉快そうに言葉を発する。
「後は任せろ……ってェのは、フラグ立てちまう、か?」
 そんな軽口を叩くのは、皓一郎なりのメンバーへの気遣いでもある。予想以上に緊迫する場の空気に、気圧されそうな者もいるからだ。
「あー……それと、作戦ってヤツなんだがよ」
 皓一郎は皆を見渡しながら、続ける。
「副将が突撃してくれるみてェでよ。俺は後方で迎撃メインで行かせてもらうんでいいな?」
 話をふられた機嶋 結(ja0725)は、淡々とした表情でうなずく。
「副将は枝葉。自身の負傷は鑑みず、敵を喰らうつもりです」
 白銀の長い髪に、漆黒の瞳。少女の落ち着いた表情からは、既に殺気が漏れ出している。
 その小さな身体の内側にどれほどの闘志が渦巻いているのかは、彼女のみぞ知る。

 そんな結の護衛を買って出たのが、強羅龍仁(ja8161)だ。
(……試験とはいえ、小さい子供に武器を振るうのは関心できんな)
 子供がいる龍仁にとって、例え同じ撃退士であったとしても自らの息子よりもずっと幼い結を一人で突撃させるのは、気が引けた。しかしそれを口に出すのは、結の覚悟と彼女を信じて副将を任せた者たちの意志を踏みにじることにもなる。
 だからせめて、自分が護ることができれば。
 そんな彼の内を知ってか知らぬか、皓一郎がぽんと龍仁の肩を叩く。
「副将の背は任せたぜ」
 龍仁は何も言わず、ただゆっくりとうなずいてみせた。


●激突

 荒野の中央には審判の影がただ一つ。
 向き合うは、東軍西軍両陣営。

 最終決戦のルールは以下の通り。
 条理条件は「敵の大将を倒す、もしくは相手軍の八割撃破」。
 戦闘不能判定は気絶もしくは生命力の七割を失った時点となっている。
 旅人が両軍見渡し、にっこりと微笑む。
「さあ、これが最後だ。いい戦いになるといいね」

 まっすぐに上げられる軍配団扇。放たれる、鏑矢。

「天下分け目の戦い、最終決戦開始!」

 開始直後の合図と共に敵陣営へと突撃を開始したのは、西軍。
 最前衛の結と龍仁が鬼神のごとく東軍中央へと斬り込んでいく。
 彼女たちの狙いは遊軍として戦場をかき回すこと。結は隣に付きそう龍仁に向かって、愛想笑いを浮かべる。
「護って下さいね……おじさん」
 過去のトラウマから、本当のことろ大柄な男性が苦手である彼女。しかしこれは軍議で決めたことである為、我慢して微笑みかける。

 そんな二人の後を追い、同じく東軍へと突撃する者が二人。
「ふふっ、お見事お見事っ! いやー流鏑馬も一騎打ちも、良い勝負だったね」
 妙に高いテンションでそう言い放つのは、クインV・リヒテンシュタイン(ja8087)。
 眼鏡っ子魔法少年である彼は、なぜか自信満々の表情で続ける。
「まぁ前哨戦でいくら負けても大丈夫さ。どうせ僕の大活躍で勝利は確実だからね」
 どうみてもフラグ立て乙としか思えないが、そこはご愛敬。扇を手にした彼は、当然敵の大将を狙いに行くつもりだ。

そのクインと行動を共にしているのがパンダ……もとい、同じくダアトの下妻笹緒(ja0544)。
「ふふふ……風は我が軍に吹いているぞ」
 なんだこのパンダとは思えないオーラ。
 そう、ちょっと怖い(二重線)かわいらしい外観に騙されてはいけない。
 実は彼、西軍きっての軍師でもある。
 パンダ……じゃなく笹緒は敵陣を注意深く観察しながら威厳に満ちた声を出す。
「ふむ……大群同士の戦いならともかく、十人前後のバトルならば手数の多さがモノを言うだろう」
 つまりは先に敵の数を削った者勝ちだ。
 笹緒は東軍に向けて勢いよく転が……駆けていく。

 対する東軍中央で待ちかまえるのは、東軍副将猫野・宮子(ja0024)と桝本侑吾(ja8758)
「参加した以上は勝利を目指さないとね。魔法少女マジカル♪みゃーこ出撃にゃ♪」
 猫耳尻尾を装着した彼女は、完全なる(自称)魔法少女に変身を遂げている。
 その隣で、ぼんやり顔の侑吾がつぶやく。
「なんでこれで社会が……いや、まぁ、いいけれどさ」
 基本的にいつもこんな感じの彼は、既に戦闘が始まっているというのに大した変化が見られない。
「馬に乗ったまま矢を打てるとか……凄いよなぁ。一騎打ちも凄い迫力だったし」
 そんな事を彼が再びつぶやいた直後。
「先手必勝、ポイズンミスト!」
 笹尾が放った毒霧が、宮子と侑吾の周囲に立ちこめる。
「うっ……しまった。毒か」
 宮子は難を逃れたものの、侑吾はその毒をくらってしまう。その隙を狙うのは、魔法少年。
「さあ、派手にやろうっ!」
 クインが敵の大将目掛けて、手に溜めたアウルを一直線に放つ。
「大将はやらせないにゃよ!」
 眼鏡っ子魔法少年VS猫耳魔法少女。なにこの胸熱の展開。
 宮子は迫り来る衝撃波をなんとその身で受け止める。
「い、痛いにゃ〜でも、ここでボクが頑張らないといけないのにゃ!」
 宮子はお返しにと、火遁をお見舞いする。攻撃を受けるクインだが、そこは魔法防御力に優れたダアト。大したダメージにはならない。
「魔法攻撃で僕に挑もうなんて十年早いね! 食らえっ炸裂掌!!……じゃないけどね」
「にゃっ!?」
 身構えた宮子に向かって、スタンエッジを叩き込むクイン。ちなみにそんなの魔法少年じゃない! と言う批判は受け付けない。
「ひ、ひどいにゃ〜(涙)騙されたにゃ!」
 何とか麻痺は免れたものの、半泣きの宮子は後方へと逃げようとする。
「ふふっ。怖じ気づいたようだね。さあ、どんどん行くよ!」

 その頃、侑吾は突撃してきた結の斬攻撃をぎりぎりの所で受け止めていた。
「ふう……危なかった」
「安心するのは、まだ早いな」
 その言葉が聞こえた直後、侑吾の胴腹に勢いよく竹刀が打ち込まれる。
「ってぇ……」
 痛みに顔をゆがめる侑吾。結に気を取られている隙を、龍仁に狙われたのだ。
「うーん、どうもこれは分が悪いな」
 相手の突破は何とか防いでいるものの、笹緒から受けた毒の影響で体力が低下してきている。侑吾は頃合いを見計らい、少しずつ後退を始める。その後ろに控えるのは、大将とその護衛たち。
 これは早くも東軍が劣勢か……と思われた時。

 笹緒がはっとした表情(※イメージです)でクインを止める。
「リヒテンシュタイン君、止まるんだ。これは、孔明の罠だ!」
「え、孔明って誰ですかそれ」
 クインがそう尋ねた直後。
 先程まで涙目だった宮子が突然にぱあ、と笑顔を浮かべる。
「ひっかかったにゃ!」
「えっ!?」
 気付いたときには、彼の周りを東軍兵士が取り囲んでいた。
 時同じくして結と龍仁も既に敵の渦中に。
「これは……敵の策にかかったようですね」
 結の言葉に、侑吾もぼんやりとした笑みを浮かべて言う。
「君らの動きは計算通りだよ。それじゃあ、挟撃開始だ」

●一方西軍陣地では

「あいつら……派手にやってんねぇ……」
 遙か先で上がる閃光の数々を見つめながら、西軍大将皓一郎はつぶやく。
 その手前に陣取るのは、諸葛 翔(ja0352)と柳津半奈(ja0535)。大将護衛役として敵の突撃を待ちかまえている。
「ん、戦場の風も良いもんだな」
 前方を見据えながら、翔はひとりごちる。緊張と高揚をはらんだ何とも言えないこの空気が、彼は嫌いではなかった。
「さて、西方守護の白虎にあやかり、戦場に旋風を起こすとしますか」
 実のところ、翔は戦うだけで点数がもらえるなんてラッキーと言う思いで、この依頼に参加をしていた。しかし蓋を開けてみればどうだ。真剣勝負に次ぐ真剣勝負の連続に、感化もされると言うもので。
 クールに見えて意外とアツい所もある彼。今はただ、後ろに控える大将を守り抜くことだけが頭にある。

「わたくしがこの身に換えてでも大将をお守りします」
 半奈が落ち着いた声音で、皓一郎に告げる。切れ長の大きな瞳で大将を見つめる表情は、真剣そのものだ。
 真面目でストイックな彼女は、その淑やかな外見からは想像できないほど芯が強い。それ故自身が決めたことは、どれほど過酷であろうともやり遂げる信念を持っている。
 そんな二人の様子に、皓一郎はどこか居心地悪そうに頭を掻く。
「二人の護衛は頼もしいンだが……いつもと役割が違うモンで、ちっと戸惑うな」
 普段は前衛の盾として行動することの多い皓一郎。自分が護られる立場になったことに、さすがの彼も戸惑いを隠せないのだろう。
「けど、今回は頼りにさせてもらうわ。お二人さん」
 皓一郎がそう声をかけた、直後。

「あんたが大将だな」
 低く淡々とした声が、響き渡る。
 砂煙の合間から姿を現したのは、竹刀を手にした長身の女。銀髪のショートヘアに蒼の瞳が印象的だ。
「い……いつの間に!」
 驚く半奈たちを見据えながら、狗月暁良(ja8545)はにやりと口元を引き上げる。前線の混乱に乗じて、一気に進軍してきたのだ。
「兵はシンソクを貴ぶとか言うじゃん。なら俺がソーダイショーをぶっ潰してやろうってな」
 まるで挑発をするような物言いに周囲の空気が、ぴん、と張る。
「まさか……一人でここまで来たのか」
 翔の問いに、暁良は軽くうなずく。
 本当の所は、多勢でここまで来る予定ではあった。しかし攻撃型の西軍と違い、東軍は護衛にまわる人間が多かったため、突撃班に人員を割けていない。
 誰かが行かなければならないのなら、阿修羅である自分がやるべき。そう思った暁良は迷うことなく、たった一人で突撃を開始したのだ。
「大将の元へは行かせません」
 竹刀を手にした半奈が、暁良の前に立ちはだかる。
「模擬戦とはいえ、戦場に立つ以上は全力が礼。柳津半奈、加減なく参ります」
「そうこなくっちゃな!」
 そう言うが早いか、暁良の素早い一撃が半奈に向かって叩き込まれる。受け止めた半奈の腕に、その強烈な衝撃がびりびりと伝わる。
「――っ。なんと言う威力」
「まだまだ行くぜ!」
 暁良の猛攻は止まらない。しかし所詮は二体一。劣勢であることは免れない。
 半奈に気を取られている暁良に向かって、翔が閃光撃を打ち込む。
「悪いが、これも仕事なんでな。大将の元にはいかせねえよ」
 しかし暁良はひるむどころか、笑いながら攻撃を続ける。
「ぬるいな。こんなモンじゃ俺は倒せないぜ」
 彼女の放つ斬撃が、今度は翔の身に深くめりこむ。そして素早く二人の間に踏み込んだ彼女は、その先にいる皓一郎に向かおうとする。
「無謀な……!」
 半奈が暁良の背後に回ると、その背に全力の一撃を打ち込む。そしてそこを襲うのは、翔が放つ鎌鼬。
「つ……っ!」
 竹刀を覆う光り輝く風が、刃となって暁良を襲う。耐えきれず吹き飛ぶ暁良。追い込まれた彼女は、それでも不敵な微笑を浮かべたままで。
「これがいわゆるトッコーってやつだぜ」
「させるか!」
 暁良がふるう渾身の一撃。その斬撃を翔が遮る。
「諸葛さん!」
 暁良が最後に見せた一撃は、見事なものだった。皓一郎の代わりに攻撃を受けた翔は、その場に膝を着く。それを見た暁良は、満足した様子で倒れ伏す。最初から相打ち狙いであったのだろう。
 満身創痍の翔に、半奈と皓一郎が駆け寄る。
「大丈夫か」
 皓一郎の問いに、翔は苦笑しながら答える。
「どうやら俺はここまでみたいだが……変な感じだ。大将が無事なら全く後悔はねえな」
「お前……」
「すまない、柳津。大将のことは頼んたぜ」
「……必ず」
 半奈の言葉を聞き遂げた翔は、その場に伏した。

 東軍:狗月暁良 西軍:諸葛 翔 離脱。

●再び、東軍陣地

 東軍右翼から挟撃に入ったのはテト・シュタイナー(ja9202)。
「悪いな。横合いから頂くぜ!」
 豪胆な物言いと共に放たれた閃光が、勢いよく結に迫る。月のように輝く金髪が動きにあわせてなびく。
 着弾の寸前、彼女の前に出てきたのは長身の盾。
「ぐっ……っ!」
 龍仁が痛みに思わず声を漏らす。シールドで強化しているとは言え、横からの攻撃をもろに受けたのだ。
 そこを襲うのは、侑吾の放つ斬撃。
「さっきのお返しってことで」
「おじさん、大丈夫ですか!」
 思わず声をあげた結に向かって、龍仁は大声で返す。
「俺は大したことはない。結こそ、大丈夫か!」
「えっ……」
 結は上手く言葉が出なかった。龍仁が一人で攻撃を受けている以上、彼の方がが大丈夫なわけがない。
 彼女は、戸惑っていた。
 この人、どうしてこんなにも自分なんかのために、一生懸命なのだろう。
「何をしている。早く逃げろ!」
 混乱する彼女に向かって、龍仁は再び大声で怒鳴る。
「お前は早くこの場を抜けるんだ。俺が殿軍(しんがり)を務める!」
「でも……」
「いいから、行け!」
「――っ」
 龍仁の怒声に追われ、結はその場を離れる。
「おおっと、そうはさせねえよ!」
 再びテトが放つ氷の刃が、結の背後を襲うとする。その攻撃を防ぐ龍仁。
「やるな。だが俺様にだって、大将を護るっていう意地があるんだぜ!」
「させるか!」
 意地と意地とのぶつかり合い。激しく交わされる火花。

 その先で、結はひたすら前に向かって駆ける。
 後ろは振り返らない。振り返れば、きっと助けに行ってしまうから。
「どうして……」
 正直言って、迷惑だと思っていたのに。自分に護衛なんて、必要ないと思っていた。
 それなのに。
 どうして、こんなにも胸が痛むのだろう。ただの試験のはずなのに。どうしてこんなに、動揺しているのだろう。
 結は制御できない思いを抱え、ただ、荒野を駆け抜ける。




 その頃、西軍水城 秋桜(ja7979)は一人敵陣のど真ん中にいた。
「勝てば点数が貰えるん? ならうちは頑張るけぇ!」
 山口弁ばりばりの秋桜は、何だかやたらハイテンションだ。
(乙女なのに落第とかありえんけぇ! 乙女は勉学も出来るものなんじゃけぇ!)
 由緒正しい乙女に憧れる彼女は、点数を上げれば乙女に近づけると信じ込みこの依頼に参加していた。
「うーん、孤立した敵をねらっとったんじゃけぇど……」
 彼女の狙いは孤立した敵を見つけ、そこを叩くと言うものだった。しかし東軍は基本二人一組で行動をしている。むしろ孤立したのは自分だと言うことに、秋桜はまだ気付いていなかった。
 砂煙が舞う中、荒野をさまよう彼女の身体が突然がくん、と下がる。
 ひざかっくんを受けたのだと気付くと同時、強烈なタックルを受けその場に転げる秋桜。
「な、何が起こったん!?」
「見つけましたよ、秋桜さん」
 顔を上げると、そこには自分を見下ろす六道鈴音(ja4192)と天道 冥(ja9937)の姿が。
「す、鈴音がなんでここに?」
「秋桜さんのやりそうな事くらい予測済みです。ずっと探してたんですよ!」
 しまった、と思った秋桜だが、何とか強がりを言ってみせる。
「ふ、ふん。鈴音も落第しそうだったとは思わんかったけぇ!」
 それを聞いた鈴音は、慌てて否定をする。
「べっ……別に試験の点数が欲しかったわけじゃないですよ! ちゃんと進級できる自信あるし、ちょっと面白そうだったから参加しただけです」
「必死に否定するところが怪しいけぇ!」
 鈴音の動揺の隙を狙って、秋桜は勢いよく飛び出すと竹刀で打ち付ける。
「隙有り!」
「いったーい! もうっ秋桜さん、手加減しませんよ!」
 怒りの鈴音が、手を空高く突き上げる。
「唸れ、六道赤龍覇!」
「ひいいい本気すぎじゃけぇ!」
 空に駆け上がる龍のごとき火柱が、秋桜を炎の渦に巻き込む。ぎりぎりの所で攻撃をかわす秋桜。
「もうっすばしっこいんだから」
 しかし難を逃れた秋桜の背後に迫るのは無表情の、少女。
「急所を狙うと動きが止まる」
「ええぇぇぇ!?」
 冥が手にした竹刀が、秋桜のお尻の●●にぷすりと突き刺さる。
「乙女の受ける攻撃じゃないけぇぇぇぇぇ」
 悲痛の叫び声がこだまする中、容赦ない鈴音の煉獄の炎が炸裂して秋桜は散った……。

 しかしその直後、鈴音の動きが止まる。
「え……うそ、身体が動か……ない?」
 足に違和感を感じ、はっとする。そこにあったのは矢の吸盤。沈む直前、秋桜が放ったものだった。
「秋桜さんたら……しぶとい……」
 その場で動けなくなる鈴音。麻痺の効果が全身に行き渡る中、彼女の目に映ったのは黒い影。
 放たれる、斬撃。

 東軍:六道鈴音 西軍:水城秋桜 離脱。

●戻って、東軍中央

 鈴音と冥が秋桜に気を取られているうちに、挟撃の効果が弱まったため中央を突破してきた者がいた。
 クインと笹緒である。
「はあっ……はあっ……だいぶぼろぼろだけど……何とかまいたよっ」
 そんな二人を中央後方で待ちかまえるのは、沙耶とレグルス。そして総大将の瑞穂だ。
「私は西軍が謎のパンダ軍師、下妻笹緒。そこにいるのは東軍大将とお見受けした」
 その言葉に、瑞穂は凛然と微笑んでみせる。
「いかにも。わたくしが東軍大将でございますわ!」
 クインと笹緒が扇を構える。対して沙耶とレグルスも武器を構える。

「「「いざ、尋常に勝負!」」」

「ここから先へは行かせませんよ!」
 扇を手に、クイン達の前に立ちはだかるレグルス。その背後で高らかな笑い声があがる。
「ほほほほ、ようやく動くことが出来るようになりましたわ! 私に挑もうなど十年早いですわよ!」
「それさっき僕が言った台詞だし!」
 クインの炸裂掌が、レグルスと瑞穂に襲いかかる。避けきれず、攻撃を受ける二人。
「くうっ……でもまだまだですわよ!」
 それを見た沙耶が、内心でひとりごちる。
(敵はまだまだ数がいる……ここで長くびくのは、不利)
 沙耶は素早く瑞穂の側へと移動すると、わざと砂煙を起こす。一瞬見えなくなった視界が、元に戻った頃。
「こ、これは一体どういうことですのー!?」
 いつの間にか瑞穂のスカートが見事まくれ上がり、その白い太ももがあらわになっている! それを見て、悲しそうな表情でつぶやく沙耶。
「悲しい事故が起きてしまいました……」
 お 前 の せ い か。
「え? ちょ……え?」
 顔が真っ赤になるクイン。対して表情が全く読み取れない笹緒。
「みみみ見ましたわね!」
「す、すみません、見るつもりじゃ!」
「言い訳は聞きませんことよ! くらいなさいー!」
 瑞穂が放つコメットが、クインに炸裂する。その横で怒り心頭なのはレグルス。
「女性を辱めるとは許せません!」
 いやいや辱めたのは君のところの軍師……
「悪いんですけど、燃え尽きてくださいね。えい!」
「こんなはずじゃー!」
 容赦ないレイジングアタックに、あえなく沈むクイン。ああ、君ってばやっぱりドジっ子属性……。
 しかし西軍もやられっぱなしではない。
「その様な策が私に通用すると思うか!」
 実際はどんな顔をしていたのかがわからないこと良いことに、扇を手にした笹緒が尊大に転がる!
「貫く閃光が奇跡を起こす、くらえパンダちゃんビーム!」
 至近距離からの攻撃をもろに受ける沙耶。
「くっ……油断……しました」
 ビームの気絶効果を受け、その場に崩れ落ちる沙耶。
 なんだかよくわからないが、互角の戦いは続く。

 東軍:樋渡沙耶 西軍:クインV・リヒテンシュタイン 離脱

●西軍陣営

 その頃、西軍陣営近くで冥はとある人物をにらみ合っていた。彼女の視線の先には鈴音を討った黒衣の男。
 西橋旅人が、微笑を浮かべながら口を開く。
「悪いけど、ここから先へは行かせられないよ」
 旅人の姿を目にした冥は、顔色一つ変えることなく口を開く。
「あなた、強いのね」
 旅人は微笑んだまま、何も言わない。
「でも、冥も引くわけにはいかないの」
「気が合うね。私も同じだ」
 交差する視線。互いに低く竹刀を構え、相対する。
 張り詰める空気。

 一瞬の、斬撃音。

 最初に膝を着いたのは、冥だった。
「やっぱり、あなた強い」
 無表情のまま、冥はそうつぶやく。そしてそのまま、地に伏した。
「……君もね」
 そう言って旅人もまた、膝を着く。
「私もここまで、かな」
 予想以上に隙のない冥の攻撃を、かわすので精一杯だった。
 まさかどこからか飛んできた流れ矢に、気付かない程だとは。

 東軍:天道 冥 西軍:西橋旅人 離脱


「ぐうっ……」
 低い呻き声と共に足下をふらつかせるのは、龍仁。結を逃がす為にたった一人で殿軍を務めていたのだが、そろそろ限界に達しようとしていた。
「はあ……強羅さん、しぶといね」
 しかしそこで先に膝を着いたのは、侑吾の方だった。序盤で笹緒から受けた毒のせいで、すでに生命力が低下し尽くしていたのだ。
「どっちが先に沈むかと思っていたけど……俺の方だったな」
「おい、しっかりしろ!」
 テトの励ましに侑吾は微かに笑みを浮かべる。
「ごめんな。後は頼んだ」
 そう言ってその場に伏す侑吾。テトは悔しそうに言う。
「……お前の無念は俺様が晴らしてやる」
 そう言って、きっと龍仁をにらむと扇を構える。それを見た龍仁はふっと笑みを漏らす。
「そいつはきっと無念だなどと、思ってはいないだろう」
「なんでお前がそんなことが分かる」
「これから倒れる俺は、全く無念ではないからだな」
 己の役目をやりきったのなら。例え倒れようとも後悔など無い。
「うるせぇ! 侑吾の敵だ!」
 テトが放った閃光。その光を受けながら、龍仁は倒れる。
 自身が守り抜いた少女が、生き延びることを祈って――

 東軍:桝本侑吾 西軍:強羅龍仁 離脱
 

●最終、決戦

 砂煙舞う荒野の中。
 西軍大将の元へと辿り着いたのは、宮子とテトだった。
 立ちふさがるのは、半奈。

 対して東軍大将の元へ辿り着いたのは結と笹尾。
 待ち受けるのはレグルス。

 各々は理解していた。
 これが最後の戦いになるだろう、と。

「絶対に勝つのにゃよ! マジカル♪ファイヤーにゃ!」
 最初に動き出したのは西軍。立ちふさがる半奈に向かって、宮子が炎球を炸裂させる。
「くっ……ですが、まだ倒れるわけにはいきません!」
 半奈が放った弓矢が、宮子に命中する。
「にゃ!? 身体が動かないにゃ!」
 麻痺状態の宮子に、皓一郎の素早い一撃が叩き込まれる。
「うう〜〜悔しいけど、ここまでのようにゃ!」
 序盤でクイン達の攻撃をもろに受けていた宮子。さすがにこれ以上はもたなかった。
 しかしそれは、同じく序盤の暁良による攻撃でかなりの消耗をしていた半奈も同じことで。
「ご苦労さん、後は任せな!」
 そう言ってテトが放った雷の刃が、半奈を襲う。
「――っ!」
 テトの攻撃によりスタン状態に陥る半奈。あえなくその場に伏す。
「申し訳ありません……私も、ここまでのようです」
「……いや。謝るのはこっちの方だ。最後まで無理させて、悪かったな」
 最後に残るのは、大将の姿。
「いい、ねぇ。最後の最後で一騎打ちってのはよ」
「奇遇だな。俺様もそう思っていたところよ」
 互いに武器を構え、向き合う二人。皓一郎がにやり、と笑みを浮かべる。
「散っていった奴らの為にも、悪ぃが負けられねえぜ」
「それはこっちの台詞だぜ!」

 その頃、東軍も動き始めていた。
「私が敵を引きつける。機嶋君はそのまま大将へと特攻するがいい」
 笹緒の指示に、結はやや躊躇をする。
「ですが……」
「君を護った者の意志を無駄にするな。大丈夫だ。私はそうそうやられはせん」
 格好いいぜパンダ……と言う声がどこからともなく聞こえてきた気がするが、結は覚悟を決める。
「わかりました。後ろは、お任せします」
 大将の前に立ちはだかるレグルス。
「君の相手は、この私だ!」
 そう言って笹緒が放つビームをレグルスがその盾で受け止める。
「僕は……必ず、大将を守る。そして、生きて帰ります!」
 放たれる光の一撃。攻撃をくらう笹緒。
 激突を繰り返すその横をすり抜けていったのは――。
「しまった!」
 レグルスが気付いたときには時既に遅し。結の細い背中が、まっすぐに大将へと向かっていた。

「ほほほほ、わたくしの元へ辿り着くとは。誉めてさしあげますわ」
 待ちかまえていた瑞穂は、結に向かって宣言をする。
「わたくしは大将。皆のためにも、絶対に負けるわけにはいきません!」
 対する結も、竹刀を構え瑞穂に突撃を開始する。
「強羅さんに報いるためにも……必ず、あなたを倒します!」
 
 両軍これが最後。渾身の激突音が、荒野に高くこだました――

●終焉
 
 砂煙が、静かにおさまる。

 荒野の中央で掲げられたのは、軍配団扇。
「総大将の敗北により――」
 掲げた団扇が大きく振られる。
「勝者、西軍!」

「くっ……まさか、このわたくしが破れるなんてっ……」
 悔しそうに膝を着くのは、東軍大将瑞穂。その傍らには、竹刀を手にした結の姿。
「あなたの気迫が勝りましたのね。素晴らしい一撃でしたわ!」
 瑞穂と握手を交わしながら、静かにうなずく結。自分が勝てたのは、恐らくあの人のおかげ――

「楽しかったねェ」
 西軍大将の皓一郎が、テトに手を差しのべる。手を取った彼女が、にっと微笑む。
「そうだな。まさか試験でここまで熱くなるとは、思わなかったぜ」

 澄み渡った空に、大きく放たれる鏑矢。
 戦の終焉を、知らせる合図だ。

 生徒達の強い思いが、ぶつかり合った場所。
 旅人は一人、満足そうに微笑む。

「良い戦いを、ありがとう」

 熾烈を極めた久遠ヶ原天下分け目の戦い、ここに閉幕。
 


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 伝説の撃退士・雪室 チルル(ja0220)
 撃退士・強羅 龍仁(ja8161)
重体: −
面白かった!:24人

鏡影・
緋伝 瀬兎(ja0009)

卒業 女 鬼道忍軍
無念の褌大名・
猫野・宮子(ja0024)

大学部2年5組 女 鬼道忍軍
ラッキースケベの現人神・
桜井・L・瑞穂(ja0027)

卒業 女 アストラルヴァンガード
伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
『四神』白き虎、紅に染め・
諸葛 翔(ja0352)

大学部3年31組 男 アストラルヴァンガード
命繋ぐ者・
神楽坂 紫苑(ja0526)

大学部9年41組 男 アストラルヴァンガード
戦乙女・
柳津半奈(ja0535)

大学部6年114組 女 ルインズブレイド
パンダヶ原学園長・
下妻笹緒(ja0544)

卒業 男 ダアト
秋霜烈日・
機嶋 結(ja0725)

高等部2年17組 女 ディバインナイト
無音の探求者・
樋渡・沙耶(ja0770)

大学部2年315組 女 阿修羅
ヴァニタスも三舎を避ける・
氷月 はくあ(ja0811)

大学部2年2組 女 インフィルトレイター
戦場ジャーナリスト・
小田切ルビィ(ja0841)

卒業 男 ルインズブレイド
郷の守り人・
水無月 神奈(ja0914)

大学部6年4組 女 ルインズブレイド
戦場を駆けし光翼の戦乙女・
桐原 雅(ja1822)

大学部3年286組 女 阿修羅
闇の戦慄(自称)・
六道 鈴音(ja4192)

大学部5年7組 女 ダアト
胸に秘めるは正義か狂気か・
十八 九十七(ja4233)

大学部4年18組 女 インフィルトレイター
トラップは踏み抜くもの・
水城 秋桜(ja7979)

大学部7年186組 女 鬼道忍軍
『山』守りに徹せし・
レグルス・グラウシード(ja8064)

大学部2年131組 男 アストラルヴァンガード
眼鏡は世界を救う・
クインV・リヒテンシュタイン(ja8087)

大学部3年165組 男 ダアト
撃退士・
強羅 龍仁(ja8161)

大学部7年141組 男 アストラルヴァンガード
暁の先へ・
狗月 暁良(ja8545)

卒業 女 阿修羅
我が身不退転・
桝本 侑吾(ja8758)

卒業 男 ルインズブレイド
気だるげな盾・
仁科 皓一郎(ja8777)

卒業 男 ディバインナイト
爆発は芸術だ!・
テト・シュタイナー(ja9202)

大学部5年18組 女 ダアト
閉じた心・心つなぐ・
天道 冥(ja9937)

高等部3年15組 女 阿修羅