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マスター:久生夕貴
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
形態:
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2015/01/23


みんなの思い出



オープニング

※このシナリオは初夢シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。

 ここはどこかにある魔界。
 仄暗い夜が終日支配する、闇の世界。

 一人の少女が、灯りの下で視線を落としている。視線の先には彼女が手にしている古びた本。
「……この本読むの何度目だっけ」
 回数など憶えてはいないが、一字一句空で言えるほどに読んでいるのは確かだった。
 少女は軽く息をつき、ぱたりと本を閉じる。桃色のボブヘアーが薄明かりの下でふわりと揺れる。
 彼女の華奢な身体を、黒のゴシックドレスが足下まで覆っていた。上質なレースやたっぷりとしたフリルが、どこか気品を感じさせるデザインだ。
 少女の名はリロという。
 生まれながらに魔王として存在する彼女は、今日も変わりばえのない一日を過ごす。

「相変わらず、退屈そうですね」
 
 近付く気配に顔を向けると、そこには道化姿をした少年が立っている。彼女の側近であるパペットマスター・クラウンだ。
「ああ、クラウン。何か用?」
「今日の報告をと思いましてね」
 彼は魔王城周辺で起こったことを、日々リロに報告するのが任務。
「今日も特に変わったところはありません……と言いたい所ですが」
 続きを待つリロに向けて、クラウンは猫のような瞳を細め。
「この城に近付いている者がいるようですよ」
「……え?」
 ほんの少し目を見開くリロに向けて、道化はどこか愉しそうに。
「目的は貴女でしょうね。初めてではないですか、ここまで辿り着きそうな者が現れるのは」
 そう言って、帽子からはみ出た猫耳をぴこぴこと動かす。高揚したときの彼の癖だ。
 リロは窓の方へと歩み寄ると、窓外にそっと視線を向ける。見える景色はどこまでも退廃的で変わりばえのない景色。
 ふと。
「……そう言えばさ。どうしてボクって狙われてるのかな」
「それはあなたが魔王だからですよ」
「え、それだけ?」
 振り返ったリロへ、クラウンは当たり前のように返す。
「必要にして十分な理由ではありませんか」
「……ふうん」
 少女はそれだけ言うと窓から離れ、本を手に再び椅子へと腰掛ける。
「――ね、クラウン」
「なんですか」
「彼らは、ボクの時を奪ってくれるかな」
 向けられた紫水晶の瞳へ、クラウンは涼しげな微笑を返す。
「さあ、どうでしょうね」
 いつも通りの曖昧な返事。全てを見透かしているような、それでいて敢えて口にしないのが彼のやり方だ。
 リロは微かに吐息を漏らすと、視線を本へと落とす。
「……ま、いいけどね。どうせ今回も同じだろうし」
 いつもそうなのだ。
 自分のところに辿り着く前に、彼らはきっといなくなる。
 今度こそはとわずかな期待に胸を膨らませてみたところで、裏切られるのが常なのだから。

 この世界に生まれ落ちてから、ずっと退屈だった。
 生まれた時から最強で、生まれた時から目指すべきものもなく。
 魔王という漠然とした肩書きは、自分の生になんの彩りも与えてくれはしなかった。
 ただ、ただ、無意味で無価値な時間を過ごす毎日。
「あなたの憂いはわかりますよ。私もかつてはそうでしたから」
「じゃあ、今は違うってこと?」
「ええ」
 クラウンはどこかうっとりとした様子で、瞳を細める。
「退屈しなくて済む者たちと、出会いましたからね」
「もしかして……またストーカーしてるんだ。よく飽きないね」
「飽きないからいいのではないですか」
「まさにストーカー発言……」
 ため息をつくリロへ向け、道化は肩をすくめる。
「まあ、あなたは強すぎますからね。ただ――」
「ただ?」
 問いかける紫水晶へ向け、クラウンは愉快そうに微笑んだ。

「最高の宴は、ただ待っているだけでは得られないと思いますよ」
 



 クラウンがいなくなった部屋で一人、リロは窓の外を見つめていた。
「……勇者、か」
 ここを目指す者達の事を、この世界ではそう呼んでいる。
 彼らが辿り着いてくれるのなら、自分の憂いも受け止めてくれるだろうか。
「……あれ、前にもこんなことあった……?」
 いや、そんなことはないはずだ。けれどなぜか自分は知っているような気もする。
 待っている間のもどかしさと、会えたときの高揚感。
 確信めいた予感に、ほんの少し胸が高鳴る。

 その時は、きっともうすぐ。



リプレイ本文

※当リプレイは架空世界につき、名称表記を適宜変更させていただいております。


 ここは、どこかの魔界。
 終日仄暗い夜が支配する闇の世界。
 魔王に支配されたこの地を救うため、降り立った者たちがいる。
 戦いが長きに渡る中、いつしか人々は彼らのことをこう呼ぶようになった。

 選ばれし勇者たち、と。


●集いし精鋭

 ではここで、恒例のメンバー紹介といこう。
 まあ今回は勇者側だし人類が多いに違いない――そう思っていた時期が、私にもありました。

「ぼくがユーシャなんだよ!」
 冒険と言えば、少年。冒険と言えば、勇者。
 天使っ子な勇者・ショウ――天駆 翔(jb8432)は片手剣(ひのきのぼう)を手に、むんと気合いを入れた。
 身につけているのは勇者の基本とも言える、動きやすい戦闘服(たびびとのふく)。もう片方の手には、盾(おなべのふた)も装備済みだ。
「あれがまおーじょーカッコイイー」
 目前に迫った魔王城を見上げ、蒼い瞳をきらきらと輝かせる。あざといほどの純真無垢さはもちろん、仕様です。

「ふふふ、やるからには愉しくいかないとねえ」
 そう言って遊び人・サギヤ――鷺谷 明(ja0776)は、愉悦に満ちた笑みを口元に刻む。
 最終ダンジョンまで悟りを開くことなくやってきた彼は、いつもの吸血鬼っぽい風貌にインバネスコート姿。

 だが種族は、まっどスライムだ。(今は人型に擬態中)

「うむ、やはり冒険とは危険を冒すべきものである」
 性能がスライムでジョブが遊び人とかそれどんなマゾゲーだよと言わざるを得ないが、彼の場合通常運転なので※お察しください※。

 パーティの先頭には、皆を導くちっちゃな虫(訂正線)精霊の姿も見える。
「私は道案内する妖精さんなのだよ! 行きたい場所への正しい行き先がわかるのだよ?」
 淡い光を纏うフィノ――フィノシュトラ(jb2752)が、ぱたぱたと透き通った羽根をはためかせている。
「世界を救うのなら、皆笑顔じゃなきゃいけないのだよ!」
 やる気に満ちる彼女、見た目の細かい指定がなかったので好き勝手していいのだろうと判断。とりあえず、

 〜 へ(・ワ・)へ ←大きさ約1cm

 大体こんな感じだと思ってくれればいい。

「もう少しで魔王と対面なんだね! どんな戦いが待っているのかわくわくなんだね!」
 気分はまるで、友人宅訪問する程度のノリ。軽快なスキップを踏んでいるのは、召喚士・エニシ――真野 縁(ja3294)。

「も、もしやあなたは…!」
「四次元ポケットを腹に持つ伝説の種族…!」

 ぼくドラ●もん…!(戦慄)

 優れた召喚士である彼女、喚び出せる契約者(訳:ひみつ道具)の数は計り知れない。
 ちなみに勇者にぅゎっょぃ装備を提供したのもエニシである。

「ついにここまで辿り着いたか……」
 アンニュイな表情で魔王城を見上げるワーウルフ(首輪・リード付)がいる。ふさふさ尻尾が自慢な、アシスタント・カズオミ――加倉 一臣(ja5823)だ。
「ふ、記憶が走馬灯のように…」
 今までにパシられた数々の苦行。
 特に思い出深いのは伝説の同人作家から受信させられた奥義『ハード妄想』…
 念写アシの俺は幾度SAN値が崩壊しかけたことだろう…
 ちなみにその時のメモリアル全12巻は好評発売中d

 突然、理由のない捕獲がカズオミを襲う!

 がしゃーん

「待って、俺の扱い雑すぎるから!ミ´;ω;ミ」

 その時、獣の鳴き声が響き渡った。

 フェ〜

 そこいたのはめっちゃ美女、なんかもうすげーやばい美女のアルパカ・フレイヤ(ja0715)。仁王立ち(四足)した彼女は厳かに魔王城を見据え、口をもっひもっひさせている。

 フェ〜(我が名は黄昏の魔女フレイヤ……)
 フェ〜(100年の時を経て、ノーマルアルパカからハイパーアルパカへと至った者…)

 長い道のりだった。一時期毛が伸びすぎてどうしようかと思った。

 フェ〜(そして我は今! 魔王を倒すため!)
 フェ〜(ハイパーアルパカからワッショイマスターへとホップステップジャーンプ!)


 \ハアアア!!ワッショイ!ワッショイ!/


「はいはい、アルパカうるさいから黙っとこうな(ばりばり)」
『ちょ、毛刈りは先週やったばかりじゃないですかこれ以上は禿げますしおすし!』@アルパカの鳴き声
 バリカン手に毛を刈るのは、もう一人の勇者・ユウマ――小野友真(ja6901)。わめくアルパカの背中をまだらにしながら、確信を持った響きで。
「俺、思うん…このパーティある意味最強やなって」
 主にバカしかいねぇ的な方向で。
「だが絶対的に足りへんものがある。それは、美形枠を担うヒーローや!(カッ」

 と言うわけでみなさんこんにちは、伝説の美形勇者(HERO)ユウマでっす!
 え、俺の種族知りたいって? ふ…愚問やな、俺は俺(UMA)という存在なんや……。
 今の見た目は仮の姿…本当の俺は俺という可能性全てで埋め尽くされた俺ですら把握できない程の恐るべき続きは記録係さんにお任せな☆

 オチを丸投げされたところで説明しよう!
 彼の種族はずばり『ミドリムシ』だ!
 え、なんでミドリムシなのかって?
 ふっ…性別行方不明なんてよくある話。
 動物か植物かわからないなんて新しいだろう!

 すぱーん!

 ここで鮮やかな殴打音と共に、冷静な声が響いた。

「…このパーティの人間、俺しかいねェンだケド」

 ニンジャ・アキラ――狗月 暁良(ja8545)が非常に大事なことを指摘する。
 もはや人類を選ぶと負けみたいな状況の中、当パーティ唯一の人類にしてツッコミ役を買って出た彼女。
 露出の高いニンジャ装束姿でいつものエロかっこ良さをキープしつつ、愛用ハリセン「最上大業物:ナンデ・Я・ネン」を今日も華麗に炸裂させる。
「ボケには容赦なくツッコミ。ツッコミを期待したボケはスルーするから、そこんとこヨロシク」
 ありがとう、君がいなければ全編ボケ倒しという危険極まりない状態(記録係が頭抱える的な意味で)になるところであった!
 
 さて、諸君。
 今ここに、史上希に見る精鋭(笑)が揃った。
 彼らの熱い戦いを、これからご覧頂こう。

●闇の道化師

 凜然とそびえ立つ魔王城に、勇者パーティは踏み込んだ。
「このお城は66階建てなのだよ! 最上階に魔王リロがいるらしいのだよ!(・ワ・)」
 フィノの説明によれば、ここから先は魔物の巣窟。これまで以上の危険が伴うという。
「うやや、頂上が見えないんだねー…!」
「広いな…ドッグランあるかな…」
 エニシとカズオミが見上げる隣で、アキラは肩をすくめ。
「……エレベーターはなさそうだナ」
 一方、勇者二人はやたら生き生きしていた。
「がんがんいけばいいんだよね?」
 やる気に満ちるショウの頭をぽんとやり、ユウマも意気揚々と宣言。
「よーし案外魔王近くにおるかもしれへんし、みんなで探そかー!」
 割と軽い勇者につられ、彼らは探索へと乗り出していく。モンスターを狩りつつ罠は踏破し、順調な滑り出しだ。
 しかし6階に達した時、事件が起きる。

「…おい。いい加減、姿を見せたらどうだい」

 突然、カズオミが後方の闇へ向けて声をかけた。リード持ちのユウマがいぶかしそうに問う。
「え、オミさんもしかして魔王見つけたん?」
 闇の中から声はない。ふっと笑みを浮かべたカズオミは、肩をすくめ。
「尾けてることにゃ前から気付いていたぜ…俺の、この自慢の耳と鼻でな!」
 出てこないのならあぶり出すまで。カズオミは闇へ向けて指さすと必殺技を繰り出した!

「喰らえ、dried bonito shavings(カツオブシケズラレチャッター)!」
「――ふふ…見つかってしまったなら、仕方ありませんね」

 鰹節 ←カズオミの向き           クラウン

「…どう見ても、自分から出てきたダろ」
 アキラの視線先、舞い踊る削り節と逆方向から現れたのは、パペットマスター・クラウン。道化師姿をした少年は、全員を見渡すと愉快そうに。
「こんにちは、私の名はクラウン。魔王の側近にしてこの地の情報屋を務める者です」
「何…あの伝説のパペットマスターの正体が、こんな愛らしい姿…だと…」
 五歳児程度の少年を前にカズオミ、戦慄。
 禍々しい化粧を施し、ハンバ=ガーとやらの店での目撃例が多いと聞いていたのに…!
「しかも…何だ、あの猫耳と尻尾……くっ、身体がいうことをきかn」
「オミさん!?」
 刹那カズオミの身体が、みるみるうちに狼型へと変化していく。
 そのまま流れるように美しい伏せをすると、悟りきったように笑み。

「――なるほど、これがパペットマスターの力か」※特に何もされてない
 うまいこと対処するはずが、うまいこと対処されてた。※特に何もされてない
「何と言う恐ろしいちかrキャイン!」

 思いっきり尻尾を踏まれたカズオミの前で、ハイライト消えた目をしたユウマがリードを引っ張っている。
「このまま海に沈めたろか…?」
「あ、ハイすみませんでしたハイ(起立」

「わーいクラウンだーー」
 ショウは手をぶんぶん振りながら、フレンドリーに話しかける。
「ぼく、ユーシャなんだ。よろしくー(きらきら」
「ふふ…あなたも私に負けないくらいのあざとさですね」
「え、そうかなー。クラウンには負けるよ?」
「いえいえあなたもなかなかのものですよ?」
 微妙に火花が散っているような気がするが、ここでクラウンの前に立ちはだかった獣がいる。

 フェ〜(フフッ、我が名はワッショイマスター…)

 魔王の前座としてまずはクラウンとやらを葬りさってくれる。
 仁王立ち(四足)したアルパカが、甲高く鳴いた!

 フェ〜(パペットマスターVSワッショイマスター…中々の好カードではないか!)
 フェ〜(だが甘いなぁパペットマスター!貴様のその姿が敗因じゃあ!)

 ショタで猫耳で尻尾つきとは何だその萌えキャラ!
 そんなの…!そんなの…!!

 \prprせざるを得ない!!/

 ソイヤソイヤッ!prpr!ソイヤソイヤッ!prpr!
 ハアアア!!ワッショイ!ワッショイ!

 もひもひと迫るアルパカを前に、クラウンはくすりと微笑んだ。
「ふふ…ではこの姿でなければいいのですね?」
 直後、クラウンの身体を黒煙が覆う!

 くらうんは くさったしたいに へんしん した!
 それをみた えにしとかずおみが さくらん した!

「ちょおおおおみすたああああ」
「お待ちくださいお待ちくださいそれはいくらなんでも俺が許しませんよ! この中に事務所の人!事務所の人はいませんか!!!」
 完全なバッドステータス状態に、だめだこいつらはやくなんとか以下略。ここでようやくサギヤが仕事する。

「はっはっは、ざまあ」

 あそびにんは ゆびをさして わらった!
 はりせんで しばかれた!

 あかん、このままでは全滅しかねない。ピンチを乗り切るべく、ヒーローユウマが立ち上がる!
「ミスターええ子やからその姿やめよ、な? アルパカなら俺が毛狩っとくから!(ばりばり)」
「フェ〜(なんという無慈悲! アルパカに慈悲を!)」
 フィノもぶんぶん飛び回りながら、必死に説得。
「クラウンさんの変身すごいんだよ! あっもしかして、私と同じ妖精さんにもなれるのかな? ぜひ見せてほしいのだよ!(・ワ・)」
「ええ、いいですよ」

 くらうんは ようせいに へんしん した!
 それをみた えにしとかずおみが さくらん した!

「うわあああちっちゃいみすたああああああ」
「手乗りミスター…だと? くっ…どういうことだ…!体がまたいうことをきかn」

 どごぉっ

「あっエニシさんとオミさんが気絶したのだよ? m9(・ワ・)」
 そこには奥義『イイカ=ゲン=ニシロ』を発動させたアキラが立っていた。
「話が進まねえとショウが退屈するダろ?」
 そう言って勇者(小)をむぎゅる。実は彼女、ちびっこには優しいお姉さんなのである。
「オミー兄とエニシ姉はぎせいになったのだ」
 ショウはアキラのダイナマイトボディにハグられながら、そっと心の中で敬礼。

 ぼくのために犠牲になってくれてありがとう。
 二人の事はわすれない。一週間くらいは。

 アキラは続いてクラウンを見やると、ハリセンを掲げ。
「元に戻らねェとコレで叩きつぶすぜ?」
「おやおや、それは遠慮しておきましょう」
 言うが早いか、元の姿に戻ったクラウンを見て一同胸をなで下ろす。
 だがしかし、クラウンを何とかするには未だほど遠い。ここで前に出たのはライトヒール(物理)で復活したエニシ。
「ふっ…!ミ…クラウン!真のストーカーをなめないで欲しいんだよ!」
 ジョ●ョ立ちのポーズでそう言い放つと、奥義呪文を詠唱しはじめる。
「深淵より来たりて、個々に分かたれしものよ…そは偉大なる母である! その腕を開きて皆を安らぎへと導かん!」
 
 究 極 魔 法! 母なる抱擁(ルビ:こたつ)召喚!

「え、ちょっとエニシ待って俺のイケメン装備が剥がれていってるんやけどおおお」
「あれ、ぼくのなべのふたがどっかいっちゃった」
(効果:勇者装備がパージしてこたつ(みかん付き)になる)
 ユウマが半裸(ショウはアキラが阻止)になると同時、見事なコタツが目の前に現れる。それを見たクラウンの猫耳がぴこぴこと反応し。
「ほう、これは…なかなかの代物ですね」
 やはり猫にとってコタツとは抗えないものなのか、ふよふよと誘われるように入っていく。
「引っかかったんだね、ミスター! 隙ありなんだよ!」
 エニシはちまっと座る背中に近付くと、ハァハァいいながら一緒にコタツへ入る。
 恍惚の表情を浮かべているけど、勘違いしないで欲しい。
「これは偉大なる愛ですしおすし…お寿司食べたいんだよ……」
 どう見ても変態です本当にありがとうございます。
「いけないのだよ! このままでは、コタツから出られない症候群にみんなかかっちゃうのだよ!(・ワ・)」
 もう既にアルパカと遊び人がコタツの魔力にやられて「働きたくないでござる」と言っている。
「まずいな、このままでは魔王城に辿りつけへん…!」
 それよりなにより半裸の俺が寒い。ユウマはきっとクラウンを見据え。
「この手は使いたくなかったんやけど…仕方ない!」
 美形ヒーローは最終奥義を発動させた!

「ミスター俺魔王のとこへ行きたいんやー! 行こうや−! 一緒行こうやー!!(じたばた」

 ゆうまは だだを こねた!

「いいですよ」
「えっ」

 くらうんが なかまになりたそうに こっちをみている!

 なかまにしますか?   はい←  いいえ

 こうして、クラウンは勇者パーティと行動を共にする事となった。


●魔王の間

 魔王城65階。
「みんなよく頑張ったのだよ! 最上階まであと一歩なのだよ!(・ワ・)」
 この上には魔王リロが待ち構えているという。長かった旅路もここでようやく終わりだ。
「長い道のりやったな…」
 勇者ユウマはここまでの苦難を回想していた。

 俺の回避射撃(バレットストーム)でアフロ祭りなった8F…
 17Fの種族明かし部屋では敵の方がビビってたな…主に顕微鏡でしか見えない的な意味で…
 一番のピンチは12Fでトイレ行きたくて23Fにしか無いて言われた時…
 あれは(俺の尊厳が)死ぬ所やった…もっと部下に優しい造りにしてもええと思うん魔王さん…
 37Fのダーツm

「回想が長いですね」
「あ、ハイごめんミスター」
 クラウンに怒られたところで、フィノが辺りをきょろきょろと見渡す。
「あれ? そう言えば遊び人さんの姿が見えないのだよ?(・ワ・)」
「ああ、彼ならさっきトイレに行くって言ってたな」
 カズオミの返答にエニシが首を傾げ。
「うやや? トイレって23階にしかなかったはずなんだよー…?」
「65階から23階か…12階でピンチに陥った俺以上やな…」
「まァいても俺の手間(ツッコミ的な意味で)が増えるだけダから、放っておけばイイんじゃね?」
「わーアキラ姉がみもふたもないことをいったー」
「フェ〜(アルパカにも人権を!人権を!)」

 とりあえず行方不明の遊び人は放置し、ついに最上階へと彼らは足を踏み入れる。
「わわ、真っ暗なのだよ?(・ワ・)」
 最上階は闇に包まれていた。
 だだっ広い空間の中、耳が痛いほどの静寂だけが辺りに満ちている。

「――良くここまで来たね」

 暗闇の奥、少し鼻にかかったような声が聞こえてくる。現れた人影の正体を見て、一同は唖然となる。
「なっ…お前は!」

「リロ君だと思ったか? 残念、私だよ!」

 ばーんと現れたのは、遊び人・サギヤ。
 なんかめっちゃ得意げなポーズでふはははと笑う後ろに、魔王リロの姿も見える。
「ふふ。びっくりした?」
「クラウン戦以降空気だったのは、全てこの時のためさ!」
 本当だ、よく読むと確かに一言しかしゃべっていない!
「一体どういうことだ、遊び人!」
「裏切るなんてひどいんだよー!」
「トイレの場所教えんかったのがそんなに不満やったんか!」
 口々に問い詰める面々を前に、サギヤは当たり前のように。
「裏切る理由? 簡単なことだね。そっちの方が愉しそうだからさ!」
 決して寂しがり屋クーデレ魔王とか何その萌えキャラだなんて電波を受け取ったからではない。
 リロといぇーいってハイタッチしてから、勇者たちの前に立ちはだかり。

「くくく、魔王陛下から授かりし力を見せてくれる!」

 \\カッ//

 あそびにんは あのちからを みせた!
 みんなが いたわりの しせんを むけた!

 ばきぃっ

 ここでアキラの奥義「トリ=アエズ=シバイ=トク」が鮮やかに炸裂。
 たった一撃で66階から55階までたたき落とされたサギヤは、一時間くらい戻ってこなかった。
(その間、勇者達はリロとクラウンを交えばば抜きに熱中)
「あ、あそびにんがもどってきたー」
 ばば抜き五連勝中のショウが指さした先で、サギヤは一言。

「ぷるぷる、ぼくわるいスライムじゃないよ」

 さぎやは かいしん した!

「やれやれ、これで一件落着…」
 と思ったか? 甘いなそれは幻想だ!
「え…行っちゃうの?」
 コートの袖を引っ張られ振り向くと、リロがサギヤをじっと見つめている。寂しげな色を瞳に映した彼女は、どこか拗ねたような物言いで。

「キミがいなくなったら…ボクは、悲しいよ」

 さぎやの うごきが とまった!

 なんなのこのクーデレ寂しがり屋魔王。だが残念設定通りだふはは!
 想定外の事態にバステ状態となった彼の肩を、叩く者がいる。カズオミが悟りきった表情で微笑んでいて。
「君も世界の罠にかかってしまったようだね、遊び人」
 もう幾度自分はひっかかっただろうか。今では、目を閉じていてもかかる自信がある。
「ふ…案ずることはない。全ては流れに身をまかsキャイン!」
 アキラの鉄拳がカズオミのみぞおちに炸裂。悶絶する狼の前で、サギヤに視線をやり。
「ハナシがややこしくなるから、こっちもな」
 容赦無いハリセンで遊び人、気絶。あぶねえ、めり込みすぎて真っ二つに分裂するところであった。

 どM二名が犠牲になったところで、ようやく本題が始まる。
「とりあえず、最後だから切り札を使っておくのだよ!(・ワ・)b」
 突然フィノの身体が通常の人型サイズまで大きくなる。彼女の必殺魔法、『おおきくな〜れ』だ。
「オミさんほんの少し我慢してほしいのだよ! m9(・ワ・)」
 この魔法、使用中1ターンに付き仲間一人の年齢が1歳ずつ老けていくらしい。今回はカズオミの年齢を犠牲にしたのだ。※魔法解除すると戻る
「おねーちゃんがまおうなの? きれいだね」
 薄桃色の髪に紫水晶の瞳。ビスクドールのように整った顔立ちを見て、ショウがほわーと正直な感想を述べる。
「でも…何だかとっても寂しそうなのだよ?」
 フィノは小首を傾げながら。
「せっかくの美人さんなのに勿体ないのだよ! 何だか悪そうにも見えないし、戦わずに説得できないかな?(・ワ・)」
「俺美形勇者のユウマっていうん、よろしくな」
 ここで切り出したユウマが、諭すように告げる。
「あんな、リロちゃん。もしなんか事情があるなら、話してくれへんかな」

 勇者たちはリロから色々な話を聞いた。
 彼女が生まれながらに魔王であることに始まり、今の境遇や抱えているモノまで。

「――世界破滅ボタンだって?」

 話を聞き終えたカズオミが腕を組みつつ、笑みを浮かべる。
「そんなもん押さずとも、こいつらなら世界を壊せるぜ」
 ここまで共に旅してきた仲間達を見渡し、リロへと視線を戻す。
「君を閉じ込める…その退屈な世界を、ね」
「あ、そのみかん取ってもらえますか」
「ミスター少しは俺の話聞いてくれてもいいのよ! ミ´;ω;ミ」

「おねーちゃんは、ときをうばってほしいの?」
 ショウはうーんと考えてから、リロに向かって天使の笑顔で手を差しのばす。
「ぼくときってのはよくわからないから、おねえちゃんのぜんぶちょうだい? そしたらぼくのぜんぶをあげるよ」
 あざとい、あざといなゆーしゃ!
 ちなみに彼自身はどこかのお姉さんから聞いた言葉を引用しただけで、意味は分かっていないらしい。
 聞いたリロはしばらくショウを見つめていたが、やがて白磁の頬をわずかに動かす。
「ボクは、キミの全てはもらえないよ」
「…どうして?」
「だって、キミの心はボクだけに向けられているわけじゃないから」
 よくわからないと言った様子の少年に向け、少女は魔王らしく妖艶に瞳を細める。
「ボク結構嫉妬深いから、ね」
「ふーん? そっかー」
 ショウは再び考え込んでしまう。

 フェ〜(フフッ、我が名はショタprprのアルパカ…)

 ここでフレイヤが、鋭い鳴き声を上げた。

 フェ〜(話は聞かせてもらった。貴様は退屈な時間が嫌いだとなぁ…)
 フェ〜(ならば!我が!このワッショイマスターの我が!)

「あ、おねーちゃんたいくつがいやなんだよね? ならいっしょにたびしようよ」
 ひらめいたショウの提案にエニシが賛成する。
「うに!うん! こんな部屋にずっと居るからつまんないんだよー!」
 フェ〜(貴様をハッピイイイイタアアイム!!にしてやろう!)
「エニシ達と一緒に海とか見ようなんだね!」
 フェ〜(そおれ!ワッショイ!ワッショイ!)
「そうだリロさん! フィノとお友達になってほしいのだよ?(・ワ・)」
「ともだち…?」
 フェ〜(皆さんご一緒にぃ!ワッショイ!ワッショイ!)
「お友達になったなら、一緒にいろいろ遊べて毎日楽しいのだよ!(・ワ・)」
「あ、言い忘れてたけど、俺って世界も魔王も救う強欲勇者なん」
 フェ〜(画面の向こう側の皆さんもご一緒にぃ!ワッショイ!ワッショイ!)
「ってなわけでリロちゃん、俺らとパーティ組みませんか」

 \ワッショイ!ワッショイ!ワッショイ!/

「アルパカうるせェから(ばりばりばり)」

 >>理不尽!!!<<

 アキラの容赦無い毛刈りが炸裂したところで、高笑いが響き渡った。
「笑止!」
 復活したサギヤが、きょとんとする魔王に向かって言い放つ。
「いいかね。世界は自らの意を持って楽しむものであって、楽しませてもらうものではないのだよ」
「……どうやって?」
「簡単なことだね。私のようになればいいのさ!」
 そう言ってふはははと笑う遊び人を見て、リロはしばし考え込んだ後。
「わかった。じゃ、ボクジョブチェンジするね」
「えっ」

 まおうは あそびにんに なった!

「……魔王いなくなったんだケド」
 アキラの指摘に全員顔を見合わせる。カズオミが苦笑しながら。
「確かによく考えたら魔王ってジョブだったな…」
「盲点だったのだよ?(・ワ・)」
 二人の言葉に、クラウンが愉快そうに告げる。
「世界は意外と単純なのですよ」
「ちぎ! さてはミスター知ってて黙ってたんだね!」
「おやなんのことでしょう?」
 くすくすと笑う様子にエニシが地団駄踏む中、アキラが小首を傾げ。
「…まァ一応、魔王を倒したショーコでも作っておけばいいんじゃね?」
 彼女の提案にユウマもうんうんと頷いて。
「そ、そうやな! そんじゃこれが魔王やでーて首人形作って世間に提出しとこ!」
「うにうに! 素材…アルパカの毛刈り手伝うんだね!(ばりばり)」
「ぼくもけがりがんばるー(ばりばり)」
「いっそのこと首刈った方が早いンじゃ…(ばりばり)」
「フェ〜(アルパカに愛を!アルパカに愛を!)」

 メンバーが人形作りに熱中し、しばらく経った頃。
 突然、どこからかしわがれた声が聞こえてくる。
「ところでフィノさんや、昼飯はまだかね…」
「何いってんのオミさん一昨日食べたやろ…ってどうしたん!?」
 戦慄するユウマの視線先。そこには、よぼよぼしわしわになったカズオミの姿があった。
「UMA、いつの間に大きくなって…前は俺の半分ぐらいだったのに」
「半分どころか二万分の一やけどな…(ミドリムシ的な意味で)ってそんなこと言ってる場合やない。このまま寝たら天国に行ってしまうで!」
 老狼を揺さぶっていたらどういうわけか自分まで眠くなる。
「あかん…なんか俺も眠い…もう疲れたよパト●ッシュ…」
「あ、変身解除忘れてたのだよ! オミさんごめんなさいなのだよ!(・ワ・)v」
 二人が危うく昇天しかけていた間に、残りのメンバーは魔王っぽいナニカの作成を終えていた。
「…これある意味失敗なんじゃねェか?」
 アキラが手にしているのは、どう見ても本物の生首にしか見えない物体。ショウもかくりと首を傾げ。
「これってくらりんにひっかかるのかなー」
 何故本気を出してしまったのか。
「うんうん! こういうヤバイのはぽいぽいなんだね!」
 エニシはその物体を異次元の彼方に葬り去ると、ポケットから召喚したビスクドールを掲げる。
「これでばっちりなんだよー!」
「フェ〜(アルパカのご利用は計画的に!!)」
 フレイヤの毛が全て無駄になったところで、次の問題に移る。
「後は…世界破滅ボタンを何とかしねェとな」
 アキラの視線先、瞳をきらきらさせたショウがいつの間にかボタンを手にしている。
「ねえねえアキラ姉、こういうスィッチっておすのがおやくそくなんでしょ?」
「え」

 ぽちっとな。

 \ぼかーん/

 世界は粉々に吹っ飛んだ。


●と思ったら


「あれ…生きてる…?」
 頭と尻尾が盛大なアフロになったカズオミは、辺りを見渡し唖然となっていた。
 粉々になったのは世界ではなく、なぜか魔王城のみ。
 その時、サギヤの笑い声がこだまする。
「ふはははこんなこともあろうかと!」
 聞けばさぼっている間に、世界破滅ボタンをお城爆発ボタンに改造しておいたらしい。
「だって城が破壊されれば旅に出ざるを得ないじゃないか」
 ぶっちゃけ、本当は爆発オチがやってみたかっただけなんだけどね。
 聞いたアキラは呆れつつも、にやっと笑んで。
「…まァ、世界は無事だったしヨシとするか」
「フェ〜(やった!アフロになってもふもふ感復活なのだわ!)」
「よーし、じゃあお城もなくなったことやし」
 ユウマは美形オーラをMAXまで上げると、リロに向かって手を差しのべる。

「改めて、世界一周皆で行きませんか」

 それは新しい夢への誘い。
「一緒に楽しい世界を見に行くのだよ!(・ワ・)」
「新たな旅の始まりなんだねー!」
 フィノとエニシが口々に誘う隣で、ショウはリロの手をきゅっと握る。
「おねーちゃんいっしょにいこう、ね?」
「暇なんやろ!一緒行こうやー!行こうやー!」
「わかった、わかったよ」
 だだをこねるユウマ達に、リロは降参したようにそう言ってから。
 皆を見渡すとほんの少し恥ずかしそうに、微笑った。

「じゃ、これからよろしくね」

 ※

 エンディングは共に迎える始まりのとき。
 心躍る旅路への幕開けを、カズオミとユウマが宣言する。
「さぁ、次の舞台へ!」
「更に楽しい出会いの開幕劇や!」
 新たに仲間となったのは、魔王ではなく一人の少女。

 フェ〜(フフッ、我が名はロリprprのアルパカ…)

「あれ、乗せてくれるの?」
「フェ〜(当然よ、prprするためにな!)」
「あ、アルパカが変な事したら俺が毛刈るから」
 ユウマがバリカンを光らせたところで、アキラは軽口を叩く。
「世界一周の旅ネ…アレが要るだろ、アレ」
「あれ?」
「世を忍ぶ仮の姿で旅行をする時の必須アイテム…印籠」
 その言葉にショウがきょとりと小首を傾げる。
「いんろーってなに?」
「最強呪文『コノモンドコロガー』が使えるヤツだな」
「印籠か…アルパカの毛で作れるかな…(ちらっ」
「フェ〜(やめて!アルパカのモフ値はもうゼロよ!)」

 浮き浮き顔のエニシが、スキップしながらクラウンを振り向く。
「ミスターももちろん、一緒にいくんだね!」
「ええ、そのつもりですよ」
 熟練ストーカーですし。
「うにうに! 美味しいものたくさん食べようなんだね!」
 その言葉にカズオミが、ぱたぱたと尻尾を振り。
「ふ…ではミスターの知らない世界を俺が見せてあげまs」
 がしゃーん
「おや、手が滑りました」
「あれ? またオミさんが閉じこめられたのだよ? m9(・ワ・)」
「ミスター今日と言う今日は待遇改善を要求します! せめて手足を伸ばして寝られる広さを! ミ´;ω;ミ」
 出来れば2LDK希望!
「玄関に足拭きマットは人狼のマナー!」

 にぎやかな旅路が始まる中、サギヤはリロに声をかける。
「城ではすまなかったね、悲しませるつもりはなかったんだが」
 想定外すぎてうっかり玉ねぎ型に戻りそうだったけどそこは黙っておく。
 彼の言葉にリロは少し考えた後、かぶりを振る。
「ボクは一番最初にキミが来たとき、嬉しかったよ」
 本当に辿り着いてくれたのだと知り、どれほど心が躍った事だろう。
 そう言って、楽しそうに微笑う彼女を見て。サギヤも笑みを返すと一言だけ告げた。

「ならよかったさ」


 ※


 こうして、世界は無事救われた。
 しかし夢はまだ終わらない。だってこれは、始まりの物語に過ぎないのだから。
 澄み渡った空を見上げ、ショウが意気揚々と宣言する。


「ぼくたちの冒険はこれからだ!」

 あれ、それって打ち切りry



 〜完〜



依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:8人

今生に笑福の幸紡ぎ・
フレイヤ(ja0715)

卒業 女 ダアト
紫水晶に魅入り魅入られし・
鷺谷 明(ja0776)

大学部5年116組 男 鬼道忍軍
あなたの縁に歓びを・
真野 縁(ja3294)

卒業 女 アストラルヴァンガード
JOKER of JOKER・
加倉 一臣(ja5823)

卒業 男 インフィルトレイター
真愛しきすべてをこの手に・
小野友真(ja6901)

卒業 男 インフィルトレイター
暁の先へ・
狗月 暁良(ja8545)

卒業 女 阿修羅
未来祷りし青天の妖精・
フィノシュトラ(jb2752)

大学部6年173組 女 ダアト
もふもふヒーロー★・
天駆 翔(jb8432)

小等部5年3組 男 バハムートテイマー