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マスター:久生夕貴
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/01/06


みんなの思い出



オープニング


「――リネリアとシスが退却したか」

 偵察サーバントを通した外界の状況を、大天使は察知していた。
 予想はしていたため、驚きはしない。
 二人が無事だったことに、安堵の息を漏らすだけで。
 静まりかえったゲート内で、騎士はひとり微笑を口端に宿す。

「いよいよだな、撃退士よ」

 その瑠璃の瞳は、邂逅を待っている。


●黒曜の楔

 四国、高知県高知市南東部。
「ゲート周辺のサーバント部隊、撃破!」
 他班からの報告を受け、西橋旅人(jz0129)はわずかに頷いた。
 騎士リネリアと従士シス=カルセドナの防衛網を突破してから、約半日。
 他班の協力を受け、ようやくゲート突入の準備が整ったと言える。
 旅人は突入班に現状報告を終えると、新たに集った6人へ向けて口を開く。
「君たちも、応援ありがとう」
 向ける笑みは、いつもの穏やかなもの。しかしその表情はすぐに消え、真率なものへと変わり。
「じゃあ、これからの行動について手短に説明するよ。この班の目的は一つ、ゲートコアを破壊すること」
 枝門のコアは通常のものとは違い、枝門主の命を消費する『防護障壁』によって護られているという。一人が小首を傾げ。
「確か主が撤退しない限り、コアは破壊できないんじゃ……?」
「うん、その通りだね。でも、障壁を攻撃することで枝門主にダメージを与える事ができるんだ」
 枝門主であるバルシークの対応は、他班が行うことになっている。
「彼らの負担を減らし、最終的にコア破壊に至るためにもこの班が担う役割は大きい」
 それに、と旅人はメンバーを見渡して。
「恐らく、コア破壊を邪魔する存在も現れるはずだよ。そう簡単にはいかないと思う」
 通常ゲートと異なり、枝門主はまさに命懸けだ。援護する存在はあって当然と見るべきだろう。その上、今は四国の至るところでゲート戦が行われており、この地に割けた人員は多くない。
 バルシーク以外をこの人数で相手取りかつ、コアを破壊へ至らしめなければならないのだ。
「状況は決して楽観できるものではないけど……」
 漆黒の装束に身を包んだ旅人は、同じ漆黒の瞳でゲート入口を見上げる。
「必ず、勝とう」
 そして全員での生還を。
 この日の為に犠牲という痛みを背負い、それでも前を向いてきたのだから。
 雪がちらつく四国で、旅人は人知れず誓う。

 勝たなければならない。

 何度こうして、恐怖と高揚の狭間で揺らぎそうになる精神を奮い立たせてきただろう。
 この装束に身を包むのも、戦いに身を投じる自身を鼓舞するためにやってきたことで。
 全ては、天の牙城に楔を打ち込むために。
 そして、自分と同じように命懸けで未来を掴み取ろうとする仲間のために。

 だからもう、迷わない。


●瑠璃の天

 高知市南東部、ゲート内部。
 サーバント掃討を皮切りに一斉突入を果たしたメンバーは、慎重に歩を進めていた。
「これがバルシークのゲート内か……」
 規則正しく敷き詰められた石畳。簡素ながらもどことなく品を感じさせるアーチ状の天井。
 そこはまるで、西洋の古城だった。
 年季の入った石造りの壁や床が、重厚な景観を創り上げている。
「やけに静かだね……」
 敵の姿はない。
 高い塀に挟まれた広い通路をしばらく進むと、急に視界が開けた。
 城を抜けた先で、彼らの視界に映ったもの。
「これは……コロッセオ?」
 それはまるで、古代ヨーロッパにおける円形闘技場(アンフィテアトルム)だった。

「――待っていたぞ」

 石灰色の観客席に囲まれた、広大な空間。
 アリーナと呼ばれる闘技場中央に、『蒼閃霆公』は立っていた。
 白銀の鎧に群青の外套。瑠璃色の瞳がこちらに向けられている。
「前にも言ったと思うが、私は古い建物が好きでな」
 わずかに微笑すると、周囲を軽く見渡し。
「ここもそういったものに似せてみたのだが。やはり本物には敵わない」
 見れば大天使の後方には、従士シスの姿も見える。
 しかし前回とは違い、口元を引き結んだまま言葉を発しようとはしない。彼なりに空気を読んだのだろう。
「あれは……」
 一人がアリーナの奥に、淡く発光する一角があることに気付く。
 撃退士達が立っている側とは、ちょうど反対側の位置だ。
 察したバルシークは軽くうなずき。
「お前達の想像通り、あれがこのゲートの『核(コア)』だ」
 その前には、二頭の馬竜が陣取っているのが見える。
「あの竜……」
 反応したのは、化学工場の救出戦に参加したメンバー。
 電気を帯びた蒼竜が、入口を封鎖していたのを思い出す。どうやらこの竜も同タイプらしく、二頭間を行き交う紫電も健在だ。
 別の一人が言う。
「もしかして、わざとあの竜を使ったのかな」
 工場での攻防も、この時のためだったとしたら。
「……あの方ならやりかねませんね」
 ゲート展開が不意打ちだったからこそ、敢えて手札を見せることを選んだ。
 それは大天使なりの意地とプライドが表れた結果なのだろう。

 周囲の空気が次第に張り詰めていく。
 言葉に出さずとも互いに上がりゆく志気に、大気が呼応しているのだ。
 ともすれば暴発しそうな程の緊迫感に、シスは緊張の色を隠せないでいる。対照的に、バルシークの表情は静謐としていて。
 その奥に、底知れぬ闘気が迸る。

「――では、始めようか撃退士よ」

 これ以上の言葉は要らないだろう? と瑠璃の瞳が告げる。
 呼応するかのように蒼竜が咆哮し、雷鳴が轟き始める。
 白銀に輝くロングソードが天へ掲げられると同時、場内に開戦の宣言が響き渡った。

「焔劫の騎士団が一角”蒼閃霆公”バルシーク、約束通り『全力』での勝負を受けよう!」

 この身、この命は剣に捧げると誓った。
 だから問おう。
 残るべきはどちらの『生』か。
 蒼い閃光が走り、稲妻が大気を切り裂いてゆく。

 決戦の火蓋は切って落とされた。


リプレイ本文

※当リプレイは字数の都合上かなりの説明が省かれております。先に『【四国】瑠璃の天 玻璃の門・後』のリプレイをお読みになってから読む事をお勧め致します。



 ――必ず。



●支えるもの

 闘技場内を影達が走る、走る。

 大天使対応班が交戦開始したのを機に、コアへ向けて一斉移動を開始していた。

 アリーナを右方向に迂回しながら、加倉 一臣(ja5823)は呟いた。
「しがらみってのは人も悪魔も…天使も変わらないねぇ」
 そんなことを考えている脳裏に、並走する仲間の声が入ってくる。
「言われた通り、越えに来たよ。バ…バ…バシルーク?」
「そこバルシークやからね、温君!」
 霧谷 温(jb9158)の宣言に、小野友真(ja6901)が颯爽と突っ込む。
 二人ともタイプは違うが、やる気に満ちた表情をしていて。
「越えてみろの言葉通り来たで。遠慮なく越えて、ブチ壊してみせたらァ!」
 真っ直ぐな彼らの気概に、一臣は笑いながら前を見据え。

「OK、行こうか。勝って”みんな”で帰ってくる為に」

 一方アリーナを左迂回する月居 愁也(ja6837)は、『火』の文字が入った白い酒瓶に口を付けた。
 纏う紅蓮のオーラが一層強くなる。
「さあ、やってやんぜ」
 親友が全力でと願っている。
 相手にも全力でと望まれている。
「だから俺も命を懸ける。今度こそ、勝つ!」
 その隣を疾走するのは、仲間から縮地を受けた雨宮 祈羅(ja7600)とユウ(jb5639)。
「背中任せたし、後は突っ走るのみだね」
 幸いなことに、大天使班の猛攻が凄まじくシスはこちらへ意識を向ける余裕がないようだ。
「ええ。多くの皆さんが協力して紡いだこの機会、必ず成し遂げなくてはいけませんね」
 ここに辿り着くまでに多くの仲間が戦い、傷つき、乗り越えてきた。祈羅も頷いて前方で待ち構える「二頭の竜」を見据える。

「何としても、みんなで帰ろう」

 先頭を走っていた西橋旅人(jz0129)が、小部屋前で咆哮を上げる蒼雷竜へ突撃を開始する。
 高速の一閃が左側の竜へ叩き込まれ、ほぼ同タイミングで右側の竜を愁也の薙ぎ払いが襲う。意識が刈り取られたことで両竜間の紫電が一時消滅。
「よし、竜は大きく移動する気配がないな」
 攻撃を受けても入口前から離れようとしない竜を見て、一臣と友真は銃を構える。狙う先は、竜の向こうに見える『扉』。
「一臣さんいくで!」
「木っ端微塵に吹っ飛ばす!」
 息の合った二人の弾丸が、小部屋の扉を破砕する。そのタイミングを狙っていた祈羅が、瞬間移動で小部屋内へ突入。
「よし、ここからは障壁叩きだぁー!」
 部屋奥へ到達した祈羅は、道化人形を手に障壁へ魔法攻撃を叩き込む。その先には瑠璃色に発光するコアが見え。
 その時、左の竜が広範囲のブレスを吐き出した。前衛メンバーが受け止めたのを見計らい、ユウが旅人と愁也に合図。
「今のうちに竜のバリアをなんとかしましょう!」
 補佐するのは狙撃手二人。一臣と友真が竜の脚部を集中攻撃した直後、ユウの大鎌が翻る!
「行きます!」
 凄まじい勢いで振り抜かれた刃に、蒼い巨体がはじき飛ばされる。間髪入れず旅人の黒刀が振るわれ、再びノックバックされたところを愁也の槍が勢いよく吹っ飛ばす。
「よっしゃああ!」
 両竜の衝突により、バリアが消滅。竜に突撃された前衛を回復させていた温が頷いて。
「OK、予定通りだね」
 道中シスに襲われなかった事もあり、こちらの班は驚く程首尾よく進んでいるといっていい。
 忍軍の兜割りで朦朧状態となった一頭を、再び愁也の薙ぎ払いが襲う。紫電が消滅したタイミングを見計らって、一臣、ユウ、旅人が小部屋内へ飛び込む。
 残りのメンバーは竜対応へと回り、一体への集中攻撃を開始。対する竜も強力な放電で応戦するも、温たちアスヴァンによる聖なる刻印のおかげで行動阻害される者は少ない。
 瞬く間に一頭が撃破され、小部屋内メンバーによる障壁攻撃が本格化した、その時。

「思った通りのお出まし、かな」
 温の視線先、こちらへ猛スピードで近付いてくる白い影がある。他班が囮になってくれている間に、彼らは迎撃態勢に入る。
「シス来たで!」
 強行突破してきたシスに向け、愁也が牽制攻撃を放つ。
「来やがったな、エア友人背負った厨二赤パン男!」
「何だと、この赤髪単細胞デコ野郎!」
「なっお前に言われたくねえよ!」
 直後、蒼雷竜が咆哮を上げ突進する。
「ぬわっ」
「愁也さん!」
 横からのタックルで愁也が吹っ飛ばされた隙に、シスはコアへと向かおうとする。
 そこに立ちはだかるのは友真。
「どうも、ヒーローの小野友真でっす。シスやっけ? よろしくな」
「退け、貴様と今話をしている暇はない!」
 次の瞬間、玻璃の嵐が吹き荒れる。凄まじい勢いで斉射された結晶針が容赦無く扉前のメンバーを巻き込んでいく。
「友真大丈夫か!」
 小部屋内から一臣の声が聞こえてくる。友真は血を吐き出してから、手を挙げてみせ。
「…自分みたいな奴、俺好きやで?」
 分かりやすいほどに真っ直ぐで、懸命で。敵として出会わなければきっと仲よくなれただろう。

「けど、俺等も退けん理由がある」

 互いに譲れぬからこそ、命を賭した目で応えたい。聞いたシスはまなざしをさらに鋭くし。

「ふん…ならば、俺様も戦うまでよ! 唸れ、衝撃石英(インパクトクォーツ)!」
「――っ!」
 横方向から飛ばされる巨大結晶に、扉前の全員が吹っ飛ばされる。それを見た祈羅が耳栓をしながら警告。
「シスちゃんが来るよ気を付けて!」
「…これはちょっと頑張るしかないね」
 一人だけ小部屋側に飛ばされた温は、シスの射線を塞ぐように入口に立ちはだかる。
「薙ぎ払え、繰狂!」
「温ちゃん!」
 続くからくりによる攻撃をもろに受け、温の意識が一瞬飛ぶ。
 度重なるシス達の攻撃で、既に部屋前面子の多くは満身創痍。しかしそのおかげで部屋内メンバーの被害は最小限に抑えられている。
「ここには入らせません!」
 即座に大鎌を構えたユウが、凄まじい勢いで振り抜きシスを部屋外へとはじき飛ばす。
「くっ…!」
 至近距離で強攻撃を受けたシスは、脇腹に大きく損傷を負い後退。
 そう、近接戦が苦手な彼にとって、この方法での小部屋突入はまさに諸刃の剣。
「こっちが隙だらけだっつーの!」
 扉前に戻って来た愁也が、背後から高速の剛撃を叩き込む。大きくバランスを崩したシスに、竜撃破を終えた残りの面子が次々に襲いかかり。
「悪いけど、その腕狙わせてもらうで!」
 友真が放つ高命中の弾丸が右腕を貫通。大きく散った鮮血が、シスの真っ白な髪を染め上げる。
「がはっ……」
 かろうじて立っているシスは、喉に溢れる血を吐き出す。元々完全な状態でなかった事もあり、受けた損傷が深刻なレベルにまで達しているのがわかる。
 その様子を見た温が思わず。
「……まだやるつもり?」
 そういう自分も気絶寸前なのだが、シスの状態はさらに酷い。ユウも眉をひそめ。
「それ以上やったら、死んでしまいますよ」
「黙れ! 俺様は命に代えてでも蒼閃霆公を連れて帰ると決めているのだ!」
 戦輪が走る。
 全身血塗れで向かってくるシスは、本当に後の事など考えていないように見える。
「お前……」
 愁也はシスの猛攻を盾で受け止めながら、相手の覚悟が本物であると確信していた。
「くそっ…やるしかねえ…!」
 殺るか、殺られるか。
 こちらも既に満身創痍。躊躇する余裕はない。
 部屋前の撃退士たちが渾身の一撃を放った、その刹那。
「なっ…!?」
 着弾の寸前、目前のシスが一瞬ではじき飛ばされる。

 代わりにその場に立つ影を――轟音と閃光が飲み込んだ。


●遂げるもの

 一瞬、何が起こったのかわからなかった。

「嘘やろ……」
 唖然となる友真の目は、全身を大きく負傷したバルシークの姿が映っていた。
 自分たちの攻撃と、追いすがる後方の刃。両者がほぼ同時に彼の体躯を貫いたのだと認識した瞬間、シスの絶叫がこだまする。

「何故俺を庇った蒼閃霆公! 庇えば貴様が不利になることなどわかっていただろう!」

 白銀の鎧を血に染める大天使へ詰め寄る。取り乱す従士に対し、バルシークの表情は驚く程に静かで。
 それを見た撃退士達は痛感せざるを得なかった。
 シスがバルシークを命懸けで護ろうとしていたように、大天使もまた、同じだったのだ。
 立ち尽くす彼らへ更に突き付けられたのは、予想外の事実。

 ”障壁とのリンクを切るつもりはない”

 何故だと問い詰める相手へ向けて、語られる理由。
 聞きながら、温は拳を握りしめていた。
 様々な感情が駆けめぐり、いつのまにか叫ぶ。

「ふざけんな!」

 突然激高した温に、大天使はわずかに驚いた表情になる。
「ゲートなんて作って力使って! 更にコアなんて背負って傷増やして! こんなののどこが『全力』勝負なんだ!」
 必死に言い放つ。
「お互いイーヴンでもなんでもないじゃないか! こんな終わり方俺は認めない!」
 聞いたバルシークは一旦沈黙した後、困ったように笑んで。
「お前達もここに来ている時点で、『完全』な状態ではないだろう?」
 ゲート内では嫌でも能力が減少してしまう。能力を最大限発揮できないのは互いに同じだと言いたいのだろう。
「お前達に選択権を与えてない以上、私が背負うハンデなど大した事ではない」
「でも……!」

「それに私は『今ここにいる』お前達と、雌雄を決したいのだ」

 この期を逃せば、再び相まみえる事はないかもしれない。戦場での一期一会とはそんなもの。それは多くの死に直面してきたゆえの、切実さでもあるのだろう。
 沈黙が続く中、最初に切り出したのは愁也だった。

「――俺はコアを破壊するぜ」

 奥歯を噛みしめながら、目前に立つ親友を見据え。

「じゃないと、あの時負けた意味がない」

 研究所での惨劇。鳴り止まぬ悲鳴と血に染まった絶望の色。
「…僕も、愁也君と同じだ」
 旅人の静かな、けれど意志のこもった声が響く。
 あの日あの場で同じ絶望を味わった。今ここで退けば犠牲者の殉死が無駄になるとも思うから。
 二人の決断を聞き、一臣は他のメンバーへ向け告げる。
「俺は、愁也と旅人の判断に従うよ」
 真っ直ぐすぎる二人があの時どれほどに苦しんだかは、嫌と言うほど知っている。それだけに。
 対するユウは、複雑な心境に駆られていた。
 かつて悪魔の一兵卒として人間を狩ってきた。自らの罪は生きて償うと決意した自分にとって、バルシークの決断はそう簡単に納得できるものでもなく。
「ですが…それが、あの方の生き方でもあるんですよね…」
 騎士としての最期を迎える事を何より望んだ。その意志を否定する事は、恐らく彼の生き様そのものを否定するのと同じなのだろうとも思う。
「……うん。だからうちも、コアを破壊するよ」
 苦悩の色を浮かべた祈羅が、呟く。
「それが正しかどうかなんて、わからないけど」
 本当は誰にも死んで欲しくない。けれどバルシークの意志が変わらないのも、どこかで理解しているから。

 その時、バルシークの身体を凄まじい量の蒼電が覆い始めた。
 地が震えるような雷鳴と共に、蒼の剣閃が走り出す。

「待て!」
 追いすがるシスを、愁也と友真が二人がかりで羽交い締めにする。
「何をする貴様ら! 離せ!」
 もう立つ力さえ残っていないほどの状態なのに、かなりの力で暴れるシスを二人は必死に押さえ叫ぶ。
「俺だって、今すぐあっちへ行きてえんだよ!」
 死にそうな程に傷を負いそれでも戦う親友を、ここで見届けなければいけない歯がゆさ。シスの気持も痛いほどにわかるからこそ。
「俺らは絶対にあそこへ行かせるわけにはいかんのや!」
 小部屋の前に立ちはだかった温も、複雑な感情を押し殺すように。
「お前が今行けば、バルシークの覚悟は無駄になるんだ。そんなことは絶対にさせない」
 互いに限界なのは承知の上。だからこそ。

「俺たちはお前を死なせないよ」

 一方小部屋内のメンバーは、ひたすら障壁を攻撃し続ける。
 弾丸をひたすら撃ち込みながら一臣が漏らすように。
「あいつらの覚悟…俺たちが受け入れなくてどうするって話だよな」
 これから迎える結末を思えば、一抹の迷いが無いわけではない。
 けれど、今自分たちが躊躇すればバルシークと対峙している仲間が死ぬ。
「うん、迷ってなんかいられないよね」
 祈羅も唇を噛みしめながら、一心不乱に魔法攻撃を放つ。
「みんなのために…うちはやるよ…!」
 凄まじい衝突音が外から響いてくる。激しい閃光が小部屋内にまで入ってきた時、ユウがはっとした表情で叫んだ。
「障壁、ヒビが入りました!」
 刹那、彼女が放つ弾丸が障壁を破砕。

 迷うな。
 撃ち込め。

 全員同時の一撃が核へ向け一斉に放たれてゆく。


 瑠璃色の破片が舞い上がった瞬間――


 コアが砕け散った。


●受け継ぐもの


 バルシーク戦死の一報は、瞬く間に天界と学園に広がっていった。
 周囲が慌ただしくなるのに比べ、現地にいるメンバーはどこが現実感を持てないでいる。
 大天使が遺したものと、託したもの。
 それらを受け止め昇華するには、少し時間が必要だったからだろう。
 憔悴しきったシスは、それでも気丈に残された自分の役目をこなしていた。見守っていた愁也が声をかける。
「さっきは悪かったな」
「…何の話だ?」
「俺、お前の覚悟ちょっと舐めてた。お前も本気で命を懸けようとしてたんだよな」
 その言葉にシスはわずかに俯く。結果的にその事がバルシークに深傷を負わせるきっかけになった以上、複雑な想いでいるのだろう。ユウがきっぱりと言い切る。
「あの方は自分の意志でこの結末を選んだのです。きっと後悔はしていないと思いますよ」
 シスはしばらく沈黙した後、ばつが悪そうに。
「貴様らにそんなことを言われるとはな…俺様のフォースも余程弱まっているとみえる」
「まあ、分かりやすいほどに凹んでるよね」
「皆まで言うな皆まで!」
 温の感想に速攻ツッコミを入れるシスを見て、友真が苦笑しながら。
「あんな、シス。俺、厨二病大好きなん。ヒーローの俺とも相性いいはずやで」
 そう言って、手を差し出す。
「だからな、シスとももっと話したいって思うん」
 今はまだ無理かもしれない。けれどいつか、わかり合える日が来るなら。
「うん。うちもちょっとくらいなら、君のエア友人の話聞いてあげてもいいよっ」
 祈羅も微笑みながら、手を差し出す。
 ぎこちなく握手を交わす彼らを、一臣と旅人は見守っている。
「さて、俺たちも一旦帰って休んで。また、歩き始めますか」
「うん。立ち止まってはいられないしね」
 目指す未来のために、やるべきことはまだまだある。
 蒼閃霆公が最期に抱いた希望。
 実現するのは、ここにいる自分達なのだから。


●瑠璃の天 黒曜の楔


 一つの天命が役目を終え、願いは楔となり希望を繋ぐ。

 受け継ぐ者たちが創る此の先は、まだ誰にもわからないけれど。



 願わくば――




 争いのない未来を。




依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 輝く未来を月夜は渡る・月居 愁也(ja6837)
 黒い胸板に囲まれて・霧谷 温(jb9158)
重体: 黒い胸板に囲まれて・霧谷 温(jb9158)
   <身を呈して仲間を庇い続けたため>という理由により『重体』となる
面白かった!:5人

JOKER of JOKER・
加倉 一臣(ja5823)

卒業 男 インフィルトレイター
輝く未来を月夜は渡る・
月居 愁也(ja6837)

卒業 男 阿修羅
真愛しきすべてをこの手に・
小野友真(ja6901)

卒業 男 インフィルトレイター
撃退士・
雨宮 祈羅(ja7600)

卒業 女 ダアト
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
黒い胸板に囲まれて・
霧谷 温(jb9158)

大学部3年284組 男 アストラルヴァンガード