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マスター:久生夕貴
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
形態:
参加人数:25人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2014/07/15


みんなの思い出



オープニング

●四国

「……晴れたな」
 久しぶりに見る澄んだ空に、大天使バルシークは呟いた。
 ここのところ何日も雨が降り続いたせいで、目下に広がる石鎚山は雲海の中にひっそりと沈んでいる。
 無数の水の粒子が上空から差し込む陽光を反射し、きらきらと輝いて見え。
「美しいものですね」
 かけられた声に振り向くと、そこには蒼き双眸がある。
「アセナスか」
「すみません、お呼び立てして」
 申し訳なさそうにするアセナスに対し、かぶりを振ってみせる。
「……それで、私に相談というのは?」
 バルシークの問いに、躊躇いがちに頷いて。
「その……ゴライアス殿の事なんですが。数ヶ月前から様子がおかしいと言うか……元気がないのが気になって」」
 その言葉に瑠璃の瞳がアセナスを見返した。
「それで、バルシーク殿なら何かご存じかと」
 バルシークは一旦黙り込んだ後、山へと視線を移し微かに吐息を漏らす。
 かの黄金の大天使を失った朋を思う。
「……何度失っても、慣れないのだろう」
 どれほど長い年月戦いの中に身を置いたとしても。失う痛みには慣れることがない。
 死に頓着しない事と、痛みを忘れる事は違う。
 悲しむ時間は癒やすためのものだと思うから。
 視線を戻したバルシークは、アセナスと向き合う。

「少し、気晴らしにでも出るか」

 いつの間にか、霧は晴れてきていた。


●そんなわけで

 やってきたのは徳島。
 周囲を埋め尽くす湯煙を見渡し、大天使ゴライアスは豪快に笑った。
「おう、これが温泉というものか。噂に違わずよき所かな」
 山奥にある秘湯中の秘湯。岩に囲まれた泉地は広大で、まるでプール程の広さがある。
「こんな所よく見つけられたな」
 感心するバルシークに、アセナスはちょっと得意げに。
「ええ。あらゆる力を駆使して調べましたから」
 秘湯を調べるために、こっそりネカフェに入ったとか入っていないとか。人里離れた場所であるため、人間と遭遇することもないだろうと目論んで来たのだ。

「ふいー生き返るわ」
 湯煙の合間から見えるのは、満天の星空。
 早速湯につかった三天使は、各々その心地よさを堪能していた。
 ふと、ゴライアスが唐突に語りだす。
「さて、体が温まったからにはクエストに挑まねばならん。男のクエストだ」
 何故か妙に厳かな声。
 ちょっと腰が逃げたバルシークと、何かの秘訣を感じ取り身を乗り出すアセナス。
 ゴライアスは予言を告げるかの如く神々しく告げた。

「今こそ告げよう。温泉とは!
 一に体の疲れを癒し、二にその開放感に浸って心を満たし、
 三に女湯を覗いて男度をあげるものである! と!!」

 シン、と近くの音が絶えた。どこか遠くでちゃぷちゃぷと音がする。 
「ゴライアス…それは一人でやれ」
「仕方あるまい。バルシークはリネリアを裏切れんらしい……さ、行こうかアセナス」
 無駄に夜風を全裸にあび、肩にバシーンしたタオルをはためかせてゴライアスが仁王立ち。隠さない男の背面が色んな意味で目に厳しい。
 注意しようとしたバルシークの前、すっくとアセナスが立ち上がった。
「お供します、先輩」

 あかん。

「いかんぞ、アセナス。それは罠だ」
「バルシーク。なぜにおぬしはそこまで枯れておるのか。……マムシドリンク、やろうか?」
 バルシークは聞こえないふりをした。
「儂はおまえさんの未来が心配でな?」
 バルシークは聞こえないふりをした。
「儂はおまry」
「わかったからアセナスを洗脳するんじゃない! だいたい、誰も来ない秘境だからここを選んだのだろう。女湯そのものが存在していないと思うが?」
「うむ。盲点であったな」
 ちゃくせーき。
「そういえばそうですね」
 ちゃくすーい。
 仕方なく湯に戻った二人に、出番を終えた湯煙が持ち場を離れる。懲りないゴライアスが「探せば何かおるかもしれんな」といそいそ動くのに、バルシークがこめかみを揉んだ。
「全く…」
 その時、アセナスがハッとなって顔を上げた。
「……あれ? なんか音が聞こえませんか?」
 アセナスの耳には、それは人の声であるようにも感じた。バルシークも怪訝な表情で。
「……人間か?」
「まさか。こんな山奥に」
 そう言って笑ってみせた後、アセナスは気になっていた事を聞いてみる。
「リネリアの怪我はどうですか」
「大事には至っていない。完治にはしばらく時間を要するだろうが」
 バルシークの返事に頷いた後、わずかに苦笑を漏らす。
 彼の脳裏には猛省するリネリアの姿が映っていた。自分の為に三人もの仲間に迷惑をかけた事が、たまらなかったのだろう。
(そりゃ、へこむよな)
 アセナスには彼女の気持ちが痛いほど分かった。
 思うように成果を出せない事への焦り。役に立ちたい想いの強さが、空回りするもどかしさ。
 それは自分も――同じだから。
「……アセナス、どうした?」
 バルシークの声に、はっと我に返る。
「い、いえ何でも……あれ、ゴライアス殿は?」
 いつの間にか姿が見えないことに気付く。探しに行こうと立ち上がる背にかけられる声。
「放っておいてやれ」
 振り向けば、バルシークがかぶりを振っている。一人にさせてやれと言われてるのだと気付き、何も言わず湯へと戻ろうとした時。
 彼の目に、遠くから近付いてくる人影が見えた。





 一方その頃、離れた場所でも湯を楽しむ面々がいた。
「閣下のお傍を離れている時でも、身嗜みは整えないといけませんものね」
 タオルできっちり髪を纏め、肩まで湯に浸かっているのはマリアンヌだ。
「休養の必要性は認めてもいいよね」
 同じく肩まで浸かりながらリロ・ロロイが防水仕様の真白き書を虚空に仕舞う。
 その前にぷかー、と浮いてくるのはヴィオレットだ。
「足つかない〜…あたしだけ修行状態なのですよ!」
 大きなプールほどもある温泉は、整地されていない為異様に深い場所がある。幼いヴィオレットは仕方なく目の前にある大きな袋に乗った。
「避難するのです」
「あらあら」
 胸の上に乗ってきた幼女にマリアンヌは微笑む。
「ん。何か騒がしくなってきたようだね」
 ふと聞こえだした集団の声に、リロが眼差しをそちらへ向ける。湯気が濃くて見えないが、かなりの数だ。
「のんびりしたいところですが……相手次第ですわね」
 あくまでにこにこしたままで、マリアンヌ達は移動を始める。人の来なさそうな所に移動する予定だ。
「大小の温泉があるみたいだし、向こうに行ってるよ」
「では、私達は向こうに」
 それぞれの好みの場所へと向かう為、一旦湯を出る。


 全裸だった。



 

「不味いな……」
 続々と近付いてくる撃退士を見て、バルシークは急いで湯から上がる。
 身支度を調え木陰から様子を窺うが、ここで彼は思った。

 これ、覗きになるんじゃないのか……?

 気付いた途端、額に汗が浮かぶ。
 すぐにこの場を離れるべきかとも思うが、同朋を置いて帰るわけにもいかず。
「仕方ないここで待つか……」
 やや開けた場所で、一人腰を下ろす。ひんやりとた空気が、湯で火照り気味の頬に心地いい。
 木々の合間から見える星空が、やけに綺麗に見えた。


 ※※


「集合十五分前にホイッスル鳴らすから、それまでは自由時間だ」
「湯気で周囲が見渡しにくいから、気を付けて」
 鎹雅と西橋旅人の声に生徒達から返事が返る。
 山深い巨大な秘湯。点在する大小様々な温泉とあわせて、一般には知られていない秘湯。
 湯気の向こうに何が待っているのか、彼らは知るよしもなかった。


リプレイ本文



 夜の山間部は驚く程に空気が澄んでいる。

「夜の秘湯か…最っ高だな!」
 少し湿度のある甘やかな香りを胸いっぱいに吸い込み、麻生 遊夜(ja1838)は満足そうに頷いた。遊夜の隣でいつもよりはしゃいだ様子を見せるのは、来崎 麻夜(jb0905)。
「温泉だー!\ひゃっほぅ!/」
 そんな二人を見てディザイア・シーカー(jb5989)がやれやれと笑う。
「気持ちはわかるが…足元にゃ気ぃつけろよー?」
「おー、温泉……」
 ヒビキ・ユーヤ(jb9420)はきょろきょろと辺りを興味深そうに見渡している。大きく表情に変化はないが、彼女の内心は滅多に見られない本物の天然温泉に胸が高鳴りっぱなしで。
「ふふ、ヒビキ楽しそうだね」
 麻夜は嬉しそうな彼女を見て、来てよかったと思う。髪をうなじの上でまとめながら、辺りを見渡し。
「ん、まずは大きい方に行ってみようかー」
「せっかくだから、大きい方に」
 遊夜とディザイアも連れて早速温泉大へと入浴する。

「秘湯地、しかも夜の露天風呂とは贅沢ですね」
 微笑む夜来野 遥久(ja6843)の隣で、月居 愁也(ja6837)が瞳を輝かせる。
「旅人さん、よくこんな秘湯知ってたね」
「ああ、見つけたのは雅先生なんだ」
 旅人の説明によれば、実は彼女結構な温泉マニアだという。
 加倉 一臣(ja5823)はだだっ広い温泉に嬉しそうに。
「いいねぇ、泳げそうなぐらいだわ」
 タトゥーの為に普段はなかなか一般の温泉に入れないので、目一杯満喫するつもりだ。
「旅人さんのぼせんよにね!」
 そう呟きながら小野友真(ja6901)は旅人に向けて肩をぺしっと。
 密かなマーキングは迷子防止(真剣)。
「あんな…旅人さん聞いて。俺、本物の温泉卵が食べたい」
「あ、いいね。僕も食べたいな」
「と言うわけなん、一臣さん」
 笑顔で差し出される材料。
「え、お前が作るんじゃ…ハイハイ俺ですね」
 一臣は卵を受け取ると、源泉探し。
 同じく源泉探しに歩くのは、白のスクール水着姿の黒百合(ja0422)。
「きゃはァ、楽しい楽しい温泉だわァ…ゆっくり入浴してまったりしたいわねェ…♪」
 金色の瞳を爛々と輝かせ、手には温泉卵用に大量の卵。撃退士も酔えるという特別仕様の改造酒とグラスも準備済みだ。
「これを使って楽しみたいわねェ…♪」
 水辺に降り立った鯖…もとい川中 糸魚(jb8134)は、まったりしようと温泉小へと向かう。
「やっぱり温泉と言えばコレですね」
 脇に抱えた桶に入れられているのは、日本酒とみかん。
 死んだ魚の目がきらきらと輝いている。

 カメラ片手に、温泉取材する気満々の者もいる。
「『ドキ★山奥の秘湯に潜入。マル秘独占レポート!』ってなタイトルはどーだ?」
 到着早々小田切ルビィ(ja0841)の問いかけに、同行者の緋月(jb6091)は困惑しつつも。
「えっと…今度の記事のタイトルですか? い、いいんじゃないでしょうか…!」
 微妙にセンスがアレなような気がしないでもないが、そっとしておく優しさ。
「おっと! うっかり忘れるトコだったぜ…」
 全裸ダメ、絶対。
 ルビィは慌てて水着を着用し、温泉大へと向かう。
 対する緋月は淡い水色と白のグラデーションビキニを身につけている。お揃いのキュロットから伸びるすらりとした肢体が美しい。
「うわー広いな。本当にプールみたいですね」
 話には聞いていたが思った以上の広さに黄昏ひりょ(jb3452)は驚きを隠せない。
「普段はなかなか入る機会がないからな…楽しみだな」
 混浴という事実に気恥ずかしい思いをしながらも、湯へと足を踏み入れていく。
 その数メートル先では川澄文歌(jb7507)がパレオ付きの青色ビキニを着て入浴中。
「凄く気持ちいいですね…あれ? あそこにいるのは…ひりょ先輩?」
 こっそり近付くと背後から声をかける。
「こんばんは、ひりょ先輩も来てたんですね」
「えっ…ふ、文歌さん?」
 ひりょは予想外の相手に目を丸くする。
(う〜…文歌さんの水着姿とか緊張するじゃないか)
 普段見ない姿に、内心どきどきが止まらない。
「ふむ、温泉か。たまには疲れを癒すのもいいだろう」
 天風 静流(ja0373)は温泉小に向かいながら、身につけたパレオ付きの黒ビキニを眺めつつ。
「しかし…水着着用というものはどうにも慣れんな…」
 自分は多少肌を見られる程度なら気にならないのだが。
 そもそも久遠ヶ原には猛者な女子も多い。よこしまな考えがあったとして、行動に出られる勇者なはどれだけいるのか疑問ではある。
「まあ、私には関係の無い話か…うん」
 彼女も不埒者を殲滅する側であるような気がするが、そこは触れないのが現代社会と言う荒波を乗り越えるためには非常に重要でありかつ以下略。

 サーフパンツ姿で温泉小へと向かうのは、ギィ・ダインスレイフ(jb2636)。
「凄い湯煙だな…眼鏡は曇るから外すか」
 目が悪いわけではないので、平気ではあるのだが。
 その後ろを陽向 木綿子(jb7926)が、まるで子犬のようにぴょこぴょこと付いて歩く。
「憧れのギィ先輩と温泉……!」
 彼女が身につけているのは、お気に入りであるピンクのフリルワンピースの水着。
 大好きなギィと出掛けるとあって、気合いを入れてきたのだが。
(私胸薄いし、スタイルよくないし…)
 木綿子はこっそり周りをきょろきょろ。目に映るスタイル抜群のお姉さんたちが、ちょっぴり羨ましい。
(それに引き替え、先輩は今日もかっこいいな…)

「ヒナ」
「は、はいっ!」

 突然呼ばれはじかれたように返事をすると、ギィが手を差し出している。
「足下気をつけろよ。すべりやすいからな」
「あ、ありがとうございます…」
 木綿子の手を取りエスコート。彼女の顔が真っ赤に染まっているのだが、湯煙のせいで気付いてはいない。

「ふむ、温泉はよいものだ」
 礼野 智美(ja3600)は幼馴染みである音羽 聖歌(jb5486)と神谷 託人(jb5589)の三人で訪れていた。智美は周囲を見渡しながら二人に提案。
「温泉中の方にでも行ってみるか。そっちだと人が少ないだろうし」
 これは人見知りの激しい託人への気づかいでもある。当の本人もこくりとうなずき。
「…うん、二人が一緒なら」
「智美は俺たちに気にせず大温泉に行ってもいいんだぜ?」
 せっかくの天然温泉だしな、と気づかう聖歌に智美はかぶりを振ってみせ。
「風呂につかるのに一寸水深深いからな」
 のんびり浸かるには広すぎないのがちょうどいい、と二人に持参したペットボトルを渡す。
「湯あたりしないように」
「ありがとう。…それにしても、ここ湯気がすごいね」
 託人の言葉通り、ほんの少し離れるだけでお互いを見失いそうで。
「はぐれると困るから…手を繋いでいきたいな」
 頬を染めながらそう口にする託人は、皮膚の薄い調った顔立ちをしている。どこか儚くも見えるその風貌は女性と見間違えてもおかしくはなく。
「よし、じゃあ三人で手繋ぐか」
 託人の従兄である聖歌の提案に、智美も同意。連れだって岩場を移動していく。

「なんとも風流でございますな……」
 湯褌を身につけ、温泉大を見渡しているのはヘルマン・S・ウォルター(jb5517)。
 滅多に見られない天然の露天岩風呂に、心から感服している様子。
「心が洗われますな……私真っ黒なのですが(」
 そんなヘルマンの傍ではディアドラ(jb7283)が瞳を輝かせている。
「ヘルマン様と温泉…胸が高鳴りますわ…!」
 実は彼女ヘルマンに溢れる敬愛心を抱いており、彼が温泉に向かうと聞きつけ猛ダッシュで参加。

 しょうぶみずきをきますわっっ!
 ↓
 久遠握りしめ購買へ。
 ↓
 スクール水着のみに絶望。
 ↓
 ネット通販に走る。
 ↓
 お急ぎ便で間に合った。 ←イマココ!

 おろしたてのビキニに身を包み、わくわくしながらヘルマンの後を追う。

 黒羽 拓海(jb7256)と恋人の天宮 葉月(jb7258)は、二人でのんびりと湯に浸かっていた。
「ふふん♪ 一緒にお風呂入るなんて、殆ど覚えてないぐらい昔の話だなぁ」
 真っ赤なビキニ姿の葉月は夜空を見上げ、子どもの頃を思い出しつつ。
「でも、この歳で二人っきりで混浴…嬉しいような恥ずかしいような…」
 彼女の白くて透き通るような肌が、ほんのりと上気している。滑らかな曲線を描く胸元を見て、拓海は内心どぎまぎしつつ。
(恋人と温泉…本来男なら心躍るフレーズだが)
 しかし、実際にやってみると妙に気恥ずかしい。

(割と生殺しだしな…)

 男の本音である。
「それにしても、成長したな…色々と」
「え? 何か言った?」
「い、いや何でもない」
 慌ててて目を逸らす様子に葉月はくすりと微笑んだ。

 そんな中、速攻で湯から上がった者がいる。
 戸蔵 悠市 (jb5251)が若干青ざめながらそそくさと岩場を後にしていた。
「…鴉の行水だったが致し方ない」
 実は彼、女体への免疫がゼロ。混浴の事実を知って若干の焦りを感じたのだが、まさか\ゼンラー/の少女がいるとは夢にも思わず。
「混浴というだけで、落ち着かなかったと言うものを…」
 それ以前の問題だったし。
 しかもちょっと見ちゃったし。
 若干泣きそうになったが、我慢。大丈夫まだ俺はやれる。
 そう言い聞かせ、彼は夜の森へと散策に向かう。


●思い思いに

「秘湯と言われるだけあって、自然そのままか」
 ゆっくりと湯に浸かりつつ、ディザイアは景色を堪能していた。
「いいね、心が洗われるぜ」
 岩で囲まれた湯場は、無骨ながらもどこか温かみがある。
「おお、結構深いな…」
 遊夜は半分泳ぐように移動しながら、身長の低いヒビキを振り返り。
「ヒビキ、沈まないように気をつけr」

 おい既に沈んでるよ\(^o^)/
 
「おい! 大丈夫か!?」
 助けようとする遊夜に彼女は必死につかまる。
「待て待てヒビキ首締まってる締まってるガボボ」
「って、お前ら沈んでんじゃねぇか!」
 ディザイアが慌てて二人を引っ張りあげると、遊夜の魂抜けかかってる。
「おいおい、絞めてる絞めてる(」
「うわぁ、大丈夫ー?」
 麻夜がヒビキを抱き上げると、けふけふと咳き込みながらも頷き。
「…びっくり、した。けど、大丈夫」
「ん、無事なら問題なし」
 優しく頭を撫でてやり、遊夜にはタオルを手渡す。
「先輩も大丈夫?」
「ああ、ありがとう。これはどっか腰掛けたりしてゆっくりできるとこ探すしかないな」
 さすがに立ちっぱなしもな、という遊夜に他の三人も同意。
「浅いとこ、探そう」
「じゃ、ちょっと見て回ろうかー」
「異論ないぜ」
 四人は連れだって移動を始める。

「っわ…凄い湯気…お、小田切さーんー…?」
 あたり一面の湯煙に緋月はルビィの姿を見失っていた。
「飛んだら分かるかな…おーい…ひゃっ!?」
「こっちだ」
 急に手を掴まれ、緋月は目を白黒。
「あっ…小田切さん…!─へっ!? あ、有難うございます…」
 ルビィに手を引かれ、温泉内を移動。内心どきどきして顔も真っ赤なのだが、湯気のせいでルビィは全く気付いていない。
「かなり深ェな…。緋月、溺れんなよ?」
 そう言って振り向いたルビィは、緋月の様子に首を傾げ。
「どうした、顔が赤いぜ。もうのぼせたか?」
「い、いえ。こんなに、心臓ばくばくしたの初めてです…!」

「ヘルマン様…お美しいですわ……」
 ディアドラの視線は完全にヘルマンへと釘付け。
 老いてなお引き締まり、均整の取れた身体。成熟しきった肉体の美は、若い人間には決して出す事の出来ない艶っぽさがある。
 対するヘルマンは見事なプロポーションである彼女へ、孫を見るようなまなざしを向け。
「ディアドラ殿お美しゅうございますな。ですが、うら若き女性がかように肌を晒すのは爺には目の毒でございます」
 そっとパレオに似た大きさのタオルを差し出す。そんなヘルマンの優しさに彼女は胸キュンが止まらない。
「私のためにタオルを…なんて紳士…っ」

 割と末期だった。

 一人のんびりと湯に浸かっていた静流は、湯煙の中謎の物体を見ていた。
「あれは……?」
 すぐ隣の温泉で、巨大な鯖が浮いているのだ。
「なぜこんなところに魚が…」
「え、魚? どこですどこです?」
 急にその魚がしゃべり出したため、静流は目を見開いたまま固まる。しかしよく見ると、鯖の下に胴体らしきものがある事に気づく。
「い、いや…私の見間違いだ」
「ああ、そうなんですね。すみません、つい私はしゃいでしまいました」※本人に魚頭の自覚無し
 糸魚は恥ずかしそうに頬を染めると、浮かべた桶に入れていたみかんを渡す。
「温泉みかん、お一つどうです?」
 静流はみかんを受け取り。
「ありがとう。なかなかオツだな」
「ええ。これが天国というやつですかね…わたくし悪魔ですが」
 それを聞いた静流は、どこか楽しそうに微笑む。
「おやどうされました?」
「いや、何でも無い」
 手にしたみかんを眺め、静流は感慨深いものを感じていた。
(天魔と共に温泉、か……)
 少し前までは考えもしなかった。でも案外、世の中とはそういうものなのかもしれない。

 その頃、周囲に温泉卵や改造酒を振る舞っていた黒百合は、湯煙の中でとある存在に目を留めていた。
「きゃはァ…なんだか面白そうなのがいるわねェ…」
 既に酔っ払いつつある視界に、桃色が映り込む。人形のように調った顔立ちがこちらへと向けられ。
「それ、美味しいの?」
「えぇ、あなたも呑んでみるといいわァ♪」
 差し出された改造酒をくぴりと飲み干し。少女は唇をぺろりと舐めると顔色一つ変えずに言った。
「ふうん。なかなかだね」
「あはァ、あなたイける口なのねェ…私と飲み比べしましょうよォ♪」
 ちなみに相手は全裸なのだが、酔っ払いの黒百合にとっては些細な事である。

「あーたまにはいいな。のんびり寛げて」
 黒百合からのお酒をやりつつ、一臣達も楽しんでいた。
 お酒大好き愁也はすでにほろ酔い気分になりつつ、謎の使命感に燃える。
(皆の疲れを癒すためにここはやるしかない…!)
「みんな見て見てー! せーの…桃!」
 
 温泉の中央に浮かぶ、成人男子の尻。

 すかさず飛んできた遥久が全力平手打ち。
「どこの幼稚園児だ、全く」
「ちょ、お前待っがぼがぼぼ」
 遥久は何故か手近にある石で愁也を湯底に沈めると、何事もなかったかのように。
 一部始終を見た一臣は生暖かく微笑む。
「ラックスちゃんのメアド知ってたらあの桃、写メってたな…」
「いやそれ凄い大惨事になるから…」
 ふるふると首を振る友真は、旅人に向かって真面目に提言。
「旅人さん、あれは絶対覚えてはならない例です」
 俺らはこれで遊ぶのが正しい温泉ですと、アヒル隊長を手渡す。
「これあげる。次からは必須な」
「わあ、ありがとう」
 遥久は湯から上がると、身支度を調え。
「では私は少し夜風にでも当たってきます」
「あ、気をつけてね遥久君」
「西橋殿ものぼせないよう御注意下さい」
 遥久は微笑みながらそう言い残すと、岩場を後にした。

 そこで一臣は、ふと気付く

「……愁也、忘れてね?」

 死ぬところでした(まがお)。


 一方、手頃な広さの温泉を見つけた智美達は、たわいのない会話に花を咲かせていた。
「…智美、お前風呂に入る時に武具持ち込むなよ…」
 岩場にちゃっかりと魔具を並べている智美に、聖歌がツッコむ。
「大体お前阿修羅のくせに、なんで投擲可能・遠距離攻撃可能武具ばっかり持ってきてるんだ」
「ああ、すまない。つい露天風呂に入る時の癖でな。秘湯の露天だとよく不届き者もいるから、監視しているんだ」
「現在進行形かよ、おい」
 覗きダメ、絶対。
「今までも姉上にわからないように桶とか石鹸とか投げてるしな」
 彼女の言葉に託人も納得したように。
「…そういえば、智美のお姉さんって体弱いから良く療養に行ってるもんね」
 しかして聖歌と託人は思った。智美が放つお仕置きはさぞ強烈な事だろう。
 覗き魔も命懸けである(まがお)。
「…でも智美さん、私と聖歌って男だけど…一緒に入って抵抗ないの?」
「ん、幼馴染だし。大体二人とも俺の事女だと思ってる?」
 その問いに聖歌と託人は顔を見合わせつつ。
「…正直思ってないな」
「私も智美さんは男みたいだと思うけど…」
「なら、良いじゃないか」
 そう言って、智美はあっけらかんとしてみせるのだった。

 ギィと木綿子は温泉小でのんびりとくつろいでいた。
「さて、初露天風呂だが…何をすればいいんだ?」
「ゆ、ゆっくりすればいいと思いますよ…!」
 気怠げな様子のギィとは対照的に、木綿子は二人きりの状態に動悸がノンストップ。
(うう。一緒に入れるのは嬉しいけど、足とか触れちゃうと恥ずかしい……)
「ん? 顔赤いぞヒナ。もうのぼせたのか?」
「いえ大丈夫です…って、先輩!? 温泉にタオル入れちゃ駄目ですよー?」
「そうなのか?」
 ギィは辺りを見渡し。
「そう言えばここは何処で身体洗うんだ…湯の中か?」
「湯の中はダメです! ボディソープ入れて泡風呂にしちゃうのも駄目ですし、読書も駄目ですよ。ここは公共の場ですからね」
 家のお風呂ならいいですよと説明する木綿子に、ギィは困惑した様子で。
「じゃあタオルでクラゲ作るのも、ダメなのか」
「ダメです」
「温泉卵とか、ないのか」
 こくり。
「…つまらん」
 ギィは拗ねたようにそう呟くと、所在なさげなアヒル隊長を岩場に並べてみる。その様子に木綿子は苦笑しつつ。
(先輩、魔界での生活が長かったからこちらの常識を知らないのね…私が教えないと!)
 すっかりオカン気分で、密かに気合いを入れる。
 別の温泉小では、葉月がふと拓海の肩や背に残る傷跡に気付き、わずかに顔を曇らせていた。
「知らないうちに随分と無茶してたんだね……傷だらけじゃない」
 指先でそっと傷跡に触れると、拓海の身体がわずかに反応を示す。
「いつも言ってるけど、あんまり無理しないでね?」
 傷跡をなぞる葉月の声が、どこか夢うつつのように脳裏に入り込んでくる。
「いなくなられたら、私もあの娘も悲しいんだから…ちゃんと二人とも幸せにしてくれるんでしょ?」
 葉月の不安げなまなざしに向け、苦笑じみた笑みを返す。
「ああ、約束は守る。…としか言いようが無いな」
 赤みを帯びた彼女の頬を、手のひらが優しく撫でた。


 その頃、 真っ暗な森を歩いていた悠市はふと空を見上げ呟いていた。
「星が凄いな……」
 フラッシュライトを光源にしていたが、敢えて切ってみる。すると瞬く間に辺りは闇に覆われ、代わりに無数の星の瞬きが降ってくる。少々疲れたこともあり、彼はスレイプニルを呼び出すと空中散策に切り替え。
 木々の合間から上空へと抜け出した瞬間、思わず言葉を失う。

 ――まるで宇宙だな。

 空はどこを見渡しても埋め尽くさんばかりの星で溢れ、世界の果てまで広がっている。
 瞬きをすれば星が流れ、振り返れば銀河の鼓動がすぐそばで囁く。
 時間も空間も忘れ、悠市はただ魅入っていた。


●遭遇者達

「危ねえ…うっかり全裸少女を写真に収めるところだったぜ……」
 ルビィは湯に浸かりながら、一人そう呟いていた。
(緋月が気付いていなくてよかったな…)
 岩風呂の様子を撮っていたら、偶然全裸の少女を見かけ慌てて移動してきたのだ。
 対する緋月は、ゆらゆらと立ちのぼる湯煙にじっと視線を馳せている。
「浮き輪、持って来たら良かったですねぇ…ぷかぷか浮かぶの楽しそうです」
 緋月は岩場に頭をこてんと乗せ、わずかに微睡みつつ。
「ちょっとのぼせてきましたし…これから森を散策してみませんか?」
「ああ、いいな」
 ここから見える星は、きっと綺麗だろう。

「すごい湯気だねぇ……」
 ゆっくりと岩場を歩きながら麻夜が呟く。すぐ後ろでは遊夜の声が湯煙に混じる。
「湯気で前が見えねぇやな…唯でさえメガネ掛けてねぇってのに」
 その更に後ろでは、ディザイアがヒビキを肩に乗せて後を追っていた。
「ヒビキ、落ち着いたか? 飛べるとは言え、背ぇ低いんだから気をつけなくちゃ駄目だろう?」
「ん、油断した…ちょっと、はしゃぎすぎた、かも」
 溺れかけた件で素直に反省する彼女に笑いつつも。
「…ま、でもはしゃぐ気持ちはわかるぜ」
 ”家族”と過ごす穏やかな幸せを、彼女は遊夜達と出会うまでずっと知らなかったのだから。
 そして多分、自分も。

「あ、誰かいる…?」

 ここで麻夜がふと足を止める。視線の先にあるのはどうやら人影のようだ。
「ん?どうかしたのか?」
 麻夜の肩越しに遊夜が視線を向けようとした瞬間、叫び声と共に衝撃が走る。
「先輩見ちゃ駄目!?」
「ッ!?…目が、目がぁぁぁぁ!?」
 麻夜が発見したのは全裸で湯に浸かる少女。慌てて遊夜の目を隠そうとしたら、ついうっかり目潰しどーん★
 その隣では糸魚がキャッと目を塞いでいる。
「皆さんにみかんをお裾分けしようと思って来たら…!」
 とんでもないものを見てしまった。
「お嬢さん、はは裸はいけません(だって童○。ちゃんと隠しませんと私困ります…!(だって○貞」
 糸魚はタオルを渡そうとするが目を塞いでいるので、そのまま足をすべらせ湯に落ちていく。
「あーれー」
 彼が一人コントしている間に、麻夜は遊夜を抱きかかえ強制移動。
「先輩あれは見ちゃ駄目だからね? 見るならボクのだよ!?」
 あっつい本音がてへぺろ★
「ユーヤ!」
 ヒビキが慌てて遊夜の元へと飛んでいくと、頭をなでてみたりさすってみたり。
「ん…えと…回復、回復を」
「はいはい、ヒールヒール」
 おろおろわたわたするヒビキに苦笑しながら、ディザイアが遊夜の再生力を高める。

「ん? なんか向こうが騒がしいな…俺、ちょっと見てきますね」
 ひりょは文歌に先だって湯の中を移動する。その先にいたのは、まるで人形のように調った顔立ちの少女だった。しかし問題はそこではなく。
「ちょ、ちょっと待て。ここは水着着用じゃなかったのか!」
 全裸である。
「あわわわこれはいけない!」
 韋駄天で戻って来たひりょに、文歌は「どうしたんですか?」と問う。
「まずいよ、あっちに全裸の女の子が…」
「あ…れ? リロ…さん?」
 見覚えあるかつ、思いも寄らない相手に文歌が目を丸くする。
「えっ彼女、文歌さんの知り合いなの?」
「ええ、ちょっと先日の依頼で…でも、全裸はダメです!」
 そこでヘルマンが穏やかな調子で少女に声をかけた。
「どうぞこちらのご着用を」
 差し出されたタオルに、少女はわずかに首を傾げ。
「……これは?」
「異性の在する温泉では着用がマナーとなっておりますれば」
 ヘルマンの言葉に文歌とひりょもこくこくと頷く。
「リロさん、お願いします」
「俺とか、男連中も来ると思うからちゃんと隠してくださいね」
 タオルを受け取ったリロはしばらくそれを見つめていたが、やがてやれやれと言った様子で。
「…ボクは気にしないけど。ま、キミ達がそう言うんなら従うよ」
 そう言ってさっと身体に巻き付けると、本に手を伸ばし――
「やめた」
「おや、どうなさいましたかな」
 ヘルマンの問いに、伸びをしながら答える。

「ボクは今、休暇中だからね」

 その様子を少し離れた所から見守る影がある。ディアドラだった。
「あの女悪魔はどちら様なのかしら…」
 和やかに話すヘルマンとリロに、密かにジェラシーを燃やす。
「楽しそうですわね…でも何だか気に入らないのですわ…!」
 何かが違う。
 彼女の中で、これじゃない感が半端無いのだ。
「そうですわ、相手があの少女なのがいけないのですわ」
 ディアドラは確信めいた表情で言い切る。

「私、楓殿を攻めてる時のヘルマン様のほうがいいですわ!」

 完全に末期だった。


 その頃、森の中でも遭遇を果たした者たちがいる。

(――なんでオッサンがこんなトコに…!?)

 かつて対峙した大天使バルシークの姿に、ルビィは驚きを隠せない。
「小田切さん大丈夫ですか…?」
 不安そうな緋月を背後に庇いつつ、眉をひそめる。
(つーか何やってんだ…?)
 周囲を見渡してみるが誰かがいる様子もない。温泉地の陰で一人、武装している様子も無い。
 彼の脳裏をある言葉がよぎった。

 まさか、覗き――?

「ハッ…これはスキャンダルだぜ。同じ男として気持ちはわかるが…」
「わかるんですか…?」
「い、いや今のは冗談だ」
 緋月に言い訳()しつつしばらく物陰から観察していると、そこに人影が現れる。
「あれは……」
 白のスクール水着姿のまま、ふらふらと千鳥足で歩く少女。
 

 泥酔した黒百合だった。


 リロとの飲み比べにあっさり敗北した彼女、酔い冷ましにと森を放浪していた。
 バルシークに気付くと、とろんとした目つきでまじまじと見つめ。
「きゃはァ、何処かで見かけた生き物ねェ…」
 対する大天使は、彼女のあられもない姿を見て完全に固まっている。
「そうだァ、久遠学園の清楚業者の山田太郎君だったわねェ、御掃除御苦労様ァ♪」

 だめだこいつはやくなんとかしないと。

 そう悟ったバルシークは困惑した様子で手元にあったタオルを差し出す。
「む…とりあえずその様な格好で夜道を歩くのはやめておけ」
「あらァ? 山田君たら気が利くのねェ。じゃあ遠慮無くぅ…♪」
「いや待て、私はタオルを羽織れと言ったつもりでそれを脱げといったわけd」
 タオルを巻き付けて水着を脱ぎ始めた彼女を見て、慌てて立ち上がる。
「わかった、私がこの場を離れよう」
「なんでェ? 一緒に遊びましょうよォ♪」
「ちょ、ちょっと待て▲※@→★」
 襲いかかって(訂正線)じゃれついてくる黒百合に、大天使しろめ。

 その様子をルビィはひたすら激写していた。
「おっさんそういう趣味だったとはな……」
「天使も見かけによらないものですね……」
 ルビィと緋月の盛大なる誤解は続く。

「ヤリィ!スクープ写真GETだぜ!」

 バルシーク、とんだ冤罪である。


 一方、縮地を使って加速漂流をしていた愁也は、勢い余って誰かとぶつかっていた。
「っと、悪ぃ」
「ふうん。それ、面白そうだね」
 湯煙の中、どこかで聞いた覚えのある声。
 ようやく見えてきた姿に一瞬固まる。そこにいたのは桃色のボブヘアーをした悪魔。
「えっと…あのさ、最近会ったよな。もしかしなくても」
「覚えてるよ、シュウヤ。一度記録したものは忘れないからね」
「え?」
 ごくりと息を呑み。
「……それもしかしてあの本が関係してる?」
「ふふ。想像に任せるよ」
 まるで警戒心のない様子に、最初は小声だった愁也もつい気を緩め。
「…こんな所で会うなんてね。時は命なりなんて言うしシャワー派かと思ったけど」
「休暇は休暇として楽しむのが、合目的だとボクは思うね」
「ごもっとも」
 そしてリロはわずかに小首を傾げながら言う。

「ところで、さっきの。もう一度やってよ」

「よっしゃ、行くぜー!」
 愁也は足下にアウルを込め、一気に水底を蹴る。まるでジェット噴射のように加速漂流するさまを一臣は笑いながら見ていた。
「あいつ楽しそうだなあ」
「……あの後ろにくっついてる子誰やろ?」
 友真の視線の先には、愁也の肩に掴まる少女の姿が映っていた。

「じゃあ、俺たちはさ。せっかくだし素潜り大会しよーぜー!」
 一臣の提案に、友真と旅人も賛同。
「ほう…素潜りは割と得意やで任せろー!」
「うん、面白そう」
「一番長く潜ったら優勝、負けたら帰りにジュースおごりな!」

「「「せーの!」」」」

 ざぶん。

※以下水中での友真と旅人による密かな盟約※

(ばっ:旅人さんや)
(ぐっ:限界まで耐えて)
(指差す:ちょい驚かせへん?)

(ばっ:いいね友真君)
(ぐっ:じゃあ僕)
(底を指さし:沈んだ振りしてるね)

 さして我慢せずに浮上した一臣は、岩に背もたれつつ二人が浮上してくるのを待つ。
「いやーみんな頑張るねぇ」

 …
 ……
 ………
 …………

「いやいや、長すぎだろ。分かったそろそろ上がろう!?」
 ざばあと顔を出した友真は笑顔でサムズアップ。
「いえーい俺らの勝ち! やったな旅人さん!」
 しかしそこに旅人の姿はなく。
「あれ、おらへん?」
 きょろきょろしつつも、ひらめいた顔で再び湯に潜る。
(ははーん…旅人さん沈んだ振りして俺らを驚かそうt)


 おいほんとに沈んでるよ/(^o^)\


「ちょ、タビットしっかりしろ!」
 一臣と友真が慌てて引き上げると、旅人は完全に目を回していた。



●それぞれの


 その頃、ギィと木綿子は糸魚からお裾分けされたみかんを食べていた。
「ふふ、温泉で食べるみかんもなかなかですね」
「…うん、美味い」
 甘酸っぱい果実を口に含みつつ、二人は湯煙の合間から見える星空を見上げる。
「何だか私たちまで吸い込まれてしまいそうですねー…」
 静かだった。
 時折聞こえる木々のざわめきと、こぽりと湯がたゆたう音だけが、二人の耳底を撫でる。

 空中散策を終えた悠市は、森へ降り立とうとしたときに妙な影を見つけていた。
「……ん? あれは――」
 念のため離れた位置に降りると召喚獣を還してから、近付く。
(あれは天界の騎士団員ではないのか? こんな所で何を…)
 声をかけてようとしてはっとなる。

 ……まさか覗き?

「いや違うぞ」
 悠市の心の声に、大天使は否定した。
「ではここで何をしている」
 問われたバルシークは肩をすくめ。
「入浴中の同朋を待っている…が、全く出てくる気配がないものでな」
「暇と言うわけか」
 悠市は少しおかしさを感じてしまう。大天使と言えども、やっていることは自分たちと差が無いのだと思いつつ。
「この場は一時休戦と言う事で、私から暇のつぶし方を教えよう。空中散策をしてみるといい」
 今宵は空気が澄んで、格別の星が見られるから、と。
 聞いた大天使はじっと空を見上げてから、微かに笑んだ。
「やってみよう」
 そのまま一言二言会話を交わし、去ろうとする悠市を天使は呼び止める。
「……なんだ?」
「この少女を連れて戻って欲しいのだが…」
 よくよく見ると、バルシークの傍らで眠っている影が見える。
「酔っ払って眠り込んでしまってな…」
 バスタオルを巻いた黒百合(※中は全裸)に、女体免疫ゼロの悠市は答えた。

「だが断る」

 ※

「あー、ひどい目にあった…」
 目をさすりながら、遊夜はため息をついていた。
「反省してる…ごめん」
 素直に謝る麻夜に、遊夜はにっこりと微笑み。
「事情はわかった…が、お仕置きのお時間です」
「わわっいたたたた」
 遊夜からこめかみをグリグリされ、麻夜は悶絶。それを見たヒビキはやっぱりあわあわ。
「よし、反省タイムはここまで。後はみんなで楽しむ!」
「お、無事隠してくれたんだな」
 ディザイアがかけた声に、リロはちらりと視線を向けた。彼女の身体には今はしっかりとタオルが巻かれていて。
「流石に目に毒だったからな。よかったぜ」
「まったく、人間って不思議だよね。裸であんなに動揺するのだから」
「ああ、あんた天魔なのか。まあ、そう言ってやるな。みんなあんたの事を心配したんだ」
「ふふ。なるほどね」
 リロは切れ長の瞳をうっすら細め、形のよい唇を動かす。
「じゃ、キミも心配してくれたのかな? 黒の天使サン」
 深淵のまなざしがディザイアをとらえる。その紫水晶のような瞳に、ぞくりとし。
「……あんた、ただ者じゃないな」
 その言葉に少女はにっと笑んでみせる。

「リロさん、先日は見逃してくれてありがとう」
 文歌の言葉に、悪魔は何でもないと言った風に応える。
「ボクは無駄な事はやらない主義だからね」
「でも、私たちも弱いままではないですよ」
「知ってる」
「え?」
 聞き返す彼女にリロは瞳を細め。
「ボクの記録がそう言ってる」
 文歌が言葉を飲み込んだ時、糸魚が桶を持って現れた。
「リロさんお酒飲まれます?それともみかんでもどうですか?」
 こてんと首を傾げて桶を差し出す糸魚に、彼女はまじまじと中をのぞき込み。
「さっきお酒はもらったから、コレにするよ」
 みかんを手に取ると、白磁のような肌にぺたりとやる。
「ふふ。冷たくて気持ちいいね」

 ※

 同じ頃、散歩に出ていた拓海と葉月は、森の中で大天使と遭遇していた。
「他の騎士団もいたからまさかとは思ったが……」
「拓海…大丈夫?」
 心配そうな葉月に大丈夫だと頷いてみせ。バルシークに近付くと、声をかけてみる。
「名乗るのは初めてだな、黒羽拓海だ。例の研究所でアンタの背中を狙った一人だが…覚えてないだろうな」
 聞いた大天使は、わずかにかぶりを振り。
「二度も刃を交えた相手を忘れるほど、愚かではない」
 その言葉に息を呑む。バルシークの声音は静かだが、やはりあの独特の威圧は消えてはいない。それでも、今こうして対峙している事に不思議と息苦しさは感じず。
「少し話をしてもいいか。俺はアンタに聞きたいことがある」
 続きを待つ天使へ向け、思いきって問いかける。

「バルシーク…お前は、何の為に剣を振るう?」

 聞いた天使は、拓海に寄り添う葉月にちらりと視線をやり。
 瑠璃色の瞳で再び彼をとらえると、口を開いた。

「――お前と同じだ、撃退士よ」

「え?」
「大切な存在を護る為。この身を捧げると誓った」
 お前もそうだろう? と視線が告げている。
「……ああ、そうだ」
 そう返した自分は一体どんな表情をしていただろうか。
 いつの間にか、葉月の手を握りしめていた。

 ※

「ところで、リロ殿。人間界はいかがですかな」
 ヘルマンの問いに、リロはちらりと視線をやりながら。
「思ったより面白いね。クラウンやレックスが興味を持ったのもわからないではないかな」
 敵である悪魔の名前が出たことに、ヘルマンはつい微笑みながら。
「ええ。ここは本当に興味深い場所でございます。私がかつて仕えた主も憧れを抱いていたものです」
「だからこちら側を選んだ…ってところかな?」
 その問いにヘルマンは愉快そうに瞳を細めてみせる。彼らの会話にそっと耳を傾けながら、ディアドラは思う。
(あの方達は何を目的にしてらっしゃるのかしら…)
 報告書で見る限り、人間への明確な敵対心はほとんどと言っていいほど感じられない。どちらかと言えば、何かを調べているような……。
「……そのうち分かる日が来ますわね」
 視線に気付いたのか、リロはディアドラの方を見やるとわずかに口端を上げてみせる。
 その表情は「キミの言う通りだよ」と言われているかのようだった。

「あ、そうだ。みなさんで歌を歌ってみませんか?」

 突然の提案にリロはきょとんとした表情を見せる。
「お風呂で歌うと何故かとっても楽しい気持ちになれるんですよ。ね、ひりょさん」
 突然ふられたひりょは、こくこくと頷き。
「そうですよ。風呂場で歌う鼻歌は格別です!」
 文歌の提案に近くにいた愁也や糸魚も賛成。
「いいですね、楽しそうです!」
「じゃあ私から歌ってみますね」
 文歌は自慢の歌を披露。澄み切った歌声が、湯煙の中夜空へと響き渡ってゆく。
 リズムに合わせてひりょやヘルマン、ディアドラも一緒になって歌い始める。
「あっ、なんか楽しそうやで!」
「おおいいねぇ」
 聞きつけた友真や遊夜のグループも参加。合いの手を入れたり、一緒になって歌ってみたりと辺りはちょっとしたアカペラコンサートのようになっていた。

 ※

 その頃、一人森の散策に来ていた遥久は、思わぬ出会いに足を止めていた。
「貴殿は……」
「ああ、お前も来ていたのか。夜来野」
 視線の先に在るのは、切り株に腰掛けた大天使の姿。予想外の相手に一瞬驚くも、すぐにその表情は微笑へと変わり。
「こんばんは。良い夜ですね」
「今夜は来客が多い」
 そう苦笑するバルシークに、他にも何人かの先客がいたのだと知る。けれど深くは聞かなかった。
 静かな瑠璃のまなざしを見れば、彼らとのやりとりが荒れたものではなかったと分かるから。
「どうぞ。冷えていますので」
 遥久は手にしていたミネラルウォーターを差し出すと、自身もその場に腰を下ろす。
「……ああ、今夜は空気がよく澄んでいるのですね」
 頭上を彩る天の原は、こぼれそうなほどの淡い煌めきを繰り返している。
「美しいものだ」
 そう言って瞳を細める天使に、遥久は尋ねてみる。
「バルシーク殿はこちらで訪れた中で、お好きな場所はありますか」
 問われた天使はしばし沈黙した後。
「私はそこに住む者の営みが感じられる場所を好んでいる」
「営み、ですか」
「古い建物を好むのも、そこに培われてきた軌跡を垣間見る事ができるからだ」
 だから、と遥久をみやり。
「お前達と最初にまみえたあの湯屋は美しかった」
 そこには紛れもなく、この地で生きてきた人間の生活が刻まれていたから。
「……わかるような気がします」
 遥久はそれだけ応えると、再び夜空へと視線を移す。

「人の営みは昔も今も変わりません」

 その積み重ねの先に、未来があるのだからと。

 ※

「さて、そろそろ上がるか」
 智美は湯から出ると早速岩場で着替えを始めた。それを見た託人が驚いた様子で。
「智美さん、ここで着替えるの?」
「タオルで隠しているし、お前らなら問題ないだろ」
「そりゃ問題ないだろうが…お前も一応女なんだから、気をつけろよ」
 やれやれと言った様子の聖歌に、智美はにやりと笑んでみせ。
「不審者が現れたら、この手で捕まえるまでだ」
 智美なら本当にそうするだろう。全くこの悪友には敵わないと聖歌は苦笑する。
「そう言えば…小学生になるまで、私智美さんの事男の子だと思ってたんですよねぇ」
 託人がぼんやりと昔の事を思い出す。
 幼馴染みとは言え、長期休みにしか会わなかったせいだろう。いつも真っ黒に日焼けして走り回る彼女に、身体が弱かった彼は憧れたものだ。
「あれ…?」
 託人はどこからか聞こえてくる歌声に耳を澄ませる。

「大きな温泉の方からだ」

 文歌の歌声に重ねるような声が響いた。
(リロさん…!)
 悪魔の歌声が、一際のびやかに広がっていく。
「ふふ。歌は得意なんだよ」
 メイドたるものこれくらいの嗜みがないとね、と少女は笑う。

 悪魔と、天使と、人と。

 全てを包み込むような歌声が、天の原に柔らかく響いた。


●天の原に湯煙は華やいで

 温泉からあがった静流は、火照り気味の肌を冷ますべく森をぶらぶらしていた。
「静かなものだな……」
 湯場を離れてしまえば、人の声はおろか生物の息づかい全てが飲み込まれてしまったかのような錯覚を覚える。
「……うん? あれは――」
 召喚獣の姿に学園の生徒がいるのだと知る。目を懲らすとこちらに向かってくるのは悠市だった。
(なぜ召喚獣がいるのに歩いて移動しているんだ…?)
 よく見ると、スレイプニルの背に爆睡中の黒百合が乗っている。静流に気付いていない悠市は、青ざめた顔でぶつぶつ何か言っている。
「何故俺が…お人好し過ぎるのもいい加減にしろ…」
 困っている人は放っておけない悠市だった。
 そんな彼を見送りつつ、静流は静寂の中で瞳を閉じる。ゆっくりと息を吸うと、土の香りが入り混じった甘やかな大気が肺の中を満たしてゆく。
(心地いい…)
 身体の隅々にまで命がゆきわたるような、不思議な感覚。
 呼吸するたび魂が浄化される気がする。
 夜の森に溶け込みながら、彼女はその共鳴を一人楽しむ。

 その頭上には、こぼれそうな程の煌めき。

「綺麗……」
 拓海と葉月は満天の夜空に見とれていた。
「……ね、拓海」
「なんだ?」
「私、幸せだよ。だから…ずっと傍にいてね」
 見つめる瞳に、星彩が映り込んでいる。
「ああ、もちろんだ」
 拓海はそう言うと、彼女の肩を優しく抱く。
「うわぁ…!綺麗ですねぇ…」
 同じく星空を眺めながら、緋月はうっとりと蒼銀の瞳を細めていた。
「小田切さんは星座とか詳しいです?」
「そんなに詳しい方じゃねぇが…ほら、あそこに紅い星があるのわかるか?」
「あ、あります」
「あれはサソリ座の心臓だ。アンタレスって言うんだぜ」
 紅く燃え上がるように輝く星。
「紅く美しい星…まるで小田切さんみたいですね」
「……緋月もだろ?」
 夏の夜空を彩る気高き星は、二人の頭上にいつまでも輝いていて。

 智美達は、三人で木陰に寝そべり梢の合間から夜空を見上げていた。
「……静かだね」
 託人の言葉に、二人は「ああ」と返事をする。
 互いの鼓動さえも聞こえそうな程に。
「私、三人でここに来られてよかった…」
「俺も」
「俺もだ」
 三人の呟きも、星空にゆるゆると吸い込まれていく。
 ふと、託人は指先に温かな感触を感じる。それが聖歌の手だと気付いたと同時、彼がそっと託人の手を握った。
 託人はどきり、と跳ね上がる鼓動を抑えながら無言で空を見つめ続ける。
(…正直、智美さんが一緒でよかった)
 聖歌と二人きりだと、きっとどうしていいかわからなかったから。
 最近おかしいのだ。聖歌と手を繋ぐのなんて日常茶飯事の事だったのに、いつの間にか緊張したり、彼の動作を目で追うようになっていて。
 そして今も、早くなった鼓動が治まらないでいる。
 同じ頃、聖歌も夜空を見上げたまま内心で呟く。
(…智美がいてよかった)
 彼女がいたから託人も緊張しないでいられたのだし。
(それに…こっちも理性持つし)
 そんな二人の秘めた想いを知ってか知らずか、智美は何も言わずただ夜風に身を委ねていた。
 一筋の流星を見かけ、人知れず祈る。
 また皆で一緒に来られるといい。
 今度は姉や妹を連れてくるのもいいかもしれない。

 そしてこの愛しき者たちを、この手で護り抜けるようにと。


 その頃、遊夜は隅っこで湯に浸かるヒビキを気にかけていた。
「ヒビキ、のぼせたりしてないか?」
「…ん、大丈夫」
 浅いところでのんびりしていたヒビキはこくりと頷き。
「大きいのは、よくない、覚えた」
 はしゃぐと碌なことがない、普通が良いのだとも覚えた。
 その様子に遊夜は笑いながら頭をぽんとやる。
「風呂はな、家族みんなで楽しく入るのがいいのだせ」
「ユーヤ…」
「俺はみんなとここに来られてよかった」
 聞いたヒビキはやっぱり我慢しきれず遊夜に抱きつく。それを見た麻夜が待ってましたと言わんばかりに続く。
「ちょっ…麻夜落ち着け!」
「色々反省はしてる…でも甘えるのだけは忘れない!」
 目いっぱい甘えてくる麻夜とヒビキに、遊夜はやれやれと苦笑しつつ。
「ゆっくり出来やしねぇな、まったく」
 そう言いながらも、静かに幸せを噛みしめていた。
 やっと手に入れた家族の温かさ。かけがえのない、魂の共有者達。
 そんな彼らを、ディザイアは穏やかに見守る。

「先輩ちゃんとルール守れましたね! えらいえらいです」
 木綿子に頭をなでなでされ、ギィはぽつりと呟いていた。
「温泉は、ダメな事多くて訳が分からない。でも、風呂に入りながら見れる星空も、心地よい風も、ヒナと一緒に風呂に入れるのも」
 ここに来たから、出来る事。
「なら悪くないと、思う」
「先輩……」
 木綿子は溢れそうになる気持ちを胸に、頷いてみせる。

 こんな穏やかな時間が、ずっと続けばいい。

 心に秘めた願いを、そっと星空へ届けながら。

 ひりょと文歌は風呂上りの人に、用意した牛乳やフルーツ牛乳を配っていた。
「ありがとうございます」
 いちご牛乳を受け取った糸魚は、お裾分けされた温泉卵を食べつつ至福の時を過ごす。
「美味しいものと温泉、癒されますね…」
 皆で楽しめたのが、何より嬉しかった。
「文歌さんの水着姿に緊張したけど…楽しかったですね」
 ひりょの言葉に文歌は頷きつつ、消え入りそうな声で呟く。
「ひりょ先輩なら見られてもいいですよ……」
「え?」
「な、なんでもないです」
 彼女の顔が耳まで紅くなっているのに、ひりょは不思議そうに首を傾げる。

「それにしても、タビットには焦らされたよな」
 出来上がった温泉卵を皆と食べながら、一臣は苦笑していた。
「じっとしてたら途中で意識が朦朧としてきちゃって…」
「我慢しすぎはダメやで、絶対!」
 話を聞いた遥久がやれやれと。
「そもそも私は西橋殿に我慢大会をさせるなと言ったはずだが」
「「反省しています」」
 正座する一臣と友真に、旅人は首を振りつつ。
「楽しかったよ。皆で来られてよかった」
 愁也がそう言えばと。
「なあなあ遥久、森で何やってたんだよ」
「秘密だ」
「何それ気になるし!」
「お前こそ何をやっていた?」
「俺? 俺はねー次の『必然』のために布石を打ってた」
 怪訝な表情を見せる相棒に、愁也はにやっと笑ってみせる。

「次も楽しませてみせるぜ」

 ヘルマンとディアドラは、ただ静かに星が夜空を渡るのを眺めていた。
「美しいですな…」
「空気までが瞬いているみたいですわ」
 何千年、何万年も前から在り続ける景色を見つめながら、彼女はふとメイド悪魔達を思い出していた。
「四国の皆様はまるで諜報兵のようですわね…」
 目的はわからない。けれど、自分たちの知らない所で何かが静かに動いている予感。
 ヘルマンも頷きながら。
「彼の方達と戦場以外でお会いする日も、近いのかもしれませんな」

 その時が楽しみだ、と言わんばかりに。





 ちなみに、ルビィのスクープは学園内で新たな伝説()となったのであった。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:18人

撃退士・
天風 静流(ja0373)

卒業 女 阿修羅
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
戦場ジャーナリスト・
小田切ルビィ(ja0841)

卒業 男 ルインズブレイド
夜闇の眷属・
麻生 遊夜(ja1838)

大学部6年5組 男 インフィルトレイター
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
JOKER of JOKER・
加倉 一臣(ja5823)

卒業 男 インフィルトレイター
輝く未来を月夜は渡る・
月居 愁也(ja6837)

卒業 男 阿修羅
蒼閃霆公の魂を継ぎし者・
夜来野 遥久(ja6843)

卒業 男 アストラルヴァンガード
真愛しきすべてをこの手に・
小野友真(ja6901)

卒業 男 インフィルトレイター
夜闇の眷属・
来崎 麻夜(jb0905)

大学部2年42組 女 ナイトウォーカー
precious memory・
ギィ・ダインスレイフ(jb2636)

大学部5年1組 男 阿修羅
来し方抱き、行く末見つめ・
黄昏ひりょ(jb3452)

卒業 男 陰陽師
剣想を伝えし者・
戸蔵 悠市 (jb5251)

卒業 男 バハムートテイマー
撃退士・
音羽 聖歌(jb5486)

大学部2年277組 男 ディバインナイト
永遠を貴方に・
ヘルマン・S・ウォルター(jb5517)

大学部8年29組 男 ルインズブレイド
撃退士・
神谷 託人(jb5589)

大学部2年16組 男 アストラルヴァンガード
護黒連翼・
ディザイア・シーカー(jb5989)

卒業 男 アカシックレコーダー:タイプA
天威を砕きし地上の星・
緋月(jb6091)

大学部6年2組 女 アカシックレコーダー:タイプA
シスのソウルメイト(仮)・
黒羽 拓海(jb7256)

大学部3年217組 男 阿修羅
この想いいつまでも・
天宮 葉月(jb7258)

大学部3年2組 女 アストラルヴァンガード
おまえだけは絶対許さない・
ディアドラ(jb7283)

大学部5年325組 女 陰陽師
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師
陽だまりの君・
陽向 木綿子(jb7926)

大学部1年6組 女 アストラルヴァンガード
\鯖頭?誰ですそれ?/・
川中 糸魚(jb8134)

大学部7年58組 男 鬼道忍軍
夜闇の眷属・
ヒビキ・ユーヤ(jb9420)

高等部1年30組 女 阿修羅