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マスター:久生夕貴
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:7人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2014/07/06


みんなの思い出



オープニング

※当依頼は現在【四国】で行われている合宿企画とのコラボ依頼となります


●それは、突然に

 南の島と聞くと暑いイメージがあるが、ここ数日の種子島は都心部よりも涼しかった。
「人界は気温の差が激しいと聞きますが、高松ゲートとこの辺りではさほど気温差はありませんのね」
「本番、これから。油断は禁物だね」
 幾度かの転移の末、港に到着した悪魔マリアンヌは興味深そうに周囲を見渡した。対するリロ・ロロイは周りの様子には興味なさそうだ。
「シマイのじーじが見あたらないの」
 マリアンヌの豊かな胸から声があがった。いや、胸の下にホールドされている幼女から、だ。
「この辺りには居ないようだね」
「レディーの出迎えに来てくれないとは、男としてイカンなの。遺憾なのですよ!」
「ふふふ。前日に連絡鳥を放った程度の連絡でしたから、今頃ビックリしてるかもしれませんわね」
「それはじーじの方が遺憾なの」
 おっとり微笑むマリアンヌの胸の下、頭に乗せられた重量級の胸を重そうに振り落とそうとしながら幼女は大変遺憾そうな表情になった。その身もしっかりとメイド服を着込んでる。
「確か今の潜伏先はこちらですわね。ヴィオ、もう何回か転移してくださいます?」
 マリアンヌの声に、幼女メイド、ヴィオレットは「仕方がないのです」と小さな肩を落とす。高松からずっと連続転移してきて少し疲れているのだが、目的地がまだだから仕方がない。
「仕方がないの。リロも行くですよ」
「いつでもいいよ」
 真白き書に視線を落としていたリロが頷く。次の瞬間、三人の姿が忽然と港から消えた。
 その様子を見るともなく見ていた港の漁師達は顔を見合わせる。唐突、かつ牧歌的な様子だったので反応をし損ねていたが間違いない。

 新たな天魔。

 その一報は即座に久遠ヶ原学園に届けられた。


 ※※

 種子島、西之表市の一角。
 目前で繰り広げられる光景に、ヴァニタス八塚 楓(jz0229)は忌々しそうに呟いていた。
「……あいつら何やってんだ……」
 主であるシマイ・マナフと、その傍らに並ぶメイド。
 幼女っぽい一人がシマイの事を「じーじ」と呼んでいる所を見ると、彼が抱えているメイドと言うわけでもなさそうだ。
「教えるのはいいけど、ちゃんと報酬はいただくよ?」
「ええ。講習の対価はもちろんご用意しておりますわ」
 やりとりから察するに、シマイの結界術をあの三人は習いにきているらしい。目的が済めばそのうち帰るのだろうと、楓は敢えて無視する事にする。
 しばらくして、背後に感じる気配に振り向く。そこには桃色のボブヘアーをした少女が立っていた。
「ふうん。君がシマイのお気に入り、ね」
 何も言わず睨み付けると、少女は開いた本を手にしたままじっとこちらを観察するように見つめてくる。
「……何の用だ」
「別に」
「ならこっちを見るな」
「ああ、その目」
 少女は納得したようにうなずくと、手にした本をぱたりと閉じ。
 楓へ向けて、にっと笑った。

「彼がキミを好むわけだ」


●種子島対策本部


「……で、その目撃されたメイドはその後一度も現れてはいない、と」
 種子島指揮官九重 誉(jz0279)は、報告書に視線を落としながら嘆息を漏らす。
「聞けばそのメイドは四国で現在出没中の悪魔だそうで。種子島に何をしにきたのかはわかりませんが……」
 他の教師の報告に、誉は唸る。
 四国からわざわざこの島を手に入れるために来たとでもいうのだろうか。あり得ない話ではないが、それにしてはその後の目撃情報がなさ過ぎる。
「悪魔シマイ・マナフと一時的に接触を図った……と見るべきか」
 では何のために?
 しかしそれは本人達に問う以外に確認する術もなく。
「とりあえず警戒をしておくに越したことはないだろうが……現状それ以外に我々が出来る事は無いな」
「しかし駐屯している生徒達もだいぶ疲れが見え始めていますしね……」
 長引く僻地での生活は、決して楽なものではない。学園から応援を呼んではどうかと問う教師に、誉はうなずき。
「ああ。聞けば今、学園では合宿を各地で行っているらしい」
 報告書から顔を上げると、わずかに笑む。
「こちらも便乗するとしようじゃないか」


●久遠ヶ原


 その日、斡旋所に貼り出された依頼を学園教師ミラ・バレーヌ(jz0206)はまじまじと見つめていた。

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 初夏合宿のおしらせ

 場所:種子島
 内容:地域警戒及び夜戦訓練。その他詳しくは担当者まで

=====

「南の島で合宿……」
 めくるめく冒険の予感に、ミラの好奇心はむくむくと膨れあがってくる。冬に行った種子島もよかったが、きっと今の時期はもっと美しいにちがいない。
 行きたい。
 行こう。
「そうと決まれば早速準備だ!」
 ミラはゼミの生徒に怒られないうちに、こっそりと誉に連絡を取る。
「九重君、僕だ。ミラだ!」
『ああ、教授。どうしました』
 電話に出た誉に、合宿の引率をしたいと申し出る。すると誉はあっさりと。
『構いませんよ。教授も参加してはどうです』
「い、いいのかい……?」
『ええ。生徒も喜ぶでしょう』
 一体なぜ喜ぶのかわからなかったが、ミラは誉の了承を得たことで大喜び。早速ゼミ生に報告。
「みな聞いてくれ! 僕は今度種子島へ行くのだよ!」
「え、教授。また行くんですか? 授業はどうするんです」
「休講だ!」
「今なんと?(^ω^)」
 怖い顔するゼミ生たちに、ミラは慌てて言い訳をする。
「た、種子島の九重君もぜひ来てくれって言ったんだ!」※ぜひにとは言っていない
「九重先生が……?」
 ゼミ生達は顔を見合わせた。
 九重 誉。深謀の指揮官と呼ばれる種子島のトップが言うのなら間違い無い。のかもしれない。
「……気を付けくださいね。教授は危なっかしいんですから」
「うん、僕は頑張ってくるよ!」

 この時、ミラはまだ気づいていなかった。
 まんまと誉の策略に引っかかっていたことを。


●再び種子島

 潮の香りを含んだ夜風は、すっかりと夏の気配を帯びていた。
 日が暮れた種子島は、昼間以上に静寂と穏やかさに満ちる。
 満天の星空と、潮騒だけが響く砂浜。初めて訪れた者達は、ここが天魔に襲われている地だとうっかり忘れてしまいそうなほどで。
 集まった生徒に向け、誉はゆっくりと口を開いた。
「諸君。昼間はよく感張ってくれた」
 各地の警戒に当たった生徒達の労をねぎらう。幸い、懸念していた悪魔の存在も見あたらず。
「ではこれから夜戦訓練を始める。やることは簡単だ。決められたルートを通って帰ってくること。周囲への警戒をしつつ、不測の事態に備えるための訓練と思えばいい」
 緊張した面持ちの生徒に向け、ふっと笑みを浮かべ。
「心配するな。この辺りは天魔の目撃情報も少ない。天 魔 に は 襲われる事はないだろう」
 聞いたミラが不思議そうに首を傾げる。
「九重君、それはどういう意味なんだい?」
「ええ。今回はルートに訓練用の仕掛けを施すものになってましてね」
「仕掛け……というのはどんなものだろう」
「突然ダミーの敵に襲われたり、驚かされます」
「なるほど! そうやって不測の事態に備えるというわけだね!」
 生き生きとしたミラを見つつ、生徒達は気づいていた。

 それって。
 要するに。

 肝試しですね……?

「君たちがこれから向かうルートには既に仕掛けが施されている」
 誉は全員を見渡すと、怪しい光を瞳に宿す。

「私も仕掛けておいた。ミラ教授と存分に楽しんでくるといい」

 


リプレイ本文



●開始前の意気込み

「肝試しかー、ガキの頃以来でわくわくするな!」
 朽ちかけた病院を見上げ、浮き浮きするのは月居 愁也(ja6837)。
 今回唯一の男子であり大学生でもある彼、かなり気合いを入れている。※ミラの性別は忘れられているようだ
「肝試し…?……あ! ghostbastardって事なのですね!!」
 英語部分をやたら滑らかに発音し、メリー(jb3287)が瞳をきらきらさせる。
 彼女の額に巻かれているのは何故か純白の鉢巻き。
「鉢巻は日本人がKAMIKAZEをする時に付ける神聖な物だって聞いたのです。メリー少し怖いけど…頑張ってghostbastardになりますのです!」
 やる気は十分。だが、どうやら彼女は大変重要な何かを勘違いしているらしい(震え声)。
「ミラ先生これどうぞなのですわ!」
 クマ耳帽子をかぶった日比谷ひだまり(jb5892)は、お揃いの帽子をミラ・バレーヌにプレゼント。
「手作りなので不恰好かもしれねーですが、被ると力が湧いてくるのですわ! くまさん強いのですわ!」
 それに大好きな姉から力をもらえる気がするから。ミラは嬉しそうに受け取ると、いそいそと装着。
「ありがとう! 僕も頑張るよ!<( ̄(エ) ̄)/」

「肝試し、とは、なかなか、気が、効いている、な」
 とつとつとそう喋るのは仄(jb4785)。眠そうな表情に変化は見られない。
「仄、としては、本物、が、ついでに、出て来ることを、願って、やまない、が」
 実は彼女結構なオカルトマニア。ここへ来るのを密かに楽しみにしていた。
「ふっふっふ〜、肝試しですか〜。あまりこの手のイベントには参加した経験がないので楽しみですよ〜」
 同じくこの闇の中、アマリリス(jb8169)も嬉しそうな表情を見せている。
「その後には海でのんびりと過ごせるみたいですし、そちらも楽しみたいですね〜」
 夜の廃病院に瞳を輝かせる乙女たちがいる一方で、やはりこの状況を怖がる者もいる。
「敵の居ない夜戦…これは…肝試し…。ガンバルゾー…」
 ベアトリーチェ・ヴォルピ(jb9382)が全くの無表情でやる気を表現。
「けど、怖いものは…怖い…真理……」
 特に表情は変わっていなくても、結構怖がっているのだ。
「だ ま さ れ た !!!」
 顔面蒼白でそう叫ぶのはグラサージュ・ブリゼ(jb9587)。
 合宿の噂を聞いたバイト先の店長から、笑顔で勧められたのだが。
「聞いてないよぉ! 私がホラー全般大嫌いなことを知っているのに…!」
 あれは絶対わざとだ。
 きっと「お店がカオスなのは店長が原因♪」なんて言ったせいだと涙目で訴える。

 思い思いの意気込み(と後悔)を胸に、撃退士の肝試しは始まった。


●A班(愁也・メリー・ひだまり・ミラ)

 病院内は、真っ暗だった。
 ひだまりはミラ(が迷子にならないように)腕を掴みつつ、ヒリュウを召喚。
「は、花ちゃんも皆さまいらっしゃるから怖くねーのでs」
 ライトで照らした先に立つ、血涙的な何か。

「きゃああああ!!!!!」

 ヴォアァァァ……

 アレな雄叫びをまき散らし、全身血涙装備の愁也は得意げに。
「血涙には血涙を的なのがいいかなって思っt」
「怖いghostはメリーがpurificationするのです!」
「え、ちょっと待ってメリーちゃん俺だよ俺ヴォアァァア!」
「花ちゃんブレスー!!」


 ヴォアアアァァァ(エコー)

 ヴォアアアァァァ(エコー)


 ※※


「まさか月居さんだとは思わなかったのです」
 メリーが血の付いた()金属バッドを手に、ひだまりと謝る。
「はははいいんだよ。全然気にしてないから」
 なんか生命力が大変なことになっている気がするが、きっと気のせい。
「と…とりあえず気合い入れて頑張りましょうなのですわ!」
 愁也が掃除道具入れに入ろうとしたミラを引っ張り、フラッシュライトで廊下を照らす。
「ふーん…やっぱり、診察室が怪しそうだよな」
 診察室のプレートがかかった扉を開けると、やはりその先も真っ暗だった。
 くたびれた建物特有の陰気くささが、奇妙な閉塞感を生み出していて。奥へ進もうとした時、ごとりと言う物音が耳を打つ。
「奥に何かいますこと…?」
 ひだまりが思いきって、音がした方向にライトを向ける。浮かび上がった人影に一瞬どきりとするが、動く気配がない。
「人体模型…なのです?」
 学校でもよく見かけるアレ。メリーの言葉に三人がほっとした時、ふと。
「こっちにもあるのです!」
 朽ちかけたカーテンの先に、人影が浮かび上がっている。愁也が眉をひそめ。
「え? ちょっと待って普通二体も置いてたりは」
 
 その時、どこからか風が吹いた。
 釘付けになった視線の先。大きくはためくカーテンの向こうに立っていたのは――

 血まみれのナースだった。

「わああああああ!!!!」
 悲鳴を上げたミラはひだまりを巻き込み派手に転倒。血涙を流すナースはにたりと笑う。

『ようこそ、仄暗い病棟へ』

 ボイスチェンジャーでも使ったかのような不気味な声に、一同逃走。
 もの凄い勢いで追いかけてくるナースに向けて、愁也は叫ぶ。
「うええええだだだだるまさんがころんだ!」
 
 ぴたっ

『しまった、つい反射的に……』

 そう声が漏れたと同時、ghostbastard★メリー登場!
「成仏(物理的に)して下さいなのです!」
 振り抜かれる聖なる金棒、ほとばしる熱きフォース!(物理)。

 ばきいっ…★

 メリーのフォースがナース直撃。鈍い音と共に倒れ込む間に四人は逃走。
 逃げながらひだまりはちょっとだけ思わなくもなかった。


 あの犠牲者は誰だったのだろう(真顔)。



●B班(仄・アマリリス・ベアトリーチェ・グラサージュ)


 A班が上階へ移った頃、B班のメンバーもスタートを切っていた。
 辺りは仄暗い闇に覆われ、湿度のある夜気が頬にまとわりつく。
「さっきから何回も悲鳴が聞こえてるんだけど……」
 既に半泣きのグラサージュをアマリリスが励ます。
「大丈夫ですよ〜一緒に頑張りましょう」
「そ、そうだよね…! おおお化けなんてな〜いさ♪ お化けなんてう〜そさ♪」
「あ、あの染み何だか人の顔に見えますよ〜」
「ひいいいいい」
 二人がコント(訂正線)会話を繰り広げる中、仄はやや感心したように真っ暗な廊下をきょろきょろ。
「ふむ、なかなか、凝っていて、良い、ぞ」
 ひび割れたコンクリートが闇に浮かぶ姿は、非常に不気味な様相を呈している。
 仄は自分が脅かす役でもよかった位だ、と内心で呟きつつ。後ろを振り向くと、そこにいたはずのベアトリーチェの姿が見えない。
「おや、どこ、に、行った…?」
 すると足下でくぐもった声が。
「どこかで変な音がしても確認…しない…。華麗にスルーすれば私達も気付かれない…」
 仄達の視線の先。廊下の真ん中、ぽつんと佇むもの。

 ダンボール箱だった。

「これで…こっそり接近すれば…気付かれない…はず……」
 ダンボールをかぶったベアトリーチェが、時折足だけをダンボールから出してすすすと移動する。

 暗闇の中移動するダンボール箱。

「逆に目立っているんじゃ…」
 言いかけたグラサージュに向けて、仄が首を振る。
「世の中、には、そっと、して、おいた方が、いいことも、ある」

「凄いですね〜本当にお化けが出てきそうです〜」
 アマリリスはそう言ってドアをすぱーん★
 怪しい所も<●><●>カッ。
 完全に楽しんでおります。
「そう言えば、怪談話、を、していると、その最中、に、霊、が、集まると、聞いた事が、ある」
 仄の言葉にグラサージュはひい、と声にならない声を上げ。
「折角、だ、道すがら、廃病院にまつわる、面白い話(と言う名の怪談)などで、盛り上がりつつ、行こう、ではない、か」
「ああいいですね〜楽しそうです〜」
 怖いもの知らずのアマリリスはほのぼのと賛成。ベアトリーチェは箱の中から「大丈夫…頑張れる…」と一言。
「わわわかったよっ! ベアちゃんが頑張るなら私も頑張る!」
 グラサージュが涙目でダンボールにしがみついた時、誰かが肩を叩く。
 反射的に振り向きながら彼女は思った。
(あれ? 私最後尾だったような……)

 耳に届く、声。

『ようこそ、仄暗い病棟へ』


●A班

 その頃、二階へと進んだ愁也達は、階段を上った所にあるナースセンターを探索していた。

「さっきのナースさんはいねーですわよね……?」
 ひだまりがどきときすしながら足を踏み入れると、突然ナースコールが鳴り響いた。
「うわっびびった!」
 愁也が確認すると、どうやら205号室かららしい。ごくりと息を呑み。
「…行くしかねえよな?」
 メリーも力強く頷く。
「ghostに違いないのです。メリー殺ってやるのです!」※そういうゲームではありません
 そうと決まれば病室へ急行。途中で愁也はストレッチャーに三人を乗せ縮地ダッシュ。

 \お約束ヒャッハー/

 そのまま205号室に突撃しようとして、手前の203号室から出てきた何かをはね飛ばした気がするがきっと気のせい。
 205号室に入ると同時、メリーが速効で金属バッドを振り下ろす。

「怪しいところは全てフォース(と言う名の殲滅)なのです!」

 人が見えた? いいえあれはghostなのです。
 悲鳴が聞こえた? いいえそれはPoltergeistなのです。
 血飛沫が飛んだ? いいえこれはstigmataなのです。

 闇の中これあかんやつや的な破壊音と、あちこちで上がる断末魔。

 たまらず逃げ出した一人を愁也が速効で追尾。
「アハハハ待て待てぇえええええ」
 ドスの利いた咆哮を上げる彼は、いつの間にか装備を脱ぎ捨てている。身につけているのはちょんまげかつらと血涙の褌(股間に三角帽子が粋なアクセント☆)のみ。

 (成人男性として)手遅れだった。

「ミラ先生大丈夫ですのよ! ひひひだまり怖くねーのですわ!」
 ひだまりはストレッチャーから勢いよく飛んで気絶したミラを守るべく大奮闘。
「花ちゃんいくのですわ!」
 闇の中、とりあえず怖いからボルケーノ。
「物陰があるから怖ーのですわ!」
 だから全部破壊してしまえとボルケーノ。


 205号室は焦土と化した。


 その頃、逃げる影を追いかけていた変態(訂正線)愁也は逃げる影の数が増えているのに気がつく。
「あれ?」
 直後、一つが突然こちらを振り向き。

「さっきは派手にはね飛ばしてくれたな」

 ごん☆

 愁也の意識は、そこで途切れた。




●B班


「こ、怖かった……」

 三階のナースステーション前で、グラサージュは、ぜいぜいと息をついていた。
 肩を叩いたのは、ボロボロの包帯姿のナニカ。パニックを起こしとにかく逃げて逃げて、ここまで来てしまった。
「さっきのはびっくりしましたね〜」
 アマリリスの言葉に仄は頷き。
「写真、に、収めようと、思った、のだが。思った、より、動き、が、速かった、な」
「撃退士の速さに…付いてこれる…つまり…相手も…かなりの使い手…」
 ダンボールの中からベアトリーチェが呟く。逃げ切れたのは彼女がダンボール箱の振りをしてやりすごしたから。

『なんだ、ただの箱か……』

 と包帯男は呟きいなくなったとかなんとか。

「とりあえず、残りを探索しましょうか〜」
 アマリリスと仄はまるで物怖じすることなく病室の扉を開けていく。女子トイレにさしかかったとき、中かからすすり泣くような声が聞こえてきた。
「誰かいますか〜?」
 呼びかけてみるも返事はない。ベアトリーチェがすっと箱から足を出し。
「接近確認する…ヨーソロー…」
 内心どきどきしながら、声のする奥から二番目の個室へと進む。
(しまった…手が出せないから…ドアを開けられない…)
 迂闊…!
 気付いたアマリリスがもう一度呼びかけるが返事はない。思いきって扉をあけると、中には、うずくまる人影が見えた。
「どうしました〜大丈夫ですか〜」
 アマリリスの声に、ゆっくりと影がふりむく。

 その顔には、鼻と目が無かった。

「……!!!??」
 ベアトリーチェは速攻で逃げようとしたが箱が出口に挟まって動けない。
『私と遊びましょ…』
 のろのろと近寄ってくるナニカに覚悟を決め。
「…私を置いて先に逃げるべし…弱肉強食…諸行無常…あ…駄目だ…後で花火する…」
「ベアちゃんしっかりしてー! ひいいいい悪霊退散!悪霊退散〜!」
 グラサージュは必死に塩を投げつけまくるが、手の中で溶けて全く飛んでない。
「二人、とも、落ち着、け。まず、は、脱出だ」
 仄が挟まった箱を引っ張りながら、カメラで連写★
「今度、は、うまく、いった。後で、見るのが、楽しみ、だ」
 どう見ても逃げる気が無いが突っ込んではいけない。
「じゃあ一気に引っ張りますよ〜!」
「きゃあ!」
 アマリリスが思い切り引っ張ると同時、四人はトイレの外へとまとめて押し出される。
「痛たたた…に、にげなくちゃ! お化けになりたくないー!」
 グラサージュは慌てて立ち上がり、逃走開始。足下で「ぐはっ」とか呻き声が聞こえた気がするけどきっと空耳。
「逃げるが…勝ち…」
「さあ出口まで後少しですよ〜!」
「何か、踏ん、だ、気がする、が、気のせい、か」

 四人は無事、脱出を果たした。


●海

 穏やかな潮騒が、南国特有の香りを運んでくる。
「ご苦労だったな、君たち」
 九重 誉の言葉に、学園教師伽藍 桔梗 (jz0263)と朝比奈 悠(jz0255)を始めとした教師陣はげっそりとした表情を見せていた。
「まったく酷い目に遭いましたね……」
「はね飛ばされた時は一瞬意識飛びましたよ……」
 踏まれたり殴られたりと散々な目にあった彼らに、誉は満足そうに頷きつつ。
「生徒達も楽しんでいたようじゃないか」
 
 彼らの視線の先には肝試しを終え、砂浜で思い思いに楽しむ生徒達の姿が映っている。※ちなみにA班は病院破壊及びもろもろでこってり絞られた後。

「綺麗な星空ですね〜」
 まるで降ってきそうな星彩を見上げながら、アマリリスは瞳を細める。
 ベアトリーチェは持ってきたお菓子を配りつつ、ミラにも渡し。
「先生にも…あげる……」
「おお、ありがとうヴォルピ君!」
「おにぎりも作ってきたのですわ! 皆さんでどうぞ!」
 ひだまり作成の鮭や明太子やおかかおにぎりを皆でほおばる。
「美味しいーー!」
 グラサージュがうっとりとした表情になる中、メリーも手作り料理を振る舞う。
「メリーもサンドイッチ作って来たのです! よかったらどうぞなのです!」
 笑顔で差し出された物体を、仄がじっと見つめ。
「これ、は、何が、入って、いるん、だ?」
 なんか煙出てる。
 愁也は(犠牲者が出る前に)、サンドイッチを笑顔で教師達に差し出す。
「なかなか学園では会えませんもんね! さ、遠慮なく!」
「おお、すまないな」
 何も知らない悠はぱくりと一口。そのまま気を失う。それを見た誉が微笑みながら言った。

「月居は明日も補習だな」

「みんなで花火やろうー!」
 グラサージュは肝試し中とは打って変わって本領発揮とばかりに、生き生きとしている。
「ほら、アマリリスちゃんどれがいい?」
「そうですね〜これとか面白そうですね〜」
「ロケット花火か、いいねやろうやろう!」
 ベアトリーチェとひだまりはミラや桔梗にも花火を渡し。
「先生も…一緒に花火やろ…?」
「ロケット花火ですわよ!」
「ほう、ロケット、花火、か、面白そうだ、な」
「メリーもやるのです!」
 みんなで揃って点火。せーので投げたロケット花火は甲高い音をならしながら夜空に弧を描き飛んで行く。

 その先には、砂浜を散歩中の愁也の姿。


 \全弾命中/


 南国の夜は、こうして穏やかにふけていくのだった。




依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:5人

輝く未来を月夜は渡る・
月居 愁也(ja6837)

卒業 男 阿修羅
蒼閃霆公の心を継ぎし者・
メリー(jb3287)

高等部3年26組 女 ディバインナイト
静寂の魔女・
仄(jb4785)

大学部3年5組 女 陰陽師
日蔭のぬくもりが嬉しくて・
日比谷ひだまり(jb5892)

大学部2年119組 女 バハムートテイマー
赤の悪意を阻みし者・
アマリリス(jb8169)

大学部1年263組 女 ディバインナイト
揺籃少女・
ベアトリーチェ・ヴォルピ(jb9382)

高等部1年1組 女 バハムートテイマー
『楽園』華茶会・
グラサージュ・ブリゼ(jb9587)

大学部2年6組 女 アカシックレコーダー:タイプB