ここは天魔学園久遠ヶ原一年きなこ組。
穏やかな陽差しが教室内に降りそそいでいます。
急に、教室の扉がばぁんと音をたてて開きました。
「話は聞かせてもらった! きなこ組お弁当係、わかすぎひでとの出番のようだな!」
遅刻をしてきたひでと君(
ja4230)は、よくわからないことを言っています。
クラスのみんなはこの人大丈夫かなと思いましたが、あえて何も聞かない優しさを見せました。
「説明しよう! お弁当係とは、お弁当の時間に『いただきます!』と最初に号令をかける係なのだ」
おお、何という大事な役目なのでしょう。
ひでと君がいなければお弁当が食べられない。
そう気付いたクラスメイトは、ひでと君を尊敬のまなざしでみつめました。
「こうなりゃきなこ組トイレ掃除係の俺も黙っていられないな!」
元気いっぱいにシュウヤ君(
ja6837)が立ち上がると、ひだまりちゃん(
jb5892)も大きな瞳を輝かせます。
「黒板消しお掃除係りのひだまりですわ!大好きなミラ先生のためにも気合入れて頑張るのですわ!」
ひでと君のおかげで、みんなの心が一つになります。
こうしてきなこ組のみんなは、仮装大会の準備を始めました。
●
「憧れの誉ちゃん仮装大賞なのだ!」
そう言ってアンジェラちゃん(
ja9940)がはりきります。
英国から引っ越してきたアンジェラちゃんは、まだ日本のことがよくわかりません。
けれど一生懸命勉強をして、今ではりっぱなアニメオタクになりました。
「皆と息を合わせて素晴らしい舞台にしてみせるのだ!おやつはアップルパイだぞ!」
けがれ無き心を持ったつるぺたアンジェラちゃんは、三時のてぃーたいむ係。
大好きなカエデ君にはこっそりいつも多目にあげてしまいます。
同じようにカエデ君と仲良しなのが、幼馴染みのエルゼリオ(
jb7475)君。
書記係のエルゼリオ君は書道三段の腕前です。でも絵はミミズとつまようじしか描けないので、衣装を作ることにしました。
「一番に警戒すべきはエリート揃いのさくら組――では無く、恐らくはわらび組」
エルゼリオ君はぶつぶつ何かをいいながら、メジャーを取り出します。
「マユミに渡すわけには…! カエデ、ちょっと採寸させてくれ」
エルゼリオ君の目は異様なひかりを放っています。それを見たカエデ君は自分が何か恐ろしいものに巻き込まれている感覚をおぼえました。
みんなの頑張りを見守るおおきなお友達もいます。
「面倒だが、ひぃがやる気出してっからなぁ…まあ少しは頑張るとしますか」
ヒカゲ君(
jb5071)が眠そうな顔であくびをすると、友達のバル君がいいました。
「いいかヒカゲ、我々がこの大会の鍵を握っていると言っても過言ではない」
ヒカゲ君はちょっとなにいってるかわからなかったのですが、とりあえずめんどうなので頷いておきます。
そこへひだまりちゃんがやってきました。
「かわいいはつくれるのですわ!」
ヒカゲ君はやっぱりちょっとなにいってるかわからなかったのですが、めんどうなので頷いておきます。
ひだまりちゃんはヒカゲ君とバル君の顔に、何かを一生懸命塗っています。
その頃、シュウヤ君はタビト君と桜の絵を描いていました。
「俺、絵が下手だからボディペイントするぜ!」
茶色のペンキをかぶって紙の上を転がるシュウヤ君を見て、タビト君は感心します。
「すごいね、僕もやるよ!」
桃色のペンキをかぶって紙の上を転がります。
辺りにはシンナーの香りがいっぱいに広がり、みんなをふしぎな気分にさせます。
だめだこいつらはやく以下略と思った半蔵君が、足跡で花びらを描いていくのでした。
こうして、みんなの頑張りで準備はとどこおりなく終わりました。
練習もたくさんやったので完璧です。
ひでと君が元気よく言いました。
「俺にはわかる。アンジェラちゃんは、将来ばいんばいんになる!」
さすがひでと君、頭の中に春が来たんだなとみんなは思いました。
ミラ先生の顔にお化粧をしていたひだまりちゃんは、嬉しそうに言います。
「ミラ先生お美しいですわ! お母様と呼びたいですの!」
ひだまりちゃんの言う通り、ミラ先生はどこからどう見ても綺麗なお姉さんにしか見えません。
そして隣に立つヒカゲ君とバル君の顔を見て、ひだまりちゃんはそっと目を逸らすのでした。
●
「くっ…何という感動の物語なのだ…」
プロローグムービーを観て、誉ちゃんは涙をこぼしていた。
「彼らの愛しさと切なさと心強さが伝わってくるというものだ」
これから始まる本番に期待を寄せながら。
●
「エントリーナンバー2番、天魔学園久遠ヶ原一年きなこ組。テーマ『久遠ヶ原の美しい春の一日』」
紹介アナウンスが終わると同時、シュウヤの声が響き渡る。
「きなこ組の団結力、見せてやるぜ!」
かけ声と共に軽快な音楽が流れ始め、スルメ食べた半蔵によるナレーションが入る。
逆光の中、舞台に現れたのは三人のシルエット。
「私たち」
「噂のアイドル」
「飴ちゃんズだ!」
照明が切り替わり三人の姿があらわになる。
「ひーちゃん…でーす…」
ふりふり衣装を身につけたヒカゲが死んだ目をし、
「ばるちゃんだ」
ぴちぴち衣装にミニスカを履いたバルが真顔で稲妻を光らせる
「みーちゃんなのだよ!」
流行のゆるふわ愛されヘアメイクを施したミラが、ぶんぶんと手を振り。
歌うのは『春No.1』。
音楽に合わせ歌い踊る三人。(どう見てもミラだけ遅れている)
時折見えるパンチラには「LOVEミラ先生」の文字入り。
三人の春ソングに合わせて踊り子達が次々に現れてくる。
「ひでとは『春の精』だ!」
説明しよう!
春の精とは、春の訪れを告げる妖精さんのことである!
半蔵のナレーションが入る中、黄緑色の全身タイツを着たひでとは、背負った蝶の羽根らしきものをばっさばっさと羽ばたかせる。
「♪イェイイェイ春ですね〜 レッツラブラブ!アイラブユー〜!」
オペラのごとく歌い上げると、春風がやってくるのだ!
「私はせくしーな春風なのだぞ!」
ピンクのレオタード姿に花飾りをいっぱいくっつけたアンジェラ登場。
せくしーと言えばキャッツ●イだってアニメで見た。
ピンクのビニール紐をびらびらなびかせ、舞台上を駆け抜ける。
(^▽^)〜〜〜〜〜〜〜
←← ←←
〜〜〜〜〜〜〜(^▽^)
→→ →→
春風に誘われ、現れたのは森のどうぶつたち
お馬さんとクマさんがやってきたようです
「待ちに待った春が来たぜ!」
全身黒タイツに馬マスク姿のシュウヤが、縮地的速度で舞台を駆け抜け歓びを表現。
速すぎて残像化したところでクマの格好をしたひだまり登場。
「くまさんですわ!がおーなのですわ!」
微妙に精巧な作りのクマから顔をだすさまは、まるで食べられかけたおっとそこから先は蔵倫グロ規制だ!
小鳥の着ぐるみを着たヒリュウと共にキレッキレのダンスを披露。
踊りに合わせて色とりどりの花が舞う。
「さあ、みなさんで春をよろこぶのですわ!」
ここでひでとがタビトやエルゼリオに目配せ。
(いまだ!つくしも一緒にレッツだんす!)
「にょっきにょっき つくしんぼー!」
ここでぞろぞろと現れたのは、つくし姿の男子四人。
音楽に合わせて右に左にゆらゆらと揺れている。
「何をそんなに恥ずかし気にしているんだ? もっと背筋を伸ばせ、カエデ」
「は、恥ずかしがってなどいない!」
既に顔が真っ赤なカエデを、エルゼリオは叱咤激励。
「俺たちはこの日の為に練習を重ねたのだろう…!」
辛かったあの日々(主に人の目が)
忘れられない数々の思い出(全てわらび組の奇襲)
その隣ではシュウヤがタビトに対して、アドバイス。
「タビトさん女優だ!女優になれ!」※男です
「わかった僕女優になるよ!」※男です
二人はふ●っしーばりの速さで小刻みな揺れを披露。
彼らの動きにあわせ、飴ちゃんズの歌も盛りあがっていく。
バルはそのガチムチボディを生かしたブレイクダンス。ヒカゲはローラースケートを履いて壁や天井を走り回りと立体的なダンスで盛り上げる。
上下左右と翻るパンチラ(中年)に会場は一気にヒートアップ。
ミラのソロパートが響き渡る。
♪あーあーあああああーあー
ああーあああああーあー♪
「よし、歌詞を忘れなかったぞ!」
「凄いのですわミラ先生!」
ひだまりクマーとハイタッチし、二人でくるくるとダンス。
ひでとが折り紙で作った花吹雪を撒きながら歌う。
「クラスのみんなも! 一緒に!」
冬を越えて花が咲き
動物や虫達の動きが活発になる季節
「それを!全身で!表現するんだ!」
しゃくとり虫の動きを表現するひでとの周りで、アンジェラがびらびらと舞い踊る。
「せくしーな春風でみなを包むのだ!」
(^▽^)〜〜〜〜〜〜〜
ここで小刻みに揺れていたタビトがうっかりカエデの衣装を引っかける。
べりっ
「「うわああああ」」
\春はいずらな季節☆/
下半身の衣装が破れたカエデは、ショートパンツからのぞく生足が丸見え。
わらび組が一気にざわつき「マユミさん5台もカメラ持ってどこいくんですか!」と言う悲鳴が聞こえる中、エルゼリオが叫ぶ。
「――狼狽えるな!」
涙目のカエデの前で自分の下半身衣装を剥いでみせ。
「案ずることはない。俺も一緒だ」
「え、エルゼリオ…!」
涙目のカエデと同じく生足で仁王立ち。
「やだ、リョウラってば美脚…!」
感心するシュウヤを振り向き真顔で宣言。
「全員でやれば怖くない…!」
ア、デスヨネー
全員生足披露状態になったつくしんぼ四人。
「こうなりゃ俺たちの脚力見せてやるよ!」
シュウヤとタビトはふな●しーばりの全力跳躍で春の歓びを表現。
ひだまりが着ぐるみなど物ともせずにブレイクダンスを披露!
「クライマックスクマーですわー!」
♪L( ̄(エ) ̄)┘
└( ̄(エ) ̄)」♪
渾身の踊りに会場が沸く。
そして飴ちゃんズが最後の振りに入ろうとする中で、事件は起こった。
『春と言えば恋の季節だ!』
突然シュウヤが真剣な表情で舞台中央に立つ。
「俺は…俺は! ここで! ある人への想いを伝えてみせる!」
「シュウヤ君……?」
ざわ……ざわ………
ざわつく会場をもろともせず、シュウヤは客席をびしっと指さし。
「さくら組ラックスちゃん!」
「えっ……あたし?///」
ラックスは口に手を当てて瞳を潤ませている。
「お、俺は君の事が…まずはメル友から!」
「おっと手がすべったああああ」
スパーン☆
ひでと渾身のツッコミハリセンでシュウヤは☆になった。
「リア充はこのお弁当係のひでとが許さないっっっ」
危なかった、もう少しで描写自主規制がかかるところであった。
なんかもうよくわからないけど観衆が沸き立つ中、ミラは何も無いところで転んでいた。
「わわわ!」
すかさずヒカゲがローラースケートで回収。こんなこともあろうかと予め準備していたアドリブを開始!
「バルちゃん、春は不審者が増える季節よ!」
「む!ミラ殿を狙う輩はこの私が許さん!」
ばりばりばり
「ぎゃー」
うっかり猛烈な稲妻に巻き込みヒカゲとミラは気絶。そのまま舞台袖へはけていく。
「バルくん、シュウヤ君もお願い!」
☆になったシュウヤを抱えたタビトがそれに続き。
ばりばりばり
ぎゃー
「さあ、最後は皆で歌おう!」
ひでとの呼びかけで春風も森の動物たちもつくしんぼも集まってくる。
全員一丸となってのクライマックスだ。
「ウォウウォウ春ですよ〜♪ レッツラブラブ!アイラブユー〜!」
「あいらぶゆー!」
ひでとの歌に合わせてアンジェラとひだまりはコーラスで合いの手。
練習の甲斐あって、二人とも見事なハモりを見せている。
いつの間にか復活をとげたシュウヤはタビトと過去最速の動きで揺れ動く。
「俺たちの熱い想い届け!」
つくしの頭もげた気がするけど気にしない。
「行くぞカエデ。俺たちの歌を見せつけてやろう…!」
「ああ、わかっている」
エルゼリオとカエデは、息の合った歌声を響かせる。
先ほどとは違い水を得た魚のように歌うカエデを見て、エルゼリオは微笑む。
二人とも下半身パンツ一丁の現実は見ない。
再び姿を表した飴ちゃんズも加わり、盛りあがった舞台もいよいよ終わりを迎える。
バル、ミラ、ヒカゲは前に出て、それぞれマイクを握りしめ。
「私たち」
「今日を最後に」
「普通のおじさんに戻ります!」
最後は全員涙を流してのラストソング。
歌い、踊り、最初で最後の今日と言う日を目一杯満喫する。
感極まったひでとの抜けるような声が響きわたった。
「とれびあ〜ん!!」
花吹雪が舞う中、誉は感動のあまりむせび泣いていた。
「素晴らしい…あ、ティッシュ使いすぎて無くなったわ」
誉がみっちりと書き込んだ108項目に及ぶ採点票を確認していると、自分を呼ぶ声がする。
振り向いた先には、先程まで舞台に立っていたシュウヤの姿が。
「おや君は…?」
「誉ちゃん握手して!」
実は誉ちゃんファンデある彼、瞳をきらきらと輝かせて頼む。
「誉ちゃん走り見せて!ねーねー!」
「なるほど。ふ…まあいいだろう」
「うおー! みんなでやろーぜ!」
シュウヤに誘われ、他のメンバーも集まってくる。カエデに肩車してもらったアンジェラが感動したように。
「おお、これがかの有名な『誉ちゃん走り』なのだな!」
全員揃って飛び跳ねるきなこ組なのであった。
●終わって
大会が終われば、みんな揃ってのお花見。
重箱仕様のお花見弁当を持ってきたひだまりが、にこにこと差し出す。
「これ、持ってきたのですわ。みなさんもどうぞ!」
「何い、ここはお弁当係である俺の出番のようだな!」
ひでとが張り切っていただきますの号令をかけ、みんなでご飯。
「ミラ先生もお疲れさまでしたわ!」
「ありがとうひだまり君! おお…この卵焼きは美味しいね!」
「それはのり巻きなのですわ!」
アップルパイを持参したアンジェラは紅茶と共に皆へ振る舞う。
「頑張ったご褒美なのだぞ!」
タビトとバルがおやつに舌鼓を打つ中、シュウヤは密かに隠し撮りしたカエデの写真を元にマユミから三好屋の団子をゲット。
カエデとエルゼリオはのんびりと桜を眺めながら、思い出話を語り合う。
「それにしても結果発表の前に会場が吹っ飛ぶとはな…」
わらび組演技の際に起きた不幸な事故により、膨大なチェックデータが消失。
最終的に引き分けになってしまったのだ。
遠い目をするカエデに、エルゼリオはくすりと笑み。
「だが、皆でやり切った事には変わりない」
あの舞台での思い出は、きっと消えることはないのだから。
ぼんやりと団子を食べていたヒカゲは、ひとり微笑む。
「まるで夢みたいだったなあ……」
そんな穏やかな、春の一日。