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マスター:久生夕貴
シナリオ形態:ショート
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/01/14


みんなの思い出



オープニング

 ずっと、ずっと眠っていた。

 けれどどこかで、待っていた。
 いつか、もう一度目覚めることがあるのなら。
 世界が鮮やかに色づくことがあるのなら。

 そう、もうとっくに気付いていた。
 彼らと出会い、諦めていた「もう一度」は訪れてしまった。
 世界に再び、色が戻って来てしまった。
 この想いが色あせてしまう前に。
 
 甘い夢を咲かせて見せよう。


●久遠ヶ原

 クリスマスが近付く十二月下旬。
 学園内も祭前のどことなくそわそわした空気が漂う中、斡旋所スタッフの西橋旅人(jz0129)は、先日の報告書を前に考え込んでいた。
「サーカスは刹那の幻想……か」
 あの悪魔が語った言葉。一夜限りの夢を追い続ける、終わりの無い欲求。
 つくづく思い知らされるのは、彼の感覚は自分には分からないと言うこと。
 失った過去を抱えながら仲間と未来を見ようとする自分にとって、この悪魔の抱える永続的な憂鬱を理解することは不可能だとも思う。
 価値観の違いだと言えば、その通りなのだろうけれど。
 ただ――
 窓の外に視線を向けながら、旅人は緩く吐息を漏らす。

 ほんの少し、見てみたいと思っている自分がいる。

 人と悪魔が生み出す、ひとときの幻想を。
 互いに命を賭け失う寸前に花開く最後の夢は、どれほどに鮮烈で輝くのだろう、と。

 そんな想いが自身の中に生まれてきていることに、驚くばかりで。
 サーカスという特殊な空間は、見る者をそうさせる力があるのかもしれない。
 窓の外で雪がちらつき始める。
 一片の雪がアスファルトに吸い込まれた時、旅人は唐突に理解した。

 ――ああ、そうだ。

 気まぐれで、わからなくて。近付いたと思ったら、まだ遠く。
 それでも追いかけさせて止まないのは、サーカスも同じ。

 そう、この舞台はクラウンそのものなのだ。

●宵闇の彼方

 仄暗く淀んだ冥界の景色。
 フェーレース・レックス(jz0146)のふかふかとしたお腹にうずもれながら、マッド・ザ・クラウン(jz0145)はただじっと視線を馳せている。
「クラウンーまた考え事であるか?」
 友の言葉に、おやと言った様子で。
「ふふ…貴方に隠し事はできませんね。レックス」
「我輩、クラウンのことは何でも知っているであるぞ」
 むふーっと鼻から息を吐く猫悪魔にくすくすと笑いながら。
「ええ、そうですね。知っていて、貴方は何も言わないでいてくれるのですから」
 互いのことは誰よりもわかる。
 だから、言わない。
 それは言わなくても分かりあえるなどと言う、感傷的なものではなくて。
「我輩は、クラウンが大好きであるからな」
「ええ、知っていますよ。レックス」
 知っているから、共に過ごしてきた。

 クラウンは手にした金色の羽根を目前に掲げた。
 闇の中で浮かぶそれは、明らかにここでは異質な輝きを纏っていて。
「ふむん?それは何であるかー?」
「ふふ…これは寄り道するための『チケット』なのですよ」
 サーカスという幻想の最中に拾った、もう一つの興味。
「近いうちに、貴方にもわかりますよ」
 そして微笑みながら、猫悪魔へと告げる。
「さあ、レックス。私たちもそろそろフィナーレに向けての準備を始めましょうか」


●最後の招待状

 ※※

 こんにちは、私はマッド・ザ・クラウンです。

 先日の『Devil Circus』第四幕、楽しませてもらいましたよ。礼を言いましょう。

 さて、この舞台もついに終幕を迎えます。

 そこであなた方にお渡ししたいものがあるのですよ。

 ふふ……何を渡すのかは、来ていただければわかります。

 あなた方が来るのを、楽しみに待っていますよ。

 ※※


●終幕はいつだって彼方への幕間

 いつものサーカステントに呼ばれた撃退士達は、これから起こる予感に緊張をにじませていた。
 時間は夜。
 冷え切った大気のせいで、空気は澄んでいるものの。
 煌々と灯りが点されたテント内は、不気味さと幻想を併せ持った一種独特の空間となっている。
 そこに響く、聞き慣れた声音。

「ようこそ、悪魔のサーカスに」
「待っていたであるぞ!」

 現れたのは、道化師姿の子供と大きな猫悪魔。クラウンは集まった撃退士達を見て、どこか嬉しそうに目を細める。
「ふふ…今回あなた方をお呼びしたのは他でもありません。この舞台を彩っていただいたあなた方に、以前お約束した『御代』をお支払いしようと思いましてね」
 この舞台が始まった時に、皆で叩きつけた『挑戦状』。いずれかならず御代をいただくと言ったことを、ちゃんと覚えていたのだろう。
 クラウンは全員を見渡すと、興が乗ったかのように袖を一振りする。
「このサーカスは今回でフィナーレを迎えます。ですが、全ての舞台はまだ終わってはいません」
 そう、サーカスはあくまで次のステージへの『幕間』にすぎず。
 悪魔の涼やかな声が、テント内に響く。

「此度の御代は、最終ステージへの『チケット』」

 その瞬間、轟音が地を揺るがす。
 警戒する撃退士の足下から、巨大な門が勢いよくせり上がってくる。
「うわっ」
 両側に避けた撃退士の間を、門はどんどんと上昇し。
 上がりきった所で、突然周囲が結界で覆われてしまう。
「これは……!?」
「『門』ですよ」
 何が起こったのか分からない彼らに向けて、クラウンは微笑む。
「ふふ……あなた方はこれによって分断され、それぞれ別の結界に閉じこめられました」
 門の反対側の様子は結界の壁が邪魔して全くわからない。先程までいたレックスの姿も見えず、呼びかけてみても声すら聞こえてこない。
「心配いりませんよ。この門を開ければあなた方は無事ここから脱出できます。開門に必要なのは――」
 悪魔が指したのは、彼の背後に置かれた黒の小箱。大きさは野球ボールくらいだろうか。
「あの中に、門を開けるための『鍵』が入っています。そろそろ読めてきたと思いますが…」
 愉快そうに口元をほころばせ。

「これを私から、奪ってみせてください」

 撃退士たちが息を呑むと同時、クラウンの両脇に道化師姿の人形が現れる。
 煌びやかな電飾が瞬き、軽快な音楽が結界内に響き渡る。それはまるで本物のサーカスのような華やかさと、禍々しさが入り混じった奇妙な空間。
 クラウンは長い袖を大きく振ると、高らかに宣言する。

「さあ、Devil Curcus最後の演目は『道化の戯れ』。次なる舞台への幕間を、互いに興じてみようじゃありませんか!」

 周囲の陽気さと相反するように、空気がびりびりと張り詰める。
 道化の悪魔から放たれる圧力が、明らかに鋭さを増していく。
 撃退士達は口に出さずとも感じていた。

 クラウンは、本気だ。

 狂宴のフィナーレが、幕を上げた。


リプレイ本文


 風の音だけが響く草原に、西橋旅人(jz0129)は一人佇んでいた。
 頬をすり抜ける凍てつく感触に、思わずマフラーに顔をうずめる。
 漆黒の瞳が映す先には、闇夜に浮かぶ巨大なサーカステント。
 白い吐息が星空に溶ける。

 ――僕も、ここで見届けよう。

 今宵の舞台は終わりへ向かうための、片道往路。
 行き着いてしまえば、もう二度ど戻ることは無い終幕へのカウントダウン。

 けれど、彼らは待っている。
 喪失の憂いと降誕の歓喜が結びつく、至高の瞬間を。


 それはきっと――鮮烈に輝く恍惚の大団円(グランドフィナーレ)。



●幕間嬉戯

 煌びやかな照明が、軽快な音楽に合わせて明滅を繰り返す。
 周囲を彩るカラフルなオーナメントは、禍々しい絢爛さと無垢な華やかさを兼ね備えている。
 地に足が付いていないかのような浮遊感と、気を抜けば奈落の底まで堕とされるような危うさと。
 全てはどこかアンバランスで、それはまるで夢魔から零れる媚薬にも似て。

 そう、ここは幻想と現実の狭間。

 脳内がしびれ、ひりつくような高揚に視界が一瞬くらりと歪む。
 境界線上の舞台に閉じこめられたのは、八人の演者と二人の観測者。

「ラストダンスか…では、クラウンらしく終劇までエスコートして貰おうか」
 背後にそびえる鴻大な門と、目前に佇む悪魔の微笑。
 マッド・ザ・クラウン(jz0145)を前に切り出すのは、強羅 龍仁(ja8161)。その隣では淡い緑光を纏った櫟 諏訪(ja1215)が、こにことした笑顔で高らかに。
「フィナーレというからにはきっちり勝って、次に向けて兜の緒を締めていきますよー!」
「クラウンの思惑通りにコトが運んじまうのは癪に障るが……」
 言いながらいつも通りの不敵な笑みを浮かべるのは、小田切ルビィ(ja0841)。
「――踊ってやるよ。最高の舞踏をな!」
「うに! 幕間であっても最後の節目! さいっこうのフィナーレにするんだよー!」
 真野 縁(ja3294)が皆とハイタッチをすれば、雨宮 祈羅(ja7600)がちょっとおどけたように。
「幕が下がるまで無様に踊ろうかぁ…って言ってみて自分で寒気感じた、うん」
 来られなかった恋人と。そして何より自分のために、ここまで来た。
 七ツ狩 ヨル(jb2630)の内には、複雑な想いが宿っている。
(俺、クラウンの事結構好きなんだけどな。強いし、楽しいし、変身羨ましいし)
 この舞台を成功させれば、伝えることができるだろうか。
(……あのすっごく美味しいカフェオレの入れ方教えて欲しいし)
 だから今は。

「絶対に、負けない」

 演者達はサポート役の桜木 真里(ja5827)と蛇蝎神 黒龍(jb3200)と共に作戦を話し合っていた。その後与えられた一分間で、門の向こう側にいるメンバーと連絡をすませ。

「では、ミスター」

 ここで呼びかけたのは、加倉 一臣(ja5823)。クラウンを真っ直ぐに見据え、ゆっくりと切り出す。
「貴方に言いたいことがあります」
 対する悪魔は、緩やかに瞳を細め。
「ふふ……聞きましょう」
「俺たちは、この終幕だけを追い求めてここまで来ました」
 向き合う一臣の脳裏には、今まで対峙した数々の場面が駆けめぐる。
 初めて向かい合う事が出来るこの瞬間。互いに待ち続けた『始まりの終幕』に、ただひたすら求めるもの。
 隣に立つ小野友真(ja6901)が頷き微笑む。
「血の海に沈められた事忘れてへん。けどな、この舞台に相応しいんは笑顔と自信やろ」
 浮かべる笑みは、培った全てへの敬意と矜持。
 恐怖心より尚強く。今までの想いを胸に。

「さあ、ミスター始めましょう!」

 一臣の宣言と同時、鐘が鳴る。
 響き渡る始まりの音に、全ての熱が凝集していく。

「貴方へと挑む、共演の奏で」

 ルビィの全身に紅銀の紋様が浮かび上がる。

「沸き立つ熱情を」

 縁の足下から淡い緑光の幻影が伸び上がる。

「心躍る刹那を」

 そして全員の宣言が、結界内に響き渡る。


「最高のフィナーレを!」




 開幕直後、最初に動いたのは一臣だった。
 狙いはクラウンからやや離れた後方に位置する漆黒の箱。その左右には二体の人形型ディアボロが配置されている。
 機動力特化させた彼は、道化師姿のそれらが動き出すよりも早く箱に向かってアウルを撃ち込む!

「よっし、マーキング成功!」

 この先手を取った一幕が、後の展開に大きく影響を及ぼすことになる。

 一臣からやや遅れ、からくり達も一斉に動き出す。
 人形達の手には、鍵入り箱と外見が全く同じ複数の箱が出現。一体が素早く移動し、鍵入り箱を奪取。そのまま他の箱と共にジャグリングを始める。
「うん、予想通り箱を混ぜ始めたね」
 ヨルの言葉に友真も頷きながら。
「あれは目で追えへんな……」
 高速で行われるジャグリングは、撃退士の動体視力を持ってすら目で追えない。どの箱が鍵入りか一瞬で見分けが付かなくなっただろう。
 でも、と友真はわざと得意げに笑んでみせながら。
「これで箱を見失う事は無くなったってことや! さあ遠慮無く行かせてもらうでミスター!」
 銀の双銃を構え、クラウンへと精密狙撃を放つ!
「ふふ……やりますね」
 高命中の一撃は見事クラウンの左肩に直撃する。銃弾を受けた悪魔は流れる血もそのままに、ヨルが生み出す闇の鎖をかわすと思案顔になる。
 続く諏訪が鍵箱を持った人形へバレットストームを撃ち込む。ディアボロの回避性を上回る命中力を見て、微かに頷き。
「では、こうしましょう」
 言い終えると同時、彼の周囲を黒煙が覆う。現れたのは――
「やはり…その姿になったか」
 龍仁の視線の先に映るのは、すらりとしたタキシード姿の青年。
「はっ…ならこちらも本気で行かせてもらうぜ」
 変身したクラウンを前にルビィが闘気を極限まで高め、縁が盾を構える。
「どんな攻撃でもみんなを守ってみせるんだよー!」

 刹那、動いた者がいた。

 彼らがクラウンを引きつけている間に、その背後へと瞬間移動した祈羅だった。
 からくり近くに出現した彼女は、魔法書から光の羽根を生み出す。
「攻撃される前に直接奪ってやる!」
 至近距離から高威力の攻撃を当て、動きが鈍った所を奪う。どの箱が『本物』かは一臣が指示してくれるはず。
 ともすれば命さえ危険にさらす単騎戦。けれど祈羅は援護する仲間を信じて躊躇無く踏み込む!

 激しい閃光と衝突音。

 地響きが結界を震わせた時、彼女の目に映ったのは巨大なジョーカーの壁。
「なっ……!」
 からくりを覆い尽くす『プリズンカード』を前に微笑むは道化の悪魔。
「そう簡単に渡すわけにはいきませんのでね」
 閉じこめられた人形は中で沈黙をしている。移動は出来ないが、障壁を壊さない限りこちらかの攻撃も通らない状態。
「なるほど……まさかあれを味方に使うとはね」
 ヨルが感心したように呟く中、他方のからくりが放つ攻撃を受け止めた龍仁が叫ぶ。
「祈羅今すぐこっちに戻れ! そこは危険だ!」
 ここからでは距離がありすぎて、彼女を庇うことも回復することもままならない。祈羅は悔しそうに頷くと、再び瞬間移動で戻ってくる。
「ごめん……失敗した」
「謝る必要なんてないでですよー? むしろ自分たちを信じてくれてありがとうと言いたいのですよー!」
 諏訪が障壁に弾丸を撃ち込みながら、明るい声を出す。

「まだまだ、戦いはこれからですからねー! さあ、みんなで頑張りますよー!」

 からくりが箱ごと障壁内に閉じこめられたことを受け、メンバーは一斉に障壁破壊へと切り替える。
「あれを壊さんことには、ミスターはやりたい放題やからな!」
 一臣と友真が放つ銃弾が空を走る。縁とヨルが放つ攻撃が叩き込まれる中、紅銀の光がさらに強く輝きを増す。
「これでもくらいやがれ!」
 ルビィが黒刀から放つ渾身の封砲は、高威力を持って妖光纏う壁に亀裂をもたらす。
「よし、あと少しだ!」
 声を上げた龍仁の視界の端、ゆらりと影が動いた。

 来る。

 認識するより速く、龍仁と縁の身体が反応する。
 瞬間的に繰り出される防壁に迫る禍々しき高圧の一閃。

 漆黒の斬刃が、放たれた。




 廻る、廻る、紅奏の輪舞。

 華やかな舞台を染め上げる、鮮血の紅。
 傍らで咲む魔妖は夢か幻か。

「縁! 大丈夫か!」
 駈け寄る友真を片手で制止ながら、縁が口元の血をぬぐう。
「大丈夫…なんだねー……」
 全身を切り裂かれるような激痛が走る。喉にこみ上げてくる血は、暖かく苦い痛みの味。
 放射状に放たれた巨大な衝撃波。
 CR差の重圧が加わった悪魔の刃は、たった一撃で二人をはじき飛ばし深傷を負わせていた。
「強羅……」
「心配するな。これで倒れるほどやわじゃない」
 苦渋に満ちた表情の一臣に、龍仁は笑んで見せる。しかし気力で持ちこたえてる状態なのは、誰が見てもわかるもので。
 こうなることは当然予測していた。それでも前で盾となると言ってくれた仲間に全て任せたのも信頼の証。
 ――けれどそれでも。
 一臣は耐えるように、歯を食いしばる。
 仲間が傷つくのは、いつだってどんな時だって慣れるものじゃない。

「おや、よく受け止めましたね」

 身長よりも大きな鎌を手にしたクラウンが、瞳を細めた。
「手は抜きませんでしたよ」
 そう語る口調は悔しがるでもなく、まるで悦んでいるようにさえ聞こえる。
「ミスター…縁は負けないんだねー…!」
 自身に癒やしの風をかけながら、縁は悪魔から視線を逸らさない。
 約束したから。
 いつか君を倒し、君を忘れない墓標になることを。
 必ず君の元に辿り着くことを。

「それまでは、絶対に背は向けないと決めたんだよー!」

 聞いたクラウンは口元に弧を刻む。

「いい覚悟です」

 龍仁と縁が決死の覚悟でクラウンの攻撃を受け止めた隙に、祈羅はプリズンカードの破壊に成功していた。
「ようやく壁を壊せた…勝負はここからだよ!」
 祈羅の言葉にヨルは軽く頷き。
「うん。後はまたアレをやられないうちに、人形を倒してしまおう」
 からくりと箱を狙えば、クラウンはそちらに意識を向けざるを得なくなる。その間は攻撃まで手が回らないはずだ。
「まずは…動きを鈍らせたいところだよね」
 ヨルは音も無く地を蹴ると、からくりの真上に闇色の逆十字架を出現させる。落とされた黒の重圧は人形の動きを絡め取る。
「ヨルさんナイスですよー! ここは自分に任せてくださいよー!」
 アサルトライフルを構えた諏訪が、神経を研ぎ澄ませてゆく。

(絶対に外せませんねー?)

 狙撃手としての意地と矜持。
 全ての感覚が収束した瞬間――音が消える。
 極限まで命中精度を高めた渾身の猛射撃。それはいかに回避特化させた存在でも、とても避けきれるものでは無い。
 耐えきれず呻き声を上げたからくりは、苦し紛れに箱をトスする。しかしこれはルビィのシールドがカバー。
 受けたダメージの大きさで、ジャグリングの威力が弱まる。
「おやおや、もう音を上げたか? 悪いがここで仕留めさせてもらうぜ!」
 ルビィが放つ二度目の封砲。
 黒光の衝撃波は轟音と共にからくりの胴部を深くえぐり、その身を薙ぎ払う。
「うに! 一体撃破なんだよー!」
 人形の目から光が失われると同時、複数有った箱がみるみると消え失せ、残る一つの箱が地上に残される。
「あれが『本物』……!」
 銃を手にした一臣が走る。
(まだここからじゃ届かない…今はもう一体のからくりを封じる!)
 狙い定め、足下を穿つ。現時点で無傷のからくりに部位狙いは成功しなかったが、それでも動きを一瞬鈍らせる。
「一臣さんナーイス! くらえ俺のヒーロー魂!」
 生じた隙に滑り込んだ友真が、弾丸を飛ばす。
 脚部へ一直線に向かったそれは、見事狙い通りに着弾。高命中の狙撃手二人の連携により、人形の動きは瞬く間に鈍っていく。
 からくりも負けじと箱を投げて応戦するが、前衛の堅固な守りにより大きな打撃には至らない。
「今のうちに箱を……!」
 祈羅やヨルが奪おうと動くが、ここはクラウンの動きが速かった。
 大鎌からすべるように伸びたオーラが箱を絡め取る。そのまま勢いよく振り抜き、更に後方へと飛ばす。
「くうーーー! こうなりゃ仕方ない、先にあの人形をやっちゃおう!」
 祈羅は即座に攻撃に切り替え、からくりへと束縛の呼び手を生み出す。動きの鈍っていたことで逃れることが出来ず、からくりはその場でとどまる。
 そこを攻撃特化の斧槍に持ち替えたヨルが襲う。
「これで箱を奪われる心配はないね」
 研ぎ澄まされた高威力の一撃が叩き込まれる。二体目のからくりの身は、ここで脆くも崩れ落ちた。

「残るは箱を奪うのみ…!」


●幕間の幕間

 その頃、メンバーの激闘を横目に、真里と黒龍はひたすら門へと意識を集中させていた。
「これ、いつ光るかわからんから、なかなかにきついもんがあるなあ……」
 黒龍の言葉に、真里も苦笑しながら。
「一瞬たりとも気が抜けないよね」
 恐らく発光時間はそう長くは無いだろう。見逃せばそれは演技の失敗を意味する。
 友人や愛する者が命懸けで戦う中、ただ門を監視するだけの時間は恐ろしくもどかしい。
(ヨル君…無理はせんといてや……)
 彼からもらった指輪の感触を確かめながら、黒龍は敢えて振り返らない。
 それは彼なりに任せた事への誠意と、ヨルが傷つくのを見てしまえば我慢できなくなってしまうに違いないから。
 真里はただ祈るように、その静かなまなざしを向けている。
(大丈夫…皆やってくれる)
 幾度となくここまで乗り切ってきた大切な友人達。だから自分は、今の役割に集中するだけ。
 真里の心中は意外にも、穏やかだった。
 それは今まで重ねた時間と経験を、自信へと昇華させる仲間を見てきたからだろう。

 二人は各々の想いを胸に、『その時』を待ち続ける。

 ※※

「ふふ…からくりが倒されましたか」

 クラウンは漆黒の大鎌を手にしたまま、撃退士達の前に佇んでいる。
 その一分の隙も無い姿を見て、友真の額に汗が浮かぶ。
「さすがやな…少しは焦ってくれるんかと思ったけど、全然逆や」
 びりびりと伝わる気配は更なる鋭さを増してゆく。禍々しさと愉悦の入り混じった独特の重圧は、ともすれば自身の内を侵食しそうなほどに濃密で。ルビィも苦笑しながら。
「全く…呆れるくらいに楽しそうだぜ」
 その気配に誘われるように。
 極限状態にも関わらず、笑みさえ漏れる。結局は自分達もこの舞台に魅入られた演者なのだと思い知りながら。

「ねぇ、ふっとうち思ったんだけど…」
 祈羅が後方に飛ばされた箱を指しながら、やや不安顔になっていた。
「本物の鍵はあの子が持っていて、箱にないなんてことは無いよね?」
 しかしここは一臣が「いや」と否定する。
「ミスターは最初に示した箱に門を開けるための『鍵』が入っていると言った。今まであの人が嘘を言った事は一度も無いんだ」
 ちょっとだけ苦笑しながら。
「言わない事実は時々あるけどね。でも俺は彼を信じるよ」
 敵とか味方とか関係無く。それは何度も向き合ってきた相手への純然たる想い。
「そこでみんな、ちょっと俺から提案があるんだ」
 撃退士達は言葉に出さずとも感じ取っていた。拮抗状態が続く今、恐らく次の一手が本当の勝負。
 全メンバー中最もクラウンの攻撃をその目で見てきた一臣の、賭けとも呼ぶべき作戦。
 聞き終えた祈羅が、真っ先に反応を示す。
「……いいね。ならうちも、もう一度『賭け』をやるよ」
 その言葉に、龍仁が眉をひそめ。
「しかし失敗すれば、祈羅の身が危険だぞ」
 これは一度赴けば二度と戻って来られない決死行のようなもの。しかし彼女はかぶりを振り。
「うちはみんなを、信じてるから」
「……じゃあ俺は、祈羅を信じる」
 ヨルの言葉に、満面の笑顔で宣言した。

「あの子の鼻、明かしてやろうよ」
 
 ※※

「――おや、どうしました」

 鎌を手にしたクラウンが、微笑を崩さぬまま口を開く。
「ふふ……向かってこないのですか? 諦めたようには見えませんが」
「当たり前や。最後の一人になっても俺は諦めへん」
 友真が挑発するように言い放つ中、他のメンバーはじりじりとその瞬間を狙う。
 
「さあ、後半戦と行こうやないかミスター!」

 次なる一手は全員での猛攻撃。
 ひたすらにクラウンを囲み、渾身の一打を叩き込んでいく。
「容赦無く行かせてもらいますよー?」
 諏訪が放つ弾丸が足下をかすめれば、ヨルが生み出す闇の鎖が絡め取ろうと襲いかかる。
「どこまで耐えられるか試させてもらうぜ!」
 ルビィが刃を走らせれば、龍仁が大剣を振るう。
「ミスター! やっぱりどんな演目も見てるだけじゃあつまらないんだよ!」
 縁が放つ攻撃を受け止めながら、クラウンは愉快そうに返す。
「ええ、全く同感ですね」
「うに! 一緒の舞台上で踊れて嬉しいんだね!」

 メンバーの猛攻を囮に、動き出した者がいた。後方から駆け上がってくる長身の影。
「よし、今のうちに…!」
 決死の覚悟で走る一臣だった。クラウンの横とすり抜けるように、地を蹴った時。

 悪魔の体躯が鮮やかに、翻った。

 音も無く回転させた漆黒の大鎌が、周囲の者に襲いかかる。
「くうっ……!」
 巻き込まれた龍仁と一臣があまりの衝撃に呻き声を漏らす。
 同じく強烈な刃を受け止めたルビィが、後方に吹き飛ばされながらも嗤う。


「この瞬間を待っていたぜ、クラウンさんよ!」


 道化の悪魔の双眸が僅かに見開かれる。
 視線の先には遙か後方に出現した、祈羅の姿。
 瞬間移動で箱の側まで移動した彼女は、クラウンが牢獄のカードを繰り出すより早く。
「取ったあああああ!」
 その手に箱を掴み、投げ飛ばす!
「後は、頼んだよ…!」
 投げたと同時、祈羅の周囲をジョーカーが覆い尽くす。
「任されましたよー?」
 飛ばされた箱を待ち構えていた諏訪が、全速力でキャッチすると同時――

 巨大な門が、発光した。




「よーーっしゃあああああ!」

 結界内にこだまする歓声。
 箱を手に喜ぶ撃退士達を見て、クラウンは感心したように頷いてみせる。
「なるほど、二重囮でしたか。見事です」
 大技の隙を狙った、まさに一度きりの賭け。
「何とか…勝ってみせたね」
 脇腹に大きく傷を負った一臣を、友真が支えながら怒ったように。
「全く…無茶しすぎやで」
「悪い。でも成功するって信じてたから」
 箱を開けた諏訪が鍵を取り出す。
「ちゃんと三本中に入ってましたよー! これを使えば……」
 しかしここで、真里と黒龍がかぶりを振る。
「向こうからの合図が、まだなんだ…!」
 恐らくレックス班の方で箱が未入手なのだろう。あちらからのサインが無ければ、使用すべき鍵の『色』はわからない。
 箱入手時と鍵使用時の発光時間で、色を伝えるというのが彼らの作戦。
「くっ…と言うことは、ここから持久戦か!」
 しかし先程のサイクロンをもろに受けた前衛組と一臣は重症。祈羅はプリズンカードに閉じこめられたままだ。この状態で持ちこたえるには、それ相応の犠牲を払わざるを得ない。
「けどな、意地でも箱は渡さへんで!」
 身体を張ったメンバーの為にも、絶対に譲るわけにはいかない。躊躇無く銃弾を放つ友真に、クラウンは舞うように身を翻し。
「ふふ…その通りです。まだ舞台は終わっていませんよ!」
 嬌声を上げ、勢いよく大鎌を振るう。
「――おっと! 踊り子さんにはお触り厳禁、てな!」
 漆黒の斬撃を、ルビィが躍り出て受け止める。満身創痍の全身に走る、痺れるほどの衝撃。
 溢れる血を吐き出しながら、それでも不敵な笑みを絶やすことはない。
「……絶体絶命な時ほど笑えって言うだろ? それが俺の信条なんでな!」
 はじき合うように後方へ飛びすさり、再び刃を構える。
 恍惚さえ浮かべ合う姿は、まさに狂宴を舞踏する道化師そのもの。

 次なる斬撃が刻まれようとした時、青白い光が視界に飛び込んでくる。

「門が光ったで!」

 黒龍と真里は即座にストップウォッチを起動。二度目の発光が色を示すサイン。

 一秒…二秒……
(間に合って……!)
 永遠にも思えるもどかしさ。刻々と時が進むのを見据えながら、次の発光を待つ。
 その間もクラウンは攻撃へ移ろうと、大鎌を振りかぶる。
「そうはさせん!」
「強羅さん無茶は!」
 龍仁が地を蹴りクラウンの前へと立ちはだかる。
「クラウン!」
 全身に傷を負いながらも、盾を手に一歩も引かず。龍仁は敢えて挑発するかのように、不敵に言い放つ。
「お前は箱を奪えと言い、俺たちは見事に箱を奪った。お前との勝負はこれで決着がついたはずだ!」
 爛々とした瞳が、絡め取るように龍仁を捉える。悦に満ちたオーラは鋭く昂ぶる、魔興の奏で。
「ここにいる一臣は、お前は絶対に嘘をつかないと言った。その信に応える気があるのなら、ここから終幕までの幕間は大人しく見ていて貰おうか!」
 悪魔の目元に僅かに変化が生じたかに見えたその瞬間。

「「二度目の発光! 色は……赤!」」

 真里と黒龍の同時宣言が結界内にこだまする。鍵を手にした諏訪が素早く投げ渡すより早く、響いたのは――

「――いいでしょう」

 微かに上ずった悪魔の声音。大鎌を消失させたクラウンは、冷めやらぬ熱を押さえ込むかのごとく瞳を閉じる。
「うわっ……!」
 ごうん、と言う音と共に巨大門が虹色に輝く。
 鍵を回した真里の足下を振動が襲う。目がくらむ程にまばゆい光が撃退士達を覆い、重々しい扉が開いていく。
 道化の悪魔がまぶたを上げた刹那――

 結界が、砕け散った。




 終幕を告げる、鐘が鳴る。
 硝子のような破片がきらきらと降り注ぐ中、成功をようやく悟った撃退士たちの間で歓声がわき起こる。
「やったんだよーー!」
 身体に受けた傷もそのままに、縁がプリズンカードから解放された祈羅を思いっきりハグする。
「うん、本当に良かった……みんなありがとう…ありがとう…!」
 縁を抱き締め返す祈羅の瞳には涙が溢れる。皆無事だった。それだけで今にも力が抜けそうで。
「何とかなったな……」
 メンバーがハイタッチをし合う中、龍仁が一臣に肩を貸しながらほっとしたように息をつく。
「お互いぼろぼろになっちまったけどな」
「まあこれも想定内、だろ?」
 そう言って笑い合う二人の向こうには、開いたゲートから残りの仲間達が見えている。そちらも全員無事だと認識すると同時、一際大きな影が扉から飛び出してきた。

「クラウンーー!!」
 
 扉の向こうから現れたフェーレース・レックスが、一目散にクラウンの元へと駈け寄る。
「おや、レックス」
 友の姿を見たクラウンは、何かを察したのかそっと頭を撫でてやる。
「ふふ……頑張ったのですね」
 レックスは幸せそうに目を細めたまま、たっぷりと頬ずりをする。そしてクラウンが受けた傷に気付き、慌てたように。
「いかんであるぞ、クラウン。怪我をしているである! 我輩が治すであるーーっ」
 ぷわわと涙を浮かべ、傷を舐めようとするのを丁重に断りつつ。道化の悪魔は歓喜に沸く撃退士達の方に向き直ると、微笑む。
「見事な舞台でした。つい我を忘れるほどに――ね」

 あなた方が見せてくれた夢が、あまりにも。

「満足していただけたのならよかったのですよー? こちらも精一杯頑張りましたからねー!」
「ええ、私も全力でやりましたよ」
 諏訪の言葉に満ち足りた様子で頷く悪魔を見て、友真が問う。
「なあ、ミスター。ずっと気になってんねんけど……なんでわざわざ子供の姿でおるん?」
 思い返せば最初から大人でいれば、変身の手間も省けたのに。その問いに、クラウンはああと言った様子で。
「あの姿で無いと使えない能力もあるのですよ」
「えっそうなん?」
「ふふ…あなた方はあまり気付いてなさそうでしたが」
 つまり即座に姿を変えたのには、そうせざるを得なかったからに他ならず。
「先手を取られたことが、少々想定外でしたのでね」
 そう言って一臣にちらりと視線をやってから、改めて全員を見渡す。

「フィナーレに相応しい、素晴らしい演技でした。礼を言いましょう」


●幕間への終幕

 近付く、終わりの刻限。

 その予感を感じながら、ヨルがカフェオレを差し出す。
「ねえ、クラウン。前回、人間が雲の上まで飛んだって話したじゃない?」
 受け取り続きを待つ相手に、淡々と続ける。
「翼を持たない人間にとって、空を飛ぶのは多分それ自体が途方も無い夢だったんだと思う。だけど人間達は、それをちゃんと叶えたんだ」
 同意を示すクラウンを、ヨルはじっと見つめ。
「クラウンの夢、俺はまだおぼろげにしか理解出来てない気がする。けどこの世界なら、人と一緒だったら…夢は叶うよ、きっと」
 ヨルの言葉に、クラウンは何の躊躇も無く肯定してみせる。

「――ええ。私の夢は、あなた方にしか叶えられないのですから」

 それを聞いたルビィが怪訝な様子で、訊く。
「なあ、クラウンさんよ…少しばかり気になってるんだが」
「おや、何でしょうか?」
「アンタは昔、人を愛した事でもあるのか…?」
 問われた悪魔は艶っぽい微笑を口元に浮かべ。その端的な答えを口にした。

「『今も』ですよ」

 そしてクラウンは、終焉の時を告げる。

「では、私たちはもう行きます」
 言い終えて一旦沈黙すると、ほんの少しその瞳に憂いを宿す。
 そのいつもと違う微笑みはまるで、名残を惜しむかのようで。

「おっと、まだ舞台は終わっちゃいませんぜ?」

 突然かけられた声に、顔を上げる。
 レックス班と共に歩み出た一臣が、痛む身体を押し一礼をしてみせ。
「此度の御代、確かに受け取りました」
 そう言って笑んだ後、メンバーがそれぞれ一枚のカードを手渡す。
「黒猫班と仕掛けるカーテンコール。ご覧あれ」

 カードを手にしたクラウンは、しばらくの間書かれた文字をじっと見つめていた。
 やがて一度だけ瞬きをすると、ゆっくりと視線を上げ――

 初めて苦笑と呼べるに相応しい、けれど歓びを隠しきれない無防備な笑みを見せた。


「あなた方には負けました」


 ※※


 廻る廻る、光の輪舞。
 終わりの始まりは生と死の狭間の物語。
 甘美な夢と幻想は、次の彼方に向けて鮮やかに加速する。

「ふふ……では、Devil Circus カーテンコールと行こうじゃありませんか!」
 子供姿に戻ったクラウンは、長い袖を大きく振る。
 その瞬間、テント内に光の洪水が押し寄せ。
 一際華やかな音楽が流れる中、クラウンが投げたカードが一瞬にして花吹雪へと変わる。
 演者が仕掛けたのは、共に舞台を彩った全てへのカーテンコール。並ぶ文字には、賞賛と感謝の色を乗せて。



          ――End Credits of Devil Circus――


                 ア□  アキ
                リ□ウ  リョウ
         ミズ○キ○□○ケ  壬図池鏡介
      フ□ーレ○○レ○○ス  フェーレース・レックス
                ア□ズ  アンズ
             げ○○い□  撃退士
          か○が○○□び  鎹 雅
           □し○○た○と  西橋旅人
            マ○カ○□ブ  マレカ・ゼブブ
                ア○□  アキラ
               ○ー□ェ  レーヴェ
            □フ○ーク○  オフュークス
      ド○□レ○○ミ○○ュ○  ドューレイル・ミーシュラ
               ひ□○ち  人質
      □ッ○ザ○ラウ○ +3  マッド・ザ・クラウン
          デ○○ボ□ −2  ディアボロ
             □バ○ +1  サバク
             ク○○デ□ア  クラウディア
   ワ○○ル○○ワッ□ン +4  ワッフル・クロワッサン
       ○○ンデ○ラ○□ル○  ヴァンデュラム・シルバ
             □リ○○+3  タリーウ



 続いて、この舞台を影から支えた二人に拍手を送る。


 桜木 真里 が穏やかに瞳を細め。
「見届けさせくれて、ありがとう。また会えることを」



 蛇蝎神 黒龍 が同じ悪魔へと送る。
「夢と現実の狭間。新たな幕開けをボクらは待っている」



 そしてフィナーレの主役達へのカーテンコール。



 小田切ルビィ が胸に手を当ておどけたように礼をしてみせ。
「ってなわけで、次のステージ愉しみにしてるぜ?」



 櫟 諏訪 が軽やかに身を翻し手を振る。
「まだまだ楽しませて見せますよー? 待っていてくださいなー?」



 真野 縁 がくるりとステップを踏みながら。
「ミスター、最後の公演は楽しめたかなー? 次のステージでもしつこく追いかけるんだよー! 縁の名前は切っても切れない繋がりの縁(えん)! 再び同じ舞台で会おうなんだね!」



 七ツ狩 ヨル がその想いを言葉に乗せる。
「俺、クラウンには生きていて欲しいって思ってる。だから……また、一緒に遊ぼうね」



 雨宮 祈羅 がちょっと気取って片手上げ。
「相容れぬ者同士でサリュー! 探偵さん、怪盗さん、研究者さんと自分の四人分だ」



 強羅 龍仁 が微笑みながらうなずく。
「次のステージまでオヴォワーと言ったところか?」



 小野 友真 がめいっぱいの笑顔と問いかけを送り。
「次も楽しみにしてるわ。……な、『生きる』とは何ぞや?」



 加倉 一臣 がそのまなざしに乗せた誓いを告げる。
「夢に見た至福の瞬間を、いずれ貴方に」



 そして最後は、主催者である二柱の悪魔から。



 フェーレース・レックス が自慢の髭を静かにそよがせる。
「……また、会おうぞ」



 マッド・ザ・クラウン が舞い踊る花吹雪の中で優雅に咲む。
「あなた方と、再び甘い夢を咲かせることを」


 そしてひとときの幻想は幕を下ろす。
 冷めやらぬ熱は先の舞台へと導く、密で甘美ないざない。



 贈られた言葉は”ブラヴォー&メルシー!”

 贈る言葉は”全ての演者に賞賛と感謝”そして――




 心震える輝きを、いずれまた







依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: JOKER of JOKER・加倉 一臣(ja5823)
 撃退士・雨宮 祈羅(ja7600)
 撃退士・強羅 龍仁(ja8161)
重体: −
面白かった!:19人

戦場ジャーナリスト・
小田切ルビィ(ja0841)

卒業 男 ルインズブレイド
二月といえば海・
櫟 諏訪(ja1215)

大学部5年4組 男 インフィルトレイター
あなたの縁に歓びを・
真野 縁(ja3294)

卒業 女 アストラルヴァンガード
JOKER of JOKER・
加倉 一臣(ja5823)

卒業 男 インフィルトレイター
真愛しきすべてをこの手に・
小野友真(ja6901)

卒業 男 インフィルトレイター
撃退士・
雨宮 祈羅(ja7600)

卒業 女 ダアト
撃退士・
強羅 龍仁(ja8161)

大学部7年141組 男 アストラルヴァンガード
夜明けのその先へ・
七ツ狩 ヨル(jb2630)

大学部1年4組 男 ナイトウォーカー