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マスター:久生夕貴
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:7人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/10/09


みんなの思い出



オープニング

 ねんねんころり 木の上で

 風が吹いたら ゆりかご揺れる

 枝が折れたら ゆりかご落ちる

 その時あなたも 揺りかごも

 みんなそろって落ちるのよ

●宵闇の彼方

 仄暗い冥界で佇む、道化姿の子供。
 悪魔マッド・ザ・クラウンは、薄い笑みを浮かべてある男を見下ろしていた。
「……なんだ」
 横になっていた男は、気怠そうな紅い瞳で睨む。明らかに迷惑そうなヴァンデュラム・シルバ(jz0168)に対し、クラウンは愉快そうに。
「久しぶりですね、シルバ。相変わらずの怠惰ぶりのようですが」
「うるせぇよ。俺にしちゃここ最近は動き回った方だ」
「ふふ……そうですか。ところで、そろそろ退屈でしょう。私と面白い遊びをしませんか」
 聞いたシルバはうんざりした様子で返す。
「……しねえよ。大体お前の考えることなんざ、ろくなもんじゃねぇからな」
「まあ、否定はしませんが。そう悪い話では無いと思いますけれどね」
「俺は極力お前とは関わりたくねえんだよ」
 今までも事あるごとに巻き込まれ、随分な目に遭った。今回も嫌な予感がした彼は、そのまま逃げようと身体を起こしたのだが。
「ぐふーっしるば、痛いであるーっ!」
 背後であがった悲鳴に、思わず眉をひそめる。
「何だ、どうした」
 シルバが枕にしていたのは、フェーレース・レックス(jz0146)の腹であった。ふかふか枕の心地よさが気に入り、時々昼寝に借りていたのだが。
「しるばの手が我輩の腰痛ツボに入ったであるーっ!」
「そ……そうか」
「我輩ここを押されると、しばらく腰痛で動けないである! 困ったである、クラウンと遊べないであるー!」
「おや……それはいけませんね」
 クラウンは悶絶するレックスへ寄ると、気の毒そうに頭を撫でてやる。
「我輩、つらいである。クラウンを一人で行かせるのは心配である……っ!」
 ずびずびと鼻を鳴らす友に、微笑みかけ。
「大丈夫ですよ。シルバが代わりに来てくれるそうですから」
「おい、待て…」
 反論しようとするシルバに、レックスは大粒の涙をこぼしながら訴える。
「しるば、お願いである。腰痛で動けない我輩の代わりに、クラウンに付いていって欲しいである!」
「……」
 シルバ、結局断り切れなかった。

●数日後

 新緑広がる山間。
 うっそうと生い茂る木々の合間を、二柱の悪魔は人知れず移動をしている。
「……で、どこに行くつもりだ」
 周囲の風景を見渡しながら、シルバはクラウンに問う。
「ここは前に来た四国とやらとは、離れているように見えるが」
「ええ。ここは鳥取と言う場所ですよ。四国よりもずっと北です」
「鳥取……?」
 不審な表情を浮かべるシルバに道化の悪魔は長い袖を一振りし。
「ふふ……この地に、会ってみたい者がいるのですよ」
 この地で人との遊びに興じているという、白の悪魔。
 以前から名前は聞いていたものの、直接会うのは初めてで。
「名は確かオフュークス、ですね」
「オフュークスか……聞いたことはあるな」
「ふふ……遊戯を共に楽しめそうだと、期待しているのです」
 そう語るクラウンの意識は、既にこれから始めようとしている遊びへと向けられている。
「さあ、今回も楽しむとしようじゃありませんか」

●久遠ヶ原学園

 その日、学園教授であるミラ・バレーヌ(jz0206)は、たまたま斡旋所へと顔を出していた。
「なんで僕の依頼が通らないんだ!」
「教授……さすがに『僕は最低だ皆に合わせる顔が無い。今後どう生きていくべきか教えて欲しい』なんて依頼を持ってこられても、皆困るだけですから」
「ぼぼ僕はこれでも真剣に悩んでるんだ!」
 絶望的な表情で机ばんばんするミラを、斡旋所スタッフはなだめ。
「はいはい、今ゼミの生徒に迎えに来てもらうように電話しましたから」
「うう……」
 ミラはうなだれ、仕方なく迎えを待つ。するとスタッフの声が聞こえてきた。
「あら…この手紙西橋さん宛てだわ」
「おや、彼は今確か依頼同行中じゃなかったか」
「ですよね…でも依頼の可能性がありますし。どうしましょう」
「そうだなあ…ってこれは…!」
 ミラが顔を上げると、男性職員は手にした紅い封筒を見て、冷や汗を浮かべている。
「悪魔の招待状じゃないか!」
「えっそうなんですか?」
 スタッフの言葉に頷き。
「この封筒は先月起こった『悪魔のサーカス』への招待状と同じものだ」
 二人は慌てて封筒を開封し、中身を取り出す。しかし文面を見た彼らの表情は、次第に困惑したものへと変わり。
「何だこれは…」
 不思議に思ったミラは問いかける。
「どうかしたのかい?」
 その声に職員ははっとしたように。
「あ、ああ教授……実は悪魔から届いた手紙の内容がその……何だか変で」
「ちょっと見せてもらってもいいかい?」
 差し出された一枚の紙には、以下の通り記載されていた。

 ※※

 こんにちは、私はマッド・ザ・クラウンです。

 ふふ……先日の『Devil Circus』は楽しかったですよ。礼を言いましょう。

 ですがまだ幕は開けたばかり。

 再びあなた方を招待したいと思いましてね。


「やっぱり招待状だったんですね……」
 前回の続きと言うことは、恐らくまた人質が取られているのだろう。
 スタッフのため息を聞きつつ、ミラは読み進める。書かれているのは日時と場所、そして演目――。
 書かれてある文面に、視線が釘付けになる。


 今回の演目は『猛獣使い』。

 素敵な猛獣たちが、あなた方を待っています。

 うまく成功させれば、そちらの勝利。失敗すれば――後はおわかりですね。

 ああ、そうそう。猛獣は眠るのが大好きですから、子守歌もいいかもしれませんね。

 ガチョウに乗った老婆などいいのではありませんか。

 物事には手順というものもありますから。

 あなた方の演技、楽しみにしていますよ。

 ※※

「まあ…あの悪魔のやることですから、意味不明でもおかしくは無いんでしょうが……」
「いや」
 招待状をまじまじと見つめていたミラは、確信のこもった声をあげる。
「これは間違い無く、意味はある」
 いつになく真剣な表情のミラに、職員達はごくりと息を呑み。
「一体、どんな……」
「それは全くわからない!」
 自信満々にそう言い切ったミラ。先程の落ち込みぶりはどこへやら、急に指示を飛ばし始める。
「旅人君の代わりにこの依頼は僕が取り仕切ろう! 皆、メンバーを募集してくれ!」
「わかりました!」
 本当に大丈夫かと一抹の不安がよぎったものの、スタッフ達は一斉に動き始める。
 ミラは声高に宣言した。

「この謎、解き明かしてみせよう!」


●鳥取県鳥取市

「なるほど、なるほど。噂に聞いたとおり、悪趣味な方ですねぇ」
 くつくつと笑みを漏らし、張り巡らされた結界を見つめる男。
 悪魔オフュークスは、その優美な瞳を細め愉快そうに言葉を紡ぐ。
「おや、悪趣味に関しては貴方も大差ないと思いますが」
「ええ、ええ。否定するつもりもございませんよ」
 それを聞いたクラウンは、色鮮やかな衣装を翻し。
「ですが貴方は、既に一つの答えを得てしまったようですね」
 視線の先にいるのは、黒髪の少女。白の悪魔に寄り添い、ただ静謐と。
 オフュークスは沈黙すると、少女をそっと抱き寄せながら。
「さて……何のことでしょうね」
「ふふ……まあいいでしょう。私は共に楽しめれば、それでいいのですから」
 無言でやり取りを聞いていたシルバが、独り言のように呟く。
「……巻き込まれる側は大変だな、人間よ」

 悪魔の遊戯の、幕が開ける。
 


リプレイ本文


 Hush a bye baby, on the tree top,

 When the wind blows the cradle will rock,

 When the bow breaks, the cradle will fall,

 And down will come baby, cradle and all.

●ねんねんころり木の上で

 鳥取県鳥取市。
 目前にそびえ立つ円柱状のテント。天井に据えられた三角型の屋根が、いかにもサーカスのそれらしい。
 イアン・J・アルビス(ja0084)が、赤と黒の縞模様で彩られた外観を見上げる。
「サーカス、ですか。戦いに遊びをとは彼らしいですが……悪趣味ですね」
 風紀委員に所属するほど、普段は生真面目な彼。道楽で事件を起こすこと自体、理解ができないでいる。
 不機嫌そうなイアンの隣では、やや辟易とした様子の法水 写楽(ja0581)が。
「おいおい、猛獣使いってェのは綺麗な姉ちゃんと猛獣でこそ映えるってモンだろが」
 それを聞いた小野友真(ja6901)も苦笑する。
「確かに俺たちがやっても華無いすもんね」
 それでもきっと、あの道化の悪魔は喜ぶのだろうけれど。
 時同じくして桜木 真里(ja5827)はじっと天幕を見つめていた。
「サーカスか…悪魔は主催者であり観客なのかな」
 先日始めて会ったあの悪魔。交わした言葉と表情を、彼は覚えているだろうか。
「きみは悪趣味な宴の主催なのか、それとも観客なのか」
「…え?」
 アデル・リーヴィス(jb2538)が発するのは、まるで独り言のような呟き。
「答えは幕の下りた後に」


 テント内は相も変わらず、派手な音楽と装飾に彩られている。不気味ですらある舞台の中央に、『猛獣』はいた。
 フレデリック・アルバート(jb7056)はややきょとんとした表情になる。
「これが猛獣…」
 中央を陣取るのは、巨大な四本の支柱に支えられたハンモック。真ん中ですやすやと気持ちよさそうに眠っている動物は――
 それを見たヴィルヘルミナ(jb2952)が不思議そうに。
「私の知る限り、猛獣使いと言えば虎か獅子が定番ではなかったかな?」
 あれはどう見てもパンダにしか見えない。本物よりも遥かに大きいが。
 真野 縁(ja3294)が支柱の上を指さし。
「あそこにいる熊さんも多分敵なんだねー!」
 四本の支柱の上には、テディベアのようなぬいぐるみが座っていた。赤、黄、緑、青の四色熊は、よくみると支柱に名前が掘ってある。

 赤はロック
 青はオール
 緑はフォール
 黄はトップ

 装飾にすら見える熊を見上げ、フレデリックはうなずく。
「劇団員になった覚えは無いが…まあ、愛らしい熊達相手なら悪くないかな」
 その外見に反して、放つ気配は禍々しい。ヴィルヘルミナもどこか愉しそうに。
「まぁ、折角の演目だ。存分に踊って見せようじゃないか」
 この酔狂な宴を、どうせなら楽しんで見せよう。
 
 演技開始の鐘が鳴る。

 四体の熊たちがゆっくりとこちらを向いた。

●開幕

「さあ、悪魔のみなみなさま!」
 縁がだん、と足場を踏みならす。その姿はまるで開演を司る座長のようでさえあって。
「ここにて眠るは、世にも珍しいディアボロ猫熊!」
 ひらりとその身を翻し。
「悪い子誰?悪い子猫熊・熊さん!眠ってばかりじゃつまらないんだね!猛獣使いが躾するんだよー!」

 開幕直後、最初に動いたのは真里。目指す狙いは左手前の支柱にいる、赤のロック。
「俺と魔法勝負してね」
 スキル最大射程の位置から放つ電撃は、見事熊の胴体に直撃し。
「ちょっと大人しくしてもらおうかな」
 スタンにより動きを封じ込めることに成功する。
「ナイス真里さん! その間に俺らはトップをやってしまうで!」
 言うが早いか、友真は右奥にいる黄熊目がけて高命中の一撃を放つ。
「猛獣使いて言うたら鞭って言うのが定番やけどな…今回は俺の愛銃で我慢して貰おか!」
 撃たれた黄熊は微かに身を震わせたと同時、右前にいる青のオールがくるりと身体を一回転させる。
 放たれるのは、光陰の弾丸。
「……見た目に反して結構やりますね」
 受け止めたイアンはそれでも、大して動揺した素振りもなく。
「まあ、オールは最後に倒す相手ですからね。彼の攻撃は全て受け止めてみせますよ」
 タウントを発動させながら、言い切る。
 そう、青はまだ倒してはいけない。物事には、順番というものがあるから。

 撃退士達の作戦は驚くほどの手際で展開されていった。
 右奥へと移動を済ませた写楽が、トップに向けて強烈な一閃を放つ。
「おっとォ、逃がさねえぜィ?」
 トップにばかり攻撃を集中させているのには、もちろん理由が有る。刃を振り抜いた写楽はにやりと笑み。
「子守歌の一節になぞらえるたァ、悪魔も凝った真似するぜ」
 フレデリックが音もなく跳躍する。狙うは左奥にいる緑のフォール。
 歌を口ずさみながら、青銀の剣で一気に薙ぎ払う。
「Hush a bye baby, on the tree top…熊の名前は韻と同じ」
 流れる順番は、top、rock、fall、all。アデルがゆるりと笑み。
「そう、大切なのは手順」

 熊を倒す順番を、間違えてはいけない
 それは演技の失敗を意味するから

 緑が黄を回復させ、黄は赤の防御力を上げる。赤は真里に動きを封じられたままだ。
 その頃、縁とヴィルヘルミナは離れた場所から観察をしていた。
「うに! パンダさんは起きる気配ないんだよ!」
 射程ぎりぎりからトップへ攻撃を加えながら、縁が言う。
「……ふむ。トップを倒すにはまだ少しかかりそうだ」
 翼で飛翔中のヴィルヘルミナは、目に入る全ての情報をつぶさに全員に向けて報告している。
「目に見える範囲に人質はいない…が、油断はできない。皆、攻撃範囲には気を付けてくれ」
 玩熊を倒すまでは猫熊に攻撃は一切加えない。
 そこで二人の目に猫熊の身体が淡く発光するのが映る。
「パンダさんの身体が光ったんだね!」
 直後、漂ってきたのは甘い香り。同時にどさりと何かが倒れる音がする。
「まずい、睡眠やで!」
 前衛に立っていた写楽が睡眠に襲われる。眠りに落ちた彼を、友真とアデルが抱え攻撃範囲外へと連れ出し。
「急いで熊たちを倒してしまおう!」
 真里がもう一度ロックにスタンエッジを撃ち込む。先に倒してしまわぬよう、細心の注意を払って。
「赤の負傷度中、黄に攻撃を集中させたまえ。私も一時的にそちらへと向かう!」
 ヴィルヘルミナが霊符から魔法攻撃を繰り出す。長距離射程が幸いし攻撃はぎりぎりトップへと届く。そこを友真の精密狙撃が襲う。
「ええ加減沈んでもらおか!」
 クリティカルな一撃に、トップの身体が崩れ落ちる。次の瞬間、オールが再び弾丸をばらまく。
「あなたの相手は僕です」
 全弾を受けきりながらイアンが笑む。下がるつもりは毛頭無い、と言わんばかりに。
「持久戦は得意分野です。いつまでも耐えて見せましょう」
 
 撃退士達の動きは見事だった。
 初手で赤のロックを抑えたのが大きかった。唯一範囲攻撃を持つロックが抑えられたことで、被害の状況が格段に変わったと言っていい。
 ヴィルヘルミナの指示の元、攻撃が届く者から次々にロックへ攻撃をしかける。その間にフレデリックがフォールを麻痺させる事に成功し、状況は更に有利になる。
 ようやくロックが攻撃を始めた頃には、時既に遅し。
 放たれた攻撃を障壁で難なく受けながら、真里が静かに呟く。
「さよなら…不運だったね」
 生み出すのは激しい風の渦。巻き込まれたロックの体躯が、みるみるうちに崩れ去る。

 これで残りは二体。

 次のターゲットは緑のフォール。ここで睡眠から目覚めた写楽が、顔をしかめながら立ち上がる。
 アデルが応急手当を施しながら眉をひそめ。
「あァ…この傷は恐らく敵さんの能力だなァ」
 どうやら一度眠ってしまえば、どこにいても遊眠を受けてしまうらしい。
 それならば。
「俺が相手になるってことだろが!」
 写楽は迷い無く、緑熊に向かって突撃する。避けられないならむしろ囮で。そう判断しての行動だ。
 即座に間合いを詰め、渾身の力で大太刀を振り抜く。対する緑熊は回復を試みるが、とても追いつかない。
「緑、だいぶ弱っている。もう少しだ」
 ここで再び猫熊の誘眠が発動。射程圏内にいるのは写楽とイアン二人のみ。
「させへん!」
 ここは友真の回避射撃が見事決まる。攻撃を避けきった写楽は再びフォールへと一閃を撃ち込む。そして後方からフレデリックの魔法攻撃が放たれ。
 霊符を手にした彼は、落ちゆくフォールをただ見つめる。
「御休み、baby…好い夢を」
 崩れる敵影に、深い蒼の瞳が微かに細められた。

 残り、一体。

「ふー…これでようやく、思う存分攻撃できます」
 長槍を手にしたイアンが、青のオールを即座に穿つ。
「ありがとう。よく耐えてくれたね」
 真里が礼を言いながら援護する。イアンは何でも無いという様子で。
「これが僕の仕事ですから」
 けれどオールの攻撃をたった一人で受けていたのだ。彼の身体の傷はかなりのもので。
「さあ、後はオール君だけなんだね!」
 全員の集中攻撃がオールへと注がれる。元々耐久力が低めだった青熊は、その猛攻に耐えられるわけもなく。
「これで…最後だぜィ!」
 写楽が放った一撃に、オールの身は崩れ去った。

 その直後。

 ずん、と言う地響きと同時、四本の支柱がぐらぐらと崩れ出す。
「ハンモックが落ちるんだよ!」
 縁の叫びと共に。
 ゆりかごは眠る猫熊ごと地面へと墜ちた。

●みんな揃って落ちるのよ

 落ちた猫熊は、しばらく動きが無いように見えた――瞬間。

 ガバァ!
 
 起き上がった猫熊に、一同は息を呑む。
「なんか…めっちゃ機嫌悪そうやんな?」
 友真の言葉にイアンが首を傾げながら。
「何故なんでしょう…」
 そこで「あ」と真里が声を上げる。
「顔の模様…なんだけど」
 そこで写楽もなるほどと言う顔になる。
「ああ…そういうことかぃ」
 全員が納得する。
 本来『ハの字』であるはずの目の隈取り模様が――

 逆ハの字になっていたから。

「全然かわいくないいいいい」
 友真思わず叫ぶ。やたら凶悪顔の猫熊は、起こされたことに憤慨しているのかよく分からない雄叫びをあげながら襲ってくる。
「まあ…ある意味猛獣らしいかな」
 冷静なフレデリックが攻撃を避けながら、早速猫熊へと攻撃を撃ち込む。
 そこを縁が放つ聖なる鎖が絡め取り。
「うに! 動きを抑えたんだよ。今のうちなんだよ!」
「ま、まあとにかくショーも大詰めやな。よう躾たらんと!」
 友真も凶悪顔のパンダに向かってスターショットを撃ち込む。他のメンバーも次々に攻撃を開始。
 対する猫熊も麻痺が解けたと同時、凄まじい勢いで突進をしてくる。
 受け止めたイアンの身体を衝撃が襲う。
「かなりの威力…ですが、これくらいではやられませんよ!」

 その頃、上空から見守っていたアデルは不思議なものを見つけていた。
「あれは…?」
 猫熊が落ちた場所に、籠のようなものが見える。結構な大きさで遠目に見ても子供ひとり入っていてもおかしくない。今まで気付かなかったのは、それよりも遥かに大きな猫熊が抱え込んで眠っていたせいだろう。
 ――もしかして。
「アデル、あれを運びだそう」
 同じく籠の存在に気付いたヴィルヘルミナが、声をかける。二人は上空から籠を移動させた。
「……開かないな」
 籠にはしっかりと鍵がかけられていて中がよく見えない。ヴィルヘルミナは仕方なく。
「どうやら今これを開けることは難しそうだ。すまないがアデル、ここは君に任せよう」

 一方の猫熊班は順調に戦闘を進めていた。
「後はお前だけなんでなァ。遠慮無くぶった斬らせてもらうぜィ!」
 間合いに入った写楽が大太刀をふるい、そこを真里の魔法攻撃が襲う。
「悪いけど手加減はしないよ」
 対する猫熊も強烈な体当たりや睡眠を仕掛けてくるが、何より動きを抑えに抑えたのが大きかった。
 結果的に大した被害にはならず。
「案外、あっさりと終わりましたね」
 イアンの放つ一撃が、猫熊の巨大な体躯を沈めさせた。
 
●第二幕終了

「おや、随分あっさりと躾けられたものですね」
 悪魔マッド・ザ・クラウンはほんの少し驚いたように、それでもどこか嬉しそうに撃退士たちの前に姿を現した。
「やぁ、ご満足いただけたかね道化師殿。今回の趣向は歌なのかね?」
 ヴィルヘルミナの言葉に、クラウンはうなずいてみせ。
「ふふ…たまにはこう言う趣向もよいかと思いましてね」
「ああ、歌はいい。物語を、想いを、世界に伝える」
 そして歌い継がれるものには、血が宿るのだから。アデルがくすりと笑む。
「きみが観客だとして、幾ら支払う価値が在ったかな」
 クラウンは何も言わず、長い袖の中から何かを投げる。受け取ったフレデリックは。
「これは…鍵、だな」
 視線の先にはアデルの側にある大きな籠。開いた中身を見て、一同は言葉を飲む。
「では、お返ししましたよ」
 くすくすと笑う道化の悪魔に、写楽はやれやれと言った様子で。
「なるほど、これが『捕らわれていた者』ねェ」
 イアンはため息を吐きながら。
「…全く。一本取られましたね」
 確かに一言も人間だとは言って無かった。真里も思わず苦笑し。
「まあ、それでも救えたのだから何よりだね」
 籠の中では、小さな子パンダ二匹が毛布にくるまり寝息を立てている。

「まさに『猫熊眠眠』だった訳だ」

「そんじゃ人質ならずパンダ質も返してもらったことやし」
 ここで友真と縁がここで切り出す。
「ミスター、俺たちからとっておきのエンディングをどうぞ」
「いくよー! Let's Singing『Humpty-Dumpty』!」
 友真と共に縁が軽やかに舞いながら、歌い上げる。
「笛吹き男、Jの行進。歌おうよミスタ!お邪魔な間も終わりも立ち去ってもらってね!」
 歌いながら縁が手にした紙飛行機を悪魔に向けて飛ばす。キャッチしたクラウンに、縁と友真は愉しげに笑い。
「これはヒントなんだよー! とけたらお友達になって欲しいんだね!」
「お代は答えを希望な」
 開いた紙には、パンダが塀を落ちる絵と以下の文章。

 J(2.13.5)(19.14.55.5)&(13.41.41)

 それを見つめた道化の悪魔は。
 微かに瞳を細めると、ゆっくりと口を開く。

「Yes,I wait for who I XXXX forever」

「え? 今なんて…」
 流れる音楽のせいで、一部が聞き取れない。それでも縁はにっこりとうなずきながら。
「うに、ずっと待っててくれるんだね!」
 観ていたフレデリックが、口を開く。
「楽しかった。こんな生活も悪くないかな」
 初めての依頼は、なかなか刺激的だった。真里も笑んで。
「じゃあまたね、クラウン」
 イアンと写楽が苦笑しながら見守る中、ヴィルヘルミナが最後に告げる。
「では我らの探し物が見つかる事を祈って。またの再戦を期待する」
 道化は微笑むだけで、もう何も応えなかった。

 ※※

「――で、あれは何と応えたのです?」
 白の悪魔の問いに、道化は愉快そうに告げる。聞いた黒の悪魔は呆れ顔で。
「……お前ら本当に物好きだな」
 
 投げられた言葉は Just wait&see!

 全てを彼らが知るには、まだもう少し。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 真ごころを君に・桜木 真里(ja5827)
 真愛しきすべてをこの手に・小野友真(ja6901)
 “慧知冷然”・ヴィルヘルミナ(jb2952)
重体: −
面白かった!:11人

守護司る魂の解放者・
イアン・J・アルビス(ja0084)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
撃退士・
法水 写楽(ja0581)

卒業 男 ナイトウォーカー
あなたの縁に歓びを・
真野 縁(ja3294)

卒業 女 アストラルヴァンガード
真ごころを君に・
桜木 真里(ja5827)

卒業 男 ダアト
真愛しきすべてをこの手に・
小野友真(ja6901)

卒業 男 インフィルトレイター
“慧知冷然”・
ヴィルヘルミナ(jb2952)

大学部6年54組 女 陰陽師
貴き決断、尊き意志・
フレデリック・アルバート(jb7056)

大学部6年12組 男 アカシックレコーダー:タイプB