現れたカンガルーっぽい何かを見て、ミラ・バーレヌは愕然となっていた。
「天魔が現れるだなんて…みんなすまない!」
今にも引きこもりそうな勢い。皆を危険な目に遭わせるのがショックだったらしい。
だがしかし。
参加した25人は全員、思っていた。
――普通に予測してました、教授。
●そんなわけで、早速退治
「教授、大丈夫ですか?」
余裕のフル装備でやってきていた叶 結城(
jb3115)が、おろおろするミラへ穏やかに声をかけた。
「だだだいじょうぶだ問題ない!」
何が問題無いのか甚だ謎だが、結城はその優美な瞳を細め。
「では私たちは、一般人の救助と敵殲滅に向かいます」
こうなることを予測していたメンバー、北部と南部に班分けし一斉に街中へと散っていく。
「さあ、私たちも避難誘導しに行きましょ!」
エリン・フォーゲル(
jb3038)が背中の翼を広げ、元気よく飛翔する。彼女の柔らかな髪が風を受けて弾み。
向かう先は集落の北。拡声器とハンドフリーマイクを手に、準備は完璧だ。
「カンガルーか…袋にそれほど入るとは思えないな」
どう見ても冷凍マグロのようなマグロでない何かを手にした霧島イザヤ(
jb5262)も、翼を広げ。
索敵及び避難誘導のため、北方へと飛行移動はじめる。首元のロザリオが、微かに陽光を反射した。
そんな天使二人を見て、リーリア・ニキフォロヴァ(
jb0747)も拡声器を手に宣言。
「私も続きます!」
羽根を広げたミラと共にリーリアも飛翔!…しようとしたが飛べなかった。
「ど、どうしたんだい、リーリア君?」
「すみません、私飛べませんでした…!」
よく考えたら自分人間だったてへぺろ☆
と言うことで走って移動。何というお茶目うっかり。
みらはなかまをみるまなざしになった!
●北部
「カンガルー超可愛いんだよΣでも、弟の方が何倍も可愛いんだよ!」
北部へと一般人誘導にやってきたルルディ(
jb4008)が、拡声器を通して住民へと呼びかけていた。
「ボク達は久遠ヶ原の撃退士なんだよ。屋外にいる人は速やかに避難してくださいなんだよ!」
オレンジの色の光纏、まるで血のような深紅の翼をはためかせる姿に住民は一瞬ぎょっとな。 直後、彼の周りで花弁が舞い。
「驚かせたならごめんなんだよ。この子はフィロ君って言うんだよ」
召喚したヒリュウだった。普通よりも一回り大きいフィロは、呼び出したときに花のようなオーラが煌めく。
怖がらせないよう、穏やかに笑んで見せ。
「大丈夫、みんなのことはボクが護るんだよ。信じてほしいなんだよ」
ヒリュウと共に颯爽と飛行し、皆を誘導。
「さあ、こっちなんだよ!」
そんなルルディの行動が住民の心を動かした。彼らは指示に従い、次々に避難を始める。
一般人の避難誘導はあまり慣れていないけれど。
(きっとやれるなんだよ…)
右手中指にある銀の指輪を、無意識に見つめる。
フィロがきゅい、と一声鳴いた。
同じく五十嵐晶(
jb6612)と指宿 瑠璃(
jb5401)も、住民に呼びかけていた。
「みんなー! ボクたちに付いてきて!」
ヒリュウを召喚した晶が、拡声器を手に声を上げる。伸ばした襟足の三つ編みが、動きと共に弾み。
「サーバントがキュウリ好き…って本当でしょうか…」
半信半疑つつ、キュウリのアクセサリーをつけた瑠璃も住宅地を巡回。長い黒髪が、風と共に後ろに流れる。
彼女は万が一敵が現れれば、自分を囮にするつもりだ。
晶が住民が不安にならないよう、元気よく話しかける。
「心配いらないよ、サーバントはボクたちの仲間が倒してくれるから!」
周囲に気を配りながら誘導。高齢者が多いこともあり、熱中症にならないよう気を付けなければならない。
「ボクはまだ人のことはよくわからないけど…」
やれることをやりたいと思う。晶はその小さな身体を精一杯動かし、動き回る。
同じく瑠璃が周囲を見渡して。
「とりあえず…皆さんはここで集まって待機してもらえますか。私が先に行って…様子を見てきます」
幸いまだこの近辺にはカンガルーが来ていていないようで。
彼女は、警戒しながらも呟く。
「きっと殲滅班が足止めしてくれているんでしょうね…」
この広範囲の中にどれだけの敵がいるのかすらわかっていない。
皆、無事だろうか。
顔には出さないものの、ほんの少しの心配の心配が胸をよぎる。
けれど。
(皆を信じましょう。これが今私にできることだから…)
瑠璃はその大きな瞳で前を見つめ、口元を引き結んだ。
●明らかに雰囲気の違う南部
「カンガルーでもなんでもかまわない。仕事をこなすだけだ」
やや怠そうな雰囲気を持つ杜屋 葫々杏(
jb7051)が、箱買いしたキュウリを皆に差し出す。
「買ってきたキュウリだ。君たちで活用してくれ」
おお、すげえ量のキュウリ。
「地元の産直市で買ってきた。新鮮だ」
まさに完璧な事前準備。なぜなら今回の依頼、このキュウリこそが全ての鍵を握っていると言っても過言では無い。
「余っても問題無いぞ? 私が処理するからな」
彼は料理が得意であるため、食べ物は無駄にしない。加えて、密かに動物好きだったりもする。
何だか凄く…レベル高いです!(誰
そんなわけで全員キュウリを手に各地へと移動。葫々杏もヒリュウを召喚し。
「カーディナル、来い。索敵するぞ?」
視覚共有で敵及び逃げ遅れが無いか捜索を開始する。
同じく南誘導班であるシルヴィア・マリエス(
jb3164)は、翼を使い飛行。拡声器を手に周囲へと呼びかけていた。
「久遠ヶ原学園が助けに来ましたよーっ」
金色の瞳と髪。白い肌はビスクドールのような透明感がある。
サーバントの存在に気付いていなかった住民は、呼びかけに何事かと外に出てくる。彼らに向かってはつらつと。
「カンガルーが皆さんをさらおうとしてますよー! 捕まりたくなかったら私に付いてきて下さい!」
何だかやたらとイキ↑イキ↑とした雰囲気。シルヴィアの天真爛漫さが、住民達の不安を取り除き。
その直後、葫々杏の「敵を発見した。西、鉄塔付近」と言う声が聞こえてくる。見れば西以外にも飛び跳ねる大きな影がちらほらと見え。
シルヴィアはきりっと後方へ伝達。
「南東、灰色の鉄筋二階建て近くにカンガルー発見! 殲滅をお願いします!」
※※
その頃、各地に散った南の敵殲滅班はサーバントと遭遇しはじめていた。
「古典的な策だが…」
拡声器…ではなくキュウリを手にした赤糸 冴子(
jb3809)が、道路にぽつんぽつんと設置をしていた。
「サーバントの好物というのなら、これで狭い路地へと誘導できるだろう」
正直なところ古典的過ぎて自分でもどうかと思ったのだが、カンガルーあっさりこの策にひっかかる。
びよんびよんと飛んでくる影。袋には、一般人の姿も見え。
「何というちょろさ…いやいや、何か罠があるかもしれん」
周囲を注意深く、警戒。だが特に何も無い。
ショットガンを手にした冴子、キュウリに夢中でまるで気付く様子の無い敵の頭部を狙い。
とりあえず、発砲。
\ギャー/
そのまま絶命。
「えっ」
ちょろすぎて思わず変な声出たが、弱いものは弱かった。仕方が無いので袋の中に呼びかける。
「君、もう大丈夫だ出てきたまえ」
「嫌だ俺は外出たくない」
「何? なぜだ」
「暑いから」
「この毛皮の中こそ暑いではないか!」
そう言って手を入れてみたら……あれ、なんかちょう快適。
「くっ…おのれブルジョワ天使どもめ、このような罠を張っていたとはな…!」
ぎりぃ…っと友人に連絡をする。
「日比谷君、住民だ。避難誘導を要請する。…氷水でも持ってくるといい」
「わかりましたわ、冴子ねーさん。住民の保護は任せてくださいですの!」
冴子から報告を受けた日比谷ひだまり(
jb5892)は、そう返事をしたものの。
「袋から出てこないなんて、まるで暑い日の叔父様みたいですわ…」
いっつもボサボサ頭で面倒くさがり屋の叔父を思い出す。
どう考えても叔父があの袋に入ったら出てこない気がする。冗談抜きでこの依頼に参加して無くて良かったと胸をなで下ろし。
隣できょろきょろしているミラに声をかける。
「ミラ先生、あっちに住民がいるみてーですの!」
南の誘導係は一番人数が少なかったため、一応ミラが参加していた。この変な教授は彼女の母と同じ天使と言うこともあり、何となく親近感をおぼえていて。
「おお、そうか日比谷君! では早速向か」
教授、飛び立とうとしてその場で転倒。慌ててひだまりは駆け寄り。
「先生大丈夫ですわ、ひだまりが付いていますの!」
「す…すまない! 助かった!」
もうどっちが保護者かわからない。
とにかく二人は頑張って移動。冴子の報告通り、ヒリュウの視覚共有で住民を見つける。
「助けにきましたわ! もう大丈夫ですの!」
だがしかし、やっぱり出てこない。ミラが試しに袋へ入ってみようとしたが全力で阻止。
「いい加減にしやがるのですわ!」
少々イラっとしたひだまりが無理矢理引きずり出し、事なきを得たのであった。
「カンガルーは好きだけど、サーなんとかってアレなら仕方ないな!」
高●純次もびっくりの適当発言をするのは、高橋 野々鳥(
jb5742)。
うちわと凍らせた水入りペットボトルを持参。もちろん一般人を熱中症から救うためであって、自分のおでこにくっつけるためとかいやそんなまさか暑くて死にそうです。
そんな彼と行動しているのが、同じく南殲滅班の九重 平太(
jb6775)。
常に身につけているヘッドフォンを抑えながら。
「袋の中は涼しくて快適だなんて羨ま…いや、音楽プレーヤーが充電出来なくなるのは嫌だ」
極度の面倒くさがり屋だが、音楽を聴くことだけは譲れない。左側についた寝ぐせがやたら眩しい。
「暑いなー空を飛んでカンガルーでも探すかー」
「俺キュウリは一夜漬けが美味いと思うんだよね」
まるで会話が噛み合っていないが、問題無い。らしい。
ここで空を飛ぶが面倒になった平太、キュウリを使用。
「カンガルーこれで来るかなー」
普通に奴らはやってきた。
あまりの暑さに全裸になろうとしていた野々鳥が、残念そうに中止。
「よし、俺はパンチ食らったらマジでヤバイ感じなので、中距離から攻撃をする!」
「わかった−」
やってきたカンガルー、平太が手にしたキュウリを見ると目の色を変える。
「キエエエエエ」
キュウリのために高速で繰り出されたパンチが、平太の肩を直撃。危うく音楽プレーヤーに当たりそうになり―
「おいお前!」
先程の怠そうな様子はどこへやら。平太はカンガルーに指を突き立て宣言!
「プレーヤーを壊したら泣くことになるからな! 俺が!!」
「君が泣くのか! これは予想外!」
野々鳥絶賛。わけがわからない。
「許さねえぞ!」
「ギャー」
平太の空中かかと落としが直撃。
「中の人はお任せ−!」
出てこようとしない住民に、野々鳥はペットボトルの水をぶっかける。
「ほら、頭を冷やせー!」
もの凄く適当な感じもするが、無事救出成功。
結果良ければ全て良しである。
●進撃の北部
時同じくして北殲滅班も、サーバント遭遇を始めていた。
「カンガルーかぁ…やっぱボクシングするんかな?」
桃香 椿(
jb6036)が周囲を警戒しながら駆ける。
流れるような金髪のポニーテール。身につけた和服から見え隠れする豊満なバストや白い太ももが眩しい。
彼女は索敵が及びづらそうな地域を狙い移動。
「一匹でも逃すのはあかん」
身体を覆う桃色の発光が、まるで匂い立つように淡く昇る。
その色香に誘われたのだろうか。一匹の椿の側を通り過ぎた時――
大きな影が、姿を現した。
「敵、発見! 一気にやったる!」
狙いは上部。
太刀を構えた椿は、目前に立つサーバントに向けて舞うように刃を振り抜く。
「ギャー」
大ダメージを負ったカンガルー、慌てて逃げようと跳躍。
「逃がさんよ!」
すかさず放つ雷の剣が突き刺さる。行動不能になったところを、とどめの一閃。
椿は絶命したカンガルーの袋に近寄ると、呼びかける。
「もう大丈夫やけん、出てき」
しかし中に人間は一向に出てこようとしない。「嫌だ俺はここが好き」などとぶつぶつ言っているのに呆れた彼女。
「ほーか」と手にした何かを袋に放り込む!
\GYAAAA/
激しい破裂音と共に、男が飛び出してくる。投げ入れたのは爆竹。
「出られて良かったやろ?」
微笑む椿、なかなかなに容赦なかった。
「…なんでカンガルー、ですか?」
サーバントのもひもひ顔を見ながら、小杏(
jb6789)は首を傾げていた。
光纏により黒に変化した髪と、同じく銀色に変化した瞳。
その腕にはパンダのぬいぐるみが抱かれている。彼女にとって大事な「アンズ」。抱いていると心が落ち着くのだ。
小杏は二足で立つ敵の姿をじっと見つめ。
「…うん、カンガルー、ですね」
もっひもっひ。
「袋に人は…いないみたい、です」
もっひもっひ。
「…キュウリを使ってみます、です」
「キエエエエ」
キュウリを見た瞬間目の色を変え、襲いかかってくる。彼女はひらりと攻撃をかわし、その足下にサンダーブレードを撃ち込み。
「ギャー」
「逃がさない、です」
稲妻の刃が大きな脚を直撃。そこを横合いから、大太刀の一閃が仕留める。
振るったのは、久原 梓(
jb6465)。
「引きつけありがとっ」
空の色を映したかのように蒼い髪。緑の瞳を細め、梓は陽差しのような笑顔を浮かべる。
「い、いえ」
急に恥ずかしくなってアンズに顔をうずめた小杏に、晶は言う。
「じゃあ今度は私が引きつけるわね。任せて!」
言うが早いか、光の翼で飛翔。しかし晶はそこで視線に気付く。
「うん…? あれは…」
電信柱の影から男がこっちを見ている。背中の羽根を見る限り、どう見ても天使だ。
「でも学園生では無さそうよね…」
つまりはあれは敵ではないのか。
ストレートに物を言う彼女。隠れているつもりの男に向かって、あっさりと。
「そこで何してるの? 気味が悪いわよ」
「な、なんだと! この私をキモチワルイだとっ…」
「隠れてこそこそ見てくるからでしょ!」
「ひどい、私はひどく傷ついたっ!!」
泣きながら飛び去る姿を見送る。小杏が駆け寄ってきて。
「あれは…敵、ですか?」
何というか、とりあえず……二人は見なかったことにした。
その頃、市街地の一角には謎のキュウリタワーが出来上がっていた。
「ふふ、ヒカちゃん。これでカンガルー来るかしら?」
満足そうにタワーを見つめるのは、同じ顔をした二人の女性。双子の姉妹である長良 香鈴(
jb6873)と長良 陽鈴(
jb6874)だ。
マロンブラウンに染めた髪色。青みがかった緑の瞳を輝かせた陽鈴が、姉に向かって言う。
「ええ、きっと来るに違いないわ、カオちゃん」
対する姉の香鈴はメルティチェリー色に染めた髪をなびかせ、緑がかった蒼の瞳をふわりと細める。
「早く終わらせて二人でお茶しましょ」
そこで早速現れたのは二体のカンガルー。やたらと器用に作られたタワーに視線が釘付けだ!
「キエエエエ」
「危ない、ヒカちゃん!」
咄嗟に妹を庇った香鈴が、カンガルーの脚がかすり負傷。
その時、サーバントは見た。
姉の傷を目撃した陽鈴の目に―鬼が宿るのを。
「カオちゃんを傷つけたのは誰…?」
目が据わった陽鈴、ゆらりとカンガルーの前に立つと一瞬で移動。
全力での薙ぎ払いを胴体に打ち込む!
「ギャー」
強烈な一閃を受けたカンガルーは一撃で撃沈。もう一体へ向けて今度は香鈴が大鎌を振り抜く。
「ヒカちゃんは誰にも傷つけさせないわ!」
彼女達は、互いが互いを溺愛しあう関係。相手が傷つくのは耐えられない。
故に、なりふり構わず戦う。愛する者の前から、脅威が去るまで。
戦闘終了後、袋から出てこない人間に対しては余裕の一喝。
「貴方がゴネたらその分時間が掛かるのよ、お判りかしら?」
「カンガルーの一部として二分割されるか好きな方を選んで頂戴?」
陽鈴と香鈴の容赦無い微笑み()に、中の人間は慌てて出てくる。冷却シートを額にぺたっと貼り付け。
二人して、涼やかに言うのだった。
「これで我慢なさいね?」
「こう暑いと外出たくねえってのも分かるけどよ…」
半ば呆れ顔でそう呟くのは、ケイ・フレイザー(
jb6707)。同じく北殲滅班の高谷氷月(
ja7917)も頷き。
「夏が暑いからいうてもあれやね……色々逃避するのはあかんと思うねん」
ケイはその金色の瞳を微かに細め。
「まあ、それならそれでこっちにも考えがあるからな」
にやりと笑んで双剣を構える。現れたカンガルーの足に向け、燃えさかる炎を纏いし一閃を振り抜き。
「ギャー」
「その間の抜けた叫び声何とかならへんの…」
氷月がどこか面倒くさそうな口調ながらも、きっちり頭部を狙いヘッドショット。
ローテンションであるためやる気が無さそうに見えるが、きっちりと役目はこなすのだ。
「とりあえず、纏めてやってしまおか」
キュウリに集まってきた数匹を二人は次々と殲滅していき。袋の中にいる人達の救出を始める。
「いやだ暑いから出たくない」
予想通りの発言に、氷月は微笑み。取り出したウィングクロスボウを突き付ける。
「ひ、ひい!」
「撃たれたくなかったら出てきぃ?」
「だだだって、この中本当に快適なんすよ!」
それでも抵抗しようとする姿に氷月は笑顔を崩さないまま。
「さっきから戦ってるうちらは、どんだけ暑いからわからへん?」
にこにこしているが、全然目は笑っていない。
あっ…これあかんやつや^p^と察した男は慌てて出てくる。
ちなみにその隣ではケイが謎のマイペースぶりを発していた。
「暑い日のかき氷ってのは最高だぜ!」
何処に隠し持っていたのか、家庭用かき氷器使用。氷結晶で作り出した氷を削り、これも何処に隠し持っていたのか容器とスプーンを取り出し盛りつけ。
シロップと練乳(これも何処に以下略)をかけて、いざ完☆成!
「エアコンの効いた室内では味わえない美味さだ!」
きめ細やかな氷が、まるで雪のように。
見ていた氷月もおお、と声を上げ。
「美味しそうやねえ。うちにもくれへん?」
炎天下でのかき氷は、まさに至高の味。
それに釣られ―いつの間にか袋から人間が出てきていた。
●カオス南部
一方南部では、サーバントに危ない(訂正線)熱い視線を送っている者がいた。
「カンガルーの尻尾肉ってお土産になるでしょうか」
声の主は神雷(
jb6374)
袴姿に切りそろえられた艶のある黒髪。一見お淑やか風だが、ぴょんぴょん跳ねるカンガルーにこっそり近づき――
「尻尾は頂きます!」
「ギャー」
躊躇無く振り抜いた大鎌で、長い尻尾を刈り取る。
バランスが取れず、ひっくり返る敵。
じたばたしている所へ、八神 翼(
jb6550)が稲妻のような刃を撃ち込む。
「ギャー」
彼女の長い黒髪が、動きにあわせ艶を放つ。切れ長の瞳をす、と細め。
「謎解き自体はあっさり解決か…だが、天魔の仕業となれば、やっかいね」
そして絶命したサーバントに、困惑の表情を浮かべる。
「…紙防御のナイトウォーカーなのに、接近戦とかどうなのって思ってたけど……」
割と余裕。と言うか余裕すぎてむしろ辛い。
「作成者の駄目ぶりが伝わってくるのが、また切ないわね…」
酷い傷ついたっ! と言う声がどこからか聞こえた。気のせいだと思いたい。
そんな翼の目には、まだびくびくと動いている尻尾に駆け寄る神雷の姿。
「新鮮ですね! では血止めをして持って帰…」
「駄目よ。それ以上は蔵倫グロ規制にひっかかるわ」
まがおで阻止。
「キュウリでもっとおびき寄せるわよ」
ここぞとばかりに大量のキュウリを投入。ほいほいと釣られるキュウリクラスタを、尻尾切断→頭部撃破の連携で次々と討っていく。
「さて、袋に入った人達は……」
案の定出てこねえ。神雷はにこにこと。
「ではこうしましょう」
カンガルーの身体ごと運び、容赦無く川に放り込む。
\ぽーい/
「ひいい溺れるうう」
慌てて出てきた所を翼が捕獲。びしょ濡れになった男に、微笑してみせた。
「どう? 涼しくなったでしょ」
「なんだろう、この全体的に漂うそこはかとない残念感は…」
索敵をしていた中村 巧(
jb6167)が生暖かく微笑んだ。
ミステリー好きとあって、ミラとの親近感もあった。うだるような暑さだが、頑張っていこうと言う志もあった。でも何かがおかしい。
だがしかし、そんな言葉など吹き飛ばすかのような存在が、南・殲滅班には存在していた。
「あ、あれは…!」
巧はゴクリと息を呑む。全身を覆う緑のビニールレザー。やたらと細長いそのシルエット。
これは……
もしかして…!
\私はキュウリ/
恥など棄てたアンネ・ベルセリウス(
ja8216)だった。
キュウリの着ぐるみで身体を覆い、顔まで緑に塗りつぶす徹底ぶり。着ぐるみには本物のキュウリまで貼り付けている。
「あたしはキュウリ。胡瓜と書いてキュウリ。あまり知られていないがウリ科の植物だよ」
「お、おう」
巧の目が点になっていようが、自己暗示も完璧。よく見たらちゃんと中に全身黒タイツまで装備してた。
\さぁばっちこい!/
ここで思い出して欲しいのだが、今回の敵は呆れるほどのキュウリクラスタ。
こんなまごう事なき完璧なキュウリを見逃すはずが無い。
「「「キエエエエエエ」」」」
「うわっもの凄い集まってきた!」
巧はすぐさま武器を構えると攻撃を放つ。振り抜いた一閃はカンガルーの頭部に直撃。
「ギャー」
クリティカルヒットで一体を沈めることに成功。しかしキュウリの効果半端ねえ。どんどん敵が集まってくる。
「これも計算の内! さあどんどんやるよ!」
アンネも着ぐるみ状態で大剣を振るう。割とだいぶ残念すぎる絵面だが、そこは気にしてはいけない!
「ギャー」
「キュウリだと思ったか? 残念だったな!」
必然的に狙われるアンネを庇いつつ、巧も刃を振るい続ける。
(囮役の彼女を守れなくて、どうするって言うんだ)
かつて守り切れなかった記憶。もうあんな思いをするのはたくさんだから。
キュウリを守る残念絵面だが、ここは敢えてスルーしよう。
シールドを展開しながら、強烈なキックを受け止める。それでも増えてくる敵を二人で凌いでいると、どこからか声が聞こえた。
「助太刀しますわ!」
振り下ろされる大剣が、サーバントの尻尾を落とす。
同時に残像のように輝く金髪が流れ――満月 美華(
jb6831)だった。
索敵している最中に、この群れを発見。すぐさま追い掛けてきたのである。
一見とても大きなお腹の彼女だが、動きは俊敏。キュウリに夢中なカンガルーたちに背後から斬りかかっていく!
「悪いね、助かったよ!」
声をかけたキュウ…じゃなかったアンネに向かって満月は微笑み。
「とりあえず一気に倒してしまいましょう」
「キエエエエエ」
キュウリだと思ったらキュウリじゃなかったひどい!
気付いたカンガルーが、跳躍で逃走開始!
「逃がしません!」
美華も対抗し全力跳躍。大きな身体をものともしない見事な跳躍を見せ、カンガルーに追いつく。
地面へたたき落としたところを、巧がすかさず攻撃。二人の連携も見事なものだ。
袋の中から出ないと暴れる人間に対しては、揃って気迫。
「つべこべ言わずに出てくるのですわ!」
アンネの回復効果もあり、三人は大した被害も無く殲滅と救出を終えた。
●終焉
再び戻って、北部。
「こんなろっ!」
「ギャー」
徘徊していたカンガルーをエリンが背後より襲撃。そこをイザヤの冷刀マグロが斬りつける!
「てめぇらみたいなのがいるから!人は天魔を憎むんだ!」
注意を引きつけ、見事撃破。
「よし、向かってくる敵は大体片付いたね!」
エリンとイザヤが戦っている間に一般人誘導を終えた結城が、辺りを見渡す。
「さて…これで避難は終わったでしょうか」
見た所周囲に人影は見えない。イザヤも家々の合間に視線を走らせ。
「うん…大丈夫だと思う」
「他の班も大体終わったみたい。みんな無事でよかった」
他班と連絡を取り終えたエリンの言葉に、三人は息をつく。
しかし妙な敵だった。キュウリへの食いつきが半端無かった。結城は困惑した表情で。
「何というか…餌付けに近かったな。どういうことだ…」
これを作った奴は、きっと不憫な奴に違いない。
彼がそう、確信した時だった。
背後から視線を感じ、三人は振り向く。
そこにはぐぬぬ顔をした七三分けの男が、電柱の影からこちらを見ていた。イザヤが首を傾げ。
「ええと…誰?」
「くっ…なんということだ…私の完璧な僕がこうもあっさりと…!」
どうやらあのサーバントを作った天使のようだった。エリンがにっこにこと。
「ごめんね、私たちが全部倒しちゃったよっ」
イザヤものんびりした口調で。
「何だかかわいそうだけど…任務だから」
「くそおおおそんな哀れむ目で私を見るなっ」
天使、泣きながら逃亡。結城が生暖かく微笑んだ。
「不憫ですね…」
※※
一方、南班。
「南西、青い屋根の家の前に敵発見!」
リーリアの呼びかけに、シルヴィアが即反応。
「見つけたからには即天誅ーッ!」
背後から後頭部狙ってぼっこぼこ☆ 満足そうにきらきらとした笑顔を浮かべ。
「ふ。戦闘に卑怯もくそもないのだっ」
誘導が済んだ南班も、残りの残党を探して殲滅に向かっていた。
「カーディナル、行け!」
葫々杏の呼びかけに、ヒリュウが反応。一瞬動きが止まったかに見えた後、カンガルーに向かって一気に突撃!
悲鳴と同時に、激しい衝突音鳴り響き。
そこをリーリアの小銃が狙い定め、アウルの弾丸を発射。
頭部を射貫かれたサーバントはその場で、絶命する。
「終わったか…?」
葫々杏の言葉にシルヴィアがうなずき。
「みたいだね! 思いっきり殴ってやったよ♪」
三人の連携攻撃により無事、殲滅終了。リーリアがほっと息をつきながら。
「…それにしても変な敵だったわね」
直後、彼女の目に避難誘導を終えたミラとひだまりが駆け寄ってくるのが見えた。
「みんな大丈夫か!」
汗びっしょりになったミラが、三人を一人一人確かめる。
「先生も無事だったか」
葫々杏はそう言ってみたものの、ミラの服は所々破けている。ひだまりがこっそり。
「これは自分で転んだのですわ…」
「そ、そうか…」
携帯を手にしたリーリアが報告する。
「他班も皆、無事のようです」
「そうか無事だったか、よかった…!」
へなへなとその場にへたり込むミラを見て、彼女は微笑む。
シルヴィアがにっこり元気よく、告げた。
「教授もお疲れ様でした!」
●夏日の暑は清流が雪ぐ
四万十川。
最後の清流と謳われしこの川は、多くの生命を抱きながら豊かに流れゆく。
「せっかくだから、皆で遊んで帰ろう!」
ミラの言葉に、皆はここぞとばかりに川遊び。炎天下での疲労も、冷たい清流に触れるだけでちょっと和らぐから不思議だ。
「わー気持ちいいー!」
「お魚見つけたっ!」
膝まで水につかってご機嫌なシルヴィアとエリン。その前方ではあまりの暑さについうっかり川に飛び込んだアンネの姿が。
「い、生き返った…」
「あの着ぐるみ着てたら仕方ないよね」
「ええ。皆熱中症にならなくてよかったですわ」
巧と美華が微笑む隣では、アカシックレコーダーの能力を最大限に生かしている者達の姿が。
「やっぱ、シゴトの後のかき氷は格別だな!」
「ほんまやねぇ。だいぶ涼しなったわ」
ケイと氷月がのんびりとかき氷を頬張る側に、小杏と梓が近付き。
「わ、私も食べてみたい、です」
「仲間にいれてくれるかしら?」
「お、いいぜ。みんなで食おう」
側に来た瑠璃にもお裾分け。
「ありがとうごさいます…ふふ、おいしいですね」
実は彼女、可愛い女の子に目が無い。ちっちゃくて可愛い小杏に釣られてきたことは内緒だ。
(かわいいっ…くっ…話しかけたいっ…)
微妙に鼻息荒いが大丈夫か。
とは言え、夏に食べるかき氷はやっぱり格別。
「私、屋形船に乗ってみたいです」
カンガルー尻尾のお土産を諦めた神雷が、屋根の付いた船を指さす。
「ああ、いいわね。涼しそうだし…行ってみましょ」
川面を眺めていた翼も、楽しそうにうなずいてみせ。
「そこでお酒飲めるんならあたいも参加する。冷酒楽しみやけん♪」
椿が浮き浮きと参加表明。
「あら、じゃあそこでお茶もできるかしら、ヒカちゃん」
「のんびりできそうね、行ってみましょうよ、カオちゃん」
香鈴と陽鈴も参加。五人は屋形船でひとときの、穏やかな時間を過ごす。
「俺は…鮎釣りでもしてみるか」
食材としても食べてみたい。葫々杏の言葉に、動物好きなルルディと色んな事に興味津々な晶が反応。
「ボクもやってみたいなんだよー!」
「初めてだけど挑戦してみたいな!」
それを聞いた野々鳥と平太も参加し。
「釣りとかぼーっと出来そうでいいよね!」
「音楽聞きながらでもできそうだもんなー」
マイペース二人組は相変わらずである。
「うちらは何をしようかしら?」
リーリアの問いにイザヤがそうだなーと首を傾げ。
「ここでのんびりするだけでもいいな」
結城も頷き。
「こんなに暑くても、川の側だと涼しいから不思議ですね」
水がたゆたう音が、心地よく耳に響く。
三人は輝く川面を見つめ、眩しそうに目を細めた。
「時に、日比谷君」
怪訝な表情の冴子に、ひだまりか返す。
「冴子ねーさん、どうしたんですの?」
「何か忘れている気がするのだが…まあいいか」
「あっミラ先生、ひだまり達と川下りするのですわ!」
「ああ、わかった! 落ちないようにしよう!」
ミラが華麗なるフラグを立て、三人は渓流下りへと向かう。
その後ろ姿を見送る一つの影。
「ぐぬぬ…皆私のことをスルーしおって…!」
みんな楽しそうで、あっ…なんか泣けてきた。
その日、ツインバベルに泣きながら帰る天使が目撃されたと言う。
かくて四万十の平和は、守られたのであった。