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マスター:久生夕貴
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
形態:
参加人数:8人
サポート:6人
リプレイ完成日時:2013/04/17


みんなの思い出



オープニング

※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。

 ここはどこかにある魔界。
 仄暗い夜が終日支配する、闇の世界。

「気に入りませんね」

 淡々とした口調で、彼は呟いた。
 見た目は人間で言う五歳児くらいだろうか。服装は一言で言うと道化師そのもの。
 顔には幾何学模様のペイント、腕の二倍近くある袖を引きずるように歩く。
 大きな三角帽子の下からのぞくのは、猫のような大きな瞳。
「何がであるか? くらうん」
 側で眠っていた仔牛ほどの大きさがある猫が、不思議そうな表情で訊く。
「おや、起こしてしまいましたか。れっくす」
 問われた少年は、淡く微笑みながら。再び視線を遠くに馳せると、瞳を細めて言う。
「あの『勇者』とか言う選ばれし者のことですよ」

 少年の名はくらうんと言った。見た目は子供だが、彼は魔界軍に属する立派な騎士である。
 ここ数年、魔界は度々危機に侵されていた。
 勇者率いる勇者軍の侵攻。その脅威にさらされ続けているからだ。
「我輩も勇者には何度も痛い目に遭わされているである。くらうんの気持ち、とてもわかるであるぞ!」
 むっふーと髭をそよがせながら、れっくすは憤慨した様子で続ける。
「先日も我輩、まんまと騙されたである! 『君の毛玉は実に気持ちよさそうだ』と言うから、我輩快くもふらせてあげようとしたである。それなのにいきなり襲われたのである!」
「ええ、その話は五十回ほど聞きましたね」
「全くひどいである! もう少しで毛皮をむしられるところだったである! 勇者は極悪非道である!」 
 ぷわわと涙を散らせるれっくすを、くらうんは頭をこりこりと掻いて慰めながら。
「そもそも彼らが私たちを襲う理由が『何となく悪そうだから』ですからね。まともな精神など、持ち合わせているはずがないのですよ」
「我輩、何としても奴に痛い目を見させたいである。そうでないと散っていった仲間達が浮かばれないであるよ……!」
 ぼろぼろと涙をこぼし続ける友を見て、くらうんはうなずきながら。
「ええ。私もそろそろ、あの者には一度痛い目を見させる必要があると思っていたところです」
「本当であるか! くらうん、我輩もやってやるであるよ!」
「ですが事はそう簡単ではありませんよ」
 そう言って彼は、珍しく険しい表情を浮かべる。
「勇者には常にその取り巻きが存在しているのは知っているでしょう。どれも強力な存在です。その上たちの悪いことに、あの者は非常に高い潜在能力を神によって与えられていますからね」
 勇者の性能は凄まじく、魔王ですら凌ぐと言われている。その勇者パーティに一介の騎士が殴り込みに行くというのは、普通に考えれば甚だ無謀。
「……勝機はあるであるか?」
 心配そうなれっくすに対し、問われたくらうんは愉快そうに微笑み。
 長い袖を一振りしてから、ゆっくりとうなずいてみせた。
「ええ。私たちにも同じ志を持つ同志がいますからね」
 それは、まるで賭け事に興じるかのように。
「彼らと共に、勇者に一矢報いるとしようじゃありませんか」 


リプレイ本文



 ここは、どこかの魔界。
 終日仄暗い夜が支配する闇の世界。
 
 魔界騎士くらうんは、その猫のような瞳を細め口を開く。
「皆、よく集まってくれました」
 彼の前に立つ八人の勇士。歴戦を戦い抜いてきた魔王軍きっての猛者たちである。

「さあ、勇者の待つ場に向けて旅立とうではありませんか」

 魔王軍決死の作戦が、ここに幕を開ける。


●集いし精鋭たち

 さて、ここでメンバーの紹介をしておこう。
 さすがは魔王軍、ちょっと予測はしていたとは言えまさかの人型ゼロ。
 そんなわけで、まずは比較的まとも(訂正線)かわいらしい姿の者から紹介していこうと思う。

「弱い者いじめは良くないにゃ。何とか止めたいですにゃん」
 鈴のような声でそう話すのは、鑑夜翠月(jb0681)。
 柔らかな黒の毛並みに、ぴんと立った耳。瞳は吸い込まれそうな翡翠色をしていて。
「ふふ……あなたを見ていると、れっくすの子供の頃を思い出しますよ」
 くらうんにそう言われた翠月は、にっこりと微笑む。
「れっくすさんには親しみを感じますにゃん」
 猫型の魔獣である彼、トコトコ歩く姿は仔猫そのもの。
 首元に結ばれた緑色のリボンもまた、愛らしい。

「私も強いからと好き放題に振る舞う輩は、嫌いです(きりっ」
 翠月の友人である久遠冴弥(jb0754)がきっぱりと言い切る。
 クラウンよりもまだ小さいその姿は、まるでぬいぐるみのよう。
 二頭身の身体に短い手足、全身を覆う茶色と白のふかふかの毛。大きく広がった耳と、くりくりの瞳が特徴的である。
 そんな冴弥は、やや不安そうに辺りを見渡している。
「とにかく、強力な魔物を探さなければなりませんね……」
 なぜなら彼女、他の魔物を呼び寄せて戦うタイプ。
 本人だけでは雑魚モンスター以下と言う、なかなかにおいしい(訂正線)危険な性能なのである。
  
 さあ、ここからはだんだん雲行きが怪しくなってくる。

「人間の骨は200本ぐらいある。まるで精密機械のようだろ?」
 そう言って自慢の骨を惜しげも無く披露しているのは、有田アリストテレス(ja0647)。
 真っ黒な眼窩から表情は読み取れない。なぜなら、彼の容姿は全身骨のスケルトンだから。
 纏う衣装は(本人指定)、ぼろぼろのマントのみ。
「服なんて飾りだ、偉い人にはそれがわからんのだ」
 あぶねえ、スケルトンでよかった。
 骨じゃなかったら大ごとになるところだった。
 マントがはためく度に、MOZAIKU荒ぶるところである。
 当然好物は牛乳と小魚。骨粗しょう症予防は、彼ら骨界におけるたしなみの一つである。

「シャラクセェー。何となくシャラクセェー」
 鼻息と共に、凄まじい威圧感を披露している者がいる。
 黒光りする体毛に、筋骨隆々の巨大な体躯。ミノタウロス姿のマキナ(ja7016)だ。
 どう見ても脳筋(訂正線)重戦車な彼、勇者たちの傍若無人ぶりに一層鼻息を荒くしている。
「大体何となくとはなんだ、何となくとは(ふんすー」
 手にした巨大戦斧をぶんぶん振り回す。その風圧たるや、それだけで周囲が吹き飛ぶ勢い。
「何となくで弱き者にまで刃を向けるなど、言語道断(ふんごー」
 大きく斧を振りかぶり、地響きのような声で宣言する。
「いいか、勇者ども。この俺が弱者は護るべきだと言うことを、思い知らせてやろう!」
 どすん、ぷちっ。
 多分今ので雑魚スラ●ム五匹は昇天したと思う。

 そんな中、悲壮めいた様子の者がいる。

「俺の家族はみな、あいつらに乱獲されちまったんだ……!」
 どう見ても顔は( ゜∀ ゜)こんな感じなのだが、声だけは悔しさを滲ませる小田切ルビィ(ja0841)だ。
「くっ……ちょっとはぐれてる間に、どうしてこうなっちまった……!」
 水銀をも思わせるアメーバっぽい見た目、メタルな肌は魔法攻撃を一切受け付けない強靱さ。そして足が無いにもかかわらず、どういうわけか逃げ足が凄まじく速い。
「無理をしてはいけませんよ。貴方の生命力は驚きの4しかないのですから」
「わかってるぜくらうんさんよ……でもこののままじゃ、終われねえな!」 
 強靱な身体も、逃げ足の速さも全ては異様に低い生命力を補うため。
 ルビィの一族は、元々極端に数が少なかった。
 その希少さと言うか主に経験値的な理由から乱獲され続け、彼はついに天涯孤独になってしまったのである。

 その時、燦然と際立つ声が響き渡った。

「れっくすの代わりは任せてもらおうか!(カッ」
 半獣半人ワーウルフ姿の加倉一臣(ja5823)が、皆の前で高らかに宣言していた。
 見た目は誇り高き狼、ふっさふさの尻尾が自慢である。
「れっくすは持病の腰痛でお留守番。つまり誰かが代わりにみすたーの足になるべきだ。そこで皆、考えてみてほしい」
 もっふもふの尻尾をアピールしながら、断言。
「この俺以外に、最適な存在がいるだろうか? 否だ! すなわち!! 俺が!! 最強の!!」
「では、行きましょうか」
「待ってみすたー!(ぶわっ」
 翼で飛び去るクラウンを見てはっと気付く。
「やだ…俺ってもしかして……用無し?」
 くらうんもしかしなくても自力で飛べた。がっくりと膝を付く誇り高き狼、耳と尻尾のしょんぼり感半端ねえ。
 しかし、神は彼を見捨てなかった。

「……確かに、自分で飛ぶのも疲れますね」
 そう言ってくらうんはふよふよと一臣に近寄り、そのまま肩へと腰かける。

「ミ´;ω;ミ み、みすたー…!」
「さあ、時間は限られています。のんびりしている時間はありませんよ」
「お、俺、精一杯頑張るね……!//」※彼は病気です。

 さて、諸君。
 もうだいぶ酷い状態なのだが、まだ二人も紹介が残っている。
 ここからは各自の想像力が物を言う世界だ。心してかかってほしい。

「お互いに生きて帰ろうぜ」
 ハードボイルドな響きが、魔界に響き渡った。サングラスの奥から放たれる、鋭い眼光。
 ニヒルな笑みがチャームポイント・ミハイル・エッカート(jb0544)だ。
「ふ……俺はフラg…秘密工作員。裏の仕事は任せろ」
 銃を手にすらりと立つ姿は、モンスターながらなかなかに人目を引く。
 纏う空気は、鷹の気高さ。
 鋭利なくちばし、流れるような鳶色の毛並み。猛禽類を思わせる、しなやかで優美なシルエット。
 そう、それはまさに……

 へ(▼∋▼)/

 こんな感じ。

「さあ、気にくわねえ勇者どもを狩りに行くぜ。へ(▼∋▼)┳ 」
 まあ見た目を記録係に任せるとこうなるわけだが、多分お互い後悔していないと信じている。

 同じく、外見を記録係に任せてしまった者がもう一人。

「呪われしこの身が……役立つ時が来たようね」
 七種 戒(ja1267)がアンニュイな雰囲気を漂わせ、地に降り立つ。
 背中に生えた大きな翼、龍のごとき鱗に覆われた姿に、周囲がざわつき始める。
「あ、あれは……!」
 その姿を見たくらうんも、やや驚いたように。
「おやおや……まさか貴女まで来るとは思いませんでしたよ」

 どどめ色の後光、アフロめいた怒髪。
 その神々しき姿を、無慈悲に周囲へと見せつける。
 そう、彼女は神と呼ばれし存在。魔界に住む者で、その名を知らぬ者はいない。

「あれは……!」「伝説の……!」

 _人人 人人人人人人人_
 > 同人作家戒先生!! <
  ̄ Y Y Y Y Y Y Y Y Y  ̄

「すげえ……以前会ったときより、無慈悲にパワーアップしてるぜ」
「ええオミー。私が無慈悲に参じた以上、この戦いはもらったも同然」
 勇者軍による爆発で、頭髪があれなことになって数年。
 引きこもっている間に読んだうすい本、数千冊。この髪型にももう慣れた。
 進化を遂げた(色々捨て去った)彼女に、もはや敵など存在しない。

 まさに精鋭揃いし魔王軍。
 くらうんは彼らを引き連れ、意気揚々と王都を発ったのだった。




 勇者の滞在する街までは丸一日かかる。
 いかに魔王軍とは言え、そう旅路はぬるくない。彼らの行く手には数多くの敵が待ち受けていた。

 ボールをもったこどもたちがあらわれた!

 現れたのは、どう見ても小学生くらいの少年少女。どの子もカプセルボールを手にしている。
「皆、気を付けるのですよ」
 即座に戦闘態勢に入ったくらうんが、少年の持ったボールを指さす。
「あのボールに捕まったら終わりです。くれぐれも当たらないように」
 そこでルビィがはっとした表情になる。
「もしかしたらあの中に、生き別れの妹が捕らわれているかも……!?」
 だとしたら何としても、球を奪わなければならない。彼は目の色を変えて宣言する。
「やってやるぜ、トレーナーだかマスターだか知らねぇが、妹を返しやがれ!」
「いけ!でんきねずみ!」
 少年、ボールを投げてモンスターを召喚。
 派手なBGMと共にバトルスタート!

 だかだかだかっ
 ルビィはにげだした!
 翠月のでんこうせっか!
 でんきねずみに5のダメージ!
 でんきねずみの13まんボルト!
 マキナに10のダメージ!
 アリストテレスのたいあたり!
 でんきねずみに7のダメージ! 

 ついいつのも癖でルビィが逃げ出してしまった間に、激しい攻防は続く。

 冴弥はなかまをしょうかんした!
 しかしだれもこなかった!
 一臣はさくてきをがんばった!
 みすたーにおこられた!
 一臣のせいしんに10のダメージ!
 でんきねずみのあやしいきらめき!
 ミハイルはこんらんした!
 戒がそのびぼうをふりまいた!
 ぜんいんに30のダメージ! 

「いけませんね……押され始めています」
 直後、くらうんの周囲を巨大なトランプが回転しはじめる。
 
 くらうんはぼうぎょじんをてんかいした!
 なかまのぼうぎょりょくがアップした! 
 マキナはとりあえずあばれた!
 でんきねずみと一臣に30のダメージ!
 ミハイルはこんらんしている!
 ミハイルはサングラスをはずした!
 なんかざんねんになった!(´∋`)

 あまりの激戦に、ついに少年少女達は最終手段に出る。
「ボールがきますよ!」

 しょうねんはボールをなげた!
 翠月はすばやくよけた!
 しょうじょがボールをなげた!
 マキナはシャラクセェーとうちかえした!
 しょうねんはボールをなげた!
 アリストテレスはじぶんのあたまをなげつけぼうがいした!

 しょうねんはあたまをゲットした!

 (゜д゜)(゜д゜)(´∋`)(゜д゜)

 胴体だけになったアリストテレス、慌てて返してもらうようジェスチャーを試みる。

 しょうねんしょうじょはにげだした!

 \(^o^)/


●バトル終了

 アリストテレスはこんな感じ _| ̄| でうなだれた。
「なんてこった、頭が無いと首無し騎士にパクリだと訴えられちまうぜ……!」
 とりあえず動物の骨で代用できないか探してみるものの、そう都合良くは落ちていない。
 まずい、このままでは首無しのままになってしまう。

「ああ、それなら良いものがありますよ」
 声をかけたのはくらうんだった。
 見れば背負っていた大きなリュックから、何かを取りだしている。
「後で食べようと思っていたのですが、あなたに差し上げましょう」
 手にした物を見て全員凍り付く。
 それって。
 もしかして。

 ア ン パ ン ……!(戦慄)

「みすたーベタすぎる…っ」
 号泣する一臣を見て、くらうんは何かに気付いた様子で。
「おや、すみません。私としたことが」
 ポッケからマジックを取り出すと、巨大アンパンに何かを書き始める。
「これでいいでしょう」

( ´_ゝ`)←くらうんの描いた絵

 自信に満ちた表情で差し出してくる。断れる気がしねえ。

 アリストテレスはアンパンをそうびした!


●旅路の合間に

 ボール少年達の脅威から逃れ、一行はほっと一息つく。
 そこで翠月は冴弥の様子がおかしいことに気付いた。
「冴弥さんどうしたのですにゃん?」
「ええそれが……どうもさっきから、あちこちの魔物に協力を呼び掛けてみているのですが……」
 全く反応が無い。いつもなら、その辺のモンスターがやってくるのだが。
「私は他の方の力を借りないと、何も出来ませんので。だいぶ困っています」
 先程の戦闘でも仲間が誰も現れず、密かに大ピンチだった。正直ゲットされる覚悟をした。
 それを聞いた翠月はにっこりと微笑み。
「それなら僕が協力しますにゃん」
「え?」
「その方がお互い強くなれていいのですにゃん。遠慮はいらないですにゃん」
「すみません、助かります」
 このやりとりが、後に大変な事態を引き起こすことを二人はまだ知らない。

「さて、一旦ここで休憩を取っておきましょうか」

 くらうんが皆へ飴を配り始める。
 渡されたのは、色とりどりのロリポップキャンディ。食べると生命力が回復するのだそうだ。
 つかの間の休息に入る一行。
 思い思いに過ごす彼らの様子を、ほんの少しのぞいてみよう。

「ふふ、甘いですね」
「おいしいですにゃん」
 冴弥と翠月が、嬉しそうに飴を食べている。
 特に冴弥は、見た目的にロリポップキャンディのマッチ度MAX。両手で抱えながら一生懸命食べる姿はまさに至高。

 明らかにめるふぇんな空気が流れる横では、猛獣(鳥)族たちの姿が。

「ふっ……俺が飴とはな。なかなか、うまいじゃないか(▼∋▼)つ―◎」
 ミハイルがクールに食べている隣で、狼一臣は手にした飴をガン見。
「ま、マキナくん……このキャンディは大事にとっておくべk」
「ばりむしゃああ(え、なんか言いました?)」
「いえすばらしいたべっぷりですね」

 そんな彼らの後方で、ルビィは一人思案していた。
「足が速すぎるのってぇのも考えものだぜ」
 先のバトルでは反射的についうっかり逃げてしまった。
「とは言え、結果的にはあれでよかったのかもな…」
 あのまま戦っていたら、戒の美貌で即死していたところである。

 その頃、アリストテレスは飴を手にした固まっていた。
 生命力は結構削られている。もらったキャンディは今すぐにでも食べたい。
 しかし彼は重大なことに気付いてしまったのだ。

 ……俺、あたまアンパンだから食べられなくね?

 冷や汗を(妄想内で)かきながら、苦悩する。
「(くっ……しかしもらったものを無下にはしたくない。どうすればいい?)」
 そっと周囲を見渡してみるが、皆美味しそうに飴を頬張っていて気付く様子も無い。
「(くそ……とりあえずこうしておくか…)」

「……ん?」
 アンパンのてっぺんにキャンディを刺しているアリストテレスを見て、戒は微笑む。
「フ……なるほど。新たな時代を予感させるわね」
 さすがは時代の流れに敏感な戒先生。早くも流行を察知したらしい。
 当然乗り遅れることなどしない。
「……ん?」
 怒髪アフロにキャンディを刺している戒を見て、翠月と冴弥が微笑む。
「あの人達……きっと、疲れてるんですね」

 こうして彼らのつかの間の休息は過ぎていった。

●勇者の街

 その後、魔王軍一行はモンスター狩人に襲われたがこれも何とか乗り切った。
 しかも戒の伝説的オーラを見せつけることで、(無理矢理)仲間にした者もいたくらいだった。

「さて、勇者が滞在する街につきましたよ」
 メンバーを見渡しくらうんは説明を始める。
「ここからは二手に分かれましょう。人型になれる者は街へ潜入し、あの凶悪な一行に弱点が無いかを探るのです」
 言うが早いか、彼もタキシード姿の青年に変わる。
「俺のヒトポーションが役に立つときが来たようだな……!」
 いつの間にか銀髪美青年に変化しているのは、ルビィ。彼はカメラを手に(あの姿でどこに隠し持っていたか聞いてはいけない)勇者の蛮行現場をおさえるつもりだ。
「ああ。お互い良い写真を撮ってこようじゃないか」
 同じく金髪イケメンに変化したミハイルが、意味深な笑みを浮かべている。手にしたカメラには何を収めてくるつもりなのか。
「この戦いには戒先生の新作が必須だからな……!」
 やる気溢れる一臣も、茶髪のイケメン青年になっていた。
「先生、俺は必ず勇者ご一行の萌え話を収集してみせるぜ!」 
「何と言うことでしょう。ここにもたくさんのイケメン発見。私の熱いパトスが無慈悲に暴走を」
「おい戒先生しっかりしてください」
 よだれを垂らす戒を見て、一臣は必死の形相で揺さぶる。
「待ってくれ先生! 俺と小田切君とミハイルはいい! だがみすたーをネタにするのだけはよしてもらおうか!」
 ※彼は病気です
 
「それにしても、小田切さんよくヒトポーションなんて持ってたな(ふんすー」
 鼻息で冴弥を吹き飛ばしながらマキナが言う。
「メー様に賜ったんだぜ(にやり」
 ちゃっかり者の彼、旅の前に魔王メフィストに『何かくれ』と無心をしておいたらしい。
「へえ凄いな、メフィ様に会ったのか……!(ふんごー」
 鼻息で翠月を吹き飛ばしながらマキナが驚く。
「ああ。何度か踏まれたが、メー様に踏みつけられるのなら本望だったぜ(まがお」※彼も病気です

 かくて人型の四人(内二名は病気)は街へと消えていく。
 残りのメンバーは彼らの報告を待ち、これからの計画を進めるのだった。

 ※ 

(戒先生…聞こえますか……)

「はっこの声は……!」

(俺です…一臣です…今、先生の心に直接…語りかけています……)

「あ、ちょ、今いいところだから」

(うすい本を読んでる…場合では…ありません…ネタです…ネタを送ります……)

「おおお……キタァァ!(奥義『ハード妄想』発動!)」

(さあ、念を送るのです…そうすれば俺が念写を……)

「オミー受け取って、私の熱いパトス……ッ!」

「ちょ…先生かっ飛ばしすぎ……うぉあああ……っ!」

 ※

 深夜。
 戻ってきた一臣はどういうわけか大幅に生命力が減少していた。
 しかしその手にしっかりと握られた『新作』を見て、戒がアンニュイに微笑む。
「どうやら成功したようね……」
「ええ。命がけでしたよ…先生」

 くらうんの報告により、勇者達が宿泊している場所も判明した。
 ルビィとミハイルによる証拠写真も無事に揃った。

「そろそろ計画を実行に移すときがきたようだな」
 一臣とミハイルが互いにうなずき合う。
「ここからは、裏の世界の住人に任せてもらうぜへ(▼∋▼)/ 」 

 こうして、彼らの決戦前夜はふけていった。

●ちょっと勇者ボコってくる

 翌朝、勇者一行は混乱の中にいた。
 きっかけはナイトの一言。

「おい、誰だ俺のアイスにしょう油かけた奴は!!」

 昨夜取っておいたアイスを食べようとしたら、しょう油まみれだった。
「ははは、寝ぼけてたんじゃないの?」
 ヒーラーが笑いながら歯ブラシを口に入れる。
「ぐええなんだこれ!? 誰だ僕の歯磨き粉を洗顔フォームに入れ替えたのは!」
「それこそあんたが寝ぼけてたんじゃないの〜?」
 けらけら笑うメイジをヒーラーはきっと睨む。
「メイジ、君か!」
「はあ? 何であたしがそんなことしなくちゃなんないのよ……ってきゃー! なんであたしの靴の中がびしょ濡れなのよ!」

 直後ばーんと扉が開く。

「許さんぞ貴様ら……」
「え、弓使いどうしたの」
「誰だ、俺の踊り子ちゃん等身大抱き枕をすり替えたのは! おかげで安眠できなかったぞ!」
「ぅちの……靴が蜂蜜まみれになってた…」
「いや俺じゃ無いぞ踊り子」
「もぅ弓使い…マヂ無理キモぃ……」
「いや本当に俺じゃ無いぞ。でも足に蜂蜜ついたんなら俺が舐めqぁwせdrftgyふじこlp」
「あっちょっとヒーラー、あんたでしょあたしの靴を濡らしたの!これふぇらがもなのよどうしてくれんの!」
「なっ僕なわけが無いじゃぐほああああ」
「俺のアイスまで燃やすんじゃねえーーー!」

 ※

「――何という恐ろしい計画だ」
 窓の外から様子をうかがっていたアリストテレスが声を漏らす。
「既に戦闘不能者が二人か……」
 地に伏す弓使いと黒焦げになったヒーラーを見て、マキナが鼻息を荒くする。
「ふ……俺たちの秘密工作が上手くいったようだな」
 一臣がきらきらオーラを発しながら微笑を浮かべ。
「これが『みはりん提案:ぼくたちのかんがえたさいきょうの戦意喪失だいさくせん』だ」
「作戦名が長いですね」
「みすたーごめんっ……ミ´;ω;ミ」
 ミハイルがにやりと宣言する。
「くく……だが本番はこれからだぜ?へ(▼∋▼)/」

 ※

「おい、それより勇者はどうした?」

 ナイトの発言に、彼らは勇者がいないことに気付く。
「まだ寝てるんじゃないの〜?」
「……仕方ないな、俺が起こしてくる」
 勇者の寝室に入ったナイト、突然声を上げる。
「ゆ、勇者……!」
「え、なにどうしたの?」
「二人とも来るなっ!」

 そこで彼らが見たものは――!

 壁一面に貼られた(戒先生作)ナイトの萌えポスター。
 しかも(ミハイルが撮った)湯浴み中の半裸姿。引き締まった身体が異様に眩しい。
 勇者の抱き枕も、半裸のナイトがばっちりプリント。盾はもちろん痛盾だ。
 枕元の(一臣が念写した)冊子を手に取ったメイジが、悲鳴に近い声をあげる。
「何これ、『ナイト×勇者』のうすい本じゃない!」
「しかも……かなりハード系だょ…これ…」
 蔵倫との抵抗判定にまったく勝てないシーンの数々。

 呆然とするナイトはうわごとのように呟く。
「勇者……そんな目で俺を見ていたのか……」
「ナイト、気を確かに」
「これゎ何かの間違いだょ」
 そこで勇者の手から何かが落ちる。拾ったメイジが眉をひそめ。
「えっこれ……ナイトのロケットペンダントじゃない?」
「……そうだ。昨夜から探してたんだ」
「まさか…勇者が盗った……?」
 重苦しい空気が流れる中、勇者は相変わらず寝息を立てている。
「ちょっと、勇者!いい加減起きなさいよ!」
 メイジが彼を揺さぶると同時、ペンダントが床に落ちて中身が開いてしまう。
「え…これって……!?」

 ※

「…さすがだな一臣。あれはさすがに俺も思いつかなかったぞ(▼∋▼)b」
 様子を見守っていたミハイルの言葉に、一臣は首を振り。
「いや、俺でもない。てっきりミハイルかと」
「あ、それ私です」
「え、冴弥ちゃんだったの!?」
 手を上げた冴弥は、やや困惑したように。
「でも変ですね……私がやったのはペンダントを勇者の部屋に持ち込んだだけです。盗んだと思わせれば……と思ったのですが」
「え、と言うことは……?」
 
 ※

 その頃、勇者はようやく目を覚ました。
 眠そうに目をこすって一言。
「あれ、みんな何でここにいるの」
「なんでじゃないわよ、あんたこれ……」

「勇者!」

 ペンダントを握りしめたナイト、打ち震えながら勇者を見据えている。
「え、どうしたのナイト怖い顔して」
「勇者……お前の気持ちはよくわかった」
「うん?」
「俺は……」

 ナイト、顔を真っ赤にして叫ぶ。

「俺も実はお前のことが……!!///」

 /(^o^)\ 


 ※

「どうやらおれたちはじゅうだいなあやまちをおかしたようだ」
 ナイトのペンダントの中身は、まさかの勇者。
 崩れ落ちる一臣の横で、ミハイルが額に汗を浮かべながら。
「い…いや、待て。ここで勇者が拒否すればまだ……(;▼∋▼)」

 ※

「なに、ナイト俺のこと好きなの?」
 勇者はきょとんとした表情をしてナイトを見つめている。何が起こっているのか分からないと言った表情だ。
「……そうだ」
「ふうん、そうなんだ」
 勇者は一旦考え込むように沈黙した後。
 ナイトを見上げて、にっこりと微笑んだ。

「いいよ。俺もお前のこと嫌いじゃ無いし」
「勇者……!///」

 \(^o^)/ 

 ※

「何という恐ろしい男だ」
 アリストテレスが息を呑む横で、くらうんも頷き。
「……ええ。最強の名に偽りは無いということ」
「有田君もみすたーも感心している場合じゃ」
「キタキタァァァ!!」
 突然荒ぶりだした戒を見て、一臣が叫ぶ。
「しまった、戒先生がご乱心だ!」
「離せ、私は新たなる作品をぉああああ」

 その叫びを聞いたメイジが、窓の外に気付く。
「誰か外にいるわ!」

「しまった、気付かれましたにゃん!」
 翠月が警戒態勢に入ると同時、マキナが叫ぶ。
「シャラクセェー! まとめてぶっ飛ばしてやる!」

 ゆうしゃたちがあらわれた!

「おっとまずは俺に任せてもらうぜ!」
 勇者の前に立ちはだかったルビィを見て、彼らは目の色を変える。
「おい、あれはぐれてる奴だぞ」
「本当だ、メタルな奴じゃん!」
「誰か、聖水持ってないの?」
「しまった、ヒーラーが持ってるけど黒焦げになってる!」
 ルビィはにやりと微笑んで。
「慌てなくても俺は逃げも隠れもしねえ。ただし俺とやり合う前に、これを見てもらうぜ!」

 ルビィはしゃしんをばらまいた!

「こ、これは……!」
 映っていたのは勇者一行が無断で民家に入り、タンスや宝箱を空けているところ。
 それだけじゃない。
 無抵抗の雑魚モンスターを狩りまくっている写真まである。
「俺はこれを持って『民衆の人権を守る会』及び『モンスター愛護団体』にいくつもりだ。持っていったらどうなるか……わかるよな?」

「くっ……なるほど、あたし達を脅そうってのね」
 この攻撃はメイジに効果があった。意外と真面目な彼女。実は自分たちの傍若無人な振る舞いを、気にしていたらしい。

「こんな写真もあるぜ?へ(▼∋▼)┳」

 次に出たのはミハイルだった。彼が手にした写真を見て、ナイトが青ざめる。
「それはっ…俺の湯浴み写真っ……!」
「俺たちに何かあればコイツを腐女子の元に送るぜ。しかも超ハード系BLサークルだ」
「やめろ!!」
 これはナイトに大いにダメージを与えた。
「俺は……っ俺は、勇者だけのものだっ……!!//」

「隙ありぃぃ!!」
 ここで戒の特殊能力「触手」がひるがえった。
「きゃぁぁぁぁ!?」
 狙いは踊り子。最初から彼女を標的にすべく企んでいた。
「ぅぅ…身体がぃたいょ……」
 触手で縛りあげられた踊り子を見て、戒は嬌声を上げる。
「踊れなければただの人じゃフハハ!」
 彼女の白い太ももが見事にあらわ。
 このままあんなことやこんなことをして戦意を奪う。
 戒の(俺得な)計画は完璧に思われたが――

「もぅマヂ無理…」

 踊り子は涙を浮かべた瞳で戒をにらむ。

「ひどぃょ…ゥチなにもしてなぃのに…もぅ一死以て大悪を誅す。我こそは天啓賜りし蒼天の遣い。不倶戴天明鏡止水嶺上開花国士無双 破道の九十八『一刀滅葬』卍解」

 戒は散った。


●死闘

「くっ……戒さんの死を無駄にするな!」
 マキナが斧を振り上げて突進する。
「待て、マキナくん!正面から突っ込むのは危険だ!」
 一臣が止めようと前に出るが普通に踏みつぶされる。
「とにかく、一矢報いるためにも攻撃を打ち込むのです!」
 青年姿になったくらうんが大鎌を勢いよく振り抜く。
 凄まじい斬撃。真紅の血飛沫が一臣と共に舞い上がる!

「お前らに俺の背中は預けた!」
 二丁拳銃を手にしたミハイル、踊るように敵の攻撃を受け流しながら、華麗に突撃!

(▼∋▼)┳ ババババ

 そこをアリストテレスの投げる骨が襲う!
「骨ってのは武器にもなる、覚えておけ!」

 彼らは実によく戦った。
 しかし、勇者はまじ勇者だった。

「うーん、とりあえずこの間覚えた魔法試してみるか」

 勇者、余裕でメテオ的なものを発動。
 大地が軽く吹き飛んだ。

「つ……強い……!」

 アンパンが半分になったアリストテレスが悔しそうに呟く。
 たった一撃で、生命力の半分をもっていかれた。恐らく次の一撃で全滅だろう。
「顔が欠けて力が出ない…だがな…魔王軍の意地にかけて、ここで逃げるわけにはいかねえ!」

「ついに僕達の出番がやってきましたにゃん」

 ここで前に出たのは翠月と冴弥。
 翠月がきりりと勇者をにらみ据えた直後、その身体が巨大化する!
「す、すごい…!」
 象ほどになった翠月は、冴弥に向かって言う。
「これが僕の本当の姿ですにゃん。さあ冴弥さん、僕を操るといいですにゃん!」
「わかりました!」
 冴弥が翠月にしがみつくと同時、二人の能力が瞬時にパワーアップ!
「僕たちの最後の力、見せつけてやるですにゃん!」

 さて、ここでおさらいしておこう。
 冴弥の能力は周囲の魔物にくっつき、操る能力。本来なら一体までが限度なのだが。
 ここへ来て強力な魔物翠月と組んだことで、奇跡的に能力が大幅にアップ。

「さあ私(の操る魔物)が勇者を止めます!」

 冴弥は全力で魔物を操った!

「ブモォォォォォ!!!」

 突然マキナが、雄叫びを上げる。
「あれ、どうしちゃったのマキナくん!?」
 一臣の呼びかけにも応えない。全身紅く変化した彼、完全にバーサクモードになっている。
「くくく、俺も特攻してやんぜーーー!!=へ(▼∋▼)┳」
「覚悟しろ勇者ぁああああ =┌( ´_ゝ`)┘」
「しょうがねえな、俺もいくぜ!((( ゜∀ ゜)」

 次々と特攻を始める仲間に、一臣は気付いた。

 そうだ。

 忘れがちだけど。

 俺たちみんな魔物じゃね……?

「はっ! と言うことは俺も」
「ブモォオオオオオ!(ばきぐしゃあ)」
 暴走中のマキナに踏まれ、息をするように一臣リタイア。

「さあ、行きますよ!」「さあ、行きますにゃん!」

 冴弥と翠月による必殺の(自爆)奥義。


 俺 の 屍 を こ え て い け


 \\ カッ //


 凄まじい閃光が、大地を振るわせた。




「……というわけで、残ったのは私だけですか」

 目前に立つ勇者を前に、魔界騎士くらうんは呟く。
「みたいだな。こっちも結構くらったけど」
 貴い犠牲を払っても、勇者は倒れなかった。くらうんは、微かに笑んでみせ。
「どうですか、勇者。少しは楽しめましたか」
 問われた勇者は無邪気に笑い。
「まあね。今までで一番スリルあった」
「そうですか」

 くらうんにはわかっていた。
 この世界で、勇者は絶対的な存在。この先自分たちが滅ぼすことは無いのだろう。
 けれど。
 ほんの一時だけでも、彼らの記憶に残ることが出来たのなら。

 くらうんは微かにうなずくと、静かに背を向ける。
 そして最後に、たった一言だけ告げた。

「その言葉が聞ければ、充分です」

 自分たちの存在した意味は、確かにあったのだから。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:17人

悪夢祓いし夢話の標・
有田 アリストテレス(ja0647)

大学部9年60組 男 インフィルトレイター
戦場ジャーナリスト・
小田切ルビィ(ja0841)

卒業 男 ルインズブレイド
あんまんマイスター・
七種 戒(ja1267)

大学部3年1組 女 インフィルトレイター
JOKER of JOKER・
加倉 一臣(ja5823)

卒業 男 インフィルトレイター
BlueFire・
マキナ(ja7016)

卒業 男 阿修羅
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
夜を紡ぎし翠闇の魔人・
鑑夜 翠月(jb0681)

大学部3年267組 男 ナイトウォーカー
凍魔竜公の寵を受けし者・
久遠 冴弥(jb0754)

大学部3年15組 女 バハムートテイマー