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マスター:久生夕貴
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:7人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/03/05


みんなの思い出



オープニング

「ふ。この世界にてゲートを開け、とはな。望むところよ」
 眼前に広がる人間界を見下ろし、その悪魔は口元に笑みを刻んだ。
「ええ、その通りだわ」
 隣に佇むは、別の悪魔の姿。
「余の盟友よ。見るがよい、この世界を。この世界に在りし数多の生命を」
 男も女も。人間も天使も。その瞳に映る時には全て同一の存在として括られる。
「さぁ、参るぞ! 新たなる我らの狩場にな……!」

 四国、高知県。
 そこにまた一つ、新たなゲートが開かれた。

●宵闇の彼方

「天界の動き……でございますか」
 主の口から出た意外な言葉に、シツジは思わず聞き返す。
「おや、どうしました。気乗りしませんか」
 口元の笑みを絶やすことはなく。悪魔マッド・ザ・クラウン(jz0145)は忠実にして愛想のない僕を見つめている。
「いえ。主の命とあらば、私がお断りする理由など。ただ少し…意表を突かれましたもので」
「ああ」
 クラウンは愉快そうにその目を細める。
「私が天界に興味を示していることに、ですね」
 無言の肯定。
 四国のとある海沿いの街で、天界勢が人間と衝突していると言う。その様子を探って来いと言うのだ。
 偵察と言えばそうなのだが、何故このタイミングでしかも相手は天界なのか。
 相変わらず、この主の考えることはわからない。
 とは言え。
「ふふ……多くを問わない所は貴方の美点だと思いますよ、シツジ」
「訊いてもお応えにならないこと位は、存じておりますので」
 淡々と答える僕に、道化の悪魔は長い袖を一振りしてみせる。興が乗ったときの、癖だ。
「わかりました。……では、私はこれで」
「もし」
 去ろうとする背を、悪魔の声が呼び止める。
「何かあれば、貴方のお好きになさい」
「……承知いたしました」
 シツジの返事を聞き終えると、クラウンは眠ってしまう。
 その様子を銀縁眼鏡の奥から、ただ見つめるのだった。


●四国

 偵察を終えたシツジは、帰路へと着こうとしていた。
 場所は高知県大月市。
 あちこちを回っていたら思ったより西まで来てしまっていた。
「あれは……?」
 奇怪な光景につい、足を止める。
 目前に連なるのは、列を成して歩く人間の姿。虚ろな表情をした彼らは、皆同じ方向へと向かっている。
(……どうやら、魅了状態に陥ってるようだ)
 向かう先に見えるのは、ベイグランド大月と書かれた看板。リゾートホテルらしき外観の建物が、ここからでも見える。その頭上に開かれたゲートを見て、呟く。
「――なるほど」
 あれが原因か。
 そう口にした彼の前を、大きな蝶が通り過ぎる。鮮やかな羽根色とは対照的に、振りまく香鱗には禍々しさが漂う。
 この鱗粉が、魅了を生み出しているのだと気付いた時。

 轟音が響いた。

 激しく何かがぶつかり合うような音が、建物の方から聞こえてくる。
 天界か、人間か。
(……一応、確かめておきましょうか)
 天界であれば、別の新たな動きであるのかもしれない。
 シツジはホテルの方向へ、移動を開始した。

 見えてきた白亜の壁。
「あの方たちは……」
 ディアボロと戦闘している撃退士達の姿。どうやら、あのゲートを破壊しに来たのだろう。
「先程の轟音は彼らが……いや、しかし」
 何かが違う気がした。
 聞こえてきた位置から察するに、発生源は建物を挟んだ反対側。
 直後、一人の撃退士がシツジの存在に気付き声を荒げる。
「見ろ、あれは道化の悪魔の…!」
 自分の顔が知られていることに、シツジはようやく思い至る。
(困りましたね……)
 この状況を見て、自分が無関係だと信じてもらうことは難しいだろう。
 人間と戦うつもりなど、無かったのだが。
「敵を発見! 直ちに交戦開始します」
「お前の仕業だったのか!」
 撃退士達に囲まれ、ため息をつく。
 シツジは多くを語らない。
 言葉でのやりとりが無意味であると、どこかで思っているから。
 彼は仕込刀を構えると、無表情のまま口を開く。
「一つ良いことをお伝えしましょう」
 あくまで、物腰は丁寧に。
「相手にものを尋ねるときは、礼節をわきまえるべきでございますよ」
「なっ……」
「申し訳ありませんが、私にとって重要なのは主の命でございますので」
 彼を取りまくオーラが、瞬時に鋭さを増し。
「邪魔をなさるのなら、容赦はいたしません」

 刹那の一閃が、放たれた。

●久遠ヶ原学園

「緊急招集に応えてくれてありがとう」
 斡旋所スタッフの西橋旅人(jz0129)が、険しい表情でメンバーを見渡す。
「雅先生の説明でもあったと思うけど、現在高知県大月市にてゲートが発生している。撃退庁の破壊部隊が向かったけれど…壊滅したらしい」
 緊迫した空気が流れる。壊滅と言う言葉が重く、のしかかる。
「生き残った数名が、現在追撃の手を逃れ逃走中。けれど現場は多数の虫型ディアボロと共に、二体のヴァニタスが確認されている。状況はかなり悪い」
 内一体は【虫籠】と呼ばれる男。そしてもう一方は、悪魔クラウンのヴァニタス、シツジであるらしい。
 どちらも強力であるとの報告があがっている存在だ。
「現場で何が起こっているのか、正直何もわかってはいないんだ」
 複数の悪魔がそこにいるのか、それはゲートの悪魔と同じであるのか、そもそも何故二体のヴァニタスがそこにいるのか。
「先程、七名の生徒が先に救出へと向かった。続いて向かう僕らも同じ」
 口早に状況を説明しながら、旅人は告げる。
「敵の足止めと救助援護。…この人数でやるのは、正直に言えばかなり厳しい」
 同時多発ゲート展開により、人手がどうしても足りない。それでも事前にこの動きを察知できていたから、こうしてぎりぎりでも対応が出来てはいるのだが。
「可能な限り、皆の安全を優先して欲しい。みんな……よろしく頼む」


リプレイ本文


●遭遇

「っと、こいつはたまげたぜィ」
 転移装置から現れた法水写楽(ja0581)は、思わず声を漏らす。
 現地に到着した撃退士たちの目に、最初に映ったもの。
 自分たちに向けられる、銀灰色の視線。
「居るとは聞いてましたけど、こんな簡単に鉢合わせなんて…」
 若菜白兎(ja2109)が、透き通るような水色の瞳を微かに震わせる。
「運が良いんだか、悪いんだか」
 桝本侑吾(ja8758)が軽く息を吐く横で、藤咲千尋(ja8564)が息を呑み。
「あれって…報告にあった……」
 四十半ばの見た目、整えられた瞳と同じ銀灰色の髪。何よりこの場にそぐわぬ執事姿が、彼の正体を物語っている。
「……出逢っちまったもんは、放ってはおけねえな」
 小田切ルビィ(ja0841)がケイオスドレスを発動させ、
「同感ですの」
 十八九十七(ja4233)が瞬時に臨戦態勢に入る。
 悪魔マッド・ザ・クラウンの僕であり、撃退庁の人間を瀕死に追いやった者。

 ヴァニタス『シツジ』が、表情一つ変えずそこに立っていた。

●psyops start

 ひりつくような緊張感が、一瞬にして場を襲う。

 この人数で戦っても勝ち目はない。
 皆それがわかっているからこそ、最初に出すべき言葉を探っていた。
「……こんにちは、ミスターんとこの人すよね」
 切り出したのは、小野友真(ja6901)。相手の性格的に、いきなり襲っては来ないと期待しての行動である。
 彼の問いに対しシツジは微かに首を傾げたあと、思い至ったように。
「ああ、我が主はその様に呼ばれているのでございますね」
 静かな声音だった。
(落ち着け……焦ったらあかん)
 額に汗を滲ませながら。あくまで言葉遣いに注意し、続ける。
「ええと…俺らシツジさんと話したいことあるんですけど」
 隣にいる仲間をちらりと見やり。
「その前にすみません、用事ある子ら先に行かせてもらってもいいです?」
 ここで否となるなら、戦闘はやむを得ない。
 彼らの緊張が最高潮に登りつめた時。
 相変わらず表情は見せないまま、シツジはその薄い唇を開いた。
「お好きになさって下さい。私から皆さまに対して用はございませんので」

 予想外の返答。
 事態を見守っていたルビィは、ここで眉をひそめる。

(用は無い――だと?)
 では何故、このヴァニタスはここにいるのか。
 撃退庁の隊を壊滅に追い込んだのが、ゲート破壊阻止のためであるならば。
 自分たちとて、この場で放って置いていい対象でないはずだ。
(ちと納得行かぬ点が多いですねぃ……)
 救助班を先に行かせながら、九十七も内心で呟く。
 この戦場が抱えるのは、ちぐはぐとした違和感。
 何かが、おかしい。

「はてさて……そこな僕は、この疑問にお答え願えるんでしょうかねぃ」 

●救出開始

(ゆーま…無茶だけはしないでよ!)
 全力疾走をしながら千尋は祈っていた。
 親友のことは信じている。けれど強敵の元に友を残すほど、後ろ髪引かれるものは無く。
「三人が足止めしてくれる間に、助けないと!!」 
 今回も必ず全員で生きて帰る。その為には、自分たちがどれだけ素早く救出できるかが勝負だ。
「はい…あの方はお話しができるとは聞いてますけど、それでも心配……」
 白兎も内心で焦りを感じていた。
 先隊のことを考えれば、残った者達がいつ襲われたって不思議ではない。
(万が一のことがあれば……)
 脳裏に浮かぶのは恐ろしい光景。
「とりあえず見た所範囲が広そうだし、ある程度役割分担しておこうか」
 二人を落ち着かせるかのように、年長者の侑吾が穏やかな声音で呼びかける。 
「じゃあ俺は綺麗な姉ちゃん担当ってことで…ってェのは冗談だが」
 写楽も敢えてくだけた物言いをしながら、周囲を観察し。
「そうだな…怪我を負ってるなら、隠れたり盾に使い易いモノがあるトコの可能性が高いんじゃないかってェことで。俺は障害物が多そうな場所を探してみるぜィ」
 彼の言葉に、白兎と千尋も考えながら言葉を紡ぐ。
「そうですね…大けがを負ってるなら、地面に血痕の跡が残っているはずです。それを見つけられれば……あと危険かもしれないですけど、私は声を出して呼びかけてみます」
「えっと…それならわたしは、索敵を使って広範囲を探してみるね!」
 三人の提案に侑吾はうなずき。
「ん、じゃあ俺は音や気配を意識しつつ、敵の動きも警戒していくよ」
 周囲はディアボロがうろついていると言う。助けに来た自分たちがやられれば元も子もない。
「とにかく、敵との無駄な戦闘は避ける。見つけたら連絡頼むよ」
 速やかな役割分担終了と共に、彼らの懸命な捜索が開始される。
 
 錯綜する戦場。
 この先何が起きるか予測がつかないからこそ――

 彼らは祈る。
 全員無事に帰ることを。
 今はただ。
 自分に出来ることをやり遂げるのみ。


●seesaw game

「――今回の騒ぎ、お前の仕業か?『シツジ』さんよ」

 ルビィの単刀直入な質問に、シツジは淡々と。
「騒ぎと言うのがどこまでを指すのか、分かりかねますが。少なくとも――」
 視線の先には、ホテル上空に鎮座するゲート。
「『あれ』と私どもは関係ございませんね」
「私『ども』と言うのは、あの虫籠の男を指すのか?」
 軽くかぶりをふり。
「いいえ。主と私のことでございます」
 返答を受け、ルビィは考えていた。
 どうやらシツジと虫籠の男は、共闘しているわけでは無いらしい。
 となればやはり疑問となるのは、シツジがここにいる理由。
(別の悪魔の縄張りを偵察に来たのか、偶然居合わせただけなのか――)
 しかし一度彼と戦った妹の話によれば、このヴァニタスが用も無く人間界をうろついているとも考えにくい。
 となれば――

「じゃあそちらさんは、何の目的でここに来たんですかねぃ?」
 次は九十七の直球質問。その問いにシツジは微かに目を細め。
「皆さまと同じでございますよ。騒ぎを聞きつけ、様子を見に来たまで」
「なるほどですねぃ…で、何も知らず来てみたら虫籠の男が暴れていて、ゲートが開かれていた、と」
「その通りでございます」
 肯定に対し、九十七は口角をにいっとつり上げ。
「でもそれが事実なら、撃退庁の人間と戦うのはおかしくないですかねぃ?」
 彼らはゲート破壊に派遣されている。関係がないのなら、戦う必要も無かったはずだ。
 問われたシツジは姿勢を正したまま、わずかに口元を緩め。
「良い質問でございますね」
 先程とは違い、その口調はやりとりを愉しむものに変わってきている。
「ですが貴女様が思う以上に、答えは単純です。あの方達に襲われたからでございますよ」

 側で聞いた友真は、ここでようやく合点する。 
 なぜ、シツジが撃退庁の人間を攻撃したのか。
 なぜ、逃げる彼らを追うそぶりも、助けに来た自分たちと戦うそぶりも見せないのか。
 彼は決心すると、シツジと向き合い。
「何もしてへんとこをいきなり殴ったんなら、俺らが悪い。ごめん」
 突然の謝罪にやや面食らうシツジに対し、頼む。
「でももう今は関係無いんやったら、これ以上は手ぇ出さんとってほしい」


●発見

「いた……!」
 索敵を行っていた千尋の目に映ったもの。
 一箇所に群がる巨大な蝶の群れ。
 時同じくして、白兎も助けを呼ぶ声を聞いていた。
「あの茂みの奥から声が…!」
 蝶達は奥の人間を襲っているようだった。このままではうかつに近づけない。
「敵を引き離さなくっちゃ!!」
 千尋が叫んだ直後、別方向から放たれる、衝撃波。
 蝶へと一直線に向かったそれは、一体を吹き飛ばす。
 双剣を振り抜いた写楽が叫んだ。
「っとォ、敵さんこっちだぜィ!」
 新たな敵に気付いた蝶が、ふわりふわりと移動を開始する。
 挑発を発動させた侑吾が白兎に向かって。
「ここは俺達が引きつける。要救助者への対応は、任せたよ」
「わかりました」
 白兎は大急ぎで茂みへと走り、後を千尋が追う。
 そして向かった先に、動けずにいた四人の撃退士を発見する。
「助けに来ました…! 大丈夫でしょうか」
 急いで駆け寄り、状態を確認。重傷者二人の傷はひどく、とてもこの場で回復しきれるものではない。
 残りの二人は軽傷だが、内一人は毒状態に陥っている。
「助かった……撤退の途中で襲われ動けずにいたの」
 どうやら重傷者を担いでいた一人が、毒にやられたのだろう。このまま襲われ続けていればどうなっていたことか。
 間に合ったことに胸をなで下ろしながら、白兎は癒しの風で彼らを包み込む。
「回復、頑張ります。だからもう少しだけ、我慢してください…!」

「やらせるかよっ……来いっ」
 妖しげな鱗粉と共に、衝撃が襲う。
 蝶が放つ魔法攻撃をその身で受け止めながら侑吾は、耐える。
「こっちには近寄らせないよ!」
 千尋の放つナパームショットが蝶の羽根を撃ち抜き。
「これ以上のおいたは御免だぜ」
 写楽の放つ一閃が胴体を真っ二つにする。
 敵の数は現時点で残り四体。一体一体はさほど強くないとは言え、集中攻撃を受け続けるのは危険。
 白兎による聖なる刻印のおかげで、今はバッドステータスを免れているものの。
 状況を観察しながら写楽は呟く。
「長引くのは…不味いな」
 特にやっかいなのは魅了。ここからでは要救助者への距離が近すぎるため、下手すれば重傷者を攻撃しかねない。

 白兎の回復が終わるのが先か。
 バッドステータスを受けるのが先か。
 刻々と時が進む中――

 待ちわびた声が、周囲に響き渡った。
 
「回復、終わりました!」


●gain an advantage

 轟音が鳴り響いた。

「な…何の音や?」
 何かが激しくぶつかり合うような音。
 発生源が建物の反対側だと、全員が認識した時。
 シツジが撃退士達を見渡して口を開いた。
「一つ、ご理解いただきたいことがございます」
 その口調は先程より幾分早口で。
「元より私は、皆さまと戦うつもりはございません。最も――」
 銀縁眼鏡の奥の視線が、やや鋭さを増し。
「私の邪魔をしなければ、でございますが」
「…邪魔っていうのは、何を指すんですかねぃ」
 九十七の問いに、シツジはあっさりと答える。
「例えば私は、今よりあの建物の反対側に向かいます」
「つまり…止めるな、ってことですの」
 彼は目でうなずいてみせ。「ならシツジさんよ」とルビィが割って入る。
「俺から一つ提案があるぜ」
 シツジは何も言わず、ルビィに視線を移す。続きを待っているのだろう。
「これから俺達は、お前が周辺を嗅ぎ回る邪魔はしない。代わりに、お前も俺達撃退士の任務の邪魔はしない。つまり――」
 真正面から見据え。
「ココは相互不干渉って事で、この場はお開きにする……ってのはどうだ?」
 その提案にシツジは、ゆっくりと頷き。
「ええ。こちらとしても、異を唱えるつもりはございません」

 成り行きを見守っていた友真は考えていた。
(これで…ええんやろうか?)
 ある程度の時間稼ぎはしたし、相互不干渉も成立した。ここまでは完璧だろう。
 けれど――後一手、何か出来る気がするのだ。
(建物の反対側にいるのは、恐らく虫籠の男や)
 そして彼らと対峙している仲間がいるはず。
 ――そこにシツジ一人を行かせるのは、危なすぎるんやないか?
 思い至った途端、咄嗟に言葉が出る。

「あの、すみません!」

「……なんでございますか」
 去ろうとしたシツジを呼び止め、友真は告げる。
「俺らも一緒に行っていいですか?」
 突然切り出された突拍子もない提案に、その場にいた全員が目を丸くする。
「別にシツジさんの邪魔はしてませんよね? 行く方向が同じってだけですし」
 わずかに眉をひそめるシツジに対し、友真は必死に。
「あっちでは今、俺らの仲間が戦ってるんです。やばかったら助けないかんし。それだけです」
 
 この申し出が吉と出るか、凶と出るか。
 シツジは一旦その場に立ち止まると、沈黙する。
 三人が息を呑む中。
 やがて彼は軽く息をついた後――
 
「……なるほど。そう来ましたか」

 その顔には苦笑めいた笑みが浮かんでいた。

「わかりました。私があちらへ行くのは止めにいたします」

●点と線

「ん、じゃあ離脱と行こうか」
 言うが早いか、侑吾は進路を塞ぐ一匹の蝶に向けて封砲を放った。
 開けた道を重傷者を抱えた写楽、千尋達が突破し。
 その後ろを軽傷の二人、白兎と侑吾が付き添って走る。
「このまま一気に切り抜けるぜィ」
 蝶の移動力はそう速くない。彼らは無理に戦わず、逃げ切ることを優先させたのだ。
 この選択は正しかった。
 全速力で走った彼らは蝶の追随から逃れることに成功し。
 最小限の被害で、安全圏への移動を可能にしたのである。
「はあ…はあ…何とかなったね!」
 侑吾が足止め班に連絡をする間、千尋は撃退庁の人たちに話を聞いてみる。

 1.ゲートの悪魔について。
 2.シツジ、虫籠の男以外のヴァニタスの存在。
 3.同一地域にヴァニタスが複数現れた理由。

 このうち2と3については撃退庁の人間も分からない様子だった。
 収穫があったのは『ゲートの悪魔』について。
「うーん、何だか変……?」
 千尋は唸る。
 得られた目撃情報は、何故かばらばらだった。
 シツジとは違う壮年の男を見たと言う者もいれば、全く異なった外見を証言する者もいる。
「ひょっとして…ゲートの悪魔は二体いる…?」
 その答えが最もしっくり来る。白兎も頷き。
「どちらもクラウンじゃなさそう…」
 つまり、シツジの証言は正しかったことになる。
 千尋はここに他のヴァニタスの存在を予感していた。
 二体の悪魔に、二体のヴァニタス。その内の一体が虫籠の男なのかはわからないが、充分にあり得る話だ。
 点と線が結ばれる感覚。
 その手応えを、感じながら。


●finale

「元々、何が起きているのか把握できれば、私としては良かったのでございます」
 唖然とする三人に対し、シツジは続ける。
「今のあなた様の話を伺う限り、今あちらでは人間と私の同朋が戦っているのでしょう。ならば私の関知するところではございませんので」
 行けばややこしい事になりかねませんから、と付け足し。
 シツジは丁寧に礼をした。
「では、私はこれにて失礼いたします」
「あっ待って!」
 去ろうとする彼を友真は呼び止め。
「自分ら何やりたいんか教えて欲しいんやけど、ヒントくれへん?」
 直球勝負。
 それを聞いたシツジは、困ったように微笑み。
「小野様…でしたか。申し訳ありませんが、主のお考えは私にもわからないのです」
 そしてゆっくり背をむけると、最後に一言だけ告げた。
「楽しいひとときでございました」

●その後の話

 無事任務を終えたメンバーは、侑吾の提案でホテルの周辺を手分けして調べた。
 奇襲に使えそうな場所、進入路の数。あくまで近付きすぎず、目視で確認できる範囲だが成果は上々で。
 これも全員がほぼ無傷だったおかげといえる。
 彼らが持ち帰った情報が生かされるのは、もう少し先。
 学園にゲート破壊依頼が舞い込んだ時となる。

 伽羅への道は、開けた。

 待ち受けるのは――


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 真愛しきすべてをこの手に・小野友真(ja6901)
 輝く未来の訪れ願う・櫟 千尋(ja8564)
 我が身不退転・桝本 侑吾(ja8758)
重体: −
面白かった!:8人

撃退士・
法水 写楽(ja0581)

卒業 男 ナイトウォーカー
戦場ジャーナリスト・
小田切ルビィ(ja0841)

卒業 男 ルインズブレイド
祈りの煌めき・
若菜 白兎(ja2109)

中等部1年8組 女 アストラルヴァンガード
胸に秘めるは正義か狂気か・
十八 九十七(ja4233)

大学部4年18組 女 インフィルトレイター
真愛しきすべてをこの手に・
小野友真(ja6901)

卒業 男 インフィルトレイター
輝く未来の訪れ願う・
櫟 千尋(ja8564)

大学部4年228組 女 インフィルトレイター
我が身不退転・
桝本 侑吾(ja8758)

卒業 男 ルインズブレイド