※これは夢の中の物語です。どう見てもおかしいだろと言う光景がありますが――
\夢なので仕方ない/
それでは白穂浪士忠臣蔵、開幕。
●有栖屋敷裏門
草木も眠る丑三つ時。
雪がしんしんと降り積もる中、有栖邸裏門に立つのは一人の門番。
「今夜は冷えるな…」
身を震わせ、ため息を吐く。
冷え切った手はすっかりかじかみ、もはや感覚すら無くなってきている。
「はあ…こんな夜は、暖かいおでんでも…」
ぽつりと、呟いたとき。
彼の耳に、救いの呼び声が聞こえてくる。
「おでん〜、おでん〜、あったかおでんは、いらんかね〜」
門番の目に、もうもうと立ち上る湯気と共に、赤提灯が映る。
おでん屋台を引いているのは、頭が大根(※誤字ではない)の男。
「門番さん、今夜は冷えるね〜」
「ああ、身体が凍えちまいそうさ」
「おやおや、それはいけないねぇ」
しっかり味の染みた大根(※WU参照)男は、頭部をちぎると差し出す。
「さあ、ぼくのかおをおたべよ!」
「なんとかたじけない…!」
愛と勇気に触れた門番は、嬉しそうに大根を頬張る。
しか歓びとは、つかの間であるのが世の常。
「うっ…!」
気付いたときには、首に刀が突き付けられていた。日本刀を手にした鬼無里鴉鳥(
ja7179)が、呆れたようにつぶやく。
「まさか、本当におでんに釣られるとはな…阿呆かと言いたいところだが、まあ有栖邸の門番なら仕方あるまい」
有栖的には聞き捨てならない一言だが、否定できる要素は無かった。
「謀ったな、おでんまん…!」
「大根は美味しかったですか?」
身動きできない門番に向かって発せられるのは、先程とは打って変わって落ち着いた声音。
「おっと、残さず食べて下さいね。残すような真似をすれば、その首、今ここで切り離して差し上げましょう」
正体を表したオーデン・ソル・キャドー(
jb2706)が、にっこりと微笑んでみせる。(※イメージです)
「さあ、作戦開始と行きましょうか」
「よし、今から裏門を開けにかかるぞ」
同じくおでん屋の店員に扮していた御影蓮也(
ja0709)が、屋台に隠してあった縄付の弓矢を取り出し。
塀の奥にある木に素早く撃ち込むと、そのまま縄を掴んで乗り越える。
しばしの間の後。
開いた門から、蓮也が顔を出した。
「正門に伝令を飛ばしてくれ。『裏の開門、成功したり』とな」
●有栖屋敷正門
その頃、正門側ではちょっとした騒ぎが起きていた。
「たのもう、たのもう!」
騒々しく門前で騒ぎ立てる数名の侍達。
「これはお役人さま、こんな夜更けにどうなされました」
門番が慌てた様子で駆け寄る。騒いでいるのは幕府役人姿の若い男。見れば町医者と見られる女を連れている。
「白穂浪士の一味が数日前有栖邸に入り込み、井戸に毒物を投げ入れたとの通報があった」
「な…本当ですか!」
騒然となる門番に向かって、役人は険しい表情で頷く。
「遅延性の毒だが、発症すれば死に至る。諸君らの中に咳をしているもの、寒気を感じるものはおらんか」
「そ、そう言えば…さっきから寒気が…」
震え出す門番に向かって、黒髪の女医が慌てたように言う。
「いけません。直ぐにでも治療をしなければ、間に合わない」
「今すぐ屋敷内の人間にも伝えるのだ。もたもたしていると死ぬぞ!」
「わ…わかりました!」
蒼白になった門番が、正門扉を開いた時――
「うっ……?」
背後から不意打ちの攻撃をくらった門番は、その場に沈む。
刀を手にした女医もとい黒百合(
ja0422)が、にたぁと笑みを浮かべる。
「あはァ…大丈夫よぉ。そこで寝ていれば、死ぬことはないわァ」
役人姿に扮していた天険突破(
jb0947)も、他の門番を気絶させ。
後方に隠れていた浪士達に向かって、檄を飛ばす。
「突入するぞ、皆俺たちに続け! 一番槍はこの俺がもらうける!」
そのかけ声と同時、白穂浪士達の一斉突入が開始された。
「各々方討入りで御座るッ!!」
騒ぎに気付いた家臣達が次々に現れる中、天城空我(
jb1499)は勢いよく宣言する。
「な、なんだお前らは!」
「自分は白穂藩家臣筆頭、天城空我!主の危急をお救いするのは武士たる者の仕め。いざ、我君の無念を晴らさん!」
斬りかかってくる有栖家臣に向けって、刀を一気に振り抜く。
「雨月蒼燕流白波ィッ!」
\\ カッ //
くうがは ひっさつわざらしきものを くりだした
「なにぃ!」
「まだまだでござる、雨月蒼燕流如月ィッ!」
「ぐわああ、その構えはっ…!」
「雨月蒼燕流桜花ァッ!」
「な、なに?まさかお前…伝説のぐはっ…!」
空我が暴れるすぐ横で、黒百合の怒号が聞こえてくる。
「さてェ、ド派手に参りましょうかァ…各隊、爆発物を準備せよォ!無駄撃ちでも構わん、討ち入りの号砲となすのだァ!やれェ!」
彼女の号令と同時に、激しい爆音が響き渡る。なんか正門まであっさり吹き飛んでいる気がするが、それを言うとさっきのやりとりが無駄になるので見なかったことにする。
「いいかァ、精神的にも肉体的にも物理的にもふところ的にも徹底的に痛めつけるのだァ!」
さすがキングオブGEDOU。心構えからして違う。
この日のために猛訓練させた二人一組の部隊を次々に送り込む。
「一部屋ごとに討ち入り迎撃せよォ! 徹底的に捜索し殲滅しつくせェ!」
すさまじいサーチ&デストロイ戦法開始。おい、これ討ち入りってレベルじゃねぇぞ!
●ちなみにその頃有栖は
「ななななな何事ぢゃ!!! 気持ちよくすやぁと寝ておったのに!!」
鳴りやまぬ爆撃音にさすがに飛び起きていた。
「有栖さま!大変です、白穂浪士の討ち入りです!」
「な、なんぢゃとーー!!」
顔面蒼白の有栖に、家臣は続ける。
「ここは危険です、ひとまずお隠れください!」
「くっ…これだけは、持って行かねばの…!」
細長い箱を懐にしまい、慌てて身を隠しに向かう。
●
時同じくして、裏門組も正門の騒ぎに乗じて突撃を開始していた。
「有栖だけは逃げられるわけにはいかない。必ず捕まえるぞ…!」
蓮也が敵を切り伏せながら屋敷内を突き進む。
さすがは旗本屋敷と言うべきか。深夜だというのに次々に家臣が出てくるのには、感心してしまう。
廊下を走りながら、ふと。
「そう言えば、有栖邸には多くの罠が仕掛けられていると聞いたことがあるな…」
そう呟いた時。
\スコーン/
「くっ…何という、お約束…っ」
頭に降ってきた金属タライが、見事な落下音を響かせる。イイオトダナー
あまりの痛さに蓮也はしばし悶えるが、何とか耐えきり捜索続行しようと一歩踏み出す。
\カコーン/
再び降ってきたタライに、蓮也は怒りの声を上げる。
「二度目のリアクションまで俺は用意していない!」
正直すまんかった。
一方鴉鳥は、得意の抜刀術で雑魚をなぎ倒していた。
「このような罠、私には通用せぬ!」
華麗な跳躍で、仕掛けられていた落とし穴も見事回避。
しかしその直後、頭頂部に何か違和感を感じる。
「……ん?」
頭の上で何かがもぞもぞと動いている。試しに頭を振ってみると、ぽとりと言う音と共に何かが目の前に落ちてくる。
正体を確認した途端、全身が総毛立ち。
「きゃああああああ」
目前でうごめく大蜘蛛に、悲鳴をあげる。実は彼女、蜘蛛が大の苦手なのだ。
「こっちへ来るなああああああ」
暴走した彼女は、もの凄い速度で刀を振り回しながら駆け抜けていく。その勢いたるや、まさに無双状態。
有栖、むしろ逆効果だった\(^o^)/
「くそう、有栖上野介……! この恥辱、のしをつけて返してくれる……!」
怒りに打ち震える鴉鳥。
もはや太珀のことはすっかり忘れているようである。
有栖のお約束な(訂正線)巧妙な罠は、次々に浪士たちを襲っていく。
正門側から進撃を続けていた、突破。ばっさばっさと敵を薙ぎ払いながら、部下の方を振り向く。
「このまま一気に屋敷奥へと突き進むぞ!」
奥へと続く土間に上がり込んだ瞬間、身体の重力が突然無くなる。
「うおおおおお!?」
ずささーと言う音と共に身体が落下。あまりに突然の事に、思わず叫ぶ。
「馬鹿な、この魔女は魔法でも使うというのか!」
「隊長、落とし穴です! て言うか普通に見えてました!」
直後、頭上から沢山の紙が舞い落ちる。一枚一枚に書かれた、謎の文字。
m9 m9 m9 m9 m9 m9
「ぬうう!有栖上野介め、何という卑劣な輩よ」
「大丈夫ですか、隊長!」
「問題ない、ここは俺に任せて先に行け!」
周囲の視線が痛いので、とりあえず先に行かせる。ちょっと涙で出そうだった。でも泣かなった。俺、偉い。
「有栖めェ、どこに行ったァ!」
すぱーんと襖を開け放ちながら、黒百合が怒鳴る。そこを襲いかかる数名の侍。
「曲者め、成敗してやる!」
「ぬるいわァ!」
斬りかかってくる有栖家臣を、いとも簡単に切り伏せ。
徹底的なサーチ&デストロイ攻撃に、有栖屋敷はどんどん白穂浪士の手に落ちていく。
「ここかァ!」
次の襖を開けた時。起爆音と共に部屋が一瞬で燃え上がる。
「かかったな!」
火計を成功させた有栖家臣が、にやりと笑む。炎は瞬く間に黒百合たちを包み込み。身につけた羽織が色鮮やかに、燃え上がっていく。
しかし炎の中、黒百合はまるでひるむ様子も無く。
自ら燃えた衣装を脱ぎ捨てると、刀を突き上げ宣言する。
「ふん、この程度の火で止まる私ではないわァ!」
上半身サラシ姿で、猛攻を続ける彼女。あまりの恐ろしさについに家臣達は逃げ出す者も出始める。
「逃がすかァ! 各隊、徹底的にやれェ!」
やめて、有栖屋敷のHPはもうゼロよ!
●
白穂浪士の目を見張る活躍により、なんだかんだでフルボッコの有栖屋敷。
しかし、肝心の有栖がまだ見つかってはいないのだ。
「有栖め…どうやらどこかに身をかくしたようですね」
がんもどきに変わったオーデンが、蓮也が準備した屋敷見取り図を見ながら、つぶやく。
黒百合の徹底捜索により、屋敷内の部屋は全てくまなく調べ尽くされている。しかしどこにも有栖の姿は無い。
オーデンは、きっと虚空を睨み。
「必ず見つけますよ…この、刺青に誓ってね!」
ばばーんとはだけさせた肩からのぞくのは、大根桜の見事な刺青。小さな大根の断面が、桜の代わりに散っている。芸が細けえ。
やりきった様子のオーデンは、再び見取り図に視線を落とし。
「もし隠れる場所があるとするなら……」
図をなぞる指の先、そこには敷地端におかれた――
「納屋でござる、オーデン殿!」
はっとしたオーデンの目に、空我の姿が目に入る。
既に日本刀を振りかざし、納屋への突入を果たそうとしている。
「お待ち下さい、天城殿! もしかすると罠があるかもしれま…」
「有栖上野介、覚悟ぉ!!」
オーデンが止めるのも虚しく、納屋へ飛び込んで行く空我。
あいつやりやがったとオーデンが青ざめた(※イメージです)時。
\ ち ゅ ど ー ん /
激しい爆撃音と共に、高笑いが聞こえてくる。
「ふははははかかりおったの! この有栖、そう簡単にお主らに捕まると思ったら大間違いぢゃ!」
もうもうと立ちこめる煙の中から現れたのは、ろりBABA…もとい、有栖上野介その人。
納屋の上からオーデンを見下ろし、偉そうにしている。
「くっ…何という卑劣な真似を!」
「心外ぢゃな! 引っかかる方が悪いのぢゃよ!」
見れば有栖は塀の直ぐ側にいる。このままでは、逃げられてしまう。
オーデンが駆け寄るより早く、有栖は身を翻し。
「ではさらばぢゃよ!」
「待ちなさい!」
これは討ち入り失敗に終わるのか。
誰もがそう、思った時。
「有栖めっ逃がしはせぬ!」
「なっ、お主さっき爆発に巻き込まれたのではなかったのか!」
煙の中から突然現れた空我を見て、有栖が大慌ての表情になる。
くうがは ひっさつわざらしきもので わなをかいひした
「有栖上野介、捕らえたりいいっ!」
「なぜぢゃああああああ!」
有栖の悲鳴と空我の宣言が、同時に上がり。
白穂浪士たちの歓声と共に、彼らの討ち入りは決着がついた。
●最後はやっぱり、お約束
「放せ、放すのぢゃ!」
縄でぐるぐる巻きにされた有栖は、浪士たちに囲まれながらも全く強気な態度を崩さない。
「あらァ、どうやら徹底的に爆破されたいみたいねェ…」
黒百合のドスの利いた一言に、有栖はうぐぐと黙り込み。今度はおいおいと泣き落としにかかる。
「し…仕方なかったのぢゃよ。私も多くの家臣を抱える身…話をすれば、太珀とてきっとわかってくれるはずぢゃ…!」
それ聞いた鴉鳥は、呆れように。
「我らが主君は、他を犠牲にしてまで罪を逃れようなどとはせぬ。下らぬ言い逃れだな」
「な、何おう!」
「とりあえず、正座な」
「はい、すみませんでした」
蓮也に言われて大人しく正座。
「の…のう、ならばこれをやるから見逃してはくれぬか?」
有栖の懐から取り出されたものを見て、突破が反応する。
「そ…それは、伝説の『とっておきのかすていら』…!」
「目の色が変わったのう!これは美味いぞ、一度食べたら忘れられない味ぢゃからのう!」
調子に乗る有栖に、オーデンが微笑み。
「いいでしょう、では皆と話し合ってみますから」
そう言うと、空我に向かって問いかける。
「天城殿、どうしますか?」
「え、ああすまぬ話を聞いていなかった。さあ、いざ有栖を爆破せん!」
「話を聞けえええええええええ!!」
有栖は盛大に、爆破された。
●全て、終わって
「お〜派手に逝ったな〜、一仕事後のかすていらはうまい」
有栖屋敷上空に上がった花火を眺めながら、蓮也がつぶやく。空は既に、白み始めている。
寒い夜も、もうすぐ終わりだ。
それを聞いた突破が、感慨深くうなずき。
「ああ。太珀内匠頭殿も、草葉の陰で喜んでくれているに違いない」
太珀、生きてるから! まだ死んでないから!
「あらァ、朝陽が登ってきたようねェ…」
黒百合の言葉と同時、東の空からまばゆい光が浪士達を照らす。皆が待ち望んだ、夜明けだ。
「見事な朝焼けでござるな!」
空我の言葉に、全員がうなずき。
「使命は、果たせた」
鴉鳥がそうつぶやくと同時――
夢は終わりを告げた。
●
翌朝。
「何だかよくわからない夢を見ましたね…」
目覚めたオーデンは、独りごちる。
記憶が曖昧だが、とても楽しい夢だった気がする。
「…とりあえず、朝食といきましょうか」
そんな彼を待っているのは、二日目のおでんだった。