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マスター:久生夕貴
シナリオ形態:イベント
難易度:やや易
形態:
参加人数:25人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2012/12/24


みんなの思い出



オープニング

 ある冬の晴れた日。
 きん、と冷えた大気とまぶしいほどの陽差しが、学園を包み込む中。
 斡旋所スタッフの西橋旅人(jz0129)は一言、呟いていた。

「……ここ、どこ?」

 先程までは確かに学園内にいたはずなのに。
 目の前に広がるのは、見渡す限りどこかで見たような市街地。
 高層ビルが建ち並び、遙か視線の先には何やらタワーのようなものさえ見える。
 しかしどこか作り物めいたものを感じるのは、若干ディティールの甘さを感じるせいだろうか。
「……誰もいない」
 周囲を見渡してみるが、自分以外の人間は誰もいない。
 ふと気付くと、何か手にしていることに気付く。見ると、どうやらロケットランチャーのようだった。
(こんなにロケットランチャーって軽いものだっけ……?)
 いや、細かいことを気にしてはいけないのだろう。手首にある切り替えボタンを押すと、一瞬でロケランは姿を消し代わりにアサルトライフルが現れる。
「……なるほど、これを使えってことか……」
 旅人がそう、つぶやいた直後。

『緊急事態発生、緊急事態発生!』

 突然どこからかサイレン共に女性の声が響き渡る。

『市街地にて謎の巨大生物が出現! 多数の被害が出ています。隊員は今すぐ現場へと向かって下さい!』

「ええ? 現場って……どこ?」

 慌てる旅人の目の前に、モニタが出現する。すると市街地マップ上に赤い点が大量に現れているのが見える。
「この赤いのが敵……ってことでいいのかな」
 現在地からはすこし距離がありそうだった。とにかく、旅人は赤い点の群れに向かって走ってみる。
「この角を……曲がればっ」
 高層ビルを曲がった瞬間。
 彼の目に、絶望的な光景が目に映る。

 そこに現れたのは、見渡す限り敵、敵、敵。
 数十匹、いや下手すると数百匹いるのかもしれない。
 市街地を埋め尽くす自分よりも遙かに大きな巨大昆虫の群れが、一斉にこちらを向く。

「隊長! 凄い敵の数です!」
 いつの間にか現れていた隊員が、口々に怒声をあげている。
「ひるむな! 我々は久遠防衛撃退軍(Kuon Defence Force)! 命を賭けて久遠を守る!」
「KDF! KDF!」
「うおおおおお俺たちは、久遠を守るのry」

「いや、これは普通に無理かな」

 旅人は微笑みながら、リセットボタンを押した。


●久遠ヶ原学園

「ちょっ……ここで戻ってくるとか! ここからが面白くなるっていうのに!」

 かけられた声に、旅人は振り向く。ここは久遠ヶ原学園の一角。戻ってきた彼に憤るのは、彼の旧友である三星民高(みつぼしみんたか)。
「ごめんね、民高。僕一人ではさすがに無理そうだったから」
「あそこは常識的に『俺も久遠を守るんだうおおおおお』ってロケランぶっ放して突撃かますところだろ?」
「そ、そうだったんだ……全然知らなかったよ」
 申し訳なさそうにする旅人に向かって、民高はため息をつく。
「これだからゲーム慣れしてない奴は……」
 そう言って彼は何事か考え込んでいたようだが。急にぱっと思いついたような顔になる。
「まあいいや、旅人。ちょっと頼みたいことがあるんだけど」
「うん?」
「どうせだからさ、総力戦ってのを一度これでやってみたいと思ってたんだよね」
「え……」
「斡旋所で募集してくれよ。俺の作ったバーチャルゲームに参加して、戦ってくれる奴をさ!」


 数日後、以下のような依頼が掲載されることとなる。

『求む、久遠防衛撃退軍隊員!』

 皆さんの熱い思いで、久遠を守ってみませんか?
 経験その他不問。やる気と熱意があればOK!
 さあ、そこの君もKDFで熱き戦いを!

 ※尚、この依頼で生命の危険はありませんが、虫嫌いの方は著しいトラウマを植え付けられる可能性があります。



リプレイ本文




「俺、この戦いが終わったら結婚しようと思う」

 手にしたスナイパーライフルで肩をとんとん、と叩き。
 ミハイル・エッカート(jb0544)は低く、つぶやく。
 サングラスの奥で細められる瞳。その視線の先にあるのは、ビルの群れ。

 微かに、風が吹いただろうか。

「――待っていてくれ」

 待つ相手など実際はいないが、そんなことは問題ではない。 
 ライフルを構え、引き金に指をかける。口元に浮かぶのは、全てを受け入れし笑み。

 この物語は、聖夜に送る奇跡。
 盛大なフラグ立て乙と共に。

 久遠ヶ原防衛撃退軍、ここに開幕。
 


 悲劇は既に、現場の外で起こっていた。
 ゲーム内に入った25人の撃退士たちを、モニタの向こうから見守る人物がいる。斡旋所スタッフの西橋旅人(jz0129)と当ゲームの作成者である三星民高だ。
 民高が、旅人に話しかける。
「旅人、ちょっと頼みたいんだが」
「うん? 何かな」
「みんなこのゲーム初心者だから、難易度を一番『易しい』モードに切り替えておいてくれよ」
「わかった。このボタンでいいんだよね」
 旅人に向かって手を振る友人の加倉一臣(ja5823)に、微笑みながら。彼は先程のことを思い出していた。
 開始直前、リョウ(ja0563)から頼まれていたことがある。
「難易度の件で、皆に内緒で頼みたいことがある。『インフェルノ(地獄)』にしてもらえないだろうか」
 ゲームをしたことがない旅人は、その意味がよくわからなかった。後で民高に聞こうと思っていたのだった。
「ちょうどよかった。多分リョウ君は皆の為に、難易度調整を頼みに来てたんだ」
 つまり、インフェルノ(地獄)とはすなわち『易しい』モードのことなのだろう。

 旅人は一臣に手を振り返しながら――

 笑顔で『インフェルノ(まごう事なき地獄)』ボタンを押した。

●ゲーム内市街地

「あれ…俺今なんか、壮絶な死亡フラグを得た気がする」
 迫り来る悪寒を振り払うように、一臣はぶるりと身体を震わせる。
 その様子を見つめる、無機質な視線。
「3回までは誤射…」
「こっち見んな、遙久。それと心の声だだ漏れだからね!」
「冗談に決まっているだろう」
 夜来野遥久(ja6843)が微笑みながら返す。しかしその目は笑っていない。(一臣は即座に急所外しをセットした!)(だがそれは妄想だった!)
 そんな遙久の隣でやる気に満ちあふれている男がいる。彼の親戚であり、親友でもある月居愁也(ja6837)だ。
「俺はお約束は守る男……!」
 手にした手榴弾を高々と掲げ。愁也は大好きな親友の元へと全力接近する。
「遥久! 俺と一緒に死んd」
 すかさず撃ち込まれる顔面キック。めり込む靴裏は脳髄にまで達しているような気がするが、大丈夫だ。問題ない。
「やあ兄弟、共に生きて帰りたいものだな(棒読み)」
「くそっ、絶望した! そして顔が戻らねえ!」
「そのまましゃべれるって凄いよね(意:俺やらなくて本当によかった)」
 ふるえる一臣を従え。遙久は顔がめり込んだままの愁也の首根っこを掴み、北東の巣を目指す。

 同じく、北東へ向かう集団がいる。

「こういうのって、みんなでわいわい遊んだ方が楽しいよね! ってことで、いざ突撃開始だーっ!」
 モブ隊を引き連れながら巣へと特攻するのは、武田美月(ja4394)。
 アサルトライフルを手に、怒声をあげる。

「聞け、隊員!」
「何でありますか!」
「敵の攻撃をかわすときは、横っ飛びで行え。なぜならKDFは敵に背中を向けないからだ!」

「「「「イエッサー!」」」

「良い返事だ! 行くぞ同胞!」
「地獄で会いましょう、隊長!」

 さすがはKDF、交戦前から飛ばしまくりである。
 そんな美月達の近くで、突き進む影。

「偶にはこういうゲームも良いかな。命がけの戦いばかりだし、息抜きに丁度良い」
「ああ、気分転換には良かろう。楽しむさ」
 落ち着いた様子で突撃する、天風 静流(ja0373)と神谷・C・ウォーレン(ja6775)。
 二人とも息抜きになればと思い、参加していた。

 しかしながら、諸君。思い出してみて欲しい。
 認めたくない事実だが、不幸な事故によりこの場は地獄の舞台へと化している。

 そう。息抜きどころか、生き抜くことさえ難しい。
 そんな現実が、彼らの目前に迫っていた――

「来たか」
 静流の前に現れた巨大アリの群れ。四メートル近い巨体が、猛スピードでこちらに向かってくる。
 彼女はすかさず手榴弾に持ち換えると、勢いよく群れの中央へ投げ入れる。
 一瞬の閃光の後。
 激しい爆撃と共に、数体のアリが上空へ吹っ飛ばされる。
「威力は折り紙つきだ…受け取れ」
 さすがは高威力性能。つんざくような悲鳴と共に、次々に巨体が舞い上がる。
「撃ち漏らしは任せろ」
 素早く前に出たウォーレンが、爆撃を避けた蟻にアサルトライフルを撃ち込みまくる。
 小気味よい連射音と共に、蟻が崩れ落ち。
 しかし敵の数はまだまだ多い。
「どういうことだ…数が一向に減る様子が無い」
 そう。敵の数が多すぎるのが、このゲームの仕様。あり得ない数の虫が、倒しても倒しても涌いてくる。
 その非常識な数に、ウォーレンも苦笑し。
「おい…いくら何でもバグじゃないのか?」

 \いいえ、デフォです/
 \絶望の無い、KDFなんて!/

 突然現れたテロップにウォーレンは民高を撃ち殺したい気分だったが、今はそれどころではない。気を抜けば即刻蟻に囲まれてしまう状況なのだ。
 地表を埋め尽くす敵軍を、静流はまっすぐに見つめ。
「だが…そう簡単には、終わらん」
 呟いた直後。
 彼女を襲おうとした蟻を、後方から飛んできた銃弾が吹き飛ばした。

「アハハハハ! 蟻、蟻! 吹っ飛ばすよぉ!!」
 スナイパーライフルを構えたまま、狂気に満ちた笑いをあげる。遙か後方の高層ビルから狙い打っていたのは、雨野挫斬(ja0919)。
「後ろは任せろ」
 同じくライフルを手にエルフリーデ・シュトラウス(jb2801)がにやりと微笑む。
 二人は後方から前線支援を行っているのだ。 
「ヒャハハハハ! 強い敵を殺すって愉しい! 愉しいよぉ!アハハハハ!!」 
 ひゃっはー状態で撃ちまくる挫斬。
 どう見ても目がヤバい気がするが、断じてゲームのせいでは無い。(民高:「何でもゲームのせいにするのは、よくないと思います!」)
 一匹ずつクールに撃ち込みながら、エルフリーデも微笑み。
「ふむ…建物で虫を潰せるか試してみるか」
 そう言って、その辺の建物にロケランをぶっ放してみる。爆風と共にビルはあっさりと崩れ落ち、蟻共々派手に吹っ飛んでいく。
 そのさまを見た彼女は。
「あれこれなんか凄く愉しいやばいまじこれ凄く愉しい大事なことなので二回も言ってしまったんだがどうすればいい?」
 どう見ても目がヤバい気がするが、完全にゲームのせいだった。(民高:「正直すまんかった」)
  
 そんな後方部隊に守られながら、前線隊が巣へと侵攻を続ける一方で。

 この北東部、別ルートから巣へと向かう者たちもいる。
 
「まとめて爆破して道を作るわよ!」
 手榴弾を手にした月丘結希(jb1914)が、勢いよく叫ぶ。
 彼女の装備は、まさかの手榴弾×2。自らの防御は全く考えない潔さ。いや、待て。ほんとにその装備でいいのか?
「いいんです、なぜならボクが支援しますから!」
 スナイパーライフルを手にした杉 桜一郎(jb0811)が後方からぶっ放す。
 結希が自爆寸前の所で、群れの中央に次々に爆弾を投げ入れる。そこを襲うとする蟻を桜一郎が優先的に攻撃。
 あまりにもぎりぎりプレイだが、何故か何とかなっている不思議!
 モニタを見ていた民高が叫ぶ。
「こ…これが噂に聞いた、陰陽戦隊☆テラノアトトリーズか!」
「え、何それ(旅人)」

 そんな陰陽戦隊が謎のコンビネーションを見せる中、華麗なアンダースローで手榴弾を投げている者がいる。
「虫ども、身分をわきまえなさい」
 その巧みなる技で蟻を爆破、オーデン・ソル・キャドー(jb2706)だ。
 彼の投球は地を這うような揺れる魔球。悪魔が投げるから魔球。上手いことを言った気がしたが、そんなことは無かった。
 次々に蟻を吹っ飛ばしながら、オーデンは言い放つ。
「お前たちにやるおでんなど、この地上にハンペンの一かけらだって存在しないのです」
 貴様実は名前で出落ちてたのかとか、この悪魔よく見たら頭にがんもどき被っちゃってるよとか、そう言やうちのおでんにはハンペン入ってないなとかツッコミどころが多いが、とりあえず言いたいことは言わせてもらう。

 おでんは、大根が美味しいと思います!(当社比)

 色んな意味で選手層の厚い北東部。果たしてどんな戦いを見せてくれるのか。

●北西部

 その頃、北西側も動き始めていた。

 一陣の風が、吹く中。

「この戦いが終わったら、アイツと…」
 建物の影から最前線で特攻しようとするのは、七種 戒(ja1267)。
 首から提げたロケットペンダントをそっと開け。中の写真にキスして胸ポケットに押し込む。
「ふ…お前もか」
 側で見ていた強羅龍仁(ja8161)が、手にした懐中時計をぱちん、と閉じる。
「戦いが終われば、本土に残した息子を迎えに行けるな…」
 それを聞いた戒は、にやりと口角を上げ。
「ああ…お互い、これが最後の戦いってやつだ。生きて帰ることを願おうか」
 直後、二人の背後に黒い影が音もなく現れる。

「――源一、か」
 振り返らずその名を呼ぶ。
 静馬源一(jb2368)が、低くつぶやく。
「お二人のことはこの源一、命をかけてお守り申すで御座る」
「…お前はまだ若い。先急ぐな」
 龍仁の言葉に、源一はゆっくりとかぶりを振り。
「待ち人を悲しませるわけにはいかぬ故。自分はこの道を選んだ時から、いつでも覚悟はできているで御座るよ」
「源一…世話をかける」
 戒が苦渋に満ちた表情でうなずく。この先に待ち受ける死闘の匂い。それがわかっているからこそであった。

 ふと、視線を感じ振り向く。

 そこには後方から三人を見やる、男の姿。
「ミハイル……!」
 彼らへ向け、ミハイルはふっと笑みを見せる。
(行けよ、お前の背中は俺が守ってやる)
 その目が語るのを、黙って受け止め。

 彼らの命を賭した戦いが、始まる。

(※この物語は、何から何までフィクションです)


 前線がこだわりの悲壮感漂わせる後方で、礼野智美(ja3600)と小田切ルビィ(ja0841)は全く違ったことを考えていた。
「虫は平気だ。田舎育ちは伊達じゃない」
 ロケランで勢いよく蜘蛛を吹っ飛ばしながら、智美は特攻する前線組を支援。
 一匹ずつ確実にしとめながら、彼女は独りごちる。
「このゲーム…スキル使用まで反映してくれると、集団訓練として使えるんだが…」
 このインフェルノにおいて、まさかの訓練利用を考える。
「不幸な事故が起きたと言うのに、何という余裕。そしてその発想は無かった!」
 民高が感心したように、モニタ前で叫ぶ。

「KDF〜?…生徒が作ったってマジなのか? これは後日制作者に取材を申し込まねえとな!」
 同じく前方にロケランを撃ち込みながら、ルビィは宣言する。敢えて前線から距離を置いているのは、自爆特攻に巻き込まれない為。
 突撃取材を終わらせるまで、離脱するわけにはいかないのである。
 周囲を観察しながら、彼は感心した様子を見せ。
「無駄にリアルなプログラムだな……ゲーム会社に売り込めば、結構イイ線イケるんじゃね?」
 このインフェルノにおいて、まさかの商業利用を考える。
「不幸な事故が起きたと言うのに、何という余裕。そしてその発想は無かった!」
 民高が食い入るように、モニタ画面を叩く。

 何というか……凄く、冷静です!

「色々な意味で、前線との対比が素晴らしいな……」
 その頃、ビルの上にいる鳳 静矢(ja3856)は、苦笑していた。手にはスナイパーライフル。前・中衛組の援護を、屋上から行っているのである。
「笑ってる場合じゃないけど、その意見には全面同意するわ……!」
 同じくSライフルで敵を狙い撃ちしながら、ナナシ(jb3008)がつぶやく。
「ねえ、私まだこっちの世界のことよくわかってないんだけど。聞いていい?」 
「ああ、構わないが」
 不思議そうな静矢に対し。ナナシはどこか楽しそうに訊く。
「人間って、どうしてこんな馬鹿げたことで一生懸命になれるの?」
「それは……」
 静矢は一瞬考える様子を見せ。幼い容姿の同級生に向かって、微笑んでみせる。
「君が今、一生懸命である理由と同じでは無いのか?」
「…なるほど。違いないわね」
 同じくにっと微笑み。人と悪魔は並んで敵をねらい打つ。 
 
 ちなみにこの北西部。
 もう一人、巣へと向かっている者がいた。

「フ…溜まっているフラストレーション、ここで発散させて貰おうか」
 ロケラン片手に不敵に笑む男。大量のモブ隊を引き連れた、リョウである。
 この地獄において、モブ隊を生き残らせるという絶賛縛りプレイ中の彼。どんだけマゾなんだと突っ込みたくなるが、もちろん彼は本気だ。
「隊長! 見てください、あれを!」
「くそっ……虫けらどもめ。もうあんなところまで……!」
 口々に語りかけるモブ隊を制し。
 リョウは高らかに宣言する。

「案ずるな。お前達は俺が守る。なぜならこの俺が伝説の傭兵、ス●ーム1だからだ!(ばーん)」

 こいつ……言い切りやがった!
 しかし、言い切るだけの資格が彼にはあった。
 無闇に武器を切り替えながら、ジャンプローリングでの移動。そう、普通に走るのは素人のやること。伝説の傭兵なら走って移動などしない!
「総員、俺に続け!」
 
「「「イエッサー!」」」  

 混戦を極める北西部。
 果たして生き残るのは、誰なのか。


●中央部

 市街地に散らばる虫退治を行う者もいる。

「本当に人間というのは、こういったものを作る才がずば抜けているな」
 アサルトライフル片手に周囲を観察するのは、蒼桐遼布(jb2501)。
 冥界ではこんな遊びを見たことが無かったため、興味津々なのだ。 
「様子見た感じ、かなりの無理ゲーのようだけど…まぁそういったのも気軽に楽しめるからゲームっていいよな」
 リトライが可能なのは、現実との大きな違い。遼布は思い切り楽しむつもりで、ここへ来ていた。
「とは言え…冗談抜きでこれは無理ゲーだな」
 圧倒的な敵の数は、予測を遙かに超えており。(民高:「不幸な事故のせいです」)
 それでも生き残りをかけて、遼布は全力で立ち向かう。
 
 その後方で、ロケットランチャーをぶっ放す者が居る。
「よくわからねェが…つまりはぶっ潰せはいいって事だろ? やってやらァ」
 さらしに特攻服姿をした、火之煌御津羽(ja9999)だ。
「売られた喧嘩は買うのが礼儀ってモンだからなァ! 覚悟しやがれ虫ども!」
 燃えさかる炎の様な髪を振り乱し、次々に爆風を巻き起こす。
 ちなみにいつもの戦闘服で参加した彼女だが、この地獄においてこれ以上無いというマッチング。
 まさに特攻以外の選択肢は無いと言うレベルは、他の追随を許さない。

 一方、先の二人とは若干毛色が違うのが星杜 焔(ja5378)である。
「ゲームかぁ〜面白そうだねぇ。血湧き肉躍るねえ」
 にこにこと微笑みながら、凄まじいガンシューティングを披露。
 あり得ない速度で連射を重ねていく。(民高:「どう見てもプロの犯行です。本当にありがとうございます」)
「アサルトライフル連射はあはあ。手榴弾爆破はあはあ」
 完全にアブナイ人であるが、中学の遠足で行った遊園地で、一人でずっとゲーセンに篭っていたぼっち能力は伊達じゃない。
「悪いけど、消えてもらうねぇ」
 ローリングで蟻の攻撃を避けながら、すかさず弾を撃ち込む。
流れるように敵を殲滅していく様は、戦場を駆け抜ける修羅のごとく。

 そんな焔を影で観察している者がいる。
「くくっ…私の前にあらわれたのが間違いだったな!」
 ロケラン片手に妖しい笑みを浮かべている、ラグナ・グラウシード(ja3538)である。
 二つ名は誰が呼んだか「非モテ騎士」。
 当然彼女なんていたこともなく、クリスマスもシングルベルを鳴らすどころかリア充爆破に向かうひたむきさ。(民高=彼女無し:「まさに非モテの鏡! 感動した!」)
 そんなラグナ、実は知らない間にリア充と化していた元同志・焔のことを深く憎悪しており。
 戦場の混乱に乗じて爆破してやろうと、目論んでいるのである。

 不穏漂う中央部。
 この先、何が起こるのかは誰にもわからない。


 さて、諸君。役者はこれで全て揃った。
 このインフェルノにおいて、彼らが最終的にどう戦い抜き、何を選んで行くのか。
 それぞれの生き様を、観察者二人と共にしっかりと目に焼き付けて欲しい。

 旅人:「(机ばーん)事件は会議室で起きているんじゃない、ゲーム内で起きているんだ!(意:本当にみんなごめん)」
 民高:「さあ、聖夜の死闘の始まりだぜえええ!!」


●進撃の北東部

「ヒャハハハハ!死ぬ!蟻の酸にやられて死ぬんだよぉ!!アハハハハハ!!!」

 狂声をあげながら迫り来る蟻に向けて、挫斬は手榴弾を投げつける。
 さすがはインフェルノ。敵の勢いはとどまることを知らず、既に後方である彼女の元まで辿り着いていた。
「くっ……この距離で遠距離武器を使うのは苦しいな」
 エルフリーデが顔をしかめる。あっという間に距離を詰めてきた蟻共に、逃げ場を失いつつある。
 しかしビルから降りれば、そこからは地上戦だ。自分が持っている武器では圧倒的に不利。
「そう簡単に降りるわけには…ってうおいいぃぃい!?」
 
「最終奥義!人間花火〜〜!!な〜んちゃって!!」

 目に映ったのは、手榴弾を抱えながら勢いよくダイブしていく挫斬。
「おい、ちょっと待て! その距離で爆破したらあるぇぇえええ」

 \ ち ゅ ど ー ん /

 空中自爆をした挫斬の爆風により、二人がいたビルはあっさりと崩落。エルフリーデも蟻共々吹っ飛んでいく。
「こ、こんな所で星になってたまるか! 私はまだ戦える……!」
 何とか着地を果たす。しかし耳に入ったのは、ピコーンと言うアイテム取得音。

 ―突撃モード、開始―

 エルフリーデは爆破力がアップした!

 強制特攻モードが起動した!

「阿呆かぁあああ! 遠距離武装で突撃なんて出来るかぁ!! でもやるしかないんですよねわかりますぅううう!!!」

 キャラ崩壊甚だしく敵陣へと突っ込んでいくさまは、涙を誘う。
 先陣切った盛大なる自爆に、乾杯。

 雨野挫斬、エルフリーデ・シュトラウス:離脱

 
●死闘の前線

 その頃、北東前線でも激闘が繰り広げられていた。

「くうっ……何という、敵の数!!」

 アサルトライフルを撃ち続けながら、美月が声を漏らす。
 常識では考えられない敵の数に、巣へ近づくことすら出来ない。既に前線は満身創痍だった。
「隊長、無事でありますか!」
 駆け寄るモブ隊の数も、残り少ない。そのほとんどは、蟻の攻撃に沈んでしまった。
「私は大丈夫だ。すまない……部下を、守ってやれなかった。私が無力なばかりに!」
 苦渋の表情を浮かべる美月に、隊員は怒ったように言う。
「何を言っているんですか。俺は隊長と戦えたことが、生涯の誇りであります!」
「しかしこのままでは全滅するのを待つだけだ!」
 弱気になっている美月に、隊員はあっけらかんと笑い。
「胸張ってください、隊長。貴女と共に散れるのならば、この命、爪の先程も惜しくありませんよ」
「私もです。さあ、我々に命令を!」
「みんな……」
 気力を取り戻した美月は、立ち上がる。
 今やれることは、恐らく一つ。
 道路に落ちているアイテムに近づこうとした時だった。

「待って。その覚悟、あたしたちも乗らせてもらうよ」

 かけられた声に振り向く。そこに立っていたのは、陰陽師二人。

 彼らを見たモブ隊が、驚いたように叫ぶ。
「いけません!これは我々の仕事。あなた方まで巻き添えになる必要は無い!」
 その言葉に、結希はかぶりを振り。
「それは違うよ。手榴弾しか持ってない時点で、あたしの役目は決まってる。だから、これは巻き添えじゃなくて意志による特攻なんだ」
「ええ。どのみちきみたちだけでは恐らく火力不足。パートナーが行くなら、ボクも異存はありませんから」
 桜一郎の意志も固い。
 二人の様子を見た美月は、まっすぐに二人を見据え。

「……わかった。協力、感謝するよ」

 そして再びアイテムへと近づき。
 迷い無く、拾い上げた。


 ――突撃モード、開始――

 美月は、攻撃力がアップした!

「聞け、隊員」
「なんでありますか隊長!」
「今より、特攻を開始する。命が惜しくないものは私に続け!」

「「イエッサーーー!!」」

 怒声を上げながら巣を守る敵軍へ向かって、ロケランを撃ち込み始める。

 陰陽師達も即座にそれに続き。

「陰陽戦隊、これより最期の作戦を開始する! レンジャー桜一郎、パターン3クイックB攻撃開始!」
「了解です、レンジャー結希! ボク達の持てる力、全てぶつけてやりましょう!」 

 二人とも手榴弾を手にし、敵軍へとまっすぐに突撃していく。

「「「輝く後光、東洋の神秘! 陰陽戦隊☆テラノアトトリーズ見参!!」」

 彼らの猛攻は凄まじいものだった。
 数百という敵を爆破し、自爆を省みず突き進む。

「最期は派手にやれーっ! それがKDFの誇りだーっ!」

「「うおおおお俺たちは久遠を守るんだあああああああ!!!」」

 激しい爆音と敵の悲鳴があがる中。
 彼女達の命の炎が、鮮やかに燃え上がる。

 巣への突破口を、切り開いて。

 武田美月・杉 桜一郎・月丘結希:離脱


●ギャップひでえ

 美月達が開いた突破口を足がかりに、前線隊は巣へと進撃を続けていた。
「何とか巣へは辿り着いたが……なんだ、これは」
 静流が微かに眉をひそめる。目前の地表が盛り上がり、大きな塚のようになっている。
「思ったよりも大きいな。攻撃を加えれば本当に壊れるのか?」
 ウォーレンが試しに撃ってみる。爆撃はもろに巣へと直撃したが、巣はびくともしない。
「駄目だな。これはちょっとやそっとじゃ落ちないぞ」
「ええ。壊すのにかなりの時間がかかりそうです」
 前線に合流していたオーデンもそう、呟いた時だった。

 ざりりっと言う音と共に、巣から再び大量の蟻が湧き出てくる。恐らく、一定の時間ごとに敵が出てくる仕組みになっているのだろう。
 あっという間に、三人は蟻に囲まれてしまう。
「くっ……これでは巣を攻撃するどころではない」
 静流がすかさず弾を撃ち込むが、どんどん敵の数は増えてくる。オーデンも手榴弾を投げながら言い放つ。
「虫共、おでんに触れることだけは許しませんよ。これをくらいな…しまった! 手榴弾と間違えて煮卵を投げてしまいました!」
 大丈夫か、このおでん悪魔。


 その頃、やや遅れて北東巣へと辿り着いた者達がいた。
 一臣、愁也、遙久のパーティである。
「はあ…はあ…敵の攻撃以外で既に満身創痍な気がするけど、ようやく着いた」
 度重なる誤射にもめげなかった一臣の目に、不思議な影が映る。
「あれは……子供?」
 目の前に、道化の姿をした子供が立っている。しかもその子供、敵軍の中にいて全くの無傷だ。
(何だか…嫌な予感がするな)
 こんな状況で無傷でいるなど、どう考えても普通じゃない。それなのに、内から沸き上がる衝動が、一臣の中を支配しようとしていた。
 かろうじて顔が戻った愁也が、軽い調子で言う。
「こんな戦場に子供一人? 可哀想じゃん。あ、加倉さんの方見てるぜ!」
「何故だろう…無性におんぶしたくなる。ハッ、これが……父性!」
 父性と言う名の衝動、赴くままに。一臣はにこやかな少年をその背に背負ってしまう。遙久が「こいつどう見ても終わってる」と言う表情をしているが、いつものことなので多分大丈夫だ、問題無い。
 背負われた道化少年は、急に薄い笑みを浮かべ。
「ふふ…貴方にはまだ熱さが足りないようですね。これを差し上げましょう」
「え」
 少年、手にしたアイテムを一臣の後頭部に勢いよく投げつけた。


 ―突撃モード、開始―

 一臣は、攻撃力がアップした!

「…愁也、遙久。俺は行く。さらば心の友よ!」
「え、加倉さんどうしちゃったんだよ!」
 愁也が一応止めるのも虚しく、いきなり敵軍へと走り出す。

「加倉の鰹節は世界一! ご贈答、お歳暮にいかがですかあああああ!!!」

 熱き魂の叫びと共に特攻していく一臣。鰹節もとい手榴弾を次々に投げ入れ、自身もろとも吹っ飛んでいく。
 そのあまりの猛攻に、後方で見ていた愁也は崩れ落ち。
「加倉さん、あんたはよく頑張った…もう…休めっ……!」
 閃光煌めく中、振り返った一臣は。

 微笑んでいた。 

「俺、知ってた。こうなるって、知ってた……!」
 
 派手に散っていく一臣に、敬礼をし。
 愁也は隣で呆れる親友に対して、涙をぬぐいながら言う。
「遙久。俺たちは大きな勘違いをしていたようだ」
「何がだ?」
「KDFの真実を。俺は、今知った」
 何のことかわからず眉をひそめる友に対して。
 愁也は真剣な表情で言い放つ。

「K(かずおみ)D(どうみても)F(ふるぼっこ)だったんだよ…!」

 だめだこの阿修羅、早く何とかしないと。

 遙久は手にした武器を握りしめ、躊躇無く誤射する。

「あるぇえええええええ」

 吹っ飛んだ愁也の頭上に、道化少年が落としたアイテムが降り注ぐ。

 ―突撃モード、開始―

 愁也は、女子力がアップした!

「タケシ、また店番さぼってたのかい! 母ちゃん許さないからね!」

 そんな、声まで変わって!
 
 まごう事なき女子力がアップ(しすぎた)した愁也は、ロケラン片手に巣の中央へと特攻していく。
「逃げようたって、許さないよ!!!」
 あり得ない至近距離でロケランを撃ちまくる友を見て、遙久はつぶやく。
「それでも旗色は悪い……か」
 あまりにも敵の数が多い。と言うか多すぎる。やりすぎだろと制作者に抗議したい。(民高『不幸な事故のせいである』)。
 前線の三人(静流・ウォーレン・オーデン)はぎりぎりの所で戦っている。このままでは後数分も、もたないだろう。
 三人(愁也は無視)が力尽きる寸前である中、遙久は迷っていた。
(これを…使うべきか)
 手にしているのは、先程手に入れた武器。
「…いや。威力も性能も不明なものを使うほど、私は愚かではない」
 そう思い直した時。聞こえてきたのは、道化少年のささやき。

 手にしたら 撃つのが道理 じぇのさいど

 はっとする遙久に、悪魔の実が手渡された。

 ――突撃モード、開始――

 遙久は爆破力がアップした!

 ふ、と微かに笑みを浮かべ。
 彼は前線をまっすぐに見つめると、かぶりを振る。
「そう、私は手に入れたからと浮かれて即アイテムを使うほど、愚かな者たちとは違う」
 目前で散っていった友や、現在進行系で暴れる親友にため息をつき。
(二人とも不可抗力でこうなったような気がするが、些細なことである)
 遙久はじぇのさいど砲を構え、ゆっくりと呟いた。

「慎重に慎重を重ね…あ、手が滑った」


 聖夜の誤射の鐘が、響き渡った。




「うーん、ちょっと威力数値を一桁間違えたようだな」
 モニタを見ていた民高が、あっけらかんと言う。
 遙久の放った砲撃は、とにかく凄まじかった。
 広範囲のキャノン砲は味方もろとも全てを吹っ飛ばし、たった一撃で巣を撃破。前方一キロは焼け野原という状態である。
「まあ、どのみちあのままでは巣は落とせなかっただろうから、よかったんだろうけど。ただ……」
 民高はうーんと唸り。
「あれボスに撃ち込まれたら一瞬で終わるなー。しょうがない。彼にはこっちに戻って来てもらうか」

 そんな大人の事情により、遙久は強制ゲームオーバーで戻される。
 この地獄を早く終わらせることよりもゲームバランスを取った友人に、旅人は顔を覆うしかないのであった。

 加倉一臣、月居愁也、夜来野遙久、天風静流、神谷・C・ウォーレン、オーデン・ソル・キャドー:離脱


●過酷な北西部

 北東部がまさかの全滅をした頃、北西部でも激闘が繰り広げられていた。
「こっちは蜘蛛地獄ってやつか……」
 敵軍に弾を撃ち込みながら、戒は呟く。彼女の周りには、糸を吐きながら飛び跳ねる大量の巨大蜘蛛。
 次から次へと涌いてくる蜘蛛の大群は、容赦なく隊員を取り囲み。彼ら目がけて無数の糸が吐き出される。
「戒殿、危ないで御座る!」
「来るな、源一。お前まで巻き込まれるぞ!」
 巧みに糸を避けていく戒だが、いかんせん量が多すぎる。
「避けきれない……ここまでか!」
 そう思った時。
 彼女を襲おうとした蜘蛛を、どこからか飛んできた銃弾が吹っ飛ばす。
 
「モブとは違うのだよ、モブとは……!」

 そこにはアサルトライフルを手にした龍仁が、立っていた。
 戒をちらりと見やった龍仁は、ふっと笑みを浮かべ。
(お前は何があっても助けると、約束しただろ?)
 対する戒も、にやりと笑みを返し。
(フ…礼は、後でな?)
 互いに視線で語り合う。

 だがしかし、現実の壁は途方もなく厚く。
 一向に減る様子の無い敵に、前線は徐々に押され始めていた。

●混迷の中央部

 一方、中央部は混乱を極めていた。
「ふははははっ喰らえ、正義の一撃いいいぃぃッ!!」
 ロケランを装備したラグナが、渾身の一撃をぶっ放す。向かう先には蜘蛛の集団…と、その前に立つ焔。
「俺は爆破されても仕方がない身…だけど、仲間は巻き込まないようにしないとね」
 焔は周囲に被害が及ばないよう逃げながら、内心で独りごちる。

 こんな自分に恋人が出来たことが、最初は信じられなかった。
 だからずっと、誰にも言えなくて。
 それが、彼の心を深く傷つけてしまった。完全に、自分のせいなのだ。
 後方から、友人の怒声が聞こえてくる。
「天まで吹き飛べッ!裏切り者めッ!」
 投げ込まれる手榴弾を、避けながら。
 焔は、どこか嬉しいような、切ないような、何とも言えない気持ちになっていた。

 彼があんなに怒っているのは。
 簡単に許してくれないのは。
 自分のことを友達だと、思ってくれているからに他ならない。

 まだ、間に合うのだろうか。

 焔は立ち止まると、振り返る。
 突然逃げるのを止めた焔に、ラグナも訝しそうに攻撃を止め。
「どうした、星杜。この正義の鉄槌を受ける気になったのか?」
「うん、きみの怒り。真っ向から受け止めようと思うよ」
 そう言って、焔は武器を構える。それを見たラグナは顔をしかめ。
「どういうつもりだ?」
「俺も、戦う」
 焔はまっすぐにラグナを見据え。
「男同士なんだし。思う存分、喧嘩しよう」
 それを聞いたラグナは、大きく高笑いをし。
「ふはははは、いい度胸だな星杜! その勝負、受けてやろうではないか!」 
 
 閃光と同時に爆風が巻き起こる。二人の戦いは、凄まじいものだった。
 彼らの周囲は火の海と化し。
 やがて多くの感情もろとも、吹き飛んだ。

 星杜 焔、ラグナ・グラウシード:離脱


●再び戻って、北西部。

「ふむ……」
 前線の様子を見た静矢が、低く呟く。
「完全に押されている。このままでは、戦線維持が難しいな」
「…うん。悔しいけど、その通りだわ。私たちも、特攻の覚悟をした方がいいのかもしれない」
 ナナシが口惜しそうに返す。前線部隊は非常に善戦をしている。しかしやはり敵の数が多すぎるのだ。
「いや…しかし、まだ諦めるには早い」
「え? どうしてなの」
 静矢の言葉に、ナナシは不思議そうに訊く。今はまだかろうじて保ってはいるものの。戦線が崩壊するのは時間の問題に見える。
 問われた静矢はふっと笑みを浮かべ。
「人間は、諦めが悪い生き物だからな。それに――」
 迫る蜘蛛を撃ち落としながら。

「最後まで諦めない。それがKDF、なのだろう?」



「くっ……!」
 蜘蛛の糸をその身に受け、戒は思わず声を漏らす。
「もうこれ以上は、持たないで御座るよ!」
 源一が悲壮な表情で叫ぶ。前線が陥落の危機なのは、誰の目にも明らかだった。
 これ以上は無理なのか。
 誰もがそう、思い始めたとき。

「――よし。これより巣への突撃取材を開始する…!」

 突然聞こえた声に振り向く。
 そこにいたのは、仲間達の姿だった。
 
●さあ、宴のはじまりだ

「お前らいつの間に…!」
 驚く戒に向かって、ルビィはにやりと笑みを浮かべる。
「遅くなって悪かったな。ちょいと戦力集めに行ってたもんでな…!」
 見れば彼らの後ろには、智美だけでなく中央部に行ったはずの遼布や御津羽がいる。
 戦力不足を感じたルビィと智美が、探しに行ったのだ。
 御津羽が豪快に宣言する。
「俺ァまだ戦い足りねえからな。一気に巣へと攻め込むぜ!」

 ここから、執念の特攻が始まる。


「やるしかねぇなら、とことんやるぜ!」

 先陣切ってルビィが武器を構える。その手には、アイテムが握られており。
 次の瞬間、彼の身体が光を放つ!

 ―突撃モード、開始―

 ルビィは爆破力がアップした!

「さあ、行くぜ!」
 ロケランを構えて、特攻を開始。
 迫り来る蜘蛛たちに、勢いよく撃ち込みながら嬌声を上げる。
「いいか、よく聞け虫ども! ジャーナリストにとって何が一番大事なのか、この俺が教えてやる!」」
 爆ぜる敵に、教えを叫ぶ。

「一に取材に、二に取材、三四に取材に、五に取材! これがジャーナリスト十箇条だ!!!」

 六から九まではどこにいったのかわからないが、そんなことを突っ込んでいてはこの先身が持たない!
 
 同じく突撃モードを開始させた御津羽が、手榴弾片手に特攻を開始する。

「俺ァただ無様にやられるってェのは嫌いでなァ。派手にいかせてもらうぜ?」

 自らをも吹き飛ばす勢いで、手榴弾を投げ入れまくる。

「万が一味方を巻き込んだ時はてへぺろおおおおおお!!!」

 特攻服は、漢のロマン。絶体絶命夜露死苦自爆!
 誰か巻き込んだ気がしないでも無いが、そんなことは些細なことだ!

 二人の猛攻につられ、他の隊員も次々に特攻を開始する。 
 その勢いは、凄まじいものがあった。
 彼らは押されていた前線を押し上げ、巣への突破口を切り開こうとする。
「すごい……これならいける!」
 後方からライフルを撃っていたナナシが、興奮した面持ちで叫ぶ。
「しかし敵もそう簡単には、いかせてくれなさそうだ」 
 そう。静矢の言うとおり、北東巣はじぇのさいど砲を使ってやっと切り抜けた無理ゲーである。
 虫たちの猛反撃に、再び戦線が押し戻される。

「何? 連邦のインセクトスーツは化け物か?」
 龍仁は唖然となる。
 これ程の特攻を受けて尚、衰えない勢力。このままでは、全員飲み込まれかねない。
「まだだ…まだ、終わらんよ!」
 龍仁は歯を食いしばると、戒と源一に告げる。
「ここは俺が抑える!お前たちは先に行くんだ!」
「……しかし!」
 躊躇う戒に向かって、龍仁はかぶりを振る。
「大丈夫だ。こいつらを倒したら俺もすぐに合流する」
「そんなの、無理に決まっているで御座るよ!」
 一人でこの場を切り抜けられる訳がない。そんなことは、誰もがわかっていること。
「お前ら…この俺が、一度でも嘘をついたことがあるか? 信じろ!」
 その目は、真剣そのもので。
 戒はしばらくうつむいていたが、やがて龍仁へと背を向ける。
「…わかった。先で、待っている」
 そのまま、源一と共に走り去る。

 ――絶対に振り返るな。

 龍仁は、そう願いながら、電子煙草を吸う。見えなくなる背中に、そっと呟き。
「すまないな…俺は嘘をついた。まあ、一生に一度のことだ。許せ」
 脳裏に浮かぶのは、本土に残してきた息子。あいつにも謝らなければならない。
「迎えに行けなくてすまない…父さんは、お前を愛していた」
 それだけは、誰かが伝えてくれるだろうか。そう願いながら、最期の煙草を吸い終え。
 迫る敵に向かってゆっくりと、武器を構える。
「さて…俺と踊って貰おうか!化け物共!!」

 覚悟の戦花が、花開く。

(※この物語は、何から何までフィクションです)

 強羅龍仁:離脱

●悲壮な決意は続く

「龍仁…あんたは、立派だったぜ」
 後方から彼の生き様を見届けたミハイルが、呟く。
 龍仁の犠牲により、前線は大きく巣へと押し上げられた。しかし、まだわずかに届かない。
「大丈夫だ。あんたの意志は、俺が引き継ぐ」
 ここで前線が落ちれば、この戦いは負けだ。火力不足なら、自分が補うまで。
 彼は迷うことなく、前線へと移動を開始。その手には、ライフルではなく手榴弾が握られており。
「おい、ミハイル! 何故お前がここに!」
 驚く戒に向かって、有無を言わさず言い切る。
「いいから下がってろ。ここは俺が突破口を開く」
「待て、無謀だ!」
 呼び止める戒に背を向けたまま。

 ミハイルは一旦黙り込むと、静かな声で告げる。
「なあ、あいつに伝えてくれないか。俺の戦いざまと――」
 ふ、と笑みを漏らし。

「幸せになれよ、ってな」

「ミハイルうううう!!!」
 あいつが誰だかミハイルにもわからないが、とりあえず突撃開始。フラグ回収は大事なマナー。
 仲間の声が遠のく中、彼の隣にはいつの間にか寄り添う小さな影。
「お前……何してる?」
 源一だった。
「一人で逝くとは水臭いで御座る。黄泉への旅路、ご同行仕るで御座る」
 同じく手榴弾手に特攻しようとする源一に、彼は渋い顔をする。
「お前はまだ9歳だろう。人生これからって時なんだぞ」
「命賭けの戦いに年齢は関係ないで御座るよ。自分はもうとっくに、覚悟は出来ているで御座る」
 真剣な眼差しに嘘はなく。ミハイルはため息をつくと、口の端を上げてみせる。
「……その覚悟受け取ったぜ」

 見えてきた敵影に向けて。
 ミハイルは手榴弾を投げ込みながら叫ぶ。

「巣への道は俺達が開く。後は頼んだぞ!!」
 それを見た最前線のルビィと御津羽も声を上げ。
「おっと、あんただけに美味しい思いはさせねえぜ!」
「ああ。どう見ても手が足りてねえだろ? 俺もやってやらァ!」

 未来へと繋がる大量の爆撃を生みだし、彼らは勇ましく散っていく。
 源一は、薄れ行く意識の中そっと呟いた。

「自分、久遠を…皆を守れたで御座るかな…?」

 尊い犠牲と引き替えに。
 巣への突破口は開かれた。

 小田切ルビィ、火之煌御津羽、ミハイル・エッカート、静馬源一:離脱



 四人の決死の特攻により、巣への道は開かれた。
 破壊に向け、前線部隊が突入を果たす。
「今だ。総員、総攻撃を仕掛けろ!」
 智美のかけ声により、全員が巣への攻撃を開始する。
 しかし巣の防御値は不幸な事故により驚異的に上がっており。なかなか崩れようとしない。
「くっそ……何なんだこの硬さは!」
 アサルトライフルをこれでもかと連射しながら、遼布が顔をしかめる。
「こんなのとても壊せるとは思えないぞ!」
 そうこうしている間に、再び巣から大量の蜘蛛が現れる。あっという間に敵に囲まれた隊員達を見て、ナナシが叫ぶ。
「なんて数…あんなの、理不尽すぎるよ!」
「これは…厳しいか」
 今度こそ、絶体絶命。
 静矢が悔しそうに呟いた時だった。


「ス●ーム1が現れたぞ!」


 どこからか、叫び声があがった。
 それと共に、大量のモブ兵を引き連れた黒い影が現れる。

「遅くなったな」

 素早いローリングで巣へと飛び込んでくる。それと同時に凄まじい速度で繰り出される連射。
「市街地全ての隊員を回収していたら、思ったより時間がかかってしまった」
 リョウだった。
 恐ろしいことにこのインフェルノにおいて、全てのモブ隊を欠けることなく引き連れている。
 その数、二十人。
「ふ…伊達に伝説の名を語るつもりはないと言うことだ」
 彼は、微かに笑みを浮かべ。背後に控えるモブ隊に向けて指示を飛ばす。

「各員、俺に続け。一気に巣を叩くぞ!」

「「「「「イエッサー!」」」」」

 ここへ来て戦力三倍。

 \ス●ーム1まじぱねえ/

「やるな…俺たちも負けてはいられない」  
 智美がにやりと笑みを浮かべ。
 再び気力を取り戻した彼らは、攻撃を開始する。
「いっけえええええ!!!」
 ナナシがライフルを撃ちながら、叫ぶ。
「散っていった仲間の為にも絶対に、巣は落とす!」
 戒が巣に向かって渾身の連射を撃ち込み――

 ついに、北西巣は陥落した。

 そしてこの直後。
 このゲームのラストを飾る、女王蟻が姿を現すことになる。


●クイーンオブアント

 市街地中央に突如現れた、巨大女王蟻。
 通常の蟻の二倍の大きさはあるそれは、中央タワーによじ登り、隊員達を見下ろしている。
 その下には、女王蟻を守るように現れた、戦闘蟻の集団。

 集まったのは、生き残った面々。
 戒、智美、遼布、静矢、ナナシ、リョウの六名である。

 つんざくようなクイーンの咆哮と共に。

 彼らの最後の戦いが、始まる。

「まずは、雑魚掃討からだな」
 アサルトライフルに持ち替えた静矢が、移動撃ちを開始する。
「どれだけ短時間で数を伐つかが勝負か…!」
 敵の攻撃をローリングで避けながら撃つ。息つく暇もない連射攻撃に、前線を守る蟻たちの隊が徐々に乱れ始め。
 わずかに開いた隙に、戒が躊躇無く飛び込む。

「ここは任せてもらう!」
 
「待て、一人で飛び込むのは危険だ!」
「いや、これでいいんだ」
 呼び止める静矢に向かって、戒は告げる。
「散っていったあいつらの為にも……私だけのうのうとしているわけにはいかんからな…!」
「まさか……君」
 真剣な表情の遼布に、戒はふっと笑みを見せ。
「――後は、頼んだぜ」  
 次の瞬間、彼女の身体が光り輝く。

 ―突撃モード、開始―

 戒は爆破力がアップした!

「ふははははは馬鹿め! この私を前にすれば蟻など全てゴミ同然! 凡愚どもめ、蹴散らしてくれるわァ!」

 武器からビームが出せそうな勢いで、特攻開始。高笑いをしながら次々に蟻を撃ち殺していく。
「この私が、真のKDF無双だあああ!!」
 その勢いやまさに一騎当千。
 しかし敵も黙ってはいない。恐ろしい数の暴力が、目前へと迫る。
「くっ……これまでか!」
 元々自爆込みの特攻である。手榴弾を手に、戒は最期の覚悟を決め。
 ロケットペンダントを握りしめると、安全ピンを抜く。

「…ごめん。帰るって、約束したのに 」

 輝く閃光と共に。
 戒は黒焦げアフロになって、散った。

(※この物語はアフロ以外はフィクションです)

「くっ…彼女の犠牲を無駄にするな!」
 遼布と智美は戒が開いた突破口に突撃しながら、女王蟻を目指す。
 しかし大量の酸を吐く彼女は遙か棟の上。ここからでは攻撃が届かない。
「くそっ…どうすればいい!」

「私に任せて!」

 声を上げたのは、ナナシだった。
 見れば彼女は高層ビルの屋上に登っており。そこから全速力で空中にジャンプをする。
「この瞬間をずっと狙ってたのよ!」
 自身の斜め下後方に手榴弾を投下した彼女は、爆風と共に女王蟻の元へと飛んでいく。
「君…!」
 驚く静矢に向けて、彼女はにっと微笑み。
「ありがと、静矢さん。話、楽しかったわ。またね!」
 周囲が騒然となる中、ナナシは何と女王蟻の足にしがみつき。
 手榴弾を手に勢いよく叫ぶ。
「今は翼が使えないとはいえ、空は天魔の領域よ。落ちなさい、アリンコ!!」

 そして自ら共々、女王を吹っ飛ばした。

「やった!」

 不意打ち攻撃を受けた女王蟻は、見事地へと墜ちる。
 その瞬間を隊員が見逃すはずもなく。

「今だ、総員撃てぇぇえっ!!」

 リョウの命令と共にモブ隊の総攻撃が始まる。
「絶対に……ここで決める!」
 智美がロケランを撃ち放ち。
「全ては…散っていった仲間と、久遠のために!」
 静矢の攻撃が、女王の頭部に炸裂し。
 遼布が、大きく宣言する。

「俺たちは、久遠を守る! それがKDFの使命だ!!」 

●終焉

 もうもうと立ちこめる煙。

 爆撃が生み出したそれが、ようやく晴れてきたとき。
 彼らの頭上で鳴り響くのは、祝福のファンファーレ。
 
「ミッションクリア!」

 表示されたテロップと共に、大歓声があがる。

「「「うおおおおおKDF! KDF!」」」

 歓声鳴りやまぬ中。民高は呆れたように笑う。
「まさか、本当にクリアしちゃうとはな。インフェルノは絶対に無理ゲーだと思ってたのに」
「凄かったよ…何だか、感動して涙出ちゃったな」
 戻ってきた隊員達に、旅人も精一杯の拍手を送り。
「旅人さんやりましたね! これで乾杯しましょー!」
 集まってきた愁也が手にしているのは、コーラの瓶。そして片方の手には、メ●トス。それを見た一臣が笑いながら言う。
「せっかくだから、みんでやっちゃう?」
 訊かれた旅人もいたずらっぽく笑う。
「いいね。やっちゃおう」

 その数分後。

 盛大な乾杯と共に。
 口元を押さえて窓から飛び出る隊員達の姿が、目撃された。


 ●後日

 動画サイトに話題の作品があがる。

【撃退士が】KDFインフェルノ【挑戦してみた】

 この動画は、伝説として今でも語り継がれていると言う。



 さて諸君、いかがだったろうか?
 この物語は聖夜の奇跡。
 目にした全ての者に、幸せが訪れんことを。

 KDFに乾杯。

 そして、メリークリスマス!
 


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 約束を刻む者・リョウ(ja0563)
 蒼閃霆公の魂を継ぎし者・夜来野 遥久(ja6843)
 Eternal Wing・ミハイル・エッカート(jb0544)
重体: −
面白かった!:20人

撃退士・
天風 静流(ja0373)

卒業 女 阿修羅
約束を刻む者・
リョウ(ja0563)

大学部8年175組 男 鬼道忍軍
戦場ジャーナリスト・
小田切ルビィ(ja0841)

卒業 男 ルインズブレイド
高松紘輝の監視者(終身)・
雨野 挫斬(ja0919)

卒業 女 阿修羅
あんまんマイスター・
七種 戒(ja1267)

大学部3年1組 女 インフィルトレイター
KILL ALL RIAJU・
ラグナ・グラウシード(ja3538)

大学部5年54組 男 ディバインナイト
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
失敗は何とかの何とか・
武田 美月(ja4394)

大学部4年179組 女 ディバインナイト
思い繋ぎし翠光の焔・
星杜 焔(ja5378)

卒業 男 ディバインナイト
JOKER of JOKER・
加倉 一臣(ja5823)

卒業 男 インフィルトレイター
冷徹の銃魔士・
神谷・C・ウォーレン(ja6775)

大学部7年7組 男 ダアト
輝く未来を月夜は渡る・
月居 愁也(ja6837)

卒業 男 阿修羅
蒼閃霆公の魂を継ぎし者・
夜来野 遥久(ja6843)

卒業 男 アストラルヴァンガード
撃退士・
強羅 龍仁(ja8161)

大学部7年141組 男 アストラルヴァンガード
荒れ果てた世界で生きる・
火之煌 御津羽(ja9999)

大学部7年325組 女 ルインズブレイド
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
夜の探索者・
杉 桜一郎(jb0811)

大学部1年191組 男 陰陽師
大海原に覇を唱えし者・
レガロ・アルモニア(jb1616)

大学部6年178組 男 ナイトウォーカー
こんな事もあろうかと・
月丘 結希(jb1914)

高等部3年10組 女 陰陽師
正義の忍者・
静馬 源一(jb2368)

高等部2年30組 男 鬼道忍軍
闇を斬り裂く龍牙・
蒼桐 遼布(jb2501)

大学部5年230組 男 阿修羅
おでんの人(ちょっと変)・
オーデン・ソル・キャドー(jb2706)

大学部6年232組 男 ルインズブレイド
撃退士・
エルフリーデ・シュトラウス(jb2801)

大学部8年61組 女 ルインズブレイド
誓いを胸に・
ナナシ(jb3008)

卒業 女 鬼道忍軍