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マスター:久生夕貴
シナリオ形態:イベント
難易度:やや易
参加人数:25人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2012/12/02


みんなの思い出



オープニング

 秋晴れの陽気と、色づいた木々。
 ここは久遠ヶ原学園の一角。
 文化祭が終わって間もない学園内は、ひとときの穏やかさと静けさに包まれている。
 そんな中、大きく張り出されたポスター。書かれている内容を、生徒達は興味深そうに眺める。

『動物たちとひとときを』

 あなたは動物が好きですか?
 好きな人もそうでない人もいることでしょう。
 ですが、ここにいる動物たちは、あなたのことが大好き。

 ここはそんな彼らと、ひとときを過ごす場所。

 さあ、あなたも一緒に。
 楽しい時間を過ごしませんか。


 協力:乗馬部
    鳥は神サークル
    肉球同好会

「へえ……楽しそうだな」
 ポスターを見ながら呟くのは、斡旋所スタッフの西橋旅人(jz0129)。彼の肩に乗っている真っ黒な鷹が、愉快そうに翼を開いてみせる。
「あ、半蔵はだめだよ。他の鳥を怖がらせちゃうからね」
 苦笑しながらそう言うと、鷹はがっかりしたようにうなだれる。一緒に生活するとよく分かるのだが、鳥は本当に感情豊かだ。

 撃退士として日々厳しい現実を見続けている彼にとって、風魔半蔵(ネーミングセンスについてはそっとしておいてあげてほしい)と名付けた黒鷹と過ごすひとときは貴重だ。
 物言わぬからこそ、通じ合えるものもある。
 彼らは常に純粋で、陽気で、ひたむきだから。

 ここに行けば、色んな動物と触れあえるらしい。
 旅人の胸は高鳴る。
 一体どんな出会いが待っているのだろう?

 それは参加してのお楽しみである。


リプレイ本文


 本日は、晴天なり。
 湿度の低い風は、晩秋特有の冷たさをはらんでいるものの。
 あまり寒さを感じないのは、側にいる彼らのおかげだろうか。
 
 動物たちとひとときを。

 いつもとは、少しだけ違う日常。
 これはそんな出会いに心惹かれた、撃退士達の記録である。


●緑地駆ける馬と共に

 馬舎の横に広がる放牧場。
 柵に囲まれた緑地には、様々な馬が思い思いにくつろいでいて。 

「今日は馬と遊ぶんだぞー!」
 元気よく牧場へとやってきたのは、与那覇 アリサ(ja0057)。
 動物が大好きな彼女。当然、一番乗りだ。
 そんなアリサがパートナーとして選んだのは、芦毛色をした馬。他の馬よりも一回り身体が大きい。
「今日はよろしくなー!」
 しかし声をかけても馬は知らんぷり。不機嫌そうに蹄をかつかつと鳴らしている。
 気位が高くて気難しく、馬術部員ですら乗りこなせる人はごくわずかであると言う。しかし彼女は一目見て、その馬が気に入ってしまったのだ。
「大丈夫さー。おれは一緒に遊べればそれでいいさーって……わっ!?」
 どさり、と言う音と共にアリサは背中を強く打ち付けられる。背に乗ろうとしたところを、振り落とされたのだ。
「だ、大丈夫ですか?」
「いいさ、いいさ」
 慌てて駆け寄る部員を制して。馬の瞳をじっと見つめたアリサは、にかっと笑う。
「おれは認めてもらうまで、何度も挑戦するさ」
 そう言った直後、馬と彼女の視線が交差する。
「何度振り落とされても諦めないからなー。覚悟するんだぞ!」


 馬術部員に乗馬レクチャーを受ける者たちもいる。
 乗馬初体験であるグラルス・ガリアクルーズ(ja0505)と鷹司 律(jb0791)だ。
「乗馬は初めてなんだけど……上手くいくといいな」
 そう呟くグラルスが騎乗しているのは、鹿毛色の若い馬。黒と茶色の特徴的なオッドアイをしている。
「乗り手がちゃんとしてないと馬も不安がる、って聞いた事がある。ここは恐れず堂々と、だな」
 レクチャーを受けながらもグラルスの騎乗は、なかなか堂に入ったもので。

 対する律のパートナーは、瞳も毛並みも、全てが漆黒に覆われた黒馬。物静かで心の内が読めない。それはどこか、自分と通じるものがある気がして。
「……よろしくお願いします」 
 背に乗った彼は、そっと声をかけてみる。黒馬はほとんど反応を見せなかったが、不慣れな彼の指示に的確に応えてくれる。
 馬の動きのタイミングに従い、あぶみの上で姿勢を崩さず。出来るだけ、馬に負担をかけないように。
 対する黒馬も、律の呼吸に合わせるように、ゆっくりと、時には速く歩を進めてみせる。
 互いの気遣いが肌で感じられる。その感覚が、とても不思議で心地よく。

 だいぶ慣れてきた彼らは、乗馬コースへ。
 周囲を木々で囲まれたコース道は、淡い陽差しとほんの少しの風が吹いている。
 馬の蹄が地を蹴る音を聞きながら、グラルスは満足そうに。
「少し冷たいけど、いい風だな。なかなかいい感じだ」
 一方の律はひたすら黙々と。
 静かで、穏やかな時間が彼らの周囲を取りまいていた。
 規則的なリズムに揺られながら、ふと律は顔を上げてみる。
 頭上には、木々の合間から漏れる陽差しが輝いていて。
「……良い、天気ですね」
 そう呟いて、律はまぶしそうに目を細めた。


「へぇ、馬術部なんて部活があったんだ」
 そんなことを独りごちながらやってきたのは、神埼 晶(ja8085)。
 普段は勝ち気で好戦的な彼女。でもたまには気分転換をしてみてもいいかも、とここにやってきた。
 柵の中で放牧されている馬を見て、彼女はつぶやく。
「サラブレッドって美しいって言うけど、ここにいる馬達も見事なものだなぁ」
 均整の取れた体躯は、人間にはない美しさがある。
「それに……馬の瞳って、キレイね」
 普段じっくりと見る事なんて無かったため、気付かなかった。
 一頭が晶の側に寄ってくる。人なつっこさのある、小柄な馬だ。晶は少し戸惑いながらも、鼻先をすりよせてくる馬の額を撫でてやり。
「……かわいいかも。そう言えば馬って本当ににんじんが好きなのかな……」
「あげてみる?」
 声をかけてきたのは、西橋旅人(jz0129)だった。にこにこしながら手に人参を抱えている。
「さっき馬術部の人がくれたんだ」
「じゃあ、あげてみようかな」
 並んで馬に人参をあげる。馬は前歯で器用にかじると、もっしもっしと食べる。
 その様子がなんだか面白くて。
 二人とも思わず笑ってしまったのだった。
 

「ぱっかぱっかなのー☆」
 はずんだ声が乗馬コース内に響く。ご機嫌な様子で騎乗しているのは、鳳 優希(ja3762)だ。
 彼女が乗っているのは栗毛色の穏やかな馬。初心者の為に揺れないよう歩いてくれる、優しい性格の子である。
 優希は隣に寄り添うに歩く、白馬を見て。
 そして視線を馬の背に移すと、にっこりと微笑む。
「静矢さん、馬さんなのー☆」
「ほら、優希。よそ見をしていると危ないぞ」
 そう言いながらも彼女に穏やかなまなざしを向けるのは、鳳 静矢(ja3856)。
 彼が乗るのは、白い毛並みが美しい駿馬。
 静矢は頬に触れる風を受けながら、独りごちる。
(乗馬は初めてだが……たまには、こういうのも悪くないものだな)
 戦いばかりでは心が荒んでしまう。温かな馬の背は、そんな自分たちの心を落ち着かせてくれる気がする。
 そんな自分の様子を優希が見ていることに気付く。
「どうした?」
「静矢さんは将軍様なのー。ユキはお姫様なのー☆」
 若干意味不明ではあるが、そこは夫婦。静矢もくすりと笑みを浮かべ。
「では、そのように……それっ」
 某暴れるのがお好きな将軍様のごとく、いきなり駆けだしてみる。
 風を切るのは思いの外心地よく。
「静矢さんすごいのー☆」
 それを見た優希がはしゃいでいる。彼女が喜ぶのがつい、嬉しくて。
「なんと……っ!」
 気がつけば、勢いで柵を跳び越えてしまったのはご愛敬。 



 疾走コースで馬と駆ける者達もいる。

 長い黒髪をなびかせて、草原を勢いよく駆け抜ける。長い四肢と豊満なバストを乗馬服で包んだ、簾 筱慧(ja8654)だ。
「動物とふれあうのも、またいいね」
 筱慧のパートナーは赤毛色の馬。細身だがほどよく締まった体躯が目を惹くサラブレッドである。
 力強く地を蹴り、まるで矢が走るように地表をすべっていく。
 彼女たちが駆けるさまは、実に絵になっていて。
「うん。なかなかいい感じ」
 加速の激しいサラブレッドを乗りこなすのは難しい。しかし見事乗りこなしているのは、彼女が経験者だからなのだろうか。
 その答えは、わからないけれど。
「彼女、馬術部に入ってくれないかしら……」
 筱慧の様子を見て、部員達が感嘆のため息をつくのであった。
 
 
 同じく草原を疾走する二つの影。二頭の馬に騎乗するのは、影野恭弥(ja0018)と雀原 麦子(ja1553)だ。
 恭弥が選んだのは、ブラックシルバーの毛色と落ち着いた気性。疾走馬として走り込んだ体躯が美しい駿馬。
 対する麦子が選んだのは、月毛色の若い馬。人懐っこい性格である。
「今日は一緒に楽しもうね〜♪」
 馬の首筋をぽんぽんと撫でながら、麦子は隣で流れるように走る恭弥に向かって声をかける。
「ねえ、恭弥ちゃん。私と競争しない?」
 問われた恭弥は、特に表情を変えることもなくうなずく。
「じゃあ勝ったら美味しいお茶を奢ってもらうわよ〜」
「俺が勝ったら甘いもので」
 そんな二人は、疾走コースの端から端までどちらが速く駆けられるか勝負することになる。

「行っけ〜!」
 スタートの合図と共に前に出たのは、麦子。そのまま一気にゴールまで走り抜ける算段だ。
 空を切り、流れゆく景色を眺めながら、彼女は思う。
 馬は好きだ。
 走るために進化したと言われるその身体。
 駆ける姿は、美しく。
 彼女の目に、ゴールが近づいてくるのが映る。あと少しだ、と思ったとき。
「悪いが勝たせてもらうぞ」
「あっ!」
 今まで後方で馬の体力を温存していた恭弥。ここでラストスパートをかけたのだ。
 そのまま一気に麦子を追い抜く。
「このまま……逃げ切る」
 蹄が激しく地を蹴り、二頭の動きがゴールへ向けて加速する。
 その様は、息を呑むような美しさと迫力に満ちていて。

 勢いよく先に駆け込んだのは、ブラックシルバーの体躯だった。



 午後になると、乗馬を終えのんびりと昼食に入る者も出てくる。

「今日は絶好の乗馬ピクニック日和じゃの♪」
 天音万葉(jb2034)が、ご機嫌そうに弾んだ声をあげる。彼女の手には、紅葉柄の風呂敷包み。中身はきのこの炊き込みオニギリと、芋羊羹だ。
「本当、たまにはこういうのもいいわね」
 同行者のシルヴァ・ヴィルタネン(ja0252)が、万葉に賛同する。豊満な肢体を乗馬服に包んだ彼女は、同じく同行者の空木楽人(jb1421)に向かって、ゆるやかに微笑んでみせ。
「さ、お弁当沢山用意してきたの」
 こう見えて料理は得意な彼女。今朝も早起きして三人分の弁当を準備してきた。
「今日はちょっと寒いから。温かいスープも持ってきたのよ」
 彼女たちの振る舞いに、楽人は歓喜の声を上げる。
「うわー天音さん、ヴィルタネンさんありがとうございます!」
 はらぺこ属性の彼。食べ物を見ると途端に幸せになれる。
「実は僕もうお腹ぺこぺこだったんで、早速いただきます……うわ、美味しい!」
 美味しそうに頬張る楽人を見て、万葉はちょっと恥ずかしそうに。
「あっ慌てて食べたら、喉に詰めるぞ」
 夢中でお弁当を食べ続ける楽人を見て、シルヴァがくすりと笑む。
「ふふ……空木君たら、鼻の頭すりむいてるわよ」
「えっ。さっき調子に乗って転んだせいかな」
 恥ずかしそうに顔を紅くする彼に、シルヴァは準備していた絆創膏を取り出すとぺたん、と貼る。
「これで大丈夫ね」
「あ……ありがとうございます」
 ますます真っ赤になる楽人を、彼女は楽しそうに観察している。
「あっ……そ、そうだ。ひー君やシオン君も呼んであげなくちゃ!」
 楽人は自らの召還獣を呼び出す。二匹を溺愛している彼(ネーミングセンスについては以下略)は、楽しいことはいつも共有する主義なのである。
「おお、ひー君久しぶりじゃ♪」
 万葉は嬉しそうにきゅいきゅいと鳴くひー君を抱っこする。
「相変わらず、めんこいのう♪」
 ヒリュウを膝に載せてご満悦な万葉。その様子を微笑ましく見守るシルヴァ。

 仲間と過ごす、穏やかで温かいひととき。
(いつまでも、こんな時間が続くことを)
 自分たちは撃退士。戦場に赴くことも、わかっている。
 けれど。
 可愛いい二人を眺めながら、シルヴァはそう願わざるを得ないのだった。 


●羽根の下の温かさ

「色とりどりのオウムとおしゃべりしよう!」
 会場であるドームには、続々と人が集まり始めていた。
 鳥が自由に遊べるように作られたドーム内は、一年中温かく。亜熱帯に生息する種類が多いためだ。

「今日は色んなオウムとおしゃべりしちゃうよ!」
 瞳を輝かせながらやってきたのは、犬乃さんぽ(ja1272)。
 周囲を見渡しながら、ため息を漏らす。
「ほんとに色とりどりだ……」
 トロピカルな木々の合間に、白やピンク、赤や青色のオウムが沢山止まっている。
 それだけで、さんぽの胸は高鳴りっぱなしだ。
「……ひょっとしたら、優秀な忍オウムになる子もいるかも知れないよ!」
 おしゃべり大好きな彼らに忍は向いてないような気もする……が、細かいことは気にしない!
 入ってきた彼に気付いたのだろう。その内の一羽が、側まで飛んでくる。
「コンニチハ! コンニチハ!」
 真っ白な身体に、ぴょこんと跳ねた頭の飾り毛だけが黄色い。陽気なキバタンに話しかけられたさんぽは嬉しくて、ぺこりと頭を下げる。
「ボク、犬乃さんぽ。ニンジャなんだよ」
 キバタンは、楽しそうに。
「ニンジャ、スキ!」
「わあ、本当? 嬉しいな!」
 見るとキバタンは足に何かを持っている。それを差し出して。
「アゲル! アゲル!」
「えっこれ……ボクにくれるの?」
 渡されたのは、一輪の花だった。さんぽは満面の笑みを浮かべて受け取ると、礼を言う。
「ありがとう。ボク、嬉しいよ」
「カワイイコニ、アゲル! カワイイオンナノコハセイギ!」
「えっ」
 今、聞き捨てならない一言を聞いた気がする。
「えっと……もう一度、聞いていい?」
「カワイイオンナノコハセイギ!」
 オ、オウムさんまで……。
「ぼっ、ボク男だもん」
 真っ赤になりながら否定するさんぽを、キバタンは不思議そうに見つめていた。


「オウム……愛らしいですね。楽しそうです」
 そう言いながらドームへと入ってきたのは、氷雨 静(ja4221)。自身も小柄で愛らしい外見である彼女は、今日はメイド服を身につけている。
(人語を話すって本当かしら? どうでもいいけど)
 柔らかな表情でオウム達を眺めている静だが、内心の声は冷たい。しかし人目があるところではそんな部分は、おくびにも出さずに。
 一羽のオウムが、彼女の元へと飛んできた。ブルーグレーの羽根色が美しい、ヨウムだ。
「オッス、イイテンキダナ!」
 話しかけられたことにほんの少し驚きながら、彼女はヨウムに向かってぺこりと頭を下げる。
「こんにちは。私、氷雨静と申します」
 そしてヨウムのなだらかに整った羽根を見ながら、にこやかに話しかける。
「うわぁ……とっても綺麗な羽根ですね」
「アリガトナ、ギゼンシャ!」
 それを聞いた瞬間、静の表情が変わる。ヨウムを連れると急いで人目の付かない所に移動して。
「ちょっと……貴方、分かって喋っているの?」
 問われたヨウムは。じっと静の顔を見つめたあと、大きく一声。
「ホントウハツメタイカオ!」
「――っ」
「イツモハウソのカオ!」
「もう……やめて」
 思わず、目を逸らす。動物には、全て見透かされている。それが怖くて、目を見ることも出来ない。
 ヨウムはしばらく黙っていた。このまま飽きていなくなってくれるかと思っていたのだが――。
「え?」
 急に温かさを感じる。気がつくと、止まり木にいたヨウムがすぐ近くまで寄ってきて、静の背中に身体を密着させていたのだ。
「……寒いの?」
 ヨウムは何も言わず。
 静もそれ以上は、何も言わず。
 ただ互いの体温を、感じているのだった。


「オウム達は、どんな言葉を喋ってくれるでしょうか」
 楽しみにしながらドームにやってきたのは、龍仙 樹(jb0212)。
 彼の元に早速やってきたのは、大型のオウム。目が覚めるような瑠璃色の羽根が美しい。
「フハハハハ! ワガハイハ、ルリピョンデアルゾ!」
「わっ本当にしゃべりました」
「ヨロコベ! ワガハイガ、キサマノアイテヲシテヤロウ!」
「あ……ありがとうございます」
 このオウムに言葉を教え込んだ人物を小一時間問い詰めたい気もするが、そこは心優しい樹。
 彼の言葉に合わせ、楽しそうに相づちを打っている。
 しばらくるりぴょんと遊んでいると、彼の目にとある人物が映った。
「あれは斡旋所スタッフの……西橋さん?」
 旅人が、クルマサカオウムの頭部をガン見している。どうやら見事な飾り羽根にご執心のようで。
「こんにちは」
 樹に声をかけられた旅人は、少し驚いたように我に返る。
「こ、こんにちは」
 恥ずかしそうにしている旅人に苦笑しながら、樹は彼とたわいのないおしゃべりをする。
「そういえば西橋さんは鷹匠だと聞きましたが。鷹とオウムだと、どちらが知能が優れているのでしょうか?」
「うーん僕はオウムを飼ったことが無いからよくわからないけど……」
 旅人は思案顔になった後、樹の肩に移動したるりぴょんを指す。
「このルリコンゴウインコは60年も生きるんだよ」
「えっ……本当ですか?」
 驚いた様子の樹に向かって。旅人はにっこりとうなずく。
「それだけ色んな事を知っているような気がするよね」
 るりぴょんは樹の頬に、くちばしをくっつけてくる。その感覚がこそばゆい。
「鳥のくちばしって、温かいんですね……」
 触れてみるまで、気付きもしなかった。
「ふふ。随分気に入られたみたいだね」
 旅人の言葉に、樹は嬉しそうに微笑むのだった。
 

 おっとりとした様子でドームを見渡す少女がいる。クリーム色のベレー帽がよく似合う、八尾師 命(jb1410)だ。
「たまにはこういう所でゆっくりしていくのも悪くないですね〜」
 そんな彼女の周りに集まってきたのは、モモイロインコたち。
「ヨウコソ! カワイイオジョウサン!」
「わあ、綺麗なオウムさんたちですね〜。良かったら私とお話ししませんか〜?」
 命は一生懸命、オウムに向かって話しかける。クリスマスが近いこともあり、おいしいケーキの作り方とか、サンタクロースの成り立ちとか。
 その全てをオウム達が理解しているかどうかはわからない。けれど彼らはみな、楽しそうに命の話を聞いている。
「あ、オウムさんたちは何か最近驚いたこととかありますか〜?」
 その質問に対し。
 一羽のオウムが少しだけ黙った後、普段通りの明るい声で言った。
「パパサントママサンガイナクナッタ!」
「えっ……?」
 側で聞いていた部員が、困ったように微笑む。
「この子の元々の飼い主は、最近天魔によって命を落としてしまって……」
「そうだったのですか〜……」
「鳥はとても賢い生き物ですから……。多分、元の飼い主がもうこの世にいないことを、彼らは知っているのだと思います」
 それでも、こんなに明るいのは。
 彼らがひたむきで、優しいから。

 オウム達を見て、命は思う。
 ああ、動物は。
 何て強いのだろう、と。



●肉球もふもふは正義

 南面いっぱいに作られた窓から、温かな陽差しが差し込む。
 日だまりの中でくつろぐ猫たち。
 広いスペース内に点在する座席は、どこもゆったりとした作りになっていて。

「肉球同好会……わかります。あの感触はクセになります」
 そう微笑みながら入ってきたのは、御堂・玲獅(ja0388)
 彼女が入ってきたことで、数匹の猫が反応をする。全く反応を示さない猫もいるが、そこもまた猫らしいもので。
「こんにちは。よろしくお願いしますね」
 玲獅が声をかけると一匹の白猫がにゃあ、と鳴く。青色の瞳がじっとこちらを見つめており。
「触らせてもらってもいいですか?」
 話しかけながら、そっと指先を額に持っていく。すると白猫はほんの少し指先の匂いをかいでから。
 彼女の手に、頭をすりつけてくる。その感触が、こそばく柔らかい。
 玲獅はそのたおやかな指で、優しくなでてやる。猫は気持ちよさそうに瞳を閉じていて。
「ふふ……気持ち良さそうですね」
 どうやらこの白猫、かなり甘えたい性格のようで。玲獅の事を気に入ったのか、ずっと付いて歩いてくる。
 彼女は微笑みながら、猫の気が済むまで相手をしてやるのだった。

 同じくのんびりとカフェでくつろぐ者がいる。
 ナタリア・シルフィード(ja8997)と朱史春夏(ja9611)だ。
 くつろぐ猫たちを見ながら、ナタリアはひとりごちる。
「よくよく考えたら、普段は研究や戦闘ばかりで日常らしい日常を送れていないわね……」
 たまにはゆっくり休むのもいいかもいれない。
 そんな思いで、ここにやってきた。
 ティータイムを満喫しながら、時々猫と戯れる。ごろん、とお腹を見せる三毛猫を見て。
「あら、撫でてほしいの?」
 猫のお腹を撫でている時の彼女は、いつもの冷たい雰囲気が和らいでいて。
 知らず知らずのうちに顔がほころんでいることに、彼女自身気付いてはいない。

「動物は気儘でいいよな……」
 寄ってきた毛足の長い猫を抱き上げながら、春夏はつぶやいていた。
 ふわふわもふもふの毛が、体温と共に掌から伝わってくる。
「猫は一日の大半を寝て過ごす……んだっけ」
 ひざの上でうとうとしている猫を見ながら。春夏は苦笑する。 
「全く羨ましい限りだ」
 春夏は猫を膝に乗せたまま、ソファで紅茶を飲みぼんやりと過ごす。
 窓の外は、相変わらず天気が良く。ぽかぽかとした陽差しが、柔らかく室内に注いでいる。
 この時間の、何と贅沢なことか。
(なんだか……久しぶりにすげーゆったりしたような気がするな)
 今度は友人を誘うのもいいかもしれない。きっとあいつも、気に入るだろうから。
 猫の体温と、陽差しの温かさが相まって。
 彼もいつのまにか、うとうとし始めていた。

「まー君、猫さんたちと仲良くね」
 どこかおどおどした様子で扉を開けたのは、久遠寺 渚(jb0685)。
 実は人見知りの激しい彼女。ここへ来るにもかなりの勇気が必要だったのだが、ペットである白蛇のまー君とならと勇気を出してやってきた。
 何より、猫と一緒に遊んでみたかったから。
「猫さんは私と遊んでくれるでしょうか……?」
 恐る恐る近寄ってみる。猫たちは、毛繕いをしたり箱座りで眠っていたりと、実にマイペース。
 そっと撫でてみようとして、思いとどまる。
 迷惑じゃないだろうか。そんな思いが、ふとよぎってしまったから。
「えっと……どうすれば仲良くなれるんでしょうか……」
 近くにいた店員さんが、にっこりと教えてくれる。
「ただ、側にいるだけでいいんですよ」
 猫の方から近寄ってきてくれるから。
 その言葉を信じ、渚はじっと猫の傍らに寄り添ってみる。
 するとしばらくして。
「あっ……」
 一匹の黒猫が、何も言わず急に膝の上へ登ってくる。どきどきしながら見守っていると、そのまま膝の上で丸くなってしまう。
 渚の胸は、どきどきする。
 猫の重さが、妙に心地よかった。 


 一方、猫たちと元気に遊ぶ者たちもいる。

「ううっ……かぁいい、かぁいい、かぁいいのっ!」
 くつろぐにゃんこたちを前に目を輝かせているのは、エルレーン・バルハザード(ja0889)。
 自他共に認める猫好きである彼女。何としてでも猫に構ってもらいたくて仕方がない。
「はうっ!さあねこちゃんたち、このぷりてぃーかわいいえるれーんちゃんの胸にとびこんでくるのっ!」
 そう言ったと同時、エルレーンの身体が光纏。猫相手にスキル本気使用と言うわけである。

 \にゃにゃにゃーん/

 スキルが効いたからなのか、自身にかつおぶしの粉をまいていた(この残念すぎる行動についてはそっとしてあげて以下略)からなのかはわからないが、元気の良い猫達が次々に集まってくる。
「私もごろごろするのっ」
 エルレーンは迷うことなく、猫と共に床に転がり始める。
 おなかを見せる猫がいればそこに顔を埋め、しっぽふよふよさせてる猫がいればそのしっぽと握手。
 猫(と鰹節)にまみれ、至福の表情を浮かべている彼女。どう見てもアレだが、そこについてはそっとしてあげて以下略。


「猫といえば肉球、肉球と言えば猫! 心ゆくまで堪能するっすよー!」
 ささみジャーキーを手にそう宣言するのは、夏木夕乃(ja9092)。
 彼女のお目当ては、何だか他人(?)とは思えない茶トラの子猫。
 好奇心一杯の子猫は、ぴょこぴょこ飛び跳ねながら彼女にまとわりついてくる。
「にゅふふ、にくきゅう…」
 猫じゃらしを手にした途端、子猫の目の色が変わる。
「ほらほら、いくっすよー!」
 勢いよくまわす猫じゃらしを必死に追いかける子猫。
 まるでぐるぐるバターになりそうなくらいの勢いだ。

 お互い息切れがするほど遊んだ後は、すっかりおねむの子猫を膝に抱っこして。
 子猫はまだ爪をしまえないため、肌に触れるちっちゃな爪がこそばゆい(だがそれがいい)。
 そんな彼女の目に、窓際ですましている焦げ茶サバトラの猫が映る。
「何だか誰かさんに似てるっす」
 夕乃は試しにジャーキーを手においでおいでと誘ってみても。
 ふいっとそっぽを向かれてしまう。
 彼女はその様子を見て、苦笑する。
「うん、やっぱりそっくり」 


「もふもふが俺を呼んでいる……!」
 そう力強く言い切る男がいる。にゃんこマスター(自称)である虎落九朗(jb0008)だ。
「肉球同好会だと……? (自称)にゃんこマスターの俺が行かずに誰がいく」
 本気で入りたい。どこで入れんのかなと真剣に悩む。
 そんな九朗は猫カフェに入るや否や、並み居るにゃんこ達の前に立ちはだかり。
 ぱっと見は強面の彼。鋭い眼光を放ちながら、低く宣言する。
「さあ、故郷の動物の大多数を虜にした俺のもふ力、見せてやる」

 ※ここから先は、皆さまの想像力にかかっています※

 ちっちっち、おいでおいで〜
(猫と共にごろりんこ)
 さー、なでなでしましょーねー
 ふわふわですねー
 もこもこですねー
 幸せですねー
(なでりこなでりこ)

 想像力が限界だった人。大丈夫、君は正常だ。


 そしてこの場で、最もハイテンションな人物。
 上半身裸で勢いよく転がり込んできた、彪姫千代(jb0742)だ。
「ねこねこー!にゃーだぞー!」
 今読み飛ばしてしまった人の為に、もう一度言おう。
 彼は上半身裸だ。
 色んな意味で大丈夫か? と声をかけたくなるが、大丈夫だ、問題ない。
 なぜなら彼のズボンには、虎柄の尻尾が付いているからだ!(意味不明)
 そんな千代は大好きな猫と共に室内を駆け回っている。
「猫ー!モフモフするぞー! ウシシシ!!楽しいぞ」
 色々な猫をもふもふし、肉球をぷにぷにし、自分の尻尾をもふもふされ。
 あげくの果てには、子猫の肉球を目に押し当てて、喜んでいる。
「肉球ーだぞー!これ気持ちいいんだぞー!」
 くそっ何てジャスティス!
 誰もが思いとどまっていることを、いとも簡単にやりやがった!
 俺もやりたいが、人目が気になってできやしねえ……っ
 などと言う心の叫びが、各方面からこだましたとかしないとか。

 散々猫と遊びまくった千代。
 閉店が近づく頃には、猫にまみれてうとうとし始めているのだった。


●一日が、終わって

 夕焼け空が見え始める中。
 皆は思い思いに帰り支度を始めていた。

「今日は楽しかった。ありがとな!」
 明るい声で馬に話しかけてるのはアリサ。彼女の側にいるのは、あの気難しい馬。
 しかし馬はじっとアリサの事を見つめている。そのまなざしは、どこか優しく。
「賭け事は好きじゃないけど、レースとかおれたち一緒に走れたら伝説残せそうだな!」
 にかっと笑うアリサ。どうやら彼女は、認めてもらえたようである。
 乗馬レクチャーをしてくれた馬術部にグラルスと律が礼を言っている横で。
「おつかれさま〜♪ 負けちゃったわー。でも馬と思いっきり草原走れたから満足!」
 ブラッシングを手伝っていた麦子が、恭弥に話しかけている。
「悪くない勝負だったな」
「ね。今度とっておきの甘味処に招待するわ♪」
 そう言った彼女の手には、既にビールが握られていて。
 午後はのんびり過ごしていた晶や筱慧も、それぞれ帰路につく中。
「乗せてくれてありがとうの♪」
 そう言いながら馬に頬ずりしている万葉の横で、楽人はシルヴァに礼を言っていた。
「お弁当、美味しかったです! 毎日でも食べたい位で…」
「あら、毎日?嬉しいわねぇ♪」
「え? あ、えと……」
 顔を真っ赤にしている楽人を、彼女はくすくす笑いながら見つめている。

 二人で馬顔をして馬と親睦を深めていた優希と静矢も、帰り支度を始めていた。
「楽しかったなのー☆ 馬さんと静矢さんありがとうなのー☆」
 そう言って、静矢の頬にキスをする。ご機嫌な優希を、静矢も微笑みながら抱き寄せ。
「また今度、二人で来ようか」
 互いの顔が夕陽に染まる中。静矢はそっと彼女にキスを返した。


●オウムドーム

「マタアソボウネ!」
 帰ろうとする皆を、オウム達はご機嫌で送り出してくれていた。
「うん。ボクまた遊びに来るね!」
「またおしゃべりしましょうね〜」
 さんぽや命がにこやかに手を振る。
「フハハハハ、タノシカッタゾ!」
「ええ、私もです。また来ますね」
 皆を誘ってお茶をしていた樹も、るりぴょんに別れの挨拶を告げる横で。
「……なかなか、楽しかったわね」
 皆に紛れてこっそりオウムと戯れていたアンナ・ファウスト(jb0012)がひとりごちていた。
 ちなみに変装までする徹底ぶりに、誰も気づけなかったのは内緒である。

「それでは私も、失礼致します」
 最後に出ていこうとする静を、甲高い声が呼び止めた。
「マタ、コイヨナ!」
 かけられた声に、静は振り向く。
 そこには先程まで一緒にいたヨウムが、どこか寂しそうにこちらを見つめていて。
(なによ……動物は素直なんだから…)
 そんなオウムが、少し羨ましく感じる彼女だった。


●猫カフェ

 後片付けを手伝っていた玲獅とナタリアは、ふと窓際に目を向けていた。
 一匹のサバトラが、外を見続けているのに気がついたからだ。
「あの子はどうして、ずっと外を見ているのでしょうか」
 気になって聞いてみる。すると、店員は少し困ったように。
「きっと、飼い主が来るのを待っているんだと思います」
「飼い主って……」
 ナタリアの言葉に、店員は何も言わずかぶりをふる。恐らくは、もう二度と。
「でもきっと……わかっているんだと思います。あの子も」
 わかっているから。
 ただ黙って。外を見続けているのだろう。
 二人はそっと猫に近寄る。何もしてあげることは出来ないけど。
 ただ一緒に、窓の外を眺める。
 この子が少しでも、寂しくないように。

「あら……」
 ふとくつろぎスペースに視線を向けた玲獅は、顔をほころばせ。
「ふふ……皆さん、すっかり眠ってしまわれたのですね」

 ソファでは春夏と夕乃が。
 カーペットの上ではエルレーンと九朗と千代が。
 各々幸せそうな表情で、眠っている。
 もちろん、その傍らには猫たちが寄り添っていて。

「写真、撮っちゃいましょうよ」
 いたずらっぽく微笑むナタリアに、渚が賛同する。
「私、使い捨てカメラ持ってます!」

 彼女のカメラには。
 温かさと幸せが一杯詰まった写真が、おさめられていくのだった。



 動物たちと、ひとときを。

 撃退士たちは、教えられた。
 彼らは皆ひたむきで、優しくて、温かくて。
 そして何より――

 人が大好きであることを。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 野生の爪牙・与那覇 アリサ(ja0057)
 サンドイッチ神・御堂・玲獅(ja0388)
 夜のへべれけお姉さん・雀原 麦子(ja1553)
 世界でただ1人の貴方へ・氷雨 静(ja4221)
重体: −
面白かった!:11人

God of Snipe・
影野 恭弥(ja0018)

卒業 男 インフィルトレイター
野生の爪牙・
与那覇 アリサ(ja0057)

大学部4年277組 女 阿修羅
保健室のお姉さん・
シルヴァ・ヴィルタネン(ja0252)

卒業 女 インフィルトレイター
サンドイッチ神・
御堂・玲獅(ja0388)

卒業 女 アストラルヴァンガード
雷よりも速い風・
グラルス・ガリアクルーズ(ja0505)

大学部5年101組 男 ダアト
┌(┌ ^o^)┐<背徳王・
エルレーン・バルハザード(ja0889)

大学部5年242組 女 鬼道忍軍
ヨーヨー美少女(♂)・
犬乃 さんぽ(ja1272)

大学部4年5組 男 鬼道忍軍
夜のへべれけお姉さん・
雀原 麦子(ja1553)

大学部3年80組 女 阿修羅
蒼の絶対防壁・
鳳 蒼姫(ja3762)

卒業 女 ダアト
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
世界でただ1人の貴方へ・
氷雨 静(ja4221)

大学部4年62組 女 ダアト
STRAIGHT BULLET・
神埼 晶(ja8085)

卒業 女 インフィルトレイター
夜舞う蝶は夢の軌跡・
簾 筱慧(ja8654)

大学部4年312組 女 鬼道忍軍
白銀の魔術師・
ナタリア・シルフィード(ja8997)

大学部7年5組 女 ダアト
撃退士・
夏木 夕乃(ja9092)

大学部1年277組 女 ダアト
左手は三毛猫のために・
朱史 春夏(ja9611)

大学部6年57組 男 阿修羅
撃退士・
虎落 九朗(jb0008)

卒業 男 アストラルヴァンガード
翼の下の温かさ・
アンナ・ファウスト(jb0012)

高等部1年13組 女 ダアト
護楯・
龍仙 樹(jb0212)

卒業 男 ディバインナイト
未到の結界士・
久遠寺 渚(jb0685)

卒業 女 陰陽師
撃退士・
彪姫 千代(jb0742)

高等部3年26組 男 ナイトウォーカー
七福神の加護・
鷹司 律(jb0791)

卒業 男 ナイトウォーカー
翼の下の温かさ・
八尾師 命(jb1410)

大学部3年188組 女 アストラルヴァンガード
能力者・
空木 楽人(jb1421)

卒業 男 バハムートテイマー
猫至上主義・
天音 万葉(jb2034)

大学部6年195組 女 陰陽師