.


マスター:日方架音
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2014/07/05


みんなの思い出



オープニング


 鏡国川 煌爛々(jz0265)は浮かれていた。

「ともだちーともだちーときどーきなぐりあいもしーてー」

 鳥海山に与えられたファンシーな己の一室にて、人の背丈はあろうかというテディベアと殴り合い―額に『ともだち』と張り紙がしてある。本人的には『ともだちと遊んでいる』らしい―調子っぱずれの鼻歌が陽気に響き渡る。

「イライラーかおじゅうーぶちきれたりもするーけれーどー………?」

 尻上がりの疑問符に巻き込まれ、アップテンポなリズムが不意に止まる。ガスゴス、と軽快に殴っていた手も止まる。
 歌声は何度か同じフレーズを繰り返し、節を変え、最初から歌い直してもみたりするけれど。

「ともだち…なぐりあって…そっからどーするんですし……?」

 途方に暮れた煌爛々の声に、返る応えは当然無く。
 綿のはみ出たテディベアが、力無く床に崩れ落ちた。



 鏡国川 煌爛々は悩んでいた。

「『互いに心を許し合って、対等に交わっている人。一緒に遊んだりしゃべったりする親しい人。友人。朋友』」

 大仙市。なんとなくサイコロで行き先を決めた割には、都市規模も大きく目的の場所もすぐに見つかった。
 そう、ビル建てのでっかい本屋である。

「……『朋友』ってコレなんて読むんですし?」

 その分厚さに反して薄っぺらい紙をコワゴワ捲りながら、一生懸命文字を辿る。意味がわからない。そもそも、ちょっと難しい漢字になるともう読めない。
 典型的な不良の例に漏れず、学校嫌い勉強嫌いだった過去が足を引っ張る。

「うーんうーん、むつにーいたら一発なのに…」

 少し前まで補佐をしてくれていた、兄とも慕うむつにー(六万秀人)を思い浮かべる。
 痒いところに手が届く彼なら、さり気なくフリガナをふってくれただろうに――

「…てゆーか違いますし!?知りたいのソコじゃ無いですし!!」

 頭から煙が目視出来そうな辺りでハッと気付いたらしい。
 乱雑に国語辞典を元の場所に突っ込むと、次の導を探すべく、慣れないことをしてフラッフラな頭と足取りで階段を降りていった。


 ――足音が確実に消えた辺りで、詰めていた息を吐いた店員が受話器を持ち上げたのには、露と気付くことも無く。



 斡旋所は困惑していた。

「…えーと、鏡国川 煌爛々、なんですけど」

 いっそ諦観の混じった声音で、バイトの少年は依頼書を配る。
 とはいえ実は、態々配るほどの内容も無いようで。

「大仙市のとある本屋に現れたらしいんですが…どうやら、なにか調べ物をしている?みたいで」

 何を壊すわけでなく、誰を襲うわけでなく。
 只々フロアを彷徨いては、難しい顔で本を見詰めるだけ。

「…ま、彼女の場合、意味の分からない行動は今に始まったことじゃないですけどね」

 それでも、と。少年は顔付きを改める。
 きな臭さを増す東北、意図が読めないとはいえ、そこに現れたのは紛れも無く――圧倒的な力を誇る、使徒。

「撃退士でもない一般人は、生きた心地がしないと思います。早急な解決をお願いします」

 嘗て無力だった自身を思い出したのか、少年は深く頭を下げる。
 と、ふと思い出したように顔を上げて。

「ああそうだ、ミハイル先生から言付かっています――『手段は問わない』、と」



「おい煌爛々、次は――なんだ、おらんのか。全くアイツは何処を…」

 暫く好きにしろ、と放置していた己を棚に上げ。
 ブツブツと文句を垂れつつ、フェッチーノはズカズカと乙女の部屋に入り込む。そして。

「……ほう?」

 陰鬱な隈に縁どられた視線が、床に転がるテディベアを、その額の張り紙を捉えた。
 徐ろに細く鋭く潜められる瞳、スゥと上がる口角。くるり、踵を返すと。

 無言のまま閉じられた扉の震えが、ネームプレートをカランと落とした。


リプレイ本文


 流れる人波に逆らい、ゆったりと目的地を見上げる。

「久方ぶりのきらら様ですか」

 エイルズレトラ マステリオ(ja2224)の掌を舞台に、スペードとクローバーのトランプ達が大戦争。
 ナイトに追い詰められたキングの行末に気を引かれながらも、ヤンファ・ティアラ(jb5831)はぐっ!と拳を握る。

「きらら様とは、またお会いしましょうとお約束しましたのですっ!」
「ゆっくり遊べたら嬉しい、ってヤンファずっと言ってたもんねー」

 キングの逆転劇に目を輝かせながらも、フェイン・ティアラ(jb3994)の白い尾は、落ち着かせる様に妹を軽く包んで。

「知的空間HONYASAN…そんな空間でも一際美しさを振り撒く貴女はマイスイートエンジェル…」

 この日の為に用意した、とあるモノを胸に抱き。加茂 忠国(jb0835)はうっとりと今回の対象を思い浮かべる。

「鏡国川煌爛々…ねぇ。随分と面白い奴みたいだな」

 少し離れたビル壁に凭れ、三者三様の反応を観る。
 肺一杯に吸い込んだ紫煙をゆっくりと吐き出すと、ネームレス(jb6475)は薄っすらと口角を持ち上げた。

「あぁ、可愛らしい嬢ちゃんだぜ…くくっ、拗ねるなよ、お前さんも人気者じゃねぇか、相棒よ」

 抗議するように見上げる相棒のエメラルドの瞳に。朱い滑らかな鱗を撫で、ほら、と笑って視線を向ける。
 庵治 秀影(jb7559)の示した先には、遠巻きに伺う子供達が親に急かされ歩いていた。


 ――それは、まるで、平穏の去り行く足音。



「暴れてねぇんなら、急ぐこたぁねぇだろ」
 ふ、と惹かれた一冊を手に取る。深い緑に彩られた、平積みの写真集。

「大きな木がいっぱいですの」
「ボク知ってるよー、セカイイサンっていうんでしょー?」

 忙しなく探して驚かせてはいけない、との意図を汲んだか。のんびりと歩む秀影の傍らから、ティアラ兄妹が覗き込む。

「フフ、甘いですね…真の世界遺産とは即ち人!」
「あー、グラビア本置いてから喋ってくれるか」

 同じ写真集でも水着のおねーちゃん一杯な方をガン見する忠国に、呆れた様子のネームレス。
 エイルズが手を叩くと、何故か本棚の中が綺麗に並び揃えられる。

 避難する時を稼ぐように、一行はゆったりと階を上がって行き。



「MAY I HELP YOU?」

 理学系分野の奥の方、百科事典コーナーで悩む影に、エイルズは慇懃に問いかける。

「にっ、にぽんご以外はのーさんきゅーですし!!」

 奇跡的にも、外国語だということはわかったらしい。
 飛び上がって飛び退るという器用な真似をしてのける。

「…ああも頭の悪い様子だと、馬鹿な子ほど可愛いと言いますか、本気で愛らしく思えてきますねえ」

 いっそ感心するエイルズを越え、煌爛々の手からスッポ抜けた事典を、ネームレスは事も無げに受け止め。

「日本語以外はNO THANKYOUねぇ…おい。お前その本の漢字読めてるか?」
「えっ」

 どうも馬鹿みたいな馬鹿だからな、と、戸惑う煌爛々に吹きかけられる紫煙。
 罵倒と煙たさに眉を顰め、だが慣れた様子で武器に手を伸ばすのを観ながら、更に言葉を繋ぐ。

「馬鹿じゃないって?…なら円周率、答えてみ?」
「うええっ」

 機先を制する笑みに、動揺する姿に、緊張した空気が霧散する。
 虚ろな眼でブツブツと呟き始めた煌爛々の背に、軽い衝撃。

「この間ぶりなんだよー!煌爛々何やってるのー?」
「あっクッキーですし…いっ、いやその」

 駆け寄る勢いのままに背を叩いた姿を振り返り、相好を和ませる煌爛々。
 同時に、ともだちに格好悪い所は見せられないと思ったのか、あたふたと彷徨う視線は。

「ではきらら様、ヤンファと勝負しましょうですの!勝ったら悩み事を教えて貰いますのですっ」
「なんでそーなるですし!?」

 バシッ!と兄のすぐ後ろで仁王立ちなヤンファさんに持ってかれる。
 ビシィ!とさした指が、視線と共にゆーーっくりと動かされた先には。

「悩める若人ってぇ所かねぇ…くくくっ、楽しそうじゃねぇかぃ」
「89点…っ!」

 宙のヒリュウを腕に戯れ付かせ、ゆったりと秀影は微笑う。
 たじろぐ煌爛々の耳に、背伸びしたヤンファはそーっと一言。

「きらら様が勝ったら、かっこいいオジサマに何か聞いてきて上げますですよ!」

 わかりやすく固まる煌爛々に、掴みはOKの笑み。
 素直に頼れない姿を、面映ゆく感じながらも。

「勝負、いい響きです。では私から必勝祈願としてこちらを!」
「どっから湧いて出たですしハレンチ!?」

 Q.いきなりドアップな忠国を思わずぶん殴ったのは正当防衛になりますか。
 A.本人ピンピンしてるからいいでしょう。

「まぁそんな事より、本ときたらこのアイテムしかないでしょう!」

 片頬に真っ赤な紅葉を咲かせながらも、真顔で差し出したのは。

「フェチの人には堪らない!その名も眼鏡です!」

「つまり忠国はフェチの人なんだねー」
「こだわりが透けて見えるのですっ」

 外野の声もなんのその。

「普段眼鏡をかけない〜中略〜その魅力は2倍〜というわけでデートしましょう!」
「知るかあああ!!」


 かくして、よくわからないままに戦いの火蓋はきって落とされたのだった。



 場所を移しまして、やってきたのは電子音の轟くゲームセンター。

「勝負といえば…これですのっ!」

 こうみえてコントローラーはお友達なヤンファさん。
 最初に選んだのは、アスリート達がしのぎを削る格闘モノ。

「アス?だー」
「くくっ、懐かしいねぇ」

 右手はバーに左手はボタンに。
 観客の見守る中、キャラを選んだらカウントダウン、3,2,1…Fight!

「ダウンからの右ローで即時復帰なのですっ」
「その技を知っているとは…本気でいくですし!」

 だが煌爛々もさるもの、出の早いコンボで堅実にダメージを与えていく。伊達に学校サボって無いよ!
 秀影があっさりフェインに2勝して、苦笑しながら指南したりしてる頃。
 ようやっと1分けからのラスト勝負。

「負けないですのっ」
「返り討ちにしてやるですs「おっとここで乱入だー!」えっ」

 アーケードも随分様変わりしているようで。
 警告めいた電子音と共に現れたるは、謎の怪人パンプキン。

「フハハハハハ!」

 マントを翻し、高笑い一つで画面にカボチャが乱れ飛ぶ!

「くっ、カボチャマスクを投げてくるだけなのに地味に痛いですし!?」
「きらら様、ここは一時休戦なのですよ!」

 ガード多用で囮に徹する煌爛々と、トリッキーに翻弄するヤンファ。
 即席タッグは結構相性が良いようです。

「諸君、また会おう!」

 赤ゲージからの連携技で、何とか倒した二人。
 最後まで高笑いに消えていく怪人に、知らず詰めていた息を吐く。

「っょぃょ…」
「強敵でしたですの…あら、エイルズ様」

 両の手を打ち鳴らして、どこからか現れたエイルズは涼し気な顔。

「いやあお二方、お強いですね」
「カボチャー…?」

 シーっと人差し指を口元に、ウィンク一つをフェインに送る。
 後ろ手に隠したカボチャが、掌でころん。


「煌爛々ー次あれやろうよー!」
 フェインが全負けした格ゲーから品を変え、目の前にはぬいぐるみの山。
 ただし、ガラスケースの向こう側ですが。

「…ちょいとやってみるかねぇ」

 ある一点を見つめて微動だにしない煌爛々に、秀影は笑ってコインを投入。
 1番、2番と縦横に動かして――

「「惜しいです」し!」のっ!」

 引っかかったクレーンは、しかし重さで持ちあげられず。けれど。

「でも秀影上手いねーいい感じに出たよー」

 真っ赤なお尻を向けたサルのぬいぐるみは、ちょうどタグが引掛けられそうな角度で。
 妹に教えこまれた技術を以ってしたら―いける!

「いっt…えええ!?」

 何の運命か悪戯か。
 アームから落とされたサルは、絶妙なバランスで排出口に引っかかり。

「落・ち・ろですしー!!」
「あぁっ、煌爛々無理に動かしちゃ駄目だよー!」

 ガンガンゴン。使徒の怪力も相まって、装置は揺れる揺れる。フェインの尻尾もおろおろと揺れる。サルも揺れに揺れて…ぽとり。

「っしゃー!!」(※良い子は真似しないでください)

 拳を突き上げる煌爛々に苦笑しながら取り出した、ブサ可愛いおサルさんをジッと見つめると。

「ほらっ、これ可愛いよー!」
「ふぇっ?」

 ポン、と掌に載せられたぬいぐるみ。自分に貰えるだなんて思ってもみなくて。
 目を白黒させる煌爛々に、フェインは満足気に笑った。



 和気藹々と賑わう喧騒の物陰にて。

「…斡旋所か?至急調べてくれ」

 『鏡国川煌爛々の身元』について。
 くゆる煙の向こう側に、ネームレスは予測を告げる。

「今ある情報だけでも、一般的に育ったって風には見えねぇな」

 時間をください、とノイズ混じりに告げられた声にスマホをしまうと。
 携帯灰皿に吸殻を押し付け、何食わぬ顔で光の中へ――



「そうだ嬢ちゃん、土産なんてぇのはどうだい?」
「土産?」

 堪能したゲーセンから、人影の少ないショッピングモールを巡る途中。
 洒落たスーツを目に留め、秀影は煌爛々を手招く。
 誰に、と首を傾げる彼女に悪戯っぽく笑って。

「お前さんの天使に。―フェッチーノ、だったかねぇ」
「ええー…」

 本気で嫌そうな顔は織り込み済み。
 その口からは、罵倒しか聞いたことはないけれど。

「見立てぐれぇは手伝ってやるぜ、痩せてるってぇ話だったな…ちっと良いかぃ」
「俺か?」

 己よりは近いだろう体型のネームレスをモデルに、何着か当ててみる。

「細身ならスリーピースか、ストライプなんざどうだい?」
「に、にぽんごでええ」

 飛び交う専門用語に目を回す煌爛々。
 黙って為すがままに立っていたネームレスだが、徐ろにスマホを操作すると。

「言葉だけだと理解出来ねぇだろ」

 実際に画像を見せ解説する。
 淡々と流れる言葉は、意外とわかりやすく。

「スリーピースはブランド名だ、襟元に必ず3つのピースサインがある」
「な、なるほど」
「…本気で信じるのかよ」
「嘘なんですし!?」

 時折交じる他愛も無い誂いは、ご愛嬌。

「ついでに何か買ってやろうかねぇ」

 何が欲しいだろう、と悩む瞳は慈愛に満ちて。



 広大なフロアも、残す所あとわずか。

「あああっ!」

 先頭を歩くヤンファが突如立ち止まり、ワナワナと震え叫ぶ。

「勝負、忘れてましたですのっ!」
「強敵現るだったもんねー」

 くる、と二対の赤紫色が煌爛々を捉えると。

「う…ぐっ」

 見つめられ、煌爛々は押し黙る。だって何だか恥ずかしいし、それに。
 ――そんな事も知らないのかと、失望されたら。

 ぐるぐる悩む煌爛々の前に、スルリと滑り込む影。

「探しモノは、既に手の内に」

 エイルズがヤンファの手を恭しく握り開くと、そこには国語辞典。
 ご丁寧にマーカーと、ルビまで振って。

「『友達』…?」
「見てたですしー!?」

 途端、崩れ落ちる煌爛々の、両耳が真っ赤に染まる。
 顔を見合わせた兄妹は、揃って屈み込むと。

「いろんなこと楽しんだら友達だって、おかーさん言ってたんだよー」
「好敵手って書いて友と読むのです!」

 覗く顔は愉し気に。
 対の赤い飾り組紐が、しゃらりと揺れる。

「ヤンファはきらら様とお話するの愉しいのですよ」
「一緒に遊んだし、ボク達もう友達だよー」

 組紐に負けないくらい、耳はどんどん染まっていって。

「友達ってなぁ、特別何かをする必要はねぇ」

 コツ、と靴音が煌爛々の背で止まる。
 肩にかかる温もりは、朱い幼竜だろうか。

「そんでもどうしたら良いかわかんねぇ、ってんなら力になるぜ」

 戦うならそれもまた良し、と秀影は微笑う。

「互いに生き残ってりゃ、いつか笑える日が来るってなぁ」

 くしゃくしゃ、と髪を掻き混ぜる手は、煌爛々も兄妹も同じように。



 そんな、暖かくも煌爛々にとってむず痒い空間は。

「あぁ、何かに思い悩む貴女の姿はまるでミロのヴィーナス…」

 ガシィ、と真正面から握りしめられた両手の感覚によって終わりを告げる。

「儚く美しく、何よりヘソチラがえっちでもう鼻血が止まrおっと本音が」
「………」

 そっと掴まれたまま握られていく拳を感知したか、忠国は徐ろに立ち上がると。

「そうです!アイスクリーム屋にもいきましょう!」

 無言で引き抜かれた拳が振り被られる前に、光速で走り出す忠国。

「アイスを舐める女性も中々にエロいですーー!」
「言いたい事はそれだけかーー!!」

 あっという間に見えなくなる二人。
 見送るしかない一同に、ネームレスはスマホを持って口を開く。

「どうするかは任せる。だが相手の事ぐらい知らねぇと、何も出来ねえだろ」

 鏡国川煌爛々の出自が判明した、と――




「あんのハレンチ、どこいったですし…!」

 窓から夕日が差し込む中。
 見失った袋小路は、どこかデジャヴを思わせる。

「さて、少し真面目にお話しましょうか」

 忠国の声が死角から響くのも、同じ。
 夕日で顔が熱いのも。

「苦手な本に訊ねてまで探した物は友、でしたか」

 いつの間に買ったのか、チョコチップアイスを差し出しながら。

「…きっとそれは知るものではなく、解るものなのだと思います」

 自分にはチョコミントを一舐め、忠国は独特の風味に思いを馳せる。
 悩んで苦しんで育み知る、そう、昔日の己に姿を重ねて。

「人も使徒も天魔だって皆一緒のはずです」

 だから分かり合える、友達になれる、と言外に。
 今は伝わらなくとも、理解できなくとも、何れ。

「焦らずゆっくりとで良い、心を育んで理解して下さい」

 それはきっと、誰もが通る道。己すらも未だ、途上。
 ハレンチのくせに、とブツブツ呟く声が、時報に吸い込まれていった。


「煌爛々ープリントシール撮ろうよー!」

 明るく呼ぶ声は、ちょうどアイスが溶けた頃合いに。




 抱え切れない程の土産を部屋に置いて。
 嫌そうな顰め面ながらも、足は主の部屋へ。

「…ともだちに言われたからですし」

 扉の前で深呼吸、ノックしてそーっと開けると。

「煌爛々か…来るな」
「ゴシュジンサマ…?…っ!」

 近付く程に噎せ返る鉄錆の匂い。
 荒い息遣いが唯一、微動だにしない彼の存在を告げる。

「来るなと言ったろうが…お前は本当に私の命令を聞かん」

 果たせん、の間違いか。
 引き攣る様な嗤いは、血反吐混じりに喉を詰まらせる。

「何で…誰が、こんな」
「お前も知っているだろう。――撃退士共だ」

 刹那、昏い憎悪の灯った眼差しを、今は亡い片翼に投げる。
 と、愉悦に口角を持ち上げ、思い出したかのように。

「ああ、六万も死んだ。殺された」
「え――」

 撃退士共に、と深く吐息ごと囁く。
 ぶつけられるように与えられる情報に、己が使徒がついていけない事を承知で。

「…仙台で大きな戦いがある」

 不意に、瞼を閉じる。
 憎悪も愉悦も何もかもを飲み込み隠すように。

「お前は、ここにいろ」

 命令だ、と嘯く言葉を最後に、沈黙が部屋を支配する。


『お前さんの天使も、お前さんの事ぁ気にかけてるんじゃねぇのかい』


 『ともだち』と選んだ土産が、乾いた音を立てて煌爛々の手から滑り落ちた。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:4人

奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
愛の狩人(ゝω・)*゚・
加茂 忠国(jb0835)

大学部6年5組 男 陰陽師
桜花の護り・
フェイン・ティアラ(jb3994)

卒業 男 バハムートテイマー
撃退士・
ヤンファ・ティアラ(jb5831)

中等部3年10組 女 陰陽師
Outlaw Smoker・
ネームレス(jb6475)

大学部8年124組 男 ルインズブレイド
いぶし銀系渋メン:89点・
庵治 秀影(jb7559)

大学部7年23組 男 バハムートテイマー