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マスター:さとう綾子
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
参加人数:8人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2013/02/16


みんなの思い出



オープニング



 たとえば、こんな満天の星空の下なら。
 きっと素直になれるはずだから。


 淡い夢を見ていた気がする。
 あなたと手を繋いで、一面の銀世界を歩く。
 空はキンと冷えた澄んだ空気。
 金平糖を零したような一面の星空。
 何か話していたような気がするけれど、思い出せない。
 それをあなたに話したら、自分も、と言って笑った。
 二人で見ていた淡い夢。
 それならそれを叶えにいこうとどちらからともなく、笑った。


 理由なんてそれで充分。
 あなたと一緒なら、どこにいても幸せだから。
 何を話そう。何をしよう。
 何もしないのも、それはそれでありかもしれない。



 2月14日。
 中国地方のあるスキー場がスキーやスノボ禁止となる。
 傾斜があるのが難点だが、ただ、白銀の世界を楽しんでもらおうという試みだ。
 ライトアップもしない。あるのは星と月の光だけ。
 リフトは回っているので、頂上まで行ってそこでぼんやりするのも手だ。
 もちろん、滑り落ちるように歩いてくるのも楽しい思い出になるはず。
 スキー場の下にはカフェがあり、無料でホットチョコレートを振舞ってくれるという。
 そんな些細なバレンタインイベント。


 満天の空の下、あなたと一緒ならきっと幸せだから。


リプレイ本文


 水屋 優多(ja7279)に誘われたとき、礼野 智美(ja3600)は驚いた。
「こんな催し在りますが、一緒に星を見に行きませんか?」
(……優多インドア派で、こんなイベント参加するタイプじゃないのに……珍しいな)
 そう思いつつ、智美は参加を了承した。
「……相当寒そうだけど……スキーウェア優多持ってたっけ?」
 地元はもともと温暖な島。スキーウェアなど必要ない。最近、依頼で雪深いところにも行く事が多かったので智美は最近、スキーウェアを購入したのだが……。
 果たして優多はスキーウェアで智美を迎え、智美はまた驚いたのだ。
 優多はこのイベントの事を聞いて『智美を誘おう!』と決意した。
(何しろあの人、依頼こなして飛び回っていますから……14日の半日位、貰っても良いですよね?)
 スキーウェアにマフラー、使い捨てカイロは手足に。暖かい紅茶を魔法瓶に入れて、智美と優多はリフトで頂上まで行く。
 迎えるのは満天の星空。二人はぼんやりとしてしまう。
「……依頼でもイベントでもなくてこんな所くるなんて、数年前までは思ってもいなかったんだよなぁ……」
 智美が呟く。
(地元で姉様補佐して守ってそのまま成長するものだと思っていたのに……)
 それが今、二人で雪山で星空を見上げている。
 星空を暫く見て「帰ろうか」と優多を智美が振り返ると、優多はリフトではなくそのまま歩いて降りようとしていた。
「歩いて降りるほうが暖かい気がしますよ。じっと止まっているリフトはスピードがある分寒かったですし」
 智美も納得して歩き出そうとしたとき、優多が転んだ。慌てて智美は優多を助け起こす。
 カイロを手に出して、彼の手を取り補佐しながらゆっくり歩いて降りていく。
 なんとなく話すのは共通する冬の思い出。
 そんな思い出話ができることが優多にとっては嬉しい。
 何度も転びそうになる優多を補佐しながら、智美は思う。
(……俺が彼を守るのが、俺達にはお似合いだろう)
 優多は助けられながら、何も気づかない智美が彼女らしくて少しほっとする。
(……降りたらチョコレートの飲める喫茶店に行きましょうか。智美、多分今日がバレンタインって自覚してないでしょうからね)
 繋いだ手は暖かくて。
(私から智美にチョコを贈るのが私達らしいと思います)
 一方で、そのカフェで頼み事をしている人物がいた。
「すみません、これにホットチョコレート入れて貰って良いですか? 外でも飲みたいので」
 伏見 千歳(ja5305)が微笑んでステンレスタンブラーを2つ、カフェに差し出すと快くホットチョコレートを入れてもらえた。
 共にいる四条 那耶(ja5314)はわぁ、と嬉しそうな笑顔を見せる。
「那耶、中腹まで行ってみようか。頂上には負けるかも知れないけど、きっと綺麗に見えるよ」
 二人はリフトを使わず、中腹までゆっくり登り始める。
(ほんとは歩くの苦手だけど……千歳さんとなら、頑張る!)
 千歳は那耶の憧れの人。那耶が千歳の背を嬉しそうに見つめながら登っていると、不意に千歳が振り返った。
「那耶、大丈夫? 疲れたなら少し休もうか」
「大丈夫です、まだ歩けます」
「あ……手、繋ごうか。僕が手を引っ張るから」
 微笑んで差し出された手。那耶がそっと手を重ねると大きな千歳の手が包み込んだ。
 中腹まで昇ると空は二人に近づいた。
「うわぁ……! すっごい綺麗……!」
 那耶は空へと手を伸ばす。
「こんなに綺麗な星と月……久しぶりに見た気がするな」
 千歳も思わず空を見上げる。それからタンブラーを一つ、那耶に渡した。
「はい、那耶。どうぞ? 体、冷えたよね。マシュマロ持ってきたけど……入れる?」
「はい!」
 嬉しそうに那耶が雪の上に座る。それを見てから千歳も隣に座って。
 二人で月と星を見ながら話す。
「那耶、学園での生活楽しんでる?」
 話すのは他愛のないこと。
「那耶にも、家族の皆にも僕は幸せになって欲しいな。大切な人を見つけて」
 千歳はそっと那耶の頭を撫でる。その純粋な優しさは那耶を少しだけ苦しくする。
 だから那耶は自分の顔を覗きこむ千歳の目に照れながら、嬉しそうにチョコの箱を差し出した。
「千歳さん、これ……貰ってくれます?」
「え? 僕に? いいの? 有難う」
 嬉しそうに受け取る千歳。
「中見て良いかい?」
「はい、どうぞ」
「わ……! トリュフだ……那耶の手作り?」
 照れくさそうに頷く那耶。千歳は一口トリュフを食べる。その甘さと気持ちに千歳は那耶の頭をまた撫でる。
「凄く美味しいよ。那耶、有難う」
 那耶にとってはそのときの千歳の微笑みがなによりのご褒美だった。
 ホットチョコレートを準備していったのは千歳達だけではない。
 もこもこのコートにスカート姿。下はたっぷり厚着して、足元は厚手タイツにスキー用ブーツ。カイロもちゃんと準備して。
 小さなリュックを背負い、中にはステンレスの魔法瓶とクッキーを。
「焔さん」
 雪成 藤花(ja0292)が許婚の名を呼ぶと星杜 焔(ja5378)は思わず口元をほころばせた。
 もこもこ姿で歩く藤花の姿がちょっと危なっかしくて、可愛らしくて。
「麓で見る星も綺麗だけれど、頂上で見る星もきっと綺麗だと思うから。そちらへ向かいませんか?」
 藤花の言葉にもちろん否を言う焔ではない。二人でリフトに乗り、頂上へと。
 空に煌めくのはきんぎんすなご。
 藤花が空を指さし、冬の大三角や北極星を示せば、焔もそれを見上げた。
(星はいつも傍にあって、わたしたちの関係を見つめてくれていた。そんな星が手の中に届けばいいのに)
 手を星空へと伸ばす藤花。
(夏にもこんな事があったな)
 ぼんやりと藤花の指先を見ながら焔が思う。
(あの頃はまだ大切な友人の一人だったけど)
 藤花は星の下で魔法瓶を取り出した。中に入っているのはホットチョコレート。一つの器でふたりで分け合いっこをして。クッキーも出せば、ちょっとしたティータイムのように。
 寒い雪山。ホットチョコレートは心の芯まであたたまる。
(でもいちばんあたたかいと思えるのは、きっと焔さんがそばにいるから)
 ホットチョコレートの器を渡し合えば、かすかに指が触れて。どちらからともなく手を繋いだ。
(父さんと母さん。きっともう心配してない、よね……)
 焔は手をそっと握りながら星空を眺める。
「星に近づいてみたいな」
 藤花の願いはちょっとした我侭。ちらりと焔を見れば、焔は微笑んだ。藤花を姫抱きにして、天使の翼を広げる。人の翼だから、少しの間の翼だけれども。
 雪から足が離れ、空が近づく。藤花は星空を抱きしめた。
「いつもありがとうございます。これからもよろしくお願いしますね」
 星空で呟くように告げた言葉は藍色の空に溶けていく。そんな願いを叶えるように、流れ星が一粒、零れた。
 帰り道。
「ホットチョコ、温まるね。有難う」
 焔に言われて気がつく、間接キス。藤花は顔を赤らめる。
(やっぱり少し、照れくさい……)


(星と、月明かりだけの、雪の道……。スキー場も、面白い事を、考える。この時期だから、なのかな)
 白の耳あてにニット帽、緋色のマフラー。スカイブルーのスキーウェアを着てサクサクと雪道を歩きながら考える樋渡・沙耶(ja0770)の横を歩くのは麻生 遊夜(ja1838)。
「月夜の散歩も悪くない……ねぇ、沙耶さん?」
 黒を基調にした赤混じりのニット帽とスキーウェア、スカイブルーのマフラーを着用した遊夜は沙耶に手を差し伸べた。
「さ、お手をどうぞ。エスコートさせて頂きまするよ、お嬢様」
 手を繋いでお散歩へと。
「良い夜だ…のんびり歩くのも悪くないやね。頂上まで行けるみたいやけど、どうする?」
「ん……」
 微かにうなずいた沙耶に同意の意を汲み取ると、二人はリフトで頂上まで。
「おー、なっかなか幻想的だやな」
 雪山一面に広がった星空に遊夜は感嘆の声を漏らした。
「んー、ちっと冷えるかね?  沙耶さんは大丈夫? 寒くない?」
 そして、両手を広げてさぁ来い的なアピールをとる。
「今なら人型ホッカイロがタダでありますよ?」
 ケラケラと笑う遊夜に「いらない」と言わんばかりに首を振る沙耶。
 手を繋いだままゆっくり傾斜を下っていく。
「そうそう、最近分かったんだけどさ。俺って強欲だったみたいなんだよ」
 気負いなく遊夜は言う。
「だから……ちっと本気で、親父殿から手に入れてみようかな、と」
 沙耶は遊夜を見上げた。遊夜も姿勢を正し、まっすぐ沙耶を見つめる。
「俺に、何か言うことはあるかい? 俺は、君と歩いていけるかな?」
 沙耶は言葉を探すように、何も言わない。
「俺は俺なりに、沙耶さんを愛してる。嫌われても……たとえ殺されたとしても。近くにいても、遠くにいても……君の幸せだけを祈ってるよ」
 遊夜は沙耶の手を強く握りしめた。
「沙耶さんは…俺の物になってくれますか?」
「私は正直、愛とか、恋っていうのは、分からない……」
 沙耶はぽつりぽつりと言葉を零す。
「だから、遊夜さんを愛してるのかも、よく分からない……」
 遊夜は黙って沙耶の言葉を聞く。
「でも、何だろう。遊夜さんと一緒にいると、心がぽかぽかする……気がする。今まで、こんな気持ちになる事はなかったから、よく分からない……」
「ありがとう、それで充分だよ」
 遊夜は朗らかに笑った。そして沙耶をお姫様抱っこしようとして――。
「……っ」
 その前に沙耶が遊夜の足に足を引っ掛けて、転ばせる。傾斜で転べば、出来上がるのは人間雪だるま。
 ゴロゴロと転がりながら笑う遊夜。
(親父殿との勝負まであと九ヶ月と少し)
 それでも。
(俺の全ては沙耶さんの為だけに)

(そ、そーいえばボク……デートって初めてなのだ……!)
 フラッペ・ブルーハワイ(ja0022)は気づいて当惑した。
 大事な人をデートには誘えた。愛用の服にロングコートと準備もできた。
(後は、えと、どうするのだー!?)
 旅をし続けて、沢山のヒトと出会って、やっと巡り合えたキミ。
 旅をやめてでもずっと傍にいたいと思えたキミ……。
(ボクはキミを、コベニを、どうすれば喜ばせられるのだ……?)
 私服の上にコート、そして毛糸の帽子を被った凪澤 小紅(ja0266)は、そんなフラッペに近づくと彼女の頭の上へと手を伸ばした。
「……あまり、編み物はしたことがなくて……な」
 お揃いの毛糸の帽子をかぶせる。
「さ、Thanks…」
 カウボーイハットは後ろに回して。帽子でフラッペは思わず顔を隠してしまう。
(……こんな嬉しいの初めてで、どうすればいいかわかんないのだ……)
 リフトに乗って頂上へ。満天の星の下、林間コースをゆっくりと歩いて降りていく。
「貸し切りとは、スキー場も粋な計らいをするものだな」
 小紅の言葉にフラッペが頷く。
 無言の時間が続いた。
(フラッペと親しくなったのは、今から思えば本当にささいなキッカケだったと思う)
 小紅は優しい沈黙の中、ふと思い出す。
(とはいえ、順風満帆でもなく。気持ちがすれ違ったり、届かなかったり。相手を想うからこそ、キツイ言葉を送って気まずくなったり……)
 けして平坦な道ではなかった。
(それでも、今ここでこうして隣を歩いていられることを、私は多くの人に感謝するべきなんだろうな。来年のこの日も、隣を歩いていられればいいのに)
 その想いはもちろんフラッペも同じ。
(どうしたらいいか分からない、別れは慣れてもずっと一緒にいるってどういうことか分からない、けど……コベニに離れて欲しくない、離れたくないっていうのだけは、ホントのキモチ、だから)
 フラッペは後ろからぎゅっと小紅を抱きしめた。そのままフラッペは小紅をお姫様抱っこで抱え上げる。
 そしておもむろに走りだした。蒼い風が脚に纏わり、スノーボードの形になる。アウルを爆発させながら滑るように移動する様は白いゲレンデを滑り下りる蒼い光。
「ひゃああああっ!」
 少々情けない声を小紅が上げたのも無理はない。蒼い光は段差で跳ね上がり――月に一番近いところで、二人の影が重なった。
 ロッジの手前で、小紅はフラッペに箱を渡した。
「バレンタインだしな」
 フラッペは満面の笑みで箱を開けた。並ぶのはビター、ホワイト、ミルク、ガナッシュ、四種のチョコレート。もちろん小紅の手作りだ。
「好みがわからなかったから」
「どれも好きなのだ!」
「そうか。……来年のチョコも予約しておくといいぞ……」
 来年も隣にいられますように。そう願いを込めて小紅が言うと、フラッペは少し悩んだ後大きな声で言う。
「じゃあ来年は、口移し――」
 フラッペが小紅に叩かれたのは言うまでもない。
 ダークグリーンのスーツの上に厚手の上着を羽織り、マフラーを巻いた龍仙 樹(jb0212)はあらかじめ、蛍光色で可愛らしい厚手の上着を用意していた。そしてその上着を用意していたことが当たりだと知る。
 氷雨 静(ja4221)はメイド服で樹を待っていたのだ。
「ふふっ……静さんの事だからメイド服で来ると思いましたよ」
「この格好は少々無謀でございましたでしょうか……寒いです」
「これをどうぞ」
 樹は笑顔で少し可笑しそうに用意していた上着を静に着せる。
「ありがとうございます、樹様」
 ふわりと微笑む静。けれどもその笑みは周囲に人がいるからだと言うことも樹にはわかっている。
「上まで、行きましょうか」
 エスコートするように樹は静を誘い、リフトで頂上へと向かう。
 頂上についたら、樹は人気の少なく見晴らしのいい場所に持ってきたビニールシートを広げた。その上に静と一緒に座る。
「この場所が一番景色もよさそうですね」
 見上げれば、誰もいない銀世界に月と星を二人占め。
「樹様、夜空が綺麗でございますね」
 ぽつりと零すように言う静の言葉は降る星のように静かだ。
「そうですね……凄く綺麗な冬の空ですね」
 樹はそう言いながら、持ってきた水筒の紅茶を静に差し出す。
「静さんの淹れてくれた紅茶にはかないませんが……温まりますよ」
「ありがとうございます」
 静は紅茶を一口飲むと、息を吐いた。
「樹様とお付き合いを始めてから、もう数ヶ月になるのですね」
「最初に知り合ったのは、もう結構前になりますね。懐かしい……」
「色々なことがありました……楽しかったこと、辛かったこと……今では全て愛しい思い出です……」
「静さんが辛かった事も良い思い出に出来たなら、私にとっての一番の幸せですよ?」
 二人は肩を寄せ合った。ぬくもりが互いの存在を伝えてくる。
 静はそっと樹を見上げた。
「樹様……本当に私でよかったのですか?」
「静さんだから良いんです、大好きです」
「愛しています、樹様……心から」
「私も、愛しています……静さん」
「どうかこれからもお側において下さいませ」
 樹はそっと静を抱き寄せた。
「勿論ですよ、静さん……これからも永遠に共に……」
 二人の影が重なるのを、満天の星空だけが見つめていた。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:5人

蒼き疾風の銃士・
フラッペ・ブルーハワイ(ja0022)

大学部4年37組 女 阿修羅
繋いだ手にぬくもりを・
凪澤 小紅(ja0266)

大学部4年6組 女 阿修羅
思い繋ぎし紫光の藤姫・
星杜 藤花(ja0292)

卒業 女 アストラルヴァンガード
無音の探求者・
樋渡・沙耶(ja0770)

大学部2年315組 女 阿修羅
夜闇の眷属・
麻生 遊夜(ja1838)

大学部6年5組 男 インフィルトレイター
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
月の王子・
伏見 千歳(ja5305)

大学部9年81組 男 アストラルヴァンガード
護楯・
龍仙 樹(jb0212)

卒業 男 ディバインナイト