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マスター:さとう綾子
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
参加人数:25人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2017/08/09


みんなの思い出



オープニング


 きっかけは、天界の王となったアテナが「地球の海がもう一度見たいです」と呟いたことだと言う。
 かつて地球で下っ端騎士として働いていたアセナスは大変ミーハーで、スマホ検索思いのままだった。よく自分のシュトラッサー、夏音に怒られていたほどだ。
 1日だけ地球に降りるなら問題ないでしょう、と騎士団長になった今でもあいかわらずで、しゅぱぱぱとありとあらゆるコネを使ってミカエルとウリエルを説き伏せ、念のために久遠ヶ原学園に同行の話を持ちかけてきた。

 小豆島にあるという、エンジェルロードへのお誘いだった。


 エンジェルロード。
 それは潮の満ち干きによって、小豆島、弁天島、中与島、大与島まで繋がる道が現れる不思議な現象のことを言う。
 手を繋ぎながらその散歩道を渡ったカップルは願いが叶うとも言われているそうだ。
 
 またエンジェルロードを一望できる、約束の丘展望台には鐘があり、この場所で恋人と一緒に鐘を鳴らすと願いが叶うとも言われている穴場。

 もちろん、カップルや恋人ではなく、友だち同士で行ってもいいだろう。
 きっと願いが叶うに違いない。


 潮の満ち引きを確認していた志峰院凍矢は「なるほど、この時期なら正午から三時間前後は渡れるのか」と感心した声をあげた。
「そこでだ、アテナ様の護衛として、久遠ヶ原学園の者に――」
「素敵ですね。私、皆さんに張り紙で声をかけてみますね」
「さつき、ボクも行きたい。エメも誘っていい?」
「セーレはゴミ拾いをしましょう。楽しみながら贖罪の第一歩です」
「私も彼女がいればいいのだが」
「志峰院、ともに歩かないか」
「誰がアセナスなんかと歩くか!」
 そんなわけで、さつきはぱぱっと手書きのポスターを作成し、斡旋所に貼り付けた。

 ――アテナ女王の護衛も兼ねて、幸せの鐘を鳴らしにいきませんか。

 あなたと、大事な人の願いを叶えに。
 四国の戦いを見守ってきた小豆島へ。
 


リプレイ本文





 ――晴れて暑くなった小豆島。
 青い海を分けるように現れるのは白い砂の道、エンジェルロード。
 その天使の道を見下ろす展望台と鐘。

 さあ、あなたと大事な人で願い事をしに行こう。


 卒業試験? 何それ美味しいの?
 森田良助(ja9460)はセーレと、ウィズレー・ブルー(jb2685)、詠代 涼介(jb5343)を誘い、現実逃避にやってきた。
 セーレは始めこそ篝さつきとエンジェルロードのゴミ拾いを嫌々やっていたが、良助の一言で目の色が変わる。
「ゴミ拾い、一緒に頑張ったらアイス大福をあげるよ!」
「頑張る!」
良助の用意したクーラーボックスに入ったアイス大福をもらってご満悦。さらにウィズレーにかぶせてもらった麦わら帽子を「良く似合いますよ」と褒められれば、あっという間にセーレはご機嫌にゴミ拾いを始めた。スキップしてゴミを拾って歩くセーレをウィズレーは少し感慨深げに眺める。
「……こうやって、貴女と時間を過ごす事が出来るとは思っていませんでした……不思議ですね」
 ウィズレーの言葉に、セーレも麦わら帽子を自慢げにかぶり直しながら頷く。
「ボクも。ボクのトドメを刺すならウィズレーだろうなあって思ってた」
 ウィズレーはその言葉に苦笑する。
「でも、これも嬉しいと思うのです。また皆さんで、色んな景色を観に行きましょう」
 ウィズレーから分けなさいと渡されたクッキーを持って、セーレは笑う。
「良助、涼介、クッキーもらった!」
 あっという間にゴミ拾いを忘れるセーレに涼介はため息をつく。
「セーレ、まだまだお前には教えなければいけないことが山ほどある。これから先、俺の一生分の時間をかけて教えていくから、覚悟しておけ」
「えー。クッキー食べようよ」
「えー、じゃない。ほら、ゴミを拾え」
「涼介に一枚、良助に一枚、ボクは二枚。はい、クッキー」
「ありがとう、セーレ。でも計算が違うんじゃないかな」
「セーレ、お前、俺の話を聞いていたか?」
 言いながら、涼介はセーレの手をそっと握る。
(俺の願いは……数百年後でもセーレが幸せでいること、かな。お前が後悔せずに笑っていてくれたら、きっと俺のやってきたことも間違いじゃなかったってことだろうから)
 とは言え、人間の涼介にはその結果を確かめる術はない。
(俺が居られるうちは、やれるだけのことはやるつもりだ。だがその後のことは……頼むぞ、ウィズレー)
 そして、最も重要なのはセーレが誰を選ぶかなのだが、こればかりはいつ結果がでるかわからない。ため息をつく涼介の反対側で、良助はひそひそとセーレに言った。
「セーレ、とても大事な話があるんだ! これから学園には試験という強大な悪魔が現れる! そこで、僕と一緒に試験の答案用紙を盗みに……」
「悪魔!? 良助の敵!?」
「……森田」
「……森田さん」
「何でもないです……」
 涼介とウィズレーに冷ややかな目で見られ、良助の声も小さくなる。
 ウィズレーは穏やかに微笑みながらそんな光景を少し距離をもって眺める。
(彼等とこれからどういう関係になっていくかはわかりませんが……きっと昔より良い方に行く事は間違いないでしょう)
 ゴミを黙々と拾うさつきを見て、ふと涼介は聞いた。
「篝。お前の願い事は何なんだ?」
「今はセーレの後見人をどちらかに早く譲れることですね」
 涼介と良助は顔を見合わせる。
「詠代さん、後で話したいことが」
「奇遇だな、俺もだ」
「えー、何、ボクも聞きたい」
「セーレにはクッキーをあげましょうね」
 はぐれ悪魔セーレの生活は始まったばかりだ。


 熱中症対策をしっかりしてきた龍崎海(ja0565)は、相変わらず鎧姿で歩いているアセナスを見て、少し気の毒そうな顔になる。
「アテナさんは海が見たいとのことだったけど、それならちょうど夏だし海水浴というプランは出なかったの?」
 それはもう図星なことを聞かれて、アセナスは「あー」とあからさまに失敗したという声を出した。この騎士団長、やっぱり詰めが甘い。
「天界って群島らしいから泳ぐとか普通じゃないかと思って」
「そ、それだ。泳ぐのは普通だから、今回は海見学をだな……」
 言い訳はスルーして、海はエンジェルロードと展望台を見比べた。
「アセナスにはそういう相手いないの?」
「俺は女運もないんだ」
「騎士団はアテナ派の中心でその団長になったわけだし、縁談とか色々来ているんじゃないの?」
「政略結婚の話は多いが、今はそれどころじゃないしな」
「まあ、アテナさんのほうが大変か」
 海は納得した顔をした。そして懐かしそうな顔をする。
「騎士団のほかのメンバーっていまどうしている?」
「皆元気だ。天界でそれぞれ、アテナ様とこれからの天界のために尽力している」
 思えば不思議な縁だ。かつて何度も剣を交えていた二人は並んで眩しそうにエンジェルロードを眺める。
 そこへ顔を出したのは小田切ルビィ(ja0841)だ。彼は記事のネタが転がっているところならば何処にだって出没するという、ある意味、新聞部員の鑑のような義務感でやってきていた。
「此処で逢ったが百年目だぜ、アセナスさんよ。ちょいとばかり手伝ってくれねぇか?」
 とは言え、カップルの多いこの空間、独り身は肩身が狭い。そこへ独り身を公言しているアセナスは格好の的だった。道連れとばかりアセナスを強引に連行する。
「手伝うって何をだ?」
「簡単なことだ。大丈夫」
 ルビィが想い出作りに励む恋人達をカメラに納めている間、レフ板を持ってそれを見ているアセナス。シュールである。
 そんなこんなで二人でエンジェルロードを渡りきり、使命を果たして戻ってくる。
「色々話したいことはあるんだ。天魔人の未来についてとか」
「ああ、俺も是非聞いてみたい」
「気になる女がいるのかいないとか」
「それはノーコメントでいいか。小田切はどうなんだ」
「ノーコメントということはいるのか? この俺の耳は誤魔化せねぇぞ」
「小田切はどうなんだと」
 男同士気の置けない会話といえば聞こえはいいが真面目な話になったかと思えば、互いの腹の探り合いをしたりもする。そんな空間がけして居心地悪いわけでもない。
 互いに笑い合い、未来の話をする。それも今だから出来ること。

「久し振りだな、騎士団団長殿。元気だったか?」
 共に肩を並べて戦った戦友、アセナスへ鐘田将太郎(ja0114)は気さくに声をかけた。アセナスも心なしか嬉しそうに頷く。
「俺との約束、忘れてねぇだろうなあ」
 将太郎が問いかけると、アセナスは「あー」と煮え切らない返事をした。
「いつか手合わせするって約束だよ。あー……忙しすぎて忘れてるか」
「いや、覚えている。覚えていた。大丈夫だ」
 はなはだ心配な返答と共に、将太郎とアセナスは展望台からエンジェルロードを眺めた。
「アテナ姫、もとい、アテナ王の要望でここに来たんだってな。天界の王をも魅了する地球の海は綺麗だろ。もっと綺麗なところもあるぜ」
「ああ、戦いのときはのんびり海など眺められなかったからな。鐘田は海には詳しいのか?」
「俺の故郷は海から遠いから、あんまし行けなかったんだよね。周りは田んぼや畑ばっかなところだし」
「それも綺麗そうじゃないか。緑のある景色も俺は好きだ」
 天界の王をも魅了する海を眺めながら、二人鐘の音を聞く。
「展望台の鐘、鳴らそうぜ。俺らの願い、叶えるために」
「ああ、鐘田の願いは何だ?」
「俺の願いは、お前と手合せすることだ。アセナスの願いは何だ?」
 問われ、アセナスは笑った。
「お前が天界に来て、手合わせをすること。お前の鎌の動きは手合わせをすると楽しそうだ」
 天界へ?と驚く将太郎。
「なかなか地球には降りられないからな。その内、天覧試合の招待状を出す」
「ああ、楽しみにしている」
 鐘は澄んだ音を立てて響いた。


 Robin redbreast(jb2203)はアテナの姿を見かけると駆け寄った。
「元気にしてた? 天界の王はやっぱり大変?」
 大事な友だちのことだから矢継ぎ早に質問が溢れ出す。
「はい、元気です。Robinさんもおかわりなく」
 沢山の質問を重ねながら、二人はエンジェルロードを歩きだす。
「アテナは海が好きなの? きれいだね」
「はい。天界にも海はあるんですが……ツインバベルで見た海が忘れられなくて」
「ここは、カップルが手を繋いで歩くと願いが叶うんだって。アテナはお願いごとある? 恋人ほしい?」
「えっと……」
 そこでアテナは王としての願いと少女としての願いで葛藤したらしい。少し考えてから小さな声で言った。
「もう少しだけ、皆さんと自由に会えたらいいなと思います」
 遠く離れた友だち同士は顔を見合わせてふふっと笑う。
「あたしは学園生活をもう少し楽しんでから、故郷に戻ろうと思ってるよ」
「故郷。やっぱり大事な場所ですよね」
「天界にも信頼できる人がたくさんいると思うけど、王の立場に疲れたら、また、たまに地球に息抜きにこれるといいね。友達だから、困ったときは、いつでも力になるよ」
「はい!」
 それから、二人はみんなで海をバックに記念撮影をしたり、綺麗な形の貝殻を見つけたり。見つけた貝殻を交換してお守りにすれば、また互いに笑みが零れた。
「また会おうね、約束だよ」
「はい、地球でも天界でも、友達でいてくださいね」
 互いに手にした貝殻を重ね、Robinとアテナは微笑みあった。

 ベアトリーチェ・ヴォルピ(jb9382)と親友のアテナはエンジェルロードで、手をぎゅっと握って歩く。
「綺麗な砂浜……アンド……波打ち際……つまり……すること……ひとつ……。ジャスティス……」
 ベアトリーチェの言葉にきょとんとするアテナ。ベアトリーチェは自分の靴を脱いだ。
「アテナ……靴……脱いで……走ろう……。ヨーイ……ドン……」
 駆け出すベアトリーチェの後を、慌てて靴を脱いで駆け出すアテナ。
「ベアトリーチェさん、追いつきました、よ」
 アテナがようやく追いついたところで、ベアトリーチェは海の水を掬ってぱちゃりとアテナにかける。
 ようやくアテナもわかったらしい、ベアトリーチェに水をかければ、また裸足で走って、水をかけあって。
 一頻りキャッキャと騒いだところで、二人手を繋いで砂浜に寝転がる。
(綺麗な……青空……アテナと……私……。なんだか……言葉では……言い難いけれど……楽しい……ハッピー……)
 二人で夏空を満喫すると、ベアトリーチェはアテナへ顔を向けた。
「今度は……天界……遊びに行って……いい……? お泊り……込み……」
「はい、もちろんです。二人で寝てもまだ余るくらいのベッド、用意しておきますね」
「一緒に料理……お泊りでの……秘密のお話……王道……やろう……」
「王道……!」
 年頃らしく、ときめくアテナにベアトリーチェは頷いた。
「また……遊ぼう……♪」
「はい、絶対に」
 それが、二人の願い。

(できれば旦那さまと来たかったな……)
 少し体の弱い旦那さまは、今回はお留守番。水無瀬 文歌(jb7507)はしょんぼりしながらもアテナの姿を見かければ手を振った。
「ここはね。手を繋ぎながら散歩道を渡ったり、恋人と鐘を鳴らしたりすると願いが叶うと言われているんだよ」
「天界にはそんな場所はないです。やっぱり地球は素敵ですね」
「アテナちゃんは、どんな男の人がタイプなの?」
「え?」
 おそらく初めて聞かれた質問に硬直するアテナ。文歌は真面目な顔でアテナに迫る。
「一生を共に過ごす人の事だもん。とっても大事な事だよ。私は旦那さま一筋だからねっ」
「ふふ、旦那さまはとても幸せですね」
 アテナに言われ、嬉しくなる文歌。
「もし願いが叶うなら何をお願いする?」
 問われ、また考えるアテナに文歌は歌うように続けた。
「私は家族みんなが幸せに過ごせますようにって願うけど、その為にも卒業したら天界や魔界との架け橋になる仕事をしたいなぁ」
「文歌さんが架け橋になってくださるなら、とても嬉しいです。私も微力ながらお手伝いしますね」
 二人は微笑みながら、祈りにきた恋人たちを眺める。
「鐘を鳴らしながら祝福の歌を歌おう。今日は私たちが恋のキューピッド役だよっ」
 澄んだ歌声が、展望台に響き渡った。


 袋井 雅人(jb1469)と月乃宮 恋音(jb1221)はアテナの護衛をしながら約束の丘展望台へ。恋音の薄桃色のワンピースが青い海に映える。
 お昼時ということもあり、昼食にサンドイッチを用意してきた恋音。ローストビーフにBLT、卵、胡瓜とツナ、桃とヨーグルトなどなど種類も豊富だ。かつ皆にお裾分けできるよう多めに持参してきた。
「恋音、それじゃあ二人の幸せな未来を願って一緒に鐘を鳴らしますか!!」
 雅人は二人の幸せな未来と天使・悪魔・人間の同盟の安泰を願って、恋音はずっと一緒にいられます様にと願って、澄んだ鐘の音を響かせる。
 それから二人はお昼ごはんにアテナを呼んだ。嬉しそうに、けれども二人の邪魔にならないように、隅にちょこんと座ってサンドイッチをご相伴に預かるアテナ。
「美味しいです。これはどうやって作るのですか?」
 アテナが興味を示したのは桃とヨーグルトのサンドイッチだ。やはり女の子、甘いものは興味津々。恋音は丁寧にサンドイッチの作り方を説明してから、にこりと笑った。
「学園島で事務代行業を始める事になりました。地上の各種手続きなど、わからない事、必要な事があればご連絡ください」
「頼もしいです。何かありましたら是非お願いします」
 一時的に仕事モードに戻っていた恋音はすぐに「はい〜」と可愛らしい笑顔を浮かべる。
「アテナさん、お元気そうで何よりですよ。どうです天界で素敵な恋愛していますか?」
 ラブコメ推進部部長的に興味津々な雅人。雅人なりの気さくな問いかけに、アテナは真っ赤になって首を振るばかり。さすがに今は王の仕事に追われて恋愛どころではなさそうだ。

 星杜 焔(ja5378)と星杜 藤花(ja0292)の夫妻はアテナの護衛も兼ねての参加だ。
 二人で塩気の効いた具――鮭、昆布、梅、高菜などなど――でおにぎりを作り、藤花は年頃の女の子が喜びそうなキャラ弁も用意。焔はジャスミンの香りの爽やかなお茶やスポーツドリンクも。ドライフルーツなども持って熱中症対策も万全。
頃合いを見て皆に配って歩いた後、二人は展望台でアテナを招いた。お邪魔します、と丁寧に頭を下げて、アテナは二人の邪魔にならぬよう座る。
 お弁当を藤花からさしだされたアテナは、わあ、と目を見開いた。
「素敵です。これ、食べられるんですか? まるで絵のようです」
焔のおにぎりも嬉しそうに、けれども上品にいただく。
 展望台でささやかなお弁当会。藤花の話す他愛のないファッションの話にアテナは興味津々に身を乗り出したり、エンジェルロードの由来や小豆島の来歴などを聞けば、真摯に聞いて頷いたり。
 それは藤花が望んでいた、戦いのことなど忘れて無邪気に年相応に振る舞う、アテナの姿。年の頃も近いせいか、少し話しただけで、すぐに意気投合する。
「弟君はお元気ですか? あの子にもこの光景を見せたいですね……」
 焔の言葉にアテナは「はい」と目を細めた。
「うちにも4歳になる息子がいるので、今日のお土産に写真や動画を沢山撮って帰るのです」
 二人はとある依頼にて子どもを引き取り、育てていた。詳細は聞かぬまでも、二人の愛情たっぷりな言葉と仕草にアテナは笑顔になる。
「素敵ですね」
「アテナさんの写真も撮りましょうか」
 アテナはうろうろと狼狽するも、藤花に手を引かれ、一枚。
「いつかアルバムにしてお届けできるといいですね」
 藤花の笑顔に、ようやく本物の笑顔が溢れるアテナ。その一瞬をカメラでいただきます。
 最後に焔と藤花はエンジェルロードを眺めて二人で鐘を鳴らす。
 祈るのは皆の心の平安。願うのは幸せな未来。

 水無瀬 雫(jb9544)と鬼塚 刀夜(jc2355)の親友同士は展望台へ。二人で鐘を鳴らす前にまずアテナとアセナスに挨拶を――となったのだが。
「アテナちゃん、お友達になりましょい!」
 刀夜にいきなりハグされて、目を白黒させるアテナ。
「あ、飴ちゃん食べる?」
「是非に」
 甘いものの前には弱い天王だった。雫がこほんと咳払いをする。
「神界での事やこれからの事など聞きたい事はいっぱいありますが、今ここでする話ではありませんね」
「アセナス君、今度遊ばない? 勿論、その腕を使ってさ。気になってたんだよ、噂の騎士団の事」
「ああ、よい腕を持っている剣士のようだな。こちらこそ、是非遊びたいものだ」
「ところでアテナちゃん超可愛い。お持ち帰りしてOK?」
「……それより刀夜の暴走を止めないといけませんね」
 テイクアウトは困ると思っていたアテナとアセナスは、雫の冷静な割り込みにより事なきを得た。
「後で記念写真撮ろう」
 その刀夜のお誘いは嬉しかったので、二人は笑顔で頷き、一度雫と刀夜の前から姿を消した。
 雫と刀夜は互いのこれからの健闘と再会を願って、鐘を鳴らす。
 二人は守った日常の光景を眼下に眺めながら、これからの話をする。
「卒業後は旅に出るから。『彼』の理想、天魔人が共存できる世界の為にね。しーちゃんとはしばしのお別れだね」
「本当は『あの人』を手伝う為に刀夜達と一緒に行きたかったのですが、卒業後は故郷に戻り復興の手伝いをしないと」
 そう、刀夜と雫は卒業したらしばしのお別れ。雫は故郷を長い事離れていたから、早く昔の様に、いやそれ以上によい町にしなくてはいけない。
「フフフ、この隙に彼を取っちゃうかも。ま、正々堂々色々と頑張ろうね♪」
 鬼の辞書に遠慮という言葉はない。あるのは突撃の二文字のみ。
 雫も静かに手を握りしめた。
(刀夜が不穏な事を言っている気がしますが、絶対に負けません!)
 果たして花が咲くのはどちらなのか。それは未来のお楽しみ。


 礼野 智美(ja3600)は腕利きの現役撃退士だ。勿論、未だ久遠ヶ原学園在学だが、和平への道を歩みだした今でも、依頼であちこちを飛び回っている。
 そんな恋人に一寸休んで欲しいと思うのは当然のことだろう。
 双方の親公認の恋人である水屋 優多(ja7279)は智美の親友である美森 あやか(jb1451)に相談を持ちかけた。
(そうなんですよね。智ちゃん相変わらず依頼であっちこっちいってるから……大抵あたしや優多さんがイベント系依頼に誘わないと休んでくれないんですもの)
 そうして、あやかは最愛の旦那様、美森 仁也(jb2552)にもお誘いをかける。
「智ちゃんを休ませる為に優多さんと『一応護衛依頼』うけたんだけど、一緒に行きませんか?」
 仁也は即了承。
(あんまり我儘言わない娘だから、偶のお願いなんて叶えなくてどうする)
 かくて智美包囲網は張られ、4人は小豆島へ。
 早速護衛対象のアテナを探し始める智美へ、仁也が「今回は観光メインだよ」とさりげなく伝える。聡い子だから、これで他の2人の速度に合わせると思うという仁也の判断は当たった。
(あ〜、心配かけてたんだなぁ)
 少々反省する智美。
「小豆島って、小学校以来ですよね」
 あやかと智美、優多は幼馴染だ。小さな小学校、子供会もその単位で旅行など行っていた。とは言え、小さい頃だったから、結構忘れていることも多い。
(エンジェルロードですか。昔子供会で小豆島に行った時にはそんな存在知りませんでしたからね)
 優多は智美と歩きながら、ぼんやりと思う。
 暑いので熱中症対策は万全に。智美は魔法瓶に冷たいお茶を入れて、汗拭き用タオルも持参。
 困ったのは仁也だ。暑さ寒さはあまり人化してても応えない方なのだ。自分の衣服も意識しておかないと可笑しく見られてしまう。他人に見られることは随分慣れたとは言え、他の3人の熱中症対策は万全にしておく。
 もう一つ困ったのは展望台とエンジェルロードのどちらへ行くか。
(願いが叶うと言われても……彼女と自分の無病息災……はお願いする対象が違う気がするし……将来の希望職種は……自分で叶える事ですし……展望台だけでは……)
 優多は迷いに迷って、4人でエンジェルロードを歩くことを提案した。
「久遠ヶ原以外の海も久し振りだよね」
 目を細める仁也にあやかは頷く。
(あのころはお兄ちゃんとあっちこっち行けたんだけどな……)
 ちらりと仁也を見るとあやかは気を取り直した。
(今はなかなか島から出れませんから……今をめいいっぱい楽しみましょ)
 結果的に写真係になって4人を撮影している仁也。優多と共にエンジェルロードを歩きながら、それでも智美には心配なことが一つ。
(一応「護衛任務」なんだよな。護衛対象が何処に行くかわからない、と言うのはどうかと思うんだが……)
 やっぱり、現役撃退士なのでした。

 夏雄(ja0559)の体温は妙に低い。夏場でも素肌を触るとひんやりしている。
「うん、あつい。夏えもん、冷をとらせてー」
 暑さに早々に負けたユリア・スズノミヤ(ja9826)が夏雄にぴとっとくっつく。
 すでに夏雄もユリアも飛鷹 蓮(jb3429)も裸足ならば、木嶋 藍(jb8679)もビーチサンダルを投げ捨てた。ユリアの片方の足首には百合のチャームのアンクレット。蓮の片方の足首にはハスのチャームのついたアンクレット。それぞれ、日差しを受けてきらきら揺れて。
 4人で並んで手を繋ぎ、最初の一歩。
「明日への一歩、とーんだっ☆」
「せーの! みんなでずっと幸せでいるぞー!」
 ユリアの声に合わせて藍が笑って叫ぶ。
「ほう、明日はこの先か……なるほどだ」
 納得する夏雄に、彼女たちらしいと自然と微笑みを零す蓮。
「はっ! カニ発見!」
 歩いていれば見つけたカニにユリアがしゃがみ込む。
「カニって見るだけで近い未来に幸運があるんだって」
 藍がユリアの横にしゃがみ込み、言う。その二人の視線に変化が……?
「……ユリア、藍、食べるなよ」
 蓮の気遣わしげな一言に二人は首を慌てて振る。
「いくら私でも食べないもん。……このカニ小さいし」
「はっ、た、食べないよ! れーくんたらもう」
 言いながらもどこか未練たっぷりな二人。
「でも今日は海鮮も食べたいね! なっちゃん、やっぱ素揚げ、かな……?」
 藍の視線にカニがすすっと横歩きを速めた気がする。
「カニかい……味噌汁、あるいは素揚げ……」
 夏雄がカニを見下ろせばカニは慌てて逃げ出した。
「蓮君は足取り軽やかじゃないかい? やっぱり海風とか気流かな……鷹的に」
「夏雄も心なしか、動きが機敏だな。……やはり気温か」
 夏雄と蓮は顔を見合わせ、微かに笑い合う。
 また4人、手を繋いで歩きだす。
「願い事って欲張ってもいいのかにゃ」
 ユリアが、ぽつりと言った。
(藍ちゃんは、藍ちゃんの“海”と素敵な結婚式ができますように。倖せはもう手に入れてるだろうから)
 今日は藍の好きな人は一緒ではない。おそらくは実家が忙しいのだろう。それでも藍は微笑む。
(私の愛する人達がこれからもどうかずっとずっと自分の望む道で“倖せ”で在れます様に。今日は好きな人は一緒じゃないけど、大丈夫。私が倖せにするから!)
「絆携えこの道行けば、願いかなわん、か……」
 エンジェルロードの果てを眺める夏雄。
(夏えもんは……偶には“夏”に戻ってもいいんだよ? なんて)
 そしてユリアの瞳は愛する人を映す。
(蓮は、蓮とは、勿論……添い遂げられますように)
 皆が願うことを考えていた蓮は隣のユリアをちらりと窺う。
(あとは、揺るぎない五芒星でありますように)
 ユリアがにこっと蓮に笑いかければ、蓮も頷いた。
(そうだな俺は、俺も――か、絆在る“5人”が各々の幸せを得られる道へ歩めるように……願おう)
 裸足で歩くエンジェルロード。繋いだ手を離さずに。
(まあ、俺の幸せは彼女の傍に……だがな)
 蓮はユリアを見て微笑み返した。
 歩く絆は、5人分。

 蓮城 真緋呂(jb6120)と米田 一機(jb7387)はエンジェルロードへ。
「繋いで歩いてみる?」
 一機の問いかけに頷く真緋呂。一機がリードして手を繋ぎ、ゆっくり歩きだす。
「真緋呂は今後、どうするの?」
 ふと真緋呂の目が遠くを見た。
「剣山ってあっちかな?」
 徳島の方角を探し、黄金の羽を見せる。あのとき、「いきなさい」と言った大天使。今なら半年前に一機に問われて答えられなかった未来の話ができそうな気がした。
「保育士体験で妊婦の母親と話したの。天魔の襲撃地で出産が大変だったって聞いて……新しい命が生きる手伝いをしたいと思った」
 そして、真緋呂は助産師を目指し、4月から看護大学へ行くことを告げる。
 先の事を見る余裕がなかった真緋呂が未来を見ている。そんな風になったこと、そう導けたことが嬉しくて、一機は一言に思いを込めた。
「良かったね」
 笑顔で伝えるも真緋呂は少し不満そうだ。
「それだけ?」
 一機は撃退士を続けるという。春になればお別れになる。
「会えなくなるのは嫌だな……待っててはくれないよね」
 何を言ってるんだろ、と自分で苦笑しながら真緋呂はちらりと一機を見る。一機はしばらく考えてから口を開いた。
「そういや決戦前に言ったっけ。生きて帰ったら出来る範囲で1つかなえてあげる、って」
 真緋呂の願い事はひとつ。
「卒業しても会いたいな」
「卒業しても……ってそんな彼氏みたいなこと僕がしたら嫌でしょ?」
「私は嬉しいよ?」
 きょとんと返す真緋呂に逆におろおろするのは一機だ。
「ち、ちょ、解ってて……しょうがないなぁ……」
 驚いたり笑ったり。二人で気持ちを受け止めあって。
「全く、しょうがないから死ぬまで面倒見てあげるよ」
「ずっとお願いね」
 笑顔の真緋呂に新しい始まりを感じる一機。真緋呂はもう一度剣山のほうを眺めた。
(こうして一緒に歩いて“いきたい”)
 それが「行きたい」なのか「生きたい」なのか、それは、きっと真緋呂と大天使ルスだけの秘密。


 青い海は寄せて返す。鐘は夏空に響く。
 大切な願いが叶うか――それは「未来」のお楽しみ。
 描く明日は、きっと、鮮やかだ。



依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:12人

いつか道標に・
鐘田将太郎(ja0114)

大学部6年4組 男 阿修羅
思い繋ぎし紫光の藤姫・
星杜 藤花(ja0292)

卒業 女 アストラルヴァンガード
沫に結ぶ・
祭乃守 夏折(ja0559)

卒業 女 鬼道忍軍
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
戦場ジャーナリスト・
小田切ルビィ(ja0841)

卒業 男 ルインズブレイド
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
思い繋ぎし翠光の焔・
星杜 焔(ja5378)

卒業 男 ディバインナイト
希望の守り人・
水屋 優多(ja7279)

大学部2年5組 男 ダアト
セーレの王子様・
森田良助(ja9460)

大学部4年2組 男 インフィルトレイター
楽しんだもん勝ち☆・
ユリア・スズノミヤ(ja9826)

卒業 女 ダアト
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
腕利き料理人・
美森 あやか(jb1451)

大学部2年6組 女 アストラルヴァンガード
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
籠の扉のその先へ・
Robin redbreast(jb2203)

大学部1年3組 女 ナイトウォーカー
最愛とともに・
美森 仁也(jb2552)

卒業 男 ルインズブレイド
セーレの友だち・
ウィズレー・ブルー(jb2685)

大学部8年7組 女 アストラルヴァンガード
繋ぎ留める者・
飛鷹 蓮(jb3429)

卒業 男 ナイトウォーカー
セーレの大好き・
詠代 涼介(jb5343)

大学部4年2組 男 バハムートテイマー
あなたへの絆・
蓮城 真緋呂(jb6120)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
あなたへの絆・
米田 一機(jb7387)

大学部3年5組 男 アストラルヴァンガード
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師
青イ鳥は桜ノ隠と倖を視る・
御子神 藍(jb8679)

大学部3年6組 女 インフィルトレイター
揺籃少女・
ベアトリーチェ・ヴォルピ(jb9382)

高等部1年1組 女 バハムートテイマー
天と繋いだ信の証・
水無瀬 雫(jb9544)

卒業 女 ディバインナイト
戦場の紅鬼・
鬼塚 刀夜(jc2355)

卒業 女 阿修羅