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マスター:さとう綾子
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2017/03/28


みんなの思い出



オープニング

 

 天王の侵攻から学園を守りきってから、数日。学園は様々な事後処理の対応に追われていた。
 その案件の一つに、天王軍侵攻中に天王軍から離反し、学園で保護する事に成功した『密告者』レギュリアに纏わるものがあった。
 そう、『密告者』は彼女だったのだ。
 鳥海山、出雲、そして今回の学園への侵攻。それらの天王側の情報を、天界や学園にもたらしていた密告者。
 彼女にはどんな狙いがあって、どんな思いがあってその行動を取ったのか。今こそ聞き出すチャンスと言える。
 どうやら天姫アテナに対して、忠誠心があるようだがそれを含めて話を聞く必要もあるだろう。
 生徒会は、この件に関して聞き取りチームを公募で選ぶことを決めた。
 レギュリアは、因縁深い天使でもある。
 彼女から何を聞き出せるだろう。彼女は何を語るだろう。
 全ては、チーム次第である。


 生徒会からの公募ポスターを斡旋所に貼りながら、志峰院凍矢(jz0259)は走り回っている篝さつき(jz0220)に声をかけた。
「……これ、本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫とは?」
 きょとんとさつきは目を開き、足を止める。凍矢は腕組みをしてポスターを睨んだ。
「レギュリアは『密告者』だ。実態が知れない。いきなり襲ってきたりしないのか」
「ああ、そういう心配ですか」
 さつきは少し控えめな笑みを見せた。
「アテナさんにも同席願います」
「え!?」
「レギュリアさんはアテナさんに並々ならぬ忠誠心があるらしいとのことです。よもやアテナさんがいるところで学園を裏切ることはないでしょう」
「だが、アテナの安全は……」
「それは、騎士団のほうへ要請願いました。騎士団長アセナスが護衛として同席するとのことです。また、レギュリアが私たちにわからぬ嘘をついていた場合も指摘してくれるとのこと」
「……随分とアセナスの奴はサービスがいいな」
「それは今までアセナスとの関係を築いてくださった学園生のおかげでしょう」
 さつきは自信たっぷりに微笑んだ。
「今回、アセナスは護衛ですので質問できませんが、アテナさんにも質問できる機会とも捉えれば、尋ねることは山ほどあります」
「……そうだな」
 天界の鍵を握る姫。彼女は何を考え、どう動くつもりなのか。
 それは人間界だけでなく、冥界をも巻き込んだ決断になるはずだ。
 けれども、アテナだけへの質問では足りない。レギュリアだけへの質問でも足りない。
 二人から必要に足るだけの回答を得なければいけない。だが、すべての質問に答えるほど、互いに腹を割っているわけでもない。

 ――だからこその、聞き取りチームなのだ。

「任は重いがやりがいはあるな」
「ええ、地味ですが、重大な任務だと思いますよ」

 最後の戦いへ向けての一歩。
 何を問いかけ、何を答えるのか。
 それは天界と人間界との関係性を変えてしまうほどの、大事な任務だった。
 


リプレイ本文


 レギュリアとアテナとの会談は、桜の開花便りが届いた頃行われた。
 まだ肌寒い校内の会議室は暖房も入り、温かい紅茶も配られていた。お菓子がそっと添えられている。これは水無瀬 雫(jb9544)の心遣いだった。
 紅茶を飲んだアテナが少しだけ緊張を緩めたように見えた。ほっと零した息が、安堵の色を見せている。
「改めて、アテナさんが無事でなによりです。あの時は囮で別行動していて会えなかったので」
「ああ、その節は」
 雫の言葉にアテナは座っていた椅子から立ち上がり、頭を下げた。
「大変な状況だったと伺っております。本当にありがとうございました」
「いえ、座ってください、アテナさん」
 雫は当惑しながらも笑顔を見せた。
「私も仲良くしてもらえると嬉しいです」
 あのとき、実行部隊の一人だったRobin redbreast(jb2203)はそのときのことが縁で、すでにアテナとは友だちだ。
「アテナはお久しぶり。レギュリアは何度も情報をありがとう。そして初めまして」
 その言葉をきっかけにまずは和やかに自己紹介と挨拶が始まった。

 学園側の出席者は8名。それに篝さつき(jz0220)が速記担当として同席している。とは言え、会議室には他の生徒も生中継で質問会が見られるようカメラなどが運ばれており、レギュリアの席は監視カメラも何台か捕らえていた。
 天使側の出席者は3名。『密告者』レギュリア、『天姫』アテナ、そして万一のための護衛として騎士団団長のアセナスが部屋の隅にいる。
 面識のあるものないもの様々ならば、この場に居合わせた理由も様々だ。

「龍崎海(ja0565)。よろしく」
 海の目的は、今後の王権派との戦いが有利になるための情報を得ること。
 数々の戦いをくぐり抜けてきた海にとって、レギュリアは縁がない相手ではない。
(最後に直接会ったのは四国での研究所での戦いだったかな)
 騎士団がまだ、学園と敵同士だった頃のことだ。
(その時は武闘派よりだったはずだし、裏切るにしてもほかの天使らじゃなくまず撃退士に協力したのは不思議だよね)
 レギュリアも海のことは覚えているのか、簡素な挨拶を返した。
(ギメルでさえ出世できたのに自分は出世できなかったからだったとしてもおかしいし。とはいえ、戦力差を考えると策略ってのも考えにくい)
 やはり、そこは聞いてみなければならないだろう。
 そのために、質問の分担もしてきたのだから。

 続いて挨拶をしたのは詠代 涼介(jb5343)だ。
 アテナが、顔を覚えていたのか、ああ、と微笑む。
 先の絶対防衛作戦の後方支援のときに、涼介は雫とともにアテナとベリアルの元を訪れていたのだ。
 涼介の考えは天魔に家族などを殺された被害者たちに寄り添っている。その言葉をアテナも覚えていたのだろう。

(私はアテナさんやレギュリアさん、天界の皆さんともお友達になりたいです。それは王権派の天使さん達も例外ではないですよ)
 そんな想いで挨拶をするのは水無瀬 文歌(jb7507)。
「まず、レギュリアさんには危険を冒して情報提供してくれることを感謝します。アテナさんとアセナスさんには協力と同席に感謝を」
 笑顔で文歌は続ける。
「できることがあれば協力します。なんなりと言ってくださいね」

 水色のリングレオタード姿でこの会見に臨んだのは桜庭愛(jc1977)。
 天真爛漫な笑顔はアテナへと向けられる。
「えと、はじめまして、だよね♪ 私の名前は桜庭愛。『正義の味方』かな」
 愛は正義の女子レスラー。この姿も立派な戦闘服で、彼女にとっては正装だ。
 アテナは少し恥ずかしそうに愛の服を見ていたが、天真爛漫な笑顔に惹かれたのか、微笑んで挨拶を返した。

 アセナスとはまた違う壁際に立って、座らず、皆を遠巻きに眺めているのはフィオナ・ボールドウィン(ja2611)だ。
 さつきが着席をうながしても、フィオナは泰然と腕を組み、その場から動こうとしない。
 彼女の竜の瞳はアテナの行動の一つ一つを注視していた。
 
 天使の微笑みを使用して、口を開いたのは天野 天魔(jb5560)。彼は自らの名を名乗ってから、レギュリアとアセナスへ視線を向けた。
「さてまずは危険を冒して情報を流してくれた事とこの質問の場を設けてくれた事に感謝を、レギュリア嬢。そしてアセナス卿もこの場への出席と我等への配慮に感謝を」
 どこか芝居がかった口調だが、これが彼の独特の喋り口だ。彼は椅子から立ち上がり、アテナの傍で跪いた。
「そして下級天使の上、堕天した身でご尊顔を拝する事が出来て光栄です。このような奇跡が起きるなら人と天が手を取り合うという奇跡もまた起きると信じたくなります」
「どうぞ楽になさってください、天野様。私は学園に助けていただいた身の上、そのような儀礼は不要です」
 アテナが慌てて止め、天魔は偽りのない笑みを浮かべた。今度は立ち上がり、レギュリアへと両手を広げる。
「さて我々はアテナ様達と協力関係にあるが対等な関係だ。故にこれからの我々の質問に答えにくいものがあれば答えなくてよい」
「ありがとう、でも気遣いは不要よ」
 レギュリアが言えば、天魔はうなずき、再びアテナへと向き直った。
「御身もレギュリア嬢が今喋らなかった情報を後で伝えられても我等に伝える必要はありません。ただ友好関係にある我々が欲している情報である事は理解しご配慮をお願いします」
 それは、この話し合いで、まず押さえておきたい点だった。
「臣下の意を汲みつつ盟友に配慮する。難しいですが判断を下すは上に立つ者の義務です。御身が天と人にとって最善の判断を下せる事を信じております」
 アテナの表情に緊張が走る。

 ――こうして、各自の自己紹介も済み、会談の幕は開いた。


(レギュリアは、ザインエルを裏切って、自分の命も危険に晒してまで密告したのはベリンガムが危険だから……? それは天界にとって危険なのかな。それとも……?)
 Robinが首をかしげていた問いをまず発したのは天魔だった。
「ではまず俺から尋ねよう。貴公とザインエルの間には深い信頼関係が見えた。にも拘らず裏切り命の危険を冒してまで我等に情報を流してくれた。故に教えて欲しい。貴公が天界をザインエルを裏切った理由と目的を」
 レギュリアをまっすぐに見て問いかけた言葉に緊張が走る。この問いこそが、今回、誰もが一番聞きたかった問いだろう。
「もしアテナ様への忠誠心だというなら修道院に隠されていて面識のないアテナ様にそこまでの忠誠心を抱いた理由を教えて欲しい」
 レギュリアは息をひとつ吐いた。少しうつむいたあと、ゆっくりと顔を上げる。
「天界を裏切ったつもりは、ないわ」
 はっきりとした言葉に皆が顔をあわせる。レギュリアはまっすぐに天魔を見て、言葉を続ける。
「目的は――元より特務だったのよ。監査官とでも言えばいいのかしら、エルダー直属の。ザインエル様の部下に配属されたのも、その後メタトロン様の部下に配属されたのも、その役目からの都合よ」
 つまりレギュリアは普通の天使とはまったく立場が違ったということだろう。各所の戦いに顔を見せていたのも、「特務」と言われれば納得できるものがある。
 レギュリアは、そこで俯いた。表情は伺えないが、微かに手が震えている。
「それでも任務とは別にザインエル様を尊敬していた。けれど、私が尊敬し憧れた天の剣であったザインエル様はお変わりになった、いつからなのかは解らない」
「変わった?」
 天魔が尋ね返す。レギュリアは言いよどむ。
「……うまくは、言えないわ。それに、あなた達のほうが肌で感じているのではなくて?」
 彼が急に得た「力」のせいだろうか、と天魔は考えを巡らせる。けれども京都ゲートでの攻防時のザインエルとは確かに「変わった」ことは事実だ。レギュリアは嘘を言っていないだろう。
「アテナ様への忠誠心に関しては?」
「私はエルダーの分家の更に遠い方の生まれなの。だから特務なんて役目を与えられたのだけど。家に、引いてはエルダーに、そして王家に忠誠を誓っているわ。これでもね」
 天魔が問いかけを変えると、レギュリアはようやく顔を上げた。そこには誇りに満ちた微笑みがあった。
「では、貴公の忠誠心は今どこを向いている? 天界か、アテナ様か、エルダー達か、天王か、それ以外か?」
「正統なる王の証を持つものに」
 きっぱりと告げられた言葉に天魔は一瞬迷う。
 「王の証をもつもの」。
 それは、天王のことなのか、アテナのことなのか。レギュリアの今までの言葉を聞けば、おそらくはアテナのことだろうと推察できる。だが、「王の証」とはいったい何なのだろう? 具体的なものなのか、それとも抽象的に表現しただけなのか。
 沈黙が降りた。問うべきか天魔が迷っていると、さつきが次の質問を促してしまう。
 また後で考えをまとめ尋ねるべきだろう、と天魔は問いを心にしまった。
 次に口を開いたのはRobinだった。
「人間や冥魔陣営との協力体制について、正直な気持ちを聞かせて」
 レギュリアには思っても見なかった質問だったのだろう。一度瞬きをしてから微笑んだ。
「よく成ったなと素直に思うわ。特に冥魔と天使が手を組めるなんてね。私は若いから、それほどしがらみはないからその程度ね」
「アテナとルシフェルと三界協定が結ばれたけど、天使の友達もできたから、一緒に戦えるのは、あたしはとても心強いと思うよ」
 Robinはくりっとした瞳を輝かせて言う。
「この前、シスと天界に行ったけど、信頼してもらえたことが、とても嬉しかったよ」
 混乱した天界に現れた人間など、信頼してもらえるとは思わなかった。だからこそ、寄せられた信頼はかけがえのないものだと思う。
「アテナにも人間を信じてもらえて嬉しい。レギュリアとも、一緒に協力していければ嬉しいな 」
「……そうね」
 レギュリアは少し眩しそうにRobinを見た。
「それから、あたしは、王権派内部のまとまりについて聞きたいの」
 Robinは自分の印象を告げる。
「シリウスは、忠誠心というよりは、利害関係で与してるようだったし、案外、向こうも一枚岩じゃなさそうかな? そこから崩すことはできないかな?」
「それは少し難しいかもしれないわ」
 レギュリアはゆるりと首を振る。
「比較的平行世界ごとで放任な所があるのは認めるわ。最初はそれでいいのって私も思ったけれどね。でも、そうね。天王とラジエルの二人で全て話は決まっていて、配下はそれをどう実行するか。達成できれば相応に評価される。まとまりは、悪くないと感じたわ」
 シリウスの欲しかったものは「実力主義」の「正当な評価」だ。それはエルダー時代の「家柄」ではけして得られなかったもの。そう考えれば、シリウスにとって、天王は理想的な「上司」になるのだろう。
 情に訴えるのは、難しいのかもしれない。
「俺は御使の弱さの理由を聞きたい」
 海は今後の王権派にどのくらい強い天使が集まるのかの調査を兼ねて尋ねた。
「今まで戦った天使は最下級でもほとんどが今の俺より強かった。それも地球は資源確保の場だから戦闘向きじゃない天魔が多いとも言われていたのにだ」
 海は今まで戦ってきた天使たちを思い返し、言葉を続ける。
「なのに天王の親征にて集めた兵が一人前って言われるぐらいの撃退士と同程度の力量ばかりってのは不思議だ。 弱兵しか集めなかった、集められなかった理由があるのだろうか?」
 レギュリアは海を見て、一瞬きょとんとした表情をつくった。どこか懐かしそうな表情になる。
「低いというけれど、そもそもお前たちだってたった5年前であれば、あのレベルの天使に勝つのにも人数が必要だったのだから、天王自身の認識が甘かったのかもしれない。また、天王の支持層には、底辺天使の支持が強いのも大きいでしょうね」
「甘く見積もられたということか」
「おそらくはね。とは言え、出せる兵は底辺のもの。数は多くとも、今、あなた達が王権派として戦っている以上の強さの天使が出て来るとは思えないわ」
 海はふん、と鼻を鳴らした。聞きたいことは聞けたが、甘く見積もられたというのは、やはり面白いことではない。……まあ、強く見積もられても問題だが。
「王権派の各ゲートの動向はご存知です?」
 次に問うたのは文歌だった。
「ある程度は。でも先に言った通り、比較的放任だからそれぞれのゲートからの報告内容以上の事は解らないわ」
 返答次第で天王軍の規模と今後の動きも尋ねたかった文歌は、肩を落とす。つまりゲートの報告内容に虚偽があれば、もうアウトだ。これ以上この問いは深くは聞けないだろう。
 文歌は皆の顔を見回してから、レギュリアをまっすぐに見た。
「先の戦いで命がけで学園へ来られた貴女の事、信じます。ただ」
 文歌は少し口ごもった。
(――ただ、学園にはレギュリアと戦い、大怪我を負った人も多い。また、レギュリアくらいの階級の天使なら実力主義の王権派のほうが都合がいいとも思える)
 手放しで信が置けない。
(私達は信じても信じない人も少なくない)
「私達が信じられる何かを提示できますか?」
 レギュリアは困ったように肩をすくめた。
「難しいわね。死にたくはないから、殺しても良いわとは言えないし」
 文歌はちらりとアテナとアセナスの様子も伺った。
 2人の表情に変化はない。嘘は言っていないのだろう。
 レギュリアはそこで冷めた紅茶を一口飲んだ。場は一度、休憩となった。


 次はレギュリアとアテナ、二人への質問が主になった。
「私はまず、ベリンガムの秘密を知りたいのです」
 口火を切ったのは雫だった。
「いくら本人が強くザインエルを始め強力な配下が居たとしても、長く続いた天魔戦争を冥魔界へ攻め入るまでは異常すぎます。本人の強さか新兵器か分かりませんが何か秘密があるはずだと」
 レギュリアとアテナは顔を見合わせた。「私が聞いた噂だけれども」とレギュリアは言葉を置いてから口を開く。
「ベリンガムは『感情からエネルギーを取り出す装置』、そして『神』に関して把握したのよ。そして自分が『神』となり『神界』を作ろうとしている。その際に『ゲート情報の書き換え』技術も得たと噂されているわ」
「『神界』?」
「天界や冥界よりを作ったとされる『神』。天使も冥魔もそれぞれの世界を管理運営するために配置された管理者にすぎない……とかなんとか。そして忘れてはならないのは、その裏にラジエルが絡んでいるらしいこと」
 全員の考えの外にいた人物の名が出てきて、撃退士たちは顔を見合わせる。
「ラジエルがベリンガムを操っている……?」
「わからないわ。ただ、ラジエルの動きは不気味すぎる」
 雫は少し考える。秩父で起きた詠唱のないゲートの生成も『ゲート情報の書き換え』によってのことだろう。
「では、出雲への襲撃理由はご存知ですか?」
 レギュリアたちが詳細を知らなくとも噂程度で、遺構調査の助けになるはずだと、雫は思う。あのザインエルたちが出てくるほどだ、調査が進めば最終決戦で役に立つ情報がきっと出てくるだろう。
 レギュリアは雫が睨んだとおり、申し訳なさそうな顔になった。
「詳しいことは知らないわ。地球にかぎらず、複数の並行世界で似たような命令を出していたの」
「複数の?」
「ええ。これは私の私見だけれども――出雲という土地を狙ったのは、そこに天界式の古式祭壇があり、そこでなんらかの儀式を行いたかったのだと思うわ。地球では失敗したけれども、他の平行世界の幾つかでは成功していたらしいことも伝えておく」
 問題はその「なんらかの儀式」なのだが、さすがにこれ以上の情報は出てこないだろう。
「天王軍主力の詳細も教えていただければ。今はどんな些細な情報でも欲しいのです」
 雫の問いかけにレギュリアは首を振る。
「さきほど御使については答えたわよね。主力天使は崇寧真君、シリウス、アルヤ。彼らはこの実力主義になってから台頭した天使だから詳しいことなど、私も知らない。むしろ、真君やシリウスの過去や戦い方はあなたたちのほうが詳しいのではなくて?」
「上位サーバントなどは?」
「見当もつかないわ」
 こればかりは蓋を開けてみなければならないということらしい。
 続いて質問を口にしたのは涼介だ。まずは挨拶代わりに問うたのは「こちら側に望むこと」。
「もうすでに一蓮托生とも言えるような状況だ。互いに遠慮せず腹を割って話をしよう。どんなことでもとはいかんが、出来る限りの協力はする」
 少しだけレギュリアは考えた。
「一個人としてはとくに。私を許せないものもいるでしょうけど、許してとは言わないわ」
 逆にアテナはしっかり涼介の瞳を見て答えた。
「私達が和平の道を選んだことを信じて貰いたいと望みます」
「心得た。その意見を前提として、質問を続ける」
 涼介は次の問いを投げた。
「敵は神器を所有しているのか? もしあるなら詳細も分かる範囲で聞きたい」
「している。真君、シリウス、ラジエルがそれぞれ持っているわ。天王も持っているけれど、神器といっていいのか解らないわ。規模も力も大きすぎて、他の神器と同列似できない。知っている限りの詳細は調書を取られたから、そっちの資料を見てちょうだい」
 レギュリアはそう言って肩をすくめた。涼介がさつきを伺うと、さつきは頷いた。
「太珀先生からしばし待てと伺いました。アドヴェンティの進捗なども随時ご報告があるかと」
「それから、私の持つイージスの盾もそうです。天界に居る天使には所有者も居ますが、地球にやってこられるかどうかは分かりません」
「ならばイージスの盾はまた詳細をあげてほしい」
 アテナの言葉に涼介は頷いて、レギュリアへとまた視線を向けた。
「王権派はこちらが持つ神器や祭器等に対し、何か対策を用意したりする動きはあったか?」
「それは私にも姫様にもわからないわね。少なくとも具体的な対策はしていなかったわ」
「ハミエル率いるエルダー派の動きはどうなっている? 天界の状況とハミエルたちが今どうしているのか、またどう動くのか確認させてもらいたい」
「それは姫様に伺った方が間違いがないわ」
 レギュリアの言葉にアテナはこくりと頷いた。
「現在は天界王宮を守りながら、穏健派エルダーの領地から先に開放するように動いています。その方が確実な味方が早く増えるという話です。離宮方面は、いまだ天王軍の守りが堅い為、王宮奪還規模の作戦を必要とするという報告を受けています」
「それでは、これからどう動く? 出方を窺うか、あるいは攻め込むのか」
 涼介の言葉にアテナは少し考えるように黙り込んだ。
 涼介は考えの後押しをするように口を開く。
「きっと猶予はそんなにない。難しい決断になるだろう。最初にも言ったが、出来る限りの協力はする。遠慮なく俺らを巻き込んでくれていい」
「……心強いお言葉をありがとうございます。少しだけ、時間を、いただけますか」
 アテナはしっかりした目で言った。
「まず、私がイージスの盾を使いこなせるようになるのが先決です。そうしなければ神器に対抗することはできません。ですから」
「わかった。その助力はしよう」
 ここで二度目の休憩となった。
 最後はアテナへの質問だ。まだどこか緊張を隠せない表情の彼女を、レギュリアが不安そうに見守っていた。


 アテナへの質問は、Robinの何気ない呟きから始まった。
「シリウスたちはアテナの命を狙っていたけど、アテナはずっと修道院にいたから、まだそこまで影響力はないよね。影響力を持つ前に殺そうとしたのか、それとも、ゼウスの血脈にしか使えない、秘密の神器とかがあるのかな……?」
 アテナは友人のRobinからの言葉に少し緊張も緩んだようだ。こくりと頷く。
「私が、正当な王位を継ぐ資格を持っているから……そう聞いています」
 「正当な王位」。その言葉にふと天魔は考える。
「王の証をもつもの」。
 ベリンガムの欲していたもの。それこそが――。
 Robinの言葉を受けて文歌が口を開いた。
「なぜ修道院で隠されて育ったの? エルダー派がベリンガムさん幽閉した時点で貴女をなぜ担ぎ上げなかったの?」
「父、ゼウスは兄を後継者としました。私の存在は、それを脅かすとして父によって修道院に入れられました」
 アテナはそう言ってから言いづらそうに言葉を続ける。
「詳しい事は分かりませんが、『兄は本来は王位を継げない者』だったのだそうです。コレは全て、つい最近エルダーの方から伺った話なので、事実関係がどうなのかは私にも……」
 担ぎ上げなかった事情は知らないと首を振った。まだ幼い時分の頃の政争の話は、やはりアテナにはわからないのだろう。
「では、なぜ、お兄さんを裏切ったの? 今、ベリンガムをどう思ってる?」
 アテナは毅然として顔を上げた。
「兄は、不幸であったと思うのです。エルダーの皆さんも、正しくはなかったとも。それでも、秩序はあり小さな幸せが沢山護られていたはずです」
 その声は優しさと、そして自ら重荷を背負った姫の声だった。
「兄は、御自分の事しか考えていないのではないでしょうか? 力があるのであればこそ、力なきものを思うべきなのではないのでしょうか? ベリンガム王のやりかたでは、平穏は望めません」
 その毅然とした態度に、話は自然と天界とアテナ、そしてこれからの人とのものに傾いていった。
「天界の方針が変わらない限りアテナさんも地球も平和はないので、天王に代わりに王座につくってなると思うのですが、実際に王座についたとしてどう統治しているのでしょうか? とくに天界の文明は精神エネルギーで支えられているわけですし、即座にそれを使わないってわけにはいかないでしょう?」
この方針次第で人類側もどう付き合っていくのかは変わるだろう。海の問いかけは、今後の展開を占うものだった。アテナは少し考えてから海をまっすぐに見る。
「元天王、つまりベリンガム王より以前は、ゼウス王が天界を治めていました。必要以上に平行世界に介入せず、非効率でも緩やかに世界に影響の内程度にエネルギーを集めて生きてきたのです。過去に戻ることが出来ないのは理解っています。だからこそ、ゼウス王の志を継ぎつつ共存の新しい形を探したく思います」
 それは人界を認めた上での共存の道だった。その言葉にRobinが首を傾げる。
「エルダー派の中でも、共闘に関して意見が一致しないこともあると思うけどそれをどうやって纏めていくの?」
「三界全ての、という意味でしょうか。今の段階では、天と魔のみでの共闘は難しいと言わざるを得ません。今回実現に漕ぎ着けたのも、人の……学園の皆さんの想いあってこそでした。その在り方を見習い、まず私から人も魔も尊重して方針を決めていければと思っています」
「そっか……あたしたちに協力できることがあったら、何でも言ってね」
「もちろん、お願い致します」
「じゃあ、今後、王権派との戦いが終わったら人間界とのお付き合いは、どんな感じになるのかな」
「平和な関係を築きたいと思っています。人間界は軽んじるべき相手ではないという事を主張するに足ると思っていますので」
 その返答に雫が続けて口を開いた。
「天魔人の協定や天界の統治指針が変われば天界への戻る事を望む方もいるかもしれません。難しい問題かもしれませんがアテナさんの意見を聞きたいです」
「それは俺も」
 涼介が言葉を添えた。
「色々片付いた後にでも、天魔人のこれからのことを話し合うと約束してもらえないか?」
 アテナは明るい顔で、しっかりと頷いた。
「そのとおりだと思います。そういった望みにも、きちんと対応していきたいと思います。そして、天と人がかつて陰ながら共存していた時代があったように、穏やかな関係を作れたらいいと思っています」
「わかった。それから、約束は誰が欠けても成り立たないということを忘れないでくれ」
 涼介はアテナとレギュリアを見た。アテナは少し驚いたような表情を作った。それからすぐに目を細め頷く。
「はい。お約束します」

 そこで間が開いた。
 口を開いたのは、今までずっと壁際で腕組みをして話を聞いていたフィオナだった。
「貴様の最も強い欲望を我に示してみろ。今、我が興味あるのはそれだけだ」
 アテナはフィオナを見上げる。アテナを見下すフィオナは竜の瞳。アテナを愉悦混じりの愉しげな笑みで挑発するように眺めている。
「最終的に貴様が上に立つのならば、それを示すことが出来ねば話にならぬ。……欲望という言葉を嫌うならば、単純に“望み”でも構わん」
「“望み”……」
「王とは、揺るがぬ欲の形を示す者。臣とは、それに魅せられ付き従う者。示さぬままでは、今貴様に従っている者は“ベリンガムの実妹”という立場でしか貴様を見ることは出来ぬ」
 それは、「王」としての気質を持つフィオナならではの問いかけだった。にやりと笑う。
「アセナスにしろレギュリアにしろ、貴様の望みを知れば、今以上に貴様に尽力してくれるだろうさ」
 それは逆に離れていく者もいるかもしれないということを暗に示していた。
 アテナは目を伏せる。何か言葉を選ぶ間、声をかけたのは愛だった。
「みんなはこれからの戦いの事や敵の動向、陣容とかに注視してるけど、私は、あなたと友達になりたい。そう、思ったから此処にきた」
 あいかわらずの天真爛漫な笑顔を絶やさずに、愛は言葉を続ける。
「みんなの質問は大事な事だし、今後の戦いの趨勢を決める情報だと思う。だから、私は今後の戦いを一緒に戦いぬいて、この世界から争いを無くすためにアテナちゃんが見ている 『未来』を教えてほしい。そう、思ったの」
「『未来』……」
「私たちにはこれから最後の戦いが待っている。その先の未来。その展望が私たちの力になると思うから。それを教えてくれないかな?」
 アテナはフィオナを見、愛を見た。そしてはっきりと口を開く。
「今の天界は、悲しい。寂しい力に満ちています。天界に居た時は、どうにかしたい一心でした。でも、地球に来て、学園の皆さんに触れ合って、この学園の暖かさを知りました」
 それは、他者を思いやる事の出来る世界。天界に大きく欠けていた部分だろう。
 アテナは彼女の望みを、未来をはっきりと言う。
「この学園の暖かさのようなものを、天界の民が感じられるようにする。これが『望み』であり、私の見ている『未来』です」
 それと、と小さな声でアテナは愛を見る。
「ごくごく個人的なもので言えば……沢山友人を作りたいです」
 学園の生徒が、アテナに対して最初に見せた暖かさのお手本。
 ――友に。
 ――共に。
 フィオナはふんと笑った。
「なるほど、聞き届けた。我の気が向けば手を貸すことを考慮しよう」
 愛はフィオナの言葉を聞いた上で、嬉しそうに笑う。
 ――未来の事を話す事によってその思いを力に変えて、信頼関係の構築と新たな絆を深める事。「他者を信じる」ならば、その思いを、未来を切り開く力に変える事だって出来るはず。
 愛の狙いはそこだった。彼女は初めからその一点に賭けていたのだ。
 フィオナがアテナに王の資質があるのか見抜く、その一点だけ見納めたかったのと同様。
 突然現れた「天界の姫」に全てを預けていいのか――それは、やはり誰もが抱く、不安。疑問。猜疑心。
「んっ、お互いに信頼関係を築くこと。それが今回のお話合いだと私は思っている。えと、私にも天使の友達がいるから。アテナちゃんとも『お友達』になれると思うよ」
 愛の差し出した手をアテナは見つめ、愛を見た。
 そこにはいつもの愛の笑顔があった。アテナは少しはにかんでからその手を握る。
 ありがとうございます、と言うアテナの声は小さいながらも、嬉しそうだった。


 すべての質問が終わった後、どこか和やかな空気が流れている中で雫はレギュリアを見た。
「レギュリアさん、会いたい人はいませんか?」
 先に聞くと交渉に利用しているようで嫌だったのだ。できれば会わせてあげたい。レギュリアは意外そうな顔を作ってから、雫に笑いかけた。
「そうね、会うと怒りそうな友人に会いたいわね、一人は四国に。もう一人は学園にいるけど」
「わかりました」
 名はわからないけれども、すぐに判明するだろう。四国、と聞きアセナスを見ると、アセナスは了解したように片手を挙げてみせた。
 雫はそれから大事に持ってきた青い蝶の刺繍入りのハンカチをアテナへ手渡す。
「お守り代わりに、もらってもらえれば」
「私に、ですか?」
「平和を取り戻す為に一緒に頑張りましょう」
 アテナは嬉しそうにハンカチを受け取ると、大事そうに握りしめて「はい」と頷いた。
 愛は自分の着ている衣装から美少女プロレスの話をしてアテナを勧誘するが、さすがにそれはレギュリアに止められてしまった。平和になったら見られることもあるかもしれない。
 アイドル部部長の文歌はアテナとレギュリアに歌を歌わないか、と告げた。
(歌はその人の心を写す鏡のようなもの……きっとお2人の気持ちが歌にのせて学園の皆にも届くはず)
 折しも、この会談は中継がされている。レギュリアには断られてしまったが、アテナは快く、文歌に教えられた歌を歌った。
 清らかな歌声が学園中に流れる。それはまさしく天界の姫を表す神々しくも美しいソプラノ。

 ――こうして、和やかに会談は終了したのだった。
 様々な、新しい問題を抱えながら。
 


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:7人

歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
『天』盟約の王・
フィオナ・ボールドウィン(ja2611)

大学部6年1組 女 ディバインナイト
籠の扉のその先へ・
Robin redbreast(jb2203)

大学部1年3組 女 ナイトウォーカー
セーレの大好き・
詠代 涼介(jb5343)

大学部4年2組 男 バハムートテイマー
能力者・
天野 天魔(jb5560)

卒業 男 バハムートテイマー
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師
天と繋いだ信の証・
水無瀬 雫(jb9544)

卒業 女 ディバインナイト
天真爛漫!美少女レスラー・
桜庭愛(jc1977)

卒業 女 阿修羅