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「もうクリスマス……あっという間に1年終わってしまいますね」
ぽつりと宮鷺カヅキ(
ja1962)が呟いた。少しだけ腹部を押さえ、大丈夫であることを確認する。
最近、怪我をして寮で療養中だったが、「これ以上じっとしているとコケが生えそう」という理由からこっそり抜けだしてきたのだ。
カヅキは比較的大きな寮で暮らしている。その寮の四人いる寮監の一人だ。
ゆっくり歩きながら見渡せば、どこのお店もクリスマスのディスプレイで華やかだ。特に雑貨や和雑貨を扱うようなお店は可愛らしいツリーや装飾が施されている。
(去年はクリスマス云々をすっかり忘れていまして……)
撃退士は行事と無縁なほど忙しい。だからこそ、今年はきちんと贈り物を用意したい、とカヅキは思う。
店内を巡りながら、思いを馳せるのはまず弟のこと。
(そういえば大学生になったばかりの弟が新しいループタイの留め具を探していた)
和雑貨のお店で見つけたのは雪華文の留め具。この柄は持っていないだろうと、和雑貨好きの弟のためにまずひとつ購入。
それから残り三人の寮監と寮長への贈り物。
ひとりひとりの顔を思い出しながら、各寮のイメージカラーのものを送ろうと決める。
金寮監には蝶々が彫られた琥珀色の小さな置時計。
手にとって小さく笑う。
(静電気で壊されないかだけが心配かな)
緑寮監のイメージは猫。迷うことなく鎮座していた黒猫の首飾りを手にとって。
青寮監といえば本。贈るならこれしかない、と自信を持って手にしたのは入り口に飾られていたサファイアブルーの栞と万年筆。
お世話になっている寮長には薄青色のマフラーと鳥のブローチ。
その人を思い出しながら選べば、店内の大きなクリスマスツリーに灯りが灯っている。
(心配をかける前に帰らなくては)
たくさんの思いをつめた贈り物を胸に抱いて、カヅキは微かに笑った。
(……喜んでくれたらとても嬉しい)
ぶらりとビルを覗いていたイツキ(
jc0383)は雑貨屋でガラスのペーパーウェイトを見かける。ピアノの形をしたものやビオラの形をしたもの。精巧にできた楽器がモチーフのそれらはクリスマスの灯りで静かに光を放っていた。
ふと手にとって妹の事を考える。
クリスマスプレゼントもいいかもしれない。
イツキは自分用にピアノを、妹用にビオラを購入すると、またぶらりとクリスマスのビルを歩く。
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イリス・レイバルド(
jb0442)にとっては12月24日は大好きなお姉ちゃんの誕生日。
クリスマスなんておまけなのだ。
誕生日パーティの企画立案を請け負ったイリスはパーティ用のディスプレイの見学兼パーティゲーム購入に来ていた。
何しろ、久遠ヶ原学園に通っている兄弟だけで四人いるのだ。全員集まれば賑やかにもなる。
いわゆるボードゲームを購入したところでイリスはふらふらと散歩している篝さつき(jz0220)を見つけた。近づき、さつきに声をかける。
「さつきちゃんボクとデートしてくんないー? おしゃべりしようぜー♪」
さつきは二つ返事でイリスと一緒にお店を回る――というよりお喋りに花を咲かせる。
「でっさーお姉ちゃんは上の方のお姉ちゃん……うん、アーちゃんと呼ぼう、に、甘いんだよねー。アーちゃんいっつも寝てんだよー」
パワフルに語るイリスにさつきはうんうん、と頷く。
「お姉ちゃんはお姉ちゃんで働きすぎっていうか飾り付けの八割はお姉ちゃんがやってるしー。お兄ちゃんはー可もなく不可もなくー?」
「ん? イリスさんは末っ子ですか?」
「そうだよー」
言われてみれば、とさつきは笑う。
「ケーキとかはお姉ちゃんだけど料理はボクも作んだぜー」
「わ、本当ですか!?」
「あ、失っ礼なこれでも料理は得意なんだよー乙女の嗜みってねー♪」
お菓子しか作れないさつきは地味に反省する。
「得意料理って何ですか?」
「今度試してみる? ボクの自家製コーラは、美味いぜ?」
「コーラ!?」
同世代の女の子のお喋りは止まらない。
一川 夏海(
jb6806)はお嫁さんとデートのはずだったのだが、都合でお嫁さんが来れなくなってしまった。
だが、旦那としての志は高い。
(プランが狂ったが予定変更だァ……。とびっきり喜ぶようなクリスマスプレゼントを待ってろよ……)
ニタリと笑う夏海。あくまで一人の女を愛する男としてクリスマスプレゼントを探すことに。
まずは友人たちのプレゼントをササッと購入。ここまでは序盤だ。
「んー、女って何プレゼントされたら嬉しいもんなんだ……?」
迷う夏海の目に飛び込んできたのはぼんやりお買い物中の篝さつき。
(女性の事は女性に聞くに限る!)
というわけで夏海はさつきへと声をかけた。
「あ、一川さん、お買い物ですか?」
「ああ。質問だ。俺には結婚してからまだ一年も経っていない女房がいる。しかし今ここにいない。そこでだ篝。女は何をプレゼントされたら嬉しいんだ?」
聞かれてものすごい悩みだすさつき。
「定番はお花でしょうか……。奥様でしたらキッチングッズとかもよいかもしれませんね。あとはペアのアクセサリーとか……」
「なるほど、参考になった」
夏海は頷くと近くの花屋で花束を購入。それをさつきへと差し出した。
「え!?」
「プレゼントだ、篝」
サプライズプレゼントに動揺するさつき。
「でも、あの、奥様には……!」
「ちゃんと買ってある」
切れ味抜群の包丁セットを見せて、ニヤリと笑う夏海。理想の旦那様である。
「嫁の料理は最高だ。これをプレゼントして、ますます腕を磨いてもらう」
さらにお嫁さまの惚気も一流品だ。
「嫁は義手や義足を作るのも上手い。手先が器用でな……」
にこにこしながらしばらくさつきがつき合ったのは言うまでもない。
だが、夏海は気づいた。
「プレゼントを買ったが、まだ足りないものがある。それは何だ?『サンタ変装セット』さ」
かくて、サンタ服を購入してご機嫌で帰宅。
「メリークリスマス!」
よいクリスマスを。
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クリスマス。それは誰もがサンタさんになれる素敵な日。
自分の気持ちを籠めてプレゼント……それが喜んでもらえるんだったら最高だ。
しかし、藤井 雪彦(
jb4731)は迷いもあった。
(超はずしちゃったりすると〜「あ…あーあーあ……ありがと……う……」みたいなリアクション頂いちゃうと〜も〜立ち直れないよねっ!!)
クリスマスにこれはいただけない。
そんな雪彦には秘策があった。スーパーアドバイザーをお呼びしたのだ。
「なっちゃんに来てもらいました〜どぞ〜……あっゴメン、ちょと調子のった……グーはやめて」
稲葉 奈津(
jb5860)ちゃん、ルインズブレイドのグー(物理)は固いです。
「女の子視点の考えを聞かせて欲しい……ね……ぶっちゃけくれる人次第だからな〜」
一緒に店内を回りながら律儀にアドバイスをする奈津。
「超可愛いマイシスターにはぬいぐるみ〜♪」
「今年のクリスマスプレゼントで喜ばれない物ランキング一位がぬいぐるみよ」
「……や……やめようかな…ん〜〜ん〜〜〜でも、喜ぶと思うんだけどなぁ……」
ぬいぐるみを抱き上げ、置いて、抱き上げ、置いて、迷う雪彦。
奈津は笑いながら言葉を添える。
「好きな人からなら何貰っても嬉しい……とは言わないけど悪い気はしないでしょ。逆に何とも思ってもない人からは、重かったり〜ひいたりするしね」
「……うん、そうだよね♪ このぬいぐるみ抱っこしてる姿を想像したら……やばいよ? マイシスター種族人間なのに天使になっちゃったよ?」
義妹大好きお兄ちゃん。ほわほわと天使な二人の義妹を想像してほっこり。
「あ……と……は……気になるあの子にも何か買っていきたいな……身に着ける者を渡したいけど……ひかれちゃうかな? 重たいかな〜?」
「渡して開けてみた時の反応で関係性がわかるかもよ?」
意地悪なかおをして微笑む奈津にぎくりとする雪彦。その表情を見て、奈津は満面の笑みを浮かべた。
「……な〜んてね♪ 相手の事を一生懸命考えてのプレゼントなら、絶対喜んでくれるわよ。あんたの届けたいって気持ちが大事よ」
「そう……だよね……何かをして、何かを返して欲しいわけじゃない……素直に喜んだ笑顔をボクが見たい……ただそれだけだもんね♪ ……うん、これならきっと似合う☆ ……喜んでもらえると良いな♪」
買い物が終われば、お礼に雪彦はケーキを奈津にごちそうする。
「美味しいね♪ 今日は本当にありがと☆」
「このくらい構わないわよ。喜んでもらえるといいね」
「……うん……気持ちが伝わるといいな〜♪ あ、そうそう」
雪彦は用意しておいた小さな包みを奈津に差し出す。可愛らしいクリスマスのラッピング。
「なっちゃんにもコレ……ふはっなっちゃん顔赤いよぉ〜」
サプライズプレゼントに顔を赤くする奈津に笑う雪彦。
素敵なサンタさんになれますように。
(一年が経つのは早いなぁ……あっと言う間だったわ。来年はどうしているのかしら)
ふと思いを馳せる蓮城 真緋呂(
jb6120)。
(とりあえず目の前のクリスマスから、ね)
今日は部室のクリスマス飾りを入手するためのお買い物。部長である米田 一機(
jb7387)も同行だ。
「おお、クリスマス……!」
ビルの中はクリスマス一色。BGMまでクリスマスソングだ。雪をモチーフにした飾りや赤いリボンなども目立つ。
「これ可愛いなぁ、買おう」
雑貨屋でまずオーナメントを購入。
「窓にスノースプレーもいいわね。シートもセットで……」
あれも可愛いしこっちも良いし。雑貨屋を梯子している間にリースやモールなどどんどん増えていくお買い物。
「真緋呂、ストップ、ストップ」
さすがに片手で持てなくなったところで一機が慌てて止める。
(女の子の買い物恐ろしい)
「む、流石に多過ぎた?」
両手いっぱいの荷物、二人で半分にして持って。
その後は休憩で二人でケーキを食べる。美味しそうなクリスマスモチーフのクッキーを発見し、真緋呂は部室で待っている友達用にお土産を購入。
(気に入ってくれるといいな)
ぶらぶらと二人、ウィンドウショッピング。
ミニスカセクシートナカイの衣装を見つけた一機は目を輝かせる。
「あれ、着てみたら? 似合うよ?」
「ふふふ、着ないから」
笑顔で返す真緋呂。ちょっと笑顔が怖いです。
のんびりと夜まで買い物を楽しむと、ビルの吹き抜けにある巨大なツリーが点灯した。
「綺麗……」
真緋呂が夢中になって見つめる横で一機もツリーを見上げた。
(こうして綺麗だと思ってみてられるのは……今年も何とか誰も欠けずに此処まで来れたから。来年もこうしていられるように頑張らないとなぁ)
部長として気分を新たにしたとき。
「って、一機君。ツリー忘れた! ツリー!」
真緋呂が目星をつけておいたクリスマスツリーを買いに走りだす。
クリスマスが楽しみ。
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リコリス・ベイヤール(
jb3867)曰く「今日の私はご機嫌やっほー!」。
なんと言っても大好きなヴァルヌス・ノーチェ(
jc0590)とデートなのだ。誰がなんと言ってもデートなのだ。
「へぇ、北海道フェアかぁ……。おっ、鮭節があるじゃないか! 羅臼昆布も安いし!」
ヴァルヌスは物産展に目を輝かせる。
「あっ、ディブァールのセールもやってる!」
オープン記念で調理器具もお安いです。
料理大好きなヴァルヌスはリコリスほったらかし。
さすがにこの状況はリコリス的には嬉しくない。
「んもぅ! 折角のデートなのに全然構ってくれないー! 私おこだよ! 激おこだよ!!」
主張するも、気づけばヴァルヌスはお買い物に夢中でどこかに行ってしまった。
(あーもう!迷子とかなにやってんのさー!!)
リコリスはぷんぷんしながら、近くにいた店員に話しかけた。
「うん、彼氏がなんか迷子になっちゃってー」
「ああ、親御さんとはぐれてしまったんですね。こっちへおいで」
「――え? いやいや迷子は私じゃなくてっ!? だから違っ、あっ、アッー!?」
一方ほくほく顔で買い物を終えたヴァルヌス。
「んー。良いダシが手に入ったし、今年の年越し蕎麦は絶品だy……ってあれ?? リコどこいった……?」
そこへ店内に響き渡る、アナウンス。
「迷子のご案内です。リコリス・ベイヤールちゃんの保護者さま、至急迷子センターへお越しください」
迷子センターへと行ったヴァルヌスはちびっこ達に溶け込むリコリスを見つける。
リコリスと目が合う。少し間を置いてから……。
ヴァルヌスは扉をそっと閉じた。リコリスは思わず突っ込む。
「だ、大体ヴァルヌスちゃんが私を放ったらかしにしたのが悪いんだよ! 私悪くないもん!!」
「いやいや冗談だよ。買い物も終わったし、行こうか」
リコリスへと手を差し出す。
「……いや、また迷子になられても困るからさ」
「ま、まぁ、ヴァルヌスちゃんがどーしてもって言うなら、吝かでも無い、よ……?」
手を繋いで、デート再開。
「あ、ヴァルヌスちゃん、私そろそろ小腹空き麻呂だよ〜。ほらほら、あそこ〜♪ 何か良い匂いがする!」
リコリスに手を引かれ、二人はフードコートへ。
色とりどりのアイスに目を引かれる。
「んふふ〜、勿論奢ってくれるよね〜?」
かくて、アイスを食べながら少しのんびり。フードコートの中央には大きな電飾のツリーが飾られている。
「悪魔がクリスマス祝うっていうのも、どうかと思うけどね」
「ん〜? 悪魔が祝っちゃダメなの〜? 楽しいことは何でも楽しまなきゃ! 人生……悪魔生?損だよ!」
リコリスらしい前向きさにヴァルヌスはふんわりと微笑む。
「でも、この電飾は好きかな。ドイツで見たクリスマスマーケットは凄かったなぁ……。機会があれば、リコと一緒に見に行きたいな」
しばし考えた後。
「千葉のドイツ村でもいいか」
いやいやいや。
「まっ、ヴァルヌスちゃんと一緒なら何だってハッピーなんだけどねっ!!」
リコリス、とってもポジティブ。嬉しそうにアイスを一口。
「リコのアイス美味しそうだね。ひとくち頂戴」
ヴァルヌスはリコリスのアイスを横からパクっと。
「って、あー!?私のアイス!! うーっ! ゆっくり味わおうと思ってたのにぃ!」
「代わりにボクのあげるから。はいっ」
「う? そ、そういう事なら許してあげる」
アイスを一口ずつ交換して、ふとヴァルヌスは気づく。
(特に意図はなかったけど、これって間接キスじゃ……)
「ん〜、ヴァルヌスちゃん、顔が赤いよ? 風邪〜?」
二人の悪魔のクリスマスは、楽しいものになりそうだった。
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今年のクリスマスは今年だけ。
どうか誰もが誰かの素敵なサンタクロースになれますように。
メリークリスマス!