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マスター:さとう綾子
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/11/17


みんなの思い出



オープニング


 ハロウィンというものを、セーレは気に入った。
 知ったのはハロウィン当日だ。夜、「トリック・オア・トリート!」と魔女や悪魔の仮装をしている人間を見てその呑気さに笑ったのだが、その決め台詞もカボチャのランタンもセーレ好みだった。
 所詮はセーレもまだまだ子どもだということだろう。
 だから、ハロウィンが終わった昼間、捨てられていたカボチャランタンを片手にセーレはご機嫌に歩いていた。
 四国の情勢などセーレは知ったことではない。楽しいことを楽しいだけ遊ぶのだ。
 ぶらぶらと町を歩いて、セーレはハロウィンの片付けをしている教会に辿り着いた。
 自分はまだハロウィンを楽しんでいるのに、片付けなんて気に入らない。
 セーレはむっすりして教会の敷地へと入っていった。
 穏やかそうな男性がセーレに気付く。
「ハロウィンはもう終わったよ、お嬢さん」
 その言葉にさらにセーレは不快になった。
「トリック・オア・ダイ!」
 セーレのその言葉に男性は笑う。
「トリック・オア・トリート、だよ。さあ、お菓子をあげようね」
 セーレの手の平にキャンディが落とされる。その手に銃が握られた。
「トリック・オア・ダイ!」
 パァン!
 銃声一つで男性は吹っ飛び、血を流して動かなくなった。
 悲鳴があがる。セーレはにんまり笑い、カボチャランタンを揺らした。
「トリック・オア・ダイ!」
「こ、殺さないで……!」
 近くにいた女性の怯えた声に、セーレはますます気分をよくした。
 ハロウィンはやっぱり、楽しい。


「四国某所の教会にセーレが現れました」
 篝 さつき(jz0220)が緊張した面持ちで告げる。
「ご存知のとおり、現在の四国の情勢など関係なしに動く悪魔です。今回の事件も一連の四国の騒動とは関係がないと断言できますが、対処はしなくてはなりません」
 四国の資料がうず高く積まれた座席から、さつきは薄い書類を取り出し、撃退士たちに見せる。
「セーレはハロウィン気分で遊んでいたようです。残念ながら現場にはもういません。代わりに人質が2人とディアボロがかなりの数、います」
 さつきは教会の写真を見せ、屋根についている十字架を赤ペンで囲んだ。
「この十字架に2人の女性が紐で吊るされています。上空にはゾンビのハゲタカが2匹。どちらも肉が腐り落ち、骨だけの鳥です。このハゲタカが紐と女性の体を突付き、女性をこの高さから落とそうとしています」
 その言葉の後、今度は教会の入り口あたりを赤ペンで囲む。
「落ちた女性を狙ってグールドッグが10匹、このあたりを徘徊しています。落ちただけでも女性2人はかなりの重傷を負うはずですのに、それを狙ってグールドッグが女性を噛み殺そうとしているのです」
 セーレの「いたずら」はこの二段構えだったようだ。
「久遠ヶ原学園に要請があってから、時間も経っています。女性たちはそれほど持ちこたえることはできないでしょう。可能ならば女性たちを怪我なく助け、ディアボロを排除。最悪女性たちの命は助けてください」
 さつきはそこまで言って、資料を差し出した。
「四国関連に人出が割かれ、こちらの案件は少数での対処となります。女性たちの命も大事ですが、どうぞご自分の身の安全も。……ディアボロ相手なら、まず間違いはないとは思いますが」
 さつきはそう言って「お願いします」と頭を下げた。


リプレイ本文


(ハゲタカと腐犬のロンド……タイムリミットは30秒)
 仁良井 叶伊(ja0618)は現場である教会を見上げて思う。
 教会は2階建て。十字架は人の身長と同じくらいある大きなものだが、屋根までだったら全力跳躍で十分に届くだろう。そのための準備もしてある。
(正直、今回ほど空が飛べないのが口惜しいと思った事は無いですね)
 叶伊はちらりと仲間をうかがった。
 阻霊符を展開させている薄青の髪の天使、ウィズレー・ブルー(jb2685)と真っ黒い骨のような物で出来た歪な3枚の翼を持つ悪魔、ライアー・ハングマン(jb2704)。共に翼を持つ者。
 十字架から吊るされた女性2人を助ける役を2人は担っている。女性を直接狙うは腐ったハゲタカ2羽。だが地では2人が落ちるのを待つグールドッグが10匹もいる。グールドッグたちは女性の落下地点を中心に集まり、ぐるぐると唸り声を上げていた。
(行き過ぎた悪戯というか、セーレさんはお痛が過ぎますね)
 穏やかな茶の瞳で現場とディアボロたちの位置を確認するのは五十鈴 響(ja6602)だ。ウィズレーとライアーが救助に専念できるように、響は響のできることをする。そして救助する2人のことを心から心配し、助けたいと願う。
(できるだけ速やかに、女性の心身の苦痛を取り去って差し上げたい)
 それは祈りに近い思い。
(でも……脅かすかのようにまだ攻撃をしてないのはどうして?)
 女性の悲鳴。男性の遺体。上空をぐるぐる回るだけのハゲタカ。それはすべて撃退士たちに悪戯を見せつけるかのよう。
「……敵がどんな考えかは分かりませんけれど、囚われているお二人を何としても無事に助けないといけませんよね」
 響の疑念を同じように感じたのだろう、楊 礼信(jb3855)が呟くように言う。
「僕も全力を尽くします」
 礼信が見据えるのは上空ではなく地。10匹のグールドッグだ。その言葉に鳳 静矢(ja3856)が頷く。
「まったく……悪趣味な事をする」
「先ずは助かるべき命を助けなくては……ですね」
 ウィズレーが透けるように真っ白な翼を広げた。
(厄介な奴だなぁ、おい。力だけが強い奴はこれだから困る)
 やれやれと肩をすくめていたライアーだったがウィズレーに続くように空に浮く。
「華麗な救出劇と行きますか! 救助対象に安全と安心をお届けするぜぃ!」
 撃退士の開始の合図と同時にディアボロたちも動き出す。
 叶伊は周囲をうかがった。まるで遊ばれているかのようで、眉を潜める。
(セーレはどこかで見ているんでしょうか)
 今は考えても仕方がない。ライアーとウィズレーがまっすぐに十字架の元へ飛ぶのに合わせ、自分も一気に跳躍した。


 ハゲタカの先手を取ったのはウィズレー。
 女性に襲いかからんとしていた1羽へ向けて聖なる鎖を放つ。鎖はハゲタカの羽ごと巻きつき、羽ばたけなくなったハゲタカはグールドッグからやや離れた場所に墜落した。
 もう1羽のハゲタカは女性を脅すように吊るしているロープに喰いつく。ロープはまだ千切れないがぐらりと揺れた体に女性の悲鳴が大きくなった。
「おっと、もう安心だぜ?」
 悲鳴を上げる女性を抱きかかえるようにしてライアーがにっと笑う。そのまま、吊るされているロープをナイフで切った。
「あ、悪魔……!?」
 女性がライアーを見て、さらに悲鳴を上げる。ウィズレーが振り向いた。
「助けに参りました。仲間もおります、大丈夫ですよ」
「で、でも……」
「天魔ではありますが、久遠ヶ原学園の撃退士です。ご安心ください」
 その言葉と同時に叶伊が護符を翻す。まっすぐに走る雷がハゲタカの羽を貫く。
 一方で地に落ちたハゲタカにギリギリの距離を取って響が魔法書を繰る。魔法書に描かれているのは響が慣れ親しむ妖精。羽の生えた火の玉は響の高い声に従い、ハゲタカを焼く。
 鎖の巻き付いたハゲタカは動けない。動きを奪って攻撃していけば、いずれ倒すことはできそうだ。けれども響は心配そうに眉を落とす。
(手応えがあまり感じられない……意外と生命力があるのかな)
 上空を見ている余裕はない。
「Famhair」
 呼ぶのはスコットランドの巨人の名。ゆらりと現れる巨大な気配がハゲタカだけに聞こえる大声で叫ぶ。動けぬハゲタカはその大声に耐え切れず、ショックでまた動けなくなる。
(今は救助が完了するまで、抑えなきゃ)
 響は魔法書を抱きしめた。
 上空は1羽ハゲタカが減っただけでかなり優位になっていた。
 ウィズレーがもう一人の女性を抱きかかえ、ロープを切る。そして屋根の上へ引き上げた。続いてライアーも女性を引き上げると女性たちはガクガクと震え始めた。安堵で震えが遅れてやってきたのだろう。
「仲間は人間もおります。安心していただければ」
 ウィズレーの柔らかな言葉に女性2人は震えながら頷いた。
 けれども、ハゲタカは屋根に退避した女性を狙ってまっすぐ滑空してくる。
「今忙しくてな、相手してる暇はねぇ」
 ライアーが放つのは夜空に咲く花火のような火花。腐りかけた羽を火花が焼くと続いて叶伊の雷が羽を貫く。
 焼かれながらも女性を狙うハゲタカはまさに魔の生き物。悲鳴を上げる女性の前でウィズレーは咄嗟に槍を活性化させた。
「傷つけさせません」
 ハゲタカの攻撃を受け止める。その隙に叶伊の雷とライアーの紺碧の鎖鞭がハゲタカを襲う。
(ハゲタカを狩るまでは油断できん。まぁ逆に狩っちまえば犬共は手を出せんってことなんだがな)
 明らかに弱ってきている上空のハゲタカを見て、ライアーはにやりと笑った。


 一方のグールドッグは女性たちが落ちてこないか真下でぐるぐる動いているだけだ。
「さて、どの程度の敵か……」
 静矢は一番多くのグールドッグを巻き込める位置へ走りこむと朧を鞘から抜いた。大太刀は静矢のアウルと静かに共鳴する。
 初手は全力。
 振り抜いた大太刀から紫色の大きな鳥の形をしたアウルの塊が羽ばたく。紫の鳥は一直線にグールドッグを貫き、消える。
 手応えはあった。けれども倒れるグールドッグはいない。
 反撃を覚悟して大太刀を構えるが、グールドッグは上を向いてぐるぐると唸っているだけだ。
(こいつら……まさか、狙いはあくまで一般人だけなのか?)
 上空はライアーが1人を保護したところだ。もう1人はまだ吊るされている。
 礼信は気合を入れるために、すっと息を吸い込んだ。
「……不浄なる死に損ない共、我が聖なる光によりて、その身を相応しき報いが与えられんことを!」
 本人曰くちょっとアレな感じの詠唱だが、こういうのは気合が入るのが大事なのである。そういった意味ではまったく問題のない詠唱だ。
 無数の彗星がグールドッグに降り注ぎ、その身に重さを与える。彗星は広範囲に落ち、それは静矢の攻撃したグールドッグとも重なったがまだ倒れるディアボロはいない。
「さて、様子見は終わりだ」
 静矢の全力を持ってしても倒れないということは本気を出さねば2人での殲滅は難しいだろう。
 やや救出に人出を割きすぎただろうか。ちらりと視線を走らせると落ちたハゲタカの動きを1人で奪っている響の姿が見えた。グールドッグと同じだけの能力をハゲタカも持っているとしたら、響1人での対応はかなりキツイはずだ。
 状況を把握すると静矢は大太刀を握る手に力を込めた。大太刀が紫に強く光り、その一瞬の後、光が収まる。その時には2匹のグールドッグが地に伏せていた。
(これでも、狙った4匹すべてを倒すことはキツイのか……?)
 不気味なことにまだグールドッグは反撃をしようとしない。上空ではウィズレーが保護を完了したところだ。
(屋根から落ちてくるのを待つか、それとも諦めて攻撃に転じるか)
 グールドッグの動きが読めない。どちらにしろ、これだけ大量のグールドッグに襲われればいかに雑魚と言えども被害は大きくなるだろう。
 礼信は手堅く遠方から巻物をはらりと広げると生み出した雷の矢で弱っていたグールドッグを絶命させた。
「礼信、単体では間に合わないかもしれない。もう一度コメットを打てるか?」
「審判の鎖ではなく、コメット、ですか?」
 礼信は目をパチパチと瞬かせる。静矢は大太刀の柄に手をかけると頷いた。
「できる限りグールドッグの数を減らしておきたい。頼めるか」
「大丈夫です!」
 響は1人でハゲタカの動きを奪っている。今はいい。けれども動きが奪えなくなったときが問題だ。
(甘く見ていたつもりはないのだがな)
 微かに苦笑が漏れる。静矢にはまだ余裕がある。それは今まで死線をくぐり抜けてきた経験ゆえだ。
 紫の光がまばゆく光る。刹那の一閃。倒れた2匹のグールドッグも含め、降り注ぐのは礼信の彗星。また1匹、グールドッグが倒れた。
 残るは4匹。上空を見上げる。
 保護は無事完了していた。上空のハゲタカはかなり弱ってきているように見える。
「落ちたハゲタカの始末も頼む!」
 静矢は声を上げると最後の一閃を振り切った。


 静矢の声に反応したのは叶伊だった。
「保護はお任せします」
「おう!」
 ライアーが火花を散らす間に叶伊は屋根から飛び降りる。
 叶伊が考えていた30秒はとっくに過ぎている。無事保護できたからこちらの第一目標は達成しているが、ディアボロを殲滅させなければすべては終わらない。
 響は動きを捕らえた、地に落ちたハゲタカに妖精のような光を打ち込む。
(動きさえ抑えておけば、大丈夫)
 焦りはない。動揺せずに響は次の行動を考える。そこへ叶伊の雷が撃ち込まれた。落ちたハゲタカが痙攣するように動く。
「2人ならば早く片がつくでしょう。動きを止めるのはお願いできますか」
「はい!」
 響はぱっと笑顔になった。手応えのなかった敵への手応え。倒せるという確信。
(飛べなくともできることはありますね)
 叶伊は再び雷を放ちながらハゲタカをまっすぐに見据えた。

 屋根の上では女性を攻撃してくるハゲタカをウィズレーが槍で迎撃、その隙にライアーが闇色の逆十字をハゲタカへと落としていた。
 ウィズレーもライアーも女性が屋根から誤って落ちないように支えながらのため、幾分か動きが鈍くなる。それでも序盤に3人で攻撃していたことが功を奏したのだろう。
「ハハッ、敵しかいねぇから使い放題だぜ!」
 紺碧の鎖鞭をライアーが振るうと、ハゲタカは力尽き、地面へと墜落していった。
「もう大丈夫です。安心してくださいね」
 ウィズレーが女性2人に笑みかけると女性2人はようやく安堵のあまり泣きだしたのだった。

 静矢の最後の一閃は2匹のグールドッグを地に倒れさせる。残りは2匹。
 女性が落ちてこないことを悟ったのか、グールドッグは2匹とも静矢へと向かった。1匹の攻撃を回避するがもう1匹の噛みつきは腕に食い込む。
 腕を振ってグールドッグを振り落とすと、そこに礼信の雷の矢が突き刺さった。グールドッグはドオッっと倒れる。
 残りは1匹。
 痛みは大したことはない。静矢は純白に光る大太刀で最後のグールドッグを切り裂いた。

「これで、終わりです」
 響の声が凛と空気を震わせる。響の力は自然に力を借りるドルイドの力。飛び上がろうとするハゲタカの下から蔦が現れ、螺旋を描きながら這い伸び、ハゲタカに絡みつく。緑の蔦はハゲタカをがんじがらめにし、そこへ叶伊が雷を放った。
 蔦に絡み取られたまま、最後のディアボロは息絶えた。


 女性2人を大事に抱え降りてくるウィズレーとライアー。響は疲れを感じさせない足取りで女性に駆け寄ると持ってきた毛布で二人をくるみ、手を握った。
「落ち着くまで傍にいます。どうか心穏やかに」
 口ずさむのは澄んだ音色の穏やかな歌。教会にいた女性2人には歌はなによりの慰めになったのだろう。響の手を握り返して、はらはらと涙をこぼす。
「怪我の手当を」
 ウィズレーは静矢の手を取り、柔らかな風を漂わせる。
「ディアボロの悪趣味な狙いが、今回はこちらに有利に働いたな」
「そうですね。グールドッグが10匹で2人を狙っていたらと思うと少々ぞっとします」
「でも、みんな無事でよかったです!」
 礼信の言葉にライアーが笑った。
「ああ。救助が無事できたのが大きいな。これに懲りて変なことをしないようになりゃいいんだけど」
「悪趣味ですからね。どうでしょう」
 叶伊は肩をすくめる。その言葉にライアーはさらに笑った。
「現地の撃退士が来るまで、女性の元にいたほうがよさそうだな」
 静矢は響の様子を見ながら言う。と、ウィズレーがおずおずと口を開いた。
「あの、教会を見学してもいいでしょうか」
 人の建造物が大好きな天使は、もちろん教会も興味の対象だ。礼信が手を上げる。
「あ、僕も見たいです!」
「セーレがいつ来るかわからないからな、あまり羽目をはずさないように……」
 静矢が口を開いたとき、不意に翼の音が聞こえた。
 全員の視線が音のしたほうへと向かう。
 翼の主の姿は見えない。ただ、音のしたあたりにカボチャのランタンがつまらなそうに捨ててあった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 撃退士・鳳 静矢(ja3856)
 セーレの友だち・ウィズレー・ブルー(jb2685)
重体: −
面白かった!:3人

撃退士・
仁良井 叶伊(ja0618)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
幻想聖歌・
五十鈴 響(ja6602)

大学部1年66組 女 ダアト
セーレの友だち・
ウィズレー・ブルー(jb2685)

大学部8年7組 女 アストラルヴァンガード
絶望の中に光る希望・
ライアー・ハングマン(jb2704)

大学部5年8組 男 ナイトウォーカー
闇を解き放つ者・
楊 礼信(jb3855)

中等部3年4組 男 アストラルヴァンガード