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衛生センターに集まる生徒達。
「何度も落とされてるのに何故空で向かわないのか……」
そう、ごちているのは麻生 遊夜(
ja1838)。
効率が良いようで悪いお役所仕事だ。
「まぁ、いい……落とされなかったらいいだけだ!」
車両へ向かっていく。
「頼りにしてるぜ、敵は任せてもらおう」
気を取り直して、バキュームカーの運転手に挨拶をすると助手席に乗り込んだ。
「ああ。この生にやはり意味はない。…死にたい。 それでも、何か。何かが、見つかれば……」
鬱鬱とした無気力な感じでやって来たのはユーサネイジア(
jb5545)。
「ああ。お前たち。何故そんな顔をしている。ふんどし……だけでは、まずい、と……思い、……もらいものの、ジャケットを着てきたのだが……似合わない、か」
言動とは裏腹に褌にジャケットというファンキーな出で立ちのお陰でセンターの人々に注目を浴びる。
「糞を運ぶ車、か。ふん、どうせ、生は糞そのもの……だな……我には……ちょうど……お似合いか」
バキュームカーを見たユーサネイジアはそんな感想を零す。
「だが、そうやすやすと落とさせは……せん。我はバキュームカーの1台目、その後部につこう……」
そう言うと、一台のバキュームカー後部へ立ち乗りするのであった。
「バキュームカーを執拗に狙うディアボロ、か……誰が作ったのかは知らないが、その使命には同情しなくもないね」
敵を憐れむ様な言葉を発したのはベルメイル(
jb2483)。
ベルメイルはユーサネイジアと同じ車両を選び、共に後部での立ち乗りとなった。
「面妖なディアボロでございますな……」
と、相手の警戒を解くような微笑みながらも礼儀正しく関係者から情報の収集を行なっているのはヘルマン・S・ウォルター(
jb5517)。
「どのように現れたのでしょうか……」
猪が現れたルートについて聞くには、山側から車の側面を狙うように降りてきたとの事だった。
「一方通行の山間道ということは……大抵において狭いものでございますが……」
車両一台と少しの幅でカードレールもなく、崖になっていて時折、カーブもあるとの事だった。
(敵がなぜ執着するのかはわからないが、村にとっては災難というか非常事態だな……)
依頼の詳細を聞いた常磐木 万寿(
ja4472)は敵の思考は理解し難いが、被害に遇っている村人を心配していた。
(しかし人命は無事だったにしろ、車両を無駄にしたのは感心できないな……)
幾つか、部品を取りになっている車両を見て思う。
(し尿処理に携わる人たちに感謝して、とにかく護衛を成功させるとしよう)
ジープに向かう際、センターの人と視線が合い、軽く会釈をした常磐木だった。
(うう、凄い臭いだ。鼻がもげそうだよ……)
山育ちで得た鋭い嗅覚が返って仇となり、頭がくらくらしているのは緋野 慎(
ja8541)。
だが、流石に周囲の働いている様子を見れば嫌な顔は出来ない。
傍目から見れば、少し調子の悪そうな感じでジープに向かう緋野であった。
「人が生活する上で必要なライフライン――守らなきゃ」
困っている人なら助けるまで――正義の人である黒井 明斗(
jb0525)。
助けるためであれば、いかな汚れ仕事おも厭わない――そんな気持ちで参加した。
黒井は真剣な眼差しでジープへ向かう。
「なんというか……悲惨ね」
リーリア・ニキフォロヴァ(
jb0747)もまた、依頼の仔細を聞いて感想を漏らす。
リーリアもまた、ヘルマンと同じように敵の現れる場所を聞いていた。
「猪が現れる前兆のようなものはあったのかしら?」
加えてリーリアは敵が現れる前兆を情報を収集していた。
どうやら――猪が走る音が結構大きいらしいとのことだった。
「あと、資料があれば――」
リーリアは村へ向かうルートの『地図』を手に入れることができた。
その『資料』を手にジープへ向かっていった。
丁度、全員が集まった所で村への移動が始まった。
ユーサネイジアとベルメイルが後方に掴まるバキュームカーが先頭。
次に、常磐木が運転し緋野、黒井、リーリアが乗るジープ。
最後にヘルマンが後方につかまっているバキュームカー。
といった前後のバキュームカーの間にジープといった車列で村へ向かう事となった。
●道中
村へ進む事、数十分。
険しい山道な為、思ったよりも進んでいない。
更に、道路整備の手が届いてないのか酷道とも言える道の具合であった。
ガタガタと揺れながら進む車列。
「今のところは……大丈夫みたいだ」
助手席から警戒している麻生。
「ああ、此方も問題ないのぜ」
車載無線で麻生とやり取りする常磐木。
「そっちはどうですかー?」
黒井は後方のヘルマンに向けて呼びかける。
ヘルマンは問題ないといった手振りで答える。
「でも……これから先が、危険ね」
リーリアはこの先にあるカーブが書かれている地図を指し示す。
「麻生さん、この先にカーブがあるな」
「とすると、そろそろであるな……皆に警戒するように頼むのぜ」
警告する常磐木、皆に警戒するように伝えるのをお願いする麻生。
常磐木は他のメンバーに警戒するように声かけする。
そして、カーブへ差し掛かろうとした時――。
地響きの様な音が山側から聞こえてくる!
「聞こえる、何かが駆けてくるよ!」
緋野が一番先に気がついて皆に呼びかけた。
「来たか……!」
警戒していたと言うこともあり、皆は音にすぐ気がつく事ができた。
猪に騎乗した猿が下ってきているのが確認できた。
数としては猪と猿の組み合わせの一組だけのようだ。
「頼むのぜ」
麻生は運転手に声を掛け、首肯する運転手。
スピードを上げる先頭車両、下ってきている敵を回避できる未来位置まで移動する。
「幅……ギリギリであるな」
バキュームカーの助手席で冷や汗を流す麻生。
少し、間違えば転落そんなリスクのある車幅の少ない道をスピードを上げる様は非常にスリリングであった。
「……振り落とされて……死ぬのか……?」
「しっかり掴まないと、振り落とされる」
悪路の上にスピードを上げている――後部にいるユーサネイジアとベルメイルも振り落されないようにしつつ敵を狙う。
「……テクニカルな腕を要求されるな」
中央のジープも直撃コースを避けるように車間をとっている。
「彼我の相対速度と距離に気をつけて」
この中で一番の長射程であるヨルムンガルドを使って見越し射撃を行うリーリア。
至近距離で正面を捉える状況はほぼ直撃すると考えていいだろう。
直線的に向かって来ているといえ、車両も移動している為に攻撃には偏差射撃する必要がある。
ダメージは受けているものの、まだ此方に向かっている。
続いて、疾風の忍術書によって緋野の手から風の手裏剣の様なものを敵に撃ちだした。
ついに足元から崩れると騎乗していた猿は飛び逃げ、そのまま猪は転がってくる。
黒井の星のリングによって作り出された星が転げる猪の軌道を変えるように打ち出される。
無論、緋野とリーリアの攻撃も継続している。
猪はジープに当ることなく、大きな啼き声をあげて絶命したまま崖へと転落していった。
樹を伝い、前に回りこもうと移動している猿ディアボロ。
他に猪がいないか警戒するが、どうやらいないようだ。
それからは、先ほどとは変わって、車列を停め降車して迎え撃つこととなった。
まず動いたのは黒井だった。
バキュームカー組はその場で車両を防衛することとなった。
伏兵や増援がないわけでもないのだから。
十字槍に交換して、車列の前に向かった敵を討つべく黒井も移動する。
「どいてもらいましょう。どかぬなら……叩き潰します!」
審判の鎖が猿ディアボロを拘束した!
黒井は敵を薙いで、敵を斬り伏せる!
「……これで何とか進めますね」
他のメンバーは周りを索敵して敵の有無を確かめる――どうやら、いないようだった。
敵を排除して、再び車列が動き出す。
「……こんなものかしら?」
リーリアの言葉は皆の思いを代弁していた。
そう――余りにも敵の数が少なすぎたのだ。
「第二波がありそうですな……」
ヘルマンは後方からの奇襲を警戒することにした。
「注意しないといといけないのぜ」
「きっと来るかもしれないからな」
麻生と常磐木はバキュームカーとジープで注意しあって警戒することにした。
先ほどの襲撃が嘘のように進んでいくが――。
突如として大地が轟く――先ほどの襲撃以上の揺れと地響きが起こった。
コレには緋野のみならず、皆がすぐ気がついた。
先程よりも多い数が此方に向かって下ってきている。
先ほどと同じように射程の長い武器から、猪を狙って攻撃をしている。
ジープとバキュームカーも直撃を避けるために前後の緩急をつけて回避しようとしている。
「これはあなた達の玩具じゃないのよ」
前回と同じ要領でリーリアは猪を狙って敵の出鼻をくじいていく。
「足元がお留守であるぜ!」
時限式の英雄を使って集中力を高め、助手席から猪の足元を狙う麻生。
進行方向に対して逆に崖へ転げ落ちていく。
「近づかせません!」
黒井はジープから星のリングを使って下ってくる猪を狙っていた。
長射程の攻撃をくぐり抜ける敵は数のせいか多いこともあり、黒井は奮戦していた。
「……よし」
片手で後方の取っ手に掴まりながら彼我の速度を考えてヒポグリフォK46で猪を狙う。
狙うは胴体――攻撃を受けた衝撃でバランスを崩してあさっての方向へと転がり落ちていく。
「哀れな死体よ。嗚呼既に安楽なはずの死を得た者たちよ。我と、一緒に……死んでくれ」
そう言うとユーサネイジアは闇の翼を使いハイドアンドシークを使用して飛ぶと、大鎌のフルカスサイスで黒井の攻撃に合わせて側面から刈りつける。
ダメージを与え、ちょうどいい具合に軌道を反らせた。
「招かれざるお客様には早急にお引き取り頂くのが当家のマナーでございますれば……」
ヘルマンもまた迫る猪に対してアブロホロスの風の魔法により軌道を削ぐ角度での攻撃を行った。
攻撃のよる、ダメージと転げ落ちるダメージにより敵だったモノが崖へと堕ちていく。
「ここが正念場だ」
ジープを運転している常磐木は崖に落ちぬように、直撃コースを避けるように運転していた。
また、ジープから攻撃している味方を気遣いながらという難しい状況でもあった。
かなりの数の猪が駆け下りて来てはいるものの、意思疎通や互いに声掛けによる連携によって捌けることが出来た。
お陰で車列は敵が目指して下ってきているにも関わらず、直撃を受けずに済んでいた。
無論、攻撃側の攻撃と噛み合った上での戦果であった。
ほぼ全ての猪は排除された――騎乗していた猿を除いて。
猪ディアボロか転げ落ちる時に巻き込まれた猿ディアボロも存在していたが、ある程度は飛び逃げていた。
残った猿ディアボロは車列を攻撃しようと多数が前と少数が後ろへ向かっていた。
生徒達は敵を殲滅するために何時でも動かせるように車両を止めて迎撃に当る。
「さて……久方ぶりに腕が鳴りますな」
クロノスを手に微笑むヘルマンは後方に来た敵と対峙している。
「コレで終わりだ」
「死体よ……再び……死ね」
ベルメイルもデュアルソードを手に大鎌を構えたユーサネイジアと背中合わせで猪を警戒しつつ、猿と対峙していた。
まず動いたのはヘルマンがスマッシュをのせた一撃が敵の2つに裂いた!
続いて斬りかかるベルメイルと大鎌を振り下ろすユーサネイジア。
蓄積したダメージもあって、動きに精彩が無かったために程なくして三人によって後方の猿ディアボロは殲滅された。
「満足にトイレにも行けない、その苦労を貴様等分かるかぁァアアッ!!」
一方、前方に来た敵に立ち塞がるのは内心激怒して全力疾走したリーリア。
「ここからは行かせないよ!」
駆けし風で急いで駆けつけた緋野。
「ここまでです」
やや少し遅れて黒井が駆けつける。
「増援が来ないとも限らないので」
「伏兵……であるか」
麻生、常磐木は対猪の警戒と対処に当たっている。
炎熱の鉄槌を振りかざすリーリア――武器のチョイスに怒りのほどが出ている。
振りかざした鉄槌は敵の頭部を柘榴のように変えていく!
「食らえ、火炎拳!」
振りぬいた腕から緋色の炎が突き抜けて消し炭にせんとばかりに敵を灼く。
「コメット!」
放たれる無数の彗星は敵にダメージを与えつつ、動きを鈍くさせる。
そして、鈍くなった敵を槍で一撃のもとに屠っていく。
ある意味、一方的な虐殺――もとい、殲滅戦であった。
後方、前方共に敵が殲滅され排除された。
戦闘後、ベルメイル、ユーサネイジア、ヘルマンと三人はそれぞれ飛んで辺りの索敵を行なった。
特に、敵も見つからなかったので再び車両に分乗して目的地へと進んでいった。
それからの道のりは警戒はすれども時に、敵という敵は現れずに目的地へとついた。
●それから
常磐木は経験を生かして仮設トイレのチェックをしたり、気になっていた村人の様子をバキュームカーが来たことを知らせるついでに確認していた。
どうやら、村民には重大な問題は発生してなかったことに胸を下ろす常磐木だった。
「あの、今度からディアボロやサーバントが出たら、すぐに学園に助けを求めて下さい。普通の人では被害が大きくなるだけです」
作業を行なっているその横で依頼者とも言える村長にそう言ったのは黒井。
村長と雖も人間――今回の件は反省している様子だった。
「僕らは、皆さん達みたいな方々を護る為にいるんです。だから、ちゃんと護らせて下さい」
黒井の言葉に首肯する村長。
「出すぎた事を言いました」
そう謝罪したものの、その言葉は相手を思っての言葉だ。
村長はその言葉を受け入れようとしているようだ。
「ミッション完了、っと。謎ばかり残る……微妙な気分だ……何故バキュームカーのみなのか……?」
今回の出来事に疑問が乗る麻生であった。
「意外と……何かの演習なのかもね」
そんな、麻生の問に答えるかの様なリーリアの声が作業の音びかき消されて消えていく。
こうして無事、依頼が達成できた。
だが……。
「あ……晩は残りのカレーだった……」
戻ってから、夕飯が昨日の残りのカレーだった事に気がつき何となく食欲をなくすベルメイルだった。