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マスター:ガンマ
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:10人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/04/10


みんなの思い出



オープニング

●スク−ルのルーム
「アウル覚醒者とディアボロによる一連の事件――噂を聞いた諸君も、任務に赴いた諸君もいるかと思う」
 夕暮れの教室で、集った生徒を出迎えたのは教師棄棄。彼から告げられた件については既に報告書も上がっている。
「纏めるとよ、『恒久の聖女』っつー関西のアウル覚醒者集団が悪魔と手引して一般人を脅かしているって事と……そいつらが学園の事情をある程度知りえているようだって事が判明したんだぜ。
 平行して進められた調査によると、滋賀県で『恒久の聖女』のアジトと思われる場所が突き止められた。
 奴等を放っときゃ、非覚醒者である民間人の覚醒者への信頼がガタ落ちだ。既に『アウル覚醒者はバケモノだ』っつー不穏な風潮も零じゃあねぇ。一刻も早く、俺達はこいつらをどーにかしなきゃいけねぇ。その為に、久遠ヶ原学園では全校生徒を動員しての一斉摘発が計画されている」
 故に、その準備段階として10人の生徒が集められたのだ。
「諸君に課せられしは潜入任務、だ。摘発に足る情報と実態を掴み、それを学園に持ち帰れ」
 情報は未だ少なく、不明ばかり。そして報酬に見合った危険度。失敗すれば捕虜になったり、あるいは命を落とす可能性もある。
 それでも、だ。力なき人々の命を、そして撃退士の誇りを護る為に。10人は魔の巣窟に乗り込まねばならない。

 ――撃退士の戦闘は、対天魔を想定されている。そもそも撃退士とは対天魔戦のエキスパートだ。実際、撃退士が戦う相手といえば天魔ばかりであろう。
 だが、今回の敵は……人間。そう、人間。本来ならば護るべきで、本来ならば味方である筈の。
 人間。
 それには血が通っており、心があり、笑ったり泣いたりして、友がいて、家族がいて、生きている。生きているのだ。天使や悪魔ともまた異なる生物。

 人間と人間が睨み合う、なんて皮肉な構図。

「迷うなよ諸君。迷うと死ぬぞ。自分の考えが不安なら、今ここで俺が全部認めて許して肯定してやる。諸君、諸君は正しい。全てにおいて正しい。だから大丈夫だ。今は迷わなくていい。真っ直ぐ前見て行って来い。俺はここで――久遠ヶ原で、皆と待ってる」
 ニコリ、笠の奥で教師は笑んだ。心配を瞳の奥に押し殺して。
「武運を祈る。親愛なる撃退士諸君、出撃せよ!」

●狂犬と狂兎
 カーテンが締め切られ電気も点いていないその部屋は夜よりも暗かった。外れの棟の奥の奥、ポツネンとあるその部屋は京臣ゐのりと呼ばれる暗い少女のお気に入り。ほとんど誰も来ない静かな場所。ガランドウの空き部屋。なんにも無いその部屋で一人、真ん中でじっと座っていると、なんだか部屋の主になれた様な気がしたのだ。ささやかな満足感が少女の薄い胸を満たしてくれる様な気がしたのだ。
「嗚呼、あァ、ツェツィーリア様」
 今日もゐのりは自分だけの神殿で祈りを奉げる。愛しい聖女。彼女だけが己を救ってくれるのだ。くれるのだ。
 が、その恍惚の時間は乱雑極まりなく蹴り開けられたドアの音で終焉する。傍らに寝かせていた巨大チェーンソーを反射的に取りながら振り返り――辟易の吐息。
「猛鉄……」
「よォゐのりぃ、やっぱここにおったんか〜〜おどれはまぁーた仲間ハズレにされたんけ? コミュ障やのう!」
 下品な笑みで歯列を剥くのは大柄で横柄な男。辺枝折 猛鉄。やっぱり雑にドアを閉めると、ゐのりの隣にどっかと座る。その手には酒瓶。コルクをねじ開ける無骨な指。
「……あたしは忙しいの……」
 お前には関係ないだろう、出ていけ、と少女の眼差し。だが猛鉄はゲラゲラと笑うだけで、酒をかっ食らうだけで、下ろした腰を上げようともしない。
「ンなモン知らんわい。おどれがどうこうは関係ないねん、わしがヒマやっちゅーねん。その辺のディアボロしばいたら外奪のクソアホンダラに怒られるしよ」
「外奪はあたし達の味方だってツェツィーリア様が仰ったでしょう……そういう事は言わない方がいい」
「ぶははははははははははは。『ンなモン知らんわい』」
 全く、信仰を手段に破壊を目的とする猛鉄をゐのりは理解できなかった。一人でいると何かと絡んでくる。といっても、今のようにただ横で酒を飲み漁ったりがほとんどではあるが。妹分だとでも勝手に思っているのだろうか。やれやれ、とゐのりは思う。こんな大人にはならないでおこう。
 そう思いながらも、チェーンソーを置いたゐのりは猛鉄を追い出す事は無く、その隣にまたちょこんと座り込むのだ。
「ゐのり、飲むか」
「……要らない」
「ほーかぁ。のう、こないだの最高やったのう。あんなに楽しいのは久々じゃあ」
「そうね……楽しい。ええ、楽しいわ。ツェツィーリア様のお役にたてる事が……何よりも、何よりも」
「きっともっと楽しくなるで。楽しみじゃのう、楽しみじゃのう」
「その果てに……ツェツィーリア様と一緒に、楽園に至れるんでしょ……きっと、それは幸せなこと」
「楽園か〜どんなとこなんやろな〜〜」
 暗い部屋に男の笑い声が木霊する。それを鼓膜で聞きながら、虚ろな、微かな、少女の微笑。

●蝕蛇
 祭壇。渦巻くは巨大な双頭の悪魔蛇。それらの真ん中、赤い髪の聖女は遥か何処かに祈っていた。閉じられた双眸の、長い睫。
「楽園への一歩は踏み出されました。大いなる一歩、賞賛すべき黄金の一歩。我等は『恒久の聖女』。聖なる思考の下に清らかで幸福な楽園を築く使命を追った選ばれし存在。我こそは聖女。かつて楽園を築きし聖女の生まれ変わりなり。我こそは聖女。聖女として楽園を築き統べ導くが宿命。我こそは聖女。この脆弱な世界を救わねばなりません。強い力で統一し再構築せねばなりません。それが完璧に成されれば争いや苦しみや哀しみのない進化した完璧で幸福な楽園に至れるのです。我こそは聖女。私を信じなさい。私に全てを委ねなさい。私に従いなさい。楽園へ、幸福へ、自由へ、導きましょう。選ばれたのです。我々は選ばれたのです。その力は私と共に楽園を築く為にあるのです。選ばれた優等種なのです。進化の結果なのです。全ては聖女のお陰なのです――そうですね?」
 緩やかに開かれた瞳には、一様倣えに浮かべられた恍惚の顔がズラズラズラリと並んでいた。誰も彼もが涙を浮かべて跪いた。
「そうです、そうです、その通りです!」
「この力で新しい世界を切り開くんだ!」
「楽園へ! 楽園へ!」
「聖女様万歳! 聖女様に光あれ! 聖女様の言う通り!」
「嗚呼、ツェツィーリア様! 我らが聖女!!」
 賞賛、喝采、ステンドグラスに光り輝く麗しの聖女。両手を広げ、聖女の如き笑みを浮かべる。
「よろしい。素晴らしい。さぁ、共に楽園へ参りましょう……!」

●Hell Dealer
 だぁれもいない屋上だった。確かにそこに人間は居ない。人間『は』居ない。そこには悪魔が一人居た。ヒョロリと痩身、鎧の様な腕で撫でるは冷たい柵。悪魔はいつも愛想笑い。今日は曇り。素知らぬ顔の真っ白い空。悪魔は仰々しく両手を広げた。戯曲役者がする様に。
「レディース・エーンド・ジェントルメン なのですよ。小生は外奪と申します。ようこそ地獄の一丁目へ」
 独り言には随分大きい声だった。沈黙。応える者は居ない。だから外奪は笑うのだ。やっぱり愛想笑いで一つ。
「……なんてね。お芝居も楽しいものです」
 誰か見ている訳でもあるまいし。
 ねぇ?

 ――だれもしらない。だぁれもしらない。


リプレイ本文

●ヤブヘビ01
 朝の澄んだ空気。アウル覚醒者結社『恒久の聖女』の拠点、『小楽園』の正門の前に二つの人影があった。黒百合(ja0422)とナナシ(jb3008)。結社の腕輪を着け、ナナシは変化の術で人間に化け、新人として侵入を試みた。
「おはようございます、聖女様を讃える様な美しい朝ですね」
「おはようございます、今日も聖女様に光あらんことを」
 そう挨拶すれば、門番は二人の腕輪を確認し門を開く。
 二人の視界に広がったのは広い庭だった。極楽浄土とかああいうのを思わせる造りである。人工の池や川まである。そしてそこを我が物顔でうろついているのはディアボロ。二人は密かに驚きを覚える。そこいらじゅうにうようよいる。この腕輪のお陰か、襲ってくる事はないようだ。
(悪魔と何かしら仲間関係にあるのは明白なようね……)
 何故、までは分からないが。ナナシは密かに視線をめぐらせ、ディアボロの数や位置を確認する。作戦通り、一先ずナナシは黒百合と共に普通に小楽園内部を歩き回ってみる事にした。
 人目がある時は偽名で呼び合い、人目が無い時は内部構造を撮影しつつトイレなどの個人密室で逐一仲間達と棄棄へメールを送り(勿論、送受信した内容は削除)、周囲をしっかと見る。着目するのは内部構造に警備状況。
 先ずは内部構造。見る限りは極一般的な建物の造りだ。そう、『見る限り』は。隠し部屋の類の有無を推察するが、隠し部屋とは隠されているが故に隠し部屋だ。易々とは見つからないか。
 そして警備。どこもかしこもというわけでは無いが、あちこちにいるディアボロ、アウル覚醒者はそれだけで十分な武装警備と呼べるだろう。それに加えて監視カメラ。また、件のディアボロ達が『透視能力が使える移動式監視カメラ』となっているようだ。
 特に警備らしい警備がなされているのは門と、なにかしら重要な部屋――資料や倉庫、といった具合か。当然ながらそういう場所は否が応でも『人目に付かない場所』とは正反対だ。特に厳重な警備がある所は一体、何処に続いているのか。
(如何にも何かあります、って感じねェ)
(えぇ。調べてみる価値はありそうね――それじゃあ、ちょっと行ってくる。この時間になったらさっきの場所で落ち合いましょう)
(あらァ……ナナシちゃんが来なかった場合はァ?)
 悪戯っぽく含み笑って問うた黒百合に、ナナシはちょっと苦笑を浮かべた。
(その時は、皆と逃げて) 
(オーケェ。私が来なかった時も、そうしてくれると嬉しいわァ)
 そしてナナシは、遁甲の術を発動すると次いで物質透過を発動した。正面からは軽微のものに怪しまれて入れないが、『上』からはどうか。ナナシは床をすり抜け(かなり分厚かった。階段で下へ下へと続いているらしい)、『重要と思しき場所』に携帯電話を持った手だけを入れて撮影を行った。監視カメラ対策だ。
 その結果に、ナナシは息を呑む。
(なによ、これ……)
 牢獄だった。あるいは拷問部屋。
 とても暗いそこには狭苦しい牢屋が並び、一部屋に一人ずつ、拘束着と共に椅子に拘束されている。人間だ。一般人かアウル覚醒者かは分からない。その頭にはヘッドセットらしき器具。なにか音でも再生しているのだろうか――想像に難くない、おそらくあれは洗脳の類。狂気の光景。
 看守はディアボロ。それも飛び切り不気味で狂気的な姿のバケモノ(大量、とまではいかないが複数いるようだ)が、牢屋の間をカサカサ不快な音を立てながら這い回っている。
 ナナシは吐き気の様な不快感を覚えた。助けたい、と思ったけれど、今は……無理だ。ヘタに物音を立てたらおそらく『看守』に気付かれる。ので、いつかの救助の日の為にナナシは出来る限り監獄の内部構造等を記憶した。
 それから、別の『重要と思しき場所』の調査も試みる。備品庫(食料や医療品などの生活品、それから武器がメインのようだ)、そして資料室――先ほどの方法を応用して、ナナシは物質透過によって壁際にあった棚や机に壁の向こうから手を伸ばすと、中身だけ掴んで引き抜く荒業を見せた。もし物資投下ですっぽり『進入』していたらバレていたかもしれないが、これならば。難点を上げるならば完全に手探りなので全然関係ないものまで引き抜いてしまったりする事、透過とは水に潜る事と同じ故に長く壁の中にいれない事か。
 さて、手にしたものを改めてみる。重要そうなものはこれらの内以下の2つか。

 1、ここの見取り図(残念ながら隠し部屋らしき部分までは記載されていない)
 2、監獄に入れられた者と思しき名簿(結構な人数がいる。チェックが付いているのは『出所』した者だろうか、別のチェックが付いている所を確認すれば、監禁されている者は一般人とアウル覚醒者が混じっているようだ)

 たった3つだが、これはかなりの成果であろう。
 ナナシは時計を確認する。さて、そろそろ黒百合と合流せねば。ナナシの行動に迷いは無い。人間と戦う事は別に良い、同族である悪魔と戦う事も今更だ。
(敵ならば討つ、ただそれだけ)


 一方で、黒百合は内部を探索しながら結社員達の会話や行動を観察していた。誰も彼も聖女に陶酔しているようであるが……さて。立ち話をしている3人が聖女を讃えたところで、
「あァ、私もそう思いますわァ」
 偶々通りかかったがつい我慢出来ず、といった風を装って友達汁も活用しつつ黒百合は3人の会話に加わらんと試みる。
「私、悪魔とのハーフで……劣等種族共に迫害されていた所を皆様に救って頂いたのですゥ。私と、私の劣等種族共への復讐心を全て受け入れて下さるなんて、聖女様は素晴らしいわァ」
「そうそう、俺もさ、アウルに目覚めた途端バケモノ扱いされてさぁ。だからここはとても居心地がいいよ」
「なんで選ばれた強者である私達が弱者の為に慎ましくしなくちゃいけないだって感じよねー」
「劣等種は我等優等種の奴隷になるか、滅びちまった方がいいよマジで」
「そう思いますわァ。嗚呼私、もっと聖女様や幹部様のことを知って、お力になりたいわァ……なにかご存知でしたら教えて頂きたいわァ」
 そう問うと、彼等はまるでヒーローや芸能人について述べる様に、熱く語り始めた。

 ツェツィーリア・アスカ。聖女の生まれ変わり。悪を罰する強い力も持っているらしい。彼女に従わぬ者は悉く『跪く』のみ。
 辺枝折 猛鉄。豪放で奔放であるものの裏表の無い性格からか結社員の人気は高い。腕っ節は結社トップクラスで、なんでも『傷を負うほどに強くなる』とか。
 京臣 ゐのり。何処か影があり暗く、他人との交流を好まない。彼女が唯一表情を輝かせるのはツェツィーリアの前だけである。猛鉄と仲が良いらしい。

 そして曰く、彼等は『益々強くなった感じ』らしい。外奪という悪魔が『恒久の聖女』に加担するようになってからだ、と。
「成程ォ……皆様の素晴らしさを久遠ヶ原めに知らしめる為にはどうすれば良いんでしょうねェ」
 久遠ヶ原? 唐突に出てきた単語にふと首を傾げながらも、会話の熱中のままに3人は口を揃えた。一様に狂信を目に浮かべて、そんなの決まってる、と。

「「「聖女様に従えばいいのさ」」」


●ヤブヘビ02
(……恒久の聖女とやらが何を考えているのか、知りたい所に御座るな)
 時は遡り。黒百合とナナシとタイミングをずらして東門に現れたのは断神 朔樂(ja5116)と宗方 露姫(jb3641)。露姫は結社の腕輪を着けているが朔樂は着けていない。となれば、門番が訝しむ目を向けてくる。
 が、そこで一歩出たのは露姫だ。長髪のウィッグと長袖のロングコートを身に着け悪魔の特徴を隠している。
「……新しい覚醒者を見つけたの、きっと聖女様のお力になってくれるわ……」
「あぁ。俺はシンヤ、俺も『恒久の聖女』に加えて欲しい。天使と使徒に家族を奪われ、学園は天魔を受け入れた。ならば、その全てが俺の敵」
 学園。その単語に、門番が片眉を上げた。
「久遠ヶ原学園の方ですか?」
「そう『だった』、だな。もうあんな所には戻りたくない」
 それは捏造か本心か、自分でも分からない。天使も使徒も許せないのに、学園は共存と甘ったるく謳っている。なのに何故、朔樂が学園生徒なのかというとそれは簡単――学園生にかつ命を救われた、使徒と戦い取り残された、『あの依頼』。借りは、返す。
 さて。成程、と頷いた門番が何処かに連絡を行う。それから朔樂のボディチェックを行った。彼のスマートホンが没収されてしまう。が、念の為に仲間のデータと他に学園の者とは関係のないデータを入れたのですぐには怪しまれないだろう。
 その後、門番が呼んだらしい結社員が朔樂を何処かへ連れて行ってしまった。露姫はそれを見送りつつ、作戦を開始する。庭を見渡した。それから建物全体を見――ふ、と。屋上。人影が一つ。こちらを見ている。あれは、悪魔……?
(怪しいな)
 となれば積極的に接触すべし。露姫は建物に進入した。内部構造を調査しつつ、出会った者に問うてみる。
「……猛鉄様とゐのり様に用があるって言われたんだけど、何処かで見なかった?」
「う〜ん、猛鉄様はいつもその辺をウロウロしてるし、ゐのり様はいつも音信不通だし……あ、聖女様なら祭壇に居られると思うよ、多分ね」
「そう。ねぇ、聖女様と幹部様の事……どう思う?」
「素晴らしいと思うよ」
 正に狂信者。心の底からの微笑みと賞賛。そこに一抹の不気味さを覚えつつ、露姫は屋上に向かった。エレベーターがある。以外にもすんなり、彼女はそこに辿り着いた。
「おやおや。小生みたいな悪魔の所に一直線にやって来るとは、迷子ちゃんでもなさそうですねぇ」
 まるで出迎える様に、柵に凭れた悪魔:外奪が笑みを浮かべていた。露姫もニッと、応える様に笑み返した。
「ああ、悪魔がいるってホントだったんたな。つってもあんただけっぽい?」
「どうでしょう、小生には100の兄弟がいるかも」
「はは、しかしお仲間に会えるとはね。いやぁ……どーにも俺一人じゃ稼ぎが悪くてさぁ……」
「貴方も悪魔ですか、ほう。失礼ですが御所属は?」
「フリーだよ、一匹狼。でも一人は大変でさぁ、だから俺にもちびっと美味しい話に関わらせてくんね? 見返りはキッチリ働いて返すしさ」
「ほ〜? 何故、小生が『美味しい話』を持っている事が前提になってるんでしょうねぇ?」
「話には聞いてるよ。『恒久の聖女』がディアボロと組んでハデな事やったって。『何かある』と思わない方がバカだね」
「ああ事前調査はしてたんですね、それならお話が早い」
 ニッコリ笑った外奪が手を差し出した。
 その手で行うのは――しっしっ。『出てけ』の動作。
「撃退士に捕まって拷問される前にママの所にお帰んなさい。ここは大悪魔サマエル様の支配予定地ですよ。一人じゃままならない君みたいなペラペラじゃあ、とてもじゃないがお話になりませんねぇ」
 その表情、態度、本音を掴ませない。が、これだけは分かった。凄まじい皮肉と嘲り。思いっ切りコケにしてきた外奪に露姫はブチ切れそうになったが何とか気持ちを押し込めると、

「ちっ! なんだよケツの穴の小せぇケチ野郎」
「ガバガバよりキツキツの方が魅力的なんですよ、お嬢ちゃん」
「この変態め」
「ははははは」
 食えない男だ。もう一度盛大に舌打ちすると、露姫は翼を広げる。ここは退散するしかなさそうだ。外奪に素性を明かした以上、変にうろついても怪しまれるのみ。空へ飛び立つ。後で仲間へ連絡せねば。
(しかし……サマエル、だと?)


●ヤブヘビ03
 一方の、西門。
 そこには二人の入信希望者と、二人の結社員が門の前にいた。
「戦いで仲間を護れなかったんです……どうか力を持つ意味を、自分に下さい」
「あたしはねー、後ろを振り返らずに面白楽しく生きてきたんだけど……なんだかちょっとだけ疲れちゃった。『楽園』にいたら、幸せになれる?」
 亀山 淳紅(ja2261)(黒カラコン、目深のニット帽、立襟長袖の私服で変装している)と瀬波 有火(jb5278)、腕輪の無い二人。
「という訳なんだが」
 その仲介役として腕輪を着けた赤坂白秋(ja7030)が門番を見る。その傍らでは同じく腕輪を着けた星杜 焔(ja5378)(非モテぼっちコミュ障ヒッキールック)がニコニコと微笑んでいる。
 そうすれば、東門の時と同じ様な展開。有火の携帯電話(もちろん学園関係データは削除済み)は没収となるが、淳紅のそれは作戦通り白秋が所持していた為にそもそも没収が行われなかった。
 そして二人は何処かに連れて行かれる。
 ここからは焔と白秋のペア行動。
 焔は亡き妹と眺めた庭を胸に、広い庭を眺めた。風が運んでくる香り――周囲を山に囲まれたここは拠点としての防御力は高そうだ。が、人里離れている故に篭城となれば物資入手が厳しくなるだろう。
 子に皆から嫌われて生きる思いはさせたくない。そう思いつ、焔は白秋と建物の内部に踏み入った。
 白秋は淳紅の携帯電話を入り口最付近のトイレに隠し、『新人だからまだよく地理が分からない』という理由で見取り図を結社員より入手する。が、それは簡素である上に隠し部屋やそういったものは見当たらない。しかしそれを渡す時にその結社員はこう言ったのだ、「まだ新人なら地下とか厳重警備場所には近付くなよ」と。
 地下については後からナナシの連絡で実態を知るのだが、基本的に立ち入り禁止場所までは入れない。新人を名乗れば尚更だ。変に入ろうとしても怪しまれるか。そこで白秋は鋭敏聴覚を発動する――

「――だから、何回言ったらわかるの? 聖女様は私達を楽園に導いて下さるんだよ?」
『そんな事を言ってないで、帰ってこい! そこは危険な所なんだ、罪の無い人を殺しまわるなんて犯罪集団じゃないか!』
「力の無い劣等種が悪いのよ。都合の良い時は頼りにする癖に、ちょっとでも気に喰わないと『バケモノ』って罵ってくる最低な無能集団じゃん」
『お前の親だって友達だって非覚醒者じゃないか、彼等にも同じ事が言えるのか?』
「うん。死ねば良いと思うよ無様な劣等種は」
『狂ってる、お前もその集団も狂ってるよ、間違ってる! 誰かの犠牲の上に成り立つ楽園なんて在る訳が無い!』
「私にとって正しいのは聖女様。聖女様を信じないてめーみたいな人の方が間違ってるし、今の『平和』だって昔々の戦争の結果あるんだよ?」
『どうして……今まで私達、撃退士として頑張ってきたのに』
「撃退士なんて、馬鹿らしい。自ら力無い人の為とか言って、豚の奴隷になるなんて、気が狂ってる」
『考え直して――』
「じゃあね」

 それは電話での会話らしかった。どうやら『恒久の聖女』をキナ臭く思ってるのは久遠ヶ原学園だけじゃないらしい。
 もっと情報が必要だ。そう思った二人は聞き込み調査を開始する。手近な結社員が丁度聖女の素晴らしさについて語り合っていたので、混ざる事を試みる。先ずは数言交わし、会話の流れを引き寄せる。因みに焔はこういったやりとりが苦手なので、怖気ず話してゆく白秋を「凄いなぁ」と見守っていた。
「……学校の生徒が全員、ディアボロに憑りつかれる事件があった。学園はディアボロの駆除を決定したよ……憑りついた子供ごとな。その時の学園生の一人が俺の元に現れて、こう言った。『これから妹を殺す。伝えたい事はあるか』。――優しいつもりか、クソ野郎が……ッ!」
 それは嘗ての己だけれど、白秋はポーカーフェイスでひた隠し。吐き出すのは学園への恨み。
「俺の憎悪を聖女様は受け止めてくれた……あの人なら付いて行ける。学園の情報が欲しい。捕虜なんて利用価値ありそうだ」
「あぁそれなら、私は久遠ヶ原学園の卒業生でフリーの撃退士やってたの」
 結社員が微笑んだ。ここは自分達『力ある者』が認められる素敵な所だ、と。
「力ある者が正しいの。選ばれた者だけで高等で幸福な楽園を築くのよ。私みたいな学園卒業生は結構いると思うわ。我々の考えを理解しない学園は可笑しい事この上ない。その証拠に久遠ヶ原に入学予定だった子も結構うちにいるしね」
 成程、と白秋は頷いた。どうやら学園の内部事情が漏れていたのは、彼等のような『久遠ヶ原学園卒業生』の仕業だったのだ、と。
 学園には心に傷を抱えた者は少なくない。心の闇が深いほど、惑わされてしまうのだろうか。
(思った以上に厄介だな……)


●ヤブヘビ04
 部屋に集められたのは淳紅、有火、朔樂、歌乃(jb7987)だった。腕輪を着けていなかった入信希望者である。ニコニコ笑顔の結社員に勧められるまま、一同は並べられた椅子に腰を下ろした。
「早速で悪いが、この結社の理念、そして聖女と呼ばれる存在の事を訊きたい。俺を誘ったあの女は、聖女の事を崇める事しかせず、説明が省かれたからな」
「あっ、あの。私もここに来れば楽園へ連れて行ってくれるって聞いたので……」
 着席するなり朔樂が問い、自分も気になると歌乃も言った。えぇ、と結社員が頷く。
「先ずは、ようこそ『恒久の聖女』へ! これより皆様に我々の理念や聖女様の素晴らしさを知って頂く為、稚拙ながら説明させて頂きたく存じます。それではお手元のガイドブックをお開き下さいまし」
 促されるガイドブック。簡単ながら『恒久の聖女』の理念が書いてある。それと共に、結社員が説明を開始した。

 『恒久の聖女』。
 それは盟主にして聖女ツェツィーリア・アスカが世界を統べる事で、この世界は幸福なる『楽園』となる、という考えを持ったアウル覚醒者の秘密結社だ。力ある者、アウル覚醒者が世を統べる事こそが『自然』であり、その頭目たる聖女に従う事こそ幸福で、楽園への近道なのである。アウル覚醒者とは選ばれた存在。力ある優等種。そして力無き非覚醒者は須らく自然の摂理さながらに淘汰されるべき、或いは優等種奉仕するべきべきなのである。

「聖女様ってどんな人なのかな。きっと優しくて綺麗なんだろうなー」
「わ、私は幼い頃に覚醒してから幽閉されて、学園に入れられそうになって逃げ出して……こんな私でも、聖女様のお役に立てるでしょうか?」
 それらを聴いて。有火の言葉に続いて、不安そうに歌乃が言う。結社員がニコリと微笑む。
「勿論ですよ! 何も不安がる事はないのです、聖女様は傅く全てを救って下さいます」
「聖女様は……何で自分みたいなんでも救ってくれはるんですか?」
 不安気な様子を振舞う淳紅が問うた。
「それは、貴方がアウルに覚醒した――選ばれた存在であり、聖女様に傅く事を自ら選んだ知者であるからです」
「ここは、上の人は聖女様だけですか……?」
 更に淳紅が問う。
「聖女様、幹部のお二人、それからサポーターの外奪様ですね」
「自分らは、これから聖女様のために何をさせて頂けるんでしょうか……?」
「楽園に至る為の幸せな事ですよ」
「ねぇ、具体的にあたしには何ができるかな。聖女様の為に、楽園に行く為に、できることはしたいもん」
 有火が身を乗り出した。
「選ばれし存在を聖女様のもとに集める事、聖女様の素晴らしさを世に広める事、聖女様に害成す存在や劣等種を駆逐する事、聖女様を讃える事です。そうすれば我々は楽園に至り、哀しみも苦しみも無い完璧な幸福を授かるのです」
「うん、……うん。楽園って素敵。あたしも聖女様の為にがんばる! さっそく行ってきまーす!」
 あぁ待って、と結社員の制止を振り切り部屋の外へ走り出した有火であるが。数十秒後にぜぇはぁ言いながら同じ勢いで戻ってきた。
「外出たら襲われたんだけどなんでー!? ていうかさっきから思ってたんだけどなんでディアボロさんがいるの?」
「だから待ってと言ったでしょう……」
 苦笑した結社員が一同に腕輪を渡した。件の、結社員の証だ。おそるおそる受け取った淳紅が問う。
「この腕輪は……?」
「我々『恒久の聖女』の証ですよ! ここでは外さないで下さいね、ディアボロ達が敵と認識してしまいますから。ここのディアボロは我々の仲間です。サポーターの外奪様は悪魔なのですが聖女様のお考えを理解しておられる知的な方でしてね、その関係で」
「あ、じゃあ……今から自分がトイレいっても大丈夫って事ですか。ちょっとぽんぺが」
「そ、そうですね。出て突き当たりを右です、行ってらっしゃいませ」
 という訳で淳紅はトイレへ向かった。ここは入り口から随分遠いが、『ぽんぺが酷かった、迷った』とでも言えばどうとでもなる。目的地は入り口最寄トイレ。探した。……あった。白秋が隠してくれた自分の携帯電話。確認と、情報送信と。
 そして急いで戻れば、案の定「遅かったですね」と。「お腹が弱いんです」とションボリしておいた。ぽんぺなら仕方ない、は万国共通である。
 それから間も無く、「準備が整った」と一同はまた何処かに連れて行かれる事となる。
 が、そこで青い顔で蹲ったのは歌乃だった。
「は、初めてなんです。人の多いところ。だから……」
 体調が悪い、と。後で向かうから少し風を浴びてきて良いか、と。
「ふーむ、仕方ないですねぇ。ではガイドブックのこの部屋に、後で来て下さいね」
「すみません……」
 では、と歌乃はふらつきながら部屋から出た。だが全ては演技、一人になるとすぐに行動を開始する。腕輪もある、ディアボロには襲われない。挙動不審に周囲を見渡すフリをして内部構造や監視カメラの位置を確認しつつ、ゐのりを探すべく歩き始める。が、携帯電話がなく仲間と連絡できない上に、この広さだ。ゐのりを見つけるのはおそらく至難の業だろう。


 一方で、入信希望を装った一同が案内された所は薄暗くも神秘的な空間、例えるなら祭壇だった。蝋燭の朧な光、ステンドグラスの荘厳な輝き、神秘的な香の香り。そしてその場には大量の結社員がひしめき合っていた。誰も彼もが恍惚と、祭壇の奥を見詰めている。
 彼らの視線の先。一際大きな蛇型ディアボロを従えて凛然と立っていたのは――『恒久の聖女』盟主、ツェツィーリア・アスカ。
「楽園への一歩は踏み出されました。大いなる一歩、賞賛すべき黄金の一歩。我等は『恒久の聖女』。聖なる思考の下に清らかで幸福な楽園を築く使命を追った選ばれし存在。我こそは聖女」
 ツェツィーリアが語り始める。謳い始める。澱みない言葉。
「我々は選ばれたのです。その力は私と共に楽園を築く為にあるのです。選ばれた優等種なのです。進化の結果なのです。私は貴方達を楽園へと導く宿命を、聖女の名を背負いましょう。 痛みも、苦しみも、悲しみも無い世界へ共にまいりましょう。 力を尽くして、くれますね?」
 ツェツィーリアの言葉には不思議な力があった。魔力とかスキルとか神秘とかそういうものではない、純然なる、ある種の生まれついての才能。例えば計算が凄く得意だとか、暗記が神がかってるとか、その類だ。
(この場合は他者を引き込む話術、かな)
 結社員の大喝采。激しい熱狂と絶頂の真っ只中、ひっそりとその場に侵入した焔はそう思った。「我々は選ばれたー汚物は滅べー」と周りに合わせながら。お香や覚醒能力による洗脳効果はないらしい。冥魔認識を行ったが見破れない。人間だ。
 熱狂渦巻く結社員の中には新入生らしき者がちらほらいた。
 焔は思う。
 天魔が血肉を撒き死ぬ姿に胸が踊り、その材料が両親と知り悦んだ己を責め、けれどずっと誰にも言えず、スプラッタ趣味を嫌悪される事で己に罰を与え続けて。孤独を救ってくれた少女は天使と戦う撃退士の攻撃で死に、己は全て失った。独り生き残った理由を探し、そして答を。
 ノンフィクション。けれど焔があの元新入生と違ってツェツィーリアの理想を「稚拙」と断ずれるのは、きちんと学園で色々な人々を見てきたからだ。けれどそういった機会もなかった新入生は引き込まれてしまったのだろうか。
「天魔が害であるのは、外部の統治者であるからです。彼等のやり方は力あるものとしてはとても合理的。ならば、内部の統治者。人類の力ある者、つまり我々が統治するのが世界にとって相応しい形。天も魔もそのように世界があるのでしょう? ならば、この世界には我々能力者がその役目として選ばれたのではないと、どうして言えるのですか。傷つき、否定され、抑圧されるのは、僻み、妬みの裏返し。力あるとはそういう事。それに負けてはなりません。正当な権利を主張すればよいのです。そうする力があるのですから」
「聖女様ぁあ!」
 なるべく前を陣取った淳紅も周りに合わせて熱狂のフリをしていた。耳や鼻を塞いだが、どうやら心配した『洗脳』は起こらなさそうだ。そうしながらも、携帯で音声を収録しておく。
 怖い、怖い。バレたら? もし飲み込まれてしまったら? けれど、地元の危機で学園の皆の危機だ。
(情報たんと持って帰らなな!)
 狂気の時間は、続いてゆく。


●ヤブヘビ05
 黒百合とナナシは忍法「響鳴鼠」によって幹部の場所を探った。露姫と焔の連絡によって外奪・ツェツィーリアの場所は既に分かっている。すると、一匹の蜘蛛が二人に幹部の場所を教えてくれた。
 腕輪を着け無事進入を果たした影野 恭弥(ja0018)は幹部を探していた。だがここは上にも横にも広く、簡単には見つけられない。であったが、黒百合達からの連絡で場所が判明、同時に行くと怪しまれるだろうと幹部の下へ先に向かう。
 辿り着いた扉の前。先ずは、ノック。
「……出てって」
「おう、入れ」
 チグハグな返答。幹部二人の声だ。会わねば始まらないので「失礼します」と入室する。大柄な男と小柄な少女、猛鉄とゐのりがそこにいた。
「なんや? わしらに何か用か」
 良くここに来たな、といった様子だった。怪しまれる一歩手前、といったところか。ここは慎重にやらねば、と恭弥は感情を無にしたまま淡々と動き始めた。ヒヒイロカネから大量の武器を取り出して並べて見せたのだ。曰く、お近づきの印の手土産だ、と。
「知り合いにV兵器の開発、生産に携わる者がいまして、そのコネで色々と融通することが出来ます……ゐのり様や猛鉄様のように力はありませんが、聖女様のお役に必ず立てるかと……」
「なんやぁ、いきなり来てセールスマンの真似かいな?」
 猛鉄が恭弥を一瞥する。腕輪はしているので結社員のようではあるが。
「久遠ヶ原の撃退士に対抗する為には皆の戦力増強も必須かと……」
「おー。ほな頑張ってな。よろしゅ」
「俺もゐのり様や猛鉄様のように強くなって聖女様のお役に立ちたい……一体どうしたらそのように強くなれるのですか?」
「聖女様を信じれば良い……」
「がっはっは! わしは生まれつき最強なんじゃい」
 褒められてちょっと満更でもないゐのりと、豪快に笑う猛鉄。思考放棄に脳味噌筋肉。ちょっと話にならないか、と思ったところで。
「なんかのう、外奪っておるやろ? あいつがの〜何や良う分からんけど、わしとゐのりとツェツィーリア様を強うしてくれたんや。最高やろ? お前等も頑張ったら強うしてもらえるかもな〜」
「あァ、ここにいらしたのですね猛鉄様ァ」
 そこで、黒百合とナナシがやってくる。如何にも猛鉄のファンだと振舞いつつ、男を囲んだ。
「先日の御偉業、聞き及んでおりますわァ」
 友好フェロモンと甘ったるい声。手土産のウォッカを注ぎつつ黒百合が猛鉄に寄りかかれば、「まぁな!」と露骨に嬉しそうな猛鉄が片手を黒百合の腰に回し、撫でる。ちなみにゐのりは益々隅の方にいき、一同をジトッと眺めていた。
「私、貴方の事が……」
 黒百合は甘える声で猛鉄に顔を寄せた。耳の傍、赤い口唇。
 刹那。
 黒百合の唇からU.N.ウィルスが霧の様に吐き出される。

 殺った!

 そう思ったのと、猛鉄の拳が黒百合の顔面にめり込んだのは同時。
「ガハハハハハハハハ! 残念やったのぉ、痛くも痒くもないわ!」
 立ち上がる男は、当たれば必ず朦朧とする筈の技を受けても尚、平然としていた。
「やだァ……状態異常が効かないのかしらァ?」
「ご名答ぉぉ〜〜〜」
「とんだインチキねェ」
 空蝉で拳の一撃を回避していた黒百合が苦笑う。その首を背後から刎ねたのはゐのりのチェーンソーだった。それも空蝉で何とか凌ぐ。
「……やっぱり、その二人。久遠ヶ原の生徒」
 ゐのりがキッパリ、言い放った。指差す先には黒百合とナナシ。
「あらァ、何故『久遠ヶ原学園の生徒』とまで分かったのかしらァ?」
「おうよぉ、ゐのりは『嘘発見器少女<レディ・ポリグラフ>』、心を読む力っちゅーんがあるんや!」
「……猛鉄」
 窘める様にゐのりが言いつつ、チェーンソーを唸らせ黒百合に襲い掛かる。
「ヒャハハハ! えぇ声で鳴くんやでぇ〜?」
 それに続き、猛鉄も双鉈を抜刀し黒百合とナナシを見遣った。

 まずい。

 直感する。
 ゐのりに『心を読む』力がある以上は。恭弥は素早く判断するとすぐさまその場から抜け出した。
 空蝉には限りがある。黒百合はナナシへ目をやった。逃げろ、と。このままでは共倒れだ。ナナシには物質透過に翼がある。今なら標的が分散している、逃げられる。
 ナナシは――勝利よりも大切な物があると、信じている。故に、躊躇わなかった。武運を祈るように力強い眼差しを黒百合に送ると、壁を通り抜け空へと文字通り『飛び出し』、全速力で空を翔る。
「さァて」
 微笑を浮かべる黒百合の、朧な目。
 そこには、迫り来るチェーンソーと鉈が映って――……


●ヤブヘビ06
 バレた。
 その情報はすぐさま撃退士に送られる。
 恭弥、淳紅、朔樂、焔、白秋、ナナシ、有火はそれとなく脱出した。歌乃も携帯非所持故に連絡こそ来なかったものの、内部の異変から事情を察し撤退。ナナシも無事に脱出出来、露姫は少し離れた所で既に待機していた。
 が、黒百合は現れず――苦い思いと任務目標の情報を抱いて、撃退士は久遠ヶ原学園に帰る事となる。



『了』


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 誓いを胸に・ナナシ(jb3008)
重体: 赫華Noir・黒百合(ja0422)
   <死の一歩手前まで嬲られた>という理由により『重体』となる
面白かった!:80人

God of Snipe・
影野 恭弥(ja0018)

卒業 男 インフィルトレイター
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
歌謡い・
亀山 淳紅(ja2261)

卒業 男 ダアト
銀炎の奇術師・
断神 朔樂(ja5116)

大学部8年212組 男 阿修羅
思い繋ぎし翠光の焔・
星杜 焔(ja5378)

卒業 男 ディバインナイト
時代を動かす男・
赤坂白秋(ja7030)

大学部9年146組 男 インフィルトレイター
誓いを胸に・
ナナシ(jb3008)

卒業 女 鬼道忍軍
激闘竜姫・
宗方 露姫(jb3641)

大学部4年200組 女 ナイトウォーカー
バイオアルカ・
瀬波 有火(jb5278)

大学部2年3組 女 阿修羅
【結晶】眠れる朱き獣・
歌乃(jb7987)

大学部4年32組 女 阿修羅