.


マスター:ガンマ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2014/03/11


みんなの思い出



オープニング

●見えない浪漫
 夜。
 夜は暗くておっかない。
 だから夜になったら出歩いちゃ駄目だと、大人達は子供に言う。
 であるからこそ、夜は魅力的だった。途方もなく、魅力的だった。
 コッソリ、お家を抜け出して。
 コッソリ、友達と待ち合わせて。
 コッソリ始まる、子供だけの大冒険。
 幼い勇者が、夜を往く。

●スクールのルーム
「ズバリ、迷子救助とディアボロ討伐が諸君に課せられた任務である」
 教卓に座した棄棄が集った一同を見渡した。そのまま、状況の説明を開始する。
「部屋で寝ている筈の子供から、その親にケータイからの電話があった。なんでもバケモノに襲われている、助けて、ってよ。
 どうやら子供達は夜な夜なベッドからこっそり抜け出して、友達と町を探検ごっこしてたらしい。そこをディアボロに襲われてアラ大変……って感じだな。
 そゆ訳で久遠ヶ原に親から電話がすっ飛んできたっちゅーこっちゃ」
 どうか子供達を助けてくれ――それはもう、取り乱した様子だったという。「もっとしっかり子供を見ていれば」「何かあったら私の所為だ」と。
「子供想いの良い親御さんじゃあねぇか。そんな奴には幸せな家族に囲まれた幸せな生活がお似合いさ。人間、幸せなのが丁度良い。
 ……っつー事でだ諸君。誰かの幸せの為に傷を負う覚悟はあるか? 戦う意志はあるか?」
 なんて、問い掛けておいて棄棄は聞く前に言葉を立て続けに放った。
「ま、大人っつーのはほとんどが子供が心配で心配でしゃーないわけよ。よろしく頼んだわよ、生徒諸君!」


●夜夜
 弾かれたケータイがぐしゃりと踏み潰された。
 子供の泣きじゃくる声。
 不気味なケダモノの唸り声。
 怖いよぉ、誰か助けて、子供達の悲痛な声。

 ――彼等を救えるのは今、撃退士しかいないのだ。


リプレイ本文

●ド深夜SOS
 転移装置の蒼い光が消えたそこは、住宅街の中の公園だった。
 そして早々に聞こえたのは子供達が泣く声と、不気味なケモノの唸り声。
 6人の撃退士は直感する――ここに、『いる』。迷子達が、ディアボロが。
「子供は宝だ、守らないと!」
 居ても立っても、といった様子で直ぐに駆け出したのは礼野 智美(ja3600)だった。子供だけではない、避難勧告の時間さえないこの状況で敵を討ち漏らせば大変な事になる。神を祭り巫女を護る戦巫女として、土地長の家系の出として、そしてなにより礼野智美として、地域と子供を護る意識は誰よりも強かった。
 そんな智美に続いて駆けるのはメリッサ・アンゲルス(ja1412)、若杉 英斗(ja4230)の二人の騎士だ。
「弱き者を助けるは騎士の務め也! いざ参らん!」
「絶対に助ける! 待ってろよ!」
 護る。その意志が、二人の光纏の輝きを一層強く煌かせる。
 駆ける撃退士。斯くして視界にディアボロ『這いずる狂犬』に追い詰められた迷子3人が映ったのは間も無くであった。
 たすけて、こわい、と幼い子供の涙声。それを丸呑みにせんと這いずる狂犬が牙を剥いた――もう駄目だ。目を閉じる子供達。だが、閉じる瞼のその刹那。まるで羽でも生えているかの様に、一気に子供達へと『跳ぶ』人影が、あった。
「……っしょっと」
 ガキン、と硬いもの同士がぶつかり合う音。目を剥いた子供達の視界にあったのは、無装飾の大剣で這いずる狂犬の一撃を受け止めた桝本 侑吾(ja8758)の背中。
「夜に冒険とは勇敢だな。勇敢な子供は泣かないもんだ」
 冷静、否いっそ平然とした声だった。子供達の角度からでは侑吾の腕に食い込んだ狂犬の牙は見えない。だが負傷は、全力跳躍で強引に割り入ったその時から覚悟の上。全ては子供を護る為。
「こう見えて……体は丈夫な方なんだよ、っと!」
 力を込めて狂犬を押し返す。直後に侑吾の隣に颯爽と並び、ディアボロが子供へ向かわぬよう立ちはだかったのはメリッサである。ふわりと舞う白羽の光纏を煌かせ、刻んだ聖印を輝かせ、白銀の槍を天に掲げて、威風堂々と名乗り上げる。
「悪しきディアボロめ! 我、騎士メリッサが成敗してくれるわ!」
 勇猛たるそのポーズはこの日――初めての依頼の為に一生懸命考えて練習してきたものだ。決まった、完全に決まった。さっきまで泣いていた子供達の泣き声も止んでいる。スゲェ、と一言漏らすほどだ。
 だがその感激に酔いしれるのは一先ず後だ。メリッサは鋭く、冥魔へと槍を構える。
 それとほぼ同時、夜を滑空する者の姿があった。イオ(jb2517)だ。ボロボロの翼は上手く飛べないが故に、跳躍からの滑空。そのまま空中で一回転を決めると、子供の直ぐ傍に着地する。
「助けに来たぞよ」
 静かに言い放つその顔は、目深に被ったフードで半分以上が影となって隠れている。怖がらせぬよう角を隠す為のそれは、ミステリアスな印象を与えるのにも一役買ったようだ。カッコイイダークヒーロー。目を丸くする子供の手を、イオはしっかと掴んで立ち上がらせる。
「イオ達は味方じゃ。大丈夫じゃから、こちらの言う事をよく聞くのじゃ」
「よし、もう大丈夫だ。あとは俺達が敵をやっつけるから、みんなは後ろに下がってね」
 そこに加わるのは英斗。一先ず怪我をしている子がいない事に心の中で安堵の息を吐くと、腰を抜かしたらしい子を抱え上げてイオと共に後退する。
「後は俺達に任せろ、そこの兄ちゃん姉ちゃんと一緒に下がっとけ」
 ちらと子供達へ目を遣った侑吾は次いで「任せた」とアイコンタクトを仲間へ送った。頷いたのは瓜生 璃々那(jb7691)、戦闘圏外まで運ばれた子供達を護る様に傍に立ち、その蒼い瞳で3人の子を見る。
「私の後ろに隠れていなさい。言うこと聞かない子は後でお仕置きですよ?」
 ニッコリ優しく微笑んで、あくまでも萎縮させぬ様に。わかった、と口を揃えた子供等に「いい子ですね」と璃々那は応え、凛然と冥魔へ向いた。飾った言動など不要、その毅然とした『璃々那そのもの』である佇まいは子供達に安心感を与えていた。
 しっかり護らねば――そして害成すディアボロもしっかり滅ぼさねば。既に阻霊符も展開してあり、あとは全力を尽くすのみ。璃々那はそのしなやかな指に薔薇のロザリオを携える。指の白さを十字架の銀色が映し出す。細い鎖が流れる様に垂れ下がった。
「やるべき事はやる主義なのですわ」
 根は真面目でしっかり者で頑張り屋なのだ。刹那、咲き乱れるは無数の赤。花弁の形となったアウルが渦を巻き、這いずる狂犬に襲い掛かる。
 それと並走するのは智美だった。脚部から燃え上がるような金の光。地を縮め滑る様に駆ける彼女は強く地を蹴り跳び上がる。夜空を背景に胡蝶の如く一つ舞うと、ディアボロ目指し一直線に急降下。まるで稲妻。鮮やかな吶喊。雷打蹴。
「お前の相手はこの俺だ!」
 黄金の軌跡を残す踵落としが這いずる狂犬を打ち据えた。あまりにも美しいその技は全ての意識を智美に惹き付ける。全ては子供からディアボロの気を逸らす為。着地から姿勢を正しつつ油断なく敵を見澄ます。
「物理攻撃は問題なく効くようだ!」
「魔法も、別段効き辛い事もないようですわ」
 智美と璃々那の声。攻撃の感触から、このディアボロはどちらの耐性も満遍なくあるようだ。
「ゲル状じゃどうなるか微妙だったが……成程、それじゃあ思いっきりやっていいって事だな」
 智美と同様に英斗も周囲の意識を引き付けるオーラを放ちつ、子供は仲間に任せて前線に出る。後ろの護る者達のもとに冥魔を決して行かせるものか。
「お前の相手は俺がしてやるぜ、この化け物!」
 強引に間合いを詰めて構えるは、昇り龍が白銀の刻まれたトンファー『双龍牙』<ダブルドラゴンファング>。振りぬけば空を裂く音がさながら龍が吼えるが如く、高い技巧を以て殴り付ける。
「さて、イオもやるとするかのう……そこで良い子にして待ってるんじゃぞ?」
 安全圏の子供達へ視線を送り、イオは敵を鋭く見据える。すぐにでも子供を護れる位置にて構えるのは滅魔霊符。
 子を心配する親の気持ちはよく分かる――無事に助け出さねば。
「ゆくぞ、璃々那!」
「はい、イオさん」
 子供を護りつ、イオと共闘戦線。やれ小忙しいものだと璃々那もロザリオを同じく構えた。
「じわじわと弱らせてやろう」
「灰は灰に、塵は塵に――」
 陰陽師の東洋魔術、ダアトの西洋魔術。印を切ったイオが繰り出す幻影の蛇が、呪文を唱えた璃々那が展開させる魔方陣より射出される魔力の矢が、弾幕となって這いずる狂犬に襲い掛かった。
「このまま攻撃の手は緩めんぞ、弾幕展開じゃ!」
「承知致しましたわ」
 降り注ぐ様に熾烈な魔力射撃。それはディアボロが簡単に子供達へ近付かぬように。
 と、その時。這いずる狂犬がぶるりと蠢いたかと思えば、その身体から幾つもの腕が突き出して。ぐにゃりとうねるそれらが狙うは周囲一体有象無象、爪で裂き掴み掛かり、或いは絞め上げ苦しめる。
「っ……」
 挑発を行った侑吾の身体にも黒いヘドロの様な異形の腕が纏わり付く。動き難い――が、動けないという事はない。『流れに任せる』意味を持つ大剣を握り直した。常に敵の正面に居るよう立ち回った事が幸いしたか、動けなくとも敵は目の前、攻撃は届く。動けぬ者も居る今、敵を出来るだけ子供達から遠ざけねば。
「おらっ!」
 灰色の軌跡を残す痛烈な一閃。普段のボンヤリさとは対極的なその重い一撃は這いずる狂犬を勢い良く弾き飛ばした。そのまま侑吾は戦場を見渡した。子供達は――無事だ。うんと遠ざけた事、多くの撃退士がディアボロのターゲットを引き付けた事、イオと璃々那が身を張って斜線を防いだ事が功を奏した。
「絶対に守るのじゃ」
 子供の目の前で悲鳴を漏らすものか。イオはぐっと奥歯を噛み締め、前を見澄ました。

 絶対に護る。

 撃退士の気持ちは一つ。
 護りながら、敵を討つ。
「やらせるものか……!」
 聖なる刻印によって邪腕の束縛を振り払ったメリッサが、槍を構えて突撃する。
 己が傷つく事など怖くない。誰かが傷つく事こそが耐え難いほど恐ろしい。
 己の傷など痛くない。誰かの傷こそ百に裂かれるよりも苦痛である。
 少女騎士は願う。護りたいと、真っ直ぐに願う。純粋に願う。
「光の力、その身に受けよ!」
 力を込めた一撃は、そんなメリッサの願いの如く真っ直ぐな軌跡を描いた。白銀の槍から放たれる光はまるで、まるで、暗い夜を切り裂き願いを叶える流れ星。
 メリッサの槍に貫かれた冥魔が鈍と悲鳴を上げた。ごぶっと吐いたのは血――ではない、猛毒の飛沫。辺りに飛び散る。地面がジュッと煙を上げる。
 そんな毒の雨の中を、智美は烈風の如く駆け抜ける。棚引く黒髪が残す軌跡。そのまま勢いを減らさぬ速度で三叉槍による突撃を繰り出し、凄まじい衝撃波を以て這いずる狂犬を弾き飛ばす。護神姫流、それは護る為の術。蝶の様に舞い蜂の様に刺す、流麗にして熾烈な武術。
「子供達のもとへは行かせない。行きたいのなら――この俺を倒してみろ!」
 ヒュ、と槍を振り払い凛と張り上げる声。尤も、倒される道理など無いのだが。
 英斗の思いも、正に智美と同じ。守護者は壁の如く立ちはだかる。傷つく事など恐れずに。
「かかってこい、何度でも防いでやる!」
 睨め付ける眼光。その先で、ディアボロが不気味な咆哮と共に巨大な口を開けて英斗に襲い掛かった。立ち並ぶ棘の様な牙。彼を丸呑みにせんとするが、そこで冥魔の動きがビタッと止まる。まるで壁にぶつかったかの様に――否、実際にぶつかったのだ。光盾<ライトシールド>。燃え上がる黄金のオーラに包まれた、英斗の気合と根性と決意の盾。
「屁でもないな。いいか、攻撃ってのは……こうするんだよっ!」
 鮮やかな攻防一体。そのまま振り抜かれる英斗の双龍牙。重い一撃が這いずる狂犬の側頭部と思しき場所を打ち据えて、強烈に蹌踉めかせる。
「合わせて行こう、援護してくれ」
 ディアボロは瀕死だ。このまま一気に畳み掛ける。そう判断した侑吾は後方のイオと璃々那に目を遣って走り出した。
「簡単に逃がすものか」
「そろそろ終わりに致しましょう」
 頷く二人の魔法使いがアウルを練り上げ、術符と十字架によって猛射撃を繰り出した。光の嵐、薔薇の渦。
 それらに押し遣られたディアボロに侑吾が間合いを詰めた。ふ、と全身の膂力を爆発させて振るう刃。深く深く切り裂けば、這いずる狂犬が更にタタラを踏んで後退した。
 が、傷口から毒を溢れさせ、尚もそれは唸り狂う。
 しかしそれをも上回る大きな声があった。
「がんばって!」
「負けないでっ」
「いっけぇーーー!」
 子供達の声。撃退士を応援する幼い声が、戦場に響き渡る。
 然れば騎士として、それに応えなければならぬ。メリッサはシャイニースピアを構え、光纏の羽を散らしながら再度の突撃をディアボロへと敢行した。
 これで、終わらせる。有りっ丈の力を込めて。
「この槍は、我<メリッサ・アンゲルス>は、護る為に在るのだ――!!」
 終焉の一撃。
 光の槍に貫かれたディアボロが、断末魔を上げて蕩け消えた。
 そしてメリッサは、勝利を確かめる様に槍を天に掲げたのであった。

●平和な夜は
「いいですか、大人になるまでは夜に遊びまわってはいけませんわよ?」
「あぁ、その通りだ。お父さんやお母さんが心配するからな」
 戦闘を負えて一段落、璃々那は子供達に目線を合わせると、優しく彼等を窘めた。英斗も子等を一人ずつ見て頷きを一つ。その隣ではメリッサが、心を落ち着かせる暖かなアウルを放ちながら「尤もである」と言葉を続ける。
「夜の探検がわくわくするのは我もよーくわかるが……このご時世では少々危ないのだ。大人が駄目、という事には何かしら理由があるものらしいのだ」
 思い返す。夜な夜な騎士に憧れ鍛錬をしようとして、世話になった教会のシスターに怒られたっけな。
 と、今は思い出に浸っている場合ではなかった。璃々那に目配せ。頷く少女。二人で温かな紅茶の準備を。
「さぁこれを飲んで、おうちに帰りましょう」
 甘い香りのミルクティー。それを受け取った子供達は咽が渇いていたのか一息に飲み干した。ふぅ、と一息。それからちょっと間があって、その目に涙がどんどん溜まって。

 うわーん。

 余程怖かったのだろう。感情の氾濫。わんわんと泣くその子達を、智美は優しく抱き締めてやる。
「冒険は楽しいけれ、今こわ〜い天魔があちこちに出て来るからな。父さんお母さん達、とっても心配してたぞ。ちゃんと『ごめんなさい』って言える勇気、持ってるか?」
 その肩に手を置いたまま、彼女が真っ直ぐ見詰めるのは幼い瞳だ。鼻を啜りべをそかきながら、それでも彼等は「うん」と頷いた。「偉いぞ」と智美はもう一度彼等を抱き締めてやった。
「帰ろうか。みんな待ってる」

●護った明日
(親の心子知らず……つっても、冒険心も大事だしな)
 子供達を親元に送り届けた後、侑吾は思った。子供達が怒られるのは生きてこそ。だがそれは自分の役目なんかじゃない――細めた目に映っているのは、親にコッテリ怒られている子供達の姿。でも、親達は誰も彼も泣いていた。次第には「心配ばかりさせて」と子供を抱きしめる。親の腕の中、子供は智美と約束した通り「ごめんなさい」と親を抱き返していた。
 勇気も、冒険心も、悪い事じゃあない。
 彼等なら、きっと大丈夫だ。ふ、と何処か満足気に息を吐き、侑吾は踵を返した。
 メリッサもそれに続こうとして――立ち去ろうとした中途半端な姿勢のまま、親子の姿からなんとなく目が放せない。メリッサは孤児だ。本当の親の愛を彼女は知らない。だからこそ、褒められたものじゃないと自覚していながらも、ちょっぴりの寂しさ。ちょっぴりの羨ましさ。常に騎士然としているが、彼女はまだ9歳の子供なのだから。
(むぅ、修行が足りんか)
 ぶん、と首を振ってメリッサは学園への帰路に就く。
 イオも子供達と別れを済ませ、仲間達に続いた。見上げる夜空。もう少しも経てば朝が来る。新しい一日が。
 す、と空気を吸い込んだ。まだ冬の気配を滲ませた温度。
「これにて一件落着、じゃな!」



『了』


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:6人

真直なる小さな騎士・
メリッサ・アンゲルス(ja1412)

中等部1年6組 女 アストラルヴァンガード
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
ブレイブハート・
若杉 英斗(ja4230)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
我が身不退転・
桝本 侑吾(ja8758)

卒業 男 ルインズブレイド
のじゃロリ・
イオ(jb2517)

高等部3年1組 女 陰陽師
山風の悪戯・
瓜生 璃々那(jb7691)

大学部3年262組 女 ダアト