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マスター:ガンマ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:9人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/11/26


みんなの思い出



オープニング

●スクールのルーム
「ヒャッハーー! 汚物は消毒だぁ〜〜っ」
 ドギャーン。
 あ、今日の任務を端的に表すとそんな感じです。うん。と、教師棄棄は世紀末ボイスからコロッとニコヤカボイスになって微笑んだ。そして「よっこらショルダータックル」と教卓に座した。
「単純明快、今日も楽しくディアボロ退治、だ。山奥の廃トンネルにディアボロの糞野郎が陣取りやがってな。まだ直接的な被害の類は出ていないが……だからこそ早急に性急に討つべし。オーケィ?」
 教卓に座した教師は爪先で卓上の資料を指し示す。現場の見取り図と敵の情報が纏められている。
「詳しいネタはそれを見て貰うとして。敵の特徴を一言で説明するなら『すげぇ臭いしものっそい汚い』。うん。綺麗好きだったり潔癖症の子には地獄かもしれん。……任務から帰ったらちゃんと手洗いうがいしろよ、生徒諸君!」
 あとお風呂にも入るといいよ。そう言って、棄棄はそっと入浴剤を生徒に手渡したのであった。


リプレイ本文

●こいつはクセェーーーッ!
 転移装置の蒼い色の後、目の前にはポッカリと仄暗いトンネル。そして、もう鼻を突く悪臭。
「これは酷い臭いだ……」
 端整な顔を僅かに歪めながらも、「早いところ片付けたいね」とキスカ・F(jb7918)は言う。しかし、トンネルの外でこれなのだから……中の臭いは想像したくない。
「……帰ったら、ソッコーで風呂と洗濯だな……」
「はい……終わったら……そうしたい……です……」
 そんな事に思いを馳せつ、音海 宗佑(jb7474)と秋姫・フローズン(jb1390)。眉根を寄せた仏頂面と憂いを帯びた蒼い伏せ目。
「……今直ぐにでもファイヤーブレイクでトンネル中を焼き払って殺菌消毒したい気分だわ……」
 最早、不快感と不機嫌さを隠そうとすらせずに巫 聖羅(ja3916)は既に光纏していた。その目と同じ紅いオーラ。気分は最悪。さっさと片付けて帰るに限る。
「……」
 一方で虎落 九朗(jb0008)は両手で顔を覆って絶望ポーズだった。色々悪臭対策をしてきたのに全く意味が無かったからだ。おのれヘドロイヤル。この恨み晴らさでおくべきか。
「……根性で耐える、しかない、かな」
 何処か遠い目をして礼野 智美(ja3600)も続ける。親分級を倒せば何とかなるかもしれないとか思ったがそれ以前の問題だ。そんな悪臭も兎角、厄介な相手である。
「しかし、コイツが人里に降りてくるってのは想像したくねぇな……」
 様々な意味で厄介だからこそ。ギィネシアヌ(ja5565)は溜息一つ。臭いのも汚いのもまぁ我慢できるが、教師に報告する前に風呂だな――と思ってしまうあたりオトメティック山田である。一般品よりはマシだろう、と着けたマスクの奥でもう一度溜息を吐こうか逡巡する。
「アレが河の神で薬の湯で綺麗にしたら礼に金落とすなら我輩ご機嫌」
 Unknown(jb7615)が真顔で言う。都合の良い鼻はあまり『クサイ』が分からないけれど、これはクサイ。確信。
「うー、普通の匂いだけでも酷いよ……」
 既に酷い悪臭に顔を顰めつつ、依頼故に致し方なしと猫野・宮子(ja0024)は一歩前へ。仕方なく前へ。出来る限りの対策もした。キュートな猫耳尻尾も着ければ、準備完了。
「さー、出陣なのにゃ!」
 ビシッとトンネルを指差し、いざ。

●ゲロ以下の臭いがプンプンしやがるぜぇーーーッ!
 仄暗いとは言え、事前情報の通り戦闘には問題がない程度の明るさである。足場はぬるぬるとしたヘドロに満ちているが、対策をしてきた者がそれに滑る事はないだろう。
「――う……鼻が曲がりそう……。皆、トンネル内部は暗い上に手狭だから、不意討ちや同士討ちに注意して」
 脳内で「帰りたい」を繰り返しつつの聖羅の言葉。そしてそれは間も無くだった。
 ずる。視界の果てで蠢いたヘドロ。べちゃべちゃ。デカイのが一つ、小さいのが三つ。物凄く不快な見た目と臭いをしたそれこそがディアボロ――撃退士達の討伐目標である。
「先手必勝にゃぁ!」
 敵影を認めるなり誰よりも速く躍り出たのは宮子。猫の軽やかさでぴょーんと飛び出しつ、炎の印をその手で刻む。
「纏めて燃やしちゃうにゃよ! マジカル♪ ファイヤーなのにゃー!」
 快活な声と共に繰出すのは紅蓮の蛇。のたうつそれは灼熱のアギトを開き、ディアボロ達に襲い掛かる。
 火。火。赤。炎は全てを浄化する。火力は大きい方がうんと良い。
「――汚物は纏めて消毒してあげる……!!」
 聖羅が纏う真紅の光が一層の輝きを帯びた。杖を掲げ、詠唱するのは炎の呪文。練り上げる魔力。構築された赤い魔法陣より巨大な火球が発射される。トンネル内を一瞬照らす熱い光に舐める熱量。
 轟。燃える。派手なドンパチは嫌いじゃない。
「さて、初舞台だ。頼むぜ、『Black raccoon』」
 靡く髪は銀、纏う蛇は紅、手にした銃は光すら拒む黒。それを指先で一撫でしつつ、ギィネシアヌは湧き上がる様な感情を伴う武者震いに身を委ねる。口角を吊った。ズシリと手に馴染むスナイパーライフルを構えながら。
 撃ち滅ぼせ、討ち滅ぼせ、射ち滅ぼしてブチ抜いてブチ亡ぼすのだ。有象無象の遍く全て!
「こいつはテメェらだけを焼き尽くすアウルの火だぜ」
 天空神ノ焔<リアマデククルカン>。叡智の炎は金の羽となり、神々しくも美しき光を散らす弾丸となりて飛んで往く。それは宮子と聖羅の火炎の中より這い出てきたヘドロコブンを撃ち抜き、聖なる力で焼き苛む。
 ぐじゅるぐじゅる。悲鳴の代わりと言わんばかりに蠢くそれに、アンノウンは思わず「ぐげ」と嫌な声を漏らしていた。
「畑の栄養にも成らんな……せめて汚物で無ければなぁ……我輩の糧になるのになぁ……」
 不潔な汚物に塗れに塗れしこの場所では流石の彼も何か食べる気が起きないらしく、その所為で今アンノウンは拗ね気味でご機嫌斜めである。まぁそれはそうとして。
「みんな炎を使うのであれば使わざるを得ない――消毒といえばコレ! 火炎放射器!」
 テッテテー。わくわく! 初めての火炎放射器! やったねアンちゃん、火力が増えるよ。と、とある紙が火炎放射器に挟まっている事に気が付く。
「……アッ取扱説明書……どれどれ」

 アウルを炎状に変換して目標に投射する武器。炎のように見えるが炎そのものではないため、燃え移ったり酸欠になったりはしない。ヒャッハーという掛け声と共に使用すると、汚物を消毒できるらしい。

 ふむ。
 然らば。
「ヒャッハーーーーー!!」
 THE様式美! 火力MAX! 見た目は完全に悪役(しかもすぐやられそう)!
 炎に炙られるヘドロイヤル。が、ヘドロの弾丸と次々と撃ち出して来た。
「臭い……ですね……」
 困った様子の秋姫は何とか回避を試みる、も。べぢょ。よりにもよって頭部に命中したヘドロ弾。金槌で殴られた様な衝撃にぐらっと揺れる上体。どろり、頭部から顔へ垂れたのは血だけじゃない。なんかもう形容する言葉すら思い浮かばない不快な汚物。
「   ……」
 気が遠くなる様な激烈な悪臭――実際、気が遠のいた様な、気がして。
「ク。くく、……ククク」
 ゆら。ゆら。状態を揺らし、ぐりんと獲物を睨みつけたその目は狂気。その背には禍々しい光纏の翼。肌を這うのは呪いの様な血色の紋。現れたるは『絶対零度の氷の女王』、修羅姫。
「……覚悟は……出来ておろうな……? ……この……腐れ外道の……腐乱物質が……!」
 殺気の視線は絶対零度。大気すらも戦慄かせ凍て付かせる様な咆哮。地面を踏み締めヘドロが撥ねるのも厭わずに躊躇無く秋姫はヘドロイヤルへ踏み込んだ。
「汚物は……滅びよ……散れ!」
 豪閃。足りぬ。もう一度。何度でも。修羅は斧を振るい続ける。
「風よ、俺の仲間を護ってくれ」
 宗佑はそんな秋姫に守護なる風を纏わせる。しかし、しかし、だ。
(く、くさ……なんだこれ、吐きそうな匂いだな……)
 気持ちの問題と着けたマスクはほぼ意味がなく。やばい。どれぐらいやばいかっていうとマジやばい。臭すぎてもう。もう。ね。ディアボロには色々いるとは聞いていたけれど、まさかこんなもんまでいるなんて。正直、近付きたくない。今すぐ帰って風呂入って寝たい。だがここまで来たからにはやるしかない……!
(……今更やけど……何で俺、こんな依頼受けたんやろ)
 思わず心の中で素である関西弁に戻っちゃう宗佑なのであった。
「確かに臭いが、その程度で俺の刃は曇らない――!」
 闘気に燃える黄金の炎光は猛る竜虎の如く。智美が構えた大鎌には『ゴキブリ戦用』の札を付けられていた。臭いがどうしようもないのはもう哀しいぐらい承知だけれど、せめて。常は朱紐で無造作に束ねる髪も今は編んで頭に巻いてバンダナで覆っている。出来る限り汚れたくない。思いつ、一閃。飛翔する斬撃がディアボロ達を貫いてゆく。
 そんな撃退士へ、ディアボロ達は負けじと攻撃を繰出してくるのだ。悍ましい酸のヘドロ。意識すら刈り取る猛悪臭。
 九朗の役目は、そんなディアボロ達が齎した脅威を片っ端から払拭する事だ。回復、という行為をすれば当然であるが攻撃は出来ない。だが、まあ、いいさ。
「俺の力は護る為の力。攻撃が出来るに越したこたぁねーが、二の次だ!」
 例え閉じられたパンドラの箱に希望が残されてなくとも、己こそが希望となろう。盾となり剣となろう。少年の背後に浮かぶ対極図が、迸る癒しの術と共にくるくる廻る。灯る魔法の光は正に、この戦況を照らし導く灯火であった。

●くさいものにはふたとか
「っ!」
 足場対策をしていないキスカ、そしてギィネシアヌは足元のぬるぬるしたヘドロに脚を取られて思ったように動けない。べしゃりと転んでしまえば体中に臭いモノが着いて嫌な気分になるだけではなく、そこにディアボロの攻撃が飛んでくれば回避もままならず手痛い一撃となってしまう。
 臭い、汚い、キツイ。3K。でもまぁそれはそれで美味しいかな。美味しいと思う事にしよう、とキスカは頬を拭って火器を構え直す。放つ砲撃は仲間の為に、少しでも彼等が戦い易いように。
 しかし――相手が直接的な生物造形をしていない故に薄れがちだが、生物を手にかけるのは心が痛む。否、それ以前にそもそもキスカは戦い自体が好きではないのだ。
「早く終わってくれればいいけど」
 呟き、その為、彼は再度照準を合わせるのだ。
「く、あまり引きつけたくないんだけどにゃ……でもそうも言ってられないにゃね。マジカル♪チャームにゃよ!」
 にゃにゃーん。忍びを捨てて大胆不敵、名乗りあがる宮子が好き勝手に暴れる冥魔達の意識を集めた。となれば攻撃が彼女目掛けて降り注ぐ――が。
「出番だ紅弾クエレブレ! 俺の視界の中で好き勝手やらせはしねぇぜ!」
 空を駆けた大蛇の幻影。紅弾:財宝之守<クリムゾンバレットタイプクエレブレ>が、ディアボロの攻撃に喰らい付きその軌跡を僅かに逸らす。銃を構えたギィネシアヌの得意気なサムズアップ。
 そうしている間に、聖羅の魔法、智美の剣戟に巻き込まれ、ヘドロコブンが全て消え果る。
 残るは親玉のみだが、それさえも最早、撃退士達の怒涛の攻撃にあと一押しといったところだ。
「……さて、と。次は親玉の番ね」
 服や体に汚物が付着するのは耐えられない、と着用したレインコートはずるずるでろでろ。聖羅は最早、気合と根性と『汚物なんかついてない』という自己暗示で頑張っている状態。毅然と言い放つが肩が小さくプルプルしている。が、それを決して表に出さないよう頑張りながら唱えるのは風の呪文だ。
「貴方に風の加護を……!!」
 前衛の仲間に纏わせるは風の障壁。吹き抜ける清らかな風が外の綺麗な空気まで運んでくれれば良い……なんて思いつ、キスカは只管、他が為にと力を揮い続ける。あと少しでこの戦いは終わるのだろう。
「終わったら……そうだね、シャワーを浴びたいな。汚れてるし」
 そう思うだけでも、心の支えになるのなら、きっと戦える。と、思うのだ。
「やっぱりこっちの匂いはどうにもならないにゃね……それなら速攻でケリをつけるしかないにゃ!」
「遊びは御終い……去ね!」
「あーもー! とっとと全部終わせて風呂入りてぇ!」
 ヘドロイヤルへと三方向から疾風怒濤。キュートな肉球グローブ『ネコロケットパンチ』を構えた宮子は壁を駆けて振り被り、冷たい微笑を浮かべた秋姫は情け無用と言わんばかりに斧を振り上げ、九朗もそれに続けと聖なる光を戦斧に纏いて力を込める。
 三撃。びぢゃっと飛び散るヘドロ。完全近接は大変そうだ。思いつ、宗佑はその手に氷点下を生み出した。凍て付く鞭。九朗が風呂だなんて口走るから、自分もすごく入りたくなってきた。嗚呼。風呂。風呂風呂風呂。
「ふッ――!」
 言いかけた。危なかった。冷静に、冷たき一閃。穿つ。そこを。ヘドロに傷付き顔を顰めつつもギィネシアヌは狙う。
「しかしでっけぇぜ……コイツ倒したら中から自転車とかテレビとか出てこねぇかな]
 出てきてもちょっと触るのに勇気が要りそうなのだ。それはさておき、終幕の為。
「派手にイこうぜ! 食い散らかせ、ヒュドラ!」
 引き金を引けば、八の紅蛇より成る螺旋の弾丸が戦場に赤い軌跡を描き出す。紅弾:八岐大蛇<クリムゾンバレットタイプヒュドラ>。
 頬を掠めた獰猛な赤に、アンノウンは一瞬心臓が止まるかと思った。ちょっと薄暗いトンネルに黒い肌、流れ弾が当たってもしょうがない……な! そもそも自分も結構仲間を盾的にしてきたし。ゆ、許してや。
「だが我輩マジメなのだ」
 キリッ。だからそろそろ本気出す。
「セカイニ・ヘイワハ=オトズレナァイの呪文と共に取り出す商品はコチラ! ツルハシです!」
 喰らえ鬱憤の力。構えるツルハシ(大鎌)。
 それに合わせてヘドロイヤルに踏み込んだのは智美だった。これで決める。そう言い放ち、全身のアウルを激しく燃え上がらせる。
 そして、二つの鎌が禍々しい軌跡を描いて交差して――……

●おふろまん
 脅威は去ったが悪臭までは去らなかった。
 ので、智美は火炎放射器で一切を焼却している。残滓も死体もメラメラと。
「悪臭するまま帰ったら迷惑じゃないですか」
 と一言、フゥと一段落着けば服を着替え靴も履き替え。その一方で、『修羅姫』から元に戻った秋姫はキョトンと首を傾げていた。
「あ……あれ……私……何を……?」
 ああなっている時の記憶はない。不思議に思って記憶を辿れば――そうだお風呂に入りたかったんだっけ。
「依頼完了! さっさと帰ってお風呂に入るんだよ! でも、この匂い、なかなかとれなさそうだよ……」
 ショボーンと項垂れ宮子は呟く。臭いがなくなるまで何度も身体を洗いまくったのはまた別のお話。
 同感だ。聖羅も盛大に溜息を吐いて。
「……はぁ。一刻も速く帰って、熱いお風呂に入りたい……」
 全身から放たれる悪臭。一瞬顔を顰めるも、救急箱片手に仲間へ振り返って曰く。
「傷口からばい菌が入らない様、帰ったら直ぐに治療を受けてね?」
 素っ気無くも思いやり。まぁ消毒ぐらいはしてあげるわよ、と。
 しかし、お風呂か。尻尾を揺らしアンノウンは思い返す。普段はシャワーのみだからと、棄棄に入浴剤を返却した思い出を。

『せんせと一緒なら、ちゃんと湯に浸かってバスロマンする』
『いいよロマンしようず』

 そうだ。依頼もちゃんと終わった。お背中流しましょうか!そう思い立って、彼は呪われた様に「風呂」の単語を連呼する仲間達と帰路に着いたのであった。



『了』


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:9人

無念の褌大名・
猫野・宮子(ja0024)

大学部2年5組 女 鬼道忍軍
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
新たなる平和な世界で・
巫 聖羅(ja3916)

大学部4年6組 女 ダアト
魔族(設定)・
ギィネシアヌ(ja5565)

大学部4年290組 女 インフィルトレイター
撃退士・
虎落 九朗(jb0008)

卒業 男 アストラルヴァンガード
微笑みに幸せ咲かせて・
秋姫・フローズン(jb1390)

大学部6年88組 女 インフィルトレイター
撃退士・
音海 宗佑(jb7474)

大学部7年303組 男 アカシックレコーダー:タイプB
久遠ヶ原学園初代大食い王・
Unknown(jb7615)

卒業 男 ナイトウォーカー
戦わないで済むのなら・
キスカ・F(jb7918)

大学部4年227組 男 インフィルトレイター