●いつからシリアスでスタイリッシュでクールでダークでかっこよくてニヒルなシナリオだと錯覚していた……?
黄昏時の紅は、まるで刃に裂かれし白い咽首から吹き上がる処女の鮮血の如く、甘美で妖しく麗しく。
それに、紅 鬼姫(
ja0444)はゆるりと目を細め。
「夕焼けがそれ程に美しいのでしょうか? 鬼姫にはまだ痛い位の日差しですの……早く月夜になって欲しいんですの……」
幾度目かの溜息。されど振り返る先に居た影野 明日香(
jb3801)にはニコッと少女の笑みを向けて。
「明日香お姉様、ご一緒出来て鬼姫、嬉しいですの」
言葉は聖なる刻印を施されつつ。頼りになる技だ、「お手を煩わせて申し訳ないですの」とこうべを垂れる。
「まだ傷は痛むが……多少の援護くらいは出来る、任せてくれ」
とんだ失態をしてしまった、と神凪 宗(
ja0435)は申し訳なさそうに首を振る。それに気にするなと言う様に、ミズカ・カゲツ(
jb5543)は凛然と太刀を抜き放ちつつ。
「魅了の使い手とは、厄介ですね。気を引き締めて事に当たるとしましょう」
悪しき存在を看過する訳にはいかない。光を纏いつ、臨戦態勢。
(ネタバレ:スタイリッシュここまで)
「くっ、何て無駄にムーディーな……!」
ロマンティックトワイライト。うつくしい。醸し出されし得も言われぬ雰囲気に虎落 九朗(
jb0008)はゴクリと息を飲んだ。仲間の言った通り、なんか、なんか聖なる刻印とか特殊抵抗上げても大変な事になってしまいそうな気がする。うむ、その通りだ。だってこれアホ依頼だもん。はじけなきゃアレやん、ご飯の無い卵かけご飯やん。
そんなこんなでロマンティックが止まらない事にならないよう、九朗は携帯音楽プレイヤーの音量MAX。ヘビメタズドンズドン。テラ音漏れ。
その直後である。
デデン!
ディアボロ『ギガンティック豆腐マン』が現れた。
圧倒的生足感。
只 ←具体的に言うとこんな感じだ。
「……あれがディアボロ、ですか。ふむ。世界は広い、と言った所でしょうか……」
「うっわ……クッソきめぇ」
真顔。キリッとしながらミズカが言い、寧ろリアクションに困るといった反射運動でエーツィル(
jb4041)が神秘的な見た目にそぐわぬ言葉を口にした。
「ダンボール製のG■ND■Mみたいなものと思えば良い。或いは白いダンボールの蛇の傭兵……中の人がいるかもしれない」
ふむ、と全く動じず鴉乃宮 歌音(
ja0427)は淡々と言う。因みにニスロク給仕服。たぶん、メイド服なんだと思うよ。
「それは兎も角どう調理しようか。潰して味付けて焼いてハンバーグにでも? 丁度夕飯前だし、ディナータイムに間に合うように手早くいこうか」
「あんなきめぇの食っちゃ駄目ー! 背徳以前にゲロマズに決まってますわ!」
思わずエーツィルが振り返って突っ込んだ。冗句だよ、と歌音は『何食わぬ』顔。流石に喰う者はいないだろう、と。
「んー、折角相手もふざけているいるのだから私も楽しもうかしらねェ……」
一方では黒百合(
ja0422)がフラグを立て、
「待たせたな全世界一億万兆人のファンのみんな。俺の出陣だぜ……!
フラグ臭をプンプンさせながら無駄にスタイリッシュなポーズでズダァムと赤坂白秋(
ja7030)が登場。フッとクールに微笑み一つ。
「なに、あんま調子に乗るなって? 任せろよ。この俺がよもや豆腐に発情するはずもねえさ」
何故なら俺は人間であり――豆腐じゃねえんだからなっ!!(デデェン
●諦めろ、私は既にMSコメント欄にて『アホ依頼』との宣言を行った。
「あ、あれ、おかしいな、豆腐が美少女に見えるよ……?」
↑の3秒後、白秋は頬をポッと染めていた。
「ええええええええ魅了されるのクッソ早いですわね!?」
これには流石のエーツィルさんも苦笑いを通り越して愕然である。
でも白秋は愕然としたまま2歩、3歩と後退っている。ギガンティック豆腐マンをガン見したまま。
「な、何だよお前、そんな、微笑みながら近づいて…… ままま、まさか!? 俺に、その、こ、こっ、こく――こここ告はぐう」
豆腐の何かよく分かんないピンク色のビームばしゅうー。白秋は幸せそうな顔をしながら、ぶっ飛んで行った……。
「無茶しやがってですの……そもそもわたくしお豆腐よりもプリン派ですの、ファ■■ン野郎は速やかに撲滅、なのですわ」
やれやれと溜息を吐いてエーツィルはギガンティック豆腐マンへ向き直る。そのままスマホをポチっとな。流れ出すのは180秒クッキングのあれだ。テレレッテッテッテッテーだ。ロマンティックトワイライトなんてギタギタにブチ壊してやりますわ。
「3分クッキングの始まり〜なのですわ。まずはシンプルに焼き豆腐、ですわ」
指先にジャキシンと構える召炎霊符。因みにマジ炎はアカシックレコーダーのアレなのでこれは本当の火ではないけれどこまけぇことはいいんだよ!ですわ !
なのだったが! だがしかし! なまあしみわくの畑の肉! なんかよくわかんねぇけど豆腐のナマアシにドキがムネムネ!
「こ……この気持ちは一体……!?」
頬がポッと赤く染まる。何だろう、目が逸らせない。豆腐の癖に。豆腐の癖に。
そうだこれは豆腐だ! なんかきめぇ豆腐だ!
「うぐぐぐぐ……カラメルが……カラメルが足りません、わよ!」
ぎりぎりぎりぎり。必死に思い浮かべるのは、とろーり濃厚なおいしいプリン。そう、エーツィルは大事にとっておいたプリンをいけ好かない上司に勝手に食われたことでついカッとなって堕天する程度にはプリン美味しいですなのだ。後悔はしていない。
うぎぎぎぎっと抵抗しながら、繰り出す攻撃。
「お豆腐は嫌いではありませんの、ですが死体であるのならばもっと美しくあるべきですの……どうせならばもっと残酷で惨たらしく麗しい死体となって鬼姫の前に横たわって欲しいですの」
くすくす。今よりもっと美しい死体にして差し上げますの。鬼姫は哂う。カッコイイ。カッコイイぞ。でもこれ悲しいけどアホ依頼なのよね。故にフリーズしている。あんなクソ豆腐に胸がドキッとしちゃった自分自身にドン引きしてどうしようもない状況になっている。目からハイライトが消えている。
よくも、と言わんばかりにギガンティック豆腐マンを睨みつけたのは明日香だ。
「艶かしいと言うより生々しいわね……気持ち悪い」
踏み込む。振り上げる片刃の直刀。
「生足がなんですって? 見てて不快なのよ! 上半身とのバランスを考えなさい! でもそんなところが好きっ……!」
ハッ!? 今、自分はなんと!?
「シリアスがどんどんしりあす()になっている」
あらまぁと肩を竦める歌音、苦笑を浮かべるのは黒百合。
「はァ……仕方がないわねェ……目覚めろパンチィィィ、正気に戻れキックゥゥゥ♪」
飛び出した黒百合が仲間達を正気に戻す為にぱんちきーっく。勿論手加減してるよ! 黒百合さんはやさしいんだよ! マジで! 抉り込む様な攻撃だけど! 敵は味方にあり!
「豆腐は足が早いのだよね」
火炎放射器でヒャッハーしながら歌音が言う。マッハ的な意味ではなく、腐り易い的な意味で。料理用語って『うおォン』しか思い付かない。
しかし脚技が来るかと思いきやビームだった。あと部位狙いって難しい。ヘッドショットは易々と決まらないから凄いものと同じ事。そしてギガンティック豆腐マンは何気に華麗に避けやがる。そして魅了の元はなまあしみわくのだけではない。全体的。ふいんき。こまけぇこたぁきにするな。考えるな、感じろ。
「目障りな脚ですの……」
鬼姫は思わずチッと舌打ちを一つ。へし折ってしまいたい。色々と。イライラとドキドキがないまぜになった非常に不愉快な気持ちを抱きつ刀を構え、稲妻の如く突撃攻撃を仕掛けようとした――が!
「待ってくれ! こいつは、こいつは俺が小さい頃隣に住んでいて(中略)高校まで毎朝お弁当を作ってくれて、でも俺はそんなあいつが煩わしくて(中略)――生き別れてしまった、豆腐なんだ!!」
魅了されまくりの白秋が叫ぶ。だが、その横っ面に!
「悪を滅ぼす光となれ! クリアラァアアアアアアアアアアアアアンス!!!」
凄い熱血的なアトモスフィアを纏う九朗のクリアランス(物理)が炸☆裂! これは熱血雰囲気によってムーディな雰囲気に流されず的な巧妙な作戦なのである!
「蹴りはともかくこいつの角に頭ぶつけて死んだら全世界の笑い者だよな……気をつけよう」
因みに前述のヘビメタ作戦によりものっそい音漏れなので九朗は何も聞こえていない。まぁいい。喰らえ正義の審判の鎖! ドカッ! バキッ!
「ぶっ潰してやる! 正義のレイジングアタックをぶち込んでやる!!」
おんどりゃーとハルバードを振り上げる。その時九朗に衝撃走る!
そういや『豆腐マン』なんだよな……生前ってそっち系だったのか、まさか……?
ウワァッ……となっている九朗。その肩に、白秋はぽん……と手を置いて。
「あまり、そいつを責めるな。男ってのは、時に馬鹿な生き物なんだよ……」
と、目を逸らしたのであった。
「ふん縛れば水抜きにもなりますわよね」
異界の呼び手。エーツィルがギガンティック豆腐マンを指差せば、無数の手がお豆腐を鷲掴み。
その間に放たれたのは歌音が放つ黄土色のスライム状アウルだ。幻視融解『科学者』。纏うは狂気。
「ディアボロ退治と参りましょう」
畳みかける様にミズカが鋭く間合いを詰める。気合一閃、疾風の一撃。それにしても面妖な姿だ。動揺しないように気をつけなければ。この時間帯なのも何故だろう。
「いえ、気にしない方が良いのでしょうね」
魅了の所為で狐耳を嬉しそう〜にぱたぱたぱたぱたさせながら。
そんなこんなの一方で。
「はい、全国百万人の視聴者の皆様ァ、黒百合クッキングの時間で御座いますゥ。本日は活きのいい豆腐のディアボロさんを調理してみたいと思いますゥ♪
ゲストで久遠学園、一の豆腐評論家、豆腐と呼ばれ続けて30年の赤坂白秋さんをお呼び致しましたァ♪」
「誰が豆腐だ、誰が」
「はいィ、モニターのカメラマン、ちゃんと写して下さいねェ。これからわくわくドキドキクッキングタイムを始めるんですからねェ?」
テテーンと笑顔の黒百合&若干キレ気味の白秋。くすくす。笑って、黒百合は印を結び束縛の影をギガンティック豆腐マンへと討ち放った。ぐるぐる。今がチャンスとエーツィルが一歩、踏み込んで。
「暑い時期には冷奴、と伺いましたの。詳しくは知りませんが、とりま冷やせばよろしいのでしょう?」
掌に生み出すは煌めく氷の錐。それを撃ち放てば、夕焼けの赤にキラキラ光る一直線が豆腐を穿った。
「豆腐ハ角ニ頭ブツケテ滅シ上ガレ」
怒涛の猛攻。幻視天啓『巫女』。『破邪の巫女』を纏った歌音が、白亜を纏う銃の引き金を引いた。聖なる一撃。それは強烈に悪魔を追い詰める。
「ナメんじゃねえよ、このイソフラボン野郎……魅了、魅了の一つ覚えじゃ、結局俺達を倒せやしねえ……」
ゆらり。半壊のギガンティック豆腐マンの前に立ち塞がる、白秋。ズゴゴゴゴ。目がマジ。
「そして何よりも……! 俺はなッ、生脚よりおっぱい派なんだよ――!!」
突然のカミングアウト。同時に向ける拳銃一つ。そこに大量の聖なるアウルを注ぎ込んで。
「喰らえ必殺、イケメンシャイニング――!!」
※ただのスターショットです。
ズドン。零距離で放たれたそれは、白秋の怒りを孕み――ギガンティック豆腐マンを爆ぜ散らせた。パァン。
●プリン食べたくなってきた
爆散したギガンティック豆腐マンの欠片が皆にべしゃべしゃのずんどろどんに飛び散っているなう。
「これにて黒百合クッキングの御時間は終了よォ。ではァ。次回もサービスゥ、サービスゥ♪」
元気一杯な黒百合を除き、大多数が賢者タイム。いやなたたかいだったね。
「……クッキングとは言いましたけど、さすがに食欲は沸きませんわね」
ポツリ、と呟いたエーツィル。ミズカは「ふむ」と冷静に一つ頷く。
「何とか無事に倒し切れましたか。これはこれで良い経験だったかもしれませんね」
少なくとも、これから出会う奇奇怪怪な姿の敵に動揺せずに済みそうだ、と。
「しかし、あれだな。豆腐料理食いたくなってきた」
疲れた顔をしながら九朗が言う。この辺、どっか上手い湯豆腐の食える店とかねーかな?
「焼き豆腐でもいいし、いっそ麻婆豆腐なんかもいいよなぁ……」
言い終わると同時に、お腹がぐぅ。
そんな音を聴きながら、歌音は思った。そうだ、報告ついでに棄棄先生に豆腐ハンバーグでも提供しようか。勿論、『人間組み換え作物は使用しておりません』のやつを。
『了』