●THE遠足
転移装置の蒼の後、広い広い原っぱの上。
「遠足っ遠足♪」
「遠足♪ 遠足♪ 」
「遠足っ遠足っ、楽しみです!」
手を取り合ってわぁいとピョンコ、るんたったーと仲良く一緒に飛び跳ねたのは右から順にシオン=シィン(
jb4056)、黒猫忍者な着ぐるみ姿なカーディス=キャットフィールド(
ja7927)、オルタ・サンシトゥ(
jb2790)。今日は楽しい遠足だ。雨も降らずに嬉しいな♪
……じゃなくて。オルタは笑顔のまま顔を青くする。
「って、これが遠足ですか!? ボクの想像と全然違いますよーっ」
現在は夜。煌々と月が見下ろすそこは戦場なのだ――大量のディアボロと戦う為の。オルタの想像した、こう、花咲き乱れる原っぱでキャッキャウフフなアレではない。
しかし対照的にシオンは嬉しそうに、悪魔羽をぱたぱたさせつつ生徒の様子を確認していた棄棄へと元気一杯笑顔満面に手を振った。
「戦い戦い! せんせー! ボク、出来損ないアクマだけどがんばるんだよー!」
「おうシオン、頑張れよ! なぁに、『俺様自慢の』生徒であるお前なら何だって出来るさ」
もふもふなでなで。
「相変わらずハードな遠足ですね……」
「……遠足の意味が広域過ぎる」
小さく肩を竦める夜来野 遥久(
ja6843)に、
苦笑を漏らす長幡 陽悠(
jb1350)。
「遠足もこの学園らしいと言いますか……参加する以上は頑張りましょう」
久遠 冴弥(
jb0754)の言う通りだ。やるからには、と一同は表情を引き締める。
「夜の大人数遠足も刺激的やなー」
月を見上げる小野友真(
ja6901)が言う。ホホウと棄棄がニヤリと笑い、
「『夜の』ってつけたらどんな単語でもちょっとせくしーに聞こえる不思議」
「ちょ、センセ!?」
「夜のおのゆうま」
「センセーーー!?」
ワチョワチョ。そんな教師の前に、ふらりと現れたのはソーニャ(
jb2649)である。その袖をくいと引いて、
「遠足……空中で遠足って、『足』使ってないでしょ」
「心という名の足を使うのさ」
「三千世界の鴉を殺す? それって朝寝をするためでしょ。先生がボクといっしょに朝寝をしたいって言うならいいよ」
「おぉ、嬉しいこと言ってくれるじゃないの。それじゃあ先生は応援に全力を尽くすとしよう!」
無理なくお前らしくな、と教師は笑って彼女の頭を優しく撫でた。
銘々。その中で、七種 戒(
ja1267)は蒼瞳を細める。
「懐かしの遠足だな……」
あの時よりは強くなったと思う。強くなった筈だ。例え階段一段分だろうが、少しぐらいは。緊張? 私らしくない。深呼吸を一つ。よっしゃ。己の両頬をパチンと叩いて喝を入れる。
「遠足は無事に帰るまでが遠足と伺いました。ならば、欠員なきように参りましょうか」
雷帝霊符を手に静かに言い放つユーノ(
jb3004)の目には、明鏡止水の戦意。よし、と意気込む栗原 ひなこ(
ja3001)の決意もまた盾の如く堅かった。戦闘任務は未だに慣れないけれど、仲間の足を引っ張るのはごめんだ。
「絶対みんなを傷だらけにはさせないんだからっ!」
勿論、大事な人達を悲しませない為に自分も絶対に倒れない。なんて、『甘い』だろうか。全てを護る。その難しさは重々承知。けれど、それでも。
「あたしの出来る全てで頑張るよっ」
「うん! 後でおいしーおべんと、食べるためにもがんばろー!」
仲間の緊張を適度に解す為にもと、青空・アルベール(
ja0732)は明るい声でエイエイオー。自分達は一人じゃない。
尤も、敵も一人じゃないのだが……
「うわっ……ここの敵、多すぎ……?」
「ちっ……こいつぁなかなかにヘヴィな状況だ」
両手で口を覆ったのはオミーこと加倉 一臣(
ja5823)、無駄にストリートの堕天使っぽいポーズで言い放ったのはメンナクこと命図 泣留男(
jb4611)。
「だが! 伊達ワルは仲間を見捨てないんだぜ!」
「流石メンナク! そこに麻痺して憧れる!」
「センセ、俺のシャツをわさわさしながらドヤ顔するのはドウシテナノ……!」
口を覆っていたオミーの両手が、顔全体を覆って――絶望ポーズ!
「敵の数も多いようですから、ここは共同して当たるのが理想ですね。僕も脚を引っ張らないように頑張りますね」
よろしくお願いします、と楊 礼信(
jb3855)の言葉に。『人』という字を掌に書いては飲み書いては飲みをしていた吉岡 千鶴(
ja0687)は思わず「はわっ」と肩を跳ねさせる。
「こ、こちらこそっ……!」
まだまだ経験が浅い為か、けれども『困った人を助けたい』という気持ちは人一倍。傍らでは「頑張りましょうね」とエリシア・パーシヴァル(
jb4001)が微笑み、杉 桜一郎(
jb0811)もニコリと仲間へ笑いかけた。
「コレだけの手数同士のカチ当たり戦なぞ、随分久しぶりな気もしますの」
平和な一方、相棒のソウドオフショットガンでくるりと回しつ十八 九十七(
ja4233)の黒い目は彼方を見澄ます。なんとも、まぁ、弾のブチ込み甲斐もあるというもので。どこ撃っても当たりそうじゃないですかィ。当て放題の入れ食い踊り食い? なんとなんとなんとまぁ。
「……ひょっとしたら、ひょっとしたら九十七ちゃん、もウ我慢出来ないってヤツかもですの」
ストールに埋め隠した口唇を、密かにギラリと吊り上げた。
「この人数でダアト俺一人か……。範囲火力としては頑張らんとな」
「いつ殺るの? 今でしょ!」
「わかったわかった」
それにしても脅威のインフィル率。如月 敦志(
ja0941)の苦笑が、月居 愁也(
ja6837)のキリッと顔に大きくなる。それにしても君ら、流行に敏感なナウなヤングね。
と、そこへ。
「『久遠ヶ原の毒りんご姉妹』華麗に参上! ですわ」
フラッシュエッジを鮮やかに構え、クリスティーナ アップルトン(
ja9941)推参。何故かは知らないが、同じ『クリスティーナ』であるクリスティーナ・カーティスも剣を構えて左右対称的にポーズを決めている。ややこしいので前者はアップルトン、後者はカーティスとしますね。猫のカーディスとは間違えちゃ駄目だぞ!
「アダム、準備はいいか?」
「別に。……そっちは、クリフ?」
「まぁ、それなりに」
視線を交わしたのは悪魔と天使、クリフ・ロジャーズ(
jb2560)とアダム(
jb2614)。
さて。
撃退士達は光纏しつつ正面を向いた。
その先では、黒い影の形をしたディアボロが列を成し、列を成し。不気味に蠢き威嚇をし。
「では、諸君」
後方で生徒を見護る棄棄が片手を掲げた。
「武運を祈る。――総員突撃!」
轟ッ。と、鬨の声が轟き渡る――
●ブリッツクリーク!
「ひなこ、前は頼むが無理はするなよ? 一臣、愁也、そっちの奴等は任せた」
「うん、ありがと。敦志くんも気をつけてねっ」
「おー敦志、そっちも気合い入れろよ!」
「お任せあそばせ、ってね。範囲は頼んだぜ!」
魔法書を広げる敦志の言葉に、頷きつ盾を構えたのはひなこ。紅炎の神秘を纏いつ闘気を解放させたのは愁也。アサルトライフルを手にサムズアップで応えたのは一臣。
健闘を祈る。例え隣同士に居なくとも、心と絆は常に一つ。
撃退士達の行動は統率のとれたものであった。作戦通り三つの班に分かれ、状況を開始する。
――左翼、A班。
「さてさて」
オルタは戦闘へと気持ちを切り替える。その目と髪は鮮やかな真紅。刻印の腕輪が飾られた手を中空に翳す。
「来て、リード!」
召喚、ストレイシオン。ブリゲードと名付けられた暗銀色の賢龍が高く声を響かせた。
その咆哮を、背中で聞きつつ。ケラケラケラ、無邪気100%で笑うシオンが巨大な戦斧を引きずり地面を抉りながら踊る様に躍り出る。温厚な気質、されど戦闘は――温厚。温厚だ。温厚だから温厚なのだ。慈悲深く一瞬で終わらせてくれるギロチン台の様に。
「あはははっ。いっけー!」
自分目掛けてワラワラと襲い掛かって来るアーミーブラックへ指を突き付ければ、ワラワラ。笑々。Laus:puritas。現れるのは影絵のような小さな子供の腕。見境無しに、手当たり次第に、数多の腕がそれぞれ付けられた五本の指が爪が、掻き毟る。毟る毟る。がりがりがりがり。
「けらけらけらけらけら。けたけたけたけたけた」
無邪気故に邪悪なのか、邪悪故に無邪気なのか?
「派手さなら、九十七ちゃんも負けてはいませんのでしてよ?」
九十七は愛銃を手に突撃しかけつ、グレネード弾をセット。
「ブチ喰らってブチ撒けろや真っ黒野郎が! 要は死ね!!!」
おまえのめだまをほじくるぞ。ポンッ。軽い発射音。きつめの放物線。そして。BOOOOM! 凄まじくド派手に大爆発。爆炎と爆風。因みにそれで終わりかと思ったか? 残念! 弾切れまで撃ちまくるにきまってんだろォオオが! ヒャッハー。笑う九十七と笑う銃。
「……うわぁえげつない!」
そんな前衛二人の様子に一臣は思わず『ほえみ』を発動させていた。ドッカンドッカン爆発がおこり、がりがりぎりぎり掻き毟る手が荒れ狂う。あの二人が敵じゃなくて良かった、いやマジで。割とマジで。
「派手な花火っぽい……て言うてる場合やなく」
友真も自ツッコミで気持ちを切り替え、刹那のアイコンタクト。二人の指を飾る揃いのリングが、二人が真っ直ぐ構える銃が、キラリと光った。
「「――そこだッ!!」」
引き金を引く。精密に、放たれた弾丸は仲間を穿つ事なく前衛の隙間を通り抜け、撃退士の火力制圧を耐えたディアボロへと突き刺さる。頭部と思しき場所を吹っ飛ばす。
「止めは任せろー!」
友真はグッとガッツポーズを。言うてみたかったんです。なんて。
後方火力支援。前方にも心強い仲間達。だから大丈夫だ緊張するな怖ろしくはない筈だと千鶴は己に言い聞かせる。彼女は熟練の戦士でも武道の免許皆伝でも秘密組織に教育された殺戮人形でもない、年齢相応の『普通の女の子』なのだ。
「半人前だけど……せめて自分に与えられた役割くらいは……っ」
構える盾で、アーミーブラックが振り下ろした一撃を受け止める。だが、ガツンと重い衝撃は予想以上で。
「きゃっ!?」
そのまま弾かれ、思わず尻餅を突いてしまった。しかし千鶴に痛がっている暇もスカートに付いた土を払い落す暇も、無い。360度遍く戦場。急いで慌てて、転がる様に追撃を躱し立ち上がると再び盾を構えた。
「負けないんだから……!」
意志を秘める瞳は、凛然。
――右翼、C班。
よろしくな、と陽悠は仲間に伝えてから。陽悠は敵の群を見澄ました。
「穿て、ストレイシオン!」
瞳に金の光を宿し、陽悠は友人である賢龍に指示を送る。任せてくれと言わんばかりに一吼えしたストレイシオンがイカズチの魔法を勢い良く発射した。駆ける電撃――それと共に、魔法陣より放たれた彗星が雨の如く敵群へと降り注ぐ。轟音が響く。
だが、アーミーブラックは数に任せて土煙の中より尚も突撃を仕掛けてくる。
「それ以上は通さねーぞ、っとォ!」
躍り出る愁也。アーミーブラックの懐に素早く潜り込み、ドンと踏み込むと同時に気を込めた掌打を叩き込む。吹き飛ばす。
「よっしゃぁどっからでもかかってこい! 片っ端からブッ飛ばしてやるよ!」
拳同士を搗ち合わせ、闘志を燃やして。護る為に、攻める。それが彼の戦い方。彼に出来る事の中で、最も効率のいい手段。
「往くぞー遥久!」
「……頑張る事は結構だが、後半で疲弊しても知らんぞ」
傍らの彼をちらと横目で見た目付役は浅く息を吐いた。どうせ「無茶はするな」と言っても「分かってる」と言葉だけの笑顔を返すだろう。尤も、その彼が無茶をしたり疲弊したりしない為に今ここに自分は居るのだが。
彼が矛なら、己は盾。二つが合わされば恐れるものなど何もない。電光を纏う右手を静かに構える。
「七種、合わせていくぞ!」
「はいなー、かわいこちゃんの言う事なら喜んでっ」
カーティスが後方の戒へと声を張った。天使は剣を構え、人間はルキフグスの書を構える。
「彗星よ、我が名の下に遍く砕け!」
「ド派手にいくぜぇ!」
練り上げる魔力。魔法構築。頭上からは彗星が降り注ぎ、地上では黒いカードが爆発を引き起こす。
爆風と土煙。
それに紛れ、揺らめく影一つ。
身に纏うは夜に紛れる黒。気配を殺し、敵の頭上へくるんと飛び上がるカーディスの手には影より生み出した棒手裏剣が対象に握られていた。
「にゃお」
意訳:死ね。
炸裂させるは影手裏剣・烈。苛烈に執拗に、頭上という死角より手裏剣を投げて投げて投げまくる。奇麗な薔薇には棘がある。可愛い猫には爪がある。とびきり痛くて鋭いのがな!
同じく密やかに、前衛の影より青空は施条銃を構える。仲間が攻撃をした個体を優先し、定める照準。引き金を引く。銃声。次だ。前衛の仲間が安心して戦えるように。
「どんどんいこー! 支援は任せて!」
風の様な青光を纏い、声で弾丸で彼は仲間を応援する。
銃声。
「遠足。ともかく歩けばいいんだね。全ての障害を排除して進むんだね」
ならば前進あるのみ。とにかく前進。ソーニャはライフルを腰だめに撃ちまくりつつ歩を進める。銃火が走る。硝煙交じりの戦風に結んだ髪が緩やかに靡く。
退路など既に無い。ならば進む他に道は無く。倒し屠り潰し穿ち踏み潰すしか道は無く。火力、圧力、面による制圧。アーミーブラックが放つ射撃が頬を掠めた。血が垂れた。よろしいならば戦争だ。蹂躙されながら蹂躙を。蹂躙され尽されたくなくば蹂躙し尽くすのみ。
「それが遠足<エクストリーム>」
リロードアンドショット。リロードアンドショット。
――中央、B班。
右翼左翼に比べ、敵正面の中央班は当然ながら敵も多い。
だが、それで良い。纏めて焼き潰してやる。
「一発目行くぜ! 生き残った奴は確固撃破頼む!」
敦志は魔法書に手を翳し、詠唱を行う。浮かび上がるは紅蓮の魔法陣、構築するは劫火の業。
「合わせます!」
それと共に桜一郎も火の印を結び術式を練り上げる。
「燃え散れッ!」
「來來炎陣!」
ダアトの西洋魔術、陰陽師の東洋魔術。系統は違えど、作り出したのは巨大な火球。前者は唸りを上げて落ち炸裂し、敵を飲み込み火炎を散らす。後者は矢の如く戦場を駆け、その軌道に居た者を悉く焼き払う。
そのほぼ同刻。
「礼信くん、あたし達もいくよ!」
「はい!」
同じく魔法詠唱を始めていたのはひなこと礼信。二人のアストラルヴァンガードの口唇は星を刻み、火炎の残滓が残るそこへと大量の彗星を雨霰と降り注がせた。
「天叢雲」
冴弥は召喚したストレイシオンの無機的な鱗にそっと手を触れ、もう片方の手は敵を指差した。態々あれをしろこれをしろと言わずとも二人の心は通じ合っている。頷いた賢龍が僅かに首を擡げ――そして振り下ろすと同時に口を開いた。一直線に吐き出すのは稲妻の光線。轟き奔る閃光。先ずは少しでも数減らしを。
「白き光<サンクチュアリ>に照らされてこそ、闇<アンダーグラウンド>は一より層黒くなる!」
サンダーボルトの光にメンナクはドヤァとカッコツケてよくわかんないことを言いつつも魔法書を構えて攻撃態勢に入った。
「喰らって吹き飛べ……ブラックノワールの輝きを!」
繰り出す光の羽根の弾幕は、仲間の盛大な魔法を掻い潜って来たアーミーブラックへ。
「さぁ、私の華麗な剣技に酔いしれなさい!」
金襴の髪を靡かせて、アップルトンは雷光の如く剣を振るう。彼女は負けず嫌いだ。そして超絶自信家だ。おーほほほと高笑いを響かせて、進撃。進撃。切り開く。
「それっぽっちでこの『久遠ヶ原の毒りんご姉妹』が足を止めるとお思い? 笑止千万ですわッ!」
進め、久遠ヶ原の毒りんご姉妹。負けるな、久遠ヶ原の毒りんご姉妹。
襲い来る攻撃は盾で防ぎ、襲い来る敵は剣で切り裂き、攻勢を続ける。
仲間が範囲攻撃で纏めて攻撃した敵を狙う。確実にトドメを刺す。その戦法により、自爆特攻の被害は軽微なものに留まっていた。
例え傷を負ったとしても。それぞれの班にバランス良く振り分けられた回復手達がその傷を立ち所に癒し、支え、戦う仲間の背中を押した。
アーミーブラックがまた一体、粉砕される。
そんな中、その一方。
――遊撃部隊。
「う、っぐ」
シールドを突き破って放たれた影の矢がアダムの肩口に突き刺さった。走る痛みに顔を顰める。
「アダム!」
「別にこんなの、全然痛くもなんともないっ」
心配の声を発したクリフへ強がりを張った。その傍らでは白磁の肌を鮮紅に染めたユーノが肩を弾ませ息をしている。
三人の視線の先には、配下の影達を従えたジェネラルダークネス――アダムとクリフとユーノは翼を広げ、先んじてジェネラルダークネスの牽制に向かったのだが。
……甘かった。
先ず道中だ。空を飛んでショートカットする彼等を敵は目敏く見つけ、射撃攻撃によって牽制を行ってきた。それでも何とか辿り着いたものの――ジェネラルダークネスは強い。従えている仲間の数が多いので尚更。その上、周囲には守る様に兵隊達。
つまり、今、彼等はたった三人で孤立無援状態で『一番強い敵』に立ち向かっているという状況であった。
「……流石に鬱陶しかったかな?」
あちゃー、とクリフは自嘲じみた笑みを漏らす。ま、そう思われないと牽制にならないんだけどね。鉄臭いの味がする唾を吐き捨てる。
(厄介だな……)
ジェネラルダークネスが放った一撃に裂かれた腹がじくりと痛む。抑えた手は真っ赤でない所が無い。血が、血が止まらない。失血で頭がぼーっとする。
そんな視界、クリフの目の前に白い翼。
「そ、それ以上やらせないからな……!」
涙目になって、血を流して、それでも手を広げてクリフを護らんとアダムはディアボロへと立ちはだかる。だいじなかわいいともだち。彼が傷付く事は、自分が傷つくことよりも痛くて辛くて涙が出る。
「俺のともだちをいじめるやつは許さないんだからな!」
引き絞り、放つ一矢。それはジェネラルダークネスを庇ったアーミーブラックに突き刺さる。
「いつ誰が誰にいじめられてたって?」
クリフは苦笑を浮かべた。お前だってズタボロの癖に、と。
「誰一人、墜落なんてさせないよ」
悪魔は掌をディアボロ達へ向けた。瞬間、咲き乱れるは火炎の花。
「往きなさい」
それと同時、ユーノは烙雷<ルーメン・フェルム>を発動させた。繰り出した雷の柱は強烈な電気を迸らせつつ前進し、邪魔な敵を薙ぎ払う。
確かにジェネラルダークネスを守るアーミーブラックの数は減っていた。だが。黒いそれが空中の天魔三人へ掌を向ける。
遊撃部隊の状況は劣勢。いつ落ちてもおかしくはない。悔しいが、せめて倒れないようにする事だけで精一杯だった。
だが、ジェネラルダークネスの気を引く事には成功したと言えるだろう。現に、ジェネラルダークネスが注目効果の技を使って他の撃退士を誘き寄せる様な行動はとらなかった。取る暇を奪ったとも言えるだろう。
撃退士達はアーミーブラックを押し退け進んでいた。半数を片付けた頃か、彼らの損害は少なく順調であったが――ここで戦況に変化が訪れる。
「ようやくおでましって訳ですの? ハッ、上等」
猛烈な三連射を終えたばかりの散弾銃の口から立ち上る硝煙。その彼方に、九十七は見た。キャプテンシャドウが突撃を始めたのを。右翼左翼へ一体ずつ、中央へは二体。それらが振り上げた手を下ろせば闇の塊が唸りを上げて飛来した。
「! リード、皆を護って!」
オルタの命にストレイシオンが翼を広げて盾になった。炸裂する闇が衝撃を与える。呻く賢龍。オルタの身体にもズキリと伝わる感覚が、その攻撃の重さを物語っていた。
「ありがとう、ストレイシオン。そのまま皆を全力で護ってくれ」
陽悠もオルタの賢龍同様に盾となってくれた己が友人を一撫で。ストレイシオンの防御効果。他の仲間達はどうかと見渡せば、銘々に盾などを構えて凌いだようだ。幸い倒れた者は見当たらない。
「今、治しますっ!」
「誰一人倒れさせたりしない!」
「俺の輝きで、お前を身も心もとろかせてやるぜ!」
「我々が治療します。皆様はそのまま進撃を」
千鶴、ひなこ、メンナク、遥久。そこに礼信、カーティスも加わり、アストラルヴァンガード達が唱える詠唱が癒しの光となって降り注いだ。数多の光が降り注ぐその様は、まるで星が降る様な。奇跡を目撃したかのような錯覚にすら襲われる。いや、実際に奇跡なのだろう。痛みが傷が、消えてゆく。
その最中。回復を行う彼等を――とりわけひなこを護る様に、敦志は敵へ魔弾を放ち支援する。
「援護はする! 心配せずに全力で戦え!」
一瞬、視線が合った。ひなこの指を飾る指輪がキラリと光った。言葉は無くとも――二人は薄笑み、頷き合う。
「うりゃうりゃー! あははーっ!」
最前線のシオンは戦斧を振り回し、向かってくるアーミーブラックを磨り潰してゆく。薙ぎ払う。同じ前線にて、盾を構え文字通り『仲間の盾』となっていた愁也は仲間を心配させまいと親指を立てた。
「大丈夫、それなりに頑丈!」
「それなりって、どれぐらい?」
コトンと首を傾げてソーニャが問う。その間にもオープンファイア。存分に遠足中。遠足。
「人間の子供たちが楽しみにしてるって言うけど、人間の子供ってすごいんだね」
これだけの数、こんなにも騒乱。ちらりと、ソーニャは生徒達の遥か後ろにて腕組みをしている棄棄を見遣った。意識を失ってしまったエリシアを傍に寝かし護りつ、嬉しそ〜に楽しそ〜に生徒達へ声援を送っている教師。
「……まぁ、納得」
ずどどどどん。
それは九十七、青空、戒、一臣、友真の回避射撃の銃声。ビーンバッグ弾による面支援、青い衝撃波の弾丸は卯の花腐し。敵が勢い付くのを防ぎ殺ぐ。
体勢を立て直し、撃退士達は作戦通りに行動を続ける。
そして――遂にアーミーブラックの半数を撃破して。
「良し、作戦第二段階発動! アップルトン、冴弥、オルタ、陽悠、千鶴、ソーニャ、杉、泣留男は俺とアーミーブラック殲滅を!」
敦志が仲間へ声を張り上げ、
「七種、加倉、小野、ユーノ、アルベール、栗原、カーディスは私とキャプテンシャドウを倒すぞ! 最後まで油断するな!」
カーティスが剣を天に続き、
「夜来野さん月居さんクリフさんアダムさんシオンさん楊さんは九十七ちゃんとジェネラルダークネスへ――正義の為に総員突撃ィイイ!!!」
九十七が馬鹿笑いを掲げながら愛銃を構えて強く地を蹴った。
手際良く、牽制をしながら大移動。撃退士達は今度は三つの班に分かれる。
「ふふふ、さぁここからが本番! 一気呵成に攻めますわよ! 突撃ーーッ」
残るアーミーブラックを掃討すべく、フラッシュエッジを前方に突き付けアップルトンは走り出す。向こうも吶喊を仕掛けてくる。同時に振り下ろした。搗ち合う攻撃。鍔迫り合い。その間に、続けてやって来たアーミーブラックが彼女を取り囲み始めた――が、好都合。ニヤリと不敵な笑み。
ヒュルンと剣を振り上げた。その刀身が光を纏う。
「散りゆく星の輝きを御覧なさい。スターダスト・イリュージョン!!」
星屑幻想。振り下ろせばキラキラと幻想的な煌めきが流星群となって放たれる。黒い影を薙ぎ倒す。決まった。渾身の必殺技に、したり顔。だがまだまだ。もう一発!
それに続けと、オルタ、陽悠、冴弥のバハムートテイマー三人はアイコンタクトを交わして。
「リード、頼みます!」
「ストレイシオンッ」
「天叢雲」
それぞれのストレイシオンに命ずる。クォーンと吼える声が重なった。
先ず冴弥の賢龍、天叢雲が一直線に迸る稲妻を繰り出した。それに並走するように、オルタの賢龍ブリゲードと陽悠のストレイシオンが前に出る。前者はそのまま勢いに乗って体当たりでアーミーブラックを蹴散らし、後者はまるで火山が爆発する様な力を以て縦横無尽に攻撃を敢行した。
「いいぞ、ストレイシオン!」
「うむうむ、お見事なのです!」
「攻勢に出ます。引き続き攻撃を」
三体のストレイシオン達による絶妙なコンビネーション技である。大人数の任務だからこその、滅多に見れない光景であろう。
粉砕、粉砕。
龍が吼え、銃が唸り、魔法が奔り、剣が瞬けば引き裂かれた影が散る。
「遠足の後は塵ひとつ残しちゃだめ。ごみは各自お持ち帰り。来た時よりも綺麗に。綺麗に。綺麗に掃除しようね」
だって先生がそう言ってたし本にもしおりにも書いてあった。ソーニャのやる事は変わらない。少女のか細い白い手には似つかわぬ鈍色の銃器を構えて、撃つのみ討つのみ撃つべし討つべし。
「いいぞソーニャ〜派手にやっちまいな! 動く奴ァディアボロだ! 動かない奴ァよく訓練されたディアボロだ!」
教師の声。うん、とソーニャは頷いた。
「一匹も残しちゃだめだよね。うん、大丈夫、ボクいいこだよ」
進め。進め。
「同じ道を往く仲間を守ることこそ、俺流VIPロードのありかたさ!」
相変わらず言動がアレだけれど、メンナクの『他者を助けるべき』という意志は確かなもので。だってガイアが俺に囁いたから。ストリートに降り立った黒騎士だから。来いよ、何処までもクレバーに抱きしめてやる!
応援と共に送り出す、癒しの光。
自分達は、独りで戦っているのではないのだ。
千鶴も自分なりにと懸命に努力する。構えた盾で攻撃を凌ぎつ詠唱し、ライトヒール。発動する魔力に、一瞬だけ桜の花弁をした光纏が舞い散った。
桜一郎は極めて慎重に行動する。冷静に、確実に、適切に、決して無理せず、己に出来る最大限を。
「――『爆』ッ!」
印を結べば魔法陣が出現し、盛大な爆発を引き起こす。炸裂陣。爆花が舞う。
数を減らしてゆくアーミーブラック。敦志はニッと口角を吊り上げ、それらを睨ね付けた。
「あいつ等はボスお相手で忙しいんだ。お前等雑魚は俺が相手してやる」
練り上げる魔力。構築するのは炎と氷の相対する魔法式。浮かび上がるのは赤と青の魔法陣。詠唱と共にその輝きを増してゆく。
そして。
「ぶっ 飛ばすぜぇえええええッ!!」
構えた掌より撃ち放たれるバーストエネルギー。氷と焔が螺旋を描いて、唸りを上げ、光り輝き――
轟音。
「しかし残念、それは私ではありません☆」
キャプテンシャドウの痛打を喰らった筈のカーディスの姿が、ボゥンとエプロンドレスに変わり果てた。空蝉。本体は敵の背後。どんな事をしても最後に立っていた者が勝者。ケダモノの様な形をした光纏が牙を剥く。
「貴方達の部下さん達は段々少なくなってまいりましたよ? そう言う訳で、そろそろここで倒れてくださいませ」
肉球より繰り出す稲妻。迸るその術の名は、雷遁・雷死蹴。それと同時にユーノがディアボロに魔力を打ち込み、それを媒介としてその生命力を自らが利用する。血絡。
されど四体のキャプテンシャドウは長い腕を振り回し、撃退士達を殴り付ける。ブッ飛ばそうと試みる。
「そうはいくかぁー!」
「妨害させて貰いますよっと」
「やらせるかっ!」
「私の射程内で大怪我なんてさせねーのだッ 」
が、それらを一斉に妨害するのは友真、一臣、戒、青空のインフィルトレイター達だ。損害を最小限に抑える。
けれど、そろそろ回避射撃も弾切れ。
ならば、攻撃あるのみ。
後衛は皆の背を守るもの――青空は極めて冷静に狙いを定めた。その全身を青い光の風が舞う。
(私は――ヒーローになるのだ!)
大切なものを護る為に。悲しいを辛いを一つでも無くす為に。
右半身に淡い青の刻印が浮かび上がり、右目が青く輝いた。引き金を引く。清らかな青の弾道。天つ刃。それは一直線に、キャプテンシャドウの頭を吹っ飛ばす。
「負けてらんねぇのぜっ」
不敵に笑う戒も暴れ狂うディアボロに狙いを付けた。強くなりたい。もっと強くなりたい。あの太陽に手が届くぐらい――!
「いっけぇええええええええっ!」
スターショット。されど、弾道は三つ。
「俺もかっこつけたいなぁ〜とか。なんてね」
「おしゃ、命中っ! 逃がさへんつの」
戒が見遣ってみれば、ウインクをしておどけてみせる一臣に、ガッツポーズをとる友真。てめーらぁ〜と戒は、されど笑って見せる。
大切な大切な仲間達。
だからこそ、彼等が傷付くのは嫌だ。刹那でも痛い思いをしてほしくない!
「クリスティーナさん!」
「うむ!」
カーティスと共に、ひなこは癒しの詠唱を始める。護るんだ。治すんだ。支えるんだ。応援するんだ。それが、争い合う事が苦手なあたしの、あたしなりの、『戦い方』。
仲間と一緒に立ち向かう。
「さて、反撃開始とさせて貰いますよ」
クリフは不敵に笑った。今まで散々、ジェネラルダークネスには攻撃されたが。倒れそうになったが。今、彼とアダムの周りには仲間がいる。心強い仲間達が。
それを相手取るはジェネラルダークネス。放つのは黒い影の暴風。切り裂く風。
「う〜……」
それに切り裂かれつ、されどシオンは戦斧を手に前へと進んだ。福がどんどん赤く染まる。白銀の髪が一房散る。傷などなんのその。痛みもなんだ。翼を広げて飛翔する。挑みかかる。
「千切れろーっ!」
斧を振るって放つのは不可視の斬撃。同時に九十七のロックソルト弾が着弾し、魔を穿った。
「ハッ、死に損ないのド腐れがァアア……!」
狂気メーター上昇中。だらだら血を流しながらニタニタ笑った。
「来いや■■ァアア!! 好きな弾で好きなだけブチ抜いて尻穴増やしてやっからよォオオオオオッ!!!」
銃声。銃声。それを援護せんとクリフは魔法による射撃を行う。
銃火と硝煙、土煙。その中で、悪魔が再び攻撃を行った。押し潰す衝撃波。広範囲を叩きのめす。
「ぐっ……!」
メシリと内臓に響く嫌な感じ。愁也は奥歯を噛み締め耐える。だがその痛みがすぐに消えたのは、遥久と礼信が回復魔法を放ったからだ。
「護り手は足りている、攻撃を!」
遥久の言葉通り、ジェネラルダークネスに当たるものは少々防御に傾注している様であった。慎重に、護りを重視する事は重要だ。だが攻めぬ事には、敵はいつまでたっても倒せない。
「おれは攻撃はそんなに強くないけど……ノックバックもできないし、範囲攻撃もできないけど……でもこれくらいは肩代わりしてやる!」
アダムは皆の盾となり、痛みを堪えて声を張り上げる。
「りょーかい! ぶっ潰せばいーんだねっ」
仲間が怪我を治してくれるなら自分は攻撃、只管攻撃。シオンは血に汚れた髪を振り乱し、斧を振るう。
「よっしゃいくぞおおおおおっ!!」
「ぶっかませやァアアアアアア!!」
盾を剣に持ち替えて、愁也は地を蹴り走り出す。それを援護するように『火を吹いた』のは九十七のソウドオフショットガン、超高温超高圧アウル発砲焔ドラゴンブレス弾。
ド派手な爆炎。愁也を包む光纏もまた、紅蓮の炎。
――切り裂いた。一閃、二閃。
ジェネラルダークネスが半歩、後退した。
そして再度の黒い風。撃退士を切り刻む凶撃。血潮が飛ぶ。
肌が裂ける。血が流れる。痛い。
それでも
倒れない。
「こんなんで足りるかよォオオオアアアアッ!!」
いつの間にか零の距離。九十七がその手で、悪魔に触れた。『魔女の呪』。あのチェシャ猫の様に笑う首狩り魔女が如く。『鋏み切り裂く』。理屈法則過程一切合財関係無く。
――「その首を刎ねておしまい」ってね!
づどん。
揺らいだ。蹌踉けた。
まだ、まだ、しかしまだ、倒れぬ。
けれども勝負は決まっていたも同然であった。
「お待たせ致しました」
「この『久遠ヶ原の毒りんご姉妹』が来たからには勝利以外にありえませんわっ!」
「さてさて、最終決戦です」
「3秒だ。ディアボロを倒すのも女をオトすのもな」
「こういうのって集団リンチっていうんだよね。でも遠足だから、しかたないね」
冴弥、アップルトン、オルタ、メンナク、ソーニャを始め、敦志に陽悠に桜一郎に千鶴。アーミーブラック殲滅を終えた者達。
「見参でーす☆」
「もう大丈夫なのだ!」
「やっほ、お元気?」
「間にあった?」
「お待たせなー!」
カーディス、青空、一臣、友真、戒を始め、ひなこにユーノにカーティス。キャプテンシャドウを倒し終えた者達。
残存戦力総集合。
「覚悟は良いな?」
剣先を突き付け言い放ったカーティスの言葉の直後。
疾風怒涛、火山が如く、一斉の攻撃がジェネラルダークネスへと降り注ぐ――
●楽しい遠足!
という訳で跡形も無く消し飛んだディアボロ。
さぁ遠足を楽しむ事が諸君に課せられたオーダーなのです!
そんなこんなで、ここからはお楽しみタイム。
「楽しい遠足でしたわね、棄棄先生」
「おうよアップルトン! カッコ良かったぜお前さんの必殺技。同じルインズブレイドとして、これからも応援してるぜっ」
ニッコリ笑んだアップルトンへ、サムズアップ。
陽悠はニコニコと皆の様子を見守っていた。そんな中、アダムはへとへとになってその場に蹲る。こんなに疲れたのはいつ以来だろう。と、そこへ。
「たまには俺にも守らせてよ」
不意にクリフの声がしたかと思いきや、おんぶされて。
「なっ……!」
顔を真っ赤に、アダムは彼の背をてしてしてしてし。しかし悪魔はからから笑って、下ろす気なんて微塵も見せないのであった。
「紅茶! サンドイッチ! お弁当!」
「お弁当持ってきたよーーー!」
カーディスと青空はいそいそとお弁当箱を広げてゆく。「お菓子の300久遠て少ないよねぇ」と呟く青空の傍らでは他の生徒も持参したお弁当やらを広げてゆき、その輪はどんどん大きくなる。
それでは皆で、いただきます。
……でもお弁当タイムの後が割と本番だったりする!
「バドミントンする人この指とーまれ!」
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」
愁也がドヤーっと立てた指に殺到する男子学生達。主にオミーとかあの辺。シリアス終ったからこっからオミーはオミーな。
「バドミントン勝負しよーや! ペア戦!」
「よーし友真が羽根な!」
「俺は羽やないです殴るな」
そしてモミクチャどっちゃり状態のまま、愁也の言葉に友真はぶわっと絶望ポーズ。
「撃退士バドミントンか、新しい」
「その『撃退士』って羽的な意味!?」
遥久のトドメにおのゆうまぶわわ。
「ね、センセとクリスちゃんも!」
オミーはソーニャとシオンをなでなでしつつ九十七をガン見してアンパンもきゅもきゅしていた棄棄と、仲間達一人一人へ労いの言葉を律儀にかけていたカーティスへ声をかけた。
「よろしいならばせんそうだ!」
「ヴァド=ミン=トン――聞いた事がある。それは人間界に伝わる血の滲む様な(以下略」
OKだそうです。
というわけで。
オミー&おのゆうまVS愁也&遥久VS棄棄&カーティスの三つ巴ドキドキバドバトル!
因みに最後の二人はラケットじゃなくて盾もってる。そしてカーティスが真似をした。半数がラケット、半数が盾という異様な光景。俺の知ってるバドじゃない。
「相手のコートにオミーをシュゥウウウーーーッ! 超! エキサイティン!」
「ぐわあああああセンセーーーーーーー!」
「か、加倉が爆発四散しただと!? これがヴァド=ミン=トン――人間界に伝わりし(略」
「オミーの分まで強く生きますね! 見よ華麗なる技ぁ!」
「フッ甘いぜ友真! 俺達のコンビネーションを見せてやる! なっ遥久」
「そうだな……棄棄先生!」
「おうよ遥久ァーーーー!」
「えっ何でセンセ」
「はぁッ!!」
「グワアアアアアアセンセーに遥久ーーーーーーー!」
「つ、月居が教師棄棄に打ち上げられて夜来野に叩き落とされただと!? これがヴァド=ミ(略」
「バレーと間違えました(にこ!」
「インパクト(物理)ェ……」
遥久がニッコリ笑ったからそれでええやないか(ゴリ押しのまとめ)
「あいつら頑張るなぁ(色んな意味で)」
「そ、そうだね……」
超次元バドミントンを観戦していた敦志とひなこは思わず苦笑。
そんなこんなでメンナクはなんかかっこいいポーズをしており、オルタと冴弥と陽悠のチームテイマーは召喚獣を傍らにテイマーあるあるで盛り上がってたり、ソーニャはシオンと千鶴とお花を摘んで遊んでいたり、桜一郎は礼信とおにぎりをもぐもぐしてたり、ユーノはそんな様子を眺めていたり、九十七は棄棄に「膝枕されろ」と謎の要求に真顔だった。
「遠足、楽しい?」
はしゃぎにはしゃいで、ちょっと疲れて、座って休憩していたカーティスの隣。友真はそこに腰かけつ、笑ってコーラを差し出した。
「うむ……こんなにも楽しい事が、まだまだこの世界には溢れているのだな」
笑い声に包まれる一体に目を細め。「せやな」と友真も応え、同じ光景を見る。
楽しそうだ。誰も彼も。それを、嬉しく思う。
その一方で。
「せんせぇ!!」
生徒達と戯れそして一休憩していた棄棄の正面。黒髪を夜風に靡かせ、立ちはだかったのは戒だった。
「お? どったの戒」
「手合わせお願いしゃーーーーっす!!」
言うが早いか、アサルトライフルファイア。ずがががががん。銃声。銃弾。「うおーびっくりしたー」と緊張感の無い声と共に横に飛んだ棄棄。着地したその目は、笑っていた。
(躱される事ぐらい想定内――!)
戒は鬨の声を張り上げる。思い返すのは、あの日。戦う理由が出来た、初めての遠足。
酷くスローモーションに見えた。走馬燈みたいに。螺旋を描く銃弾と、靡く男の桃髪と。
ねぇ、せんせぇ。あの日から、私はどれだけ強くなった?
ねぇ、せんせぇ。あの時より、距離は縮まったろーか?
ねぇ。先生。
「そォらッ!」
「うげ、っほ!?」
棄棄の声が聞こえた瞬間、戒の視界がぶれた。付き抜けた衝撃。シャッフル視界意識。
気が付いたら。仰向け。夜空と月と。
「……」
ボーゼン。それから理解。ああ、腹パンされたらしい。ああ、割と痛い。
「オッス戒、生きてっか?」
その視界に覗き込む棄棄のスカーフェイス。ニヤニヤ。嗚呼、畜生。むくれた戒は視線を逸らしかけ――ハラリ、と視界の隅で何かが揺らいだのを見た。
それは草原に落ちる赤いリボンだった。見覚えがあった。これは。棄棄の髪を束ねるリボン。
「……おろ?」
目を丸くする棄棄。解けた三つ編み。垂れた髪。棄棄のリボンに戒の弾丸が掠り、切れたのだ。教師の指が落ちたそれを拾い上げる。まじまじと見つめる。それから戒を徐に見つめ、
「ナイスショット、戒」
優しく笑った。喜びに満ちた声。「やるよ」と切れたリボンを生徒の手に握らせながら。
「ああ、畜生」
もう一度だけ、戒はそう吐き捨てたのであった。
そして、生徒達のはしゃぐ声に包まれて、夜は――遠足は、静かに更けてゆく。
「先生ー今回も集合写真ー!」
「そうだなおのゆうま! よーしお前がカメラな!」
「デジャビュッ……!」
そんな友真と棄棄のショートコントはさておき。彼の持ってきたデジカメで、この一日を記念にしよう。
はい、チーズ。
ぱしゃ。
『了』