.


マスター:ガンマ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
形態:
参加人数:12人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/01/28


みんなの思い出



オープニング

●スクールのルーム
「良し、集まったな」
 教室に入ってきたクリスティーナは集った一同を橙眼で見渡すと神妙に頷いた。
 そのまま教卓にて諸手を後ろに組み、凛とした声を張り上げる。
「此度の作戦は『新規参入者の技術力向上』及び『共闘による交流円滑化』を目的としたものである。
 任務内容は、郊外のゴーストタウンに出現したディアボロ共の殲滅。その数は6。内1体は大型で、非常に凶暴な気質であると報告されている。
 残り5体は大型ほどではないものの、油断は禁物だ。気を引き締めてかかれ」
 外見的特徴は手元資料を確認しろ、という天使の声に従えば、竜の頭をした大柄なグリフォンと醜悪な人面鳥が映る写真が目に留まる。これが件のディアボロなのだろう。
「今作戦には私も参加する。無論、全力を尽くす心算だ。何か作戦があれば伝えてくれ……従ってやらん事もない」
 ぶっきらぼうながらも、仲間達に向けるのは信頼の眼差し。「では、」と区切ると一間をあけた後にクリスティーナはこう言った。
「今作戦が参加者各位にとって有意義なものになるよう期待している」


リプレイ本文

●Ruin
 月下に横たわっていたのは死んだ様なコンクリートの群だった。
 冬の夜。冷え切った空気に辺りはシンと静まり返っていた。
『うぬ、戦闘だー、がんばるぞーなう』
 ルーガ・スレイアー(jb2600)はスマートフォンを操作して、呟き投稿サイトに一言投下。悪魔がスマートフォンを弄っている姿は中々に不思議な光景だ。
 さて、と――先の一言に返事が来るのを待ちがてら、ルーガは振り返り仲間の様子を確認する。その視線の先ではアッシュ・スードニム(jb3145)が、興味深そうに周囲を見渡していた。
「人がいっぱいだー、心強いねぇ」
 パタパタ、と二対の翼に犬尻尾。人界知らずな彼女にとっては何もかもが新鮮な景色である。ルーガの持つスマートフォンも然り。
「ねぇそれ食べ物? おいしいやつ?」
『ょぅι゛ょが話しかけてきたなう(´ω`*)』
 和気藹々の一方で、緊張に深呼吸を繰り返す者が一人。
「は……初めての実戦なのですけど……頑張りますです! 今回は宜しくお願い致しますなのです」
 ペコリと頭を下げながらなそんな言葉通り、メリー(jb3287)にとっては今日が初めての実戦の日だった。みんなの邪魔にならないように。それから、大好きな兄にちょっとでも近付ける様に。
「あぁ〜心臓がドクドクいってるよっ……!」
「大丈夫大丈夫、緊張で死にやしないさメリー君」
 安心させる様にその背をぽんと叩いたのは、彼女とは友人同士である不破 怠惰(jb2507)。ニッコリとろんと緩く微笑む。
「不破さん……! はい、一緒に頑張りましょうなのです」
「うむうむ頑張ろう。あとで旨いパフェを食べる為にもね」
 友人の笑顔に笑みを返し、さて。怠惰は視線を動かしては、周囲へ意識を張り巡らせるクリスティーナ・カーティス(jz0032)へヒラリと手を振り御挨拶。
「やあやあカーティス君! 堕天使たる君とは一度、話がしてみたかったんだ」
「ふむ、お前ははぐれ悪魔か。私も丁度、はぐれ悪魔の者と交流を持ってみたいと思っていたのだ」
 此度は宜しく頼む、と差し出された手。一瞬ポカンとしてから、あぁ握手かと。交わす手。悪魔と天使が握手をする――なんともまぁ、珍妙な。奇怪な。
 いつか、人と悪魔、天使が理解し合える世界が来るといい。
 そんな想いを胸に秘める怠惰だったが、顔は変わらずほのぼのにへらー。「こちらこそ」と。
 と、斯様な様子を眺めつつ、グロリア・グレイス(jb0588)は黒手袋で覆った手を顎に添え「ふむ」と頷いた。
「共闘による交流円滑化……久遠ヶ原はこんなユニークな作戦も行うのね」
 まぁ、レディと仲良くなるなら、落ち着いたカフェのほうが良いけど――くすりと笑い、黒い手が取るのは天使の白い手。ぱちりと瞬きをしたクリスティーナへと恭しく曰く、
「嗚呼、夜の黒に無垢な翼がなんと美しく映える事! 勇ましくも可憐なる銀の天使よ、刃の如き戦乙女よ。ご一緒できて光栄至極恐縮感涙……私の名はグロリア・グレイス。
宜しくねクリス」
「ふむ……お前の様に上手い良い回しは出来ぬが、宜しく頼む、グロリア」
「いいのよ、いいの。その琥珀の眼差しを向けてくれただけでもう、それだけで」
 頑張りましょうね、とフェミニストは微笑んだ。
「敵の数は6……一箇所に集まられたら厄介か。各個撃破出来れば理想的だな」
 歴戦の勘を働かせて空を警戒するアレクシア・V・アイゼンブルク(jb0913)。夜風に銀髪を靡かせる傍らでは、六道 琴音(jb3515)が静かに物影に身を潜ませて同じく索敵に当たっていた。
「強力な敵ですが、みなさんの力を合わせればきっとうまくいきます。頑張りましょう」
「えぇ、楽しみです」
 寒空にフゥと白い息を吐き、オーデン・ソル・キャドー(jb2706)が応える。彼が白い息を吐くと被り物のオデンがほくほくと湯気を立てている様だ。
 彼を始め、撃退士達は瓦礫や壁に身を潜めて索敵を行っていた。最中にスケアクロウ(jb2547)は後頭部を雑く掻き息を漏らす。
(悪魔やヴァニタスは……いねぇか……)
 戦いを求めて『はぐれ』た彼が特に好きなのは、同族と戦う事。しかし此度の相手はディアボロか――精々楽しめると良いのだが。等と思いつつ、悪魔やヴァニタスを相手取る為にも腕慣らしは必要か。
 ちらと横目に仲間達を見る。悪魔は居るっちゃいる。天使もいる。尤も、仲間だが。もし任務が無ければ一戦申し込みたい程度には興味津津だった。暫くは様子見である。
「しかし……久々の戦事とは腕慣らしでも血が騒ぎやがる……っ!」
 ゴキリと拳を鳴らし、口角を凶悪に吊り上げた。居ても立っても居られない。さぁ早く、早く早く早く。
「ふむ、共闘による交流円滑化という事もあって色々な者がいるな」
 キャロライン・ベルナール(jb3415)は人天魔様々な面子のチームを見、一言。と、そこで聞こえた『ゴキリ』。見遣れば、丁度スケアクロウがニタァと笑っている所だった。
(……ん、いかにも悪そうに見えるが、彼はどんな戦い方をするのだろう)
 少し、気になる。その頭頂から爪先までをじっくり眺める。するとその視線に気付いた彼と目があって。一瞬静寂。その後に。
「……何だ? 俺の顔に何かついてんのか?」
「そうだな……禍々しい刺青がついているな」
 禍々しいモノが大好き。かつての上司に集めた『コレクション』を捨てろと言われたのに「NO」と答え破門された経歴を持つ程度には。
 そんな一風変わった堕天使の彼を見る目は、獲物を見付けた猫のそれに近い。いやはや、実に。
「……素晴らしい……」
「は? あー……はいはい」
 盛大な案山子の溜息。

 さて、作戦通りに撃退士達は動いてゆく。
 息を潜め、足音を殺し、廃墟の街。
 怠惰は遁甲の術によって夜闇と気配を同化し、己が翼を広げて空から索敵を行っていた。
 それ故か――真っ先に敵影を見付けたのは、彼女。
「おっと、いたいた……ハロハロこちらグレート怠惰ちゃん号、マンバードを発見したよー」
 それも5体。
「……!」
 通信機からそれを知った撃退士達は、或いは目を見開き、或いは眉根を寄せる。マンバードは独立行動ではなく、集団行動を取っていたのか。上手く一体ずつ倒したかったが、そうもいかないようだ。
「……で、どうするんだい? 私としてはこのままお空でダラダラしてても構わないのだけれども」
「残念ですが不破嬢、我々は撃退士……任務は、遂行せねばなりません故」
 怠惰の言葉に答えたのはオーデン。次いで口を開いたのはアレクシアだった。
「我々の所まで誘き寄せる事は出来そうか?」
「まぁ、やるだけやってみよう」
 頷き答え――ひゅーぃ。怠惰の口笛が夜を劈く。群れて飛んでいたマンバード達が、その不気味な人面が、一斉に怠惰へ向いた。
 うわっキモッ。苦笑を洩らし、羽音。一直線に飛んでくるマンバード達とそれから逃げる悪魔。
 空を切る6つの黒。

「月に照らされたゴーストタウン……素敵な舞台じゃない。耳障りに歌う人面鳥と大きいだけのトカゲには勿体ないわね」
 早々にご退場願いましょう。グロリアはサングラスの奥の目を細め、クロスボウを静かに構える。
「ほぅらほぅら、かむひあーなのだー」
「合図は『撃て!』ですか? それとも『FIRE!』? たまにはフランス語で行きましょうか」
 物影にて和弓鶺鴒を引き絞るルーガに、小銃ヨルムンガルドを手に茶目っ気の声音を放ったオーデン。
「よし、いつでもいけますっ!」
「銃を使うのは初めてだけど……当たってなの!」
 オートマチックを構える琴音、銀の拳銃を両手でしっかり持って狙い定めるメリー。
 視線の先では、ぐんぐん近付いてくる悪魔達。
「撃ち方用意……」
 呼び出したヒリュウと視覚共有。バルバトスボウを構えるアッシュは射撃のタイミングを計っていた。
 逸る気持ちを押さえて静かに待つ――未だだ――未だ――あと少し――……

「今っ!!」

 下されたのは一斉射撃の合図。
「FEU!」
「イエスサーだ」
 オーデンが放つ銃弾、キャロラインが繰り出す無数の稲妻の矢、etcetc……兎角、撃退士達が放ったそれを形容するならば『弾幕』であった。
 弾丸、矢、魔法弾、ありとあらゆる射撃攻撃が唸りを上げて空を裂く。それは怠惰を追う事にすっかり夢中になっていたマンバード達の横合いから降り注ぎ、鮮やかな不意打ちを叩き込んだ。
 ギャッ、と悲鳴を上げて、マンバード達は困惑を見せる。その隙を、鈴木悠司(ja0226)と松永 聖(ja4988)は見逃さなかった。
「行くよ、松永さんっ」
「りょーかい、ドジんないでよね!」
 光纏。そして、強く地を蹴り大きく跳び出した。
 悠司は発勁を、そして聖は革鞭を振るい攻撃を試みる。再度、マンバードのけたたましい声。それと同時に魔法の盾が張られ、二人の攻撃を受け止めた。
「シールドか……ふん、それがどうした!?」
 防御なんてそれを上回る攻撃で粉砕すれば良い。巨大なハルバードをぐるんと回し、好戦的に歯列を剥き笑うスケアクロウが立て続けに飛び出した。
「盾ごとミンチにしてやるよッ!!」
 荒々しい力のままに叩き落とす豪撃。先の二人の攻撃で疲弊した盾をかち割り、その勢いでディアボロの身体に刃を突き立てる。
 どうだ、と視線の先。が、ディアボロが反撃に出る。一体のマンバードが口を開くや音波の魔法弾を撃ち出したのだ。
「うおっ……!」
 正面から叩きつけられる衝撃にスケアクロウの身体が吹っ飛ぶ。廃墟ビルに叩きつけられ瓦礫の破片と硝煙が舞う。
 そこへ追撃せんと他のマンバード達が口を開くが――
「そっちじゃないよ、こっちこっち」
 背後、二対の翼を広げたアッシュの声。ディアボロが振り返ったそこには、彼女と、オーデンと、キャロラインと、クリス。銘々に翼を広げ、手には武器。
「さて、落ちて貰いますよ」
「……ふむ、私の好みではないな。死んで良し」
「喰らうが良い!」
 繰り出される。
 アッシュはチタンワイヤーで人面鳥を絡め捕り、オーデンはその翼を狙って刃を振り下ろし、キャロラインは魔法弾で、クリスは剣を振るいやはり翼へ攻撃を。
 甲高い悲鳴が響き、2体のマンバードが大きく体勢を崩し高度を下げた。
 今だ――アイコンタクトは一瞬、されど的確なタイミングでグロリアとメリーが弩と銃で射撃を行う。矢と弾丸は一直線に、高度を下げたマンバードの内一体の翼を穿った。
 そしてそれを、もう一体も巻き込んで強襲したのはアレクシアが放ったショットガン。ばん、と銃声が散弾と共に撒き散らされる。翼を穿たれ防御姿勢もままならぬ一体を粉砕する。
 直後に空に居たマンバード達がギャアッと声を合わせて怪音波を口から発した。魔力が乗せられたそれは音の壁と成って、撃退士達へ叩きつけられる。
「うわ……ひどい音です……」
 琴音はシールドを展開し直撃を免れていた。耳を塞いでみたものの、あの攻撃は最早そういう問題ではないらしい。
「いたたっ……うぅ、でも、メリー負けないですっ!」
 騒音にガンガン痛む頭に顔を顰めつつ、メリーは銃で狙い引き金を引く。乾いた銃声。
「魔法より物理攻撃の方が有効みたいなのです!」
 敵を観察し気付いた事をメリーは声を張り上げる。「がってんりょーかい」と答えたルーガがそれに続けと和弓を引き絞った。眇めた目で飛びまわる鳥を狙い定める。
「ねんぐのおさめどきだー!」
 放たれた矢が唸りを上げて、マンバードの翼に突き刺さる。ばたつきながら悪魔が落ちる。
 それが地面へ落ちる、寸前に。
「そぉーらァ、ホーーームランッ!」
 ハルバードのフルスイング。スケアクロウが錬気によって威力を高めた得物は獲物に喰らい付くや、その肉体を断末魔を上げさせる猶予すらも与えずに四散させた。飛び散る血肉が案山子の頬に散る。燃え浮き上がる骸骨の刺青上を伝う。
 ヒャハハハハッと楽しげに笑う彼は戦闘狂だ、そして喋り無精な普段とは対照的に饒舌。来いよ、と夜空の鳥達へ中指を突き立てる。
「……ウム……」
 禍々しいものコレクターなキャロラインはその様子に密かに満足気な溜息を零していた。曰く、「実にグッド」と。
「ぐっど……なのか、キャロラインよ」
「見事な禍々しさだ」
 そう返す彼女の嗜好は、残念ながらクリスティーナには伝わらなかったらしい。世界は広いなぁ、と思いながら、クリスティーナは剣を振るうのであった。

 一方で撃退士達の攻撃に更にマンバードが墜落し、人面鳥の数は残り2。
 そして――そんな時であった。
「…… !」
 ぴん、とアッシュの犬耳が立つ。
 まさか……いや、間違いない。この羽音は、マンバードや仲間のそれではない。だとすれば。
「みんな! ドラコグリフが来たよーー!」
 少女が声を張り上げたその直後。轟く様な咆哮が空気を劈き響き渡った。
 聞こえてくるのは力強い羽音。獰猛な荒息。
 月を背後に現れたのは巨躯のディアボロ――ドラコグリフだ。
「盛り上がってきたねぇ」
 怠惰はくつりと咽奥で笑う。できればマンバードを仕留め切ってから会いたかったが――マンバードがあれだけけたたましい声を張り上げ、撃退士達が銃声を響かせれば、ドラコグリフが気付くのも時間の問題だったろう。
 寧ろマンバードを半数以上減らしてから出くわした事の方が僥倖か。
「なんにしても。佳い夜だ。お互い就寝前の運動と行こうじゃないか。……面倒くさいけれど」
 希代稀に見る怠け悪魔。翼を広げる怠惰は、本音を言えば戦いには興味もないし、生き死ににも執着していない。
 では何故そんな彼女がこの戦場にいるのか?
「カーティス君!」
 声をかけるは、自分と同じ様に空中へ翼を広げたクリスティーナへ。
「これを無事斃せたらデートしてくれ! 一回、一回で良いから!」
「でーと? ……ふむ、あの人界式の修行だな。心得た」
「やったね!」
 ちょっと意味違うけど、という事はさておいて。そう、怠惰はクリスティーナと仲良くなりたいが為に、友達を作るが為に、ここに居るのだ。
 その為に、ディアボロを斃す。
 身体にアウルを溜め、雷の如く飛び出した。滑空。擦れ違い様に切り裂く様な魔法攻撃。
 されど未だドラコグリフが体勢を崩す事は無い。鋭い視線で撃退士達を射抜き、空気を吸い込むや口から灼熱の火炎弾を吐き出した。
「うわぁっ!?」
 大きく爆ぜる紅蓮に巻き込まれ、悠司と聖の身体が吹き飛ばされる。廃墟の壁に叩きつけられる。
 凶悪極まりない一撃だ――得物をパルチザンに持ち替えたアレクシアが浮かべるのは、いっそ苦笑。
「全く、警戒すべき部位が多い事だ……」
「上手く連携して倒しましょう!」
 瓦礫に身を隠し一撃を回避した琴音が答える。
 柔和な彼女にとって戦闘は苦手意識が拭いきれないが、やるべき事はしっかりと――普段は穏やかな色を湛えるその瞳に不屈の勇気をキッと浮かべ、瓦礫から身を出し銃を構えた。
 銃声とディアボロの魔弾が交差する。
 琴音とメリーの弾丸が一体のマンバードを撃ち落とす。
 残り一体の鳥。傷付いたそれは逃走を試みるが……
「チッ、逃がすかよォ!!」
 スケアクロウが背に広げるは鴉の如く黒い翼。羽ばたく音を響かせて、吶喊。追い縋る。振り上げるハルバード。
「飛び散れ!」
 振りぬき両断。二つになって落ちるディアボロ。
 これで後は、ドラコグリフを倒すのみ。
「う、っ――」
 ドラコグリフが振るったムカデの尾が空を裂き、アッシュの肌に血華を裂かせた。蝕む毒が激痛を齎し、顰めた顔に脂汗が滲む。が、それでも不適に笑みを浮かべて。
「強いねぇ……」
 強い。凶暴。一対一ならたちどころにやられてしまうだろう――だが、彼女には仲間が居る。クリスティーナが施すクリアランスがアッシュを蝕む毒を拭い去る。
 力を取り戻した彼女はきっとディアボロを睨み、翼を翻した。
「――でも、これで終わりだよ! ヒリュウ!」
 廃墟の壁にひっつき機を窺っていた相棒に命令すれば、「きゅ!」と答える召喚獣がブレスを放った。
 それは唸りを上げてドラコグリフの翼に命中する。そのほぼ同時、グロリアが放った影手裏剣も同じ箇所へと炸裂する。
「さぁ一気に畳み掛けるわよ! 楽しい空のドライブはお開きといきましょう」
「おーけーおーらい。ふふふーん、びりびりにしてやるー!」
 グロリアの声に応え、闇の翼を広げたルーガがディアボロの背後にて弓を引き絞る。鏃にありったけのアウルを込め、放った。
 炸裂。
 ぐらり、とディアボロの体勢が崩れる。崩れながらも、火炎を吐き出し攻撃する。
 が、それは――オーデン、メリー、キャロライン、琴音。並んだ四人の並んだ障壁。
「お兄ちゃんを護る盾になる為にメリー頑張るの……友達は必ず護り抜きます!」
 メリーだってやる時はやるんだから。蒼い瞳で敵を見据え、爆風に光纏のオーラが氷華を咲かせた。
「わぁ、逃げろ逃げろー」
「えいえいー、こっちだこっちー!」
 振り回される凶悪な尾が空を裂くが、それが宙を縦横無尽に飛び回るアッシュとルーガを捉える事はない。
 撹乱。
 その隙に、左右からアレクシアとスケアクロウが跳び上がった。
「とっとと――」
「落ちろっ――!」
 力を込めて振り下ろされるパルチザン、ハルバード。伝わるのは確かな衝撃、ディアボロの悲鳴。刃は傷付いたドラコグリフの翼へ強力に喰らい付く。
 落下、とまではいかないが、ディアボロの高度が下がった。
 すかさずオーデンが間合いを詰める。振り上げる大剣。
「毒抜きして、おでんのタネにしてあげましょう」
 渾身の力を込め、尾を目掛け振り落とす一撃。されど堅い、黒光りするその装甲は比較的薄い翼ほど容易に破壊できそうにない。
 ドラコグリフが吼え、鉤爪を鋭く振るった。切り裂かれた撃退士の血が散る。
 が、傷付いた彼らを包んだのは清らかな光だった。
「いま癒します、じっとしていて下さい」
「これしきで倒れる皆ではあるまい?」
「回復は我々に任せろ」
 琴音、キャロライン、クリスティーナ。三人が翳した掌より癒しが齎され、その傷をたちどころに癒し去る。
「お前の動きはお見通しだ……!」
 予想と観察の結果。一撃を槍で往なしたアレクシアは鋭く踏み込み、鮮やかな一突をドラコグリフへお見舞いする。瞬間に炸裂したのはグロリアが投げつけた影の刃だ。
「余所見厳禁、夜道は何処にも注意を向けなきゃ危ないわよ? 『死ぬほど』ね」
 くつりと笑う。その金目が見遣る先では、目に一撃を受けたドラコグリフが大きく呻いていた。そのまま手当たり次第の攻撃。
 それを斧槍で防御しながら、あるいは鉤爪に裂かれ赤に染まりながら。スケアクロウはニィッと牙を剥き出す。
「このディアボロは一体どんな味がするんだろうなぁ?」
 血の臭いが濃くなる程に曝け出す本性。防御をしながら気を練り上げ、そして。
「おらァ!!」
 それは宛ら刃の暴風、強烈なインパクトにディアボロの身体が大きく揺らいだ。
 だが、未だ。踏み止まる悪魔が口を開き、火炎を吐く。撃退士達の視界が赤く染まる。
「っ……負けません!」
 それを、刃で切り払い。琴音が踏み込む。裂帛の気合を込め、敵を凛呼と見据え、その心を表すかの如く曲がりない剣閃。
 同時にディアボロの背後では、翼を広げたキャロラインが魔弾を打ち出し挟撃する。
 数多の攻撃を受けたドラコグリフが轟と咆哮を上げた――振り上げた前足。体重を乗せた鉤爪を、目の前の撃退士に振り落とさんと。
 鈍く、硬い音。
「う、くっ……!」
 歯列から漏れたのは苦しげな声。
 されど、血を流したものは誰一人も居ない。何故か。
「……貴方のお相手はメリーなのです! こちらへ来てくださいです!」
 割って入ったメリーが防壁陣によって重撃を受け止めたからだ。護る為にある壁には皹一つ入らず、彼女の意志を映すかの様に燦然と輝いていた。
 さて――友人が作り出したその隙を、無駄にする訳にはいかない。
「だが期待はするな、怠惰はやりたいことしかやらぬ」
 ドラコグリフの頭上には怠惰の姿。クロセルブレイドを静かに掲げる。
「……でも友は大事だ。死体相手はつまらぬし」
 疲労や傷が溜まろうがその調子が崩れる事はない。刹那に滑空。
「メリー君!」
「うん!」
 二人が構えるのは同じ武器。怠惰は速度を刃に乗せて。メリーは翠玉の光で刃を輝かせ。

 振り、抜いた。

 ……ドラコグリフの身体が一瞬硬直し、そして、緩やかに傾いてゆく。
 どう。と、重い音を響かせて倒れて、それが動き出す事は二度となかった。
「――グッドナイト。佳い永眠を」
 降り立った怠惰の声が、静寂に響いた。

●月が沈みゆく幽霊町で
 この地を根城にしていたディアボロ達が倒れた後に廃墟を支配し始めたのは、どこまでも続く静寂だった。
「ふはぁ……皆、お疲れ様なのです」
 初めての実戦。上手くいって良かった、とメリーは安堵に胸を撫で下ろすと共に無邪気な相好を崩した。
 戻ったら兄に今日の事を話そう――彼は褒めてくれるだろうか。想像するとついつい、にやけてしまうのを抑えきれない。
「お疲れ様です、一段落ですね」
「うむ、ご苦労であった」
 緩やかな笑みを浮かべる琴音に、腕を組み一つ頷きを見せるキャロライン。
(……この調子で体力を戻していかねばな……)
 息を整え、長い銀髪を掻き上げるアレクシアは息を整えつつ思う。
 姉として、妹達を護る為には盾が如く強くあらねばならない。そして、撃退士として天魔を討つ為には剣が如く強くあらねばならない。
「今日も頑張ったねヒリュウ! ありがとー」
 アッシュは相棒をぎゅーっと抱き締め、ありがとうのもふもふもふ。きゅーと鳴くヒリュウも嬉しそうだ。
 そんな微笑ましい様子をスマートフォンでピロリ〜ンと激写して。
『任務完了なう!!』
 ルーガは早速呟きサイトに写真と一緒に投稿。
『今日も一生懸命頑張ったなう、さっそくソシャゲ課金するなう(*´ω`*)』
 スマフォ悪魔。オンでもオフでも多忙である。
 一方で、スケアクロウは仲間へ労いの言葉を賭けるクリスティーナに話しかける。
「……おい、お前」
「む。なんだろうか」
「強いんだろ? ……ちょっと相手しろや」
「ほう、人天魔関わらず修行熱心なの者には好感が持てる。良いだろう、来い」
「……そうこなくっちゃなぁ?」
 スケアクロウは強い相手と戦う事が、そしてクリスティーナは己を鍛える事が好き。
 間合いを取って視線を搗ち合わせて一触即発――だったのだが。
「カーティス君!」
 我が道を往く怠惰がその間に現れて。
「それで、デートのプランはどうする? いつにする? 何処にする? いつでもいいし何処でもいいし何処までも良いぞ! 約束だからね! うん!」
 バッスィーンとサムズアップに天使と案山子は目をぱちくり。
 そして真面目にスケジュールを答え始めたクリスティーナにスケアクロウはすっかり毒気を抜かれて、まぁ、なんだ。今日はもういいか。やれやれと肩を竦めて大きな溜息。
 戦闘後の疲労と達成感が混ざった得も言われぬ心地良い一時――その最中、確かにグロリアも他の者と同様笑みを浮かべて労いの言葉をかけていたのだが、その心に思うのは。
(私はここと似た場所をよく知ってる……?)
 視界中に広がる廃墟。夜の下の灰色。死んだ町。
 その光景に、何故か――曖昧な記憶が疼くのだ。『懐かしい』。何故かは、分からないのだけれど。
 メモリー。それは、悪夢の様にふとした切欠でグロリアの前に現れる。そしてその悪夢は、現れる度に言い知れぬ不安と空虚を彼女に与えるのだ。
だれど――ふふ。と、自嘲の様に、或いは大胆不敵に、彼女は口唇に笑みを浮かべる。
(ゴーストタウン……私の失ったメモリーも現れるのかしら。それこそゴーストのように)
 細めた視界の景色。夜は何も答えない。
 されどグロリアは恐れはしない。『メモリー』に。恐れはしない。拳を握り締め、凛然と立つ。
 季節相応の冷え切った風が吹き抜けた。
 おぉ、寒。オーデンは外套を引き寄せ身震い一つ。
「寒い所にいつまでも居るのもなんですし――そろそろ参りましょうか、皆様方」
 こんなに寒い夜は美味しいおでんが恋しくなる。
 見上げた空には、星が幾つも瞬いて撃退士達を見守っていた。


『了』


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: 撃退士・鈴木悠司(ja0226)
   <ディアボロから強力な攻撃を受けた>という理由により『重体』となる
 闇に差す光輝・松永 聖(ja4988)
   <ディアボロから強力な攻撃を受けた>という理由により『重体』となる
面白かった!:12人

撃退士・
鈴木悠司(ja0226)

大学部9年3組 男 阿修羅
闇に差す光輝・
松永 聖(ja4988)

大学部4年231組 女 阿修羅
撃退士・
グロリア・グレイス(jb0588)

大学部7年322組 女 鬼道忍軍
守護者・
アレクシア・V・アイゼンブルク(jb0913)

大学部7年299組 女 ディバインナイト
撃退士・
不破 怠惰(jb2507)

大学部3年2組 女 鬼道忍軍
撃退士・
スケアクロウ(jb2547)

大学部8年271組 男 阿修羅
駆逐されそう。なう・
ルーガ・スレイアー(jb2600)

大学部6年174組 女 ルインズブレイド
おでんの人(ちょっと変)・
オーデン・ソル・キャドー(jb2706)

大学部6年232組 男 ルインズブレイド
優しさを知る者・
アッシュ・スードニム(jb3145)

大学部2年287組 女 バハムートテイマー
蒼閃霆公の心を継ぎし者・
メリー(jb3287)

高等部3年26組 女 ディバインナイト
心の受け皿・
キャロライン・ベルナール(jb3415)

大学部8年3組 女 アストラルヴァンガード
導きの光・
六道 琴音(jb3515)

卒業 女 アストラルヴァンガード