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マスター:ガンマ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/01/22


みんなの思い出



オープニング

●憧憬
 ヒーロー。それは憧れの存在。
 強くて、格好良くって。
 あんな風になりたいと、いつもいつも思っていた。

●スクールのルーム
「喜べ諸君、困った事件の発生だぜ」
 冗句を嘯き、教卓に座す棄棄は浅く溜息を吐いた。
「まぁ、ザックリ言うとね……」間を開け、説明を開始する。

 とある町がありました。何処にでもあるような普通の町です。
 そこに『ヒーローに憧れる子供達』がいました。テレビやマンガのヒーローに憧れる、子供なら自然な事です。
 彼等はいつもヒーローごっこで遊んでいました。
 ですが、ある日。
 子供達は町に『不審者』が出没する事を知ってしまいます。
 彼等はこう言いました。
「ぼくらはヒーローだ、ぼくらがこの町をフシンシャから守るんだ!」
 と。
 それから子供達は夜な夜なベッドから抜け出して、思い思いのヒーローの格好をして仲間達と集合します。目的は、パトロールとフシンシャをやっつける事。
 ドキドキしてワクワクする時間でした。そしてとても充実していました。
 嗚呼、アウルの力も持たない彼らにとっては、『ヒーローごっこ』の延長線だったのかもしれません。
 嗚呼、可哀想に――その不審者が、アウルの力に覚醒している通り魔だとも知らないで。

「……という訳さ。
 どうも様子がおかしいと思った親御さんが『パトロールに繰り出さんとしていたヒーローの一人』が家から抜け出そうとしているのを発見し、事情を聞いたそうな。
 不審者の方だが、調べてみるとアウル覚醒者である可能性が高い事が判明した。っていうか十中八九そうだわ。俺のカンがそう告げてやがる。
 子供達は夜の街に繰り出したままだ。諸君に課せられたオーダーは一つ、『ヒーローの保護と通り魔の捕縛乃至撃退』だぜ」
 言下、棄棄がビシリと生徒達を指差した。
「さぁ、撃退士(ヒーロー)出動!! 見せ場だぜ、諸君」


リプレイ本文

●イイモンとワルイモン
 夜。彼方のネオンと喧騒と、自動車が通る音。
 その路地裏にて。冬に冷え切ったアスファルトを蹴る靴音が慌ただしく響いていた。
「無事ならいい……けど、例え何があっても死なせない」
 この先の何処かに居るのであろう子供達を案じ、黒髪を靡かせ走る九条 朔(ja8694)が呟いた。
 未来ある子供達を、絶対に救ってみせる。柊 朔哉(ja2302)も決意と共にロザリオをぎゅっと握りしめた。
「主よ、どうか御加護を……!」
 ヒーローに憧れて、夜へと繰り出した子供達。何も知らないが故に。この世界の『良い面』しか見た事が無いから。
 子供らしい思考ではある、と穏やかな目をした神埼 煉(ja8082)は思う。だからと言って全てが許容される訳ではないけれど――尤も、死なす訳にもいかなくて。
「子供のごっこ遊び、であれば咎めるのも気が引けますが……アウル能力者相手でなくても危険な行為ですね」
 久遠 冴弥(jb0754)が言う。叱る必要もある、だがそれは安全な場所で、愛情を持って行われるべきである。
「急ぎましょう。早めの保護に越したことはありません」
 夜の闇には何が潜んでいるか分からない――先ずは彼らの安全を確保せねばならない。
 その一方で。
「ひーろー、か……」
 疾風の如く。一歩の度に墨焔を奔らせ加速する中津 謳華(ja4212)が夜の街を駆け抜ける。
 その火を眼下、背から生やした光の翼を羽ばたかせるのは不動神 武尊(jb2605)。その傍にて建物の屋根から屋根を軽やかに走るのは彼が呼び出したスレイプニルだ。
 やれやれ、と思う。とっとと見付けて帰りたいものだ――そう思い、ふとやった視線。
「……!」
 高い位置から周囲を見ていたからか、一番にそれを見付けたのは武尊だった。
 それ、とは。

 通り魔に立ち塞がられ、腰を抜かし絶望の表情を浮かべる四人の子供達。

 最悪な光景だった。天使は傲慢、悪魔は下劣、人間は脆弱、そんな偏見を持つもののこの天使には『赦せぬもの』がある。『弱者を虐げる者』。何人足りとも赦せ得ぬ。故に反吐が出るほど不愉快な光景だった。
「中津! 2時の方向だ!」
「……承知した」
 天使の言葉に頷いた謳華がぐんと加速した。走る。走る。そして。そして。その果てに見えたのは――子供がへたり込んでいる――そのの柔らかい頭蓋骨を粉砕せんと振り下ろされる無情なバール――ほぼ反射的に、武人の身体が動いた。

 鈍い音が響く。
 
「――随分楽しそうじゃないか。俺も混ぜろ」
 子供と凶器の間に割り込んだ結果。無言で搗ち合う視線。黒焔を纏う謳華が鋭く繰り出した『爪』こと肘の墨焔なる一撃:薙打爪葬と、重く重く叩き下ろされたバールが交差し拮抗しあう。
 その瞬間には謳華はもう、全てを理解していた。保護対象である子供達は、目の前にいるこの男によって酷い目に遭わされた事を。そしてこの男――無感情の目で謳華を見遣る者こそ、アウル覚醒者の通り魔である事を。
 拮抗状態から力を往なす様に圧し払う。通り魔が飛び下がる。その男をきっと見据え、謳華は古武術『中津荒神流』の構え――即ち腕を組んだままやや半身になる構えを取った。
 ……嫌な『匂い』だ、と思う。彼はその場の雰囲気や人の感情等を総じて『匂い』と呼ぶ。そして、この場の匂いは。目の前にいる無言の男が発する匂いは。最悪だ。同じ人間だと認めたくない程に。
「またせたな、ヒーロー……助っ人の到着だ」
 されど声は努めて冷静。子供達へ安堵させる言葉を、目の前の敵には宣戦布告を。
 わぁぁっと子供達が泣き叫ぶ声が背後から聞こえた。痛いよー、怖いよーと。子供達の心には恐怖が一杯で混乱している。そんな彼等を怒鳴りつけたのは、
「その顔は何だ? その目は! その涙は何だ!! そのお前の涙で……この地球が救えるのか!?」
 ヒーロー、ヒロイン、だろ? と。駆け付けた皇 夜空(ja7624)の言葉。
「フン、自身よりも弱いものしか襲わないような下衆がとりそうな手段ではあるな?」
 ふわり、翼を畳んで通り魔の後方に着陸した武尊は通り魔を一睨みし、それから子供達へと目を移した。
「そこの小さいの。お前達はヒーローだったっけな。だったら……お前達は弱くないな。今、どうすれば……わかるな」
 返事は無い。混乱している目が、撃退士と通り的を交互に見ている。
「遅かった、ですか」
 同時に到着した冴弥は歯噛みする。子供達は既に通り魔と遭遇していたとは、嫌な予感が的中した――こんな時ぐらい当たらなくてもいいのに――思いつ、布都御魂。神代三剣の一振りの名を受けたスレイプニルが現れ嘶く。
 その嘶きに、目の前の出来事に、ただただ驚き震える他に無い子供達。だがそんな彼等を優しく抱きしめたのは朔哉の両腕。嗚呼、と安堵の息を漏らしながら。
「無事で良かった……! 助けに来たよ、私が傷を治してあげるね」
 子供達はようやっと状況を理解したのか。わんわん泣きながら朔哉にしがみ付く。それから口々に言うのは、「助けて」と。「死んじゃう」と。腹を抱え口から血を吐き、動く事もままならない男の子を指差して。
 なんて酷い事を――湧き上がる激情を唇を噛んで抑え込み、朔哉はその子へ素早く手を翳した。
「もう大丈夫。頑張って、死なせないから」
 絶対に。絶対に。この手は癒す為にあるのだから。掌より瞬く優しい光は奇跡と成って、少年の身体を包み込む。彼は気を失ったままだが、激痛に歪んでいたその表情がふっと和らいだ事から一命を取り留めた事を察する事が出来た。
 その傍らでは、朔哉と共に駆け付けた朔が少女の折れた脚に応急手当を施していた。完璧に治す事は出来ないが、一先ず痛みを引かせる事には成功したらしい。イタイイタイと泣き叫んでいた少女の声が止まる。
 真っ赤に泣き腫らした目。震えている子供達。朔は、彼らをそっと抱き締めて。
「痛かったね、怖かったね……痛い傷は、すぐ治します。怖い人は、やっつけます。だから、安心してください」
 努めて優しく、穏やかに。
「ヒーローは、一人じゃない……君達みたいに、仲間がいる。……だから大丈夫です」
 ね? と。その言葉に、返ってきたのは一層の泣き声。安堵から来た声。大丈夫。大丈夫。頑張ったね、と。朔と朔哉は彼らを優しく宥めつつ、抱き上げると通り魔から距離を取るべく行動を開始した。
 だが、それを気に食わないのは通り魔である。
 振るわれた凶器は衝撃波を巻き起こし、目の前の謳華・夜空を巻き込んで一直線に彼等を狙った。
「! ……伏せて!」
 咄嗟に、朔哉が盾を構え衝撃波を受け止める。その余波が子供達を傷付けぬよう、朔は彼等をしっかり抱えその背で護った。
「いいかい、良い子達。私達の傍を離れないようにね」
 飛び散った衝撃に全身を浅く切り裂かれつつも、朔哉は子供達と共に更に通り魔から距離を取る。
 今は取り敢えずヒーロー云々は二の次だ。彼等を助け、親元に返す事が朔哉の最優先事項であった。
 一先ず子供達は安全か――通り魔の背後、煉はガラントアーム【瑞鶴】で武装した拳に陽炎を思わせるアウルを纏い、鋭く間合いを詰める。そして振り抜くは、愚直なまでに強靭な拳の一徹。殴り飛ばす。
「失礼。ここから先は通行止めですので」
 刃の様な鋭い目つきに、鋼の様に冷静な声。それでは、護り、砕きましょう。拳を搗ち合わせる。
「貴方の相手は、私達ですよ」
 スレイプニルに跨った冴弥の声が通り魔の頭上より降り注ぐ。召喚獣の唸り声が低く轟く。通り魔の目を子供達から逸らさねば――斯くして冴弥の目論見は成功し、ゆらりと立ち上がった通り魔が自分の影をバールで撫でた。溢れる影が通り魔を取り囲む撃退士へと荒れ狂う。
「ここまで、あからさまにケンカを売られて黙ってやられているほど我々はお人好しではない……『コキュートス』ッ」
 自らの血で赤く染まりながら。凍てついたその心が全て凍り付かせんと牙を剥く。同時に謳華も別角度から踏み込むや、『爪』と『牙』を繰り出した。
「力に溺れた大馬鹿者が……つまらん。貴様はそのまま溺死しろ」
 ぶつけるは一切の感情が介入しない純粋なる殺意。吹き荒れる絶対零度。加減も遠慮も必要無い。
「腕や足の一本二本、人のものを折ったのだから折られる覚悟位はあって当然だろう?
 力無きを力在る者が蹂躙せし報い、しかとその身に刻んでくれよう」
「脆弱な人間の言葉に頷くのは不本意だが、俺も同じ気持ちだ」
 流水の両刃大剣を素早く振るい、武尊の視線が通り魔へ向けられる。立て続けの攻撃に傷を負いながらも表情一つ変えない人間。
 気味が悪い。だから殺す。
「憎しみを流し込めッ! ニヒトバンシィッ!!」
 金色の光を溢れさせる夜空が通り魔に掴みかかった。ぶしゃ。と切り裂けば血が噴き出す。されど通り魔はバールをひょいと振り上げて。
「危な――」
 ゾクリと嫌な予感がした冴弥が声を奔らせた瞬間、振るわれたバールから大爆発が引き起こされる。爆風。爆煙。近くにいた撃退士を力尽くで薙ぎ払い意識を刈り取る荒技。
 冴弥はそれをスレイプニルの首にしがみ付いて耐え、硝煙の中で目を凝らした。そして。
「――布都御魂!」
 その名を呼ぶ。命令内容は言わずとも分かるだろう、事実召喚獣は名前が呼び切られる前に空を蹴り、疾風の様に素早い攻撃が硝煙を、そしてその中に居た通り魔の身体を鮮やかに切り裂いた。
 ぐらり。鮮血を散らす男の身体が揺れる。そしてその隙を煉は見逃さなかった。
 阻――腕に纏ったアウルで防御をした彼の負傷は少ない。防衛戦闘。とは言え攻めが不得手でもなく。その無欠さは城塞が如く。踏み込んだ。振り抜いた。陽炎を纏う拳の一撃。
「……」
 壁に叩き付けられた通り魔の口からごぼりと血が漏れた。めり込んだ壁から身を起こしながら男は周囲を見る。どこもかしこも撃退士達に塞がれている。しかしその顔に恐怖は無く、絶望も無く。
 振り上げた手。
 が、鮮血を撒き散らす。
 子供達の安全を確保し、舞い戻った朔の武器糸が通り魔の手を鋭く切り裂いたからだ。
「……そうやって、あの子達を殴ったのですか?」
 冷徹な、冷え切った怒りの眼差しが弾丸を込められた銃口の様に向けられる。
「答えがどうであれ、彼らはもう家に帰る時間です。……その手を、私は赦しはしない。
 撃退士でもなんでもない……あんな子供達を傷付けて、図に乗ってるんじゃないですよね? ……だとしたら、それは思い上がりもいい所です」
 ざわ、と夜風に黒髪が揺らいだ。不吉を告げる烏が翼を広げるが如く。
「天魔相手の死闘も、同士との研鑽も知らない悪役未満、素人以下の端役が……本物のヒーローがどういうものか、私達が教えてあげます」
 それを遮る様に振り上げられたバールは、割って入った煉が阻によって受け止めた。堅いもの同士がぶつかり合う音。
「降参して下さい。……と言っても、聞く耳持たずでしょうが」
「忠告――いえ、『警告』は、しましたよ」
 煉がバールを払い除けた直後に、冴弥が跨るスレイプニルが死角を突く一閃を頭上から放つ。
 転倒した男。その頭を掴んで持ち上げ、至近距離にて謳華は通り魔を睨め付けた。彼自身、通り魔の攻撃に満身創痍だがこんな相手に倒れる訳にはいかない。
「立て。……これしきで赦されると思うなよ」
 目の奥に燃える焔。黒い焔。どん、と震脚と同時に叩き込まれた『爪』が、温度無き殺意を孕み込んで通り魔の鳩尾に叩き込まれた。
 爆ぜ、吹き飛ばされ。
 斯くして通り魔が背中から『着地』した所は――武尊が構えた大剣の切っ先で。
 ぞぶり。
 通り魔の身体が巨大な刃に貫かれた。磔刑。血飛沫が散る。
「お前のやったことは万死に値する。だが……俺が裁くに値しない。お前を裁くのはお前と同じ人だ」
 獄中で俺の顔を思い出して恐怖に怯えろ。冷たく言い放ち、天使は召喚獣に命令する。頷いたスレイプニルは蹄を高く掲げ、通り魔の頭部目掛けて――

 ぐしり。

●正義は勝つ
 路地の外。朔哉は怖い思いをした子供達を優しく抱き締め、その頭や背を優しく撫でていた。
「良いかい、子供達。夜はね、自分達が安心して身体を休める時間だから。外は出ちゃ駄目だよ?」
 昼間にやるなら良いかも知れないけれど、と言った彼女の言葉に子供達は顔を上げ、頷いた。ごめんなさい、と。もうこんな事はしない、と。
 スレイプニルに乗って仲間達と戻ってきた冴弥はやれやれと安堵に胸を撫で下ろした。頑張ってくれた召喚獣を労う様にその首をぽんと撫で、召喚を解除すると子供達へ口を開き――
「……、」
 否、これ以上言葉は不要か。ぐしゃぐしゃに泣いてはいるもののもうパニック状態ではないし、しっかり反省してくれたみたいだ。だから、言葉の代わりに彼らの頭をふわりと撫でる事にした。
「……お前達は恐れというモノを理解した」
 子供を怯えさせちゃ駄目だから、と朔に応急処置され煉に血をしっかり拭われた謳華が子供達の傍に立つ。
「その恐怖を克服した時、立ち向かう為の勇気が生まれる……がんばれよ、ヒーロー」
 差し出す手製の饅頭。それを受け取り、子供達はしっかりと頷いた。その真っ直ぐな目に宿る光は、幼いながらも逞しい。

 ややあって、その場に救急車と子供達の親がやって来る。
 無事で良かった――涙ながらに子供達を抱き締める彼らを、見。朔哉は話しかける。子供達を出来れば怒らないで欲しい、と。注意するぐらいで止めて欲しい、と。
 目じりを拭う彼等は「はい」と頷いた。それから、「ありがとうございます」と。彼らにっては、子供達の無事が何よりも優先であった。
 良かった――と朔哉は思う。そして最後に、子供達へ。
「お母さんとお父さんに愛されている事が、解ったかな?」
「うん……おねえちゃん、ありがとう!」
「本当に、何とお礼を申し上げたらよいか……」
 親子からの感謝に朔哉は照れ臭くなって――微笑んで、こう言って、誤魔化しておこう。

「……貴方達が無事で、本当に良かったよ」



『了』


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: 神との対話者・皇 夜空(ja7624)
   <通り魔から強力な攻撃を受けた>という理由により『重体』となる
面白かった!:4人

茨の野を歩む者・
柊 朔哉(ja2302)

大学部5年228組 女 アストラルヴァンガード
久遠の黒き火焔天・
中津 謳華(ja4212)

大学部5年135組 男 阿修羅
神との対話者・
皇 夜空(ja7624)

大学部9年5組 男 ルインズブレイド
重城剛壁・
神埼 煉(ja8082)

卒業 男 ディバインナイト
迫撃の狙撃手・
九条 朔(ja8694)

大学部2年87組 女 インフィルトレイター
凍魔竜公の寵を受けし者・
久遠 冴弥(jb0754)

大学部3年15組 女 バハムートテイマー
能力者・
アーデルベルト・シュルツ(jb2334)

大学部1年75組 男 バハムートテイマー
元・天界の戦車・
不動神 武尊(jb2605)

大学部7年263組 男 バハムートテイマー