●忍び寄る魔の手!
「ふふふ、ホラーゲームで敵を観察して勉強してきた私に隙はありませんよ!」
デェン。頭に斧が刺さった血塗れのゾンビ兎、兎吊 卯月(
jb1131)が廃墟の野に立つ。出ウサ。出モフ。紫ノ宮莉音(
ja6473)はそんなもふもふが気になるが、
「堂々とゾンビの振りをして女子にタッチ、しかも噛み付きOKとは……労働とは素晴らしいな」
等ととても澄んだ瞳をしている久我 常久(
ja7273)の様子がおまわりさんこいつですなので近くで様子を見ておく事にした。女の子に迷惑かけそうなら阻止しなきゃ。あとぽんぽんもちもち。
「せっかくの文化祭、たくさん楽しんでもらわなくちゃ。……どう? いい感じかなー?」
莉音が身に着けるパーカーは襲われた風に所々が引き裂かれ、血糊が着いている。似合ってるぞ、とサムズアップしたのはギィネシアヌ(
ja5565)だ。
「撃退士の力のアッピルをしつつ、怖がって貰えるようにひと工夫するのぜー!」
アッピル(違)だけど、気にするな!そんなギィネシアヌのゾンビファッションは、でんでろりんなゾンビマスクに血糊着き制服。口には柔らかな牙のマウスピースつけて準備万端!
「うーん、けっこうむずかしいなぁ」
一方でエルレーン・バルハザード(
ja0889)はゾンビらしくしようと絵の具の青を顔に塗っていたが、上手くいかず……
「まあいいや、こうしとけばみんなわかるよね」
ペンで頬に、『ぞんび』の文字。しかも丁寧に両頬に。
「もぞもぞ、もぞもぞ……うー! やー! たー!」
謎の意気込みで気合十分。エルちゃんマジぞんび。
「姫宮うらら――屍人となりて頑張ります」
凛と立つ姫宮 うらら(
ja4932)。ゾンビメイクのバッチリで、何処から見てもゾンビである。
(ところで、この白くてふさふわした耳や尻尾は如何なのでしょう……?)
もふもふ。可愛いからOK。
「ふふ、僕の天才的なゾンビテクニックで忘れられない思い出をあげよう」
血糊で汚れた布を縫い付けズタボロ姿のクイン・V・リヒテンシュタイン(
ja8087)は眼鏡をクイッと整える。
「ゾンビか……ヒーローよりも断然やりやすいのは、何でだろうな……」
眼球飛び出しメイクにボロ服装の山木 初尾(
ja8337)。どこでも噛み付いてやるよ、とゾンビ全うゾンビオアナッシング。
「さぁ、張り切っていこーですー」
みんな楽しければ多少の事は気にしちゃダメなのですーとアクア・J・アルビス(
jb1455)は意気揚々、自分らしく楽しく盛り上げていこうじゃないか。
準備OK。お客達が入って来る。さぁ始めようオブザデッド。
「楽しい楽しい時間の始まりなのですー」
●這い寄る恐怖!1
あそこに何か居る、と廃墟に立ち入った者の一人が指差した。
そこには叢の中、丸くなってすやすやとお昼寝中(死んだフリ)をしているうらら――目を擦りながら起き上る。振り向いた。ニコリ。
「がるるるるる……!」
唸り声と共に獅子の如く。逃げ始める者を手足をズルズル引き摺り追い掛け始める!
と。そこへ颯爽と生者のフリをした常久が飛び出した。
「う、うわぁー!! お前等も逃げろ! ここがワシが食い止める! だから、行くんだ!」
立ち塞がる。そんな彼に、うららは呻って牙を剥いた――ゾンビが増えるという恐怖感を演出する為、しかし常久にとっては女子に噛まれたいが為。
「ガァアア!」
うららにとっては人を噛むなど初めての試み。がっぶり。常久のもちもちお腹。ギャァ〜と常久は悲鳴を上げるが、その顔は滅茶苦茶笑顔だったそうな。
「助けて! 嫌だ、助けて!」
常久が噛まれる一方、同じく生者のフリをしている莉音が尻もちを突いて恐怖の表情を浮かべる。牙を剥くうららがにじり寄る。そして、かぷっと。常久でがっぶりやった反省を踏まえて歯形が残らぬように。
「うあ゛あ゛あ゛あ゛!」
廃墟に響く断末魔――莉音がフェイスマスクを外せばゾンビメイクがテーレッテー。常久と共にむくりと起き上がる。因みに常久はブリッジでエク■シスト状態だ。ゾンビだけど気にするな。そんなに差が無いわ。たぶん。ほうまんなぽんぽんで前が見えないけど気にするな。
「「「うがぁああ!!」」」
三体のゾンビが生者の血肉を求め、悲鳴を上げる彼等を追い掛け始める。常久が無駄に機敏だ。生者の女子へ全力接近。そして必要以上に揺れるぽんぽん。飛び散る汗。輝く笑顔。割とガチな少女の悲鳴。
「ぐがぁああ労働って素晴らしいあああ」
本音がポロリ! でもそんな彼を迎え撃つのは少女の彼氏っぽい少年だ。模擬鉄パイプ(発泡スチロール製)を構える。しゃらくせぇ。全力突進ぽんぽん体当たりをぶっかます常久であった、が! 躱される! そして少年の背後を狙おうとしていた莉音の顔面にぽんぽんが!
「ぐはぁっ」
頽れる莉音であった。だがしかし、インパクト時――もっちりしっとりうっとりぽんぽん。常久ぽんぽんにしがみつく。うっかりモチモチの魅力に気付いてしまった。
「り、莉音! 邪魔すんじゃねぇ!! これはワシの聖戦(ホーリーウォー)なんだよ!」
「がおー」
「ちょっ 待っ らめえええ」
でもその間に鉄パイプで殴られて崩れ落ちました。痙攣ビクンビクン。うららは武器に対し常の様に睨みつけてしまうが、ぺこっと殴られれば「きゃん」と獣(?)らしい悲鳴を上げてパタリ。
一方で逃げていた生者は人工池に辿り着く。立ち止って息を整えている。
(来たな……!)
ぷかぷか。水面の眼鏡が不敵に笑んだ。因みにこれは池に潜んでいるクインが『眼鏡が濡れるのが嫌』という理由で水面から出しているのであって、決して彼の本体ではない。
ここでクインの考えた最強の計画↓
池から不意打ち→生者が驚く間に飛び出し挑発→参加者が襲ってきたら逃走→仲間ゾンビの所まで誘き寄せ一網打尽→ふっ完璧だね!
ところがどっこい、これが現実↓
(さ む い)
さむいさぶいサムシング。池の中は極寒。寒さで震えて眼鏡のフレームがカチャカチャカチャカチャ……気付かれました。粗油訳でだばぁーと自信満々に登場!
「さささむい゛い゛ぃ〜」
スーパーシバリングタイム。色んな意味で台詞に凄みが。そんな壮絶シーンに生者が後退っている。それも気分が良い。だが次の瞬間には、模擬銃(輪ゴム銃)を手にした生者が前へ!
(計画通り……!)
予定通り逃走開始。でも足が遅い&水で濡れた服が重い。あとVS遠距離武器。即ち袋叩き。
「眼鏡はっ! 眼鏡だけは僕が守るっ」
抵抗虚しくやられました。南無。あ、眼鏡は無事です。
30秒後――そこには復活してヨロヨロと生者を追うクインの姿が!
正に迫真のゾンビ! 誰も見てないけど!
その同時刻位だろう、一人の男子生者が謎のオブジェ付近に辿り着く。警戒して辺りを見渡せば、オブジェの前に佇む少女が。しくしく、泣いている。どうしたの、と声をかけた少年へ!
「ぞんびぃい!」
がばー! と笑顔。それはゾンビだった。両頬にちゃんと『ぞんび』って書いてある紛れもないゾンビだ。『乙女系ぞんび』で心配してくれた彼にホの字★という謎コンセプトを打ち立てたエルレーンである
「ぞんびいぃ、ぞーんびー!」
そういう訳で彼を追いたて始めるエルレーン。鳴声は『ぞんび』。ぞんびだから鳴き声は『ぞんび』なのです!(違います)
「ぞーんびぞーんびー!」
そこへ重なるもう一つのぞんび鳴き声。ゾンビって何て鳴くのか分からなかったギィネシアヌである。
「ぞんびー! ぞんびー!」
「ぞぞんびーぃぃ、ぞーんびぃー!」
ゾンビ連呼する謎ゾンビ二体から追いかけ回される少年、マジ南無。
「く、来るなァァァ」
落ちていた模擬銃を拾い上げて迎撃。命中。ギィネシアヌは自ら錐揉み大回転のオーバーリアクションでぶっ飛び、エルレーンも転倒アクション。
えっコレ輪ゴム銃だよね。ギィネシアヌのアクションに驚く彼だったが、それは罠。驚いたその隙に、ゾンビ連呼しながら尺取虫の如く地を張って襲い掛かるエルレーン。因みに転んだけど顔は汚してないぞ、だって乙女だもん★
「ぞんびぃ、ぞ……ぞんびっ」
エルレーンの思いっ切りジャンプそして背中から無理矢理ハグ。告白シーンだそうです。勿論がぷーと噛みます。ええ。
(なんて策士な俺!)
鳴り響く「ぞんびー」な鳴き声。に、莉音がちょっと笑いだしそうになった。とっても可愛い故。そして次の標的を追い掛け始めたエルレーンを常久が追い掛けようとしたが、うららとエルレーンのおしおきガブーでテーレッテー。
一方で薄暗い校舎――懐中電灯が足元から照らし出したのは兎ゾンビ。逃げません隠れませんと玄関で仁王立ち。出た、と息を飲む生者の前で卯月は屈伸、逃げ出す彼等を鼻歌交じりの歌とスキップで追い始める!
「人参大好き兎さん〜、私も人参大好きです〜、何故なら人参には人って字が入ってる〜♪ 人参と書いて人間参加〜人間惨禍〜♪ ふんふんふーん」
調子っぱずれでゆらゆらふらふら。マジホラー。ひたひた足音。隠れた者の傍を通り過ぎる――と見せかけて。
「人参、見つけましたよ…?」
安堵させた瞬間、視覚から。がぶり。悲鳴。隠れていたもう一人が叫びながら模擬銃を向けた。
「こんないたいけな兎を虐めようというのですか! 私を! 食べて! 毛皮を剥いで! もふろうと! 言うのですね! よろしい! ならばお食べなさい! そして感染するといいです!」
ばたーん。そしてガン見。マジホラー。因みにちょっとだけモフられました。
「私に実験されるですー」
白衣も顔も血糊だらけに、実験事故で逝った科学者ゾンビのアクアは低い声でケラケラ笑った。そこは理科室、怪しげなモノが辺りに散らばっている。
「ウフフ、安全は保証しないですー」
捕まえて理科室に連れてってやる、と伸ばした手。掴む。ずるずる引き摺って行く。悲鳴。が、そこを模擬ナイフ(ダンボール製)がぶすっと。
「うあー、やーらーれーたー♪」
大袈裟にくるくるバターン。
そんな彼女を倒し、息を弾ませる生者が次に辿り着いたのは保健室だった。破れたカーテンの隙間から見えたのは……ベッドで眠る初尾。むくりと起き上がる。ゆらゆらふらふら。不安定に首と膝が動く。振り返ったその顔は牙を剥き涎を垂らすが、
(……汚いな)
ハンカチでぐしぐし。改めて逃げ始めた生者を追う。目玉でろんメイクで視界が悪いが気にしない。転んだりするが気にしない。彼方此方から悲鳴が聞こえてくる……仲間達が楽しんでいるのは何よりだ。不毛な争いをしてるより全然いい。なんて思いながら、黒板を引っ掻いて嫌な音攻撃。
そして生者達は屋上に辿り着いた。
そこに待ち受けていたのは――
「♪ぞーんびぞんび ぞーぞぞぞーんびぞぞぞんびー♪」
某ザイルの某トレインをするゾンビ9体が一同を恐怖のズンドコに叩き込む!
うららは獣の声で、アクアは低い声で、クインはボトボトで震えながら、初尾は無表情で、莉音はゾンビらしく白目で、ギィネシアヌはダークな笑みで、エルレーンははじらいの乙女で、卯月はもふもふ、そして最後尾の常久は色々ハミ出ている。
シュールだ。ものっそいシュールだ。無駄にスタイリッシュだ。
しかしそんな様子に生者達が興味を引いてしまったが最後。
「ぞんびーー!」
ギィネシアヌの「かかれー」という号令と共にゾンビ達が襲い掛かる! 怖がらせるのは全力で。かごめかごめ。360度包囲。うがー。ぞんびー。飛び掛かる。大絶叫。
そのどさくさに紛れてクインは卯月にもふっと飛び付いた。何故ならボトボトで寒かったからだ。常久のぽんぽんや卯月のもふもふが妖しく誘っている様に見えたからだ。仕方ないね。もふもふ。よく見たらうららももふもふしてた。仕方ないね。そして卯月はさり気無くクインの眼鏡に手を伸ばすが、
「ふっ、君の狙いは僕の眼鏡がお見通しさっ! 僕のッ! 眼鏡にはッ! 二度と触らせないッ!!」
卯月の手をぺしぺし叩いて牽制する! しかし卯月の手が颯爽と彼の眼鏡を鼻眼鏡とすりかえる!
「……ちょっ、返せよーっ!」
「どうぞ」
どうぞの手の先には、ギィネシアヌ。互いの宿敵。蛇女はニィと笑う。彼女は彼と同じ依頼を受けた時には既に作戦を練上げていたのだ。
(メガネフェチなクイン君の絶望する顔が今から瞼に浮かぶようなのぜ……!)
フフフと悪い顔。
「『眼鏡を割る』と心の中で思ったならッ! その時スデに行動は終わっているんだッ!」
パリーン!
「ウワアアアア」
大絶叫。頽れるクイン。そんなクインの肩を莉音はポンと叩き、
「きっとモフモフやモチモチが癒してくれるよ……」
くいっと親指で指した方向には、卯月(もふもふ)と常久(もちもち)。
もふもちするっきゃない!
忍び寄る魔の手!
「「アッー!」」
ぞーんーびー。
●試合終了
屋上のかごめかごめ作戦で一般人役は皆ゾンビになり、ゲームオーバー。あと卯月と常久ももちもちもふもふされてぐったり。クインは鼻眼鏡で絶望ポーズ。
それでも、参加者もゾンビ役も笑顔だった。「面白かったよ」「なにあれ、最後のダンス!!」「鳴き声、『ぞんび』って!」と参加者は笑いあっている。勝敗よりも楽しんでもらう事、そう心がけていたうららやアクア、莉音には何よりの報酬であった。
「お二人とも化け物を見るような目をされていましたが、屍人の演技、様になっていたでしょうか」
「うん、すっごくよかったよ!」
うららに笑顔で答える莉音。一方でアクアは皆の様子をチェックしていた。寒いから風邪を引いた人が居ないかどうか。尤も、流石に薬などは持ち合わせていないので簡単な対応しか出来ないが。
「お疲れ様です。この時期寒いですからね〜、体調には気を付けて下さいね!」
そんな一同の様子を見、初尾は一つ息を吐く。
「しかし文化祭っていうのは騒がしいな 。早く平常運転に……いや、騒々しいのは日常茶飯事だったか」
最悪だな、なんて。それでも人々は笑顔で、幸福なのです。
『了』