●ケンカドキドキ
夕暮れ、長い影と共に撃退士達は歩く。
「くそぅ! 騙された! ファ●ク!」
「オイ……なんだよオイ……! 別に期待してたわけじゃないけどさ!」
久我 常久(
ja7273)と如月 敦志(
ja0941)は嘆きと共に拳を強く握り締める。
「奇跡も魔法もあるんだよ。でも救いはないね……
しかああああっし! 『エロ』依頼のはずが女子いっぱい! これは……!!」
下品な笑み。おまわりさんこいつです。
「ふふふっ、とりあえず仕事ちゃっちゃと片付けちまうか!!」
悲しんでばっかじゃいられない。気持ちを切り替えねば。対照的に敦志ははぁーっと深い溜息を吐いた。
「そもそも棄棄先生の依頼がまともな筈なかったわ」
「どういう意味かな」
「アッ 棄棄先sアッー!」
現れた棄棄にヘッドバットぶっかまされました。そんな教師に姫宮 うらら(
ja4932)は一礼を。
「先生、此度はよろしくお願いします」
「オスうららちゃん、気楽にな〜♪」
ぐったり白目の敦志を肩に担ぎ、うららの頭を撫でて歩き出す教師。その背中を、眺め。
殿方は背中で語るべし。
彼はどのような人物なのか。何を背負う、背負える人物なのか。
前を向くうららの一方で、ふぅと息を吐いたのは権現堂 桜弥(
ja4461)とギィネシアヌ(
ja5565)。
「別にエッチな依頼だと思って来た訳じゃないわ……どんな依頼か気になっただけよ……」
「残暑厳しいから仕方ないな……断じて釣られたわけではないのだ」
暑さでやられたのが教師だけな訳がなかった。
「エッチな……?」
「ふしだらな殿方や天魔を叩き潰す依頼やと思ったのですが違うのですね?」
「ん。けんかりょーせいばい。お仕置きだって」
その様子に不思議そうに首を傾げたのはユリア・スズノミヤ(
ja9826)、常通りなのはうららにコニー・アシュバートン(
ja0710)。
「ふ、不良たちがなんぼのもんぞ! 言い分は聞くが吹っ飛ばしてやるのぜ!」
やるぞーと深紅のマフラーを靡かせて、ギィネシアヌはゴーグル装着。エロについては言及しない。そんな彼女にジェーン・ドゥ(
ja1442)は咽の奥でくつりと笑んだ。
「えっちなのはいけないと思います、と言いに来たのだけれど」
これはこれでアリというものだ。
「ええ、ええ、不良をシバく方が面白そうだもの。しかし、しかし、しかし不良同士の喧嘩とは何ともまあ可愛らしいことだ」
別に喧嘩自体に思う所は無いけれど……自分にめらめら対抗心を燃やす少女、ギィネシアヌと一緒に遊べるのは悪くない。
「でもあれね……撃退士になっても不良っているのね……まったく、これならまだ残念な人達の方がましだわ」
肩を竦める桜弥。その装備は、マジカルステッキ&ドレス&ネコ耳。
もしかして:コスプレ
「なにぃ!? 魔法少女だとー! そんなばかなー!!」
常久の圧倒的棒読みツッコミ!この学園に着いた時には既に常識など崩壊していた!
「誰がバカよ」
そんな常久にマジカル★撲殺。倒れた常久は先生がぽんぽんもちもちしときました。
「さぁ、先生と一緒に制裁に行きましょう!」
実はやる気満々な桜弥なのであった。
「あんまり悪いことする子はピコピコしちゃうよー……?」
「安心しなユリアちゃん、常久は悪い子じゃないんだ、ちょっとカルマが深いだけなんだ」
倒れた常久の傍にしゃがみ込んだユリアに、棄棄の菩薩スマイル。
(先生の『教育的指導』って……どんなのだろう? ……先生にピコピコハンマーしたら、どうなるのかな?)
やってみたくてウズウズはするが、やめておいた方がいいかも。なんて。
そんなこんなでスタートです。
●ケンカハナビ
ンだとゴルァやんのかボケェ等、それらしい声が聞こえる。見遣れば、一触即発。ガンとヤジを飛ばし合い。
「ちょっと待ったァ!」
そこへ颯爽と、マフラー靡かせ参上したのはギィネシアヌ!唐突な登場に不良達は誰もが「何だアイツ」と彼女を見遣る。その視線に対し、少女は不敵にニヒルに微笑み一つをくれてやる。
「このクソ暑い中、ご近所さんに迷惑かけるんじゃないんだぜ!」
「ん。近所迷惑、だよ」
コニーはナックルバンドで固めた拳と拳を搗ち合わせると、更に現れた魔法少女もとい桜弥がシャランラーと決めポーズ。
「撃退士なのに喧嘩? 貴方達はお馬鹿? でも大丈夫よ? 私が貴方達を制裁してあげる♪」
何だとォ。高まる怒気。身構える全員。
「そういうこっちゃ。まぁ〜派手にやろーや?」
そして棄棄が煽る様な物言いで放つや、誰も彼もがやる気満々。敦志は苦笑を浮かべるも、ニヤッと笑って拳を構え。
「お前らの相手はこっちでしてやる。更生させてやるから覚悟しろよ?」
現れた存在、放たれた言葉、そして互いのヘッドが、叫ぶ。
「「まとめてやっちまえ!」」
斯くして切って落とされるは戦いの火蓋。ワァッと一斉に鬨の声。
「おやおやこれは、なんともなんとも賑やかな事で」
それすら愛おしいのだけれども、と誰でもない彼女は笑みを讃える。今日の所は首狩りお休み、手に持つのは釘バット。
「これでも、これでも、これでも子供の頃は地元の野球チームの3番打者を張っていてね。バットさばきには自信があるのさ──ええ、ええ、勿論嘘だけどね」
カラコロ、舌で転がすのは甘い飴と真っ赤な嘘。
「はーい、お仕置きの時間だよー」
ユリアはピコピコハンマーを振り翳す。微笑みにこにこ、胡蝶の様にひらひら、そしてピコピコ。それは慈悲心。不良達がもう人を傷つけたり、その人自身も傷つけられない為。少しでも多くの不良に改心して貰えたら。
だがそんな彼女の気持ちとは裏腹に、不良達は「馬鹿にしてんのかッ」とカンカンだ。拳を振り上げる。が、
「殴るの……? 殴る、の……?」
怯えた目、じっと見上げる大きな瞳。不良だって男の子。殴れる訳なくって。
「てい」
結局頭をピコーン。
わぁわぁ、喧嘩の鬨が響く。
最中に奏でられるは魔法少女のテーマソング。桜弥のステッキから流れる音楽。
音楽に合わせ、笑顔の桜弥はステッキでぽこぽこ。先日見た魔法少女アニメの影響をうけまくりである。
(コスプレで戦えるなんてなんてステキなんでしょう! 今日は血を見ずに済みそうだしね♪)
「あら? 危ないわね。もう何も怖くない!」
シルバートレイで防御しつつ、フラグ入りました。
「ふはははー! この紅の蛇、格好つけでコート着てるようなジェーンには負ける訳にはいかぬッ」
一方で、相手から距離を取る様に立ち回りつつギィネシアヌはスリングショットで滅多撃ち。また一つ狙い、撃つ。蛇の目から逃しはしない。
「1、2、3……どうだ見たか、この俺の腕前!」
倒した数を競っている。相手は勿論ジェーンだ。
そんなギィネシアヌの近くの敵を殴りつけているのは、美女だった。誰だお前。棄棄がそんなツッコミを入れかけた所で彼女の背中に不良のケリが入る。ドロン。それは変化の術。変身が解け、振り返ったのは――
「女の子かと思った? 残念! ワシでした☆」
常久さんでした☆次の瞬間に迸るデジャビュ!
(そういえば誰かの誕生日、風呂場で……)
『女の子かと思った? 残念! 先生でした☆』
常久は 考えるのを やめた
(とりあえず仕事仕事……)
分身の術を使いつつ、しかし紳士心は忘れない。
「ぎーちゃん、お前さんの事はワシが守ってやる……だから後で番号交換しよう! それからデートだ!」
「え、今なんて?」
「くっ……ジェーンちゃんには別枠で何かおごってやるからな〜! ワシ、約束は守るから!」
「おやおやおやまあ、蛇の眷属のお嬢さん。油断し過ぎじゃないかしら」
「あっ! べ、別に態と隙を作ってやる事でごにょごにょ……」
遁甲の術による背後からの奇襲は効果覿面、ギィネシアヌに投石せんとしていた者を殴り飛ばしたジェーンの笑み。視線を逸らすギィネシアヌ。が、刹那、ジェーンのすぐ傍をギィネシアヌのショットが通り過ぎる。先程倒された者が起き上がろうとしていたが、その一打に今度こそ倒れた。
「ふふん、よそ見厳禁であるのぜ」
教師に恰好良い所を見せたい。格好はつけてなんぼだと思ってる節がある為に、素で格好いいジェーンが気になる。
だからこそ、自分だって恰好良くなりたい!
マフラーで汗ダクダクでも浮かべるはニヒルな笑み、ジェーンと背中合わせ。くすりと笑う。さぁ往こう。
「因みに渡しのコートは便利で素敵な魔法のコートでね。こんなこともあろうかと、さ」
ばふんとぶつける胡椒に一味唐辛子。そしてその隙はギィネシアヌが確実に突く。
(そういえば、そういえば、ギィネシアヌのお嬢さんと倒した敵の数を競って居たのだけど)
数えるのを忘れていた。一杯、じゃ駄目かしら。駄目だろうなぁ。まぁいっか。
「ワシはスルーか!?」
「先生がいるだろ」
「せ、先sアッー!」
常久さんのぽんぽんは棄棄にもちもちされる為にあるのです(迫真
元気な人だ、と教師の背を見、うららは苦笑。でも生徒が大好きなんだなぁと思う。
さて。前を向く。
「あくまで喧嘩の範疇で、ですが。全力を以って叩き伏せると致しましょう」
放つアウトローの雰囲気は不良達の目を惹いた。何だてめぇと寄って来る。振り上げられる拳、が、うららの頬を叩いた。しかし彼女は少しも動じず、口元の血を拳で拭いつ。
「……理由がどうであれ、勝負に割って入った非礼は詫びましょう」
学園の秩序の為、教師からの依頼とはいえ、喧嘩の邪魔に入ったことは事実。その非礼を詫びる意味で、うららは敢えて一発受けたのだ。
その強い意志。真っ直ぐな目。一瞬たじろぐ不良を視界に、少女はリボンをするりと解く。銀の髪を靡かせる。
「恨み辛みはこの場限りで。姫宮うらら、獅子の如く参ります……!」
轟然、一歩、次々と殴り飛ばし蹴り飛ばし頭突きするその様は正に白獅子。身体ごとぶつかっていく勢い。しかし荒々しさの中にも真っ直ぐな美しさがあり、気品すらも感じさせた。
「きゃっ……」
重い一撃に桜弥がドサリと倒れた。隙あり。飛び掛かる不良、の、顎へマジカルステッキ打ち上げ!
「貴方、実践だと死んでたわよ?」
ドレスをはたいて立ち上がる桜弥の微笑みが、黒い。
「喧嘩してる暇があるのなら鍛錬でもしなさい。撃退士の相手は人間? 違うでしょ? そんな事も解らないの? 本気で馬鹿?」
「う、うるせぇーっ」
口ではこう言っているが、大分不良の心にはグサッときたみたい。
「どんまいヒャッハー」
そこに棄棄が横合いからドロップキック。うははのは。
「シッ、」
鋭いステップで攻撃を躱したコニーのカウンターフックが襲い掛かって来た不良の顎を捉え、脳を揺らし、ノックアウト。その小柄な体からは想像もつかない強さにヘッドの一人は舌打ちを。そろそろ「やっちまえお前等」と言えそうな部下も減ってきた。上等だ、バットを担いだヘッドがコニーの前に立ちはだかる。
大きい相手だ。捕まったら終わり。横薙ぎのスイングをバックステップで躱し、踏み込み、打つ。防がれる。攻め込みすぎは危険だと間合いを取る。緊張感。次手の読み合い。
そんなコニーとヘッドを横目、敦志は鼻血を手の甲で拭う。その正面にはマジックシールド、その向こうには攻撃を障壁に防がれたもう一人のヘッド。
「中々いい動きじゃないか。不良やめて真面目に撃退士やったらどうだよ?」
「てめぇが俺に口出しすんじゃねぇっ!」
ヘッドの怒声。直後、不良が敦志を羽交い絞めにした。
あ、やば。
「……っ、」
ペッと吐き捨てたのは血の唾、されどコニーは拳を構える。相手取るヘッドも切れた唇をそのままにコニーを睨む。
刹那、コニーは大きく踏み込んだ――真正面から、それは宛ら捨て身の特攻、トドメと言わんばかり。だがそれは勢いの分隙を伴うもので、
「貰ったァ!」
されど、ヘッドの一撃は空振り。それはコニーの分身。しまった、と思った頃には体勢が崩れていて、コニーが懐に飛び込んでいて、そして衝撃。見事な軌跡を描くアッパーを顎に叩きつけられ、視界暗転。
「ん。名付けると、ファントムトリック?」
さて敦志はどうなったか、タコ殴られてたら大変だ――振り返ったそこには、羽交い絞めにされていた彼。不味い。咄嗟に教師へ手を振った。
「せんせい、へるぷ」
そして敦志の頭部にバットが振り下ろされ、
「青髪の僕ちゃん、大変そうじゃねぇか。言っとくがコニーちゃんの為だからな♪」
「助太刀致します。此れより先、お二人に手出しはさせません……!」
一撃を受け止めたのは、常久とうらら。そして、ヘッドの武器をメシャっとデコピンでへし折った棄棄。
「諸君 やれ」
ヘッドが見たのは、教師のそんな微笑みで……
●アオイハル
さてこいつらはどうしてこんなバトルを始めたのか。
大の字に伸びたヘッドの額に触れた敦志はシンパシーを試みる。そして、苦笑。なんていうか、理由らしい理由も無い感じ。
「ジェーン……やるじゃねーか。あ、格好いいって認めたわけじゃねーからな!」
ギィネシアヌは照れつつもジェーンへ言い放つ。が、当の本人は不良達の顔に油性ペンで落書きなうでした。
「納得いかない? 二人でタイマンする?」
傷付いた者を癒していた桜弥は起き上がったヘッドに提案する。
「色々あるんだろうが、もっと生産的なことにその力を使えよお前ら。さもないと……」
殺気立つ二人の肩を持つ敦志の邪笑。読んだ記憶の中から恥ずかしい話を暴露するぞ、と。
「とまぁそれはさて置き。やるなら、見届けてやるぜ? 先生立ち合いの下でさ」
一転笑顔。顔を見合わせるヘッド。その襟首を掴んでポポーイと放り投げる教師。
「つー訳だ。やれ! 気ィ済むまで付き合ってやらァ俺様は教師で諸君は生徒だからな!」
豪快な笑み。その背に、うららはふっと笑みを浮かべ――思ってた以上に大きな方でした。
(コニーちゃんはしっかりしてんのな〜。下手したらあの拳がワシポンポンアンダーを……)
いや、やめよう。常久は頭を振る。とりあえず終わったし女子全員誘ってデートだ!
「最初から覚悟は出来てたんだろ?」
「できてりゅ!」
「エッ先s アッー!」
そうして、日が暮れて。
棄棄は白目の常久と返り血(相手の鼻血)で倒れた血恐怖症の桜弥をそれぞれの手に抱え、『生徒達』と共に歩いてゆく。依頼した生徒と、不良達。もうあの剣呑な雰囲気は無い、彼等はボロボロになりながらも皆が皆、笑顔だった。
これにて一件落着。
『了』