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マスター:ガンマ
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
形態:
参加人数:25人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2012/07/24


みんなの思い出



オープニング

●スクールのルーム
「諸君、そう云う訳で俺だ。俺ったら俺だ。そう云う訳で風呂に行くぞ、風呂。何でって? そりゃおめーアレだよアレ今日が何日か言ってみ? ん? 7月13日だら? つまり? アレよ? 俺様のお誕生日なんよ? そういうわけだ。祝え!! 分かったな? 分かったよな、うんうん、イイコイイコ。ナデナデしちゃろ。それナ〜デナ〜デ。めんこいのう。ハイ本題に戻りますが今から俺のオトモダチが運営してたと思う銭湯に行きます。御代金はアレだそのオトモダチが何とかしてくれるので問題ナッシングです。おやつは300円までね。あと混浴だからね。エッチでヨカラヌ事をしでかした子には容赦なく教育的指導をぶっこむからね、ごめんね。湯着は向こうで貸してくれるってよ。ん〜と、あと半分ぐらいか……え? あぁ、転移装置までの距離だよ。ま〜可愛い諸君が飽きない為にも先生いっぱい喋るから安心してね。お風呂だぜ諸君。汗さっぱりで世界が嫉妬するYESYESYEEEEEEEESなアレだぜ。……っと、着いたな。それじゃ〜レッツら転移装置。銭湯へいっくぞー★ ばびゅーんだぜ!!」


リプレイ本文

●銭湯に行こう
 っしゃー行くぞオラァ。
 そんな教師の言葉と共に転移装置に放り込まれ。青い中。気が付いたら銭湯の前。
「ふむぅ。銭湯ですかー。 戦闘の疲れをまったりと落としてってやつですね。ふむふむ。 ところで私は銭湯というのは初めてなのですがー、あれですかね! 湯着ってのを着るわけですし、温かいプールみたい?」
 生徒の数を数えている棄棄の傍ら、二階堂 かざね(ja0536)は興味津津。年季を感じさせるが古臭い雰囲気は感じさせない大きな建物を見上げている。
「まー、あれですよ。お風呂だろうと、私はツインテを解きません!」
 きっぱり、はっきり、自慢のツインテが風も無いのにピコピコ。
「……今日は湯治と洒落こむか……」
 首にタオル、手にお風呂セットの入った桶、佐倉 哲平(ja0650)の出で立ちは完全に銭湯の湯治客モード。横目に見遣る教師は「おっしゃ〜遅刻欠席なし、感心感心!」なんてニコニコ上機嫌に笑んでいる。
 今日は彼の誕生日。
 が、個人的な面識や交流はほぼ無いに等しい。ので、特に何かしようとは思っていない。まぁ機会があれば祝辞の一つでも述べる心算だが。
(……そもそも、俺はひとりでのんびりしたいし……)
 なんて、ふらりとお先に建物の中へ。

「皆でお風呂とか……初めてかも」
「銭湯か……。ゆっくり出来そうだ」
 わくわくとした気持ちを抑えきれない様子のレイン・レワール(ja5355)に、「たまにはこういうのもいい」と呟く神埼 煉(ja8082)。一方で、アラン・カートライト(ja8773)は顎に手を添え懸念の表情を浮かべ。
「つうか、俺は刺青があるんだが、銭湯に入っても良いのか?」
「おーう大丈夫大丈夫〜ヤッサン顔負けスカーフェイスの俺様が大丈夫なんだ、それにここの店の奴ァ先生の顔馴染だしナ」
 安心しろって。背中をバスンと叩く棄棄に密かな安堵。自分だけ外で待機とかそんな事にならなくって良かった。
「それは何より。……さっき言った事が理由で日本の銭湯は初体験なんだ。慣れない作法に戸惑っても笑わないでくれ」
「ったりめぇだらー何なら先生が洗ってやるよ」
「いや……それは遠慮しとく」
 なんか目が怖い。それはさて置き、彼は物珍しさから露天風呂に入りたいのだが……日本の風呂の温度は物凄く熱いと聞く。
(西洋で育った俺に果たして耐えられるのか……)
 いざ、色々な意味で未知の世界へ。

「誕生日で銭湯か……」
「誕生日会でもすると思っていたのですが、まさか銭湯に行くことになるとは……さすが棄棄先生、予想の斜め上をいきますね」
「誕生日会を風呂でやろうってのは流石というか何というか、センセらしいのぜ!」
 腕を組み、銭湯とそれにはしゃぐ子供達を眺める強羅 龍仁(ja8161)、先生のご厚意に甘えて日頃の疲れを癒しますためゆっくり風呂を楽しもう、と感心しているマキナ(ja7016)に、ギィネシアヌ(ja5565)も感心した様子。
(さすが噂に名高い棄棄先生です……そう来るとは……)
 ジャパニーズ銭湯で誕生会とは。普通に誕生会では無く銭湯に連れて行ってしまうとは。カーディス=キャットフィールド(ja7927)は戦慄している。
「やーだってさぁアレじゃん? フッツーに誕生会だとさぁ、さも『祝え!!』って感じがして気が引けるやん?」
「先生シャイなんだね〜!」
「そうなんだよひむひむー先生はしゃいでくーるでないこうてき()でたくえつしたぎのうをもつルインズブレイドなんだよ〜」
 と、棄棄は抱っこした蓮華 ひむろ(ja5412)の銀蒼の髪をわしゃくしゃ撫でる。
「わーい! 今日は面白い先生のお誕生日〜! おめでとう〜!」
「おうよ〜ありがとなぁー♪」
 笑う教師。その言葉は聴いているだけで心の成長の助けになるのだろう。彼がいつも加倉 一臣(ja5823)や七種 戒(ja1267)らときゃっきゃうふふしているのを、ひむろは遠巻きに眺めて面白がっていた。一緒に遊びたいなーとずっと思っていた。ので、今日は面白い日!
「棄棄先生、ご生誕記念日おめでとうございます」
「お誕生日、おめでとう、ございます」
 ひむろとカーディスに続き、如月 優(ja7990)はキチリとたお時儀をして祝辞を述べる。
「おうよ優ちゃん! おめありだぜ」
 その頭を、棄棄は容赦なくナデナデわしわし。
(温泉で皆のことを労りながらの誕生会……棄棄先生……デキる男だ……)
 くわわっ。撫でられまくって髪の毛ボッサボサだが。
「おー、棄棄先生の誕生日か! おめでたい」
「ありがちょん若たん!」
 と、若杉 英斗(ja4230)は眼鏡に指紋を付けられまくっている。だが、ブレイブハートはへこたれない!
「たまには『銭湯』もいいな。このところ『戦闘』依頼ばっかりだったし……なんちゃって」
 眼鏡を拭きつつ、ドヤァ。
 (//ゝ^)<座布団ボッシュートだ

 そんなこんなで、いざ銭湯へ。

●魅惑のお着替えタイム〜ポロリもあるよ!フハハハハ〜
「ん、温泉と聞いてつい来ちゃったよ。どんな気持いいのか楽しみだよ。楽しみだから……一番乗りー、とか」
 はにかむ猫野・宮子(ja0024)はいそいそと湯着に着替えている。とりあえず目指せ温泉一番乗り。
 一方、戒に牧野 穂鳥(ja2029)は髪を纏め中。女性が髪を結う仕草は中々どうして艶っぽい。そして戒は頭上に畳んだタオルをセットオン、因みにこれを落としたら負け、という謎の拘り。

 ここまで読んでくれた諸君には、ここが女子更衣室だという事がお分かりだろう。
 そうここはサンクチュアリ。
 そしてそれに踏み入ろうとする罪人一人――

「あ? 男子禁制? 馬鹿野郎! 虎穴に入らずんば虎子を得ずだ!」

 行くぜ、偉大なる聖域【グランドサンクチュアリ】へ……

 不敵な笑みを内心で浮かべた女性スタッフ――に変化の術で化けているのは久我 常久(ja7273)。如何にも私は作業なうですな装いで女子更衣室へ。彼に気付くものはいない。
(ぐっふっふっふ、やったぜ!)
 きっとそこは天国の筈。さぁ行こう。行かないでどうする。
 俺達の旅は始まったばかりだ!
 そして、辿り着いて視界に入った者は。

 ふわり、揺れた桃色の長い髪。
 雪の様に白い肌。
 振り返る瞳もまた薄緋色を湛えており――

「女の子かと思った? 残念! 先生でした☆」
「げぇ!? 先生!!?」
「話したい事はいっぱいあるので取り敢えず表出ろ(笑)」
「まて、話せば分かる。男なら仕方がなかったんや……ほら、罪を憎んで人を憎まずだろ?」
「俺ァ誰も憎んでいない むしろ久我ちゃん あ い し て る ぜ ?」
「せ、先生!? まじで? ちょ……まっ……来ないで下さっ……」
「え、何? 近寄らないでだぁ?? 失礼なヤツだ! こっちこいオシオキ☆してやる!」


 アッー!!


 〜しばらく美しい花々の映像をお楽しみください〜


「ふぅ サテ久我ちゃんのぽんぽんももちもちしまくって■■して■■的な■■したからもう大丈夫だ諸君」
「せんせぇ……質問いっこええかな……?」
「おゥどした戒」
「何 で 女 子 更 衣 室 に い る ん だ ア ン タ !?」
「ガイアが俺に囁いたっていうか……オミーのせいってことにしといて! ごめん! 絶対のぞくする奴がいると思ったから!!」
 ぐっばいばびゅーん。
※因みに先生は生徒の肌を見ていないよ!安心してね。


 そんなこんなで常久は覗き未遂のギルティで簀巻きにされて男子更衣室に連行されて。
「おいオミー! そういうわけで脱げよ!!」
「そういうわけってどういうわけなの……?」
「お前が脱がないならレインを脱がす」
「えっ」
「どうぞどうぞ」
「えっ!?」
「脱げよオミー」
「言われなくってもお風呂入る為に脱ぐからねっ……!」
 絶望ポーズ×2。

「なにィ? ポロリが欲しいだァ!? しかたねぇなぁホレ」
 取り敢えず久我ちゃんの上着めくってもっちりしっとりぽんぽんぽろり。
「やめて! やめてぇぇええ お嫁に行けなくなっちまうぅうううう」
「こんなのぜったいおかしいよ!!(By絶望チーム」

 そんなこんなでお風呂パートいっくよー!

●バス浪漫
 湯煙が漂い、暖かく湿った空気が晒した肌を柔らかく包む。
 広い銭湯だ。その上、貸し切り。
「温泉やっぱり気持ちいいね。んー、ずっと入ってても飽きないかも」
 一番乗り、宮子はまったり露天風呂に浸かっている。室内風呂・露天風呂・サウナ、全部堪能するつもり。
「……ああ、いい湯だ……」
 哲平もまったりのんびり、温泉ではなかった気がするが、それでも暖かい湯船は日頃の疲れを癒してくれるもので。他の皆は銘々に楽しんでいるが、自分は一人でも構わない。
「……風呂に入る時はな、誰にも邪魔されず、自由で…何と言うか、救われてなきゃあダメなんだ。独りで、静かで、豊かで……」
 さしずめ孤独の入浴。うぉォン。

「混浴……」
「混浴……」
「「……」」
 いや、湯着は皆着てるけどさ。英斗とマキナの視界に映るは、湯煙に寛ぐ少女達。
「ぐっ  フ」
「――ッ……!」
 英斗とマキナに甚大なダメージ。英斗は鼻血をブハァと噴き出し、マキナは血が滲む程唇を噛み締めそっと目を逸らした。しかたないね。さっきの久我ちゃんのぽんぽんぽろりでも思い出して落ち着くと良いよ。

「極楽です……」
 温泉スキー魂の歓喜。東城 夜刀彦(ja6047)はまったり気儘に銭湯を楽しんでいる。
(先生や皆の日々の疲れも癒えるといいな……)
 この所大変だったから。なんて思う彼の隣で、優が。
「どうでもいいことだけれど、彦、タオルで髪上げてると女にしか見えないな……?」
 こっそり、ボソリ。優にとって夜刀彦は同姓枠(キリッ
 思わず無言で絶望ポーズ。

「良い湯だな……」
「思ったより、悪くはないな……」
 のんびり銭湯を満喫している千堂 騏(ja8900)に、傍らでアランは初銭湯に何処と無く嬉しそう。
 お風呂はいいものだ。
「あったかいーはふぅー」
「やべぇ……寝そう……」
「……Zzz」
 そして心地良いからうつらうつらかざねはとろーんとした目で、如月 敦志(ja0941)は舟をこいでいたがハッと目覚めるが、桐生 直哉(ja3043)は岩に突っ伏して完全に爆睡している。教師にプレゼントを渡すタイミングをどうしようか考え込んでいたら、KONOZAMA。

「ふぅ……偶にはこうやって、ゆっくりしないとね」
 赤い髪を高く纏め、暮居 凪(ja0503)は肩まで浸かって大きく一息。常の笑顔も何処か解れてほっこりと。日々の疲れが溶けていく、そんな心地。
 傍らで戒は背後の岩に背を預け、静かに目を閉ざし。
(ふふ……湯煙美人☆私……!)
 考えている事はロクでもないが。
「極楽なのぜ〜……」
「うぇーいクラゲーおういえー」
 まーったりするギィネシアヌに、タオルでクラゲをつくっている鬼燈 しきみ(ja3040)。
「ぎーねも作るといいよー」
「お? じゃあどっちがでっかいクラゲ作れるか勝負な!」
「まかせろーいえーい」
 その後、「ぎーねの大きいーぷにぷにー」「そ、そうかなぁ〜……えへへ、なんか照れるぜ」なんていう台詞だけ抜粋すると男性陣が喜びそうな会話が展開されたりしたとか。だがタオルだ。大事な事なのでもう一回言うが、タオルだ。
(……タオルか……)
 冷たいシャワーを浴びつつ、ションボリ非モテ騎士心の呟き。

 一方で煉ものんびり湯に浸かりつ、一部の者達と同様にどこかそわそわとしている一臣へ。
「……ああ、貴方が噂の男好きで絶望専門の手遅れ鰹節さんですか。初めまして」
「俺の第一印象ェ……!!」
 絶望インザ銭湯。
 それを後目にカーディスは髪の毛はピンで纏めて湯に付かない様にしつつ銭湯を楽しんでいる。
「郷に入っては郷に従えと言いますので」
「ウム、良い心がけだ」
 羞恥等は天使のゲートの中に置いてきたと言わんばかりと目一杯遊んでいるひむろや他の生徒を、棄棄は穏やかな目で見守り。生徒達が楽しそうにしているのが何よりなのだ。
「うー、まだまだなのですー」
 そんな様子を、鳳 優希(ja3762)はまったり湯に浸かりつつ伺い。

「たまにはこうしてゆっくりするのもいいな」
 龍仁は背後の岩に背を預けつ、棄棄に声をかける。混浴だろうが気にして居ない。
「祝の言葉は、もう少し人が少なくなってからでいいか」
「お? この場で祝ってくれても良いんだぜ」
 横目にニヤリ。はは、とそれに苦笑を漏らして。
「それじゃ……誕生日おめでとうだ。楽しい年になるといいな」
「くくっ、ありがとさん。お前等が居る限り先生は疑い無く幸福だぜ」
 常通りの笑顔。嬉しそうだが、そこには若干の照れも含まれているのを龍仁は知る。それは何よりと返し、湯船の温かさを堪能する。良い湯だ。今度は息子を連れてくるのも良いかもしれない。

「ぐぬぬ〜……」
 龍仁と談笑している棄棄を見、レインは密かに歯ぎしりを。
 脱いだら凄いんです。そんな教師。死体を思わせるほど肌は不気味に白いが、筋肉質で引き締まった体躯。その至る所に刻まれた凄惨な傷跡。されど背中には一つも傷は無く、徹底的に『逃亡』をせず攻撃前進のみをし続けていたのだろう事が推測される。歴戦の撃退士、なのだろう。
(羨ましくなんて……ないっ!)
 女っぽいと良く言われるが故に。
「なんだレイン俺の事じーっと見て。惚れたか?」
「そ、そういう訳じゃなくって……!」
「惚れて良いのよ」
 ニヤニヤ。口では勝てない。絶望ポーズ。
 そんなレインをほのぼの見守る教師へ、声をかけたのは如月 敦志(ja0941)。
「おめでとう先生。でもなんで誕生日に風呂なんですか? 健全な男としちゃ美人さん沢山見れて嬉しい限りですけどね?」
 なんて言いつつ、ちょっと照れ気味。まぁ仕方ない。横目に見遣った眼を教師に戻し、訊ねた内容は普通に疑問に思っていた事。
「あ? 何でって……考えもしてなかったぜ。フィーリング?」
 ようは完全にその場のノリ。棄棄らしいっちゃらしい理由。そうですか、と苦笑を浮かべる他に無かった。

「湯船に浸かる前に身体洗えよ〜?」
 そんな龍仁の言葉通り、マキナはシャンプーで髪をワシワシ洗い、英斗はシャワーを浴びつつ。
(日頃のイロイロを洗い流すか……)
 なぜかこびりついた非モテ成分も、この石鹸で洗い流せるかな……石鹸を手に英斗の遠い眼差し。残念ですが、その状態異常は呪われています。はずすことができない。非モテ騎士に栄光あれ。素肌と同じ弱☆酸☆性
「うー、まだまだなのですー」
 そして優希は颯爽と伺い以下省略。

●チョットモントウ
 それは人の顔を窺う内に打算で身に着けた仮面。
 所謂、『イイコちゃん』。
「だが俺ァ『その下』も好きだぜェ? どっちも俺様の可愛い生徒だ」
 と、氷雨 静(ja4221)が湯に浸かってのんびりしていたその最中。唐突な棄棄の登場に思わず驚いてしまった。
「せ、先生でしたか」
「おぅナウなヤングにバカウケな棄棄先生だぜ」
「いつもお世話になっています棄棄先生 、お誕生日本当におめでとうございます! 先生がアンパン大好きとお聞きして……」
 これプレゼントです。と、静が差し出すのは黒糖さらし餡石鹸。使って貰おうと思って。
「こんなものしか思いつかなくて……」
「おぉ、スゲェこんあんあるんだなぁ! ありがとよ〜♪」
「いえいえ」
 ニコリと微笑みつ、しかし湯着を着ているが露出とつるぺたな体型が恥ずかしい。が、教師の側を離れようとは思わない。寧ろ彼の行く所へついていく心算ですらあった。
(先生の事をもっと知りたい)
 だから、問う。
「先生のご幼少の頃ってどんなお子さんだったんですか?」
「あ? そうだなー……」
 別段面白くも無いぞ、と断りを入れて。
「物心付いた時にゃ、越南の山奥だった。俺を育てたのは軍人だった撃退士の日本人。奴曰く、俺は日本人なんだってよ。だから俺は日本人なんだ。……因みに奴が俺を『ステゴ』って呼ぶのが気に喰わなくってよ、『ステキって呼べイカスだろ』って返してやったのさ。
 んで、まぁ、その所謂師匠と『母国日本を救済する撃退士』になるべく色々修行してたのよね。超世間知らずのストイック少年だったな〜。取り敢えず天魔ブッコロったらええんやーって脳筋思考だったっちゅーか。だからついた二つ名が『怪人』。……あん時ァ我武者羅だったなぁ」
 お陰様でこの有様だと全身の傷を指す。
「お前は俺みてーに馬鹿な無茶はすんなよ」
 折角奇麗なんだから、と。
 はにかみ笑う。それから、もう一つの問い掛けを。
「印象に残っているお誕生日ありますか?」
「知りたいか?」
「はい、是非」
「じゃあ教えてやろう。いいか、耳を貸して御覧」
 手招き、顔を寄せ、その耳元で、ニィっと笑んで。

「今日だ」

●まだまだバス浪漫
「先生! 誕生日おめでとうございますー!」
「おうよ東城! ありがとな〜♪」
 頭を撫でられ撫でられ。今日は棄棄の誕生日。夜刀彦は懊悩する。
(でもどうやって祝ったらいいのか分からない……)
 ふるふるしつつ、ハッと思い出す、そうだ、プレゼント。
(ぷ、プレゼントってこれでいいのかな……!)
「あ、あの、先生! プレゼントですっ」

\美髪コンディショナーセット/(プロ愛用)

「それでは私からはこれを」
 と、夜刀彦の傍らに居た優が棄棄へ差し出したのは。

\美髪シャンプー/(プロ美容師愛用)

(コンディショナーを夜刀彦に任せたのは、金銭的理由……とは、ここだけの話、なのだが)
 気に入ってくれるだろうか。二人はシャンプーとコンディショナーをそれぞれの手に持った棄棄の様子を窺う。と、彼は何か閃いた様にニッと笑い。
「よし、折角だし早速これ使うぜ」
「「「!」」」
 ガタッと反応を見せたのは夜刀彦、一臣、穂鳥。

 棄棄の髪の毛を洗い隊。

 取り敢えずジャンケンで先攻は一臣に決定。
「うっし、張り切って洗っちゃうよ」
「そんな洗髪で大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題無い。……死亡フラグェ」
 そんなこんなで優が用意したシャンプーを使い、洗う。長いから洗い甲斐があるというものだ。もふもふわしゃわしゃ。しかし髪の毛『だけ』なら女の子。他は36のオッサンだがな!
 それはさて置き。
 そう、シャンプーの最中にやる事と言えば。一つしかない。
「目指すはス■イツリー!」
 ショウテンペガサスミックスモリ!泡の付いた髪を上へ上へ上へ……しかし。棄棄の毛は長い。途中でへにゃっと曲がり、毛の先端が――

 オミーの目の中へ!

「目がぁぁああぁぁあああああああ」
「オミィイイイイイイ」
「ウワアアアアアア」
「ごみのようだ」
「ドウイウコトナノ!!」
「これわしかたのないこと……」
 ところでどうでも良い話だがもう『一臣』じゃなくって『オミー』って自然に打っちゃうからもうオミーでいいよね。しおっね。

 と言う訳で目が■■になってしまったオミーの遺志を引き継いで、夜刀彦がシャンプー係を。
「よ、宜しくお願いしますっ……!」
「おぅ、やさしくしてね」
「ももも勿論ですっっ!」
 ちょっと、いやかなりドギマギ。失礼しますと一礼してから丁寧に洗ってゆく。髪が傷まないよう、洗うのは頭皮のみ。心地良いのか教師は鼻歌を歌っている。
「上手いなやとちゃん」
「恐縮です……! あの、痒い所とかありませんか?」
「いんや? お前洗うのうめーから無いぜ」
「ありがとうございます!」
 顔が赤くなりそうだ。いやもうなっているかもしれない。軽くテンパりつつも丁寧に丁寧に、しっかりと、されど過度にはならぬよう濯ぎ。
 物凄く名残惜しいがコンディショナー係の穂鳥とバトンタッチだ。
「んな残念そうにすんなって。また機会があったら洗わしてやっから」
「ありがとうございました……! 本当にありがとうございましたっ!!」
「おうよー、礼を言うのは俺の方だぜ」

 そして神妙な顔でスタンバイしていた穂鳥の出番。
「お誕生日おめでとうございます、棄棄先生」
 先ずは丁寧な一礼、そして。
「今日は日頃の感謝の気持ちも込めまして、はりきって疲れをとらせていただきます……! やりすぎは厳禁ですが」
「うっし、頼むぜ穂鳥ちゃん!」
「はい!」
 穂鳥は夜刀彦が棄棄へプレゼントしたコンディショナーを使いつつ、その頭へマッサージを。
「美容院だとよくやってもらえますけど、頭へのマッサージも気持ちいいですよね」
「うーん極楽だぜぇ……」
「……あの」
「うん?」
「このまま……お背中を、流させて頂いても、宜しいでしょうか」
「おう、頼むわ!」
「ありがとうございます」
 よし、頑張ろう。優と協力してコンディショナーをしっかり濯いで、強すぎないか、弱すぎないか、聞きつつ丁寧に背中を流して。それにしても体の前面はあれほど傷だらけなのに、背中は奇麗なものだ。
「かっちょえースカーボディだら? だが、真似はすんなよ。怪我しねぇのが一番だからな……仲間のためならズタボロになってもいいって奴が良く居るが、俺ァ心配だぜ。『自分を大事にする事も仲間への恩返し』だって思うのよねん」
 俺が言っても説得力ないかも。苦笑。そして、穂鳥のマッサージを堪能する。
「如何ですか?」
 肩を揉んだり、叩いたり、背中のツボを一つ一つ押していったり。丁寧に。
「きもちえー……解れるわぁ……」
 まったり、ほこほこ。
 しかし次第にお互い無口になってゆく。
 というのは、棄棄があんまりにもマッサージが気持ちよくって寝落ちしたのと、穂鳥が自分の入浴を忘れるくらい物凄いマッサージに熱中しているのと。
 だが、やりきった後の穂鳥は達成感に満ちた誇らしげな表情であった。

 そして、思いっきり寝ている棄棄にしきみが。
「あーキッキーだーお誕生日おめでとーいえーいむぎゅー!」
「お!? おぉ、寝てた!! おっすしっきーありがとちゃん! 寝起きの先生ですよ。むぎゅむぎゅイイコイイコ」
「えへーべとべとーん。キッキー髪の毛ながーい後で結ってもいいー?」
「良いよーどんとこいだぜ」
「やったーうぇーい張り切っちゃうよー。でもその前にサウナーサウナがあるよーサウナーサウザーじゃないよーうぇーいしきみちゃんサウナはいるー」
 キッキーも一緒にはいろー。腕を引く。しかたないわねぇ。しきみをナデナデしつつ、夜刀彦、優、一臣、穂鳥、近くに居た宮子も誘ってサウナへと。
「先生は誕生日おめでとうだよ。お祝いに……マッサージでもしようか?」
「実はなみゃーこちゃん、先生さっきやってもらったんだわ。後でしてやろう」
 そんなこんなで。

●もっと暑くなれよ
 お風呂といえばサウナ。サウナといえばお風呂。
 暑い熱い最中、だがそこがいい。
「誰か我慢大会とか行いそうだな……」
 かくして、サウナで汗を流している龍仁がそんな一言を漏らした直後。
「第一回〜棄棄先生と一緒にサウナ我慢大会〜!」
 元気一杯、ひむろの声。

 その時、サウナに電撃走る!

 そう、宣言されてしまった以上、この状況でサウナから出るのは非常〜にアレだ。負けず嫌いな人ほど。
「ひむひむ……恐ろしい子……!」
 ひむろを抱き上げ膝に乗せて、少女マンガのアレ顔な棄棄。
(まぁ、無理しない程度に頑張ろう……)
 そう思いつ、マキナはひむろにしきみにトコトコついてきた静に穂鳥に夜刀彦と女の子に囲まれている棄棄へと。(※やとちゃんは男の子です)
「先生お誕生日おめでとうございます」
「おうよ、ありがとねマキナちゃん」
「それにしてもなんていうか 凄いですね」
「いえーい両手に花どころか全身に100万ドルの薔薇だぜ」
 お前も来いよ!と両手を広げられてカモーンされたが、流石に遠慮しといた。一部の腐ったお嬢様方がガタッとしそうだし。
「えっ じゃあ龍仁さんと久我ちゃんとオミーとてっぺーと直哉を侍らせたら来るの?」
「人選ェ……!」
「巻き添えェ……!」
 おとこおとこしすぎにもほどがあるよ!オミーと一緒に絶望ポーズ。

「いえーいキッキーうぇーい」
 一方で、ぐてーっとしていたしきみは棄棄にむぎゅーっと抱きついた。筋肉ガッチリモッチリ。おういえー。
「おうよしっきーサウナはあっちぃなー」
「キッキー汗べとべとー」
「オマエモナー」
 態々汗だく状態でもふもふぎゅっぎゅしあっているが、しきみに悪意はないよ!ほんとだよ!

「暑い……ですね……」
「そうですね……」
 無理しない程度に、静と優は我慢大会の面々を見守っていた。一方で、優希は全身から汗をボトボト滴らせつつ棄棄の様子を爛々と窺って。
「まだまだまだー」
 でも暑さにフラフラ。

 サウナのその後は夜刀彦が用意した氷でヒンヤリしつつ、体を流して水風呂でも。

「キッキー」
「なんだしっきー……おっとそうか、髪の毛頼むわ」
「えへへへへー」
 座って座って。風呂椅子に棄棄を座らせ、しきみは臙脂色の髪紐を手に彼の長い髪を結ってゆく。
「ねーキッキーキッキー」
「ん? どした」
「えへへーなんでもなーい」
 なんて、他愛もなくまったりのんびり、ゆっくりと。されど器用に纏めて。
「いえーいでっきあがりー。髪紐はしきみちゃんからのプレゼントだよーハッピーバースデーキッキー」
「おぉー! ありがとなぁしっきーー嬉しいんだぜ!!」
「うぇーーいはぐはぐー」
 はぐぎゅっぎゅ!

●ビフォア13日
 凪の場合。
「いたっ」
 やはり、慣れていない事は難しい。お裁縫。刺してしまった指先を口に含む。血の味。ちょっと凹みそう。だが、折角の機会だ。頑張ろう。

 かざねの場合。
「棄棄先生のたんじょーび! よし、手作りケーキを作r……え? やめろって? 何で? いいからやめろってそんなこと言われてもなぁ……でもがんばったらできる気がすrうわなにをするやめふじこ」

 直哉の場合。
(う、うーん、これで良いだろうか……でもベタだと被るかもしれないし……うーん……どうしよう……どうしようかな……うーん)
 と、店の前でうろうろうろうろ。そろそろ不審者扱いされそう。

 ひむろの場合。
「へぇ〜、それが先生の好物なんだね! 覚えたよっ」
 彼曰く、俺の分まで宜しく、と。

 敦志と戒の場合。パティオドラグーンにて。
「ふっふっふ……この七種 戒、容赦せん!」
「お前がケーキ作り手伝うとかなんともまぁ。青春ですなぁ」
「う、うっさいうっさい」
「ははは」
 クスクス笑って軽くからかう敦に、そんな彼をぺしぺしする戒。
 それはさておき、いざ。
 一生懸命、心をこめて作ってゆく。
 そして。
「よし完成。戒が手を加えたが味は問題ねーはずだ」
「それはどういう意味かちょっとOHANASHIしようか……!」
「冗談だって……うん、大丈夫」
 味見をして一安心。その安堵の吐息はなんなんだーとまたぺしられたが。

 さぁ、あとは13日を待つだけ。

●祝!
 そろそろか。
 桃組。その同志達は露天風呂にやってきた棄棄を確認するなり目配せを。こっそり彼を取り囲むようにして。
「……せーの」
 一臣が合図をして、何事かと棄棄がそちらへ意識をやった、その直後。

 Happy birthday to you――♪

 凪、敦志、戒、英斗、レイン、ギィネシアヌ、一臣、煉、アランの大合唱。
 因みに「何やってんだ」と辟易気味な煉は声量控えめ、アランは本場のクイーンズイングリッシュで。
 大きな歌は銭湯だと良く響く。
 反響の中、棄棄は呆然と目を見開いたまま生徒達の祝い歌に包まれていた。
 歌が終わってもそんな様子だったから、アランは風船を手に――母国イギリスではカードを贈る風習だが、時に風船も贈るのである。というわけで、思い切り。パーンと爆ぜる音。ハッとする教師。そこへ、
「ふっふっふ、日頃の『感謝』をこめましてぇ……盛大だろー?」
「何はともあれ今年一年が棄棄先生にとってよい年になりますように。Happy Birthday♪」
「誕生日、おめでとうございます」
「センセお誕生日おめでとう!」
「ハピバだぜ、センセ!」
 戒、敦志、凪、レイン、ギィネシアヌが立て続けに祝いの言葉を笑顔で投げかける。
「……」
 棄棄は黙したままだ。
「……」
 棄棄はまだ黙したままだ。
「……やべ」
 そしてポツリと、
「嬉し過ぎてどう反応したら良いのか分かんねぇわ」
「笑えばいいと思います」
 なんて、ちょっと冗談めいて英斗が言ってみると。そうか。そう言って教師は笑った。大声で笑った。嬉しさに、ちょっと涙を滲ませながら。

「クッソが! やりやがったな! 愛してるぞ!! ありがとうな!!!」

 生徒達は顔を見合わせ、笑顔。
 大成功である。

●ふろあがりん
 お風呂上り、夜刀彦と優は店員へ「ありがとうございました」と礼をしている。特に優は湯上がりのおやつ用に作成したシュークリームをお裾分け。

「センセ、これプレゼント!」
 他の者の浴衣を着付けていたレインが棄棄に渡したのは、手製の浴衣。風呂上がりに着てくれたら嬉しいな〜。そう思っていたら、
「ありがとさん! 早速着るっつぇ」
「あ、じゃあ着付けしますよ!」
「任せた」
 そして教師を着付ける……が。
「あ……浴衣ちょっと大きかった、かな……」
「(笑)」
「アッ ちょっ 痛っ やめて! ローキックやめて! 無言のままローキックし続けないでーー!!!」
 ごめんなさいと絶望ポーズ。
 そのまま心の中で呟くのだ。
(背が小さい事気にしてるセンセ、何時も可愛いとか思ってごめんなさい)
「俺はな 身長に悩む子供達に背を分けてあげたのだよ 分かったかいレワール君」
「分かりました……」
「うむ、たいへんよろしい」
 ナデナデわしゃわしゃ。
 ……こっそり、先生に撫でて貰うのが好きで、嬉しい。
 いつか撫でて貰った時と同じ気持ちになる。
 ので、折角の機会。こっそりこっそり、耳打ちを。
「センセ、いつもありがとね」
 照れ隠し。そしたら向こうも照れ隠しか、またローキックされた。ぺちっと。

 ごっきゅごっきゅ。
 ひむろは腰に手を当て、フルーツ牛乳一気飲み。豪快な飲みっぷり。
「ぷはぁぁあ〜〜!! この一杯の為に生きてるー!」
 一度言ってみたかった台詞。とっても満足気。
 そして龍仁も腰に手を当て、風呂上がりの一杯を満喫中。

 一方のカーディスはコーヒー牛乳。ふぅと息をつき、はたと気付く。借りた浴衣が。え、私の浴衣、小さすぎ……?
「むむむ足元が御留守なのですよ〜。これは見た目がよろしくないのです!」
 という事で、変☆身!(ポーズ付)
「懐かしい目線の高さです」
 変化の術ってとっても便利。ショターディス登場。


 さて、皆の用意ができたなら。
 集った先は小広い中庭。和風な趣。
 もうすっかり夕暮れだ。赤い光が湯上りの皆を包んでいる。

 そしてそこには――台に乗った、大きなアイスケーキが。
 ハートのピンクアイスケーキ。
 一部、棄棄の服と同じ黄緑。苺味とメロン味。棄棄カラー。
 当初は購入予定だったが、敦の提案で手作りとなったのだ。戒も手伝い、見事な出来である。
 因みに、事前に銭湯スタッフへ冷凍保管に台の準備を依頼していたのである。紙皿や木スプーンは桃組の自腹だ。
「よし、乾杯しようぜ乾杯!」
 敦志の声に、皆の手に手に瓶牛乳。
「棄棄先生のお誕生日を祝いましてぇ〜……」


 かんぱーい!


「……ったく、てめぇら、てめぇらって奴ァなぁ……!」
 最高だぜ。

●俺達の宴はこれからだ
 皆でわいわい、アイスケーキを頬張りながら。
「くーっ! やっぱりお風呂のあとの一杯は最高ですね、先生!!」
「おうよ若ちゃん! あと牛乳ヒゲできてるぜ。嘘だけど」
「なん……だと……!?」
「いつから牛乳ヒゲが出来ていると錯覚していた……?」
「それはそうとアイスけっこうおいしいですね」
「ウン美味しい」
「涼しくていいな……」
 棄棄と英斗はアイスケーキをもぐもぐ。ヒンヤリしているそれは風呂上りには最適、甘さも程よくとても美味しい。
 と、そこへ龍仁が事前に許可を得て作った温泉卵を棄棄に差し出して、
「食うか?」
 更にコーヒー牛乳を差し出して、
「飲むか?」
「食う飲む。……ウマイ!」
 テーレッテレー!

「「「センセー!!」」」
 更に、夜刀彦が手作りの作りたてアンパンを。マキナがあんパンと牛乳の最強コラボ(偏見)を、ひむろもアンパン(高等部の餌付けが趣味な友人に先生の好物を聞いた)を。
 アンパン祭り。ありがとなぁーっと3人をハグする教師へ、更にカーディスはおめでとうございますの言葉と共にお風呂用あひるちゃんセット&バブルバスの素セットを渡し、かざねもいそいそと前へ出て。
「棄棄先生、このたびはおめでとーございます!! ということで、手作りのケーキでも用意しようと思ったんですよ!」
「おぉ! マジでか!」
「思ったんですけど、死人が出るぞ! とか言われて全力で阻止されてしまったのです!」
「なので残念ですが、ケーキはないのです。代わりに、300円分買って来たちっちゃいチョコあげます……半分は自分のってことで。えへ」
「お前らしいなぁ」
「あ、でもお返し期待してますよ!」
「お前らしいなぁ、ははは」
 談笑。続いてアランも日本酒の瓶を差し出し。
「プレゼントだ。贈った後は他人に振る舞おうが自由にしてくれ」
 なんて言いつつ――実は自分も飲みたい。ならば飲ませて進ぜよう。一杯、乾杯。呷る最中に。
「もう少しなのー……」
 そして、ここぞとばかり。優希は庭に降り立ち、始めるのは得意な舞。待ちに待った。流れる水が如く。
「棄棄先生の為に覚えた舞なのですよぅ〜☆ 誕生日おめでとうございますなのー。はいこれ、フルーツ牛乳〜☆」
 一緒に飲みましょう、と微笑んだ。

(あのセンセの誕生日ってか)
 ワイワイ騒ぎの中、騏は一人悩んでいた。
(祝え、っつー割には御代はいいとか、なんだかんだで気ぃ利かせてるのがらしいっつかなんつーか。
 まあここまで来て祝わねぇってーのも逆にひねくれすぎな気がするし、祝ってやらねぇこともねぇ)
 とはいっても、プレゼントとか事前に準備してねーぞ。どうすっかな。
(どうすっかなぁ……)
 あれか、銭湯っつったら湯上りに腰に手を当ててフルーツ牛乳……古いか?
 まあいいや、先生相手の話だし。
 なんか真剣に考えるのもアレだ。という訳で買ってきたフルーツ牛乳。ズイと教師の前へ。なんか言う前に、どうぞ。
「お? くれんのか?」
「自分の分買ったら当たっただけだ」
 そんな当たり付きやってなくても知ったこっちゃない。奢りますなんて恩着せるにはみみっちい額だし。言うだけ言ってそそくさと踵を返す。
(向こうだって唐突だったしこっちもやるだけやって逃げていいだろ!)

 一方、悩む少年パート2。
(先生は日本が好きらしいし、プレゼントは日本のものがいいのかなって思って用意したけど)
 うーん、ちょっと特殊すぎたかな……?
 直哉は『プレゼント』を手に悩んでいる。渡さねば。そう思ってタイミングをうかがうのだが、中々掴めず。
 結局は大分遅れた後に、そっと教師に近付いて。
「先生、誕生日おめでとう。これ……何かの飾りに使ってもらえたらいいなと思っています」
 差し出すのは鏡蓋根付。土台は縞黒壇、金属製の円盤状蓋が付いており、牡丹の浮き彫りの彫刻が施されている。
 ……ただ、ちょっと変わったものを渡してしまったという自覚。
「おー、こりゃシャレオツじゃねーか! ありがとなぁ♪」
 が、棄棄は気に入ったようだ。笑顔で受け取り、空いた手で直哉の頭をわっしゃわっしゃナデナデナデ。
「先生、私からもプレゼントを宜しいでしょうか」
 凪もちょっと躊躇った後に、そっと差し出すのは――袋に詰めた、学園長ブロマイドを顔の部分に貼ったティディベアサイズの人形
「ごめんなさい……あまり良い出来ではないけれど」
「手製か?」
「……手芸の心得はありません。教本を見ながら作成しました」
「よく出来てんじゃねーか! ありがとよっ」
「改めて――これからも、よろしくお願いします」
 深々と、一礼。
「それじゃ俺も渡しちゃおうかしら」
「ようオミー、まさか『プレゼントは、俺♪』とか?」
「あ、そうしようか?」
「いいよ^^」
「やだ、目がマジだこの教師……!」
 とまぁそんなこんなで、オミーが渡すプレゼントは【無病息災】と書かれた鶯色のお守り。
「センセ、風邪ひけないじゃん?」
 彼は注射が嫌いだ。何故なら痛いのが嫌いだからだ。それをオミーは覚えていた。
「まーどんだけ効くか分かりませんケドー。ひかないとイイな、ってことで!」
「クククッ 風邪菌如きに俺様が負けるかよ……だが、気持ちは嬉しいぜ!! ありがとなオミー! 跪け!!!」
「結局そうのね……!!」
 orz

 銘銘、騒ぎに賑わって。

「ふっふ、おめでとーなせんせぇ!」
 それを縫い、戒は棄棄の元へ牛乳片手に。先ずは乾杯。
 その、隙。
 戒が懐から抜き放ち、棄棄へ真っ直ぐ向けたのは――掌サイズの水鉄砲。日頃の『感謝』をこめて。
「貰ったぁぁぁ「残像だ」ぁぁああ!?」
 膝カックンされました。
「いやほら狙撃の腕が上がりましたよあっぴいるとでもだな」
「はははッ。タイミングは良かったぜ〜?」
「うおーー! ナデナデもふもふすんなーーー!!」
「おっけおっけー」
 ケラケラ笑ってアイスケーキを頬張る教師。ぐぬぬ。思いつつ、プレゼントを。
「せんせぇ、これあげる」
 あんパンの形の笠の鈴。
 身代わりになるように願いを込めて選んだ――のは、内緒の話。
「私が越えるまでナニかあったら困るからなソレだけだからな!?」
「ホントにー?」
「ホントにホントにだーーー!!!」
 逃亡。全速力。
 あらまぁ。見送り、入れ替わりにやって来たのはギィネイアヌ。
「センセ! プレゼントだ!」
 それは手縫いで作った真紅のマフラー。秘める情熱が如く、赤く赤い色彩。
「世界一カッケェセンセと出会えて俺は最ッ高に幸せな生徒だと思ってるのだ。
 センセも俺のヒーローだかんな! これからもよろしくなのぜぃ」
 ニッと笑む、彼女を。棄棄は心底嬉しそうな眼差しで見、その頭を優しく撫でて。
「ありがとよ、ギィネシアヌ。俺も諸君の様な生徒達と出会えて、最ッ高に幸せな先生だよ。
 諸君は俺の希望だ。諸君は俺の未来だ。諸君は俺の――全てだ」
 これからもよろしくな。と、生徒達を抱きしめる。
 嗚呼こんなに幸せな誕生日は生まれて初めてだ。
 生まれてきて良かった。
 生きてて良かった。

 こいつらと出会えて良かった。

 心の底から、そう思う。

「それじゃ撮りますねー!」
 カメラを設置しひむろの声。
 3,2,1で、フラッシュと共に残されるのは今日という日。

 そうして、楽しげな声は、宴は、今暫し続く――



『了』


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:18人

無念の褌大名・
猫野・宮子(ja0024)

大学部2年5組 女 鬼道忍軍
Wizard・
暮居 凪(ja0503)

大学部7年72組 女 ルインズブレイド
お菓子は命の源ですし!・
二階堂 かざね(ja0536)

大学部5年233組 女 阿修羅
一握の祈り・
佐倉 哲平(ja0650)

大学部5年215組 男 ルインズブレイド
厨房の魔術師・
如月 敦志(ja0941)

大学部7年133組 男 アカシックレコーダー:タイプB
あんまんマイスター・
七種 戒(ja1267)

大学部3年1組 女 インフィルトレイター
喪色の沙羅双樹・
牧野 穂鳥(ja2029)

大学部4年145組 女 ダアト
読みて騙りて現想狂話・
鬼燈 しきみ(ja3040)

大学部5年204組 女 鬼道忍軍
未来へ願う・
桐生 直哉(ja3043)

卒業 男 阿修羅
蒼の絶対防壁・
鳳 蒼姫(ja3762)

卒業 女 ダアト
世界でただ1人の貴方へ・
氷雨 静(ja4221)

大学部4年62組 女 ダアト
ブレイブハート・
若杉 英斗(ja4230)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
懐かしい未来の夢を見た・
レイン・レワール(ja5355)

大学部9年314組 男 アストラルヴァンガード
青の記憶を宿して・
蓮華 ひむろ(ja5412)

高等部3年1組 女 インフィルトレイター
魔族(設定)・
ギィネシアヌ(ja5565)

大学部4年290組 女 インフィルトレイター
JOKER of JOKER・
加倉 一臣(ja5823)

卒業 男 インフィルトレイター
災禍祓いし常闇の明星・
東城 夜刀彦(ja6047)

大学部4年73組 男 鬼道忍軍
BlueFire・
マキナ(ja7016)

卒業 男 阿修羅
撃退士・
久我 常久(ja7273)

大学部7年232組 男 鬼道忍軍
二月といえば海・
カーディス=キャットフィールド(ja7927)

卒業 男 鬼道忍軍
黄金の細腕・
如月 優(ja7990)

大学部4年108組 女 アストラルヴァンガード
重城剛壁・
神埼 煉(ja8082)

卒業 男 ディバインナイト
撃退士・
強羅 龍仁(ja8161)

大学部7年141組 男 アストラルヴァンガード
微笑むジョーカー・
アラン・カートライト(ja8773)

卒業 男 阿修羅
撃退士・
千堂 騏(ja8900)

大学部6年309組 男 阿修羅