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マスター:ガンマ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2012/05/28


みんなの思い出



オープニング

●きらい
 わたしはだぁれ。
 それは、あなたが世界で一番嫌いなものです。死ね。

●スクールのルーム
「オッス諸君、俺だ。ディアボロが出やがったからブッ殺して来い以上」
 そんな雑い一言を、教卓にどっかと座すなり棄棄は言い放った。
「とまぁスーパード簡易に説明で来たらアレなんだけどねん、安心せいちゃんと説明するわよ。
 そのディアボロは妙な特性を持っててなァ。写真上ではこの通り……」
 と、黒い変な靄――これが件のディアボロなんだろう――が映った写真をピラッと生徒へ見せ付けて、
「……ただのモヤモヤなんだけどねん。なんでも見る者によって姿が変わるらしい。
 どんな姿になるか? それは、『自分が最も嫌悪感と恐怖を感じるモノ』だ。
 Aさんにはトラウマ刻み込まれた天魔に見えっかもしれねーし、Bさんにはバカデケェ蜘蛛に見えるかもしんねぇ。
 ……ん? 『俺に怖いモノなんて無い』『私に感情は無い』、だと? ハッハッハ、いいねぇ。嫌いじゃないぜそーゆーの」
 だが、と真っ直ぐに見澄まして。
「どっこい、心の根本的な恐怖がそのまんま何とも言えない何かになって現れるだろうよ。
 兎角、そのディアボロは見てるだけで嫌ーな気分になるだろう……主に肉体では無く精神を傷付ける奴だ。
 変な幻覚を見せてきたり、心の傷を抉る様な声を発してきたりするだろう」
 気をしっかり持ってな、と言う。
 それから示すのは現場の写真であった。郊外の道路。5人ほどが並んで戦闘が行える程度には広いようだ。
 特に変わった点などは無い。教師曰く、近隣住人の非難や周囲の封鎖は済んでいるという。その辺りの問題は無いだろう。
「説明はこんなもんだ。それじゃ諸君、今回も頑張ってな!」


リプレイ本文

●うつうつつ
 雨音が鼓膜に縋り付いてくる。どうも嫌な感じの雨だった。
「古傷だらけのギザギザハートなこの俺に致命傷を与えられるかな!」
 されど大城・博志(ja0179)は意気揚々、煙雨に霞む彼方を見澄まし。
「随分と性質の悪いディアボロなのね」
 氷雨 玲亜(ja7293)は息を吐く。序でにその識別名もどうなんですかと教師に訊ねると「『デスナイトメア』とか浮かんだけど一周回ってイモい気がしたからやめた」と返って来たのを思い出す。もう一度吐いた溜息は夜来野 遥久(ja6843)と重なった。憂鬱そうなそれ。悪夢の予想がついているから。
(私の目に映る者は、もしや)
 深呼吸を一つ、アンネリーゼ カルナップ(ja5393)は凛と前を見遣った。
「頑張りましょうねっ」
 珠真 緑(ja2428)は努めて笑顔を作り、皆を明るく鼓舞する。が、それは心情を見破られまいと自己防衛。きっとあの日の事を視させられるのだろう。

 あんな過去、思い出したくなかったのに。

 首から下げたロケットを無意識の内に握り締める。『戻って』こられるよう、手の中には弟と写った写真。東城 夜刀彦(ja6047)も黙したまま、懐に仕舞ってある義姉の手紙へそっと手を遣った。
(人の嫌いな事するなんて良くない……頑張って退治しないとだな!)
 皆から感じる『いつもと違う感じ』にNicolas huit(ja2921)は表情を引き締める。
「最も嫌悪感と恐怖を感じるモノ、か。いまいちピンとこねぇな」
 自分の奥に潜む曖昧なソレを知るのがほんの少し楽しみかもしれない、等思いつ加倉 一臣(ja5823)は仲間と前へ踏み出した。挟撃すべく一同は2つに分かれ、歩を進め行く。

 斯くして彼方、『それ』は居た。

●8人8忌
 緑の目には過去が映った。それは2歳の時の出来事。組織の抗争中、両親を目の前で惨殺された事。限界まで見開かれた目に映る。フラッシュバック。赤。血飛沫。父の。母の。
「!」
 体が震える。思わず半歩足が下がる。狂乱状態。泣いて、叫んで、それでも惨劇から目を逸らせない。
「大丈夫ですか? 3×4は?」
 咄嗟に遥久は緑へ簡単な数式を叫び意識を空白に戻すよう試みる。が、肩を跳ねさせた彼女は半狂乱の眼差しで振り返るや、魔法書を握り締めて。
「来ないでぇえッ!」
 蒼白い光、絶叫と共にエナジーアロー。一撃が遥久の頬を掠める。心に刻みつけられた深い深い心的外傷は人を容易に離してはくれない。心の傷は痛みが引く事はあっても治る事なんて無い。それは体の傷よりたちが悪い。それでも緑は足掻いていた。恐怖と混乱の真っ只中、脳に言い聞かせる。これは幻覚だ。これは幻覚だ。これは幻覚だ。
「私にはまだ、あの子がいる……。だから、あんたなんかに、やられるわけにはいかないのよっ!」
 唱える呪文。惨劇を幻覚を砕くべく放つ魔法。


 体の震えが止まらない。
 アンネリーゼは俯きいた。母を謀殺した叔父、そして実際に手を下した爪の長く黒い人形のディアボロがいる。
『お前は何も護れない。大事な者すら護れない』
『お前は端から「約束」なんて守れてないのさ』
「煩い、黙れ!」
 焼鏝の様に押し付けられる最悪。胸が張り裂けそうになる言葉。光景。振り上げられる悪魔の爪が容赦なくアンネリーゼの体を切り裂く。睨んだ。その瞳には激しい怒り。槍の切っ先に銀の焔を宿し、高速の一撃。一心不乱に。
「相手が私の嫌悪する輩ではないのはわかっている……だが!」
 懐中時計を取り出す。幼き頃の自身と母の写真――『復讐のための力ではなく、誰かを守るための力を身につけてほしい』、思い返す母との約束。冷静になれ前を見る。その最愛の母を殺した原因が居る。湧き上がる怒り。直ぐにでも手をかけたい。されど、復讐鬼になってほしくないと母との約束を破りたくない。噛み締めた唇から、血が一筋。


「落ち着け! 素数を数えて落ち着くんだ! e×o×円周は? eoπ(イーオパイ)じゃないよ! 3×3は? サザンクロスでも可! 負けるな、所詮は幻だ」
 博志は仲間へ積極的に声をかけている。気合と根性と勇気と熱血と魂とエールの送り合いとかの友情パワーとかの精神頼み。やるだけやってみる。 そんな博志がの視界に映るのは、ふられた時や過ちを犯した時の情景関連――ではなく、大学時代にホームステイ先で遭遇したオカマでマッチョな英国ラガーメン。
『愛の湧かないキスはNOなの〜! 大事なモノは好きな人に捧げたいの〜! 前からも後ろからも絶対に嫌〜!』
 抱き締められて骨が砕ける、肉が潰れる、臓物が悲鳴を上げる。
「砕けろ滅びろ、逃げはせん! ベットから抜け出して野宿したりなどせん! 恐怖に屈するものか! 捻り潰してくれるわ!」
 されど何とか放つ魔法。しかし色んな意味で視界が暗転。


 震える体を抑えるように掻き抱いて、玲亜はソレを見ていた。考えを切り替えて自分をしっかり持たねば。相手はディアボロで、そういう能力を持っているだけ。分かっている。けれど、恐怖。心に刻みつけられた感情。
 ソレは覚醒の切欠になった黒衣の天使。 虐殺された死体が転がっている。無残な。濃密な。血の臭い。苦しい。苦しい。体が痛い。全身を焼けた工具で毟られているような錯覚。痛い。至近距離で黒衣の天使が見下ろしている。恐い。怖い。失った筈なのに。恐怖も絶望も奪われた筈なのに。どうして。わからない。恐ろしい。
「しっかりしなさい、あんた達には未来があるんだから!」
 最中だった。玲亜の手を引き攻撃を回避させた緑の言葉が鼓膜を打つ。
「これは、幻覚よ」
 そう言う緑の言葉はある種自分に向けての言葉だった。そして一瞬、幻覚の所為か玲亜が弟の姿に見えてついつい庇ってしまったのは緑のみが知っている。
 玲亜はふらりと姿勢を正した。震えが完全には収まらないまでも、戦える。
「調子に……乗るな! この程度……この程度で、もう惑わされない……ッ!」
 氷が砕けた湖面に、再び氷が膜を張る様に。完全に甘さを凍てつかせ、氷の様に冷たく不動。分厚い鎧。絶望を直に見た事のあるそれは、そう容易く砕けはしない。翳す掌。煌めく氷の錐を撃ち放った。


 ニコラにとってそれはどうしようもなく嫌な事だった。でも、ちょっと我慢していた。最初だけは。
 斧槍を握り締めすぎた手には血が滲んでいる。視線の先には、大事な大切な大好きな愛する人達が。
『嫌い』
『大嫌い』
『消えろ』
『どっかいけよ』
『こっち来んな』
『死ね』
 露骨な嫌悪感。幾つもの敵意。拒絶。疎外。
「ta gueule!!」
 それらを掻き消す様にニコラは怒鳴った。黙れ、と。
 彼の世界は何時だって病的な程の善意と幸福と理想と夢と無上の愛とで構築されている。
 不幸も悪意も認めない、それらは彼の世界にあってはならないものだから。
 幸福は義務、邪魔をするなら何をしてでも『無かった事』にしなくてはならない。
 嫌な事は見えない聞こえない、彼の世界にそんなものは存在しないから。

 純粋すぎる程に純粋。それ故に。

「……聞こえないよ」
 尚も自分を、自分の世界を否定するモノなんて。
「君はいらない、必要ない」
 難しい事は分からない。周りは見えない。考えられない。
 だから、消えろ。
 倒すのは『敵』だし、それで良い筈。
 何度も何度も斧槍を振り上げ、敵を叩き潰して破壊した。


「行けますね? 皆がいます、大丈夫」
 と、遥久は皆へ治癒の光を飛ばす。その顔は笑顔。笑顔は言葉の何倍もの力になる、という親友の言葉を思い出して、無理矢理でも口角を上げ笑みを作り力付けんと。
 深呼吸一つ。ようやっと悪夢とやらに目を向けてみた。それは倒れた友を揺さぶり血塗れで叫ぶ過去の自分。天魔と対峙し、覚醒した親友の能力の暴走で共に負傷して。その際自らも覚醒したが編入直前まで隠していたため大喧嘩になったのだ。
『臆病者。いつまでもそうやって逃げてりゃいい!』
 脳内、大音量で響いた声。侮蔑の眼差し。刹那に凄まじい頭痛に顔を顰めて頭を抱えて呻いて蹌踉めいて、大切な親友を失うかもという2度の恐怖、喪失を恐れる己の弱さへの嫌悪が。攻撃なんて出来る状況じゃない。頭が痛い。蒼褪め、嘔吐感、唇を引き結んで、霞む視界の先には冷酷な眼差しで剣を構え紅蓮を纏う親友の姿。
 強く地に沈められるような恐怖感。揺らぐ体――
「やっほ遥久」
 ぐいと掴まれた襟元、倒れそうな体を無理矢理起こされたその先に、一臣の笑顔。目を見開く。
「モーニングコールよ……っと!」
 次の瞬間に強い衝撃が頬を直撃した。殴られたのだと一瞬遅れて理解した。あぁ、そうだった。彼へ『膝をつきそうになったら思い切り殴れ』と密かに頼んだのは、紛れも無いこの自分。殴られ膝を突いたがすぐに立ち上がった。
「ハァイ、お目覚め?」
「もう少し鍛えろ加倉、拳が甘い」
「インフィルの俺にそれを言うかねぇ」
 そんな軽口。遥久は常の静かな表情で前を向いた。内心は葛藤に苛まれているのを直隠して。
(本当に怖いのは、……自分自身だ)
 ワンドを握り締め、吶喊する。

 ――ただ、きっと、最後の一撃は打てない。

「やれやれ一安心かな」
 そして今度は自分の番らしい。一臣が銃を向ける先にいるのもまた一臣であった。父と瓜二つに成長した自分自身。
 幼児期に離れた父に対し、さして強い感情はなかった。女と金にだらしないが陽気で人懐っこい、時々ふらりと遊びに来た面白いオッサン。再婚ごとに子供を作って捨てようが、異母妹の治療費を賭博に使い込もうが、ひでェ話だと思うが現実味がなかった。
 だが父を知る者には必ず言われる。

『親父さんに似てきたね』

 外面が?内面が?俺もああなるのだろうか?
 親父そっくりに笑う自分が引き金を引く。脚を射抜かれる。痛み。
「……ハハ、なーるほど。さっすが胸くそ悪ぃモン見せやがる」
 怖気立つ。そこに辿り着きたくはない。幸せにできないならせめて不幸にしたくない。吐き気を伴う焦燥感。嫌な汗が背中を伝う。今すぐにでも胃の中身をぶちまけて泣き喚いて逃げ出したい。それでも鮮血を滲ませつ、意地でもいつもの笑顔を保ち意地でもいつもの軽い調子を貫いて。だって、それが俺ですもの。
「……特に笑う顔が似てるそうで。やぁねェ」
 だからこそ笑うのだ。密やかに苦笑。見せ付ける様に口角。否定を込めて、その頭へストライクショット。


 夜刀彦は恐ろしかった。
 幻覚に。心的外傷に。心を捉われぬよう互いにフォローする心算だった。だが、声が届かない。それほどまでに皆の心の闇は深く黒く暗く重い。そして、それは自分とて例外ではなかった。
 それの顔は覚えていない。だが気配だけは鮮明に覚えている。故郷を滅ぼし天使。仇。観た瞬間に景色が変わった。煙。怒号。悲鳴。血の匂い。壊されていく故郷。死んでいく何もかも。幻覚と分かっている筈なのに息が詰まる。背中の激痛。は、と息を吐く。四肢を縛る恐怖。視界に入る翼。想像以上に。眩暈。吐き気。吹き飛ばされて地面を転がった。
(動け……ッ)
 覚えてる。ただ目の前の恐怖に固まっていた幼い自分を、慟哭と恐怖を、圧倒的な喪失感を、繰り返し襲う記憶という名の悪夢に長い間自我を失っていた事を。覚えてる。不穏状態だった幼い自分を支えてくれた人を。覚えてる。トラウマと対峙するのを知って声をかけてくれた人を。
(覚えてる……)
 その手を、温もりを、言葉を、手紙を。
(独りじゃなかったから……戻れた)
 一度全てを失った。けれど今は独りではない。もう独りではない。
(過去の恐怖に……負けてる場合じゃ、ないんだ!)
 頭で幻覚だと考えて防御出来る程度の幻覚ではない。覚悟はしていた。何を目の前に突きつけられるかも。だからこそ、依頼を受けたのだ。
ここで克たずにどこで乗り越えられるというのだろう?
 体内燃焼させるアウルで傷を癒し、立ち上がった。真っ直ぐ、恐怖に抗いつつ双剣を構える。脚部にアウルを纏ってゆく。刹那、稲妻が迸るが如く強く地を蹴り天使との間合いを一瞬で零にした。
「これで、終わりだッ!」
 振り下ろす。

●ゆめゆめわするるなかれ
 気が付いた時、ソレは視界から消え去っていた。
 倒したのか、とようやっと理解して――深い溜息。武器を下ろす。
「ディアボロ一体に8人が無力化されそうになるなんてね。思った以上に厄介な能力だったわね……」
 玲亜の溜息。アンネリーゼも疲労を顔に浮かばせて呟いた。
「私が追い求める守護の力……。中々手に入りそうにないかな……」
 幻覚とはいえ、自身の心がかき乱された事を反省する。
 だが一方で、緑は明るい声で二人の肩をポンッと叩いて、
「皆おかえりっ! 頑張ったね」
 笑顔でそう言う。だが、直ぐにでも帰りたい気持ちでいっぱいだった。
 弟の笑顔が見るの。何より大切な私の弟。

「皆さんっ、お疲れ様です……!」
「怖かったなー! 泣いてしまうかと思った!」
「うん、ヤトちゃんもニコちゃんもお疲れさん!」
 労いの言葉を口にする夜刀彦、ぎゅーっと抱き付いてくるニコラの頭をもふもふ撫でて一臣は笑む。たくさん「好き」っていってとじゃれつく少年に癒される。
 ニコラはもう今回の事は忘れる事にしておいた。多分忘れた。ちょっと怖い事があっただけ?そんな事より皆をギューってする方が大事!皆に好きって言われると僕は今日も世界で一番幸せなので!
 それから一臣と共に先生へ任務完了の電話を。
「まんじゅう……じゃなくアンパンこわーい」
「センセーがんばったよー!」
『おっす! 無事で何より。今回も頑張ったな! ……ホラ、早く帰っておいで。雨降ってんだろ?』
 了解と答え通話終了。そんな一臣の肩を叩いたのは遥久だった。笑顔で、無言で、差し出す拳。それに一臣もニッと笑んで、その拳に拳を合わせるのであった。


『了』


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:16人

たぎるエロス・
大城・博志(ja0179)

大学部2年112組 男 ダアト
水神の加護・
珠真 緑(ja2428)

大学部6年40組 女 ダアト
お洒落Boy・
Nicolas huit(ja2921)

大学部5年136組 男 アストラルヴァンガード
銀月の守護者・
アンネリーゼ カルナップ(ja5393)

大学部6年307組 女 ディバインナイト
JOKER of JOKER・
加倉 一臣(ja5823)

卒業 男 インフィルトレイター
災禍祓いし常闇の明星・
東城 夜刀彦(ja6047)

大学部4年73組 男 鬼道忍軍
蒼閃霆公の魂を継ぎし者・
夜来野 遥久(ja6843)

卒業 男 アストラルヴァンガード
新世界への扉・
氷雨 玲亜(ja7293)

大学部4年5組 女 ダアト