●メタモルフォーゼでエクストリーム
これが件のバランスボールよ。と少女アキアカネが言う。ぼいんぼいん。まんまるくって大きなそれ。弾力。セクシィなピンク色なのはなんでだろうか。何処となく越南笠のピンク教師を思い出したり出さなかったり。
で、これに乗れと。乗りこなせと。一般的なバランスボールであれば超越的身体能力を持つ撃退士にとっちゃまさに『朝飯前』なのであるが、さてはて。
「……それじゃ、そこの貴方から順番にお願いするわ」
ニッコリ笑う。ズズイと勧められる。
「……いえ、その……私とて年頃の女性ですよ……?」
『そこの貴方』として輝かしき一番目に抜擢されたマキナ・ベルヴェルク(
ja0067)の表情は常の泰然としたものではなく、その精悍な顔立ちを薄く紅に染めて恥じらっていた。その様は正に、普段の凛々しさに反して年齢相応の女の子。ボールとアキアカネを見比べる。されどその内心、思い出の中――育ての親である傭兵達の中にはスタイルの良い人が多数いた為、それらに憧れる気持ちも無い訳ではなく。
ライドオン。スイッチオン。レッツゴー。正に暴れ馬。ばいんばいんぼいんぼいんと跳ねまわるボール。視界がシャッフル。されど落ちるものか。遠い記憶の姉達に思いを馳せる。そして止まった。ようやっと。眩暈を感じつつ息を吐いて降りて、己の身体を見遣ってみた。
「……見た目的には、殆ど変わっていませんね」
取り敢えず胸を見下ろして呟き。果たして何が変わったのかと思い胸や身体に触れてみると、マキナの洗練されたしなやかな肢体は――鋼の様な硬質な肉体に。ガッチムチに。体型は変わらないものの、これは……嗚呼。失敗だなんてそんな殺生な。
「あぁ、成る程……」
若干引き攣った苦笑。微妙に残念そう。しかし胸が窮屈で、気付かれぬ様一人になれる場所へ。軍装の上を肌蹴てみると、サラシの下には窮屈そうに収められた――大胸筋が。胸を持ち上げる様にしてその重さの実感とか。
「……これはこれで凄い、ですが」
ちょっとだけ抱いた期待を返せ。
(と言うか、良く考えたらこれで一週間生活しないといけない訳ですか……)
すっかり忘れていました。なにこれつらい。
「未知との遭遇……!」
ウキウキ感を隠せない、まるで小学生。月居 愁也(
ja6837)はサイズ大きめの服とサラシもちゃんと用意し、いざ。乗ってスイッチオンの瞬間に思いっ切り転がり落ちた。ゴッと頭と床がちゅっちゅする鈍い音。だってバランスボールに乗るのなんか初めてだったんだもんと絶望ポーズ。そういうのを数回繰り返して。
「お? ……おおお? やったー筋肉ゥウウ…ってすごすぎね!?」
ガッチムチのムッキムキ!世紀末でも生き残れそう!やったね愁也くん!まずは上半身脱いでポージング写メだ!
「皆もキレてるぞー!」
迸る月居フラッシュ☆皆を囃し立てつつ激写する事火の如し。
(服はちょっとピチ目めしにて筋肉を目立たせてみっかな……!)
わくわくソワソワ、遠野先生と棄棄先生とで筋肉談義でもしようかしら。撃退士に必要な筋肉やその鍛え方とかすごく参考になりそう、なんて。
足だけ馬足全身茶色ウェットスーツ+馬の被り物。お馴染みの馬、金鞍 馬頭鬼(
ja2735)である。前に巨乳になった事があり、その感動をまた体験したくなったので。
「フォォオオオォォォ……!」
物凄い集中力でバランスボールの上に荒ぶる鷹の如く片足立ち、果たして『その時』は訪れる。
ギュピ。
「……パーフェクトだッ!」
馬の被り物と腰布以外の服(?)が全て弾け飛び、身長が2m近くになり物凄くムキムキになっている。ヤバい。そんで足音が『ギュピ』。マスクが脱げないが気にするな!お前もうそれ半分素顔化してるじゃねーか!
その後、筋肉談義部屋に移動中。ガラの悪い学生と肩がぶつかってしまって。 謝罪するために振り向いたら勢い余って吹き飛ばし、頭を下げたら頭突きをお見舞いしたりと片っ端からフルボッコ。筋肉すげぇ。でも悪意は全く無い。でも依頼として指名手配され、賞金首となってあらゆる生徒に追い掛け回され学園中にギュピギュピ足音を響かせまくった一週間があったりするのだがそれはまぁ別のお話。
(因みに筋肉談義に於いて、身長が2mオーバーした二人に棄棄先生は容赦なくローキックを喰らわせたそうです。くやしいから。)
「ふふふっ、これが! これこそが私の本当の姿! もう貧相なんて言わせない! 魅惑のボディだっ!」
かざねこぷたーとか言いながらバランスボールに乗った後。降りるが早いか、これ見よがしに喜びどやーな感じに二階堂 かざね(
ja0536)は腕を広げてみせた。くるくるその場で回ってみせた。しかし、ハッ!と気が付いてしまう。
「な、なんじゃこりゃー! こんなの聞いてないよ! かわいくないよ、うぇー……」
ガッチムチーン。なんかムキってるのが可愛い感じに喚いている。顔は可愛いロリなのに。なのに。ヤダ面妖!ロリマッチョ!が、その直後にはムキィと効果音付きで立ち上がるや、怒りの力をエクストリームさせて。
「うそつきのボールめー! こうしてやるー! 無駄にパワーだけは溢れているんだっ! くらえー!」
噴ッと右手の筋力を活性化させた事で右腕の服がビリィと破れる!怒りのオーラが燃え滾る!
「回転殺法ッッ! かざねフィンガーッッッ!!」
グォォオオヌ!
なんかもうグラップラー!八つ当たり!ズキューンでドドドドでWRYYYYだ!
「聞いた事がある……回転殺法かざねフィンガーとは一瞬の回転により掌に力を込め、全力で飛び掛かるような勢いで突っ込み、渾身の一撃を浴びせる技で掌底に改良が加えられたものであると」
「知っているのか馬頭鬼!?」
なんていう馬頭鬼と愁也はさておき。結局ボールには傷一つない。そして、かざねは似合わぬ体でちまちまとお菓子を食べるのであった。お菓子部部長の名の通り、お菓子が大好きなツインテ少女だもの。普段から貧相なボディと言われているが故にナイスボインになれると聞いて、憧れボディに1週間だけでも!と意気込んでいたのに。
いやまぁボインっちゃボインだが大胸筋だこれ。
「いやー腕が鳴りますなあ」
バランスボールってつまりオモチャみたいなものでしょ?と染 舘羽(
ja3692)はカラカラ笑う。取り敢えずぼいんでもガチムチでも対応できるようにだぼだぼサイズのTシャツ&ジャージ。女子はぼいん、男子はガチムチを狙う者が多い様に感じられるが、舘羽曰くどっちでも楽しそうだ、と。
いざバランスボール。運動神経は良い方だと自負している。自前の某棒付きキャンディーをもぐもぐしつつ落ちずに跳ね続けたり、ボールの上で片足で立ったり軽く乗りこなし。正しい使い方ができるかはともかく。良い子の皆は棒を咥えたまま動き回っちゃいけないぞ!
「おぉ……!」
そして舘羽もガチ☆ムチ☆森の妖精へ。よっしゃ。お相撲さんを肩車したり街の道場破りに行ったりしよう。そんな決意。この子順応力ぱねぇ。そんなこんなでいざなってみると自分より周りの参加者の変化を楽しむ事の方が重要そうな気がする。ので、筋肉を触らせて貰ったり。
「よいではないかよいではないか。大丈夫、あたし(自称)テクニシャンだから任せて、めくるめくカンノーの世界へご案内」
おっぱいおおきいおんなのこ同士がこんなんやってたら一部の大きなお友達が「ウッ!……ふぅ」だろうが、残念!ガチムチだよ!ロリマッチョとかそんなんばっかだよ!
「わー、あははははっ!」
「俺の上腕筋の鼓動を聞けー! HAHAHA−☆」
とか、馬頭鬼に頼んでマッチョさんの力こぶにぶらさがらせて貰うという子供の頃のピュアな夢を叶えて貰ったり。愁也に撮って貰った写真のデータを送って貰って待ち受けにしたり。しばらくは笑いに困らないだろう。もう一回言うが、この子順応力ぱねぇ。
「せ、せめて胸だけでも大人の女らしく……」
巨乳になる、と聞いて思わず見遣った己のBカップ弱。沙酉 舞尾(
ja8105)は淡い期待を抱きつつ、動き易い服も来て準備万端。暴れ馬ボールも持ち前のバランス感覚で結構楽しんでぽよぽよ。ひょえー、となりながらボールから降りた瞬間――縫い目の裂ける音。
「ふ、ふわぁぁぁ……!?」
ムッキムキーン。
逞しい筋肉でTシャツの袖バリーンの腿チラ&ふんチラ(※海女の伝統服ふんどしがチラリしている状態の事を指します。ふんどしふん。)状態。隠す為にTシャツ引っ張ると力加減を誤ってヴィリィーン。哀れTシャツぼろ布化。あ、あわわわわ。ロリマッチョ再び!ぷにほっぺのちまころ幼女がガチボディのゴツムキ幼女に!
「だ、誰か服かして下さい〜」
半泣きで懇願するとアキアカネがその辺にあったジャージを貸してくれた。でも胸(大胸筋)が大きくて、ジッパーが閉まらない。
「見、見て下さい! た、谷間……谷間できてますーっ」
筋肉だけどな。落ち着くとぷにってない自分の姿に興味が湧いてきたらしい。
「コオロギの太もも……筋肉ムネ……」
こっそり大胸筋の維持を試みてみようとか思ったり。と、スーパーエンジョイ中の舘羽(自称テクニシャン)に筋肉をさわさわされた。上腕二等筋。
「おー! 凄いねー!」
「ひゃわっ!? いえっ、染さんも凄いです……!」
一瞬声を裏返すも、舞尾も彼女の立派な腹筋をふにふにさせて貰う。テンション高めで頬を染めながら。それにしても大きなお友達が画面の向こうで凄い口惜しがってる様が目に浮かぶ件。
そんなこんなではっちゃけたい御年頃。
「ヒャッハー!」
「パフッ、パフパフ、パフッ!!」
愁也と馬頭鬼は絶望のオトモダチに忍び寄り両サイドからのぱふぱふアタック!雄っぱいがめいっぱい!筋肉隆々ハグ!因みに舞尾もコッソリ加わりダイナミックハグを敢行してたり。
「体しぼれんだよね? え……違う?」
大きめサイズの服にサラシ、頭を抱えつつ九重 棗(
ja6680)の番。バランスボール挑戦はサーカスと変わらない、普通にバランスを取って立ったり、跳ねたり、ノープロブレム。懐かしいなぁ、なんて呟き降り立った。そんな彼のボデーはムッキムキで、ガッチムチで、モリモリだった。
「ここまでならなくてもよかったのに……」
絶望ポーズ。折角大きめの服着て来たのにムキムキでビリビリだし。なので着替えた。そしてなんとなくで愁也にボディプレス、馬頭鬼にドロップキックをかまし、かざねとなんか戦い始めてメメタァとかジョイヤーとか色々やり始めて以下省略っていうか完全にユーはショックなアレ状態でぱねぇ。なんだこの世紀末。
「俺のほうがでかいな」
そしてこの顔である。あ、因みに大胸筋の事です。
エルレーン・バルハザード(
ja0889)にとって貧乳は最大のコンプレックス。
変化の術でグラマー女性に変身できても、それは自分ではない。
故にホイホイと飛びついたのだ……
「はぅ……アキアカネさんの発明、信じてるからね!」
握手を交わし、励まされ、跳ねまわりまくるボールに一生懸命、全身全霊、乗りこなす。夢を信じて。
そして――
「ああぁ……ボタンが、第3ボタンから上が止まらないぃ……!」
ムッキーーン。現れたぼいんに目を見張る、見開いた瞳から涙。ところがどっこい筋肉だ!
「神は死んだ! ニーチェの言うとおり神は死んだ!」
少女は発狂。頭を抱えて慟哭する。そしてキャッキャとはしゃいでいる男衆を睨みつけて。
「おとこのくせに! もげろおおおおお! うわああああ!!」
鬼道忍軍のイニシアチブの高さを無駄に利用し、突撃!その豊かな乳(きんにく)をひきちぎらんばかりの勢いでひっぱろうと試みる!でも触れば触る程に、き ん に く !
「うわあああ……! ひどいよ、ひどいよ! こんなのってないよ! あんまりだよ!」
わけがわからないよ、と蹲って大号泣。でも収まらぬは腹の虫。悉く失敗に終わった実験結果に狼狽えているアキアカネを睨みつけ、その逞しい腕でひっ捕らえ。
「お前もマッチョになれえええ!!」
――こうしてマッチョがまた一人生まれた――
●そんなこんなでまぁアレだ
銘々に一週間。魔法の時間。楽しむものあり、哀れ消え去った夢に慟哭するものあり。
そして一週間。終わりの時間。折角なのでと皆で集まり。舘羽は今までで一番はしゃいでいた。撮りたいと思う集合写真なんて人生初だから。棗も、何だかんだで皆で楽しくわいわい騒げたからまぁいいかなと。
それじゃ撮るよとマッチョ少女アキアカネが合図する。はい、ちーず。パチリ。みんなでKWP(筋肉ダブルピース)。そして元に戻るけれど、フィルムに焼き付いたそれこそは、本当の証。
その後、舞尾は元に戻った夜に我に返って一週間の自分の行動が恥ずかしくなり一人悶え転げてたり……エルレーンは夢の中で今まではとても手が出せなかったセクシー系コスプレ(女戦士、ボディコンスーツの女スパイ、アクションの女忍者etc)をぼいんぼいん状態で装備してたり、憧れの『ビキニの水着』を着てたり。
「ううっ、夢みたい……! ねえ、私可愛い!? 可愛い!?」
そんな寝言を呟いたとか。
『了』