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マスター:ガンマ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:5人
リプレイ完成日時:2012/01/16


みんなの思い出



オープニング

●真っ暗トンネル
 KEEP OUT。つまり立ち入り禁止。黄色テープにバリケード。来る者を悉く拒む。
 それは山間の道路、唐突に念入りに現れるそれらの随分先にはトンネル一つ。
 そんなに古くもない。どこにでもありそうな。
 しかし『KEEP OUT』――何故ならば。

 『この先 悪魔注意』

 いかにも急いで作られた看板。
 時折トンネルの方から聞こえてくる咆哮。

 それが全てであった。

●スクールのルーム
「山間の平和な町から緊急SOS――ディアボロが現れた。
 何でも、急に出没したかと思いきや山間のトンネルに居座ってしまった様で」
 集った生徒達に開口一番、見渡しながら教師が言う。
「諸君らにはこれの討伐を行って貰う。シンプルだろう? だが気を抜くなよ。僅かな油断が命取りだ。
 出現したのはディアボロ『トンネルの怪』――辛うじて避難した者が撮影した写真がこれなのだが」
 そう言って机上に置かれたのは奇麗とは言い難い写真だ。ブレてボケ気味だが、そこには確かに異形が――両腕が斧の様に成った人型異形が。
 荒々しい。写真からでも暴力的な雰囲気。
「命辛々逃げてきた一般人の話によると、『巨人の様だった』『両手が斧になっていた』『車を滅茶苦茶に破壊された』『叫び声に鼓膜が裂けるかと思った』だそうだ。
 出没した時、殆ど人がいなかった事と急いで避難した事、トンネルの怪がそのままトンネルに居座った事で未だ酷い被害は報告されていないが……まぁ、時間の問題だな。
 で、こっちが問題のトンネル。しっかり見ておくんだぞ」
 次いで広げられるのは現場であるトンネルの写真と見取り図だ。何処にでもある半円型で一本道の長いトンネル、それなりの長さと高さを持っている。
 広さは……広い、と言えば広いのだが。何人もが広々と横に並ぶ事は出来ないだろう。ゆったり余裕を持つなら二、詰めるなら何とか四人程度か。
「しかし馬鹿力そうなディアボロだな。攻撃に吹っ飛ばされないよう気を付けなさいよ!
 通路も『細い』と言ってしまえば細いし、吹き飛ばしの事も考えると挟撃するのは注意した方がいいかもしれん。
 挟んだは良いがウッカリぶっ飛ばされて孤立なんかしてしまったら連携のレの字も無いからね。分かったか?」
 作戦は包囲以外にもある筈だ。先生の視線に頷きで応える。
「……サテ、情報はこんなもんだ。あとは諸君、しっかり話し合って現地でも頑張るんだぞ。
 先生、応援してるからな! 久遠ヶ原学園の生徒であるという自覚と自信を持って、頑張るんだぞ」
 と、教師はニコリと微笑んだ。


リプレイ本文

●転移の蒼に包まれて
 事前の打ち合わせを終え、斯くして真っ先に目に飛び込んできたのは『立ち入り禁止』の文字とやっつけのバリケードだった。
 燦々。光に目を馴染ませる様に瞬きをして見渡してみれば仲間の姿。七。自分も含めれば八。
 ふむ、と鳳 静矢(ja3856)は己が顎に手を添えた。元々が数キロ単位で誤差の出る転移装置。場所の細かい指定はやはり出来なかったか。だがそんな事で狼狽える撃退士ではない。予想の範囲内。
「寧ろ、何キロも遠い所に飛ばされなくってラッキーじゃんか」
 親友の形見たるゴーグルのレンズを陽光に煌かせ、桐生 直哉(ja3043)は鋭い双眸をトンネルの彼方に向ける。
「もしトンネルの両端から出発できるようなら、楽だったのですけどね……」
 方頬に手を添え天羽 マヤ(ja0134)は息を吐く。仕方のない事だ。見遣る彼方のトンネル。仄暗い。コンクリート。こういうモノにちょっぴりワクワクしてしまうのは考古学者たる父の影響か否か。
「……『トンネルの怪』! なんだかオカルトちっくな響きですねー。天魔とか関係なしに何か出てきそうな雰囲気ですしっ」
 ランタンOK。準備OK。いつでもOK。

 そんな時だった――凄まじい咆哮がトンネルより撃退士の鼓膜を殴り付けたのは。

「……地方は違うが、俺もこういう山で隔たれた地方の出だ。トンネルを抑えられる痛さは良くわかる……」
 ヘッドランプを装着し、ツーハンデッドソードを構え。物流等の点でも至急の開放が必要だろう……佐倉 哲平(ja0650)はトンネルより溢れ出す殺気に凛然と向き合う。それから仲間達に目配せを。
「主がお導き下さったのなら。……この依頼、成功させます」
 各自で耳栓、照明。深呼吸の後にレギス・アルバトレ(ja2302)は手斧を手に一歩、緊張と覚悟の表情で歩を進める仲間に続いた。
 最中に煌めいたのは雪の結晶、愛用ウシャンカをくいを指先で擡げ得意気に。
「フフン! あたいがさくっと倒してやるんだから!」
 自信過剰。年齢よりも子供っぽい。そんな雪室 チルル(ja0220)がハッと気付いた時には――結構先に行っている仲間の背中が。
「ちょ! 待ってよねっ」
 慌てて、急いで。
 そんなチルルの一方で田村 ケイ(ja0582)は常通り淡々沈着、くるんと手の中で拳銃を回して。

「――さて、やりましょうか」

 視線の先には、揺らめく巨影。

●トンネルの向こうは悪魔でした
 壊れた照明、照明に照らされた仄暗いトンネル。力任せの破壊の跡。立ちはだかるトンネルの怪。
「つまらない、相手……」
 気配に気付いたか、歩を進めて間もなくこちらに牙を向く悪魔に樋渡・沙耶(ja0770)はポツリと呟いた。

 ただ斧を振り回すだけな筋肉馬鹿のイメージ。
 特筆すべき特殊能力も、生態も、無い。
 きっと討伐した後は直ぐに忘れて、思い出す事も無いんだろうな。

 思いながらコンクリート壁に触れ、祖霊陣。これでもう逃げる事は出来まい。逃げたいのなら撃退士を撃退する事だ――尤も、それが出来たらの話だが。

「―――!!」

 刹那の咆哮、なのだろう。耳栓のお陰で耳がやられる事は無いが……ビリビリと衝撃。正に音の暴力。
「行くぞ!」
「ん、了解です……」
 ハンドサイン、アイコンタクト、ABの班に分かれ作戦通り。直哉と沙耶がトンネルの怪に吶喊する!
「今よ、行って!」
「了解ですっ!」
 密閉性高いヘッドセットは耳栓の代わり。ケイが準備したそれを取り付けたマヤと連絡を取り合う。
「行きましょう!」
 マヤはトンネルの怪を引き付けるべく猛攻撃を仕掛ける直哉・沙耶から同じ班の仲間達に視線を移し、ハンドサイン。ほぼ同時に走り出す。挟撃を試みる。
「よろしく……気を抜かずに行こう」
 紫霧を纏い、静矢も仲間に続いた。トンネルの怪の巨体故か、本当にすれすれを通り抜けるしかないか。

 ――目が合った。

 やはり、そう簡単に通してくれる気は無いらしい。上等だ――大きく薙ぎ払われる斧をしゃがんで躱す。しかし数本、はらりと紫髪が舞った。
 今の一撃でB班を牽制した悪魔がもう一撃を回り込まんと移送中のA班に振り上げる。が、
「おらおらー! 退きなさーい!」
 真っ正面超特攻、悪魔の脚の間をスライディングで通り抜けたチルルが行動と同時に細身の刃でその脚を切り裂いた!

「今よ! あたいに続けーっ!」

 一回転して立ち上がったチルルの言葉と同時、ケイの放った弾丸が悪魔の頭上の照明を撃ち抜いた。一瞬のスパーク、降り注ぐ破片、それの気が逸れる。

「主よ、貴方の御恵みが私に在りますように」

 レギスの祝詞と共に暗紅の色を纏う斧。静かに敵を見据える紅眸は無表情、男性恐怖症の彼女にとってあの悪魔は生理的嫌悪感しか覚えない。狙いを澄まして得物を投擲――回収するまで使えなくなるが、どうせ自分は後衛置だ――回転しながら縷々と飛んだ刃は斯くして悪魔の片目に、突き刺さる。
 悲鳴、だろう。きっと。耳栓越しには音は唯の衝撃に過ぎない。皆の照明が散る赤を照らし出した。全員の協力のお陰か、無事に布陣を終えたA班を照らした。
「何とか回り込めたわ! ここからが本番ね!」
  意気込むチルルが剣に着いた血を振り払う。直後、トンネルの怪が目の傷に怯むその隙に壁を蹴った直哉の飛び蹴りが、沙耶の薙刀による鋭い一撃が更に悪魔の赤を晒した。

「……数の力だ、卑怯と言うなよ!」

 痛みに振り回される斧、闇雲、無茶苦茶、それを躱し、あるいは掠り――遂にその斧の上に降り立ち。哲平は膂力の限り大剣を薙ぎ払った!
「ッっ……!」
 硬質な皮膚を切り裂く轟閃に悪魔の上体が揺らいだ。そのまま無理矢理に斧の両手を振り下ろすも、狙いは無きに等しい。飛び退く哲平の視界にひっくり返った自動車が木端微塵になるのが映った。
「……正面から喰らいたい攻撃じゃないな……!」
 頬を伝う血を拳で拭いつつ、肩で息をする哲平は更に飛び退く。傍らにて静矢が視線を哲平に、ハンドサインの会話。
『怪我は無いか?』
『少し』
『大丈夫か、下がって休むと良い』
『そうする』
 後退する哲平、代わりに前へ出た静矢は紫隣を纏う大太刀を正眼に構えた。好戦的に口元を妖艶に笑ませて。
「行くぞ」
 紫髪を靡かせ、強く地を蹴る。

「光、あれ」
 一方のB班。A班が回り込む為に健闘した代償として傷を負い、跳び下がった直哉の傷にレギスが手を翳した。赤暗くも、柔らかな光――神秘の光は壊れた組織を治し、繋ぎ、痛みを、血を、拭い去った。
「ありがとな!」
 傷が癒えれば鋼脚甲の鈍い音を立てて飛び掛かる。耳栓をしている所為で声は聞こえなかっただろうが気持は伝わった筈だ。トンネルの崩壊を防ぐ為にも迅速に倒したい。ケイの援護射撃を受けながら――サインで沙耶に「次はあんたが回復して貰え」と示し――狙い定めるは先程チルルが切り裂いたあの脚の傷。
「喰らえデカブツ!」
 回転を加え、鋼の蹴撃。鋭い一撃。これ同時に膝の裏を攻撃出来たら膝カックン出来るんじゃ……なんてのほほんと思ってみたり。
 そうこうしている内に回復を終えた沙耶も前衛に戻って来た。見据える先は斧の手。その手を無力化させるべく仲間が集中攻撃を行っている箇所。バックステップで振り下ろす一撃を躱し、鮮やかな刺突を斧手の傷口へ。
(動きはノロい癖に……)
 最後衛のケイは銃口の照準を合わせていた。胴体なら当てるのに苦労はしないが、腕となると……如何せん良く振り回す。耳を塞いでいるので、聞こえてくるのは自分の呼吸の音と心音――悪魔の向こう側ではA班が息を合わせて攻撃しているのが見えた。時折マヤの連絡も入る。それに合わせ、仲間達にサインを。悪魔には弾丸を。

「ちょっと! あんたの相手はこっちよ!」

 ケイの弾丸にトンネルの怪が視線を逸らした瞬間、チルルの斬撃が鋭く悪魔の脚を斬り付けた。直哉と協力して同じ個所、機動力を殺ぐ為。北国生まれの熱血少女は吶喊する。しかしすぐ傍に落とされた強烈な斧の一撃の衝撃に吹っ飛んでしまった。堅い地面を転がる。白い肌に傷ができる。幸い大事には至らなかったが……舌打ち、血混じりの唾を吐く。
「交代だ……後は引き受ける……!」
 彼女の前に立ったのは息を整え終えた哲平。おっと、そういえば耳栓があるからサインが必要か――『後退だ』。
「べ、別にあたいは何時だって平気よ!」
 強がってみるも、思わずハンドサインを忘れ。だが彼の言葉通りに――本当は突撃したくって堪らないが――マヤの援護射撃を受けつつ後退する。安全地帯にて救急箱を開き、簡単な応急処置を。
『手伝いましょうか?』
『ううん平気、ありがとっ!』
 マヤのサインにニコリと笑んで。
 そう、と同じく笑みで応えたマヤだったが、次の瞬間には表情を引き締めトンネルの怪を狙った。真っ直ぐ。銃口。狙うのはケイと連携して、同じ個所――即ち斧の手。
 しかしお構いなしに暴れてくれるものだ……引き金を、引く。

「……足の遅さ、利用させてもらう!」

 哲平の轟閃がトンネルの怪の背中を切り裂いた。反撃に放たれる広範囲の攻撃は剣で受け止めるも、勢いに圧されてしまう。だがその威力は最初と比べて落ちている様な。連携の取れた作戦のお陰か、重傷者はいない。この悪魔も弱ってきている。
 決着は、近い。

「これで終いだ……!」

 刹那、紫の一閃。
 大きな攻撃の後にできた隙を静矢は見逃さなかった。
 弾丸を浴びつつ、怒りに歯を向く悪魔が静矢へ片手を振り上げる。が、――ズルリ。ボトリ。その手が落ちる。撃退士の集中攻撃を浴び、ついに斬り裂かれた手が。血潮。頬に返り血を浴びて、紫刃を突き付けた。

「……この紫の太刀は伊達ではない……!」

 凛然。艶然。言い放つ声に気圧されたか、或いは痛みの所為か。半歩下がる巨躯の悪魔。もう反対の手はケイとマヤが連絡を取り合いながら息を合わせて照準を合わせる。
『準備OKですっ』
『うん、往くよ天羽さん――せーの、』

  タタン、

 ほぼ同時の銃声、発砲火。
 悪魔の斧を穿つ二つの弾丸。ぶつかり、仄暗い影に煌めく火花。それは振り回される兇器の軌道をずらし、仲間達の回避支援となる。
 横薙ぎの斧は壁面へと――しかしトンネルの損傷を少しでも抑えたい直哉が咄嗟に動いた。
「させるかよ……っ!」
 強く地を蹴り、先回り。壁を背にすれば斧が目前。けれども直哉は冷静に構え、胆に力を込め、思い切り蹴り上げた!

「!」
 硬い物同士がぶつかり合う鈍い音、跳ね上げられる悪魔の腕。その隙に沙耶は鋭い刺突を繰り出し、哲平も死角を狙って剣を大きく振るった。
「ん……凄く、無駄に、頑丈……」
 毒を吐きつつ大きく後退。レギスへ視線とハンドサイン。
『回復、お願いしても、いいかしら』
『任せてくれ』
 光あれ。祝詞と掌、紅の光。癒しの祈り。消える痛み。
「あと少しだ……無事に成功させる為、全力で頑張ろう」
 耳栓はあるが伝わるか。うん、と沙耶は頷いた。見た目に反して強気な少女は薙刀を構え直す。吶喊する。直哉の蹴撃と拮抗していたトンネルの怪へ。

「すまない……少し休む」
 猛撃に多くの傷を負い、飛び退いたのは静矢。振り返る視線の先にはすっかり元気一杯になったチルル。
「よぉーし、後はあたいに任せてっ!」
 チルルが満点笑顔で差し出した手に、静矢はふっと苦笑を浮かべてハイタッチ。交代。するや否や、特攻少女は一直線に駆けた。矢の如く。マヤの弾丸、哲平の刃に支援され。あと一押しなのだから、勢いに任せる!
「突撃ぃーーっ!!」
 思い切り振り抜く刃は脚の傷。塵も積もれば山となる、千里の道も一歩から。そして、ダウンも小さな一撃から。
 トンネルの怪が蹌踉めいた――膝を着いた。
「……往くぞ……!」
 その背を足場に、哲平が飛び上がる。振り上げる。重力と、膂力と、気合と根性。狙う後頭部。振り下ろす。叩き付ける。確かな感触。
 悪魔の大口からは絶叫。音の暴力、衝撃――

「――うるさいのよ」

 淡々。刹那に空を裂いたケイの弾丸が、静寂を齎した。

●良く晴れた空の下
 斯くして、トンネルの外。
 久々に日を浴びる気がする。そんな錯覚。明るい外の景色に瞬きを。
 撃退士達は一先ず互いに労い合い、無事の成功と重傷者が居ない事に安堵の息を吐いた。

「よしっ、他に怪我はない?」
 掠り傷等はチルルが持って来た救急箱で簡素な治療を。それが済めば彼女はトンネルの損害確認の作業に向かった。誰もの顔に大なり小なり疲労の色が滲む中、非常に活発である。
 一方で直ぐに空腹になる体質の直哉は友達が作ってくれた竹の葉に包まれたお弁当をいそいそと広げていた。そこでふと仲間達に視線を向け――少しはにかみながら問うてみる。良かったら一口食う?と。

 何はともあれ無事の成功。レギスはホッと胸を撫で下ろした。
 それから、遥かな青空を仰ぎ見る。冬晴れ。昼下がり。太陽の明りに目を細め。

「主よ、どうかこれからも私達を正しい道へお導き下さい」

 祈りの声は遥かな蒼へ。




『了』


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:9人

影の王冠・
天羽 マヤ(ja0134)

大学部5年298組 女 鬼道忍軍
伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
cordierite・
田村 ケイ(ja0582)

大学部6年320組 女 インフィルトレイター
一握の祈り・
佐倉 哲平(ja0650)

大学部5年215組 男 ルインズブレイド
無音の探求者・
樋渡・沙耶(ja0770)

大学部2年315組 女 阿修羅
茨の野を歩む者・
柊 朔哉(ja2302)

大学部5年228組 女 アストラルヴァンガード
未来へ願う・
桐生 直哉(ja3043)

卒業 男 阿修羅
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド