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マスター:ガンマ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2012/04/23


みんなの思い出



オープニング

●そうだ、狂都、逝こう。
 血を求めてふらふら、刃を垂らして、彷徨い彷徨う。
 覚束ぬ、飢えた足取り。1、2、1、2。
 真っ赤っ赤である。

●スクールのルーム
「オッス諸君! 京都がしっちゃかめっちゃかなのは知ってるな? 今回の任務はその一連のモンだ」
 言葉と共に教室へ入室してきた棄棄が相変わらずのデカイ声で言う。資料を雑く投げ広げるや教卓に座る。
「京都付近の大通りに出没したサーバント×2の討伐。それが諸君に課せられたオーダーだっつぇ」
 示された写真には2体の異形。何れも血管が集まった様なひょろ長い異様な外見で、特に目を引いたのは四本の腕。蟷螂か何かの様に鋭く凶悪な刃物へ変貌している。
 体躯とその長さ的に、攻撃の範囲は広いだろう事が容易に想像できる。
「こいつァ中々に身体能力が高くってすばしっこい連中らしくてな、一遍に二回攻撃とかもするとか。
 そィからおもっくそ切り裂かれたら血が止まらなくなったりすっかも。じわじわ体力が削られるかもしれん……が、回復技とかで治せるだろうし、他の対策でちょっと軽減できたりするだろ」
 対策――保健の教科書に載ってる様な奴だよ、と棄棄は言う。破いた服でぐるぐる巻きにするとか。
「そんで現場についてよん」
 示すのは見取り図と写真、広い十字路だった。大きな歩道橋が四角く、道路に隔てられた其々を四角く繋いでいる。流石に人の姿は無い。乗り捨てられた車や自転車、街路樹、電気の消えた店、電柱。
「ま、大体御覧の通り。市街地戦だな。そんで説明はこんなもんでして」
 教師が笠の影から生徒を見遣る。真っ直ぐと。
「諸君の武運を祈る。――往って来い、ガツンとぶっかましちゃれ!」


リプレイ本文

●エンゼルタウン
 静まり返っている、廃墟と見紛う絢爛の都。
 神秘を纏うグラルス・ガリアクルーズ(ja0505)の指先に触れた札から広がるのは天魔の能力を殺す領域、戦場、エンジンの音が無人の町に響く。車が何も無い夜の道路を走って行く。余程急いで避難したのか、鍵が刺さりっぱなしの車があった僥倖に感謝せねばなるまい。
(一刻も早く開放しなければ……)
 別の車を走らせる大炊御門 菫(ja0436)の脳裏に過ぎるのは思い出の中に居る人々の顔。京都の出身だからこそ。皆は大丈夫だろうか。いや、父上が守ってくださるだろう。

 私は私にしか出来ない事を。
 皆を守り、何よりも強くなる。

(目の前の事に集中するんだ)
 出身の地が天魔に荒らされ怒りを辛うじて飲み下し、自分に言い聞かせる。
「……全部、守れたらええのに」
 また別の車を運転し、流れる景色に小野友真(ja6901)は悲痛に呟く。荒廃した街並み。沈む気持ち。
 しかしいつまでも暗い気持ちではいられない、見えてきた十字路――不気味な二体のサーバント。
 目配せをし合って、一気にアクセルを踏み込んだ。できればアクセルを固定したかったが、上手い具合の手段が無い故。ぐん、と慣性の法則、迫り迫る。
「駄目元でやってみようか。分断できるならそれに越した事はないしね」
 グラルスの視線の先。さて、吉と出るか凶と出るか――ぶつかる寸前にと車から飛び出した。地面を転がり、見遣る。しかしサーバントは飛び躱したか。
 されど、十二分である。
 サーバント同士の距離は、少なくとも先よりは離れた。車が障害壁にもなっている。

「――作戦開始」

 クライシュ・アラフマン(ja0515)が盾を構える音と共に、抑揚の無い声。大規模にて小隊指揮する立場もある、されど好戦を滲ませた血を闘争を望む色。盾を構えて、キリサキの一体へ突進し強く押し遣るその頭上、胡蝶の様に飛び越え見澄ますのは夜空を背にした鬼燈 しきみ(ja3040)の双眸であった。
「おーうねうねーなんだか気持ちわるい敵だねーうぇーい足止めをするだけの簡単なお仕事ー」
 軽快に降り立ったのはキリサキの背後、異形が振り返ったと同時に幻影の靄を纏わせたカットラスを回転する様に振り抜いた。喧嘩独楽の如く、速度を乗せた重い一撃。確かな手応えと。天使の反撃を得物で受け流し思う……認識阻害は成功したようだが、これに目とかそう言ったものはあるのだろうか?ピット器官だろうか?
「んー不思議だねー。まぁいいやーがんばっていこーねーいえーい」
 跳び下がり、刃をダガーに持ち替える。
 始まった戦い。それを乗り捨てられた車の上から一望したのは寸胴鍋の覆面を被った阿岳 恭司(ja6451)――又の名をチャンコマン。
「ひょろひょろで4本腕ねぇ……プロレス技効くかな〜……?」
 しかしやらねばならぬが戦の華。とうっと飛び出し華麗に一回転を決めて降り立つや、拳をガツンと搗ち合わせた。

 目隠しの靄で狙いが荒くなっているとは言え、その刃は少し掠めただけで肌がぱっくりと裂けてしまう。
 クライシュが構えた盾にキリサキの刃がガンガンと何度もぶつかっている。或いは彼の肌を裂く。伝う赤、されど吐くのは挑発の言葉。
「どうした? 貴様の相手は俺だ、余所見してくれるなよ?」
 刃を振れば、異形の返り血に白い面が赤く染まった。戦闘は、楽しいと思う。弁えてはいるけれども。
 その横合い、キリサキの死角(目が無いから何とも判断できないが、そうだと思われる所)へ回り込みつつしきみが鋭くダガーを投げる。振るう異形の刃がそれを弾いたけれども、その気が逸れた瞬間に掴みかかるのは恭司の大きな掌だった。

 さて片班が抑えている間に一刻も早くもう一体を倒さねばならぬ。

「わわっ。何か凄く形容し難い敵さんだねっ、でも倒さないと! 」
 見た目に反してやや幼さを感じさせる物言いで永瀬 雫(ja3899)はロッドを正面に突き出した。その視界の先には親友で相棒である橘 和美(ja2868)の背中が。
「和美ちゃん、頑張ろうねっ」
「勿論よ雫! 京都の状況をこれ以上悪くするわけにはいかないわねっ、精一杯がんばらせてもらうわよっ!」
「よーしっ。どかんといっちゃうからねっ!」
 雫の言葉と共に正面へ翳した杖の周囲に二つの魔法陣が浮かび上がった。雫龍魔法。放つのは二条一体のレーザー魔砲――それと並走する様に和美も強く地を蹴った。挑むは真正面から。もう一体の方も気になるが、抑えの班の仲間を信じて集中する。異形を斃す為に。
「天よ、我に力を与えたまえっ」
 上段に構えた大太刀に星の光が降り注ぐ。それはシリウスを思わせる白い輝き、悪を討つ正義の光。

「天狼斬っ!!」

 振り下ろした刃と雫のデュアルレーザーが着弾したのは同時、息の合った抜群のコンビネーション。
 キリサキが衝撃に飛び退く。次いで、反撃せんと振り上げられるキリサキの刃――それを受け止めたのは間に入った薫のシールドであった。その身に纏うのは不快のオーラ、攻撃の対象を己へと向ける。
 広く鋭く振るわれる刃。けれども凛と引き結んだ菫の表情は変わらず、怖じけず、受け止める。防ぐ。
「かかってこい、何度でも。幾らでも防いでやる」
 堅牢な鉄壁は彼女の胸に聳ゆる高潔な意志の如く、絶対に崩れない。
 そして彼女はただ防いでいるだけではなかった。
「もうちょっとこう……可愛い見た目でお願いしたいわー……」
 リボルバーの照準を合わせつつ友真は引き攣り笑いを浮かべる。虫系苦手。虫じゃないけど気持ち悪い事に変わりは無い。ちゃっちゃと倒してしまいたい――菫の誘導のお陰で上手く死角へ狙いが定まった。
「菫さん、おおきにっ!」
 引き金を引くと同時に乾いた銃声、肩に伝わる衝撃、鋭い弾丸がキリサキの頭を仰け反らせた。
「……構わん。攻撃は任せた」
「おっしゃ任されたでー! 俺かてたまにはガンガンいったるわ……!」
 やるときゃやるのだ。

「攻撃範囲が広いなら、届かない位置から狙い撃てばいい。貫け、電気石の矢よ。トルマリン・アロー!」
 グラルスが紡いだ呪文は雷を纏う結晶を作り出し、それは精密な直線の軌道を描いて矢の如く飛んで往く。切り裂きがこちらを見た。轟然と刃を振るい前衛の二人を牽制するやそのひょろ長い腕を長く伸ばして強襲を仕掛けて来た!
「そう簡単にはやらせないよ。出でよ、黒曜の盾。オブシディアン・シールド!」
 されど冷静に、次いで紡いだ呪文によって召喚したのは金緑の騎士盾であった。それと天使の刃がぶつかり合う音――或いは防ぎ、或いはグラルスの肌を裂く。舌打ち、跳び下がる。直撃しなかっただけ僥倖か、盾が無ければもっと酷い目に遭っていたかもしれない。生温かい感触と鋭い痛み。

 命が、血が流れ出ていく感覚。

 自己犠牲は当たり前。
 自分の身より味方が無事であれば何も言う事はない。
 味方を守る。
(強くなる為には――強さとは)
 その揺るがぬ信念故に菫の傷は誰よりも多い。仲間が負ったであろう傷を受け止める。噛み合わせた歯列から荒い息を漏らす。ボタリボタリとアスファルトに赤黒い染みを造った。
「私は、負けない」
 出血の酷い個所に応急手当を施し終え、凛然と。
「大丈夫?」
「平気だ、ありがとう」
 菫が自身を手当てしている間にキリサキの猛攻を受け止めていた和美の声に応え、前へ。代わりに和美が下がる。それを雫が魔法攻撃で援護した。
「全く、ザクザク景気良くやっちゃってくれたねぇ」
 苦笑を浮かべ、和美は予め購入しておいた包帯で手早く傷の応急手当てを施してゆく。駆け付けた友真も救急箱を手にその手伝いを。
「ちょっときつめに包帯巻いときます!」
「ありがとっ」
 手早く行う治療。再度前線へ跳び出していく和美を見送り――友真は銃を構えた。積極攻勢。最近は少し自信が付いてきた故に。

 味方は誰も死なせたくないし、自分も絶対死なない。

「吹っ飛べ!」
 放つ弾丸がキリサキの胴に直撃する。くの字に折れる。
 斯くして、その隙をグラルスは見逃さなかった。

「そろそろとどめだ。弾けろ、柘榴の炎よ。ガーネット・フレアボム!」

 掌から放つのは紅炎を纏った深紅の結晶、キリサキが顔を上げた時にはもう遅い。天使を捉えた結晶は弾けて飛び散り宛ら小爆発。火炎が紅く包み込む。炎の中で天使は藻掻き、蹌踉めき、そして――頽れた。
「先ずは一体、だな」
「雫っ、そっちは大丈夫?」
「うん、へっちゃら!」
 息を吐きもう一体へ歩を進めるグラルスに、互いの無事を確認し合う和美と雫。
 それから見遣るは、抑え班の方向――


「……悪いが一事退く、援護してくれ」
 切り裂かれた傷を押さえてクライシュが下がった。同時にずいと前に出るのは恭司である。
 防御に専念しているとは言え無傷な者は居ない。されど、
「プロレスラーは耐えてなんぼじゃー!」
 勇猛果敢に立ち向かい、その傷を増やしながらもキリサキを捉えた。腕力に物を言わせて持ち上げた。その間に傷は増え行くけれども、それが何だ。

「ちゃんこ式ぃ……ブレーンバスター!」

 回転を加えながらの強烈なブレーンバスター。振り解かれて間合いを開けられたが、ダメージは零では無い。
「おーチャンコマンかっこいーねーチャンコー」
 と、その様子からしきみは炙ったダガーへ視線を戻した。間接圧迫を行っている傷口。ぱっくり開いた赤。随分派手にやられたものだ。歯を食い縛って焼けた刃を傷口に押し付ける――ジュ、と肉の焼ける痛み。歯を食い縛って漏れかけた悲鳴を圧し殺す。
「……っふはー、うにー全くやれやれだよー」
 大きく吐く息。荒療治だが血はまぁ止まった、手の中で焼けたダガーをポンと放るやキリサキ目掛けて投げつけた。突き刺さる。口が無い故悲鳴こそないが痛みに悶える不気味な天使。痛かろうて。
 その間にクライシュは傷口の止血を終え、盾を構えて前に出た。
「もう少し付き合って貰おうか」
 その言葉が終わるや否や。飛び掛かるキリサキの腕がクライシュへ襲い掛かる。盾で受け止める。その視界の端、彼方――もう一体のキリサキがグラルスのガーネット・フレアボムで燃え崩れる様子を確認する。ならば。キリサキを蹴り飛ばし押し遣った、その瞬間。

「こっちも倒しに来たわっ抑えてくれててありがとうねっ!」

 キリサキの後方、不意を突いて白の刃を掲げたのは和美。天狼斬を叩き込む。
「うぇーい待ってたよーお疲れ様ー」
 等としきみはマイペースに言いながらも鋭い動作で目隠しの靄で異形を包んだ。飛び下がる。仲間達が駆けつける。グラルスの電撃が、友真の弾丸がキリサキの動きを牽制した。更に菫が肉薄し、徹底して攻撃を盾で防ぐ。仲間の盾になる。
 人数が居れば、その分安全に確実に応急手当も出来る。攻撃を喰らう頻度もグッと減る。
「さて、反撃と行こうか。お前の居場所はここではない、在るべき場所へと還れ」
 クライシュが突き付ける切っ先の彼方、跳び出す和美の姿があった。
「雫っ、そっちは大丈夫?」
「バッチリ!」
「よーしっ」
 見澄ます先、菫が生んだ隙を見逃さずに友真が放った弾丸でバランスを崩す異形。闇雲に振るったその刃は目隠しの靄に包まれて空を切った。
 そこへ、袈裟切りに振るわれる刃。
「続けていくよっ!」
 タイミングは十全、魔法はパワー。雫が正面に翳した杖。二つの魔法陣からレーザーが放たれて――それはキリサキの頭部を貫いた。

●カエルマデガ
「うっし、お疲れさん!」
 救急箱を傍らに恭司ことチャンコマンは自身への応急手当てを終えてふぅと息を吐いた。辺りは静寂。キリサキを無事に斃した証。
「取り合えずぎゅっとしてねっ。ぎゅっとっ!」
「いてててて! ちょっと包帯キツすぎーっ」
「痛いの痛いのとんでけー!」
「とんでってないからーっ」
 和美も雫の治療を受けて、和気藹々。誰もの顔に疲労があるが、それよりも達成感の喜びの方が勝っている。
「うぇーいお疲れお疲れー。さぁ帰って本読もー」
 しきみはいつも通りである。グラルスもようやっと長い息を吐いた。

 一方で、嫌なぐらいに静まり返った京都を見渡す菫の表情は尚も曇ったままであった。故郷が蹂躙された悔しさ。今すぐどうにかしたいが、どうにもならないもどかしさ。空気を吸う。故郷の空気。侵略された空気。吐いた。気持ちは静まらない。そっと目を閉じる。もっと強くなりたい。

「中世日本の政治の中心だった都か、出来れば観光で来てみたかったんだがな……」
 クライシュは白い面の奥から狂乱に墜ちた都を眺め渡していた。静かな風が吹く。
 そんな彼にちょっと駆け寄り、友真はぺこりと頭を下げた。
「ありがとうございました! 大規模もがんばろなー」
「こちらこそ」
「あ、それから、手当しとこー?」
 救急箱を見せて、へらりと笑う。

 この戦いこそ終わりを告げたが、『戦い』自体は終わっていない。
 彼方に見遣る。この町に平穏を取り戻すまで、歩みを止める事は許されないのだ。



『了』


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:8人

創世の炎・
大炊御門 菫(ja0436)

卒業 女 ディバインナイト
雷よりも速い風・
グラルス・ガリアクルーズ(ja0505)

大学部5年101組 男 ダアト
アトラクトシールド・
クライシュ・アラフマン(ja0515)

大学部6年202組 男 ディバインナイト
焔魔と刃交えし者・
橘 和美(ja2868)

大学部5年105組 女 ルインズブレイド
読みて騙りて現想狂話・
鬼燈 しきみ(ja3040)

大学部5年204組 女 鬼道忍軍
暁を導く魔砲使い・
永瀬 雫(ja3899)

大学部6年55組 女 ダアト
チャンコマン・
阿岳 恭司(ja6451)

卒業 男 阿修羅
真愛しきすべてをこの手に・
小野友真(ja6901)

卒業 男 インフィルトレイター