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マスター:ガンマ
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
形態:
参加人数:25人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2017/02/17


みんなの思い出



オープニング

●スクールのルーム

「冬だ! 海だ! 俺だ!」

 無駄にキープ・レイでシャイニングしながら教室後ろの掃除用具入れからガタンガタン現れたのは教師棄棄、その姿は海パン&アロハシャツwithサングラス。
「ハイ今年も恒例の海のシーズンがやってきましたよ!! 今年で五回目だってよ! すげーな! 百周年まであと九五回だな!」
 ロッカーから飛び出した拍子にガランガラン倒れたホウキをキチンと仕舞い直してから(教師の鑑である)、棄棄は『うみのしおり』を生徒達に配った。

☆うみのしおり☆
 海に行きます。
 水着着用必須。
 おやつは三〇〇久遠まで。バナナがおやつに含まれるかどうかは先生と議論しましょう。
 なお、今年の海は「絶対に寒いと言ってはいけない二月の海」です。
 寒いと言った生徒には「一寒い」ごとに腕立て伏せ一〇〇回です。
 頑張りましょう。
 なお、今年の海は荒れ模様です。
 頑張りましょう。

「まぁつまりだな生徒諸君よ」
 教師は「よっこらShow」という謎の掛け声と共にいつも通り教卓に座る。足を組む。
「海行こうぜ海」
 にこり。
「海好きだろ海」
 にっこり。
「……あと九五回で百回だよ! 百回めざしてがんばろ!」
 暴論極まりない。
「今年もいこうよ海! な! 海楽しいじゃん! 大自然じゃん! 今年の海はなんかスッゲー荒れてるけど撃退士ならヘーキヘーキ! 波に攫われても先生が助けるから! ね! 海いこ!」
 ほんと楽しそうだなコイツ。
「はい というわけで〜先生と一緒に今年も海に行きましょう。泳ぐも良し、お水でキャッキャするも良し、スイカ割りするも良し、渚のマーメイドをナンパするも良し、サーフィンするも良し、ビーチバレーするも良し、バーベキューしちゃうのも良し、花火もパーティーも節分もバレンタインもなんでもドンとこいだ! あと絶対『寒い』って言わないこと!
 諸君、海だよ海! 楽しみだろぉ! 楽しいよなァ! 最高だよなァ!!」

 だが二月だ。
 大事な事なのでもう一回言うが、二月だ。
 真冬だ。
 気温一桁だ。
 大寒波だ。
 その上、海も荒れ模様ときた。

「でも海だよ。楽しめ、それが任務だ」

 今年もきっと楽しいさ。
 めざせ、二月の海百周年!


リプレイ本文

●海開き

 二月某日、海。
 灰色の空、鉛色の海、荒れうねる波、大寒波。

「荒れ狂う波! 渦巻く風! あとミゾレ! いえええい海だーーーーー!!!」
 学園指定水着にアロハシャツ、月居 愁也(ja6837)は全身からサマー感を滾らせながら砂浜を駆け出した。
「んと、また海の季節……です?」
 ゴーグルを着けた華桜りりか(jb6883)が小首を傾げる。海に相応しく水着姿だ。防寒着でモコモコだけど水着きてるから実質水着。
「やっぱり、二月に海がないと落ち着かないですよねー」
 櫟 諏訪(ja1215)がそうニコヤカに言えば、蓮城 真緋呂(jb6120)が同意の笑みを浮かべ。
「わかる、やっぱり海は二月よね」

 そんな一同の姿を見て……。
(誘われて冗談半分で来たけど え、なにこれ)
 米田 一機(jb7387)は言葉を失っていた。
「君たち揃いも揃って……クレイジーでしょ」
 これには流石の一機も困惑である。すると皆が「え?」となんら疑問に思っていない顔で振り向くものだから、いっそカルトみを感じた。洗脳済だこの人たち。

「……海に行くと聞いたから南の島に行くと思っていたのですが」
 が、一方でマトモな感性の人間もいる。雫(ja1894)は真顔で荒れた海を眺めていた。
「俺が幻覚を見ているわけでないのなら、雪が舞っていると思います、棄棄先生!」
 若杉 英斗(ja4230)は寒さだけでない理由から顔を青く、教師棄棄へと振り返る。「これはあかん下手したら心臓が止まるレベル」と訴える生徒に、しかし、アロハシャツの教師はニコっと笑ってとある方向を指差した。そこにはミハイル・エッカート(jb0544)が。

「青い空! 白い雲! 波は穏やか、セロリアンブルーの海が広がる!
 どう見てもそうだろう、なあ、そう思うだろう、棄棄先生!!」

 ふっ、日差しが暑いぜ
――サーフパンツにアロハシャツ、足にはサマーサンダル、手にはバナナボート。ミハイルはカラフルテンプルサングラスに曇天の冬空を映して微笑んでいた。

「Crazy……」
 これには英斗も流暢な英語。

 というわけで、今年もこのシーズンがやってきたのである。



●海だ! 01

「――えっ! 別に寒中水泳大会じゃないってか!?」

 小田切ルビィ(ja0841)はスマホとマイクを手にしたまま愕然としていた。撃退士による寒中水泳大会の様子を実況中継して動画サイトに投降しようと思っていた、のだが。
「んじゃあ何を好き好んで、こんな時化た海で泳ぐんだっつーの!?」
 逆ギレである。思わずスマホを砂浜に叩き付けそうになった。深呼吸をして落ち着いて……まぁ、違うものは仕方がねェ。ここは放送内容を変更だ。

 THE・我慢 〜真冬の荒れ狂う海。撃退士はどこまで耐えられるのか〜

 イケボでタイトルコール。中継は続行。
「ここでマジキtげふんげふん諸悪の根源とも言える、棄棄センセーにインタビューしてみようと思います。センセー、あの、なんで……なんでこんな……なんでこんなこと……」
「そこに海があるからさ」
「わぁ……」
 答えになってねェ。ルビィは遠い目をした。気を取り直して、近くで準備体操をしていたクリスティーナへマイクを向ける。
「そこの天使さん、実は言い難いことがあるんですけど」
「ム、なんだろうか」
「普通、真冬に海水浴はしねェんだ……ついでにバレンタインにカカオの実をそのまま渡したりもしねェんだ……」
「そうか……しかし折角もってきたのでな。お前にもくれてやろう、このカカオを」
「いや別に――」
「遠慮するな、ほら」

 ――そう微笑んで、彼女は俺の海パンにカカオの実をねぢこんで去って行った。
 今となっても、あの時どんな顔をすればよかったのか――結論は出ていない。

 〜Fin.〜


 さて。良いことをしたと言わんばかりの堂々さでクリスティーナは海へ向かおうとして、ふと――圧倒的な存在感を感じてはそちらへ目をやった。
 そこにいたのは、Дмитрий(jb2758)。ランウェイを優雅に歩くモデルのように、涼しい表情で砂浜をねり歩いている。その水着は、ぞうさん。おはながとっても……ながいのね……。つまりまぁマニアックを通り越してヤバみのあるやつなんだゾウ。「カワイイだろう? 惚れるなよ?」とは本人談。ん? どうしてそんなアレなアレを身に着けているのかって?

 周囲の反応が見たいからだ。

「キャー!」とか「イヤー!」とか言われたいのだ。つまりは変態さんの一種なのだ。
 ドミートリイにとって、寒さなど楽しさの前では春のそよ風も同然。(どうでもいいけど春って露出狂が増えるシーズンですね)

 だが。
 久遠ヶ原の女子は強かった。キャーもイヤーも聞こえてこない。
 ていうか多分クソ寒くてそれどころじゃなかったかもしれん。むしろ寒さで「ギャー」は聞こえる。

 そしてクリスティーナも、
「象だな」
 へえ、って顔で頷くだけだった。これにはドミートリイも寂しさを覚える。悲しみの表情。北風にぞうさんのお鼻がはためく。
「そうだ、カカオも食べるといい。象と仲良く食べるんだぞ」
 そっとドミートリイの手にカカオの実を握らせる天使。ドミートリイは悲哀の表情のまま、冷え切った手でカカオの実を握りしめるのであった。誰かかまってあげて。かわいそうだから構ってあげるんだゾウ。


「カーティスさん。もし俺が生きて帰って来たら、そのカカオ、俺にもいただけますか?」
 一方で、英斗がキメ顔でクリスティーナに言い放つ。
「いいだろう!」
 話の展開も特に聞いていないまましっかと頷く天使。ならばと英斗は「これを俺だと思って持っていて下さい」と眼鏡を託し、ゴーグルを装着し。

 ドンドコドコドコ
 ドンドコドコドコ

 拳で自らの胸を乱打するディバインゴリラと化した。ちなみに本物のゴリラのドラミングの手はパーである。
「心臓だ! 準備運動だ! 真冬の海に入っても止まらないように!」
 これがゴリラの真相。

「では、行ってきます。どぉりゃあぁぁああ〜〜〜!!!」

 雄叫びと共に海へダイヴ。荒波の中をクロールで泳ぎまくる。勇ましい。だが念のために足がつく程度の深さの場所だ。大自然をナメではいけない。そう、大自然をナメてはいけないので念のために早めの帰還。ぜえはあ、歯がガチガチ。
「まだ死ねない! カカオをもらうまでは! あ、でもさすがにやばいんでタオル巻いてもいいですか?」
「構わんぞ。そしてこれがカカオだ」
「カ……カカオだ〜〜〜っ!」
 天からの賜りものを受け取るかのごとく、クリスティーナから渡されたカカオを膝を突いて両手で受け取る英斗。
「カカオって、実のまま食べられるのかなぁ」
 思考力が低下してきている英斗は、生カカオをガリガリとかじり始めるのであった。こわ。



●海だ! 02

 今年も来たわ。

 イリス・リヴィエール(jb8857)は二月の海に目を細める。学園指定水着にパーカーと海に相応しいいでたちだ。その傍らにはガート・シュトラウス(jb2508)が信じられないという表情をして、
「海ってマジだったじゃん……。それにしても寒い……あっ」
 デデーン ガート タイキック。というのは冗談で、イリスがガートへ蹴りを放ち、それをガートが回避するのは最早挨拶の域だった。そのまま流れるようにガートは腕立て伏せ百回開始。
「イリス、一ついいさー?」
「何だ」
「この天気でホントにビーチバレーやるじゃん?」
「二言はない」
「アッハイ」
 そう、イリスはガートにビーチバレー勝負を吹っかけたのだ。準備体操を終えたイリスが、ビニールボールを膨らませる。
「ルールはラリー形式、落とした方が負け、景品無し。スキルは通常系と召喚のみ。いいな?」
「オッケーさー」
「ならば、いざ」

 瞬間。
 二人は魔の翼を背に広げ、飛び上がる。
 風上の位置を利用してガートの顔面狙いにボールを叩き込むイリス。
 凶器と化したそれを払いのけるガート。
 海へ飛んでいけばイリスがストレイシオンのヴァーグを召喚し騎乗し、しからばとガートも水上歩行を発動して迎え撃つ。
 ラリー継続。風で軌道が思い切りそれたとしても。荒れ狂う海にダイブしようとも。
 戦闘は続く。目まぐるしいほどの速度。荒れた海の上で、アウルを迸らせながら。雪に波にビショ濡れになりながら。

「うぉおおおおおおおおおお!!!」
「はァああああああああああ!!!」

 さあ、悪魔の血を継ぐ者の真剣勝負をしよう――。(※ビーチバレーです)


 ざば。激戦が繰り広げられる海の一方、雫が鉛色の荒れた海から顔を出した。ざば、ざば、海から上がってくるその姿はウェットスーツ、片手には銛、もう片手には獲った海産物で大漁の網。「下手に海上に出るより潜っている方が暖かいですからね」とのことだ。実際、海のほうが幾許かマシ……のような気がしないでもない。
 さて、召喚したヒリュウと共に収獲を陸地に上げていた雫であるが。イリスとガートの超次元ビーチバレーを観戦している棄棄を発見……ススス、と接近し。
「先生」
 と、呼んで、棄棄が振り返った瞬間。
 ポタ。魚から滴るつめったい水を、棄棄の襟元に、落とす。
「ア゛ッーーーーーーーー!!!」
「流石に海水をぶちまけるようなことはしませんが、これくらいの悪戯は許されますよね」
 叫んだ棄棄に、しれっと言い放つ雫。
「別に怒ってませんよ、ただ騙された腹いせに先生に腕立て伏せをして貰いたいだけですから。ですから、遠慮なく言ってもいいんですよ、あの言葉を」
「い、言うものかー! 言うものかー!」
 寒いとは絶対に言ってはいけないのである! チッ……雫は内心で舌打ちをすると、ヒリュウと共にまた歩き始めるのであった。


「風が……」
 強い。鴉乃宮 歌音(ja0427)の髪と白衣がブワサササと翻っている。風が強いと火の準備が大変だ。まぁなんとかなったんですけどね。
 さてさて。そんな歌音が作るのはヤキソバだ。キャベツ、ニンジン、タマネギに豚肉、スタンダードなそれらを手際よく切って炒めて、モヤシと麺を入れて炒めて。
「とっておきたいとっておき〜……っと」
 そして隠し味のカツオ出汁。なお雫が獲ってきたカツオ。ここにフタをして蒸し焼きにして――水気を飛ばしたら、仕上げにソース。
「焼そばできたよー 三百久遠なー」
 値段は冗談である。それと同時の片手間、歌音は更なるヤキソバを作り始めた。そのヤキソバの名は、チョコヤキソバ。
「二月だしね。仕方ないね」
 作り方はとっても簡単。オリーブオイルで炒めて、粉末ソースで軽くソースの味をつけて、湯煎で溶かしたホワイトチョコとブラックチョコを絡めて、黒胡椒と青海苔をトッピング。ね、簡単でしょ? パッと見は具なしのヤキソバだ。チョコヤキソバ、なんてゲテモノっぽい響きだけれどこれが案外美味しい。見た目と味で二度騙されるが良いわ!
 ちなみに歌音は白衣姿だ。だがヤキソバのソースが一滴も飛んでいない、純白である。流石は応急救護要員兼調理要員である。心肺停止をスタンガンでどうにかしようと思っているフシがあるけど。
 さてさて、調理場周りで暴れるような者もいないようだし。「ヤキソバはいらんかね〜」とビュウビュウ吹く冬風の中でノホホンと呼びかける歌音であった。


「ははは、暑さのせいで水がぬるくなってるぜ!」
 その頃、ミハイルの唇は紫色だった。荒れ狂う海に笑い声がガボガボ掻き消される。そう、彼は海にいた。銛を手に。素潜り漁というわけだ。
「クリスティーナ、これが人間界の……バカンス……がぼがぼ」
 水面にて声を張ろうとすれば波がダバーンでロクに喋ることもままならない。ちなみにクリスティーナはミハイルに誘われて同じく漁をしているが、海の中にいるので結局ミハイルの声が届いていないという。なお棄棄も誘われたが、「先生ちょっとスイカ食べるので忙しいから……」と微笑みを返したのでした。
 というわけで荒波に揉まれて半ば溺れながら。これアウル覚醒者じゃなかったら死んでる。ミハイルは漁を頑張る。ほぼそれどころじゃないけど頑張る。
(俺は半分ロシア人……)
 繰り返す自己暗示。「ロシア 寒中水泳」で検索すればナンヤカンヤだが、向こうのは日本の寒中水泳とは比べ物にならないのだ。と、声を大にしたいところだが。内心は震えまくりのヤセ我慢である。ていうか母の母国であるロシアには行ったこともないのだった。

 まぁ海からミハイルが上がったのはそれからほんとにまもなくである。仕方ないね。

 震える手で急いで火をつけて、始めるのは獲った魚で海鮮バーベキュー。風下に立ってさりげなく温まることも忘れない。そして焼けた傍から無言のままガツガツ貪り食ってゆく。
(食べて……体温上げないと……死ぬ!!)
 生きねばならぬ。生きねば。

 歌音がヤキソバを焼く近くでは、そんな感じでミハイルのバーベキュー。その火の温かさにあたりつつ、雫がヒリュウと共にヤキソバと魚をほっぺいっぱいに頬張っている。お腹いっぱいになるまで食べつくす所存だ。
 同様に、超次元ビーチバレーを終えたイリスとガートはチョコヤキソバを食べていた。悪くない味でスゴイ……となった。ちなみにイリスは先に食べ終えては、席を外している。防寒具を羽織っているガートが見やれば、向こうの方でイリスが丁寧に棄棄とクリスティーナへバレンタインチョコを渡している姿が。
「……」
 ガートは眉根を寄せる。断じてヤキモチとかそういうスイートなやつではない。命の危険というやつだ。なぜならイリスの料理は人を殺せるレベルだからだ!!!
 血の気が引いているガート。そこへイリスが戻ってきて、彼を見やり。
「ハッピーバレンタイン」
 差し出すのは、チョコレート。
「イリス、これって」
「今年は市販品だ」
「手作り……じゃねぇんだなオーケー」
 ならばよし。ホッと一安心してチョコを食べ始めるガート。ちなみに棄棄もガートと似たようなことを聞いて、似たような反応をしてチョコを食べていたのであった。

 時刻的には一日の中で一番温かい時間帯であるハズなのに、寒さがマシになる気配は一向にない。

「だいたい俺は海なんか嫌いなんだよ」
 ラファル A ユーティライネン(jb4620)は海を眺めて顔をしかめる。「じゃあ何しに来たんだ」とは言わないお約束。
 そんなラファルだが、水着で来いと言われたので律儀に水着である。一見して普通の少女に見える体だが、その実、その身体の八割は機械で構成されていた。なので海は大敵なのである。わざわざ水陸両用のスキルを使ってからでないと、海に入ることはご法度だ。じゃあ何をしに来たのかというと……純然たる暇潰し、である。
 というのも。
 最近のラファルは義体特待生としての試験運用も減り、自由時間が増えたのだ。であるが、いざ自由<何をしてもいい>となると、今度は何をしたらいいのかが分からない、分からなさ過ぎる、という塩梅で。
(しゃーねぇな……)
 ハー、白い息を吐いて、目に留まったのはグールもかくやな雰囲気で焼き魚を貪っているミハイルの姿。ラファルはそれにずんずん遠慮なく近付いていき――
「おい、まぜろよ」
 火の傍にドッカと座る。まぁ火に当たらなくても、寒さに関しては平気ヘッチャラ、むしろ放熱効率が良いくらいのコンディションオールグリーン。なおミハイルはまだ寒さでガタガタしていてそれどころじゃない。「唇紫色だぞお前、悪の女幹部メイクかよ」と言っておくラファル。
(まあ、五周年とか言ってるが、来年は無いだろうな)
 想いを馳せつつ、周囲を見やる。まぁ賑やかだ。若いうちの遊びってのは今だけだ。
「んじゃビーチバレーでも、」
 しようかな、と呟いた声はゴウと吹いた風に消えた。
「……この風じゃ無理だな常識的に考えて」
 しかし、マジでビーチバレーした猛者がいる。海ってこわい。



●波壊
 前略、いつものメンツは二月の海の五周年を記念して人間サーフィン大会を開くことになった。

・背泳ぎをするする『板役』の上に搭乗し、目印まで往復水泳。
・板が流されないように、乗り手と板役は紐で固く結ぶこと。繋ぐ部位は任意。
・魔具や肉体による直接攻撃および攻撃スキル使用禁止。攻撃スキル以外は可。
・これらのルールに違反した場合は闇鍋一気食い。
・最初に帰ってきた、あるいは最後まで落ちなかった者の勝利。

「ふっ、今年もこの季節が来たな」
 ルール説明を読み終えたアスハ・A・R(ja8432)with真紅のブーメランパンツは、悠然とした笑みで冬の海を眺めていた。
「板が人間? これくらいならもう、割と普通なイメージですねー」
「波乗りには最高の条件だよね知ってる」
 海に入ってないのに飛んでくる波飛沫を浴びつつ、諏訪は微笑み、愁也は遠い目を。
「海だーー! ひゃっふーーーですのーーー! よっしゃーーー! さーふぃんですのよ!」
 耐水仕様きぐるみのカーディス=キャットフィールド(ja7927)はハイテンションだ。そう、そこにはいつもの海の光景が広がっていて――

「だから! なんで! いつも通りなのよぉ!!」

 エルナ ヴァーレ(ja8327)が強風のなか叫ぶ。
「たまには異常気象で常夏並みの気温とかでもいいじゃないのよー!!!」
 ほ、ほら、いつもは冬晴れだけど今回は大荒れだよ! いつも通りじゃないよ! それはさておき、競泳用の肌の露出を1ミリでも抑えた姿のエルナは「誰も色気とか必要としてないんでしょー!!」と叫び続ける。叫んでテンション上げないと寒さで死ぬ。
「なぜ俺たちは命を粗末にしてしまうのか……」
 ゴーグルを付けつつ、ゼロ=シュバイツァー(jb7501)はどんな表情をしたらいいのか分からない。
「さて今年も無事に里帰りか、良かったな加倉」
 ナスのきぐるみを着こんだ夜来野 遥久(ja6843)、通称ナス久がニコリと微笑んで加倉 一臣(ja5823)へと振り返った。ちなみにナスぐるみっても寒いもんは寒いが顔には出さない流石ナス。さすナス。さス。
「海といえばカツオだ! おみさんまずコース説明で泳いできて下さい」
 そこへ便乗して早々なる裏切りマンことゼロが言うが、当のオミーはというと。

「今年の海も楽しもうな!」

 警戒心を和らげるため、可愛らしくデフォルメされたカエルの腹話術人形に話しかけていた。やったねオミちゃん。でもちょっとこわいぞ☆
「楽しもうな!」
 そのままのノリでアスハ、諏訪、ナス久や愁也にフレンドリーに肩ポンしていく。――密やかなるマーキング。こいつらの居場所だけでも把握せねばならぬ。オミーゎ本気だった。
「阿修羅だし腹筋も自信あるぜ! おみゆまコンビには! 負けねえ!」
 受けて立つ、とマーキングに気付かぬ愁也は意気揚々。

 そんなこんなで各自ペアとなり、海へ向かう。

「板:一臣さんってめっちゃパワーワードやない?」
 小野友真(ja6901)は板役の一臣に遠慮なく乗りながらそんなことを言う。実はそれはMSも思った。オミーのプレイングに

 板:俺

 って書いてあってすっげえパワーワードだなって。それはさておき遠慮なく乗られている一臣が、
「……そうだね友真が板だと乗る面積少ないもんね小さいもんね仕方ないね」
「「は?」」
 小さいが……なんだって? 友真だけでなく棄棄までもがオミーを見ている。そして、一瞬の出来事だった。友真がオミーを羽交い絞めにして、棄棄がオミーの腹をワカメでッパーンしたのは。
「待ってセンセのことじゃないちっちゃいとかゆってないし!」
「てゆーか俺は成長しましたし!」
 必死に弁明する一臣、次いで声を張る友真。「裏切り者」――刹那に友真が聞いたのはそんな呟きと、眼前に迫るワカメ――
「ちょっ待ってごめんて」

 ッパーン。

「……わかった、話題を変えよう」
 ッパーンされた友真はおもむろにコーラを取り出した。
「これバツゲーム闇鍋用のコーラやねんけど、センセもなんか入れる?」
「お前」
「ほんまごめんて」


「俺はモモの板です!!!」
 ッバーン。一方では矢野 古代(jb1679)がすでに波打ち際でスタンバイしていた。
「よし父さん。まずモモをスタート地点まで連れてって」
 乗り手役の矢野 胡桃(ja2617)が真剣な顔をしている。カナヅチだもの、こもも。でも海だって怖くない、なぜなら彼女には! 専用の! 板がある!
(……いや、板っていうか、父だな?)
「持ち主の意図を理解できる存在が最高の板になれる、つまり俺がモモの意図を理解できないなど(あんまり)ないから実質俺が最高のボード……!」
 グレートファーザー(板)。
 役割を二百パーセント正面から受け入れる古代さんが眩しい……一臣はゴーグル越しからその景色に目を細めていた。ちなみにCOLDにならないようHOT装備だ。これはNGワード回避だ。
 なおその近くではナス久が専用板である愁也をロープで新巻鮭縛りしようとして、「待ってそれは沈む」と必死な顔で愁也に止められていた。

「ゼロさんと一緒なの、ですね」
 よろしくお願いします、とりりかが微笑む。腰で結んだロープの先には板役のゼロ。
(自分が板になるとは微塵も思っていないだいまおーはマジでだいまおーだよ)
 呟きは心の中で。ゼロは遠い目をした後に、勝負という以上はりりかと作戦相談だ。相談の結果、鳳凰を召喚して阻霊符ぶっ潰そうぜとなったのだが、だが、だがしかし、見渡す周囲は水着。水着。ハダイロガマブシイ。鳳凰が困った顔でりりかを見る。
「え、これ水着の中を漁って符探して壊して来いってことですか……?」
 と言わんばかりの瞳である。阻霊符ぶっ潰そうぜ作戦はここに玉砕した。
「ここまで作戦を考えても何かある気がするのはどうしてなの……でしょう」
 りりかがポツリと呟く。なんて言っていても仕方がない、全力で頑張る他にないのだ。

 さて――
 そうこうしている間に、一同の準備が終わった。
 さあ、地獄のレースが始まる!

「よーい、どん!」

 棄棄がホイッスルを吹く。
 一斉に、サーフボード(ガチ人力)が海へ!

 刹那にいの一番でぶっちぎったのはゼロだ。レースということはスピード勝負、つまり移動力とイニシアチブがモノをいう世界。数値で殴れば人は死ぬ。ゼロの人外めいた数字ぢからだ。物質透過で水の抵抗をなくし、天冥半血の凶翼によって水を掻き、影隴による闇の力で更に加速。そう、速ければいいのだ! 何かされそうでもマッハすればいいのだ!
「立ってなくてはいけないとは言っていなかったの……」
 ゼロの上ではりりかが、風の抵抗を少なくするために三角座り。さて、鳳凰に状況確認してもらおうと隣を見て――
「あっ……」
 ゼロが速すぎて鳳凰が追いついていない。「ピーィ! ピーィ!」と、人語にするなら「待って〜! 待って〜〜!」と一生懸命鳴いて飛んでいる召喚獣の姿が遠くの方に。
「えと、速ければ、なんとかなるなの……です」
 うん。仕方ないと頷いて、前を向く。

 と。
 そこには――真正面から巨大な波が!

 りりかはすぐにゼロの肩を叩いた。波という自然現象には敵意がない、なのでドーマンセーマンもおそらく効かない。
「あたしは透過できないの、ですよ」
 そう、だがゼロは透過ができる。きっと彼ならなんとかなる。フハハハハ、ゼロが高らかに笑った。
「これで俺は生きれる! 古代さん、おみさん。俺は遂に勝ち組になるのだよ!」

 勝てる。

 二人はそう確信していた。
 ――諏訪が笑みながら阻霊符を発動したところを見るまでは。

「「あ」」

 ドバーン。――ゼロ、りりか、リタイヤ。

「あれだよね……アスハさんと諏訪さんのセットはアカンヤツ」
 うわあ、と胡桃は遠い目。右腕はどうなってもいいけどりりかさんは無事でありますように! と心の中で手を合わせる。だってだいまおー。こわい
「快適ですねー?」
 一方で諏訪はストレイシオンを召喚して悠々自適。板の下、つまりアスハの下に召喚したので、結果的にアスハもストレイシオンに乗っている。
「これも、サーフィンの形、だな」
「板がストレイシオンに乗っちゃいけないってルールはなかったですもんねー?」
「ああ、全くだ。セーフ、だな、セーフ」
 フッと頷くアスハ。完全に板ニートだが、フローティングシールドをビート版のように装備して「自分板ッスけどなんか問題あるんスか?」オーラを放っている。

「くっ……エルナさん! しっかり掴まっていてくださいまし!」
 諏訪がストレイシオンを召喚した時に起きた波で若干バランスを崩しつつ――板役のカーディスはエルナをお姫様抱っこ。
「え? 掴まってって、え? ちょっ、え?」
「とばしますよー! 生きてこの海を乗り越えるのです!」
 そして水上歩行。ザババババババババと海を走り始める猫。
見やる先には諏訪アスハコンビ。ストレイシオンの上でマッタリしているだけの二人ではない。
「落ちないんですかー?」
 諏訪は投げ縄や投げ網をこれでもかと投擲してくる。アスハも空虚ヲ穿ツで吹き飛ばしを狙ってくる。
 が、カーディスはそれを掻い潜り、あるいは畳返しで回避して。
「この戦い! 目標地点へいち早く到着しなおかつゴールすれば生きて帰れる! ならばそれを目指さないでどうするのです! 死にたくない!」
 ガチである。お姫様抱っこされ中のエルナは最早リアクションが追いつかなくて真顔である。
「なんで、この寒さの中でネコの上でサーフィンしてるのかしらね……」
 というかサーフィン? サーフィンって板が泳ぐものだったかしら? 波に乗るものじゃなかったかしら、いやそれ以前に、板が乗り手を抱きかかえて水面を走ってるんですけどなんだこれ。ほんとなんだこれ。そしてエルナは考えることをやめた。
「みんながんばれー」
 とりあえず応援しとこ。

 だがその時、悲劇は起きる。

 高速の何かが、二人をはね飛ばしたのだ。
「「ぎゃー!」」
 宙を舞うエルナとカーディス。
「あばばばばば 私ではこのメンツ相手は無理でした……!!! この戦いが終わったらお猫様とイチャイチャしたかっ……た」
「あいるびーばー……」
 親指を立てて、溶鉱炉めいて海の中に沈んで行く二人なのであった……。

 さて、二人を沈めた犯人とは。
「板同士がうっかりぶつかるのはしかたのないことだよね!」
 それは愁也とナス久だ。縮地、逆風を行く者、それらを使いこなしつつ海を爆走する愁也はシューティングスター。ナス久がアウルディバイドでスキルを回復しているから正に止まらぬ暴走特急。
「いかに体力を使わず波に乗り続け戻れるか……つまりこのスキルは有利!」
 暴走の結果、誰かとぶつかって頭から血が出ても優しいナス久がヒールしてくれる。妨害をクソほど喰らってもヒールしてくれる。戦闘不能になっても神の兵士があるし不撓不屈もあるよ、やったね愁也! 過労死せよ!
「サーフィンもスノーボードも波か雪かの違いのはず。ならば雪国育ちの我々に、隙は――ない」
 波を乗りこなすナスのきぐるみ。先行者は海の底まで追いかけてはね飛ばす心算。マジ人間魚雷。目が光っている? 気のせいですよ。

「(モモ、聞こえますか、えぐい行動の予兆があったらすぐ教えてマジで)」
「え? なにごめん父聞こえない」
 荒れ狂う波の音に声を掻き消されつつ。後方、矢野親子も着実に前へ進んでいる。胡桃は必死だった。バランス感覚には自信は、まあ、ある方だ。泳げないから落ちたくない、絶対に落ちたくないでござる、なので死の物狂いで板の上に乗っている。
 古代も一生懸命だった。良い板は良く波をつかむ必要がある。ボードスタイルは選ばれしボードにしか許されぬ『TYAKUI』――文字通り、浮かぶこと・波を掴むことで確実なサーフィンを約束するぞ! なおゴーグルは付ける。

 だが。

「がぼがぼ……ゲホッ オゥエッ ボエッ ゴフエッ―― がぼがぼがぼオエッ……」

 荒れ狂う波の中を泳ぐなんてそもそも無理難題なんだ! 水上歩行とかストレイシオンとかそういうのがあればまだしも! 古代はなんかもうお見せできないぐらいグロッキーだった。もうやめたげてよお!
「いぎのごりだいッ……いぎのごりだいッ……」
「父、生き残ろうとするの無駄だと思う」
 ぐんぐん失速しているというか徐々に沈没を始めた父の上、胡桃は諦めの笑みを浮かべた……。

(古代さん、ゼロくん……聞こえますか……)
 忍法「霞声」。一臣は今あなたの二人の脳内に直接話しかけていますをしている。だが返事はない。索敵によってサーチしてみれば、二人は、もう……。
(俺達の分までやられてくれたんだね……正直感謝)
 全力で信頼し、全力で裏切り合う。それが俺達の絆!
 諏訪とアスハ、愁也とナス久は相変わらずデッドヒートしているようだ。それを遠方から見やりつつ、乗り手の友真は高笑い。今の友真はクリアマインドによって完全に気配が立たれている。なにげにクリアマインド初使用である。初使用がサーフィンて。
「これで俺の気配は絶たれた! めっちゃ賢ない!?」
「うん、板の俺が丸見えだけどね?」
「ほんまそれな、それにもっと早く気付きたかったよな。けど俺はシールドという最高のスキルを持ってるからな! 守ったるで!」
「そっか……大自然からも?」
 オミーがふっと前を指差す。そこにはすんごいでかい波。
「……うん、無理!」
 友真はいい笑顔で頷いた。

 ドバーン。

 で、このレースの結果がどうなったかっていうと、この後めちゃくちゃ波に飲まれて全員リタイアした。大自然には勝てなかったよ……。



●海だ! 03
 今年もまた海の季節……星杜 藤花(ja0292)と星杜 焔(ja5378)は幾度目かの海を見やった。いつもの格好、いつもの水着、そして去年より大きくなった『息子』と、愛犬。
「波が結構あるから、あんまり海に入らないようにね〜」
 もふらさまきぐるみを着た息子の望と、もふらと名付けられたマルチーズと。波打ち際で遊ぶ彼らに、焔は優しく声をかける。焔の傍で息子達を見守る藤花の目もまた、柔らかな母親のそれで。
 二人の息子――血こそは繋がっていないけれど――は、もうすっかり会話できるようになった。家の手伝いもできるようになった。アウル覚醒者ゆえか、力や体力のいる料理の手伝いもしたがるようになった。
 健やかに成長してゆく我が子を見て、星杜夫妻は彼の将来に想いを馳せる。どんな人間に育つのか、今からとても楽しみであった。
「いやぁ、元気一杯だねぇ」
 そんな二人の近くにいつの間にかいたのは棄棄だ。「先生」、と夫妻の声が重なる。「ちょうどよかった」とまたもや重なった。
「先生、お誕生日おめでとうございます〜」
「今年もアンパンを用意してきました」
 差し出すのは、うぐいす、こしあん、粒あん、四種類のあんが入ったアンパンだ。四つ葉のクローバーがイメージだという。
「アイデアは藤花ちゃんが出して、家族皆で作ったんですよ〜」
「望ちゃんは漉し餡作りのお手伝いしてくれたんです」
 ニコヤカな声から、とても和気藹々と楽しく料理したのだろうことが窺える。
「おいおい、俺の誕生日は七月だぜ〜?」
 笑いつつも、「ありがとさん」と受け取る棄棄。
「今年もお祝いできてよかったです〜。来年もその先もず〜っとお祝いに来ますからね〜。二月の海、百回達成楽しみですね〜」
「おう、あと九五回もよろしくな」
 何気ない会話――ではある。けれど焔は棄棄の命が長くはないことを知っている。それでも、だ。
(心をこめて、何度も言葉にした願い事は叶うって言うから……ね)
 笑顔の中で祈る。その祈りの真相を、傍らの藤花は知らない。ゆえに、純粋に遠くない未来を夢見ては言葉を続けた。
「……戦いが終わって、無事に学校を卒業できたら……戦災孤児のための養護施設を作るのが夢なんです。
 これ以上哀しい子どもを作らないためにも。わたしも、焔さんも、頑張りたいと思っています」
 遠くから望の楽しそうな声が聞こえる。それを見守りつつ、藤花は横目に棄棄へと微笑みかけて。
「夢が叶ったら、ぜひ棄棄先生にも、遊びに来て欲しいんです。先生に教わったことを、実践できているか……見てもらいたいのです」
「もちろん、いいぜ。俺がぐうの音もでないぐらいのを期待してっからな!」
「はいっ!」
 焔は二人のそんなやりとりにニコリと笑んだ。「先生」と呼びかける。
「今からカレーうどん作りますけど、一緒に食べませんか〜」
「食べる食べる〜!」
「あ、わたしも手伝いますね。望ちゃんも呼んできます」
 一緒に食べれば、美味しいご飯はもっと美味しくなる。風が強くて馬鹿みたいに寒いけれど、寒いからこそ温かいものがいっそう美味しく感じるスパイスになるはずだ。

「ハッピーバレンタイン」

 と。そんな一同にスッと差し出されたものがある。真緋呂が差し出す酢昆布だ。オヤツ代ぶっぱしたやつだ。バレンタインなのでチョコ味だ。本人は完全な善意だがチョコ酢昆布はどう好意的に解釈してもバツゲームだ。しかもこの場の全員に配ったのだからほんとアレ。
 反応に困る星杜夫妻と棄棄にニコリと微笑み、真緋呂は踵を返す。大人っぽい黒ビキニに、女性らしい四肢が眩しい。寒すぎて鼻水ズビッとすすってるけど。

『寒い 北風 雪 寒い』
『寒い 寒い』

 そんな彼女は、戻った先にいた一機とそんなやりとりを交わしていた――手話で。喋ってないからセーフ。
 というわけで折角海に来たんだし、二人は波打ち際へ。足が水に浸かるだけで猛烈に『寒い』手話が飛び交う中、二人はキャッキャウフフと海遊びらしく水かけっこを始めた。
「あははっ、そーれっ♪」
「ん゛ッ…… やったなこいつ〜♪」
「ぐううゥンオオオアアアアア このこの〜♪」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛いくぞ〜♪」
 水がかかるたびにビクンビクン痙攣しているしえげつない悲鳴が漏れている。やばい。生命の危機を感じた二人は体温を高めるために海から出ては、砂浜でおいかけっこをすることに。
「つかまえてごらんなさ〜い」
「まてまてこいつぅ〜」
 めっちゃ青春。キャッキャウフフ。背景が鉛色の荒れ狂う冬の海だけど。『寒い』の手話がとどまるところを知らない。そして生命の本能が「体温上がらないと死ぬ」と叫んでいるので、徐々に駆け足が全力疾走のガチ走りになってくる。もうキャッキャもウフフもマテマテコイツーも聞こえない。聞こえるのは全力疾走の「フッ……フッ……」というガチな呼吸だけである。
 と、その時だ。砂浜に足を取られて、真緋呂はグラッとバランスを崩してしまい――
「ぶへぇあ!?」
 盛大にスッ転んでしまった。
「ちょ、大丈夫か!?」
 これには一機も驚いては真緋呂に急いで駆け寄った。「立てるか?」と彼の問いに「足捻っちゃったみたい」と真緋呂は苦笑する。
「しょうがないな……」
 やれやれ、一機は真緋呂をおんぶした。バーベキューをしている火へと歩き始める。そこからは不思議と無言が二人の間に流れて。
 くっついていると、少しあったかいかなー……なんて真緋呂は思った。
 背中の温もりにドキドキするのは、きっとそういうお年頃だから……一機はそう思った。

 さて、まもなく火の傍。腰かける二人。真緋呂はヤキソバや海鮮バーベキューを片っ端から無尽蔵に食べている。足の痛みも何のその、食べれば治ると言わんばかり。
「来年も楽しみね」
 口元にソースをつけたまま真緋呂が微笑んだ。「いや、でもさぁ」とそんな彼女を見守りつつ一機が、
「二月に海水浴、これ五年も続けてるってクレイジーだって。絶対」
 僕はまだ、普通の感覚の持ち主でいたい。



●来年もきっと
 波壊の一同は無事に海から(満身創痍で)帰還し、アンコウ鍋ならぬ餡子鍋を囲んでいた。遥久と愁也の特製だ。小豆はもちろん十勝産。パン、チョコ、餅を具材にしてもベリーグッド。
「加倉さん出汁おねがいできる?」
「まかせて〜ってバカ☆」
 愁也と一臣のそんなお約束も挟みつつ。餡子鍋を白飯に盛れば簡易おはぎのできあがり。
「さあシュバイツァー殿もヴァーレさんもどうぞ」
 遥久がそう言って仲間達へ餡子鍋を差し出した。愁也もアツアツ餡子にパンを添えて、棄棄のもとへやって来る。
「おしゃれアンパンだよ先生! どうぞ!」
「おっ、ありがとな!」
 温かいそれを受け取って、頬張る教師。そんな彼にアスハが声をかける。
「毎年、いつも引率に感謝を……。また、絶対に来たいもの、だな」
「そーだな。とりあえずあと九五回、楽しみだな!」
「ああ、楽しみ、だな。それと……」
 これどうぞ。差し出すのは、チョコとたい焼き。
「センセ! 俺もチョコ渡す!」
 そこへ一臣が顔を出し。「大丈夫、三百久遠(概念)以内です!」とチョコを手渡した。
「残り九五回だって参加するから、また来ようね」
「来年は二月の海で同窓会も良さそうです。ね、棄棄先生」
 続いて遥久が、ニッコリと。「ところで」と話題を変えて曰く、サーフィンのエキシビジョンマッチをやらないか、と。クリスティーナ&遥久VS、棄棄&一臣というタイトルだ。「面白そうじゃん」なんて盛り上がっていると――胡桃がぴょんと声を張る。
「忘れてないよ! 棄棄先生おたんじょーびおめでとございます! 今年も! せんせの幸せ、願ってます!」
「おいおい、先生の誕生日は七月だぜ? でも、ま、ありがとさん」
 生徒に囲まれる教師。友真はその間に、カメラの準備をしていて。
「センセー! 皆でいつもの写真撮影しよ!」
 声をかける。ニッと笑う。
「写真を百枚入れられるアルバム用意してん。今日の撮ったら、五回分の写真入れてセンセに渡すな! ……また来年も。一枚ずつ増やしてこーな、楽しみ!」

 それじゃあ、去年みたいにまた二五人、そこにクリスティーナと棄棄で二七人、皆でズラッと集まって。
 はい、チーズ。かけ声は、ありきたりなものだけれど。

 きっと来年も、寒い寒いなんだこのクソ寒いのは、なんで二月に海なんだ、やっぱ二月は海だよね、なんてバカやる季節がやってくるんだろう。
 その次も、きっとその次も、皆で行こうね。

 そしてフラッシュが瞬く。


 パチリ。



『了』


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:12人

思い繋ぎし紫光の藤姫・
星杜 藤花(ja0292)

卒業 女 アストラルヴァンガード
ドクタークロウ・
鴉乃宮 歌音(ja0427)

卒業 男 インフィルトレイター
戦場ジャーナリスト・
小田切ルビィ(ja0841)

卒業 男 ルインズブレイド
二月といえば海・
櫟 諏訪(ja1215)

大学部5年4組 男 インフィルトレイター
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
ヴェズルフェルニルの姫君・
矢野 胡桃(ja2617)

卒業 女 ダアト
ブレイブハート・
若杉 英斗(ja4230)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
思い繋ぎし翠光の焔・
星杜 焔(ja5378)

卒業 男 ディバインナイト
JOKER of JOKER・
加倉 一臣(ja5823)

卒業 男 インフィルトレイター
輝く未来を月夜は渡る・
月居 愁也(ja6837)

卒業 男 阿修羅
蒼閃霆公の魂を継ぎし者・
夜来野 遥久(ja6843)

卒業 男 アストラルヴァンガード
真愛しきすべてをこの手に・
小野友真(ja6901)

卒業 男 インフィルトレイター
二月といえば海・
カーディス=キャットフィールド(ja7927)

卒業 男 鬼道忍軍
撃退士・
エルナ ヴァーレ(ja8327)

卒業 女 阿修羅
蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
撃退士・
矢野 古代(jb1679)

卒業 男 インフィルトレイター
影斬り・
ガート・シュトラウス(jb2508)

卒業 男 鬼道忍軍
悪魔のような天使の笑顔・
Дмитрий(jb2758)

大学部5年198組 男 バハムートテイマー
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
あなたへの絆・
蓮城 真緋呂(jb6120)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
Cherry Blossom・
華桜りりか(jb6883)

卒業 女 陰陽師
あなたへの絆・
米田 一機(jb7387)

大学部3年5組 男 アストラルヴァンガード
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅
目指せ二月海百周年・
イリス・リヴィエール(jb8857)

大学部3年1組 女 バハムートテイマー