●ネイチャーでディスカバリー
ここは久遠ヶ原ジャングル――。
今日もまた、緑が茂る自然の楽園の一日が始まる。
「キュー! キュー!」
あたいったら最強ね!
と。ジャングルの寒帯にある一際高い丘の上、吹き荒ぶ雪の中で堂々と胸を張っていたのは皇帝ペンギンの雪室 チルル(
ja0220)。ちょっと小柄な雌のペンギンだが、頭部にはウシャンカの様な立派な羽飾りが付いている。そしてお腹には雪結晶の様な模様がついているのがチャームポイントだ。
「キュッキュ!」
さぁ今日も元気にやってくわよ! ぴょんと飛んで凍りついた丘を滑り、そのままの勢いで冷たい川へとダイブする。チルルはこの辺りの雪原の覇者だ。覇者(自称)だ。だから自由気儘、我が物顔で川を泳ぎ、魚を捕まえる。
「キュ〜〜」
この辺の魚も食べ飽きたわね。獲物を飲みながらチルルは思った。
「キュ! キュッキュキューー!!」
そうだ! なら別の場所へ行けばいいのよ。あたいったら天才ね!
という訳で、チルルは川を泳ぎながら熱帯雨林帯の方へと泳ぎ始めたのであった。
流れの強い、けれど水晶の様に澄んだ川。
下流へ行けば行くほど、水の温度は温くなり、周囲の景色も氷から緑へと移ろってゆく。
流れる水面の上にはいつしか鬱蒼と緑が生い茂っていた。
――かさり。
それは余程耳の良い者が相当集中しなければ聞き取れないであろうほどの微音。
広く広く広がる木々の枝の上、気配も無く駆けるのはヤマネコのエイルズレトラ マステリオ(
ja2224)。やや赤味がかかった毛並みで、通常固体よりかなり小柄だが、その分身のこなしはしなやかで俊敏だ。
無駄の無い動きは芸術品の様に美しい。音無く跳躍したエイルズレトラは枝に止まっていた鳥を一瞬の内に狩猟した。
さて、そんなジャングルのハンター、エイルズレトラであるが……彼ですら長らく狩猟にてこずっている存在がこのジャングルにはいた。それはエリマキトカゲの外奪である。
「にゃー」
あの人(トカゲ)、ずっと大蛇と一緒にいてなかなか狙えないんですよねぇ。
割と前からターゲットにしているのだが、結果としては未だハントできていない。さてどうしたものか、エイルズレトラは取り敢えず小腹を満たしながら考えるのであった。
一方、ジャングルのサバンナエリアでは……。
「きー」
「きー」
「きちきちきち」
ふふふ、見敵必殺ィ、見敵必殺(サーチアンドデストロイ)だわァ……キャハはは♪
砂色のサバンナをざわざわと埋め尽くす黒。それは軍隊アリ亜種の集団こと黒百合(
ja0422)だ。蟻達は知っている。今日という日は夢なのだと。ならば楽しく参りましょう、そうしましょう。
黒百合の目的は一つ、狩りだ。
「ぎぎぎぎぎぎぎぎぎ」
きゃはははははハハハ。笑う軍隊蟻はサバンナの生き物を手当たり次第に襲い始めた。
死神の外套が如き黒の津波が一度でも生き物を覆えば、それは粉々に解体され骨すらも残らない。
ヌーの群れが逃げ惑う。その質量で蟻を踏み潰しながら逃避せんとするが、蟻達は全く怯まず進軍を続けた。幾つかの集団に分かれてヌーを一体一体包囲し、逃走経路を潰し、毒針を交えて攻撃を。また一体、また一体と、ヌーは黒百合の胃袋の底に落ちていった。
それでも生き延びたヌーは川を渡る。蟻ならば、この泥の濁流は渡れまい。そう思った。けれどすぐに彼らは理解する。それは愚かな誤算であると。
「きちきちきち」
おばかさァん。
嘲笑う蟻達はなんと、互いの身体を繋ぎ合わせて架け橋を作り上げたではないか。
黒百合の行軍は終わらない。
その様は最早狩りではなかった。
捕食――否、生きる為以上に殺すそれは最早、殺戮である。
「きぃ」
おっかねぇー。その様を上空から見ていたテイオウキツツキ、テト・シュタイナー(
ja9202)は惨劇を見なかった事にして、ジャングルへと翼を翻した。
「きー」
――よぅ、俺様だ。
ノーつっつき、ノーライフ。今日もつっつき連打で大暴れだな。
ドラミングは本来、求愛行動だって話だが――知らん!
流暢なキツツキ語でそう語ったテトは、さておきと視線をジャングルに巡らせる。
「きゅい」
実は俺様、どこぞのタスマニアン悪魔の手によって酷い目にあって以降、何故かこのジャングルの見回りなどという面倒な役をやらされるハメになっていたりするのだが。
つまり、今はストレス発散の為につつき殺す相手もとい悪さをしている奴がいないか探している最中な訳なのだが。
流暢な略でテトは独り言つ。
「ききっ?」
あのエリマキトカゲはどこよ? 具にジャングルへ目を凝らし――見付けたのは、
「きゅー」
タヌキの六道 鈴音(
ja4192)。ちょっと眉毛っぽい模様が顔にあるもっふもふの女の子だ。メタというか別世界線目線で言うと、史上稀にみる美少女である鈴音に天が示した相応しい動物なのである!!
「きゅー!」
私はこの久遠ヶ原ジャングルの天下を獲るわ!
タヌキは力強く意気込んだ。そんな訳で、天下を獲る為にまずは立派なタヌキにならねばならない。
「きゅぅー」
たぬきといえば、変身よね。
鈴音は鼻をフスフスさせて、頭の上に乗せる葉っぱを探し始める。職人(タヌキ)の朝は早い。彼女の一日はここから始まる。ぽんぽこ。
「きゅっ」
やぁ、これは立派な葉っぱだね。
遂にお気に入りの葉っぱを発見した鈴音は、『色よし艶よし形良し』なそれを頭に乗せる。
「きゅ!」
どろん!
「きゅ!!」
どろん!
「……むきゅ?」
おかしいな。ぜんぜん変身できないな。
鈴音が首を傾げていると、――ガサリ。近くの藪が揺れたと共に何かの気配。鈴音は素早く身を隠した。いつかは天下を獲るけど、今はまだその時ではない!
「ぎー」
オーッス。俺だ。
顔を覗かせたのはタスマニアデビルの棄棄だった。そこにいんだろ? と鈴音の隠れた方へ鼻をふんふんさせている。
「きゅー」
あ、タスマニアデビルさん、こんにちは。
鈴音は顔を出し棄棄に挨拶を。
「きゅ?」
タスマニアデビルさん、一緒に頭に葉っぱ乗せてみる?
「ぎぎ」
おーやるやる〜。
どろーん。
どろーん。
葉っぱを乗せて変身チャレンジ。
そんなこんなの、平和な一日。
「ぴーぴー」
その上空、気儘に空を飛んでいたのは猛禽類最強と謳われる種族、隼のミハイル・エッカート(
jb0544)。目の周りの、どこかサングラスを思わせる黒い羽毛が特徴である。
そろそろ腹減ったなー、適当にメシ食うか。隼語でそう呟いた彼はジャングルを見渡した。見付けたのはタスマニアデビルとタヌキだ。何故か頭に葉っぱを乗せてわちゃわちゃしている。
「きーきー」
タスマニアデビルか。不味そうだ、相手したら疲れそうだ。なんかヤベェ顔つきしてやがる。
「ぴっ」
お、エリマキトカゲ発見。
そう呟いたその時、直ぐ近くで「ききっ?」と、あのエリマキトカゲはどこよ? なんて言うキツツキ語が聞こえた。
「ぴーぴー」
おう、テイオウキツツキか。お前もあのエリマキトカゲを狙ってるのか?
ミハイルはキツツキのテトの横に並んで問うてみる。
「きき」
おうよ。あいつのド腐れ頭をウッドペッキングして夢のマイホームにしてやりてぇんだ。って事で、ヤツを見かけたらすぐに教えろよな!
「ぴぴー」
そいつなら見つけたぜ、あそこだ。
ミハイルが示したそこには、木の枝で日向ぼっこをしているエリマキトカゲの外奪。なんだかどす黒い色が毒々しい。
「ぴーぃ」
あまり美味そうじゃないが、なんかムカツクから食ってやる。
「きき!」
おっしゃあ! やってやるぜ!
二羽は二手に分かれて急降下を開始した。
「ぴーーーーー!!」
おい、そこのエリマキトカゲ、俺に食われろーー!
「!?」
ハッ、と気付いたエリマキトカゲは顔を上げ、直後に襲い掛かってきたハヤブサの爪とテイオウキツツキの嘴を慌てふためきながら回避した。
「しゃー!」
いきなりなんなんですか物騒ですねぇ!
藪を縫って外奪が疾走し始める。それをミハイルとテトが追う。鳥である二羽にとって、細かい枝や藪の中を走られるとどうにも追いつきにくい。
が、そこへ更に狩人が加わった。ずっと外奪が一匹になるのを狙っていたエイルズレトラである。
「フシャァ!」
今こそ好機!
「しゃー!?」
三対一とか卑怯ですよ小生は善良なエリマキトカゲですよー!?
「にゃ!」
問答無用ですこのクソトカゲ!
そしてエイルズレトラの殺人パンチならぬ猫パンチが振り被られた。
しかしそれは届かない――ずるりと長い蛇の尾が、彼の一撃を弾いたのだ。
「ふしゅるるるるる……」
でかした外奪、餌をつれてきたのだな。
闇の中で舌なめずりをしたのは、赤黒い大蛇のサマエル。彼のトグロの中に逃げ込んだ外奪は「しゃー」と、まぁ結果的にそうなりましたねと息を弾ませていた。
大蛇サマエルはジャングルのおっかないギャングである。これは危険だとエイルズレトラとテトは一目散に逃げ出した。ミハイルも自慢の翼で一気に空へ上昇する。
「ぴーぴー!」
ふん、飛べない蛇がここまで来れるかってんだ。
でもなんだか悔しいミハイルは上昇前に石と木切れを拾っていた。それを爆撃機さながらにサマエル達へ投下する。腹は減っているが嫌がらせはしたいのだ。
「シャアァ」
面白い鳥だ。
隼の爆撃を喰らいながら大蛇が笑うように牙を剥いた。瞬間、ミハイルの翼を掠めたのは……サマエルから発射された毒液である。
「ぴーー!」
くっ、覚えてろ! いつか喰ってやるからな!!
そう吐き捨てたミハイルは翼を翻してその場を後にした。彼等の戦いはこれからも続きそうである。
――ジャングルは命のドラマに満ち溢れていた。
野性の世界はとても厳しく、弱肉強食がルールである。
「ぎちぎちぎちぎち」
キャハハハハ。
日が暮れればジャングルから聞こえてくる黒百合の笑い声。普通の軍隊アリは行わない夜襲をも使う脅威の死神は休む事なく殺戮を続けていた……。
そして生と死を繰り返し、ジャングルにまた新しい一日が巡ってくる。
●クリスティーナとジャングルの仲間達
恐ろしい軍隊蟻、狩り名人のヤマネコ、空の王者隼、ジャングルのギャング大蛇。
その他にもジャングルにはたくさんの肉食動物がいる。
そんな苛酷な環境で――けれど、小さなウサギの澤口 凪(
ja3398)と颯(
jb2675)は今日も元気にたくましく生きていた。
もふもふふかふかのロップイヤー黒ウサギの二羽は姉弟だ。仲良く並んで、おいしい葉っぱをもしゃもしゃ食べている。
「きゅぅー」
わたしがこのじゃんぐるでいちばんふかふかだとおもうのよ。
たんぽぽの葉っぱを頬張る凪がそう言った。彼女の自慢はもっふもふの毛並みなのである。
またはじまった、と、れいせいちんちゃくな弟ウサギの颯は心の中で呟いた。姉の中でブームらしいもふもふ番付は、何故か凪の突っ込み(物理)という名の体当たりで決めるものだから、見ている側としてはハラハラする事この上ない。
なので颯はクローバーをもしゃもしゃしつつ、ねえさんのもふもふがいちばんふかふかだから、と姉を諌めようとした――が、遅かった。
「むきゅ!」
さいきんとくにきになってるこがいるのよ! たしかめなきゃいけないの!
言うなり、凪はぴょんぴょんと泉の方へと走り出してしまう。
「きゅー」
あっ、ねえさんまってー。
颯も急いで、クローバーをもぐもぐしながら姉を追った。
清らかな泉は、ジャングルの生き物達のオアシスである。
そこで羽繕いをしていたのはハクチョウのクリスティーナだ。
真っ白くて、艶やかな羽毛。凪は草陰からクリスティーナの様子を窺う。
「きゅ」
わたしのほうがぜったいふっかふかだもん……たしかめないといけないわ。
「きゅぅ」
でもねえさん、どうやって?
「きゅー!」
こうよ!
「きゅっ」
ああ、ねえさん、どこいくんだい。
草陰から飛び出す凪、驚く颯。
凪はクリスティーナが少し岸辺に近付いたのを見計らって、助走を付けて勢い良く跳ぶ。虎視眈々(ウサギだけど)と狙うのはクリスティーナの背中だ。
が。
たぱーん。
小さい体に見合った小さい水飛沫を上げて、凪は水中にダイブ。
「きゅーー! きゅーー!」
たすけてーー! おぼれちゃうー!
「きゅうう」
ねえさん、僕らは跳ぶのがせいぜいで飛べやしないんだ。
ぱちゃぱちゃする凪を急いで救出しに向かう颯。であったが、溺れる凪に引っ張られ、彼もたぱーん。酷いとばっちりである。
「きゅーー!」
「きゅーー!」
「くわ」
大丈夫か?
そんな様子に気付いたクリスティーナは二羽を背中に乗せて救出してやる。
「きゅー……」
しょうぶはおあずけね……。
「きゅうぅ……」
つぎはこうならないようにしてよね……。
びちゃびちゃになった二羽はぐったり、ハクチョウによって天日干しにされるのであった。
「めぇ」
やぁカーティス君、どうしたんだい?
そこへやって来たのは、眠たそうな目が特徴のもこもこ羊、不破 怠惰(
jb2507)。クリスティーナがいる泉の傍の原っぱは怠惰にとって素敵なお昼寝スポットであり、そこで昼寝をするのが彼女のいつもの日課であった。
「くわ」
溺れているウサギを見つけたのでな、干してやっている。
振り返ったクリスティーナは友人にそう挨拶を済ませた。そのまま、途中だった羽繕いを再開させる
「めぇ」
カーティス君は真面目だなぁ。
草の上に伏せた怠惰が苦笑する。日差しがぽかぽか当たる『特等席』は太陽のぬくもりで暖かく、草は柔らかく、最高だ。早くも目がとろんとしてくる。
「めぇ〜」
たまには一緒にのんびりお昼寝も悪くないと思うよー。
「くわ」
昼寝か……。たまには良いかもしれないな。
怠惰にそう応えたクリスティーナは数度羽ばたいて水を払うと、彼女の傍にやって来る。
「めぇめぇ」
そうだよー。こんなにあったかい日はお昼寝に限るさー。
クリスティーナが草に丸くなったのにあわせて、怠惰もごろんと寝転がった。
「くゎ」
暖かいな。良い気持ちだ。
「めぇ〜」
でしょー。
そんなこんなで、うとうとし始めたハクチョウと羊。
ちなみにすぐ傍には黒ウサギが二羽、お日様に干されてぐってりしている。
「グルルルルルル……」
そんな彼等を、藪の中から狙う双眸。
黒い毛並みをした大きな狼、炎宇(
jb1189)である。
「グルル……」
へへ、ごちそうがあんなにいやがる。
ここ数日まともなものを胃に入れておらず、餌を求めて空きっ腹のままジャングルを彷徨っていた炎宇は溢れる涎を抑え切れなかった。
そんな状態で見付けたハクチョウ、羊、ウサギ二羽。まさに天の恵みと言えよう。
「グルァー!」
いただきまーす!
形振り構わず、炎宇は藪から飛び出しクリスティーナを狙った。
「くわ? ……ガー!!」
何奴!
ぱっと起き上がったクリスティーナが炎宇の前に立ち塞がり、翼を広げて威嚇した。
「ガウガウガウ!」
悪いが俺に喰われろや!
「ガーー!」
やれるものならやってみろ!
「がうー!」
上等だぁこちとらハラペコなんだよ!
そして幕を開ける、狼VSハクチョウ。
だが展開は一方的であった。
ハラペコすぎる炎宇は足元がフラッフラで、視界もグラッグラで、隙だらけ。
クリスティーナはそんな彼を容赦なく嘴でつつく。つつく。つっつきまくり、仕舞いには飛び上がってからこれでもかと言わんばかりにゲシゲシと蹴り倒す始末である。
「ギャワーーーン!!」
いたーーーい!!
炎宇の悲痛な声。その大音量にようやっと怠惰が目を開けた。クリスティーナの猛攻から逃げ回っていた炎宇と目が合う。
「がう!」
こいつなら!
炎宇は怠惰へターゲットを変更した。美味そうな羊だ。舌なめずりして近寄るが、クリスティーナとは対照的に怠惰はマイペースにのんびりとしている。
「めぇ?」
カーティス君と遊びたいのかい?
まるで空気を読まず、まったりと、首こそ擡げたが起き上がる事すらせず。
「がう……?」
なんとも反応がないので、炎宇は鼻をフスフスさせながら怠惰を鼻先でつついた。それでも羊がまったりしているので、今度は前足でちょんちょんしてみる。
「めぇ〜?」
なになに、なんなら友達になってあげてもいいんだよ?
「……!?」
炎宇はどうしたものかと思案した。
――その一方。
「ウモー!」
わーい待て待て待つっすよ〜!
「ぎー」
うふふっ捕まえてごらんなさ〜い♪
タスマニアデビルの棄棄と楽しそうに追いかけっこをして遊んでいたのは、逞しい黒牛の強欲 萌音(
jb3493)。二匹は仲良しで、良くこうやっておっかけっこをして遊んでいるのだ。
さて花畑でキャッキャウフフしていた二匹であるが、咽が渇いたんで泉に水を飲みに行こうという話になった。萌音は頭に棄棄を乗せて泉に向かい、そして――
羊にちょっかいを出している狼を目撃する。
「……ンモ!!」
あっ、あれは!!
萌音の耳がピーンと立つ。彼女はジャングルの番犬ならぬ番牛で、肉食動物の魔の手から、戦う力のなさげな動物達を守っている頼れるナイスカウなのだ。
いつもは怠惰の周りを見回りしているのだが、ちょっと目を離した隙に、なんてこと。
「ウモォオオオオオオオオオオ!!!」
ちょっとまったそこの狼畜生ーーー!!!
デンデケデーン! と勢い良く現れる萌音。地面を巨大な蹄で踏み、フンスフンスと鼻息を荒げて炎宇を睨み付ける。ちなみに頭にはタスマニアデビルが「ギシャー」と牙を剥いている。
「がうっ……!?」
ちょっ、おまっ……!?
炎宇がたじろいだ、瞬間。
「ウモーーーー!!!」
悪即成敗っすよ! 覚悟ーーー!!!
萌音の頭突きがドゴォとクリーンヒット。更に飛び出した棄棄が炎宇の鼻にがぶーと噛み付く。
「きゃいーーん!」
そんな様子を、怠惰は楽しそうに眺めていた。
「めぇめぇ」
やあやあ、アワリティア君じゃないか。
とっても強くて頼れる友達に挨拶をした彼女の視線はあっちへこっちへ、右から左へ。ドッタンバッタンウモーギャワーンと音が凄い。
「めぇ〜〜」
今日は友達が2人もいるから紹介……なんだなんだ仲良しさんだなぁ。
「ギャワン! ガウガウ!」
痛い痛い! オジサンが悪かった! 勘弁してくれ!
角を振り乱す萌音に追い掛け回され、棄棄にがぶがぶ噛まれ、遂に降参する炎宇。
「フシュー」
分かればよろしいっす!
萌音は鼻息で返事をした。と、その時、炎宇の腹がごぎゅるるると空腹に鳴る。耳をへにょりと垂れさせた狼は、力なく項垂れた。
「がう……」
実はここ数日何も食べてないんだ……。
「めぇ」
そっかぁ。じゃあ一緒にお弁当を食べようか。
怠惰が穏やかに、そう言って。
萌音は樹木に体当たりして、木の実をいっぱい採ってきた。
棄棄は貯蓄していた骨を引っ張り出してきた。
クリスティーナは泉で魚を獲ってきた。
「モー」
仲直りの印っすよ。さぁ、いっぱい食べるっす!
萌音は炎宇へ、採ってきた色とりどりの木の実を山ほど差し出した。狼はそれをフンフンと鼻で嗅いだ後、大きな口でがっつき始める。
「ガウガウグルル」
オジサン……こんな美味い木の実を食ったのは初めてだよ……。
空きっ腹に染み渡る。心もジーンと満たしてくれる。
と、そこへ。
「キューー!」
あたい参上!
現れたのは皇帝ペンギンのチルルだ。集まって食事をしている動物達を見渡し、その楽しげな雰囲気に彼女もとてとて寄せられて。
「キュ? キュー! キュー!」
楽しそう! 何してるの? 折角だしなんかお話ししようよ!
「ぎぎ」
飯食ってんのさ。勿論、お前もこっち来いよ!
魚もあるぞとタスマニアデビルに招かれて、チルルは喜んでその場に加わった。
「くわ?」
この辺りでは見かけないが、お前はどこから来たんだ?
クリスティーナがチルルに問う。
「キュー!」
あたいは寒いところから川を泳いで来たのよ!
ちなみに暑い地域でもへっちゃらなのは仕様である。魚をもぐもぐしたチルルは、ふとタスマニアデビルを見遣り。
「キュー!」
あんた強そうね。ちょっとあたいと戦ってよ!
「ぎー」
おういいぜ。言っとくが俺は強ぇぞ〜。
「キューー!」
問題ないわ! だってあたいは最強だから!
そして始まったのは、タスマニアデビルVS皇帝ペンギンと言う異色のバトルである。
「にゃー」
おやおや賑やかですねぇ。
木々の枝から、騒ぎを聞いて立ち寄ってみたヤマネコのエイルズレトラは呟いた。
「きー」
なんだ楽しそうじゃねぇか。俺様もまぜろー!
テイオウキツツキのテトは颯爽とバトルに乱入する。
「きゅー!」
「むきゅ!?」
「きゅ、きゅぅ〜」
復活した凪は、偶々近くを通りかかったもふもふタヌキの鈴音へもっふるタックル。颯はおろおろしている。
「ピーピー」
なんだあいつら何やってるんだ。それはそうと今日こそあのエリマキトカゲを食ってやる!
隼のミハイルは上空を一度旋回した後、外奪を探して飛んでいった。
「きちきち」
どいつもこいつも脆弱ねェ。
一方の遠い場所、軍隊蟻の黒百合は今日も元気にデストロイ。
「くわ」
賑やかだな。
「めぇ」
そうだねぇ。
クリスティーナと怠惰は日向ぼっこしながらそれらを眺める。
さて、一通り騒いでお腹一杯になったなら、皆で一緒にお昼寝しよう。
「めぇ〜」
それが友達の流儀だよ。
――そして今日も、ジャングルの一日は過ぎてゆく……。
『了』