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マスター:越山 樹
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
参加人数:25人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2012/02/28


みんなの思い出



オープニング

●銀世界
 その日、久遠ヶ原は太平洋側には珍しい大雪に見舞われた。
 いつも見慣れた街並みや学園の景色が白く染まったその様子に、雪に見慣れない者達は歓声をあげる。反面、雪の多い地方の者からすれば、ある者は顔をしかめ、またある者はこの程度かとよく判らない不敵な笑みを浮かべていた。

 当然、雪がある程度積もれば、その雪で遊びだす者が現れる。特に広さの確保された久遠ヶ原学園のグラウンドは、格好の雪遊びの場と化していた。
 積もった雪に飛び込んで人型の跡を作る者もいれば、雪だるまを作って2段重ねか3段重ねかで揉める者たちもいる。
 雪を投げつけ合う、いわゆる雪合戦に興じる者たちもいた。手近な雪を掴みとって丸く握り、投げつける。投げられた者は雪の冷たさに驚き、反撃とばかりに投げ返す。そうやって投げつけ合ううちに、他の遊びをしていたもの達にも流れ弾の雪玉が当たった。なんだとばかりに投げ返し、雪合戦の輪に加わっていく。

 気がついたときには、グラウンドにいたほとんどの学園生達が、雪合戦に参加していた。適当に投げ合っていたのだが、自然とチームらしきものが出来上がっていく。
「よし、それじゃ総当たりで試合しようぜ!」
 誰が言い出したのかはもう判らない。
 皆が皆、ノリノリで準備を始める。陣地を作り、雪の壁を立て、フラッグを立てた。さらにルールまで決められていく。
 とにかく、突発的に雪合戦大会が開かれる事になったのであった。

●試合要綱
 今回の雪合戦は、1チーム7人による、4チームの総当たり戦で行われる。
 試合コートは幅10メール、長さ20メートル。10メートルでラインを引き、手前を自軍陣地、奥を相手陣地とする。
 勝利条件は雪玉をぶつけて相手チームの選手を全員アウトにするか、相手陣地最奥にあるフラッグを奪うかのいずれか。
 相手陣地にはチームの半数、今回の場合は4人までしか侵入出来ないものとする。また、雪玉の確保は自軍陣地でのみ行うこと。
 反則は相手選手への接触、コート場外への移動、5人目以降の相手陣地への侵入、相手陣地での雪玉確保。これらは発覚次第アウトとなる。


リプレイ本文

●第一回戦 【雪龍】VS【桜雪】
 ちらちらと舞う雪は勢いこそないが、止む気配を見せない。
「久しぶりの雪合戦、みんなで思いっきり楽しんで行きましょう!」
 佐藤 としお(ja2489)の掛け声に、彼とチームを同じくする【雪龍】の面々が「おーっ!」と拳を挙げる。その中でも一際気合が入るのは雫(ja1894)だった。
「やるからには、トップを目指さないと……」
 真剣勝負というよりはほんのお遊び程度だが、やはりやるからには勝ちたい。彼女の隣にもう一人、七種 戒(ja1267)がなぜか自信満々に胸を張る。
「ふっ、勝利の女神はマブダチっ!」
「……雪合戦もいいけど、雪だるまも作りたい、かも」
 一緒に拳を上げつつも、ちょっと小首を傾げるアトリアーナ(ja1403)。それはそれとして雪合戦も勿論楽しむつもりだった。
 他方、同じコートで陣営を分けた【桜雪】の面々。
「雪合戦、最後にやったのはいつだったか……」
 10年以上前なのは間違いないが、と久遠 仁刀(ja2464)は首を捻る。
「公式ルールなんかあるんだな」
 感心して一言。日本発祥のスポーツとして、日本で制定されたルールは世界各地に広がって採用されている。
「懐かしいな、雪合戦……頑張りましょう!」
 久々に見た雪に気分が上々なのは、笙野 龍音(ja4525)だ。いっぱい動けば体も温まるし、と気合を入れる。
 それぞれ7人ずつコートに入り、試合開始を待つ。
「さて、楽しむとしようか」
 麻生 遊夜(ja1838)が眼鏡を押し上げた。

 審判役の生徒がホイッスルを吹き、試合開始の合図をした。それと同時に、両チーム総勢14人が一斉に走りだす。
 勝利方法の選択を含め、各チームはそれぞれ特色ある作戦を選んでいた。もっともこれは、個人の戦法に左右される部分も大きい。
 【雪龍】は攻めこんで来る敵の迎撃を重視するメンバーが多い。ディフェンス陣は勿論だが、オフェンスの海原 満月(ja1372)も序盤は迎撃に回っている。オフェンスへの攻撃に限定しているわけではないが、同じくオフェンスのとしおも人数的に味方が有利になるよう、相手の数を減らすよう攻撃に回っている。
 そんなオフェンス陣を含め、味方が雪玉を当てやすいように立ちまわるのは、ディフェンスの一人である七海 マナ(ja3521)だ。自陣に二つある雪壁のうち、後方右側を盾にして裏に陣取り、攻めこんでくる相手オフェンスの足元を狙う。足止めだ。同時に、アトリアーナと七海結愛(ja6016)のオフェンス二人はフラッグを狙い相手陣地へ駆ける。
 一方の【桜雪】は、旗の隣に控えたディフェンスの遊夜の指揮の元、状況に合わせて味方の陣形を組み換えて相手に当たる作戦である。
「まずは突破陣形でいくぜ」
 相手の戦法を見て、彼は冷静に指示を出す。壁の後ろと旗の隣にいるディフェンスは位置を変えないが、オフェンスの4人がそれぞれ両サイドへ二人ずつ別れて走りだした。両サイドの前方には鳳 静矢(ja3856)と早乙女征嗣(jz0033)が、その後ろに仁刀と加倉 一臣(ja5823)の二人が援護につく。雪壁の後ろに控えるディフェンス二人は、龍音と大崎優希(ja3762)である。
「あれ?」
「え?」
 個人レベルで作戦の齟齬があった。思わず顔を見合わせる龍音と優希。二人はどちらも前から二番目、つまり旗に近い後方の雪壁の裏に隠れている。更にそのすぐ後ろには、旗の守りにつく遊夜。ディフェンス3人がほぼ一箇所に固まっていた。
 ディフェンスが偏れば、当然雪の弾幕も偏る。慌てて龍音が移動しようとするが、それを見過ごす【雪龍】ではない。牽制の雪玉に龍音の足が止められる。
「……」
 真っ先にアウトを取られたのは援護の薄い征嗣だった。雪玉を確認すると、速やかにコート外へ。
「あっはははぁー! すげー楽しいー! あはははー!」
 テンションが高い。征嗣のアウトを取ったとしおが雪壁を盾に、物凄い笑顔を浮かべながら雪玉を投げていた。
 お返しとばかりに、一臣が山なりの雪玉を放る。予め雪玉は多量作って抱えていたので、弾数は充分にある。しかし、彼自身が山なりの投擲は苦手で、雪壁の裏を狙うのだが狙いが定まらない。むしろ、隙を見て旗を取ろうと攻め込んでいた結愛を迎撃、山なりの玉よりも確実な直球を直撃させた。これで6対6だが、相手陣地の雪壁を盾にしようと移動するところをアトリアーナに狙われ、迎撃され、6対5となった。この間に、ようやく龍音が反対の雪壁に到着する。
「インフィなめんなあ!」
 今回の雪合戦に限ればジョブは全く関係ないのだが、それでもやはり気概は違うか。戒はドスの効いた声で叫びつつ、雪玉を投げる。可愛くない順に狙う方針だが、今攻めてきた静矢と仁刀だとどっちもどっちで、前にいる静矢が狙われた。彼女自身もフラッグと雪壁の中間にいるので、狙われやすいというか集中を受ける。
「いかん、ピンチだ! メ・ガーネ!」
 戒が狙われているのをピンチと見て取って、としおが飛び出した。突然光纏。全員の注意が彼に集まる。
「あのメガネの奴を狙え」
 すかさず指示を出す遊夜。彼も眼鏡をかけているのだが、それはこの際関係ない。【桜雪】全員の攻撃がとしおに集中した。彼が犠牲になっている間に、戒の攻撃が静矢を捉える。
「のあぁぁっ!?」
 ゴロゴロと転がる静矢。雪がついて雪だるまになっていき、ホイッスルが鳴らされた。
「試合妨害になるので、速やかにコート外へ」
 転がっている場合ではない。大人しく退場した。
 【雪龍】は仁刀を狙うが、彼は守るものがない場所でよく攻撃を躱す。自分が攻撃を捨て回避に徹しているが、移動もままならない。反対に【桜雪】のディフェンス陣は、唯一姿を現す戒を狙う。とは言え比較的後ろに下がっているため、彼女は雪壁を使いやすい。彼女にもなかなか雪玉は当たらない。
「今っ!」
 突然、【桜雪】の陣地深くで雪が舞い上がる。一緒に舞い上がる銀の髪は、【雪龍】のオフェンスである雫のものだ。やりあっている中を匍匐前進で大胆にも中央突破。白い防寒具の彼女は、それが保護色となり、見事に隠れたまま旗の傍まで迫っていた。完全に注意が逸れていたディフェンス陣の迎撃も間に合わない。
 ぴぴー。ホイッスルが吹き鳴らされた。雫のフラッグ奪取によって試合終了。
 やったー、と喜ぶ【雪龍】の面々。勝負は僅差、雫のファインプレーであった。

●第二試合【雪華】VS【しっと】
「……」
 沈黙がコートを支配する。【しっと】側の数人に、視線が集中していた。
「さ、寒い……」
「ま、まさか、これほどとは……」
 両手でその身を抱くようにして震えるのは、アーレイ・バーグ(ja02761)と宇佐鷺 めると(ja6247)の二人だ。それもそのはず、二人共防寒具を脱いでいる。胸元の露出を強調したアーレイと、バニースーツ姿のめると。湿度にも左右されるが、降雪のあるような状況ではその気温は概ね5度を下回る。更に雪とは氷の一種で、それは当然氷点以下の温度だ。直接肌に触れれば当然冷たいし、風が吹けば体感気温は更に下がる。この状況で肌を晒すのは自殺行為であった。アーレイは味方男子の応援に、めるとは相手男子の視線を釘付けにする目的だったが、彼女らに集まるその視線は、天候同様に寒い。
「Hey,Students」
 【雪華】の助っ人、教師のジョニー・フリント(jz0042)が口を開いた。彼女らではなく、他の生徒に向かって。
「It’s bad status.『温度障害』って奴だ」
 ジョニーの辛辣な一言に、思わず敵味方を問わず笑いが起こる。ジョニーはそれから、改めてアーレイ達に向き直った。
「And girls.もう少し時と場合を考えな。大人しく厚着しろ」
 ジョニーの教師命令に、慌てて二人は上着を取りに戻った。これ以降、『脱衣禁止』がルールに追加されたのだが、完全な余談である。
「それと、雀原。お前はそれを開けるな」
「えー!?」
 更にジョニーは雀原 麦子(ja1553)にも一言。彼女は不満気に声をあげた。缶ビールを片手に。
「この場には未成年も多いし、何よりここは学校だ。飲むなら寮に帰ってからにしろ」
 他所の大学では、学内での飲酒は原則禁止となる事が多い。加えて初等部から一貫して教育を行う久遠ヶ原学園は、未成年の比率も非常に多く、それを考えればごく当たり前の指摘である。麦子もビールを置きに、一旦コート外へ出た。折角の遊びなので好き勝手やろう、というのが【しっと】の方針だが、好き勝手も内容や程度次第である。
「……大丈夫かなぁ」
 流石に味方がこれでは不安か、一人頭を抱える鳴上悠(ja3452。そんな騒ぎを他所に、東城 夜刀彦(ja6047)ははしゃいでいた。雪の積もらない地方の出身だ。物珍しさも手伝って、先の騒動は耳に入らない。
 対戦相手の【雪華】も、3人がコートを出たところでようやく気を取り直す。
「絶対優勝するんだから!」
「やるからには勝つ」
 改めて気合を入れるのは瀧 あゆむ(ja3551)と大炊御門 菫(ja0436)である。
 そしてこちらにも試合そっちのけで興奮する学生が一人。
「ニンジャカッケー、マジカッケーのだ!」
 同じチームの犬乃 さんぽ(ja1272)の周りを飛び跳ねるレナ(ja0522)。何かシンパシーのあったらしい二人だが、実際は二人共日本文化というか忍者を何か勘違いしているような。
「レナちゃん、お互いニンジャの力で頑張ろ! 目指せ優勝だよ!」
「おー、なのだ! 」
 細かいことはいいのだろう。仲良く闘志を燃やしていた。
「戦術の勉強にもなるはず。遊びではない、これは訓練だ!!」
 菫の気合も少々斜め上の方向を向いていた。やる気があるのは良いことなのだろう。

 【しっと】の3人がコートに戻り、改めて試合開始。
「絶対旗を取ってくるから陣地の護りよろしくね」
 【雪華】のオフェンスのさんぽは、すぐ後ろに位置していたディフェンスの桐原 雅(ja1822)に一声かけて駆け出す。雅は旗の隣を陣取り、守りぬく姿勢だ。
「誰も近づけさせないんだからね!」
 そして雅は開始早々、全力で遠距離投擲。脱いだ上着の内側にしっかり雪が残り、着込んだはいいが中も冷たくて温まらない【しっと】めるとに直撃。震えの残るまま、真っ先にオフェンスが脱落した。
 さんぽ以外の【雪華】オフェンスは、あゆむと氷月 はくあ(ja0811)。三人とも俊足を活かしフラッグ狙いで斬り込んでいく。ディフェンスは雅の他に相手の様子を逐一伝える菫と前側の雪壁から迎撃を行うレナ、後方から援護射撃をするジョニー。人数的に防御重視と言うべきか。
 反面、【しっと】の各自好き勝手にやる方針は、戦法にも言えた。先程真っ先に一人脱落したが、残りのオフェンスは全力でフラッグを狙いに走る青空・アルベール(ja0732)と悠、そして雪玉の投げ合いを希望する麦子だ。ディフェンスは未だ寒さに震えるアーレイと、足止めを己の役割と位置づける夜刀彦、そしてフラッグの前に陣取って仁王立ちする轟闘吾(jz0016)の3人である。
 両チームのオフェンス達がコート中央へ。6人中、麦子以外の5人がフラッグ狙いのためすれ違う。麦子が手近なはくあに雪玉を投げる。はくあはそれを回避、更にそのまま麦子の後ろに回る。
「後ろだよっ!」
 小柄な彼女は雪玉を一つしか持っていない。その一発を麦子のすぐ背後から投げつけた。至近距離では回避のしようもなく、命中に難のあるはくあの雪玉でも直撃となる。次の瞬間、夜刀彦の雪玉もはくあに当たって、両チーム一人ずつのアウトとなる。
 そのまま両陣営でフラッグの攻防戦が展開された。両者共に雪壁を挟んでの投げ合いである。
 【雪華】側では抱きかかえ雪玉に偽装していたヌイグルミで身代わりの術を敢行。ジョニーの雪玉を回避する。
「これがインフィルトレイターの命中力だー!」
 手に抱えた残りの雪玉をまるごと放り投げ、雪壁の向こうへ落とす。流石にこれは回避しきれず、ジョニーがアウトになった。その代わり手持ちの雪玉を使いきって、アルベールは後ろに下がる。そこを菫が追い打ちをかけて、アルベールもアウトを取られた。
 悠が雪玉を菫に投げた。菫も悠に投げつけている。お互いが自分に向けて投げられた雪玉を見た瞬間、二人が取った行動は構えこそ違うがほぼ同じだった。雪玉に雪玉を合わせて当て、相殺。撃退士ならではのコントロールか、両者見事に雪玉をたたき落とした。おお、と誰かが声を漏らした。しかし、3対1の状況である。悠はなかなかフラッグまで近寄れないし、雪に潜んで突如出現するレナに手を焼いていた。
 一方の【しっと】側では、アーレイが早々にあゆむの一撃でアウトになっていた。やはり寒さで体が動かせなかったようで、アーレイはまだ震えつつそそくさとコートを出る。
(雪玉でも顔に当たったら痛いよな……腰骨狙いでいこう)
 少し躊躇して、夜刀彦が雪玉を握るが、相手が見当たらない。思わず周囲を探す夜刀彦だったが、それもそのはず。さんぽとあゆむは闘吾を挟み反対側に回っていた。闘吾の威圧感に、雪玉を投げようとした手が思わず止まる。
「よおしっ!」
 気合一声、あゆむが突然加速する。フラッグめがけて一直線に走るが、勿論これは闘吾と目撃した夜刀彦が見逃すはずもない。二人の迎撃で、フラッグへ飛び込もうとしたあゆむはあえなくアウトとなったのだが。
「旗はボクが貰ったあぁ!」
 彼女の反対側から気配を潜めて駆け込んでいたさんぽが、二人の隙を突いてフラッグめがけて跳躍。しっかりとフラッグのポールを掴んだ。【雪華】の勝利だ。悠は天を仰いだ。

●第三試合 【雪華】VS【桜雪】
 【しっと】に代わって【桜雪】がコートに入る。準備が出来たのを確認して、試合開始のホイッスルが鳴らされた。
 【雪華】の方針は先の試合と同じ、機動力を活かしたフラッグ狙いである。それを見て、【桜雪】の遊夜は作戦を決め、指示を出す。
「今度は迎撃で行くぜ」
 【桜雪】のオフェンス陣が後方の雪壁まで下がる。全員でフラッグの前に壁を作る形となった。更に雪玉の弾幕を投げれば、【桜雪】のオフェンス3人は攻めあぐねてしまう。
「それなら、突破口を開くよっ!」
 小柄な体格は普段は悩み物だが、こういう時は役に立つ。はくあが優希と静矢の間をすり抜けた。そのまま端にいた静矢に後ろから雪玉を投げようと向きを変えるが、優希の後ろに更に仁刀が控えていた。すかさず彼が雪玉を投げつけ、はくあに命中。彼の姿に動揺してか、はくあの雪玉はあらぬ方向へ飛んだ。
 一方、やはり雪を利用して姿を眩ませていたさんぽとダッシュで駆け抜けていたあゆむは、【雪華】側手前の雪壁まで辿り着いていた。取り敢えずその雪壁に張り付くように、二人で隠れた。どうしたものかと、二人は顔を見合わせる。
 その状況は、【雪華】のディフェンス陣にも見えていた。攻め込んだ二人を援護すべく、一斉に雪玉を投げる。同時に【桜雪】側も応戦を始め、雪壁越しの投げ合いになった。
 【桜雪】の迎撃の陣形は一見防御が硬いように見えるが、実は数人、雪壁のない位置に配置されている。今回の場合は静矢、一臣、征嗣の3人である。【雪華】側はそこを活路と見出した。一番端に位置し、人数的にも薄い場所の静矢が狙われた。命中精度が落ちるとは言え、やはり遠距離から投げる雅の雪玉が強い。雪玉が集中していたために避けきれず、命中しアウトになる。今度は転がらず大人しく場外へ出た。残り人数は双方6人である。
 後ろに控えていた仁刀が穴埋めに出てきた。【雪華】のディフェンス陣は今度はその仁刀を狙う事にする。
「今だ」
 遊矢が作戦を変更。オフェンス陣を一気に前へ送り出した。3人のオフェンスは【雪華】側の陣地へ駆ける。入れ替わるように、さんぽとあゆむがフラッグを狙って雪壁から飛び出すが、これは【桜雪】ディフェンス陣も気づいていた。2対3での投げ合いとなる。【雪華】側でも3対4の投げ合いになっていた。
 投げ合いになれば隠れるのは難しい。投げる精度が高い優希に、複数の雪玉を一度に投げる龍音、更に時間差攻撃を行う遊夜と、【桜雪】のディフェンス陣の投げる雪玉は命中精度を上げる工夫が多い。さんぽが優希の雪玉に直撃してアウトとなり、あゆむは回避するというよりも走りまわって、狙いを絞らせない作戦に出ているが長くは持たない。健闘して優希をアウトにしたが、龍音と相打ちになった。【雪華】側のオフェンスは、これで全滅である。
 【雪華】側もディフェンス陣の攻撃は工夫されている。命中精度の高い雪玉を投げるジョニーは勿論だが、他の者よりも遠くから届く雅の雪玉は侮れない。菫は雪玉に雪玉をぶつける離れ業を持つ上に、本人も避けるのでアウトを取りづらく、レナは隠れては違う場所に出てくる神出鬼没の動きが読みづらい。人数差も手伝い、此方も攻めが難しかったのだが、ジョニーが一臣の雪玉を受けた。一臣は直球は得意との事で命中率も高く、狙い済ませた雪玉だった。しかし今度は征嗣がレナの雪玉に当たる。レナの雪を使って身を隠しての移動に対応しきれず、死角から一発貰っていた。そのレナへは仁刀が雪玉を当てる。「やったのだ!」とガッツポーズを取っていた隙をついての一発である。しかしその仁刀に雅と菫の集中攻撃。両者が胴を狙えばまとめて避けるのは難しい。特に雅は遠投するよりも近距離の方が雪玉を当てやすく、むしろ得意としているようだった。そのまま睨み合いのような雰囲気が続き、時間切れのホイッスルが吹き鳴らされた。
 残り3人対2人で【桜雪】の勝利。特に優勝狙いを宣言していたあゆむが、半ば本気で悔しがっていた。

●第四試合 【雪龍】VS【しっと】
 コートを整えて、またチームが入れ替わる。アーレイとめるともようやく本調子を取り戻し、汚名返上の機会と燃えた。
 第四試合開始。【雪龍】の方針は先と同じく、やはり迎撃を重視する。反対に【しっと】はアーレイとめるとがやっとまともに動けるようになったが、勿論先に言い渡された脱衣禁止のルールがあるので、無茶は出来ない。ともかく、アルベール、悠、めるとの3人がフラッグを狙い、麦子はむしろ雪玉のぶつけ合いを狙う。それを【雪龍】側が迎え討つ展開となった。同時に、【雪龍】側からも雫と結愛がフラッグを狙い走りだしている。
 まず動いたのは麦子だった。飛び出した結愛を丁度いい標的と定めた。結愛も足を止め、応戦。二人共投げ合っては避けあってという展開になるが、アーレイがそこに山なりの雪玉を投げて援護に加わる。援護の加わった攻撃は結愛を苦しめる。結局避けきれず、麦子の雪玉を受けてしまった。しかし、【雪龍】側も負けてはいない。今回も雪に潜んでいた雫がこっそり雪玉を投げつける。麦子を背後から攻めることになり、麦子もアウトになった。雫は再び雪に隠れる。
 【雪龍】陣地の攻防戦は、攻め込んだ3人に対して、守るは5人。戒の可愛くない顔の順の攻撃は、今回はまずアルベールに狙いを絞られた。更に満月も援護する。前と同じくヌイグルミを身代わりにするアルベールだが、流石に攻撃が集中すると追いつかない。ともかくアルベールが迎撃された。悠はとしおと相対している。更にそこにアトリアーナとマナが防御に加わり、攻撃側にはめるとも参加する。マナが二人の足止めを狙って、足元に雪玉を集中させる。逆にめるとは、それを脱出してフラッグを取りに行く素振りを見せる。実はこれは援護のためのフェイントなのだが、無視しないわけにも行かない。結局、アトリアーナがめるとへの応戦に回る。めるとがアトリアーナに雪玉を投げる。コースのいいそれを見て、マナが飛び出した。
「体のどこでもいいから当たってー!」
 ななみくんふきとばされた! もとい、アトリアーナを庇って雪玉の直撃を受けた。やりきった顔でコート外へ出るマナをちらりと見て、アトリアーナはめるとに雪玉を投げる。……実は庇ってもらう必要もなく回避出来た気がするのは、彼の名誉のために秘密とすべきか。結局そのままアトリアーナがめるとをアウトにとった。
 満月が【雪龍】陣地を飛び出した。本来オフェンスの彼女だが、当初は相手オフェンスの迎撃を優先していた。それが悠だけになったので、迎撃よりも攻撃に回るべきとの判断を下した。相手ディフェンスが健在なので、雫一人では少々攻めあぐねている状態の現状では貴重な戦力でもある。
 雫は見つかりにくいので攻められにくい状態でもある。その為3人相手でも持ちこたえていたのだが、満月が加わると彼女のほうが目立つ為、彼女が狙われる形になった。
「魂こもってます!」
 名付けて雪兎弾、とは夜刀彦本人の弁。足止め狙いの、軌道がちょっと怪しい変化球である。そこに更にアーレイが援護射撃。流石に回避が難しい。満月はこれを避けきれず、アウトとなる。が、その間にこっそり回り込んでいた雫がアーレイに横から一発投げつけた。アーレイが気づく頃には既に命中、彼女もアウトである。
 再び【雪龍】側陣地では、悠がとしおに雪玉を当てていた。しかし、フラッグはまだ戒とアトリアーナが守る。一旦悠は雪玉確保に後退した。
 【しっと】側では、雫がフラッグ近くで再び姿を表していた。が、目の前には闘吾の巨体。お互い雪玉を構え合って、じりじりと睨み合う形となる。隙があれば即座に走り抜けるつもりだが、闘吾の防御範囲が広いのか、なかなか抜けられない。そこに夜刀彦が加わって、雪玉を投げつける。ぱしんと軽い音をたて、雫もアウトになった。
 ここで時間切れのホイッスル。結局、一人多く残った【しっと】がかろうじて勝利を拾った。
 この時点で、4チーム共に一勝一敗である。

●第五試合 【雪華】VS【雪龍】
 【雪龍】がコートに残り、【しっと】と【雪華】が入れ替わる。試合開始と同時に、やはり今回も【雪華】側からはくあとさんぽ、そしてあゆむの3人が飛び出す。【雪龍】側もやはり、今回も迎撃の体勢を整え、雫と結愛が飛び出した。両者共にフラッグ狙いの作戦のため、中央付近で入れ替わるように走り抜ける。
 【雪華】側はディフェンス4人が雫と結愛を迎え討つ。まずは雪に紛れる雫よりも、目立ちやすい結愛が今回も狙われた。雅が距離のある段階から、フラッグに近づけば菫とジョニーも雪玉を投げてくる。ほぼ集中攻撃となれば、結愛が躱すのは難しい。まず結愛がアウトになる。
 さて、雪に紛れた雫である。匍匐前進を繰り返す彼女だが、実は自分も周囲の確認が難しいという欠点があった。
「え」
「わ、なのだ」
 気づけば、雫の目の前にレナの顔があった。レナも雪に隠れる戦法を取っていたのだが、気付かないうちに鉢合わせしたらしい。あまりに想定外、二人共思考が停止、動きも硬直する。
「……ああ、そこだな」
 流石にこのような状況になれば、菫達も雫に気づく。菫はそのまま雪玉を投げつけ、雫もアウトになった。
 一方の【雪龍】側では、戒がその両目をハートにしていた。やってきた相手が女の子ばかりである。厳密には一人女装寸前の男子が混じっているのだが、可愛いから許すらしい。一方、女性が出てくると途端におどおどしだすのがマナである。
「えっ、ちょっと僕狙ってもいい事ないって」
 今回は相手が悪い。それを突いたわけではないが、マナが真っ先にあゆむに一撃を受けていた。
 【雪龍】側も反撃に出るのだが、今度は戒の動きがおかしい。
「くっ……右手が言うことを聞かないだと!?」
 邪気眼よろしく、右手を左手で抑える。相手が女子(と女子っぽい男子)なので、攻撃しづらいらしい。勿論そんな事をやってれば狙われるのは当然で、さんぽが雪玉を投げつけた。いっそ本望。今までで一番楽しそうな戒だったが、アウトである。厳密には、相手は女子ではないのだが。味方の不甲斐ないというかちょっと駄目な反応に、アトリアーナは密かに溜息をついた。
 ちなみにこの試合、アトリアーナは服を着替えている。魔法少女風のコスプレの上から防寒具を羽織っているその姿は、さしずめ『まじかるあとり(寒冷地仕様)』とでも言うべきか。
 いきなり二人いなくなれば、ピンチであろう。としおがまた光纏を発動し、一同の注目を集めた。勿論攻撃の対象にされ、今度ははくあが唯一手に持った雪玉を投げつけアウトに取る。しかし、としおの犠牲は大きな隙を生み出した。満月とアトリアーナが【雪華】オフェンス陣を攻撃する。移動を重視して回避の苦手なはくあとあゆむに立て続けに命中、アウトに仕留めた。さんぽは雪に隠れてやり過ごす。この時点で5対2、【雪華】に有利な状況である。時間切れを狙っても良いのだろうが、それは考えない。【雪龍】の残ったオフェンスは満月だが、この状況で自陣を離れるのは厳しいと見て、防衛に回っている。勝負はさんぽが二人を振りきってフラッグを取るか、満月とアトリアーナがさんぽをアウトにするかに絞られた。
 アトリアーナが雪玉を投げる。前の二試合よりも狙いが良い。さんぽは慌てて雪壁を盾にその身を隠した。雪玉を投げた動きにつられて、アトリアーナのスカートがふわりと翻る。彼女は思わず赤面しながらスカートを抑えたのだが、幸いと言うべきか不幸にもと言うべきか、さんぽはそれを目撃しなかった。さんぽはそのまま、アトリアーナを回避するように大回りで動いていく。満月がそれに反応し、迎撃しようと回りこんでいった。【雪華】のディフェンス陣も応援に雪玉で援護射撃を行う。流石に雪壁があるので【雪龍】の二人には当たらないが、アトリアーナが牽制混じりに応戦する。
 さんぽは相手陣地に入っている為、雪玉の補充が出来ない。必然的に無駄玉を投げる事が出来ず、雪壁を使って隙を伺っている。意を決して、フラッグ目指して飛び出した。当然満月と、更にアトリアーナも防戦に回る。近いところまで迫っていたが、今一歩及ばず。二人の雪玉に阻まれ、さんぽもアウトになった。
 両チームを通じて残ったオフェンスは満月のみとなった。流石にディフェンスが4人満足に揃った【雪華】陣営に踏み込むのは難しく、そのまま小競り合いを続けてタイムアップ。第五試合は【雪華】の勝利となった。

●第六試合 【桜雪】VS【しっと】
 最後の試合だ。チームが入れ替わり、試合開始のホイッスルが鳴らされる。
 好き勝手ではあるのだが、なんだかんだで全体的に統制のとれている【しっと】。今回もオフェンス4人が走りだす。
「最後だ、折角だから暴れるか」
 今回、遊夜が出した指示は『突撃』。試合開始と同時に、【桜雪】もオフェンス4人が走りだした。すれ違いざまにお互い雪玉を応酬させる。フラッグではなく相手選手狙いが主の麦子は、この時点で征嗣を討ち取った。しかし、ディフェンス陣に対して隙を見せてしまう。遊夜の雪玉を受け、麦子もアウトになる。
 【桜雪】側の陣地の攻防戦で、まずアウトになったのは悠だった。第二試合で雪玉に雪玉を当てる妙技を見せた彼だったが、一気に二発投げる龍音には流石に対応しきれない。むしろ集中の都合足が止まり、そのまま雪玉を受けてしまった。アルベールは身代わりを駆使し、それをめるとがサポートして、どうにか耐え凌いでいる。
 他方の【しっと】側。こちらはディフェンス3人のうち、闘吾がフラッグの防衛に専念していることもあり、守りは若干薄い。その闘吾だが、フラッグの前に仁王立ちしており、その身を堂々と晒している。なのに此処まで被弾がないのは、番長の持つ威圧感故か。それを振り切って、一臣が全力投球。闘吾に直撃。素直に場外へ。闘吾を討ち取った一臣だが、直後に夜刀彦の変化球でアウトを取られた。こちら側では、仁刀の回避が際立っている。進みこそ遅いが攻撃を巧みに躱し、被弾を許さない。彼を囮に静矢が足を進めた。フラッグを防衛していた闘吾がいなくなったため、今はフラッグまでがら空きである。一気に加速する。慌てて夜刀彦がカバーに入り、雪玉を投げる。避けきれない。静矢がアウトになる代わりに、手に持った最後の雪玉をぶつけて夜刀彦を道連れにした。【しっと】側陣地では現状、【しっと】のアーレイと【桜雪】の仁刀の一騎打ちとなっている。
 【桜雪】側の陣地では、めるとが遊夜を討ち取ったものの、【桜雪】の指揮は優希に引き継がれている。状況的に殆ど指示の必要がない状態ではあるのだが。龍音がさらにめるとをアウトにし、こちらの陣地には【桜雪】の優希と龍音、【しっと】のアルベールの3人と言う状態である。
 アーレイの雪玉を仁刀が次々避ける。避けつつ、足は遅くなっているもののフラッグへと確実に向かっていた。アーレイの雪玉の感覚を見切って、一気に仁刀がフラッグへ。慌ててアーレイが次々雪玉を仁刀に投げ、ついに一発その背中に決めた。しかし。
「勝者【桜雪】、フラッグ奪取!」
 決着のホイッスルが吹き鳴らされた。雪玉の命中よりもほんの一瞬先に、仁刀がフラッグを掴んでいた。

●試合が終わればノーサイド
 雪合戦の後片付けも終わってしまえば、また雪遊びである。
 としおは敵味方を問わず、他の参加者と握手を交わし、お互いの健闘を讃え合った。
 アトリアーナが雪だるまを作る。それをマナが手伝い、二人の友人たちも集まって雪だるまはどんどん大きく豪勢になっていった。
 静矢と優希はかまくらを作ろうとしたが、流石にそれには雪が足りない。雪うさぎを作って楽しんでいる。
 雫がホットミルクを全員に振舞った。満月も汁粉を作ろって振舞おうとしたのだが、これは鍋や食器の調達が難しいため断念せざるを得なかった。

 数日すれば、この雪は融けてしまうだろう。だが、今は折角の雪を楽しもうではないか。
 皆が思い思いに、雪を楽しんでいた。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:12人

己が魂を貫く者・
アーレイ・バーグ(ja0276)

大学部4年168組 女 ダアト
創世の炎・
大炊御門 菫(ja0436)

卒業 女 ディバインナイト
dear HERO・
青空・アルベール(ja0732)

大学部4年3組 男 インフィルトレイター
ヴァニタスも三舎を避ける・
氷月 はくあ(ja0811)

大学部2年2組 女 インフィルトレイター
あんまんマイスター・
七種 戒(ja1267)

大学部3年1組 女 インフィルトレイター
ヨーヨー美少女(♂)・
犬乃 さんぽ(ja1272)

大学部4年5組 男 鬼道忍軍
海鮮パティシエ・
海原 満月(ja1372)

中等部3年1組 女 アストラルヴァンガード
無傷のドラゴンスレイヤー・
橋場・R・アトリアーナ(ja1403)

大学部4年163組 女 阿修羅
夜のへべれけお姉さん・
雀原 麦子(ja1553)

大学部3年80組 女 阿修羅
戦場を駆けし光翼の戦乙女・
桐原 雅(ja1822)

大学部3年286組 女 阿修羅
夜闇の眷属・
麻生 遊夜(ja1838)

大学部6年5組 男 インフィルトレイター
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
撃退士・
久遠 仁刀(ja2464)

卒業 男 ルインズブレイド
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
おかん・
浪風 悠人(ja3452)

卒業 男 ルインズブレイド
黄金海賊・
七海 マナ(ja3521)

大学部5年215組 男 ルインズブレイド
久遠ヶ原の仲良し白鈴蘭・
瀧 あゆむ(ja3551)

大学部4年78組 女 阿修羅
蒼の絶対防壁・
鳳 蒼姫(ja3762)

卒業 女 ダアト
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
撃退士・
笙野 龍音(ja4525)

大学部9年283組 男 ディバインナイト
ゴッド荒石FC会員1号・
レナ(ja5022)

小等部6年3組 女 鬼道忍軍
JOKER of JOKER・
加倉 一臣(ja5823)

卒業 男 インフィルトレイター
にゃんこスレイヤー・
七海結愛(ja6016)

大学部5年259組 女 ルインズブレイド
災禍祓いし常闇の明星・
東城 夜刀彦(ja6047)

大学部4年73組 男 鬼道忍軍
撃退士・
宇佐鷺 めると(ja6247)

大学部7年74組 女 インフィルトレイター