●取説を見る派見ない派
『世紀末が来た
そう叫んだのは、誰だったか
1999年、神話や伝説の中でのみ登場する筈の存在が現れた』
「おお、漢字だ」
「結構気合が入ってるねえ」
この機種で一般的に使われるよりも一回り大きな漢字混じりのテキストに、赤いコントローラーを握った黒髪の男子が思わず声を上げた。その隣で、茶髪の男子は冷静に頷く。
『ある者は歓喜した 己が信仰の報いを信じ
ある者は世界が壊れる音を感じた 己が常識の限界を悟り』
3人は恐らくプレストーリーであろうテキストを見守る。
『だが、現れ出でた者達は全て皆、虐殺した
富める者も、貧しき者も、貴き者も、卑しき者も、平等に』
突然画面が『CHARACTER SELECT』と中央に書かれた画面に切り替わった。
「ちょっと」
割と真面目に画面を見ていた女子が口を尖らせた。男子がボタンを押して、オープニングをカットしたようだ。
「いや、長いし後でいいかと思って」
よくないわよ、と女子は頬を膨らませる。
キャラクター選択画面は上下に4人ずつキャラクターが表示されている。どうやらこの8人が、プレイヤーキャラクターとして使えるキャラのようだった。それぞれ顔と名前、大まかなステータスが表示されている。
「じゃあ俺は……よし、こいつだ」
黒髪の男子が選んだのは、『マイト』というキャラだった。取扱説明書によれば、本名は仁良井 叶伊(
ja0618)。三叉槍と短機関銃を使う、癖のない扱いやすいキャラだ。黒髪は本来攻撃力の高い近接型を好む傾向にあるが、初見プレイなのもあって使いやすいキャラを選んでいた。
「2人同時プレイ出来るのね。じゃあ私も」
読んでいた取扱説明書を茶髪の男子に渡し、女子も2プレイヤー用のコントローラーを手に取る。ボタンを押すと、キャラクター選択画面にカーソルがもうひとつ現れた。
彼女が選んだのは佐竹 調理(
ja0655)。攻撃力の低さを連射力で補う、射撃型のキャラだ。機動力に難はあるものの、これも扱いやすいキャラとされている。女子は遠距離型のキャラを好む傾向にあった。
●第一章 奈落都市トーキョー
画面が切り替わって表示されたステージタイトルを見るなり、女子が小首をかしげた。
「サイコホラー小説が原作だったかしら」
「……聞き覚えありそうだけど、違うだろ」
一瞬の間を置いて、男子がツッコんだ。
それはともかく、すぐにステージの開始となる。二人共初見のプレイだが、やはりゲームそのものに慣れているだけあって、操作の把握は早い。どうやらこのゲームハードとしては円熟期のソフトだったらしく、ソフトの作りが丁寧なのも良い方向に作用した。
荒廃した都市が舞台だが、序盤ステージだからか構成は平坦で難易度も低い。二人は移動速度やジャンプの挙動の違いに気を使いながらゲームを進めていく。
不意に、黒髪が怪訝な声を上げた。
「あれ」
「どうしたの?」
「いや……しゃがみって下だよな」
「うん、下」
「……あれえ?」
黒髪の操作するマイトが、どうやってもしゃがまない。調理は女子の操作通りしゃがみのモーションを見せているのだからコントローラーに不調でも出たか、と眉根を寄せる。横から茶髪が指摘すた。
「そいつ、使い勝手が全般的にいい代わりに、しゃがみとか泳ぎとか出来ないって」
「は!? ……ステージ次第じゃ詰むだろそれ」
黒髪はスタートボタンを押す。ゲーム進行が停止し、ポーズメニューが呼び出された。『CHARACTER CHANGE』を選択し、黒髪はうーんと唸ると、『カラス』というキャラを選んだ。本名は烏田仁(
ja4104)と言うらしい。何故かバス停を振り回す近接強攻撃型のキャラのようだ。
「あ、じゃあついでに私も」
女子もキャラを変更。投げナイフを使う少女、ヒンメル ヤディスロウ(
ja1041)に切り替えた。全体的な性能が低めで、更にナイフも放物線を描く癖の強いキャラだ。女子が操作していると、ざっと音を立ててヒンメルが地を滑る。
「あ、スライディングあった」
「キャラによって攻撃以外の出来る出来ないが大きいな。攻略用と戦闘用でキャラを使い分けるゲームなのか」
二人同時プレイには向かない気もするが、と黒髪が唸る。隣で茶髪も頷いた。
「そうでなくても、同時プレイって難しいからねえ」
難なくとまでは行かないが、無事に最初のステージを攻略した。
画面が切り替わる。どうやらステージ間の幕間劇のようだ。男子が使用していたカラスの前に、男性キャラが立っている。
『シショー!』
「なんで片仮名なんだよ」
「そこ?」
余計な茶々を入れる男子二人。
『お前は修羅の道を往くのか』
カラスの師匠らしき男の問いかけに、『はい/いいえ』の選択肢が表示される。黒髪が取り敢えず『はい』を選択してみると、『カラスは拳銃を手に入れた』のテロップが流れた。
「あ、これパワーアップイベントか」
「他のキャラにもあるのかな」
驚く黒髪に、考える素振りを見せる茶髪である。
●第二章 沈没都市イケブクロ
彼らの見る画面には、2ステージ目のタイトルが表示される。
「今度はSFか」
「まあSFといえばSFなのかなあ?」
愚にもつかない会話をする男子二人。ステージ構成は水没して湖となった都市がモチーフになっている。湖面に突き出た廃墟や道路を足場に、あるいは敢えて水中に潜っての進行となるようだ。
ステージ開始時、カラスの武器選択が追加されていた。どうやらステージ毎に武器を選べるようになったらしい。折角入手したのだからと、黒髪は拳銃を選んでみる。
「あ、また……」
ステージ中、女子の操るヒンメルが数度目のプレイヤーアウトになっていた。
「……うーん、ダガーがギリギリに当たれば大ダメージになるみたいなんだけど、滑るしライフ少ないしで……」
「変えるか?」
「うん」
黒髪がポーズメニューを呼び出し、女子はキャラ変更を行う。余談だが、ポーズをかけるスタートボタンは、1プレイヤー用のコントローラーにしか用意されていない。その代わり、2プレイヤー用コントローラーにはマイク機能が備えられていた。
今度選んだのはフィール・シャンブロウ(
ja5883)という女性キャラで、機動力は低いが若干の空中浮遊が出来る、魔法攻撃による遠距離射撃キャラである。
「な、僕にも」
「ああ」
女子の隣で、黒髪と茶髪が交代する。茶髪もキャラを選び、選んだのは御手洗 紘人(
ja2549)という、小柄な男子キャラであった。
「ああ、こういうキャラって何かありそうだな」
「まあね。後半にパワーアップするとかさ」
紘人の表示されるステータスを見て頷く二人。全体的に低いステータスで纏まっているのは、いかにも何か裏が有りそうであった。
ゲームを再開すると、紘人の癖の強さが明らかになる。雷を落とす魔法を使うようなのだが、目の前にタイムラグを置いて攻撃判定が発生するため、先読みが必須になる。しかも射程の短さの割に、攻撃力が低い。
「……後半何かあるにしても、これは厳しいね」
顔をしかめる茶髪。とにかく性能の低さが目立つ上に、水上・水中での戦闘が多いこのステージでは、泳げないという特性は致命的であった。結局またウィンドウを開き、鷺谷 明(
ja0776)という男子キャラに変更した。戦槌、短槍、短銃、鉤爪、仕込杖の5つを使い分ける、攻撃は万能だがスピード以外の性能は低めの癖の強いキャラである。武器の素早い切り替えが鍵になるようだ。
「うん、僕はこういう方がいい」
トリッキーなキャラを好むのが茶髪の傾向であった。
実は、紘人はいわゆる裏ワザが用意されたキャラであった。ポーズ中に特定のコマンド入力を行うことで変身し女装するもので、性能がトップクラスに底上げされる。しかし、コマンド自体が複雑で発見が容易ではない上に、その技の存在を知る者が当時マイナーなゲームだったこともあって殆どおらず、結局使えないキャラの烙印を押される事になる。今回の彼らのプレイでも、やはり初見で情報の全くない彼らではコマンドに気づかず、これ以降紘人の使用は避けられる事になる。もっとも、裏ワザを知っていたとしても、いわゆるバランスブレイカーとしてゲームのプレイに大きな影響を与えてしまうため、忌避された可能性が高いのだが。
水中戦につきものの独特の挙動に苦戦しながらも、後方より迫るボスの潜水艦を撃破。彼らは無事第二ステージも突破する。
●第三章 傾妖都市カマタ
「随分都心から離れたな……」
タイトルを見るなり、黒髪がぼやく。それはともかくとして、このステージは終始強制スクロールのようだ。更に足場すべてが坂のため、滑りやすく慎重な操作が求められた。
「それなら機動力やジャンプ重視だね」
茶髪が頷く。女子の使うフィールは能力上横方向へのジャンプが強力なため、このステージには向いている。茶髪はキャラを切り替え、まだ使われていなかった並木坂・マオ(
ja0317)を選択する。
「これは僕よりもそっちが向いてるかな」
「なら替わろう」
少しプレイして、茶髪は黒髪にコントローラーを渡す。素手攻撃のために射程は短いが、攻撃力が高い接近戦タイプである。また機動力に長け、足が早く二段ジャンプも可能と、ステージ攻略に非常に向いた性能を有していた。
「へえ、小柄だから狭いところが通れるんだ」
「いいなこれ。一気に移動範囲が広がる」
射程の短さは欠点だが、黒髪のプレイスタイルからは望むところである。相性がいいらしく、調子よく進む。女子もフィールとの相性がいいらしく、こちらも流れるようにステージを進んだ。
そのままボスのドラゴンへ到達。ここでマオの射程がネックになり、黒髪は調理にキャラを変更する。途中で拾っていたアイテムの影響で武器がパワーアップし、3連射と上下方向の撃ち分けが可能になっていた。扱いやすさは格段に向上したのだが、途中で起こる弾切れからの再装填はそのままで、更に3度目の再装填時に突然画面内の調理がだらけだした。
「なんだこれ!?」
黒髪の驚きも虚しく、そのままドラゴンの火炎の直撃を受ける。連続ヒットで為す術もなくプレイヤーアウトになった。ドラゴンの攻撃を回避しつつ、女子がぽつりと呟く。
「飽き性って事かしら」
「ったく、癖の強いキャラしかいねえなこのゲーム」
残機が減って次の調理が出てきたところで、黒髪は舌打ち混じりにキャラを変更。特殊なアクションがない分攻撃性能に優れるマイトに変更して、女子のフィール共々射撃とジャンプを駆使しドラゴンを撃破した。
●第四章 魔界都市ハラジュク・教会
「ホントにサイコホラーじゃねえか」
「一応あっちは漢字だったと思うけど……」
「ツインタワーが舞台にならないだけ、まだいいんじゃない?」
毎度の恒例になっているかのように、ステージタイトルにツッコミが入る。どうやら今度は教会内部で、屋内戦のステージのようだ。これまではあまりなかった天井が、進行に影響を及ぼしそうである。
「このステージ、出てくる敵の偏りが凄いね」
元々このゲームは天使と悪魔と両方が登場して襲ってくるゲームだった。先の2ステージは両方同じ程度の頻度で出現していたのだが、このステージは茶髪が言う通り、天使に関する敵キャラが多い。
「ええと……ああ、これだ。撃破数のバランスで、ステージ構成が変わるんだと」
「へえ、分岐するんだ?」
ちなみに敵を撃破した数で変動するバランスを、カオスレートと呼ぶらしい。どうやら悪魔側の敵を多く撃破していたため、天使が勢力を増しているらしい。そういう情報を示すやり取りが、このステージの前の幕間劇で展開されていた。
狭い場所が多いため、黒髪はマオにキャラを変更する。この時、女子と茶髪が交代してキャラをカラスに変更した。ジャンプ力があり、壁で更にジャンプするいわゆる壁蹴りが使えるため、壁の多いステージでは威力を発揮するらしい。
「状況に合わせてキャラを変えるのは面白いよね」
茶髪の感想に、女子が頷く。
「大体どのキャラも、出番になるところはあるみたいだしね」
やはりステージに適合したキャラを選ぶと、進行はスムーズになる。
後半ステージのため敵の攻撃も激しいが、それでも無事にボスまで到達。どうやら敵天使を信仰する勢力の首魁という設定らしい。ボス本体は大したことのない相手だが、次々天使を召喚するのが面倒な相手だった。
「連射力がいるな、これ」
黒髪がマイトにキャラを変更する。カラスのとあわせて二人共射撃型にしたことで、天使ごと撃ち倒して押し切る戦法を取った。
●最終章 魔界都市ハラジュク・地獄一丁目
「もう都市でもなんでもなくなってるな」
「この手のラスト面って、よくエスカレートするもんね」
噴き出るマグマや登場するいかにもな魔物の数々は、もはや荒廃した都市というレベルではない。罠だらけ、敵だらけのステージを二人は掻い潜って進んでいく。ステージの開始に合わせて、やはり黒髪は攻略用にマオを使っていた。
「このゲーム、全体的に機動力のあるキャラが少ないわよね」
「二人だと片方が苦労するな」
移動全般に優れるマオと、もう一人に誰を選ぶかが同時プレイの問題になるようだ。平均的な機動力のマイトは一部アクションに制限があるため、前半ならともかく終盤は苦労する傾向にある。結果、速度は我慢して上方の移動に強いカラスか、横のジャンプが強いフィールとなるだろうか。再び茶髪と女子が交代し、彼女はフィールを使用する。
幕間劇から、どうやらボスは撃破される悪魔勢力に業を煮やして出てきたという設定らしい。三つ首の獣、ケルベロスが悪魔勢力の首領らしかった。
「人形じゃないのか」
茶髪がまゆを寄せる。プレイヤー二人は、ケルベロスの激しい攻撃に返事どころではなくなっている。
数度のプレイヤーアウトやゲームオーバー、コンティニューを繰り返し、ケルベロスの撃破にこぎつけた。撃破時の会話イベントから、どうやらこのラストボスは都市侵攻部隊の長でしかない、という位置づけのようだった。
ともかく、無事にエンディングへ到達した。流れるスタッフロールと、その間に出てくる各主人公のメタなメッセージを見ながら、3人は軽く伸びをしたり脇においたジュースに口をつけたりする。
「他のルートも確認してみないとダメかな」
「ああ、多分色々ストーリー的に語られてないところもあるだろうし…会話イベントも、多分使うキャラによって変化するんだろうな」
「何か、ミニゲームのイベントもあるみたいだね。丁半とかなんとか」
「なるほど、こりゃやりこみ甲斐がありそうだ」
口々に感想を言い合っていく。
「じゃあ取り敢えず、またやるか」
「うん」
エンディングが終わり、彼らは『THE END』の文字が表示されて停止した画面に視線を戻す。
一人の手が、ゲームハードのリセットボタンに伸びた。