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マスター:御影堂
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/04/20


みんなの思い出



オープニング

※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。
 オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。
 

 蠢く影を操るは幾重につながる蜘蛛の糸……。
 海深くに済むアンコウなる機会な魚は、疑似餌を用いて餌を取る。
 かの有名な源頼光が退治したという土蜘蛛も、人の仮相をした囮を用いた。
「しかしながら、此度の一件……いかないかな」
 楽しげに声を発するのは、狐の面を付けた少年だった。
 姿は少年なれど、侮る事なかれ、御年百を超える妖狐である。
「人を操る糸をたどれば、妖気が溢れる、伏魔殿」
 鬱蒼と生い茂る山林の中で、最も高い木の枝に妖狐は座っていた。
 仮面の下から見えるのは、美馬の国の領主が収める白馬城。
 されど、今は薄汚れ、とても白馬とは言いがたい。
「時の流れは残酷ながら、人の心も残酷よな」
 うんうんと一人頷きながら、妖狐は視線を移す。
 城下町を歩く人々の顔は、薄汚れた城壁以上に暗い。
 活気が無いといえば、それまでだが、これにはわけがあった。
「よっと……さて、場面は転じて城下町へ。いざ、いざ」
 囃すように妖狐は地を駆け、時折口笛を吹く。
 草むらをくぐり抜け、街道を走る間に妖狐は狐の姿になっていた。
 城下町に入っても、この狐を気に留めるものはいない。
 皆、生気がないのだ。
「領主様が、まいられたぞ……」
 こそこそと言葉をかわすと、町人たちは一斉に低頭平伏。
 馬に揺られた領主が、姿を表す。
 領主、千与田勘斎。
 20を越えたばかりの、若造の領主である。
 急逝した父に代わり、領主となるも、その治世はあまりにも酷であった。
 年貢の引き上げ、町人の締め付け……歯向かえば死を与える。
「そこの娘」
 領主の声が小さく発せられる。
 それだけで、町中の娘たちは肩を震わせる。
 誰が犠牲者か、地面を見ながら自分でないことを願う。
「お前だ! 立て、喜べ! 召し抱えだ」
 側近らしき武士が、一人の娘を立たせて縄をかける。
 そうせずとも、逃げ出せばどうなるのか娘はよく知っていた。
「……おはぎ」
 親らしき男が娘の名を呼ぶ。
 だが、立ち上がることはできない。最後の顔すら見ることは許されない。
 おとっつぁんと声がするのを聞きながら、悔し涙は地面に吸われていった。


 城内はいやに静寂を保っていた。
 人の声、物音すら、必要最低限にしか響はしない。
 おはぎと呼ばれていた町娘は、地下牢に繋がれていた。
 見れば、先に連れて行かれた女達もそこにいた。
「きししッ」
 異様な音が聞こえ、おはぎは顔を上げる。
 奉仕をさせられるものだと思っていたが、何かがおかしい。
 怯える表情の娘たちが暗闇に浮かんでいた。
「きししししっ」
 先ほどの物音が、声だと気がついたのは、領主が入ってきたからだった。
 しかし、その声は領主のものではなかった。
「新入りの餌候補を見にきたぞ」
 餌……確かに領主はそういった。
 何のことかと思う間に、関取二人分はあろうかという蜘蛛がのそりと姿を現した。
 ひっ、と短い悲鳴を上げる。
「きしし」と蜘蛛が笑い声を上げた。
 八本ある足の一つから伸びた糸が、領主に繋がっているのが見えた。
「きししししっ」と声を上げるのに呼応して、領主が口を開く。
「驚いたようだな。私が、この城の主だ」
 妖かしという存在がいる。
 領主様はきっと、妖かしにかどわかされているに違いない。
 そんな噂がたった時期もあった。
 結局は馬鹿げた話と、領主の乱心だという声が強くなったのをおはぎは覚えている。
「私の餌となる生娘たちが揃ってきた……この国の全てを手に入れるまでもうすぐだ」
 何をするつもりなのかはわからぬが、生理的嫌悪を感じ、吐き気がした。
 他にも話しているようだったが、内容はまるで覚えていなかった。
 気がつけば、蜘蛛は闇の中に消えていた。
「お嬢さん。あなたを助けてあげる」
 代わりに立っていたのは、狐のお面をした少年だった。
 きっと、自分は精神がおかしくなったのだと思わざるをえない。
「お嬢さんはまだ大丈夫。さぁ、目をつむっておやすみなさい」
 その間に、あなたを外へ釣れ出すから……と少年は告げた。
 いわれなくても、おはぎの精神は限界だった。眠りはすぐに訪れた。


 目を覚ました時、おはぎは城下町の外にいた。
 街道沿いに置かれた、珍しい稲荷の道祖神が脇にあった。
「覚えているかな?」
 少年の言葉が頭のなかに響く。
 眠りに落ちながら聞かされていたことを思い出していた。
 少年は多くを語らなかったが、三つの重要事項を告げていた。

 一つ、この国に大蜘蛛を倒せるものはいないということ。
 二つ、もうすぐ倒せる者達が城下町へ向かってここに来るということ。
 最後が、
「その人達は、あなたたちを必ずや救ってくれるだろう」
 予言めいた一言だった。
 目印は、僕と同じ狐の仮面。それを携えて、やってくるよ。
 稲荷大明神の守護を受け、全国の妖かしを狩るべくして旅をする、
「……赤鳥居の一座」
 旗印に掲げるのは、赤い鳥居と狐の面。
 一座というには不揃いで、てんでばらばらな人たちだった。
 


リプレイ本文


 美馬の国、白馬城。
 お膝元の城下町は、陰鬱な雰囲気をたたえた。
「言の葉ゆらぎ持たせて語らうは、どれも大蜘蛛」
 大蜘蛛は、人を操り飲めや喰らえやの豪遊三昧。
 滑るように口上を上げながら、瓦版を売るは蛇蝎神 黒龍(jb3200)こと黒。
 黒の言の葉は、今日は西、明日は東へ姿を変えて渡りゆく。
「真実か否か、信じるは人の業。当たるも八卦、当たらぬも八卦……」
 噂を流し、人々の心を惑わす。
 熱を帯びる感情は、渦巻き、真実への道となる。

 大蜘蛛の噂が奔る。人々の心が動くのを感じ、黒は姿を消す。
「では、仕事にまいろうか」
 宵闇に蠢くのは、狐の面を被る複数の影。
 それぞれ赤鳥居の紋を付けている。黒は忍装束の背に紋を負う。
 彼らの名は、赤鳥居の一座なり。


「続きましては剣舞だよー」
 クスクスと口元を隠して笑いながら、白拍子の少女が告げる。
 自身の舞が終わり、白拍子、来崎 麻夜(jb0905)は次の者へと舞台を譲る。
「さぁ……華麗に舞ってみせましょうぞ」
 しゃらんと剣を打ち鳴らし、変幻自在な剣舞を行う麗しき女性。
 陰りを持つ町人の視線を、幻想的な動きが誘い込む。
 ゆるやかな流線が、途中で途切れ物語が転換する。
 そこから先は、男の舞。
 彼は美麗の青年、水城 要(ja0355)である。
 その容姿を活かした演出に、観客も黄色い声を上げる。
「ん、いい感じ」
 舞を見る人々を、巫女姿の少女が見ていた。
 袖に赤鳥居の門を持つ、歩き巫女のヒビキ・ユーヤ(jb9420)である。
「人、いっぱい」
 人が集まれば情報も集まる。
 口寄せを得意とするヒビキを頼ろうとする者がいれば、情報収集も楽になる。
 と、唐突に拍手が起こる。
「木彫りの熊に御座います」
 視線を移せば、舞い踊っていた麻夜と要は袖にはけていた。
 代わりに梅之小路 鬼(jb0391)が舞台に上がっている。
 高下駄を履き、三方の上に立つ姿にまずは歓声が飛ぶ。
 続けざまに三方を受け取り、重ねては高い位置へ移行する。
 最後に長刀を手に、投げられた木材を斬りつけて木彫り細工を仕上げるのだ。
「赤鳥居一座の舞台はこれにて閉幕。巫女様の祈祷がご入用の方は別口にて受付いたします」
 一礼をし、ちゃっかりと宣伝をして鬼も舞台から降りる。
「ん、出番」
 ここでヒビキが小さな掘っ立て小屋で、加持祈祷を担うのだった。

「……嫌な気配だな。何かがいる」
 城を見上げながら、一人の武士が呟く。
 振り持つのは刀ではなく、一本の和傘。
 和傘に赤鳥居の紋を添える彼の名は、門音三波(jb9821)。
 赤鳥居の一座では、軽業師を務める。
 その正体は雨童子。故に傘は一時も離せない。
「さて、乗り込むとしようか」
 隣では、同じく武士風の格好をした男がいう。
 その男、麻生 遊夜(ja1838)もまた赤鳥居の一座である。
 三波が静、遊夜が動として飛び回り、平衡感覚と柔軟さで人々を魅了する。
 が、今は赤鳥居の裏の顔として城への侵入を果たそうとしていた。
「じゃ、行ってくる。……土産は何がいい?」
「おう、地下牢の見取りを一つ頼むぜ。俺は外周を回ってから侵入する」
 ふと笑うと三波は傘を軸に飛び上がり、城壁を駆け上り裏へと潜る。
「さて、俺も行こう」
 呟けば、月も雲隠れし真の闇が舞い落ちる。音もなく遊夜は宵闇へと消えていった。
 翼なき烏天狗は飛ぶのではなく、跳ぶのであった。


 一夜明け、朝もやの中を歩く一人の魔性。
 その者は華やかな振り袖に女性物の帯を締め、袴の代わりに股引を履いていた。
「虎穴に入らずんば虎児を得ず……とはよく言ったものだ」
 高下駄を打ち鳴らし、呟く者の名は小田切 翠蓮(jb2728)。
 翠蓮は、赤鳥居の一座なれども、別行動を取っていた。
「お呼び立ていただいた、薬師、翠蓮にございます」
 固く閉ざされた城門の前で名乗りを上げる。
 暗い表情の侍が一人、姿を表して翠蓮を城内へと引きこむ。
 通されたのは、下働きの者が集まる広間だった。

「此処に取り出したるは南蛮から入手せし妙薬にございます」
 昨日のこと、一座の興業が終わるのを見計らって翠蓮も仕事にかかっていた。
 ただし、一座がもっぱら庶民を対象としているのに対し、翠蓮は城に近しいもののいる場所を狙っていた。
「どんな病や怪我もたちどころに治ること請け合い」
 前口上よろしく、もう一つの手わざである「手妻」を用いて興味を引く。
 領主の暴走により、陰鬱な空気の中を引き裂くように翠蓮は艶っぽく微笑んでいた。

 ほどなくして、そこまでの妙薬なら城で試してやろうと述べる者と出会う。
 若いながらもそれなりの身分を持つ侍であった。
「とはいえ、階級は下の方よのう」
 そして、今に至る。
 身なりは立派なのは、大蜘蛛に疎まれて落とされたからだろう。
 話を聞けば、推測通り「領主の乱心」によって蟄居が言い渡される寸前であったという。
 その乱心に効く薬があればよいのだが……と聞こえぬよう零したのを翠蓮は聞き逃さなかった。
「お高くつきますよ?」
 翠蓮は、艶っぽく耳元で囁く。
「必要とあらば直接よこして参りましょう」
 訝しげに侍は翠蓮を見やるが、まっすぐに見返されると目をそらしてしまう。
 少しの間をもって、
「では屋敷にて」と絞りだすように侍は告げるのだった。


「効率よく搖動できるようにせんと……ま、こんなものか」
 天守閣に並んで生える杉の上、遊夜は枝の上に座り幹にもたれかかっていた。
 調べれば調べるほどに、ホコリならぬ蜘蛛の巣が出るとはこのことだ。
 限られたものしか入れない場所というのが、いくつか見受けられた。
「こちらもこんなところだ……と、雨」
 杉の側、天守閣の瓦の上で報告していた三波が空を見上げる。
 傘を広げると、ぽつりぽつりと水滴が落ちてきた。
「さっさと、雲と一緒に蜘蛛を晴らしてやろうじゃないか」
「えぇ。地下牢組には、この順路を取ってもらいます」
「上と下が真っ黒ってわけだ」
 天守閣の上階、そして、地下牢へ続く道。
 この二つは大蜘蛛に支配された侍で固められていた。
 多くは、前領主と対立していた陣営もしくは下級武士である。
 おおよそ、立場を利用されたと見るべきであろう。
 前領主と親しく、現当主の後見人であった者達はすべからく職を解かれていた。
 中には、蟄居を命じられ、城にすら近づけぬものもいるという。
「そっちは翠蓮が上手くやっているだろう」
 翠蓮が送ってきた式神からの報告を思い出す。
「今度は正面から、だな」
 いうと同時に傘を閉じ、壁を走って三波は去る。
 遊夜も後を追うように、杉の木から姿を消した。

「お、お茶をお持ちしました」
 一座が滞在する宿では、鬼が茶を持ってひた走っていた。
 観客を最も湧かせる派手な技使いも、一座では新参なのである。
「いいといってるんですけどね」
「そ、そういうわけにはまいりません!」
 お茶を受け取りながら、要は苦笑する。
 生真面目だなと思いながら、お茶をすする。
「おはぎさんは、大丈夫でしょうか」
「黒さんが上手くやってくれるでしょう。鬼さんも落ち着いて、お茶でも飲んで」
「は、はい!」と律儀に返事をしてからお茶をすする。
 その視線の先、障子の奥に黒とおはぎがいた。
「怖いだろうが、思い出してほしい。ボクらは陰ながら手助けするだけ」
 そう、皆の笑顔を取り戻すのは、おはぎの勇気一滴。
「言葉のひとひらでもいい」
「私が覚えているのは……」
 強張る表情を説きほぐし、黒は真摯に情報を聞く。
 次に障子が開いた時、おはぎは安心からか寝ているようだった。
「おっと、ちょうど戻ったんか」
「ん。把握した」
 黒の視界に入ったのは、ヒビキと麻夜の姿だった。
 二人して、潜入組の情報を確認しにいっていたのだ。
「決起は、正午過ぎだよー。さぁ、今回も頑張ろうかー」
「ん、悪しき輩は、狩るのみ」
 麻夜はくすくすと笑い、ヒビキはこくりと頷く。
 準備は整った。
 要と鬼も表情を改め、腰を上げるのだった。


「それじゃ、派手にいくよー」
 麻夜の言葉通り、騒動は突然に始まった。
 いずれかに赤鳥居の紋をつけ、狐の面をかぶった集団が城を強襲したのである。
 静かな城内は、一気に慌ただしさをました。
「ふふっ、光に嫌われるといいよ」
 駆け寄る侍の切っ先を踊るように避け、羽根を散らして撹乱する。
 その隙をついて三波が壁すらも使い、縦横無尽に駆け巡る。
「よそ見していると痛い目見るぞ」
 愛刀の鞘で侍を気絶させていく。
「さて、こっちだ……行くぞ」
 混乱をきたした城内を遊夜がぬるりと案内する。
 迷うことなく廊下を進み、時折、妨害に出た侍は、
「推して参ります……」
 静かに鬼が立ちふさがり、切りかかってきたところを投げ飛ばす。
 もんどり打って気絶するのを申し訳なさそうに、捨て置いて進む。
「ん、今……助けてあげる、よ?」
 ブーメランで張り巡らされた糸をヒビキが断ち切る。
 ほどなくすれば、最上階へと辿り着く。
 城主が本来いるはずの場所は、空座。
 代わりに大蜘蛛が立ち現れた敵対勢力に、嫌悪を露わにしていた。
「よう、好き勝手やってるようだな?」
「何者だ」と領主の口で大蜘蛛が問う。
 これから死にゆくものに語ることはないと鬼が告げる。
「そうさ……引導、渡しに来たぜ」
 ニヤリと遊夜が嗤う。
 大蜘蛛は、本体で叫びを上げて八本の脚を振り上げるのだった。

「黒殿。地下牢はこの先だ」
 三波が素早く隠し階段を示す。襲いかかる侍へ、鞘を突き入れ黒の移動をうながす。
「邪魔はさせんで」
 地下牢の守りを担う侍がどっと押し寄せてくる。
 布槍で一人ひとり無効化し、ときに麻夜たちに対応を託して黒は前へと進む。
 冷たい空気の漂う中、視線を隈なく動かして隻腕の男を見つけ出す。
 そいつだけ、立ち向かうこともなく、どこかへ向かおうとしていた。
「どこ行くん?」
 男は答えず、逃げ道を探る。
 おはぎの言葉通り、鍵を持っているのはこいつに違いなかった。
 ないはずの腕から大量の蜘蛛糸が伸びる。
「おっと」
 急襲した糸を黒は避ける。太い鞭のように糸は纏まり、黒へ追い縋る。
 とんだ伏兵を前に、飛び込んできたのは翠蓮だった。
「おんし、大丈夫かのう?」
 鎌鼬を飛ばし、糸をざんばらに切り裂く。黒は頷くと、男へと向き直る。
 はらはらと落ちた所で、
「稲荷大明神の加護の御力なりっ」
 死なない程度の牙突によって、男に取り付く糸を断ち切る。
 ぐったりと倒れこむ男から、鍵を奪うと黒は牢を開放して回る。
「南方という侍が、おんしらを保護してくれる」
「キミたち、辛いやろうがもう少しの辛抱や。ボクに着いてき」
 翠蓮は先日の侍に事の次第を話し、協力を取り付けていた。
 城内がにわかに静かであったのもそのためだ。
「――さて。頃合いかのう」
 地上階の音が止む。麻夜と三波が暴れきったのであろう・
 地下牢の侍も軒並み、倒されていた。
 残すは、大蜘蛛。そして、領主の解放である。


「ふふ、うふふっ……さぁ、遊ぼう」
 暴れまわる大蜘蛛の脚を防ぎながら、ヒビキは立ちまわる。
 鬼も腹へと潜り込み、大太刀を振るう。
「妖……それであることと品性は、関わりがございません」
 妖かしといえども、道を正すもの誤るものもいる。
 そして、
「あなたはただの外道です」
 きっぱりと言ってのけ、鬼は大蜘蛛に一太刀入れる。
 苦し紛れに払った脚を受け止めながら、一度距離を取る。
 その間にヒビキが横っ面を叩きにかかる。
「私を見てくれないと、嫌だよ?」
「こっちも見ていただきたいものですね」
 そして、合わせるように要も大蜘蛛の巨体をぶっ飛ばしにかかる。
 二つの衝撃に大蜘蛛の身体がゆらぎ、高座から弾かれる。
「種と仕掛けしかございませんってな」
 すかさず遊夜が発煙筒を窓に仕込む。それが合図だった。
 天守閣の壁が派手に吹っ飛んだ。
「ん、おまたせだよ―」
 くすくす笑いながら、登場したのは麻夜だ。
「派手に壊して……もう」
 追いついた三波が呆れたようにいう。
「各々方も揃いました所で、大詰めと参ろうか!」
 翠蓮も鳳凰を呼び出し、大蜘蛛に対峙する。
 この状況に大蜘蛛の意識が途切れた。
「そろそろ、落ちましょうか?」
 要がヒビキに合図を送る。今度の衝撃は、巨体を壁の穴から追い落とした。

「あれが、大蜘蛛です」
 城下町では、おはぎが必死に人々を集め、城への注目を引いていた。
 発煙が上がった頃に起こったどよめきは、大蜘蛛が落ちると悲鳴に変わっていた。
「おおきに」
 黒が無事に開放した娘子を連れ、広場に来ると歓喜の声に変わる。
 衆目の目を集めるという大役を担ったおはぎの頭を、黒は撫で付けるのだった。

「……おんしは、何時まで操られておるつもりだ? 勘斎よ」
 天守閣の最上段、残された勘斎へ翠蓮が問いかける。
 戦闘に必死の大蜘蛛は、彼を縛るだけの余裕が無いはずだ。
 自力でも、脱せるはずだと翠蓮は信じてやまないのだった。

 城内の中庭に大蜘蛛の巨体は転がっていた。
 大蜘蛛は起き上がると同時に、片足が何者かに寄って切り落とされた。
「さあ、篠突く血雨を降らせて差し上げようか」
 剣を逆手に、三波が冷ややかに告げる。
 刹那、さらに一本落ちた。
「終わりにしよう? 皆が見てるよ」
 ヒビキの言うとおり、城壁が崩れ、衆目の目に大蜘蛛は晒されていた。
「どこを見ているのです?」
 挑発混じりに要が、大蜘蛛へと肉薄する。
 意識がそちらへ無いたと思ったら、一条の光が脚を吹き飛ばした。
 外しましたかと、要は静かにいう。
「これで憂いはない。最後の仕上げと行こうか?」
 遊夜の宣言に、大蜘蛛がハッとする。
「できればトドメは領主にお願いしたい」
「領主さんの手腕に、期待」
 遊夜の呼びかけに、ヒビキも頷く。
 翠蓮に連れられた領主勘斎が、太刀を握っていた。
 糸を吐きつけようとしたところへ、要が再度光を放って発射口を潰す。
「父の――仇。そして、民を弄んだお前の罪だ」
 言葉とともに、大蜘蛛の頭へ刃を突き立てる。
 もがき苦しむ蜘蛛の脚は、もはや満足のいく動きはできやしなかった。
 蜘蛛は死に絶え、美馬の国に日光が降り注ぐのだった。

「勘斎殿。亡き父上を超える良き領主となられよ」
 そう告げた翠蓮を始め、赤鳥居の一座は翌日には国をたっていた。
 言葉通り、美馬の国は発展を遂げるのであるが、それはまた別のお話。


 蜘蛛斬り闇雲晴らすは人の祈り。
 どうか稲荷大明神に柏で一つ。

 今宵の活劇読売、是にて御仕舞い。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 夜闇の眷属・麻生 遊夜(ja1838)
 By Your Side・蛇蝎神 黒龍(jb3200)
重体: −
面白かった!:4人

立てば芍薬座れば牡丹・
水城 要(ja0355)

大学部3年28組 男 ルインズブレイド
夜闇の眷属・
麻生 遊夜(ja1838)

大学部6年5組 男 インフィルトレイター
撃退士・
梅之小路 鬼(jb0391)

大学部5年210組 女 アストラルヴァンガード
夜闇の眷属・
来崎 麻夜(jb0905)

大学部2年42組 女 ナイトウォーカー
来し方抱き、行く末見つめ・
小田切 翠蓮(jb2728)

大学部6年4組 男 陰陽師
By Your Side・
蛇蝎神 黒龍(jb3200)

大学部6年4組 男 ナイトウォーカー
夜闇の眷属・
ヒビキ・ユーヤ(jb9420)

高等部1年30組 女 阿修羅
『魂刃』百鬼夜行・
門音三波(jb9821)

大学部3年170組 男 鬼道忍軍