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マスター:御影堂
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:6人
リプレイ完成日時:2014/06/16


みんなの思い出



オープニング


 睦月某日、この地域では雨が降り続いていた。
 降りしきる雨の音に混じって、ときおりカエルの声が聞こえていた。
 はじめは乙なものだと、誰かがいっていた。だが、次第に声は大きくなり、耳を衝くほどになっていた。
 さすがにおかしいということになり、役所主導のもと、声の主がどこにいるのかを探すことになった。
「そして、我々は山奥の沼地で、そいつらを見つけたのです」
 そう語るのは、町役場の役人だ。
 カエルの声のせいで眠れていないのだという役人の顔色は、とても悪い。
「ぶよっとした体に、ぬめっとした体液をまとっていました」
 役人が見たのは、人ほどの大きさはあろうと思われるカエルの群れであった。
 慌ててきびすを返した役人は、すぐさま町長に報告。
 天魔であろうということで、即日、斡旋所へ依頼が届けられたのだった。


 現場に着いた撃退士によれば……という書き出しで察しのよい方にはわかるであろうか。
 先遣隊は、失敗に終わったのである。
 以下、先遣隊によるカエルとの戦闘記録である。

「ふははは、カエル如き捻り尽くしてくれよう」
「あんまり調子に乗らない方がよいですよ? ま、僕にかかれば一発ですけどね」
 大剣に、ライフルといった標準的な装備を携え、撃退士たちは現場に向かった。
 足元がややぬかるむが、気にすることなく、彼らはカエルと対峙する。
 相も変わらず、合唱コンクールのような声が響いてた。うるささに顔をしかめる者もいたが、最初に決めたとおり、一気に殲滅しようとしていた。
「袈裟斬りにしてくれる!」
 全力で接近した阿修羅の男が、大剣を振り下ろす。
 油断ない一撃、が、それは突如として目の前に現れた仲間の少女に振り下ろされてしまった。
「きゃぁあっ!?」
 わけがわからず、慌てて銃で防御するも、深く肩に剣は刺さる。
「え?」
 男は慌てて剣を引き抜き、自分の立ち位置を確認する。
 明らかに、カエルからは引き離されていた。
「いきなり目の前にカエルが!?」
 逆に、遠距離からの攻撃を行っていた仲間が、カエルの前に連れ出されていた。
 混乱する中、へ音記号の形をしたオブジェクトをカエルたちは放っていた。
「え!?」
 目の前の少女がそれに当たった瞬間、目の前に現れたのは今し方カエルの前に引っ張られた仲間だった。
 さらに、ト音記号の形をしたオブジェクトをカエルたちは放ち始める。オブジェクトに当たれば、衝撃が体内に撃ち込まれる。さらに、ト音記号のオブジェクトにぶつかると、天地がひっくりカエルのであった。
 耐えるながらも、戦線を維持しようと努めるが、戦闘位置を取りカエル攻撃と、ひっくりカエルような攻撃に初動を誤った先遣隊はあえなく撤退を決める。
 撤退の最中でも、カエルによるカエルガエルな攻撃が浴びせられ、痛手を負うのだった……。


リプレイ本文


 沼地から聞こえてくるカエルの大合唱。
 響き渡る声の大きさに辟易としつつも、撃退士達はそれを止めるべく沼地へと突撃していく。
「音楽の時間ってやつね! あたい達も負けてられない!」
 まずは囮役を担う雪室 チルル(ja0220)、エイルズレトラ マステリオ(ja2224)が足を踏み入れる。
 チルルは、カエルたちと睨み合える位置まで辿り着き、ビシッと指を向けた。
「あたいにかかれば、カエルなんてイチコロよ!」
 堂々と笑ってみせるチルルに、大合唱がさらにヒートアップするように感じられた。
 そこへ、ト音記号が何体かのカエルによって浴びせられる。大剣で防いだと思った瞬間、チルルの視界は反転した。バシャッと冷たい感触が全身をぬらす。
 転倒したチルルの脇を通り抜け、エイルズレトラがカエルの側面へ回り込む。
「……うるさいですねえ。日本の童謡ではカエルの歌も可愛らしいですが、ここまで大きいと煩わしいだけですね」
 カエルも、ト音記号を吐き出して攻撃する。エイルズレトラが音記号を受けた瞬間、その身体がトランプとなって崩れ去った。
「どっちを見ているのでしょうね?」
 別の場所にいたエイルズレトラは、そのまま多量のカードを放出した。
「さて、今まで温めてきた必殺技のお披露目ですが、果たして実用性はいかがなものか。 自爆だけは勘弁ですが、『タップダンサー』」
 カードは、カエルたちにまとわりつき、数体の自由を奪う。
「本当に五月蠅いですね」
 続けて雫(ja1894)が、闘気をみなぎらせ沼地へと足を踏み入れる。泥に気をつけ、小股で雫は沼地を行く。攻撃の射程に入ったところで、一度出方をうかがう。
 チルルがブリザードキャノンを放ち、氷雪の嵐がカエルたちを襲う。エイルズレトラも、再びタップダンサーでカエルたちの動きを縛る。
 囮役が動き出したのを受けて、攻撃陣も戦場へ飛びこんできた。


 闇の翼をはためかせ、射程距離ギリギリまでメイヘム・スローター(jb4239)が群れへ駆け寄る。
「ここまでいくと、本当にウザいデスネ」
 セルベイションを開き、金色の炎のようなものをカエルへと放つ。メイヘムは、距離を保ちつつ、記号のオブジェクトがこちらまでこないか気にかける。
 メイヘムとカエルの間へ割り込むように、鴉守 凛(ja5462)も飛びこんでくる。転送時のことを考え、極めて低空を凛は行く。
 両手で持つビスクドールの前面から緑色の棒状の物体を射出、カエルの一匹を穿つ。
 凛はチルルが転倒していることを確認すると、オブジェクトの動きを確認する。そして、味方を守るべく地上を滑るように、凛は立ち位置を探っていた。
 同様に翼を生やして移動するのは、黒百合(ja0422)だ。黒百合は戦場を俯瞰できる位置から、現在状況を見定めていた。カエルの群れの周囲に、チルル、雫、エイルズレトラ。そこからやや離れて、メイヘムと凛がいた。
 桐生 水面(jb1590)と月臣 朔羅(ja0820)は、カエルたちの攻撃が止まる隙をうかがっているようだ。
「悪天候で服は濡れるしィ……敵は気持ち悪いしィ……早く処分して帰りたいわねェ」
 カエルの群れに再び視線を移し、黒百合はため息を吐く。
 スナイパーライフルのスコープをのぞき込み、引き金を引く。エイルズレトラによって縛られた、カエルのうち、一体の身体を撃ち抜く。
 エイルズレトラやチルルが攻撃を避け、周囲に浮かぶオブジェクトの位置を黒百合は伝えていた。
 その報告を聞きながら、雫がオブジェクトを避けてカエルに接近する。すかさず、封砲を放とうとした……が、活性化されていないことに気付く。
「……臨機応変にいきましょうか」
 前へと出ようとしているカエルに狙いをつけ、フランベルジェを振り切る。振り切られた大剣の一撃に、カエルも後退していった。
「元気すぎるわね」
 朔羅がスコープ越しに、戦いの様子を見て呟く。弾丸は、入り乱れる戦場で、確かにカエルに撃ち込まれていた。
 その弾丸と同じタイミングで、水面が前へと出る。
「ほな、縛らせてもらおか」
 宣言と同時に、影から腕が現れカエルたちを捉えていく。
 腕から逃れる者もいたが、着実に群れを水面たちはその場に釘付けにしていた。


 相変わらずの大合唱の中、カエルを引きつけるチルルは氷状の鎌を作り出す。
「連続で受けると、きついわね」
 作りだした鎌を投擲し、切りつけることで、カエルから生命力を奪っていく。
 カエルも負けじとへ音記号を放つ。ヘ音記号は、変則的な軌道を描き、水面に襲いかかる。
「あかんっ」
 避けきれず、水面の身体に衝撃が走る。同時に、耳鳴りが続き視界が歪む。
 尻餅をつきそうになり、慌てて泥に足をしっかりと立てた。バランスを取り戻し、状況を確認する。どうやら、凛と入れ替わったようだ。凛が極めて低くとんでいなければ、危なかったかもしれない。
「少し入り乱れてきたみたいねェ」
 状況を見極め、黒百合は全員の立ち位置を改めて伝える。
 それを聞いたエイルズレトラは、トランプを生成する。
「そのバカみたいな大口、爆竹を放り込みたくなりますねえ」
 そして、作りだしたトランプでカエルたちを切りつけていく。
「今は、トランプを喰らってください」
 エイルズレトラの黒のJOKERが止むと同時に、雫が群れの内側へと食い込む。 
「蛙自体よりも特殊攻撃の方が厄介ですね」
 入れ替えの瞬間を目撃し、より一層記号による攻撃を警戒する。雫は注意して動きを見ていたが、歌声と同時に発生させられるらしく、予測が難しい。
 それでも、攻撃の隙をつき、カエルにゼロ距離で近づく。大剣に溜めたアウルを振り抜くと同時に放出、三日月の軌道を描きながらカエルの身体を貫く。そのまま、後方にいるカエルさえも切り裂く。
 雫が剣を構えなおすと同時に、カエルの舌が迫っていた。舌と侮ることなかれ、素早い一撃は槍のように雫の身体を撃つのだった。
 つつがなく凛は、水面らをかばえる位置に動き、カエルをビスクドールの攻撃で穿つ。
 メイヘムも凛の位置を確認しつつ、魔道書を発動させていた。
「随分と厄介な真似をしてくれるわね。誤射には気をつけて……」
 離れた位置にいる朔羅は、スコープ越しに群れ付近の様子を見ていた。全体の動きを伺い、一瞬の空白を狙い、引き金を引く。
「爆ぜるは火球、夜陰を彩る無数の焔!」
 すっと立ち直し、水面は詠唱を終える。その手には収縮し、球体となった炎があった。
 撃ち出された球体は、群れの中央付近で破裂、色鮮やかな火の玉を撒き散らした。
「歌声も、聞き飽きてもうたわ」
 水面は痛む身体を押しつつ、気丈に言ってのけるのだった。


「だぁぁぁぁあ! シャラァァァァァップ!!」
 カエルに負けぬ大声で、叫びながらメイヘムが前へと押し出る。
 その腕には、闇が纏われていた。突撃するようにその腕を振るえば、闇は放出され、前方のカエルたちを巻き込んでいく。
 振り切った腕をかまえなおし、メイヘムはカエルたちを睨めつける。
「これで、少しは静かになってほしいデスヨ」
 だが、依然として声高く、カエルは鳴き、オブジェクトを放ち続ける。
 再び人形を犠牲に、オブジェクトを避けたエイルズレトラは再び、多くのカエルにトランプを刻み込む。
「そろそろ、決めていきましょう」
 メイヘム、エイルズレトラに続けて、水面も多くのカエルたちを巻き込むように火球を投擲する。
 闇に、トランプに、色とりどりの炎と混沌とした状態が、落ち着いたのと同時に黒百合が告げる。
「数体、潰えましたよォ」
 残るカエルもメイヘムに始まる立て続けの攻撃に、体力を減らしていた。
 相変わらずト音記号やヘ音記号が飛び交う。ヘ音記号の一つが、ふわふわと水面へ向かう。水面はぬかるみに足を取られ、避けきれない。
 凛は、咄嗟に手持ちの盾をへ記号ヘ向けて投げつけた。ヘ音記号にぶつかると同時に、盾は実像が歪む。
 次の瞬間には朔羅が、水面の前に立っていた。
 その様子を観察していた凛は、メイヘムにもヘ音記号が向かっていることに気付く。即座に庇いに入り、ヘ音記号を素で受け止める。
 耳の中にカエルの歌声が反響し、視界がかすむ。しかし、凛はそれらの症状を撥ね除けた。
 転送は起きず、メイヘムの前に凛は残っていた。どうやら、ヘ音記号はそれらの症状に耐えかねたとき、対象者を誰かと入れ替えるらしい。
「今から狙撃距離に戻るのも面倒だし。このまま、纏めて抉らせて貰うわ」
 自ら攻撃を受けたわけではないにしても、前線に引っ張り出されてしまった。
 だが、朔羅は即座にライフルから銀色の双銃に、得物を入れ替える。同時に黒球を生成、ぬかるみの水たまりの上をなめらかに移動し、カエルたちの中心へと投げ込んだ。
 黒球は着弾と同時に、棒状の虚数場を発生させた。格子状に虚数場は伸びていき、逃れきれないカエルたちを貫いていった。
「さらに一匹、終わりましたよォ」
 黒百合の放った弾丸が、朔羅の虚格牢月に捉えられたカエルを穿つ。ぐらりと巨体が揺れ、カエルは泥沼の上に倒れ込んだ。


「オブジェクトが、見えにくくなりましたねェ。歪みといいましょうかァ、ぶれて見えますねェ」
 気をつけてくださいと結び、黒百合は全員に注意を喚起する。
「倒したら倒したで、厄介ね!」
 接近してくるまで気づけないオブジェクトのぶれに、チルルは文句をいう。慌てて氷結晶でト音記号の衝撃を和らげ、転倒しそうになる身体を、ゴム底で何とか踏ん張る。
 氷のような鎌をそのまま前進しながら、カエルに投擲、その身体に食い込ませた。
 生命力を吸収しながら、チルルは再度カエルたちに、威勢のいい言葉をいってのける。
「カエルごときに、負けるわけにはいかないのよ!」
 チルルの挑発に、残りのカエルたちは声を荒げていく。
 カエルたちがチルルに目を向けている隙に、エイルズレトラは立ち位置を変えていく。
 誰も巻き込まないところへ移動し、多量のカードを放出する。カードは二体を捕らえ、一体を逃した。
「うちも負けてられへん」
 しっかりと狙いをつけ、再び詠唱をしようとした、そのとき――。
 見えていなかったト音記号が、水面の側面から襲いかかった。
「――っ!?」
 衝撃と同時に、身体がぐらつく。水面の身体が泥に沈むより前に、その意識が沈んでいた。
 水面が倒れたのに気付いた凛は、急いでその身体を見えづらいオブジェクトから守る。動けない彼女を抱え込むようにしながら、オブジェクトの射程から外していく。
 前線では、エイルズレトラによって縛られたカエルを落とすべく、それぞれが立ち回っていた。
 雫はぐるりと移動すると、即座にカエルの側面を取る。密着するような距離から、再び斬撃は弧を描く。目の前のカエルは斬撃を受けながらも、立ち続けた。
 その奥で、もう一体が斬撃によって身体を崩していた。
 生き残ったカエルは、至近距離でヘ音記号を吐き出した。避ける間はなく、振り切った剣で慌てて防ぐ。剣の上から身体を突き抜け、衝撃が走る。
 ぐらりと聴覚、視覚が狂う。
「あらァ?」
 雫がいた場所で、声をあげたのは黒百合だ。
 冷静に状況を分析、ぐるりと頭を巡らして自分の元いた場所へ視線を移す。
 目を瞑り逆さまに落ちる雫の姿が見えた。すぐさま、翼をはためかせ雫の身体を確保する。雫はヘ音記号の衝撃で、気絶していた。そのまま彼女を抱え、黒百合はカエルから距離を取った。


「随分と手を焼かせてくれマシタネ……そろそろ終わりにするのデスよ」
 メイヘムの腕から闇の力が放出される。闇は、残されたカエルをつつがなく飲み込んでいく。それに合わせ、チルルが吹雪のごときエネルギーでカエルを穿つ。
「へぶっ」
 が、放たれていたト音記号で転んでしまった。
 記号が放たれ、カエルたちの動きが一度止まる。
 朔羅はそうしたカエルたちの動きを見計らい、虚格牢月を放つ。カエルを貫き、そのうちの一体は地に伏す。
「ソロじゃ、合唱とはいえないわね」
 朔羅の言葉に負けず、最後のカエルは歌声をあげる。
 その歌声を防ぐように、エイルズレトラがかぎ爪を振るい、メイヘムが金色の炎でカエルを追い込む。
 最後に歌声を潰えさせたのは、銃声と一発の弾丸だった。
「やっと、静かになりましたわァ」
 黒百合はため息混じりに、止んだカエルの歌へ告げるのだった。


「あたい達の勝ちね!」
 チルルは誇らしげに、そう宣言した。
「やっと静かになりましたね」
 エイルズレトラも、風音が聞こえるほど、静かになったことに感想を述べる。
 その傍らでは、水面と雫が目を覚ましていた。黒百合に暖かい飲み物を渡され、それを口にする。
 凛も黒百合に渡されたタオルで身体を拭きながら、飲み物を頂く。
「全て倒せたようね。さて、早く帰ってシャワーでも浴びましょう?」
 朔羅は周囲を確認して、呼びかける。その言葉にメイヘムは、
「本当にこれで終わりだといいんデスケドネ」
 と少し辟易とした表情でいう。まだ、耳の奥ではカエルの歌声が残っているようだった。
 雫は凛に支えられつつ立ち上がると、
「そうですね。そのままで帰りたくないでしょうし、乾燥機付きの洗濯機がある銭湯を教えてもらいましょう」
 この提案に、全員が同意した。
 泥にまみれた汚れを落とし、綺麗さっぱりしに街の銭湯へ。
 雨はすっかり止んでいた。
 あれだけ響いていたカエルの歌声は、街にはない。
 でも、油断したらあの声が……耳の奥で聞こえるかもしれない。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:2人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
封影百手・
月臣 朔羅(ja0820)

卒業 女 鬼道忍軍
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
ベルセルク・
鴉守 凛(ja5462)

大学部7年181組 女 ディバインナイト
夢幻の闇に踊る・
桐生 水面(jb1590)

大学部1年255組 女 ナイトウォーカー
享楽のヘビメタデビル・
メイヘム・スローター(jb4239)

大学部6年319組 女 ナイトウォーカー