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某県の山中、新緑の上を飛翔する姿があった。
「それじゃァ、楽しい楽しいキノコ狩り始まり始まりィ。いっぱい収穫するわよォ……♪」
楽しげな声をあげながら、空を行くのは黒百合(
ja0422)だ。
片手に区分けした地図を持って、山を上空から探索する。
黒百合の持つ携帯電話からは、只野黒子(
ja0049)の声が聞こえてくる。
「そのまままっすぐ行けば、撤退組の戦闘地点です」
前回、撤退した撃退士達による報告書に目を通しながら、黒子は黒百合について行く。
区分けされた地図に従って、複数のグループでサツキダケの捜索を行っていた。
「えと、ま、先ずは探さないと……ですね。人の大きさ位……のキノコ」
そんな感想を漏らしているのは、金咲みかげ(
ja7940)だ。
「キノコ狩りゆうたら秋やんな〜、敵さん季節感ないとちゃうか〜」
キノコという部分に反応して、夜爪 朗(
jb0697)が答えを返す。
二人は黒黒コンビの後を追う形で、空から見えない部分を捜索しながら進んでいた。
一方で、
「昔マタ○ゴって映画が合ってだな……」
そんな雑談を交えながら進む一行があった。
向坂 玲治(
ja6214)は、自ら話題をふりつつ繁みをかき分けて進んでいた。
「えっと……キノコという事ですので、木や岩などの陰になるような場所を探してみましょう」
水葉さくら(
ja9860)は玲治がかき分けた場所から顔を出して、木や岩の影を覗き見ていた。
さくらに続くように、辺りを警戒しているのは雫(
ja1894)だ。
「脅威は感じませんが厄介な能力ですね」
依頼時に聞かされた話を思い出して、サツキダケの感想をこぼす。
「堕落させるなど、早く倒してしまいたいものだ。君たち、早く進みたまえ」
上から目線で、カミーユ・バルト(
jb9931)は前へと進む。
偉そうなものいいをしているものの、誰よりも警戒しているようにみえるのは気のせいだろうか。
前回の撤退組とは違うルートで探索する玲治たちが、中腹に差し掛かった頃である。
黒百合からの連絡が入った。
「見つけましたよォ、活きのいいキノコですゥ♪」
どこか楽しげな声であった。
先行する四人に追いつこうと、歩みを早めようとした。
そのとき、
「待ちたまえ、君たち」
カミーユが制止をかけて、何かを指し示した。
「キノコ……とても、おっきな、キノコ……ですね」
おずおずとさくらが、告げる。
そう、3体の人間大のキノコが胞子を撒き散らしながら、ぶるぶると進んでいた。
「移動されると、厄介ですね」
雫が冷静に、告げる。
玲治は、黒百合たちにすかさず連絡を入れた。
「こちらで対処する。そっちは任せた」
「動かれても厄介ですね。了解です」
黒子を含め、四人が先のサツキダケを、玲治達が今し方発見した方を始末することになった。
「気を抜けば、堕落させられる様ですから気を付けないと」
早速、雫が気合いを入れ直していた。
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サツキダケの胞子領域へ、まず足を踏み入れたのは玲治だ。
ぼふっと散布された胞子を被らないよう注意しつつ、近づいていく。
その口には、気休めとわかりながらもマスクがつけられていた。
「来いよ菌糸類。キノコ鍋にして食っちまうぞ」
なるべく息を吸わないようにしながらも、玲治はサツキダケに対して挑発を仕掛ける。
指だけでの手招きは、サツキダケのようなディアボロにも効果があるのかないのか。ただ、若干、サツキダケのカサが開いたような気がした。
その後ろを、闘気をみなぎらせ、雫が続く。
短期決戦をしかけるべく、ぐっと拳を固める。
「炎で、少しは胞子が弱まるといいのですけれど……」
玲治と並ぶ位置まで進み、さくらがサツキダケに炎を飛ばす。
しかし、胞子を燃やすには至らなかった。それでも、炎によって起きた風が胞子を玲治達からやや引き離す。
そこへ、カミーユが追いつく。
胞子が薄いのを確認し、
「今のうちに倒してしまおう」
と油断めいた発言をするのだった。
そして、みかげへとカミーユは連絡を入れる。
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「風上に位置を……」
移動するみかげに、カミーユからの連絡が入る。
戦闘が始まったことと、こちらの状況を確認していた。
「今からですが……はい、だ、大丈夫です。ぼ、僕は真面目な方だと思うのですけれど……怠惰にならない様には注意します」
そうカミーユに告げて、電話を切る。
「僕から真面目とか平凡とか取ったら、眼鏡位しか残らないですし……」
寂しげなことをいうみかげに、夜爪が励ますように笑いかける。
「真面目でなくても、五月病ならへんで〜。学園にいるだけで色んな人と会えるし、色んなこと起きるやろ〜。面白うてよう飽きんわ〜」
そうやろ、と聞く夜爪にみかげも元気を取り戻す。
「そ、そうですね。ああ、あの、落ち込んでる場合ではないですねっ! 戦闘に、集中しますっ!」
白色の双銃を構え、みかげはサツキダケへと近づく。
銃声とともに鋭く放たれた弾丸が、サツキダケを穿った。
それを合図に、上空から急降下する一つの影があった。黒百合だ。
構えていたライフルを、白銀の巨槍に持ち替えて、一直線にサツキダケへと向かう。
鋭い一撃は、サツキダケを貫き、鈍い衝撃が地面を伝う。
「はいィ、キノコ串の完成ェ……誰か焼いて食べてみるゥ? 美味しいわよォ、たぶんゥ♪」
とてもいい笑顔で、サツキダケを槍ごと持ち上げる。
「危ないですよ!」
黒子の叫びに、黒百合は反応した。だが、遅い。
サツキダケが力を振り絞るように全身から棘を噴出したのだ。近すぎた黒百合は、それをまともに受けてしまった。
すぐさま黒子が光る矢を飛ばし、サツキダケを穿つ。
そして、黒百合は抜き去ると同時にサツキダケにトドメを刺していた。
「おっと、こっちにもきたで」
夜爪の声、みかげと夜爪に残った二体が相次いでエネルギー弾を飛ばす。
さっと避けた夜爪は、すかさずヒリュウを召喚し、お返しとばかりにブレスを吐きかけさせた。
だが、みかげは真正面からエネルギー弾を喰らっていた。
「大丈夫かいな」
「だ、大丈夫、です」
まだ、といいながら、みかげは急いで傷口をふさいでいた。
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「そんなもんじゃねぇだろ、菌糸類」
エネルギー弾による集中攻撃を円形の盾で防ぎながら、玲治はなおも挑発する。
隙をかいくぐり、さくらがサツキダケへと接近を果たした。
「こちらからも、いきますよ」
そう告げて、脚甲による一撃を喰らわす。同時に、胞子が撒き散らかされたが、さくらは怠惰な誘惑に勝ちきった。
続けざまに、雫が大剣を振るい、鋭くサツキダケの身を切り裂く。
「一気に決めます」
そして、トドメとばかりに、玲治がサツキダケの懐に潜り込む。光り輝く強烈な一撃が、サツキダケの身体に大穴を空けた。なおも、ぷるぷると動くサツキダケに、カミーユが引導を渡す。
「まったく、往生際が悪い」
レイピアを引き抜き、カミーユは倒れたそれを見下ろしていた。
「さて、そろそろ刻印を与えてやろう」
そして、カミーユは攻撃を受け続けている玲治に、聖なる刻印を付与していた。
感謝の言葉を述べようとした玲治は、きっと顔を振り向かせ、シールドを構える。
「おっと、今なら抜けられるとでも思ったか?」
ここぞとばかりに放たれたエネルギー弾から、さくらたちを庇い、玲治は残るサツキダケを睨めつけるのであった。
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「う、僕は真面目、だから」
濃くなってきた胞子に、耐えながら、みかげはしっかりと弾丸を撃ち込む。サツキダケは、反撃とばかりにみかげや、ヒリュウにエネルギー弾を飛ばしていた。
「避け、きれへんかぁ」
ヒリュウがエネルギー弾を受け、夜爪はやや辛そうに息を吐いた。
「距離を離しつつ、お返しや」
ヒリュウは応え、ふわっとサツキダケへと再び炎を吐きつける。みかげと夜爪&ヒリュウが一体を押さえている間に、黒百合は残るサツキダケへと接近を仕掛ける。
気付いたのかサツキダケがふるりと動き、エネルギー弾を飛ばしてくる。
それを避け、黒百合は槍でサツキダケを薙ぐ。サツキダケは痺れさせながらも、胞子だけは生理現象のように吐き出した。
撒かれた胞子は翼のはためきでかわし、黒百合は次の一撃へ向けて構える。
隙が出来たのを確認し、黒子が光の矢を放つ。サツキダケに穴を空け、優勢に立つ。
が、突然の怠惰が彼女を襲った!
心地よい眠気に誘われながら、気を緩まされた彼女は一言、
「アイス、食べたいですよね」
と呟くのだった。
真面目さにより耐えていたみかげも、同時に怠惰に襲われた。
意志よりも胞子の濃度が勝ってしまったのだろうか。
「僕なら少しお休みしても……」
「あかーん!」
夜爪はヒリュウをみかげの元に向かわせ、自身は黒子を起しに行くのだった。
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「油断も隙もないな」
玲治は盾でサツキダケの棘を捌き、近づく。攻撃の止んだ一瞬をついて、神輝掌を叩き込む。カサを大きく削ったサツキダケに、さくらが蹴りを入れていた。
続けて二撃目といこうところで、ふわりと優しい感触がさくらを襲う。
それは幻覚であったが、あまりの心地よさに誘われそうになる……が、
「こんなときこそ、目覚ましですね」
どこからか目覚ましを取り出し、耳元で鳴らして、耐える。
シュールであるが、効果はあったようで、しっかりした足取りでさくらはかまえなおした。
「あ、危なかった、です」
そのやや後ろでは、雫が武器を掲げていた。黒い光りが、波打つ刀身に収束していく。
「まとめて、いきます」
宣言とともに、雫は大剣を振り下ろす。
振り切った剣から放たれた黒い衝撃波は、唸りを上げて直線上に進む。そして、サツキダケだけを確実に襲って、消えていった。
玲治とさくらの連撃により、満身創痍のサツキダケは雫の一撃にぐらついていた。
武器をかまえなおそうとした雫は、そこで片膝をつく。
傷を負ったわけではない。襲ってきたのは激しい倦怠感であった。
雫に聖なる刻印を与え、カミーユは前に出る。
「油断はしない。この僕は……」
カミーユの言葉が途切れ、目がとろんとする。
「この僕は、休む。日光が、心地よいな」
段々と言葉が短く句切られるようになり、その場に崩れ落ちた。
雫も心地よい眠気に誘われ、胞子の海に沈む。
「お日様……あたたかい」
譫言を言い始めた雫に、さくらが慌てて近づく。そして、目覚まし時計を、雫にも試す。
だが、雫は、
「お布団あったかい」
と呟くのみ。音量を上げていくと、耳をふさぐような仕草で、
「あと、5分……」
五月病特有の言霊を吐く。音量が最大になったとき、やっと雫は目を覚ました。いまだ、とろんとしていながらも、ずるずると這いずって、胞子のない場所を目指す。
その実、目覚ましから逃げているだけではないのかと思わなくはないが、何とか辿り着いた。
領域から逃れたことで、気力を取り戻す。
「気を入れ直さないと、此処で止める訳にはいかない……」
そして、大きな音が響くほどに、両手で頬を叩いた。刻印による効果もあり、雫はしっかりとした足取りで怠惰からの脱出を果たした。
その間にさくらは、同じく五月病に見舞われたカミーユへ近づく。
さくらの目覚ましも最大音量でかかるも、
「僕のことは、放っておきたまえ」
と、とろけるチーズのようにカミーユは伏していた。
そんな彼につかつかと復活した雫は近づき……。
「ごはっ!?」
と声をあげるほど、ストレートな腹への一撃を加えるのだった。
「……間違ったでしょうか?」
首をかしげ、雫は問う。
「いや、安心したまえ。復活はしたぞ」
立ち上がるカミーユの表情は、少し苦かった。
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「油断しました。これは危険ですね」
立ち上がった黒子は、ため息を吐いて魔法書を開きなおす。背後に光球を作り、黒百合の一撃で痙攣するサツキダケを睨めつける。
放たれた光の矢は、サツキダケに無数の穴を空け、痙攣から永眠へと誘っていった。
「よかったで〜。ヒリュウ、そっちはどうや」
視覚を共有し、みかげの様子を伺う。どうやら、みかげも五月病めいた症状からは脱せたようだった。
「僕のために、ごめんねっ」
移動中に受けたのであろうか、少し傷の増えたヒリュウにみかげはアウルの光を当て、手当を施す。
残っていたサツキダケが、みかげとヒリュウへ向けてエネルギー弾を放つ。
それを避けると、一人と一匹は反撃へ出た。
双銃を構えなおし、みかげは引き金を引く。ヒリュウは、雷のようなエネルギー体をおかえしとばかりに浴びせかける。
「そろそろ、終わりにしましょうねェ」
飛び出してきたのは黒百合だ。振り下ろされた槍は、サツキダケのカサを中程まで裂いた。
そして、悶え、震え始めたサツキダケ。溢れる胞子は、マスクをグッと顔へ近づけて耐える。
「動きが、とまりました」
黒子が告げるように、サツキダケの動きが止まっていた。みかげが弾丸を、ヒリュウが炎を、黒子が光矢を連続して撃ち込んでいく。
全てが終わったとき、サツキダケは満身創痍の姿で地に伏していた。
「さて、向こうはどうなっとるやろ」
夜爪はヒリュウをなでつけながら、呟く。
すぐさま、合流を目指して移動を始めるのだった。
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「大丈夫だ。安心したまえ」
幸せそうに、カミーユは再び胞子の誘いに負けていた。
グーパンを受けて、数分後のことだ。
「もう駄目だ……糖分が足りないからもう駄目だ」
同じく、玲治も五月病めいた症状に膝を折っていた。
残り一匹。雫が躍り出て、サツキダケに手痛い一撃を与える。意識が雫に向かった隙に、さくらが玲治の耳元で最大音量の目覚まし時計を鳴らす。
「うお!? そうだ。終わったら、あの大福を食べるんだった」
自分への褒美を思い出し、戦意が戻った玲治はそのまま接敵した。
白い光を纏ったトンファーで、サツキダケを撃ち破る。
崩れ去ったサツキダケを見下ろし、玲治はため息を吐く。
「ふぅ……恐ろしい敵だったぜ」
その後方では、また、目覚まし時計が猛威を振るっていた。
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残敵がいないか、確認するため黒百合とヒリュウは空へ向かった。
「何だか、見目に反して、中々厄介な敵でしたね。ぼ、僕、役に立てたでしょうか」
それを見届けた後、自信なさげにみかげが問いかける。
「大丈夫や。ちゃんと助けられたからな」
夜爪はそう答え、みかげに笑みを向けるのだった。
一方で、カミーユはさくらに相対していた。
「そういえば、何故目覚ましを持っていたのだ」
疑問をぶつけると、さくらは慌てた様子でこう答える。
「えと、目覚ましだから起きられるのかなって」
「それは答えになっているのか」
さらなる疑問を持ったようだが、さくら自身もなぜ持っていたのかはわかりきっていないようだった。
しばらくして戻ってきた空中組の報告と、地上組の捜索で討伐完了が確認された。
「脅威であり、厄介な能力でしたね」
そして、最後に漏らした雫の感想に、皆が頷くのだった。