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マスター:御影堂
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/05/09


みんなの思い出



オープニング


「三月はひな人形ですね」
「五月は五月人形だな」
 男と女、二人のオペレーターがおもむろにそう切り出した。
 では、四月は何人形でしょうね、と問いかけるようにいう。中途半端な時期に、現れる人形……それは
「天魔人形とさしずめ、呼んでやるとしよう」
 男のオペレーターは、一枚の写真を取り出す。
 のどかそうな緑地公園の写真だった。そして、人形がいた。
 それは確かに、人形だった。人形なのだが……。


 数時間前、某県某市……。
 漫画家チルチル(仮称)は、気分転換のために緑地公園を歩いていた。
 暗い部屋でひたすらデッサン人形を見続ける作業をお休みし、晴れやかな気持ちで太陽の光を浴びていた。読み切りを一つ終え、次の仕事に取りかかるために頭をリセットしたかったのだ。
「いやぁ、太陽がまぶしいねぇ」
 空を見上げ、太陽ににこやかな笑みを向ける。
 雲一つない空が、この上ない開放感を彼に与えていた……のだが。
「おや、何やら騒がしい」
 辺りを包み込むように、悲鳴が聞こえてきた。首をかしげる彼の目の前を、慌てた様子で人々が走っていった。何かから逃げているような、必死さを感じる。
 後ろから前へ走っていく人々とは逆に、チルチルは前から後ろへと視線をやる。
「……あ、あはは、仕事のしすぎかな?」
 目の前に現れたそれらに、チルチルは頬をひくつかせた。
 その数、百以上のデッサン人形の群れがいた。台座はなく、地に足着けているのだが、紛れもなくデッサン人形だった。カタカタと音を鳴らして、それらは不自由な間接を動かし、チルチルに迫ってくる。
 尻餅をついたチルチルは、尻を引きずりながら後退し、逃げていく。
 デッサン人形は、一糸乱れぬ動きで行進を続けるのだった……。


「まるで、開発中のゲーム画面のような」
 男オペレータは、そんな感想を漏らす。テクスチャの貼られていない、モブデータを見ているように感じられるのだった。
「何はともあれ、依頼です。デッサン人形の群れを蹴散らしてきて下さい」
 男の陰鬱そうな顔とは打って変わり、女オペレータはあっさりといってしまう。
「どれほどの戦闘力があるのかは、接敵してみないとわかりませんが……無双ゲーよろしく頑張っていただけるものと期待しています」
 にこやかな笑顔で、女オペレータは告げる。
 対して、男オペレータは咳払いをし、表情を引き締める。
「こういう相手は、数で押してくる。くれぐれも油断はしないように」


リプレイ本文


 緑地公園の歩道を目標に向かって駆けていくと、その姿が次第に見えてくる。
 大量のデッサン人形型ディアボロを見据えながら、ゼロ=シュバイツァー(jb7501)はにやりと口元に笑みを浮かべる。
「こんだけおったら大暴れできそうやな」
「……いくらなんでも多すぎませんか」
 やや呆れ気味に或瀬院 由真(ja1687)も感想を漏らす。
 200を超えるデッサン人形が一心不乱に前へと向かってくるのだ。
「数で押してくるだなんて、面倒くさいですね……」
 肩をすくめながら、早乙女ミズキ(ja2004)も同様の感想を述べる。
「しかも、ホラーじみてません?」
 由真が聞くと、
「1体だけでしたら気になりませんけど、あれだけの数が迫ってくるのはちょっと不気味ですね」
 同じく鑑夜 翠月(jb0681)も、眼前の人形たちを見据えながら、同意した。
「デッサン人形自体は、イメージが沸きやすくていいと思うのだけれど」
 そう言うのは、ベレー帽に黒縁眼鏡といった漫画家スタイルの、鴉乃宮 歌音(ja0427)だ。
 あれやこれやといううちに、ディアボロとの距離が縮まってくる。
「ちょ……地面揺れる? ……一体何体いるんだおい」
 礼野 智美(ja3600)が不意に足元を気にした。小刻みな振動が、足元を揺らしてくるのだ。
「ディアボロも自分の振動で動きが止まってくれると有難いですけど。そこまで甘くはなさそうですね」
 楯清十郎(ja2990)のいうとおり、ディアボロは意に介さずに進んできていた。
「数は確かに武器ですが、連携しないなら烏合の衆です。一気に叩きましょう」
 清十郎の言葉に、翠月が応じる。
「こちらは孤立して取り囲まれないように、皆さんとの連携がいつも以上に大切になりそうです」
 共通了解を確認したところで、智美が阻霊符を起動する。
「向かってくるって話だけど、一応使ってた方が心配ないし」
 迎撃の態勢が整えられ、二班にわかれていく。
 天草 園果(jb9766)は揺れる地面に注意をひかれつつ、みんなの動きに自信なさげに問いかける。
「あ、あわわ……私、もしかして場違いですか?」
「そんなことありません。みんないるから、立ち向かえるんです」
 同じ班の由真が、園果に答える。智美やゼロも同意するように頷く。
 そうこうしている間にディアボロが迫ってきていた。
 

 最初に動き出したのは、右側の班だった。
「空の上まで響くんか? そんなわけないか」
 ゼロは闇の翼をはためかせ、飛び立つ。自らの闘気を荒ぶらせながら、デッサン人形たちへ向かう。ゼロを追うように智美も、闘争心を解き放ち、揺れ動く地を駆ける。
 地を駆けた先で、智美は矢を放つが揺れのせいでうまく狙いがつけられない。
「くそ、地面が揺れるせいで狙い付け辛い……」
 二人に続き、由真も動く。
「私が召喚獣と共に前に出て、壁となります。上手く利用して下さいね」
 園果をはじめ、班のメンバーに告げてストレイシオンを喚びだす。最後に園果が、地面を必死に蹴りながら遅れないように続く。その表情は硬かった。
 一方の左側も動き始める。
「では、作戦通りにいきましょう」
 清十郎が先行し、無数のデッサン人形を食い止める、壁となる。次いで、歌音と翠月が後ろに付く。
 ミズキは遊撃のために、大太刀を構えながら道を行く。が、不意に大太刀を地面に突き立て、体勢を崩さないように姿勢を低くした。
「これは……いけませんね」
 近づけば揺れは大きくなる。脚から伝わる振動が、ミズキの動きを縛り上げる。
 

 右でも園果が、揺れによる束縛を受けて、脚を止めていた。
「私のことはいいですから、皆さんは目の前の敵をお願いします!」
 遅れる自分を切り捨てて欲しいと、園果はいう。しかし、由真はストレイシオンに園果の傍にいるようにさせ、歩調を合わせるように緩やかに前へと進む。
「あきらめたら、ダメですよ」
 由真は、そう園果に声をかける。
 その背中を追いかけるように、ストレイシオンの助けを借りつつ、園果は前へと進む。
 その間に先鋒をつとめる智美は、最も近い群れにかち合った。機先を制するべく、弓から長槍へと持ち替えて素早く繰り出す。槍ならば多少の揺れも、踏ん張れる。
「ふっ」
 目にもとまらぬ早さで放たれた槍は、確実に一体一体を貫く。
「悠々と狙わせて、もらうで!」
 そうして崩れたところへ、ゼロがライフルで狙いを付ける。空であれば、地上の揺れが気になることもない。
 智美は一瞬ゼロを見上げ、
「……こういう時は空飛べるのが羨ましいな」
 と目の前に溢れつつある人形共を捌きつつ、独りごちるのだった。


「ここで食い止めるぞ」
 ミズキが揺れに戸惑うのを見、歌音が前方に声をかける。
 清十郎は頷くと、盾を展開して迫り来る人形ミサイルを受け止めていく。
「さすがに数が多いと勢いがありますね。でも押し切らせませんよ」
 数に任せて突っ込んでくる人形をも押さえつつ、清十郎は宣言する。
 血のような紅い結晶を形成し、飲み込んで再生能力を高めておく。
「まとめていきましょう」
 肉薄する清十郎のやや後ろで、翠月は色とりどりの炎を人形たちの中で弾けさせる。
 爆発とともに、デッサン人形が宙を舞い、身を焦がし、伏していく。
 撃ち漏らさないように、歌音がアサルトライフルの引き金を引く。弾幕が、人形の進撃を阻むのだ。
「ここからが、本番だ」
 歌音がいう。
 戦端はひらかれた。


「早急に群れを減らさないと、ジリ貧になりそうですね……」
 前方へと出てきた由真がそんな感想を漏らす。
 一体一体の攻撃は、たいしたことがないのだが、数が多ければ暴力となる。
 暴力は一点に集まれば、くさびに似る。
「制空権はこっちのもんや!」
 後ろへ行かせないためにも、ゼロは前に出てきたものから確実に穴を空けていく。
 一発でも、大穴をあけさえすればディアボロは沈黙するのだ。
「できるだけ、多くを」
 倒すといわんばかりに、再び爆発。
 彩りの炎に身を崩すいていく。
「これ以上は押し込ませない」
 智美は前進しながら囲もうとするデッサン人形の間をすり抜け、林から駆け出た。刹那、槍にこめたアウルを放出し、目の前にいる群れを薙ぎ払った。
「こうなったら、狩りきるだけだ」
 すっと猟兵のごとき眼光で、歌音が告げる。
 別れての攻撃は、混戦になりかけていた。その隙間を縫うように、歌音は貫通力の高い弾丸で複数をまとめて撃ち抜いていく。
 後ろへ流れようとする人形たちは、清十郎と由真がしっかりと押さえていく。
「カバーに入ります」
 輝きの見える布槍で、由真は人形たちを薙いでいく。
「新しい技。新しい力。試させて貰います」
 と、清十郎も前へと圧をかけながら、三日月の無数の刃を作り出す。刃は清十郎を中心に、乱れいる敵を切り刻んでいく。
 中には、避ける者もいたが、
「逃げ惑う敵を倒すのは楽ですね」
 何とか前へ出てきたミズキが太刀によって切り伏せていた。
 同じくストレイシオンの助けを借り、前に出てきた園果もアウルの弾丸を放つ。しかし、足場がおぼつかない。踏ん張るも弾丸は宙へ消える。
「やっぱり……私は」
 グッと口を固く結ぶ。目の前では、智美が一瞬で十体以上のデッサン人形をなぎ倒す。
 無数のデッサン人形が入り乱れる中で、翠月は自らの周囲を凍てつかせた。巻き込まれたデッサン人形達は、身を凍らせる。中には動きの鈍る群れもあった。
 そこを的確に歌音が狙う。
「冷めたら暖めないと」
 放射状に火炎放射器を操り、多くの敵を巻き込んでいく。
 なおも突き進んでくる人形どもを睨めつけ、由真がストレイシオンに命じる。
「そう簡単にはやらせませんよ」
 結界が作られ、熾烈な数の暴力から味方を守る。
 遊撃にひた走るミズキが狙われれば、清十郎が守りに入る。
「まとめて突き抜けろ!」
 そのまま、清十郎は返す刀で三日月の刃を放つ。
 戦いを見つめ、園果の瞳には決意が宿る。
「でも、私はここで強くなるんです……兄さん、私に勇気をください」
 再び放ったゴーストバレット……見えない弾丸はしっかりとデッサン人形を穿つ。
 一瞬、喜びかけた表情を引き締め、園果は次なる敵を見据えていた。


 半数ほどを倒した辺りで、地面の揺れはおさまりつつあった。
「ばらけてきましたね、逃がさないようにしましょう」
 翠月はそう宣言し、影から腕を出現させ人形達を捕らえていく。
 そこに追い打ちをかけるようにミズキが大太刀を振り下ろし、園果が見えない弾丸で撃ち倒す。
 未だに前へと圧迫感をかけてくるそいつらを、清十郎をはじめ、由真とストレイシオンが押さえ込む。
「俺の本職はこっちや!」
 気を高ぶらせたゼロが空中から地上へと、降下する。武器を漆黒の大鎌へと持ち替え、自身も漆黒に染まりながら突貫する。翠月によって、動きが鈍り、まとまった場所へ漆黒の塊を叩き込む。
「ほな、暴れさせてもらうで!」
 ゼロの宣言とともに弾けた闇が、デッサン人形の体をぶち壊す。
 崩れた群れを貫くように、智美が再びアウルの衝撃を放つ。智美の衝撃波は、群れをさらに寸断し滅していく。
「さあ、そろそろ終わらせにかかろうか」
 奇襲をかけるようなトリッキーな動きでもって、歌音は弾丸を繰り広げる。巻き込まれ、風穴を開けて倒れていく人形たち。かなり減ったとはいえ、まだそれなりに残っている。
 壊れかけた間接のまま襲いかかってくる者もいた。
「気持ちが悪い上に、往生際が悪いですね」
 清十郎が守りに入り、味方への攻撃を防ぐ。だが、彼一人では限界がある。
 乱戦になったことで、智美やゼロも狙われる機会が増えていた。
 ヒットアンドアウェイを心がける、ミズキや園果まで届きかけるやつもいた。
 そこを防ぐように立ち回っているのが、由真とストレイシオンだ。
「ストレイシオン! お願いします!」
 一撃与えて、離脱する園果と人形どもの間に割って入るようにストレイシオンが現れる。
 攻撃はなるだけ避けながら、引きつけるようにその身を躍らせる。園果も狙われぬように、気配を薄める。
 そうして、再び死角へ潜り込むと同時に弾丸を放つのだ。
「私でも、やればできるんですっ!」
 その弾丸は群れの一つを完全に崩壊させるには十分であった。
 ファルシオンを構え、園果は息を整える。今度は、近接に向かうのだった。


 あと僅か……とはいえ、単純に数ではディアボロが勝る。
「油断せずにいきましょう」
 清十郎は自分に言い聞かせるように呟くと、再度紅い結晶を取り込んだ。
 再生を促し、最後まで役目を果たすことを考える。
「そのとおり」
 頷きながら、歌音が散ったデッサン人形の身体を散らす。
 翠月が合わせるように、漏れ出た方へ水の刃を浴びせかけようとする。それでもなお、前へ出てこようとする者があるのならば、智美の槍がその体躯を両断するのだ。
 反撃とばかりに飛ばされる小さな人形ミサイルをさっとかわし、
「そろそろ終わりだ」
 述べながら、智美は再び槍を突き立てる。
「そっちに逃げましたよ」
 ミズキが放った大太刀をかわし、数体の人形が突破を目指す。
「こ、こっちもです。そちらへいきました」
 ファルシオンに切り替えた園果の攻撃も、宙を斬り、数体を逃す。
 だが、前しか相変わらず見えていないそれらを潰すのは簡単だ。
「さぁ、俺から逃げられるんは誰や?」
 いないやろ、とでも言わんばかりの軽口を叩きつけながら、ゼロが逃げたディアボロに追いつく。智美も見せていたアウルによる一撃を、ゼロも行うのだ。
 漆黒のアウルが、鎌を覆う。抜き放てば、衝撃が束となってデッサン人形をまとめて吹き飛ばす。人形たちばらばらになり、地上へ激突していった。
「はい、終わりや」
 にっと笑みを浮かべてゼロは告げるのであった。


 崩れ去ったディアボロたちの残骸を前に、園果が不安そうに辺りを見渡す。
「あの、増援とか、もう来ないですよねぇ?」
 恐る恐る聞いてきた園果に、ゼロが肩をすくめてみせる。
「きたらきたらで、やるだけやけど……十分大暴れしたわ」
 ゼロの言葉に、智美や翠月が頷いて見せた。
「なんか、冗談みたいな戦いでしたね……。疲れちゃいました」
 ストレイシオンを還して、由真がほっと息を吐く。同意するように、清十郎も安堵の言葉を漏らす。
「しばらくデッサン人形は見たくないですね」
 うずたかく積まれた残骸は、哀愁すら漂わせていた。歌音はまるでその残骸に、何かインスピレーションを受けた漫画家のように、うんと頷く。
 しんみりとしかけた空気に、ミズキが一つ手を鳴らした。
「はい、お疲れ様でした。皆さまが頼りになったお陰で、ラクに済みましたね」
 労いの言葉をかけていく。
 そんな中、本当に戦いが終わったのだと自覚し、園果が大きく礼をした。
「皆さんのおかげです! ありがとうございましたぁ!」

 全員が役目を果たし、デッサン人形は瓦礫の山と化した。
 この戦いの中で、一人の撃退士は自信を少しは付けられただろうか。
 それは、また、別のお話……。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:5人

ドクタークロウ・
鴉乃宮 歌音(ja0427)

卒業 男 インフィルトレイター
揺るがぬ護壁・
橘 由真(ja1687)

大学部7年148組 女 ディバインナイト
撃退士・
早乙女ミズキ(ja2004)

大学部9年178組 男 阿修羅
道を切り開く者・
楯清十郎(ja2990)

大学部4年231組 男 ディバインナイト
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
夜を紡ぎし翠闇の魔人・
鑑夜 翠月(jb0681)

大学部3年267組 男 ナイトウォーカー
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅
思い出重ねて・
天草 園果(jb9766)

大学部2年118組 女 ナイトウォーカー