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マスター:御影堂
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/04/26


みんなの思い出



オープニング


 某県某市の植物公園に、一人の男が降り立った。
 高そうなスーツで、でっぷりと太った腹を包む男だ。男の名は、金牧二郎という。この植物公園を作った自然を愛する某社社長だ。
 春先になり、暖かくなったことで花々もさぞかし綺麗に咲いていることだろうと、視察にきたのだ。
 金牧の到着を公園の管理者は、一礼して迎え入れる。
「ご苦労様。早速だが、園内を観覧してもよろしいか?」
 当然、即答で見て回れるはずだと思っていた金牧の耳に届いたのは、
「申し訳ありませんが、それはできません」
 というお断りの言葉だった。
「私は、オーナーだぞ。どうして、観れない」
 強い態度で、管理者に聞き直すが、首を横に振られる。
 鼻息荒くがなる金牧に、管理者は冷静に説明を行う。
「危険な事態が発生しているため、立ち入りを禁止しているのです」
「たかが、植物公園で、何が危険か! 馬鹿なことをいうな」
「では、こちらへ。目でご確認頂ければと、存じ上げます」
 管理者の案内に従い、金牧は事務所へと連れられていく。
 目の前に置かれたモニタには、ビデオデッキが繋げられてた。どうやら監視カメラの映像を見せるつもりであるらしい。
「先に申し上げておきますが、気を確かにもってください」
 脅されるような言葉に、金牧は眉をひそめる。早くしろといわんばかりに、顎でモニタを指し示した。
 頷いて管理者は再生ボタンを押した。
「な、なんなのだ、これは!?」
 映し出されたのは、花畑に咲く、数輪の禍々しい花だった。
 どす黒い花を頭に咲かせ、カブのように丸い根っこを地面から半分出していた。その根っこには、大きな口が開いている。その周囲には茨が、他の花を蹂躙するように広がっている。
 時折、瘴気のように黒い粉を撒き散らしていた。
「あ、あぁ……私の、私の公園が」
 ショックを受けた金牧は、小さく漏らして肩を落とした。
 管理者は頭を下げる。
「申し訳ありません。全ては私の管理不行き届きです」
「いや、あれは、管理しきれるものではない」
 太っ腹をバシッと叩き、金牧は気を取り直す。
「プロの仕事はプロに頼むものだ。すぐに、選りすぐりの『庭師』を呼ぼうではないか」


「植物公園に生えた、謎の植物を刈り取ってください」
 例のおどろおどろしい植物の写真を見せる。植物公園の配置図には、大きく4つの×が描かれていた。
「ディアボロと思われます。その場からは動きませんが、張り巡らしたいばらを地面から突出させてくるようです。マンドラゴラの亜種みたいにも思えますけどね」
 続けて、注意事項をオペレーターは読み上げる。
「植物公園ですので、当然ながら火気厳禁です。万が一、燃え移って他のエリアまで被害にあっては目も当てられませんしね」
 資料をしまい、オペレーターは聞く。
「それでは、受けて頂けますか?」


リプレイ本文


 植物公園の事務室。
 園内図につけられたバッテンを確認し、神酒坂ねずみ(jb4993)は社長と管理人に問いかける。
「ご通報後、様子が変わったところはありませんかあ?」
「変わりありません」
 おどおどしい社長を無視し、管理人が答えた。
「出現した様子の録画は残ってないんですか」
 この問いには、管理人は首を振る。
「夜間は入り口周辺しか撮影してません」
 それを聞いたねずみは、先に行くねといって事務所を出てしまった。
 発見後の映像をみながら、先に作戦を詰める。
「一体だけ、少し離れた場所にいるね」
 天春 翠(jb9363)は映像から割り出されたディアボロの位置を確認する。
 配置図とモニタに視線を動かし、霧島零時(jb9234)はいう。
「茨を張り巡らしているとなると、不意打ちを掛けられる危険もありますね」
「油断、大敵、は、いつも、だ」
 気を引き締めるように、仄(jb4785)が述べる。
「やはり、引き抜く、と、悲鳴を、上げる、だろうか。興味深い、な」
 続けて、静かにそんなことをいうのだった。
 その言葉を受けて、唐突に姫桜(jb4963)が笑い声をあげた。
「きゃは、きゃははははハハハァ。楽しみィィ……あの怪物の身体はどんな構造を、解体して、バラバラに……」
 マッドな雰囲気に社長が怯えたような表情を見せる。
 姫桜は一つ咳払いをした。
「おっと、皆様頑張りましょうね」
「そうですね。空気を汚される前にお引取り願いましょうかー」
 おだやかに篠塚 繭子(jb7888)も頷く。
「それで、銃は使っていいんだな?」
 有田 アリストテレス(ja0647)の確認に、管理人は頷く。つられる形で社長も頷いた。
「火気があるものは、その」
 といって管理人は今にも倒れそうな社長の様子を見る。
「俺の銃は物を燃やしたりはしない、だがそちらがどうしても不安なら銃無しで終わらせられるぜ?」
「じゅ、銃くらいなら何とか」
 気丈に社長は許可を出す。
 義足を確認していた水無瀬 雫(jb9544)が立ち上がり、
「各個撃破ということで、よいですね」
 改めて確認を促す。全員が頷いたのを見て、仄がいう。
「それ、では、行こう」


「ディアボロがいない時に来たかったですねー。きっと普段は素敵な場所でしょうに」
 現場に辿り着き、繭子は開口一番にそんなことをいった。
「そうね。悪い悪魔の花は刈り取って、綺麗な公園を取り戻しましょ!」
 同意するように翠が告げる。
 事前に阻霊符を用いて、敵の様子を伺っていたねずみが皆を誘導する。
 集合したのを確認し、早くも最も近いディアボロに攻撃を仕掛けることとなった。他の三体から離れて咲く、一体だ。
「きゃはァ……空からいきますよ」
 笑みを浮かべながら、姫桜は光の翼で空を舞う。突出する彼女に気付き、地中からは茨が伸びてきた。予想以上の長さをもって、姫桜に迫り来る。
 義手に大型のシールドを呼び出し、茨を防ぐと反撃とばかりにアサルトライフルの引き金を引く。弾丸は迫っていた茨を散らしていく。
 地上では、零時と雫が先行しディアボロを目指す。その後ろを翠と繭子が続く。
 アリストテレスとねずみは併走し、許可を得た銃を構える。
 そのときだ。地面から無数の茨が飛び出しアリストテレスに襲いかかった。背後からの攻撃は、みとめる前に身を削っていた。だが、側面からの攻撃に対しては体をわずかにそらして直撃を避ける。
「薔薇じゃないんだぞ! 何で茨があるってんだ!」
 茨を弾丸で追い払い、仕留めるべき獲物を見据える。
「私、も、行こう」
 すぅっと深呼吸で心を落ち着かせ、仄も前衛へと駆け行く。


「いきますっ」
 ディアボロに肉薄した雫は、純白の光を纏わせた拳をディアボロに叩き込む。根っこの口から苦しそうなうめき声が漏れる。
「悪い花は全部、刈り取っちゃうから!」
 翠が太刀を片手に追撃する。鞭のようなアウルを、ディアボロに叩きつける。そこへ茨を避けたねずみが、弾丸を浴びせる。狙いは、ディアボロの茨を繋いでいる部分だ。
「お前はこの公園にはいらん! 地獄で咲き誇ってな!」
 叫びと友に放たれた弾丸は、青と黒の光りを纏い、ディアボロを撃ち抜く。
「頭、も、苅る」
 すっと気配を表した仄は、すかさず複数の剣を招来し茨ごとディアボロを切りつける。悲痛な叫びが、耳を衝く。その声を防ぐように、繭子が布槍を操る。
「行くぞ」
 口調の変わった零時が、山吹色の光纏を荒ぶらせる。両刃の剣を振り抜き、衝撃波をディアボロにぶつける。
 ディアボロは、咄嗟に近くにいた雫に咬みつこうとした。
「守りますよー」
 繭子が割って入り、その口を止める。再び距離を取ったところへ、茨の攻撃をすり抜けながら姫桜が降りてきた。
 スピードを上げたまま、クローアームを展開、
「きゃはァ、きゃははははハハハハァ! ……ほら解体、解体、解体、楽しい解体の時間だわァ!」
 狂ったような嗤い声を上げて、振り下ろされた一撃は、ディアボロを潰すには十分すぎた。
 同時に、毒粉が撒き散らかされる。仄と姫桜は振り払ったが、雫はそれを吸ってしまった。
「あれ毒ですよね。色合いがまさしくって感じですよ、大丈夫ですかー」
 繭子の問いかけに雫は、問題ないと頷いた。


 群れているディアボロへ迫るべく、茨の奇襲を捌きつつ前へと進む。
「色不異空、空不異色、色即是空、空即是色」
 淡々と般若心経を口ずさみ、突出してきた茨を、ねずみは撃ち抜いていた。
 中継地点のように、地表に現れているところも例外ではない。間に合わないときは、誰かに知らせつつ、丁寧かつ迅速に茨を砕く。
「さて、いきましょうか」
 次のディアボロを射程に納め、繭子が布槍を構える。的確に花を穿つ。
 ねずみが開いた道を、零時が駆けぬける。直剣を正眼に構え、かけ声とともに振り下ろす。茨に阻まれながらも、零時はディアボロに一太刀入れた。
 続けざまに、仄が吸魂符を行使する。
「その、命、もらう、ぞ」
「きゃははははハハハハァ! どんどん、いくわァ」
 上空からは姫桜が急降下の一撃を加える。反撃とばかりに、根っこの口がぐぱっとひらき姫桜に襲いかかる。
 義手のシールドで、口から逃れたところへ、今度は翠がアウルの鞭を叩き込む。
 茨を暴れさせるディアボロを、毒に蝕まれながら、雫も追い立てる。
「そのまま、喰らってください」
 純白の拳を叩き込んだところへ、アリストテレスの弾丸が飛ぶ。
 青と黒の二重螺旋が、ディアボロに風穴を空ける。
「食えない危険な植物はいらん、ここで枯れちまいな!」
 地中からは、相対する以外のディアボロが茨を生やして、攻撃をしてきた。それらを防ぎ、捌きつつ、確実にディアボロの体力を削り……、
「オラオラオラオラ、オラァ!」
 零時が慟哭とともに、手に布状の魔具を取り付け、口めがけてラッシュを決める。歪んだ根っこはそのまま、枯れるように倒れた。
 同時に、花から毒粉が零れるが、繭子がすかさずそれらを散らす。
「同じ手には、何度もかかりませんよ」


「弾丸くらってくださいね」
 いつもの笑い声を上げながら、姫桜はアサルトライフルに切り替えて弾幕を張る。
 茨の攻撃から急所を守りつつ、ねずみも姫桜に追随する。笑い声に混じり、静かな読経が響く。
「さっさと、枯れ果てろよ……っ!?」
 同じく弾丸を放ったアリストテレスを、あざ笑うかのように複数の茨が襲う。咄嗟に、繭子が間に入りアリストテレスを庇いたてた。
「大丈夫ですかー。油断ならないですよねー」
 そして、歩を進め布槍を繰る。
「一気に決めるぞ」
 合わせるように、零時と雫が拳を叩き込み、仄が再び吸魂符でじわりと花の生命力を吸い込む。間髪入れずに、姫桜やアリストテレスたちの弾丸が舞い込む。
 茨を散らされ、弱っていたのか、一気にディアボロの花弁が散っていく。
「南無阿弥陀仏」
 ねずみの声とともに、根っこの口が弾けた。これが止めとなり、どちゃりとディアボロはその身を崩した。
 足掻くように、動かされた茨を淡々と払いのけて、最後の一体へ視線を向ける。
 

 茨の攻撃もなりを潜め、残されたディアボロへ向かっていく。わずかに放たれる茨の鞭は、体力の弱った者に狙いを付ける。
「させませんよー」
 やんわりと繭子が声を出し、庇い立てる。残された茨の中継地点を、ねずみとアリストテレスが潰していく。
 先行して駆け出したのは、翠だ。だが、それに機敏に反応して茨の鞭が飛ぶ。必死の足掻きに痛手を負い、翠は足を止める。素早く武器をRecitalへ切り替え、叫ぶ。
「あたしの声を、聞けーっ!」
 叫びは、スピーカーから衝撃波として放たれる。ぐらいついたところへ、姫桜が狙いを付ける。続けとばかりに、アリストテレスとねずみも引き金を引く。
 再度、翠が衝撃波を浴びせたのと同時に、繭子が間合いを計る。
「このまま、決めましょうー」
「あと、少し、だ」
 恙なく、光の玉でディアボロを攻撃し、仄は呟く。少しずつ歩を進め、近づいた仄はワイヤーを取り出して引っこ抜こうと試みる。だが、しっかりと根を張っているのか、踏ん張っているのか、仄に茨を浴びせながら、奇妙な叫びを上げるばかりで抜けることはない。
「む、今は、まだ、無理、か」
 少し残念そうな顔をして再び距離を取り、吸魂符で接近時に削られた生命力を、ディアボロから奪う。
「……参ります」
 攻勢を殺さぬよう、雫が苦しげな吐息を漏らしながら拳を叩き込む。
「終わりにさせてもらうぞ」
 続けて、零時も口めがけて拳を連打する。零された毒粉から、身を庇いながら、途切れることなく殴打する。二人の攻撃の隙間を縫うように、
「そろそろ、終わりにしようぜ」
「不生不滅、不垢不浄、不増不減」
 アリストテレスとねずみが、弾丸を浴びせかける。
 だが、この弾幕に姫桜は加勢していない。
 なぜならば……。
「きゃは、きゃははははハハハァ……」
 笑い声は再び空から降りてくる。
 クローアームを展開させ、ディアボロに大打撃を与える。身がよじれ、風穴を開け、翠の衝撃波に体をぐらつかせ……最後に繭子の布槍が貫いた。
「決着ですねー」


「よし、じゃあ次いきましょう次!」
 引きずり出されたディアボロの根っこ部分を切り落とし、繭子が元気よく告げる。
「……思った、より、普通、だな」
 少し残念そうに横たわるディアボロを見下ろし、仄はデジカメで写真を撮る。倒されてしまえば、しなびた大根と同じぐらいの姿にしか見えないものだ。
「生命反応はないですね」
 改めて花畑の生命反応を探っていたねずみが、淡々と告げる。繭子らと合流して、ワイヤーを用い、ディアボロを引き抜く。やはりしなびた根菜にしか見えない。
「……いいね……いいね、この実験の素材に最適の構造、自室に持って帰ってもっとじっくり追求したいわァ」
 恍惚な表情で姫桜も、このしなびたディアボロを見下ろしていた。
「持ち帰るのはダメだぞ」
 傍で茨を引き抜き、まとめていたアリストテレスがたしなめる。
 わかっていますよ、と姫桜は答える。
「ちゃんと真面目に清掃してますよ?」
 はぐらかしながら、ずるずると本体を引きずって、一箇所に集めていく。翠は、剣で本体から伸びる茨を切断しておく。零時は、種子のようなものが落ちていないか気を配っていた。
「これは、こちらでしょうか?」
 それを雫が引き抜いて、集める。全員が協力し合って、処理班が到着する頃には花畑からディアボロは排除されており、驚きの声があがったとか……。


 撃退士達の働きもあり、一週間もしないうちに、植物公園は開園にまでこぎつけることができた。
 再開の日、社長はあの日戦った撃退士達を招待していた。
「入場料は払うからっ」
 無料でいいという社長と翠が、払う払わないの押し問答を入り口でしていた。結果として、社長の好意に甘えることになった。
「あいつと来るにはいいかもな。こういうのは俺好みだぜ」
 色とりどりの花を眺めながら、アリストテレスはニッと笑う。そして、ふと顔を引き締めて、ぽつりと呟く。
「財布にはやさしそうだ……最近、色々入用だしな……」
 元より、そこまで入場料は高くないのだ。
「今どんな花が見れるか、よかったら教えて貰えますか?」
 翠が管理人に尋ねると、見頃の花を一から説明してくれた。零時やねずみは、その説明に耳を傾けたりしていた。春先から梅雨に向けての季節は、本当に様々な花が咲き乱れている。
「本当、素敵な場所ですねー」
 ほんわかと繭子は感想を漏らす。ディアボロによって汚されていた花畑も、すっかり元通りになっていた。
「さすが、に、マンドラゴラ、は、ない、か」
「あったら、もっと素敵でしょうね」
 そんなことをいう仄や姫桜に、社長がびくりと震える。
「冗談、だ」
 という割には、二人とも少し残念そうに見えたのは気のせいではないだろう。
 ふと、風が吹けば花がざわめく。
 雫は、自分が守り抜いた花畑を見つめながら、
「ここを守ることができて、よかったです」
 と呟く。
 それに答えるように、晴天の下、花は一層さざめくのだった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 撃退士・姫桜(jb4963)
 猫殺(●)(●)・神酒坂ねずみ(jb4993)
 怖いもの知らず・篠塚 繭子(jb7888)
重体: −
面白かった!:6人

悪夢祓いし夢話の標・
有田 アリストテレス(ja0647)

大学部9年60組 男 インフィルトレイター
静寂の魔女・
仄(jb4785)

大学部3年5組 女 陰陽師
撃退士・
姫桜(jb4963)

小等部6年1組 女 ディバインナイト
猫殺(●)(●)・
神酒坂ねずみ(jb4993)

大学部3年58組 女 インフィルトレイター
怖いもの知らず・
篠塚 繭子(jb7888)

大学部2年55組 女 ディバインナイト
いにしへの都の春を彩りて・
霧島零時(jb9234)

大学部2年98組 男 ルインズブレイド
恋桜の綴詩・
天春 翠(jb9363)

大学部2年311組 女 アカシックレコーダー:タイプB
天と繋いだ信の証・
水無瀬 雫(jb9544)

卒業 女 ディバインナイト